シルヴィア・ネクロタフィオは夏休みが始まって以来、ずっと家の机と対面していた。
彼女は、長々と文章を書いていた。机の上には分厚い本から、羊皮紙の束。それに、大鍋やら不審な色をしている液体が入っている薬瓶などが散らばるように置かれていた。
机の隅に追いやられた彼女のペットであり友人の梟のオリビアは、そんなシルヴィアの様子を暫く感心そうに見ていた。しかし、いい加減眠くなってしまったようで丸くなって眠っていた。
「で、出来た〜!」
そう言いながらシルヴィアは勢いよく立ち上がった。それに驚いたオリビアがバサバサ言いながら机から落ちていった。
「オ……オリビア……大丈夫?」
「ダ、ダイジョーブよ。少しびっくりしただけで……」
そう言いながら、またバサバサと言いながら机の上に戻ってきた。机の上には、実に羊皮紙10巻分の論文が置いてあった。
「ふ〜今日は、8月10日だよね? 良かった。ギリギリ期限に間に合った!」
「えぇ、ソウネ。けど、ホントーにいいの? 今年は第422回クィディッチ・ワールドカップの年なのよ? それに、生きているうちに何度あるかワカラナイ、イギリスでの開催なのよ? それをミノガシテ、文章を書く事だけにシュウチューして……」
そう、今年はクィディッチ・ワールドカップがイギリスで開催されている。
シルヴィアはハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてダフネ、パンジー、ミリセントから一緒に行こうと誘われていた。それに、マルフォイ氏……ティモシー・ベレスフォード(スリザリン生全員に手紙を出しているらしい)からチケットを渡そうか。と言う手紙が来ていた。
しかし、シルヴィアは見事に全てを断っていた。
「だって、私……あんまりクィディッチ観戦好きじゃないもん……。こう、情報量が多いと言うか……ちょっと、痛そうって言うか……」
その言葉にオリビアは深いため息のようなものを吐いた。
「貴女って、ホントーに学生? フツー、学生と言うものはスポーツにネッチューするものでしょ?」
「世の中はそればかりじゃ無いんだよ? ほら、ホグワーツでもクィディッチの試合をしている時に図書館で勉強している人は一定数居るよ」
「それ、全員レイブンクロー生でしょ?」
「……そうかも」
そこで会話は途切れた。シルヴィアは届いていた新聞を見始めた。新聞には『遂に明後日開幕! クィディッチ・ワールドカップ。魔法省役人は疲弊か?』と書かれていた。
「さてと……オリビア。お仕事だよ? この論文をスネイプ先生のところに配達して欲しいの。」
「えぇ? マホー薬学の学会じゃなくて?」
「そう! えぇっとね……はじめに、スネイプ先生に見せるの。スネイプ先生の判定を待ってから魔法薬学会に持って行くとか、読んでもらうか決めるらしいよ。」
オリビアはあまりピンときていない様子だった。
「私だって、よく分からないんだよ。少し前には魔法薬学会って言っていたんだけど、その次は学術書が云々って言われてたからね。手紙だから、どうも……こう聞きづらいし。取り敢えずよろしく」
そう言ってシルヴィアはオリビアに論文を任せた。「全然、眠れていないから眠いんだよね……」そう言ってベッドへ向かい眠り始めた。その入眠速度は異様だった。その為、オリビアは若干引いていた。
「ニンゲンがあんなスピードで寝て……ダイジョーブなのかしら?」
◆
2週間後の朝。オリビアに突っつかれながら起こされたシルヴィアは、着替えを早々に済ませている。
