8月26日、深夜。机の上で突っ伏して寝ていたシルヴィアを起こしたのは〝号外予言者新聞〟だった。
「一体……こんな、夜更けに……何?」
そう言ってシルヴィアは、蝋燭に火を灯して〝号外予言者新聞〟の見出しを読む。
『クィディッチ・ワールドカップでの恐怖』
新聞には大きく、上空に打ち上げられた悪趣味な髑髏の印の写真が貼ってあった。それは、人になんとも言えない恐怖感を沸き立たせるものだった。
「『魔法省のヘマ……犯人を取り逃す……警備の甘さ……闇の魔法使い、やりたい放題……国家的恥辱……』なんか、語気がやたらと強いな……」
そう思って記事を書いたライターの名前を見るとリータ・スキーターと書かれていた。
「そのオンナは、本当に碌でも無いわ。貴女がキノウ会ったドローレス・アンブリッジ並みに!」
オリビアも起きてきて、そう言った。寝起きだと言うのにオリビアの語気もまた強かった。このリータ・スキーターと言うライターに恨みでもあるのだろうか?
「にしても、これはあまりヨロシク無いジョウキョーだわ……」オリビアは緊張した様子で言った。
「この、趣味の悪い印はなんなの? ……なんだか、こう……ホグワーツの廊下に落ちてるノートに書かれてそうな印だね。まぁ、少なくとも、気分がいいものだとは思えないけど……」
オリビアは一旦、一呼吸置いてから言った。
「コレは……〝闇の印〟よ……」
「〝闇の印〟?」
「ソウ、〝闇の印〟。この印は、〝例のあの人〟のシンポーシャ達、
心底冷笑している様子でオリビアはそう語った。シルヴィア自身、自分の体に何かを刻印するだなんて、正気では無い。何よりも野蛮だと感じた。
「……まぁ、ソコは置いておいて……コレは、死喰い人達や〝例のあの人〟が誰かを殺した時にこのシルシを打ち上げるのよ。予言者新聞のジョーホーなんて、ハンブン信じてハンブン信じない方がいいけど……どう? シショーシャが出たって記述はある?」
シルヴィアはもう一度目を凝らして、〝号外予言者新聞〟をじっくりと見る。眠いので、文字がボヤけてしっかり見えなかった。
『森の外れで、怯えながら情報をいまや遅しと待ち構えた魔法使い達が、魔法省から安全確認の知らせを期待していたとすれば、みんな、見事に失望させられた。〝闇の印〟出現から暫くして、魔法省の役人が姿を現し、誰も怪我人が無かったと主張し、それ以上の情報を提供することを拒んだ。
それから1時間後に数人の遺体が森から運び出された噂を、この発表だけで十分に打ち消す事が出来るかどうか、大いに疑問である──』
「ウワサを新聞に載せるんじゃ無いわよ! この、バカライターが!」
オリビアは本当に語気が強かった。
彼女はこのリータ・スキーターに過去嫌がらせでも受けたのだろうか? シルヴィアは疑問に思ったが、特に突っ込む事はしなかった。
「まぁ、このライターの事は置いておいて……ハーマイオニー達大丈夫かな? それに、同じ寮の人達も皆行ってるみたいなの……」
シルヴィアは少々たりと、心配していた。
「そうね、けど……アクマデ私のソーゾーの範疇に過ぎないんだけど……コレは、罪に問われなかったルシウス・マルフォイとはセブルス・スネイプみたいな死喰い人がヒサビサに集まったから、羽目を外したケッカだと思うわ……。
だから、誰もシンデ無い。誰もケガさえしてないわ。罪に問われなかったタイプの死喰い人ってみんなオクビョーモノだから。」
オリビアの説にはある程度の納得感を得られるものだった。たが、しかし……。
「そんな……闇の魔法使い。って呼ばれた人達が、飲み会の二次会帰りみたいな事する?」
「ナニよ、そのナゾ知識……」
「けど、まぁ……人が死んでなければそれでいいよ……。私、まだ眠い……」