スネイプによる判定は合格し、細かい部分を直した。そして、本日8月24日。スネイプと共にロンドンにある魔法薬学会の会館に行き、査読をしてもらう。シルヴィアにとっては、スネイプの説明の手紙はよく理解出来なかった。
そして、イングリッシュ・ブレックファスト(ベーコンに目玉焼き、マッシュルーム、トマトにベーコンやソーセージなどとトースト)を用意し食べる。と言う優雅な朝食を取っていた。
シルヴィアは家を殆ど出ない。しかし、オリビアがお勧めしてくれた、食品を宅配してくれるサービス。〝ホグズ・フェローズ〟を用いれば決まった日に食品が届くのだ。それも決まった毎月、決まった額のお金を支払うだけでいい。
それまでそこら辺の葉を食むか、ロンドン帰りに買ってきたトーストを数日かけて食べていたのだ。それがこのサービスのおかげで、シルヴィアは家の中でまともな食事を食べる事が出来るようになった。(以上プロモーションである)
「シルヴィア? 時間はダイジョーブなのかしら?」
「だいじょーぶだいじょーぶ」
シルヴィアはベーコンを切るのにご苦労しているところだった。
トントン
「えぇ!? もう?」
シルヴィアはそう声を上げて、トーストを一気に口に放り込んでから玄関へ向かった。
「
シルヴィアの言葉は見事にくぐもり、挨拶として成立しているのかすら怪しかった。スネイプとオリビアはその様子に眉をひそめ、ため息をつく。
「まず、そのパンを飲み込んでから話せ」
「ほい」
シルヴィアは一気にパンを飲み込んで1回、ゲホゲホと咳をした。
「すみません。……こんなに早く来るものとは思っていなくて……」
「我輩は事前通達の通り、9時ピッタリにここに訪れたが?」スネイプは若干イライラしている様子で、その声は怒りが籠っていた。
「す、すみません。ごめんなさい……今すぐ……用意します」
そう言ってシルヴィアは急いで部屋の中に戻り、食べかけの朝食を名残惜しそうに見ながら布を被せた。そして、つい昨日に完成させた論文を、そしてついでにダイアゴン横丁で教科書を買う為に教科書リストも手繰った。
「オリビアはここで待ってね。どうやら、魔法薬の学会と言うのはロンドンにあるらしいから」
「ワカッタワよ。頑張ってね」
そうして、シルヴィアはスネイプの元へ向かった。
「用意はいいな。付き添い姿眩ましで向かう。我輩の腕を掴みたまえ」
「はい……」
あの付き添い姿眩ましだ。ダンブルドアと一緒に移動した時ですらシルヴィアは吐きそうになった。また、あの移動方法か……そうシルヴィアは落胆しつつ、スネイプの腕を掴んだ。
ヒュッと言う音がして、目の前がぐるぐると回る。内臓が出てきそうになる。けれども、初回よりは随分とマシになっており、少なくとも吐き気はあまりしなかった。
「うっ……」
そう言ってシルヴィアが倒れ込んだのは、キッチリとした石畳が引かれたロンドン市内の道だった。通行人に不審な目を向けられぬようにシルヴィアはすぐに立ち上がった。しかし、よく見てみれば通行人は殆ど居ない。に等しい状態だった。
姿眩ましでやってきた通りはホール・ストリートと言うらしい。スネイプはシルヴィアが立ち上がった事を確認するなり、進み出してしまった。シルヴィアは慌ててスネイプを追いかけた。
「君は今回、特に発表などはしなくていい。君の論文を読んで質問したい人はごまんと居る。その質問に冷静、着実に答えていけばいい。……はずだった」
「はずだった?」
シルヴィアはスネイプの言い方に引っかかった。どう言う意味なんだろうか?
「君の論文について質問をしたい。と言って面倒な客人がお見えになった。」
「面倒な……客人?」
誰なのか、一切検討が付かないがシルヴィアは気持ちを入れ替えた。どんな質問がされたとしても受けて立とう! その心意気で早足のスネイプの後を追う。
少し進んでから、エンジェル・ゲートという裏道に入る。マグルらしい街並みがずっと続いたが、スネイプはそこをただ進んでいき、とある建物の前で立ち止まる。
すると、建物の壁面のレンガを杖で叩く。システムはまるっきりダイアゴン横丁と同じらしい。全部叩き終えるとダイアゴン横丁のようにレンガが蠢き出して、最後には数段の階段と扉が現れた。
スネイプは扉が現れた事を確認すると、無言で階段を登り始めた。シルヴィアもそれに続く。
「ホグワーツ魔法魔術学校魔法薬学教授のセブルス・スネイプだ。今回、論文を提出したホグワーツ魔法魔術学校4年生のシルヴィア・ネクロタフィオを連れて来た。扉を開けたまえ」
ドアノッカーを叩いてからそう言った。ドアノッカーは「了解致しました」と言った。すると扉は勝手に開いた。
シルヴィアは一連の流れを口をポカーンと開けながら見ていた。魔法界に飛び込んで実に4年になるが、中々こう言うものには慣れないものなのだ。
「何をしている? 入れ」先に中へ入っていたスネイプがそう言い放った。
「あ、すみません……」
シルヴィアもまた潜り抜ける。
中はホグワーツやグリンゴッツとよく似た作りをしていた。大きな柱に支えられた高い天井。床は石床だった。少し先には中庭のようなものも見えた。
シルヴィアが辺りを見回しているうちにスネイプはすでに受付に向かっていた。シルヴィアも気が付いてスネイプの方へ少し早足で向かった。
「貴女が、シルヴィア・ネクロタフィオさんね。第8ホールに向かってください」
そうして、シルヴィアとスネイプは第8ホールに向かった。第8ホールはホグワーツの温室を少し広くした。と言うぐらいの広さで、中には既に人が30人ほど集まっていた。
「おやまぁ! やっといらっしゃいましたか! ミス・ネクロタフィオにスネイプ教授! わたくし達、かえこれ30分ほど待っていましたわ!」
そう言って立ち上がったのは、全身をピンク色で身を包んだ中年の魔女だった。
「……9時半開場と聞いたが?」
スネイプは機嫌悪そうに聞いた。
今は9時15分。30分待っていた。と言う彼女の主張が正しければ、8時45分から集まっている事になる。
「
20歳くらいの若白髪なのか白髪の魔女が立ち上がりそう言う。
その言葉に対して、会場に居る半数ほどの魔法使い達が拍手をした。ドローレスと呼ばれたピンク色の中年魔女は悔しげな表情をしていたが、何も言い返す事無く、また座った。
その後、15分ほど待ってから『シルヴィア・ネクロタフィオに質問をする会』が始まった。その会はいくら、人見知りをそれなりに克服したシルヴィアにとっても苦痛そのものだった。
「脱狼薬の味の改善に成功したとのことですが、具体的にどのような方法で苦味を抑えたのですか?」
「被験者が1名しか居ない。と言う事ですが、他の被験者には効果がない。という可能性はあり得るかと思われます。今後の検体確保についてはどのような努力をなされるおつもりですか?」
「短期間でしかまだ実験がなされていないようですが、長期的に服用した場合の安全性はどう保証するのでしょうか?」
「他の被験者に試用させた結果、考えられる副作用などがあれば教えていただきたいです。」
「養母であるオフィーリア・ローズブレイド……若しくは? 若しくはよく分かりませんが、ミス・ネクロタフィオの実母による研究成果を基にされていますが、ご自身の独自性はどの部分にありますか?」
「将来的にはどう言った生産方法を考えていらっしゃいますか?」
シルヴィアは一応、全てに何となく回答した。質問者は大体、難しい顔をして質問をするが大抵の場合、シルヴィアが回答するとほんのりと笑みを浮かべて座る。
しかし、全身ピンク色の中年の魔女は厳しくシルヴィアを質問し続けた。
「既に脱狼薬は完成されておりますわ。今回の〝完全脱狼薬〟は味の改善、服用頻度の改善、完全に狼化しなくなる。と言う……貴女が言うところの利点? はあるそうですね。しかし? より作成コスト、調合難易度の大幅な上昇が見込まれているようですね?