シルヴィアはそう言うと、すぐにベッドの上へ寝っ転がって眠りに着いた。シルヴィアは、眠過ぎたのだ。友人達の心配するのも明日へとズラした。
次の日。魔法省公式発表によれば、死人無し。逃げる際に小規模な雑踏事故が発生した為、100人弱が骨を折るなどの軽度の怪我をしたそうだ。しかし、すぐに治療を受けた為次の日には完治したようだった。
今、魔法省は壊された私物の損害賠償を受けたり、警備の苦情を受けたり大変らしい。
夏休み最終日には魔法省職員のバーサ・ジョーキンズが行方不明になっている。と報道していたが、彼女は物忘れの激しい間の抜けたトラブルメーカーだったようで、同僚からも行方不明になるのは秒読みだった。と散々な評価を受けていた。
「あ、そうだ。オリビア。明日、9時に漏れ鍋で本名不詳の魔女と待ち合わせしているから。」
「……ホンミョー不詳の……魔女?」
「あれだよ……魔法薬学会にも居て、その後ダイアゴン横丁でお昼を奢ってくれたシンシア・メガロフィイアって言う魔女だよ」
オリビアは少しの間、動きが止まった。きっと、シンシア・メガロフィイアを思い出そうとしているのだろう。
「その魔女、ホンミョー不詳だったのね……。確かに、ギリシャ語でチョッキューで
「あ、そう言う意味だったんだ……まぁ、陽気な人だったし大丈夫だよ……?」
シルヴィアの経験則上、〝やばい人〟とはどこか調子の狂っている人なのだ。
確かに、シンシアも調子が狂っているか否かを問われれば、調子が狂っている人物ではある。しかし、彼女に明確な悪意は感じなかった。きっと大丈夫だろう。シルヴィアは心の中でそう言った。
「ホントに大丈夫かしら……?」
「まぁ、だいじょーぶ。だいじょーぶ! えぇっと、呪文学の教科書は……そっちか。」
シルヴィアはトランクに着々と荷物を詰め込んでいく。全部詰め終わってもう一度、忘れ物が無いかをどうか調べる頃には、月が見え始めていた。
「よしっ、今年は誰にも誘拐されず、殺されかけず、命を絶とうとせず……そして、医務室には最低限しか行かないように頑張るぞっ!」
部屋でそう叫んだ。
「そんなモクヒョーを掲げている生徒なんて、後にもサキニモ貴女だけよ……」オリビアは呆れていた。
「じゃ、明日に備えてもう寝るね。明日もよろしくね。
「……ワカッタわよ。後から、痛かっただのなんなの。モンク言わないでチョーダイ」
オリビアがそう言う頃にはシルヴィアはベッドに潜って毛布を被っていた。
「分かってるって!」
そうして、シルヴィアは即寝落ちした。
「ヤッパリ、寝るの早すぎるわよ……」
◆
「オキナサーイ! ……起きなさい! もう、起きなさってっば! オクレルわよ!」
シルヴィアは自分の頭を突っつく痛みで起きる。いつも通りの朝だ。シルヴィアはなんだか、安心感を覚えた。
「痛い痛い! わかった、起きるって!」
シルヴィアはそう言いながらベッドの中から飛び出た。時計を一瞬のぞむと、8時30分を指していた。
「おぉ、良い時間。流石は
そのままオリビアの頭を撫でながら言う。オリビアは、どこか誇らしげで、どこか呆れたような表情をしていた。
「ワカッタから、さっさとジュンビをしちゃいなさいよ。」
「オーケー、オーケー。分かってるって」
シルヴィアはさっさと、部屋を横切って洋服箪笥に収まっている服を手にする。
それは約4年前のクリスマスに、ハーマイオニーが贈ってくれたマグルの服装に着替える。白いブラウスに若葉色のワンピース。4年経った今でも窮屈なく着る事が出来た。
実を言うとここ4年間、シルヴィアはあまり成長していない。ダフネですら、4年前より5cm以上は伸びている。ミリセントなんか20cm近く伸びたそうだ。