狼人間というものは……まぁ誠に残念な事ですが……古くから差別され迫害されてきた存在です。それに元より、彼らは非常に
そう言って、小さく笑った。まるで、シルヴィアの研究を無駄と言いたげな口ぶりだった。
「あぁっと……その……」
「こちらについては私が少々、彼女のお手伝いを申し出たいです」
そう言って立ち上がったのは最初、このピンクの魔女に対して批判をした白髪の魔女だった。
「現状……魔法省は、狼人間に対する差別を助長するような政策を打ち出していますよね? 代表的なものを申してしまえば……反人狼法。
それによると、魔法族と半人間である狼人間の差別化を図り、狼人間が適正な職に就くように調整をする。と言ったものですね。まぁ、事実上の『狼人間を絶対就職させない法』……」
ピンクの魔女は何度も口を挟もうとしたが、そのたびに白髪の魔女は手を少し挙げて静止させた。すると、ピンクの魔女はすっかり黙りこくった。
「確かに……狼人間という者達は満月の夜、誰彼構わず襲いかかる狼に変身する。そして噛まれてしまっては、死ぬか狼人間になるしか選択肢が無い。えぇ、非常に危険な存在でしょう。」
その言葉にピンクの魔女はニタリと笑い「そうでしょう」と言いかけた。しかし、言葉の途中でまた白髪の魔女が静止した。ピンクの魔女はまるで口を強引に閉じられたかのような反応を見せた。
「しかしながら……彼女の研究動機は『何かしらの属性を持っている人を否定し、冷遇し、差別したところで生まれるモノは不幸の連鎖でしか無い。けれども、そのまま全てを受け入れる。と言う訳にはいかない。だからこそ、〝完全脱狼薬〟を完成させ、狼人間の一番の脅威である変身を抑える。そうして、どちらも受け入れる事が出来るような体制作り目指す』その考えは実に理想主義者的であり、正直に言って頭の中がお花畑になっている事を疑ってしまう……」
シルヴィアの心にズキっと何かが刺さった気がする。
そこで、ピンクの魔女は更に活気付いて先ほどよりも大きい声で、「そうでしょう!」と言いかけた。しかし、また言葉の途中でまた白髪の魔女が静止した。ピンクの魔女はまた先ほどと同じ反応を見せた。
「──しかしながら、私はその高尚な心と努力は認めたい。そして、この研究の助言者となり協力したいと考えるほどには彼女には熱意がある。それに気持ちの問題だけではなく、実際に彼女には功績がある。
だからこそ、ドローレス。私は彼女の研究を無駄だとは言いたく無い。先程も述べた通り彼女には功績がある。少なくとも、母親の遺産があったとは言え、学生でここまでのものを完成させたのは実に興味深いし、彼女の才能を認めざるおえない。そうでしょう?」
白髪の魔女は来ていた魔法使いに同意を求めるように言った。すると多くの魔法使い達が立ち上がり、拍手をした。
「シルヴィア・ネクロタフィオ。私は君の研究の助言者となり、協力者となり、資金提供者。そしてその他諸々提供者になろう。君と私、どこか気が合うと思うんだ」
そう言って白髪の魔女はシルヴィアに握手を求めてきた。シルヴィアは挙動不審になりながらも握手をした。
「えぇっと……その、貴女は一体……?」
「ただの君と同じ魔法薬狂いだよ。」
そう言って、ニコリと笑った。彼女の瞳には何故だか分からないが、宇宙を抱いている。そんな感覚を覚えた。
その後、白髪の魔女の名前を知る事なく会は閉会し、魔法薬学会はシルヴィアの研究論文の掲載を決めた。ピンク色の魔女は憎らしい。と言いたげな表情を浮かべながら、部下と思われる魔法使いを2人連れて足早に会議室を出て行った。
もう一度、白髪の魔女に話そうと思ったが、彼女は既に会場を後にしていた。
「ス、スネイプ先生? あのお方を……ご存知ですか?」
「……──いや、知らない。あんな魔女は一度も見た事がない」
スネイプは大層不思議そうに言ってきた。何かしらの権威のある人かと思ったが、どうやら違うらしい。
「君が、あのオフィーリア・ローズブレイドとヘンリー・ローズブレイドの養子かい!?」
そう言って数名がシルヴィアの元に集まってきた。皆、一様にオフィーリアとヘンリーの昔話をしたり、シルヴィアについてやっぱりあの2人の教育を受けた子だ! と勝手に感銘を受けたりしていた。