しかし、シルヴィアはどうだろう? シルヴィアの体格は1年生の時と殆ど変わっていない。
今では、1年生の生徒に同学年だと勘違いされる事だって珍しくない。シルヴィアとして少々複雑な気持ちを抱いていた。
「こう、身長を伸ばす為にはどうすればいいのかな?」
「イチバン、メジャーなのはギューニューを飲むとかでしょ。それに、ギューニューを飲むと……オオキクなるらしいわよ」
オリビアは、明らかに身長では無い話をしている。しかし、シルヴィアは一切ピンと来なかった。
「まぁ、先ず貴女はもうスコシ食べた方がイイと思うわよ。」
「う〜ん、お腹、空かないものは空かないんだよね……」
そんなやりとりをしながら、シルヴィアの準備は着々と進められていった。もう一度だけ、忘れ物が無いかどうかのチェックを行って準備万端だ。
「よし、オリビア! 漏れ鍋にさっさと行っちゃおう!」
「エェ。」
シルヴィアは、久しぶりに手に取ったフルーパウダーを握りしめ、オリビアはすとんとトランクの上に踏み乗る。そして、1人と1羽は暖炉の中に入る。
「漏れ鍋!」
グルグルと体内が回る。まだ慣れきれない気持ち悪さを抱えながら、シルヴィアはその時間を過ごした。
「あ、痛っ……」
そして、漏れ鍋の古びた床を踏みしめる。シルヴィアは今回、転ばなかったのだ。
「わーい、始めてだ! 転ばずに煙突飛行出来たのは!」
シルヴィアは嬉しそうに言って両腕を天に向けた。
「おやおや、それは良かったね。どうも、おはよう。シルヴィアちゃん。それに、そちらは君のご友人のオリビアちゃんだね?」
横からスッと現れたのは、あの白髪の魔女。シンシア・メガロフィイアだった。彼女はどうやら、紅茶を飲んでいたようだった。オリビアは完全にシンシアの事を疑いの目で見ていた。
「あはは、オリビアちゃん。そこまで私を警戒しなくていいんだよ。私はただ無害な魔女だ。確かに遠い昔に人間性というのは失っているが、倫理観まではドブに捨てていないから安心してくれ給え。君達を安全に迅速にキングス・クロス駅までお送り致しましょう」
そう言うとシンシアは立ち上がり、仰々しく礼をした。シルヴィアもオリビアもドン引いたし、他の魔法使い達もシルヴィア達を凝視していた。
「……も、もう分かったので……い、行きましょう。」
シルヴィアはそう言って漏れ鍋のマグル側のドアを開けようとした。
「あ、あー! ちょっと待ってくれ。シルヴィアちゃん。マグルの世界に飛び出す前に、1つ渡しておかなければならないものがある。」
そう言って、シンシアは自分の手十数cm上に何か白い物を生み出した。原理は分からないが、多分魔法だろう。シルヴィアも驚いたのだが、1番驚いていたのはオリビアだった。
「それは……一体?」
そうシルヴィアが呟いたタイミングでシンシアの手元で生み出された白い物は、シルヴィアの手にゆっくりと飛び込んできた。
「それは、マスクって言うやつだよ。今、マグル界では類例に乏しい社会情勢をしていてね……。君は
「え、去年度にホグワーツで一瞬流行った?」
まさか、またその言葉を聞くものとはシルヴィアは思ってもいなかった。
「そう! それだ。それがね……なんだか、進化……正確に言うと変異を起こして未知の病気となった。そして、今現在進行形でマグル界で流行ってるんだよ。所謂、
「それって……まさか、ホグワーツ生がクリスマス休暇に帰省したから……?」
「う〜ん、どうだろうか。黒死病は元々南アフリカの方とか南北アメリカで確認されていたんだけど……大体ハロウィン後ぐらいから変異株がアフリカ、中東、地中海地域……って感じで感染者の確認が増えていったんだ。最初の感染確認国はアフリカのどっかとか、中東のどっかだとか、アジアのどっかだとか。色んなこと言われているけど、結局、どれが正しいか分からない。」
そう言って、シンシアは肩を竦めた。
「その後、クリスマス休暇で一気にイギリス国内の感染者が増えた。今では、世界各国感染が確認されているね。イギリスとかフランスもそう。ドイツ、イタリア。どこもかしこも
シルヴィアもオリビアも現実味の無い話に思えた。これでは、中世の感染拡大と同じでは無いか。
「まぁ、現在のマグルの科学っていうのは非常に興味深いまでに、発展していてね。変異した黒死病に抗おうと必死に研究者は研究しているさ。だから……そうだね。4、5年すれば落ち着くんじゃ無いかな……──それまでにこの世界があるかどうかは未知数だけど……。」
シンシアは非常に意味あり気にそう言った。彼女の言う通りだと、4、5年後には世界が無いような言い方だ。
「……それに、人間っていう生物はどうしても他責思考でね。この黒死病の感染拡大には、移民の所為なのでは無いか。って言ってみたり……。後は、〇〇人の所為じゃ無いか。って言ってみたり……。成り果てた者は、これは裏世界の陰謀なのでは無いか。とか言ってみたりしてるんだ。
それだけなら、滑稽だ。で済むんだけど、謎の正義感に囚われた者達が移民排除やら〇〇人排除やらを宣って、実際に正義の鉄槌を振り下ろす。と言う事例が各地で後を絶たなくて……。全く、歴史は繰り返すものなんだね。」
そう冷笑気味にシンシアは言った。
「さて、そのマスクを付けて。マスクを付けないと
シルヴィアは手にあるマスクを、目の前に居るシンシアを見ながら付けてみた。上下反対だとか、裏表反対だとかシンシアに言われながら、付けた。
「う〜ん、そうだね。シルヴィアちゃん。君は、こう……小顔だね。童顔とも言う。」
シルヴィアの顔の大部分はマスクで覆われた。マスク仮面状態だった。シンシアが調整したおかげで、その状態からは脱却したが、オリビアは永遠に笑っていた。
「さて行こう。」
そう言い、シンシアはマグルの道側のドアを開いた。
マグルの街は去年のような活気は無くて、車通りの人通りも随分と少なかった。そして、何より寂れていると感じた。
「喫茶店やらレストランやらがハイギョーしているところがオオイわね……」
元喫茶店と思しき店には『閉店しました』と言う張り紙が貼ってあった。
「黒死病パニックの所為で第三次産業。つまり、宿泊業・飲食サービス業は軒並み廃業。だから、失職者が大量に出てね……ロンドン市内でも浮浪者だったり、スリが居る場所が増えている。全く、100年前の焼き直しかってね……」
シンシアはそう言って深いため息を吐いた。
「さぁ、急ごう。ロンドン市内でも歩かない方がいい道とかがあって、それを避けながら歩くとちょっと時間がかかるんだ。勘弁しておくれよ」
「じゃあ、この……普通に姿現しをすれば……いいのでは?」
「私は、姿現しが苦手なんだ。気持ち悪いし……何度身体が
シンシアはそう言うと、シルヴィアのトランクを提げていない方の手を掴んだ。
「危ないからね、離れないように。さぁ、向かうはキングス・クロス駅!」
そう言って2人と1羽は出発した。シルヴィアの頭の中は永遠と『身体が
「ここは教会だ。世情も事実としても世紀末の今現在、人々は信仰心が薄い所為でこんな事になっていると解釈する者も居たそうだ。彼らは神という存在するか否か不明な存在に対して、祈りを捧げ赦しを得ようとしているんだ」
教会では、マスクを付けた数十人が一定の距離を保った上で祈りを捧げていた。皆、深刻な顔をしていて気が滅入っているように思えた。
「あの標語を見てご覧? あれは第二次世界大戦時に使われたものだね。」