シルヴィアは養父母の事は一切覚えていなかったし、それを言って彼らに水を刺すのも悪いと思い、気まずい時間を過ごした。
◇
彼らから解放された頃には11時半でそろそろお昼ご飯の時間だった。
「あ、あの。私、ダイアゴン横丁で買い物をしたいので……その、送って頂けると幸いなのですが……?」
「……よかろう」
スネイプは渋々シルヴィアを送る事を決めた。そうして3分後にはシルヴィアは漏れ鍋に居た。
「今度はホグワーツ特急に乗り遅れないように注意するのだ」
そう言い残してスネイプは立ち去って行った。シルヴィアは今回、どうやってキングス・クロス駅に行こうかと悩んでいた。ただ、どう悩んでもどうしようも無い。最悪、オリビアになんとかしてもらおう。
シルヴィアは若干楽観的な考えをしたまま、ダイアゴン横丁での買い物に勤しんだ。
途中、大荷物を抱えた(恐らく兄弟全員分のを用意していたのだろう)ウィーズリー夫人と出会ってアイスクリームを奢ってもらった。
シルヴィアは無料券があるので断った。しかし、ウィーズリー夫人はシルヴィアを何らかの理由でクィディッチ・ワールドカップを見にいけなかった哀れな子と見ていた為、少しでも施しをしたいそうで、どう断っても無駄だった。よってシルヴィアはアイスを2段食べた。
「──さて、最後は……ドレスローブ!?」
シルヴィアは大声を挙げてしまった。通行人からは不審な目で見られる始末だ。
しかし、ドレスローブとは一体どう言う意味なのだろうか? 今年のホグワーツでは何が起こると言うのか? シルヴィアには一切見当が付かなかった。
頭を傾げながらシルヴィアは『マダム・マルキンの洋装店』へ入って行った。
『マダム・マルキンの洋装店』ではもう4年前になるのだろう。その時と同じようにマダム・マルキンであろう女性が1人で立っていた。彼女は孔雀色ずくめの服を今回は着ていた。
「あら! お嬢ちゃんもホグワーツのドレスローブ用かしら?」
「え、えぇ……そうです……」
「あらそう! 丁度、もう1人お若いお嬢ちゃんの丈を合わせているところよ」
何処かで見た流れだった。しかし、ハーマイオニーはロンとハリーと共にクィディッチ・ワールドカップに向かっている筈だ。
そう考えながら向かうとそこに居たのは、スリザリンの良心こと軽い茶色の髪の毛を持つ少女、イザベル・ブラッドフォードだった。
「あら、シルヴィアさん。こんにちは」イザベラはこちらが気を使ってしまう程、丁寧に挨拶をした。
「こんにちは」
そこで2人の会話のキャッチボールは終わってしまった。2人とも気不味い気持ちになった。
「「あの、……」」2人の声が見事なまでに重なってしまった。
「「えぇっと、先で……あー」」
二言目まで重なると気不味さはより深まる。この頃にはイザベルの肩周りの採寸が終わっていた。
「ホ、ホグワーツでドレスローブが必要だなんて、何があるんだろうねぇ!」
シルヴィアは自分の気持ちをフライングさせて、自分の話を打ち込んだ。イザベルもこれで一安心という表情をしていた。
「そ、そうねぇ……ダンス・パーティーがあるのでしょうか?」
「そー……なのかな……? イ、イザベルは……ダンス・パーティーとか……い、行った事。ある?」
「それが……無いんですよ。スリザリンの、み、皆さんって……ダンスなんて踊れてしまいそうだから……私、少し……怖くて……私、ダンスなんて……バレエぐらいしか踊った事なくて……」
イザベルは本当にダンス・パーティーを危惧しているようだった。ちなみにシルヴィアはバレエを知らない。
「そーのー……バレエってのが……出来るなら、大丈夫……なんじゃ無いかな? そ、それに……教えてくれる人が……居るでしょ」
「誰が……教えてくださるんでしょうね……」
その問いに2人は悩み始めた。
「ちょっと お2人さん! 話に夢中になってないでドレスの色を選んで!」
店員の30代ぐらいの魔女にそう急かされた。色々な色の生地が並んでいた。
「貴女は……そうね、この若草色のとか……あとは千種色も似合いそうね。あとは……コバルトグリーンとかも良さそうだわ」
まず店員はイザベルにそう言って、緑系の色を彼女に合わせ始めた。
「いや、もう少し暗くてもいいわね。ナイトグリーン色なんかいいわね」
「あ、じゃ……それにします……。」
「毎度あり、露出度は控えめがいい? それと──「控えめで……宜しくお願いします」
イザベルはそう言って即決だった。
「では、ハロウィーンまでには仕立ててホグワーツにお届けします。」店員は嬉しそうに言った。
「じゃ、シルヴィアさん。またホグワーツで会いましょう。」
「うん、またホグワーツで」
「お友達とのお別れが済んだところで……貴女は、そうねぇ……うーん、紫色系統が合うかしら? クロッカスにアメジスト……バイオレットも外し難いわ……」
店員はそう言ってシルヴィアに紫色系統の布をあーでも無い、こーでも無い。と言いながら合わせ続けた。
「うーん、彼女はこれとか、こっち……あっちも外し難いね。取り敢えず、紫よりも青の方が似合ってると思うんだけどな。」
そう言って現れたのは先程の白髪の魔女だった。先程のそれなりにしっかりとした格好から一転して、随分と豪華なドレスなのかローブを纏っていた。
「ヴェルサイユ……ブルー・ドゥ・シャルル……それに、ブルーオルタシアですか……確かに合っているわね。」
最終的に店員が選んだのは、ブルーオルタシアと言われていた布だった。
「露出度は?」
「控えめで……お願いします。」
シルヴィアがそう答える頃には、あの白髪の魔女は店の中のありとあらゆる布をボーッと見ていた。
「さっきのお嬢さんに言ったらから分かるでしょうけども、貴女にもハロウィーンまでにはホグワーツにお届けいたします」
「ありがとうございます。」
そう言ってシルヴィアは、白髪の魔女を横目に『マダム・マルキンの洋装店』から出て行った。
「ちょ、ちょっとお待ち。シルヴィア・ネクロタフィオちゃん。」
白髪の魔女はシルヴィアを追いかけるように見せから出て来た。シルヴィアはてっきり彼女も何か買うものだと思っていたので、率直に驚いた。
「な、何でしょうか……?」
「この優しきお姉さんが、君にお昼を奢ってあげよう。だから、少し私と話さない?」
その言葉は彼女がシルヴィアの研究の助言者であり、協力者であり、資金提供者。そしてその他諸々提供者でなかったら、普通に不審者の言葉だった。
「え? えぇっと……」
「私を恐れる事勿れ! 私はこう見えても、君の養父母であるオフィーリアともヘンリーとも知り合いだったんだ。それに、ホグワーツの現校長、ダンブルドアが在学中にはホグワーツで管理人をしていたんだ。まぁ、彼は当然覚えていないだろうけども。そ、それにホグワーツの寮はコンプリートしたし、何度か教授、校長を務めた事もある!」
この名称不明の魔女は一体何を言っているのだろう? あの時、学会で助けてくれなくては不審者だと判断して逃げ出すところだった。
「わ、分かりました……」
そうして、シルヴィアは本名不詳年齢不詳の白髪の魔女に着いて行って、ダイアコン横丁にある喫茶店へ向かった。
「お好きなものをお食べ。私はお金については、この世界の誰よりも余裕があるからね。」
この喫茶店は意外とフードメニューも充実している様子だった。
「じゃあ……スパゲッティ、紅茶付きで」
「オーケー。マスター! スパゲッティ、紅茶付きとカマンベール&ハムサンド、ブラックコーヒー付きを頼む!」
厨房の方にそう言ってから、シルヴィアの顔をジーッと見つめ始めた。彼女のその瞳は星空を見ている気分にさせたが、同時に星空に見られている。と言う名状し難い恐怖を感じた。
「えっと……な、何ですか?」
「いやいや、ただ見ているだけだよ。」
そう言ったタイミングでシルヴィアの紅茶と白髪の魔女のブラックコーヒーがテーブルに訪れた。白髪の魔女はすぐにブラックコーヒーを一口飲んだ。
「貴女は……その〜、何者なんでしょうか?」
「私かい? ふ〜む……そうだね、記録されざる者かな?」
一体、何を言っているのか分からなかった。
「いや、その……お名ま──「おぉ! 私たちのランチが来たようだね! 早いものだ。さぁ、食べよう食べよう!」
白髪の魔女はまるで子供のように喜んでいる。彼女の手には既にカマンベールとハムのサンドが握られており、なんなら、3分の1ほど存在していない。
シルヴィアは彼女の食べる速さに驚愕しながら、スパゲッティをフォークで巻いて、1口食べた。
「そ、その……記録されざる者とは……一体?」
シルヴィアは一旦名前を聞く事を諦めて、他のことを聞く事にシフトした。
「うーん、そうだねぇ……賢いシルヴィアちゃん。記録って何の為にすると思うかい?」
目の前の彼女はそう尋ねてきた。シルヴィアは考えながら、スパゲッティを巻いてもう1口食べた。
「後世の人にその時代や事象を……伝える為?」
「おぉ、いい答えだ。流石はシルヴィアちゃん。そうだね、まさにそうだ。その事象について知らない人に伝える為、記録はする。言って仕舞えば一種の伝言と言えよう。」
そう言って、彼女はカマンベールとハムのサンドを1口食べる。彼女の1口は非常に大きく、もう3分の1程しか残っていない。
「その事象を知らない人。君が今言ったように後世の人。他には異国の人にとって、記録というものはとても重要だ。その記録でしかその事象を知り得ないからね。
その記録が事実であれ、虚構であれ、誇張されたものであれ……他者にとっては記録が全て正しい。記録は確固たる歴史になるんだ。つまり記録というものは、事象を決定付ける事が出来る。と言う恐ろしいほどに強大な力を持っているんだ。」
一体彼女が何の話をしようとしているのかが、分からなかった。
ただ1つ分かる事は、彼女の手からカマンベールとハムのサンドがすっかりなくなってしまった事ぐらいだ。
「私は、不定形でありたいんだ。いつの時代だって。それにそうでなくてはいけない。私は世界に認知されてはいけないのだよ。ところで君は運命を信じるかい?」
「え?」
いきなり運命と言う概念的な話に移り、シルヴィアは驚いた。
「運命と言うものもまた、記録みたいなものだよ。誰かが定めた運命によって、全てが決められてしまう。歴史が定められてしまう。不確定を装っていながら、強大な力を持っている。運命を信じようと信じまいと……人々は運命に縛られながら生きている。そうやって人々はこの大地を生き続けた。」
何処か悲しげな物言いだった。
「私は、そんな運命を打ち壊したいんだ。それが例え、神を殺める行為に近しいものだとしてもね。滅んでしまうだなんて悲しいだろう?」
「──も、もしかして……この世界は……ほ、滅ぶんですか?」
「あぁ、そうだとも。君は、ミシェル・ド・ノートルダムと言う予言者をご存知かな? 彼は1999年7月に世界が滅ぶ。と言う予言をした。マグル達は面白がっているし、魔法使い達も予言と言う不定格な分野を信じていない。
けれども、現実はそんな笑えない状況で、この世界は必ず終焉を迎える。これは運命によって定められた謂わば記録。歴史であるからね。予言は必ず起きる。」
シルヴィアにとって、目の前の彼女の話はどうも気の遠くなる話だった。
運命だとかはあっても構わないとは思いはする。ただ、世界が滅ぶなんて、あまりにも現実味が無いのだ。
「私はこれまで努力を重ねて来た。世界の滅びを食い止めるべく、神秘部を設立させたし、色々な人物と接触を計って来た。まぁ、大抵の人は記憶を消してしまうのだけど……けど、オフィーリアだけは消さなかった。彼女に私の記憶がある事に意義があると確信したからね。その所為で彼女の思想が少々私に染まってしまったのは、流石に可哀想だったけど。
けれども……大体は失敗だった。私は、この世界に記録されないように行動を起こしたが、やはりその行動は運命の分岐を作るには余りにも無力すぎた。まぁ、オフィーリアが君を引き取った。と言うところは、私史上初めての成功だったんのだけど。」
「はぁ……?」
シルヴィアは遂に、目の前の白髪の魔女は別の世界に囚われているのではないか。と薄々思い始めた。多分、自分と同じ世界線を生きていないのだろう。
「まぁ、そうだね。普通に考えて、私の気持ちや思考は他者に理解されるとは考えにくい。人は決して同一では無い。自分の意見を理解してもらえる。と思うのは傲慢極まりない。
……さて、シルヴィアちゃん。君はそろそろホグワーツ新学期だよね? そして、君はキングス・クロス駅に辿り着けないぐらいには、方向音痴だ。私が君をキングス・クロス駅まで送ろう。多分、場所は分かる」
シルヴィアにとって彼女の言葉は魅力的にも、怖いとも感じた。
シルヴィアは割と対人トラブルが多い。 今まで、誘拐されたり色々言われすぎて心が辛くなったり、ゴースト(みたいなの)に殺されかけたり、杖を奪われたり、殺されかけたり……。
「わ、私は……確かに遠い昔に人間性というのは失っているが、倫理観まではドブに捨てていないから……あ、安心してくれ給え!」
白髪の魔女はそう取り繕うように言った。
「本当に、ただの親切心だから……信じてくれよぉ、シルヴィア……!」
そう縋るように言って来た。先ほどまで難しい概念の話をしていたような人が、いきなり情けなく見えた。
「じゃ、じゃあ……貴女の名前を教えてください。肩書きじゃなくて……こう、呼びずらいし……」
「ほう、私の名前が気になると? 名前とはただの記号に過ぎ──「じゃあいいです」わ、分かった! ちょ、ちょっと待ってくれ……」
白髪の魔女は暫く悩んだ。
「分かった! シンシア・メガロフィイアと名乗ろう! 気軽にシンシアと呼んでくれ給え!」
「シンシア……メガロ、えぇっと……なんて言いました?」
「シンシア・メガロフィイアだ。うん。我ながら即興だとは良い名前を作り出したものだ」
「その名前、本名じゃ無いんですね。」
シルヴィアが呆れたような表情で言うと白髪の魔女、シンシア・メガロフィイアは目を逸らした。
「まぁ、そのー……名前というものは、重要な価値があるんだ。その〜、なんと言うか、君はまだそのタイミングでは無いんだ。君はまだ私の名前を知るべき時ではない。オーケー?」
よく分からないが、彼女シンシアはシルヴィアに名前が発覚する事を恐れているようだった。シルヴィアはそれ以上、シンシアを追求する気になれなかった。
「じゃあ、新学期の時に案内よろしくお願いします」
「あぁ! 勿論、私が完璧に万全に、完全無欠に君をキングス・クロス駅へ案内しよう!」
シルヴィアは不安しか無かった。
◇
シルヴィアとシンシアは共に喫茶店を出て漏れ鍋へ向かった。
「貴女は、姿眩ましとかで移動するんじゃないんですか?」
「いや、ロンドンの街を下見しなくちゃだから。私が知っているロンドンは既に100年以上前だ。あの頃は色々と大変だったなぁ……君は
嫌な予感がどんどんと醸造されて行った。
「あ、いや! けど〜その、大丈夫だよ。キングス・クロス駅まで君を完璧に案内は出来るから! さ、新学期の日に9時で漏れ鍋で会おう。じゃあ!」
そうシンシアは無理矢理話を切り上げると、漏れ鍋のマグル側の出口の扉を開けてそそくさと立ち去ってしまった。シルヴィアはため息を吐いたが、同時に何かを感じた。
自分とシンシアはどこか似ているような気がする。何が似ているのだろう? 自分は根暗であるし、シンシアのあれは完全に根明だ。
「ま、気にする事じゃないのかな?」
シルヴィアは漏れ鍋の暖炉に飛び込んで、自分の家へと飛行した。
ホグズ・フェローズ
言わずもがなな完全オリジナル設定。所謂、生協的なもの。イギリス唯一の村ホグズミードの村人達が始めたからこんな名前。(と言う設定)
魔法薬学会
これを書いたのが少し前なので、この場所は忘れた。それと、この付近の流れは割と適当に書いたので、あまり突っ込まないで欲しい。(数年後書き直すかも)
ドローレス
全身ピンク色の中年魔女。シルヴィアの研究に苦言を呈するが、白髪魔女に邪魔される
白髪魔女
頑なに自ら名乗らない魔女。白髪に宇宙のような瞳。それに、豪華なドレス?を身に纏い、大きな魔女帽子を被っている。
ダンブルドアが在学中にはホグワーツで管理人をしていた。ホグワーツの寮はコンプリートした。何度か教授、校長を務めた事もある。
記録されざる者と名乗っている。食べるのが異様に早い。世界が滅ぶ事を恐れている。オフィーリアと昔出会った。オフィーリアはこの白髪魔女と会った記憶を消されなかったが故に、性格が歪んだ。
シンシア・メガロフィイアと名乗った。
調子こいて2日連続で投稿していますが、全然ストックが無いのですぐに休載するでしょう。4月は忙しいので、ちょこちょこ投稿して休載してを繰り返すと思います。
ご了承ください。