建物には横断幕が貼られており、『
横断幕は非常に汚くて、落書きが沢山書かれていた。恐らく、国民生活は限界に近いのだろう。とシルヴィアですら、分かった。
途中、いくつかの路地裏で浮浪者が屯っているのを見たし、恐喝が行われている現場も見た。
そして、なんとかキングス・クロス駅に辿り着いた。駅は例年より格段と人が少ないように見える。シンシアはそこで歩みを止めた。
「私はこれまで努力を重ねて来た。世界の滅びを食い止めるべく、色んな事をしてきた。世界が終わる瞬間ってどうなんだろう? こうやって徐々に腐るように終わるのか、パッと蝋燭の火を吹き飛ばすように終わるのか……。
私にはまだ、そこだけが見抜けないんだ。こんなにも長い間、知を求め続けていたというのに……いや、だからこそ……終わりが分からないのかも知れない。」
シンシアはそう悲し気に語った。そして、シルヴィアの目を見た。
「シルヴィア、どうか忘れないで欲しい。いくら、悪人だらけだろうと世界には良心という物が存在する。私は古来より、性善説を信じていてね。人々は皆、等しく純粋無垢なんだ。」
そう言うとシンシアは、シルヴィアに目線を合わせるために屈んだ。
「確かに、その純粋無垢で愚かしい事をする事だってあるかも知れない。けれども、彼らには小突かれた痛む心だってある筈だ。これが私が人間を、この宇宙より長い間見てきた結論。
だからどうか、どうか……憎悪に染まらず、人々が抱く復讐心に屈する事なく……シルヴィアはシルヴィアの信じたいものを信じて欲しい。死を知らない、哀れな呪われた少女よ。どうか……安らかにあって」
シンシアはそう言うなり、シルヴィアを抱きしめた。いくら、駅に人が少ないとは言え、あまりにも大胆な行動だ。シルヴィアは完全にシンシアの突然の行動を理解出来ずに居た。
「え、えぇっと……シンシア……さん?」
「ダメか」
シンシアは先程の優しい声から一変して、どこか冷たいようなどこか落胆したような声を出した。
「チョット! いくら貴女だとしても、シルヴィアに馴れ馴れしいわよ!」
そう言ってオリビアがシンシアを突っ突いた。シンシアは少しの間突っつかれた後、シルヴィアを解放した。
「概ね、当初の予想通りか……」
シンシアはそう言ってため息を吐いた。
『コノ子ヲ、殺ソウトシ──「
シンシアは誰かと会話しているようで、シルヴィアの方もオリビアの方も見ていなかった。ただ、虚空を見ていた。
「ねぇ、オリビア……シンシアさん、誰と会話してると思う?」
「さぁ……マッタク分からないわ。ほら、ヤッパリ初対面の人をシンヨーしちゃダメなのよ。この人もアブナイ人だったのよ」
そう小声でシルヴィアとオリビアが会話を交わしたぐらいにシンシアは、その宇宙色の瞳でシルヴィアとオリビアを見据えていた。
「全く、オリビアちゃん。私が危ない人だなんて! そんな訳ないでしょ? 私は、シルヴィアちゃんもオリビアちゃんもそして、世界も愛している!」
そう言ったものの、シルヴィアもオリビアもシンシアの事を色んな意味で疑っていた。
「アナタは何故、突然シルヴィアにカンショーし始めたの?」
「ふむ、最もらしい質問でもあり……君らしい質問でもあるね。オリビアちゃん。私の価値観に当て嵌めれば……2人とも非常に興味深い。私は、君達の行く末に少々の変化を与えるだけの存在。君達こそ、世界の変数になるんだよ。
私は
シンシアは散々重要そうな事を言いながら、一欠片も情報を落とさない人だった。
「おや? もうこんな時間だ。さっさと9と3/4番線へ向かおう。乗り遅れてしまう!」
そう言って、シンシアはシルヴィアの手を引いて走り出した。柱にかけてある時計は10時55分を指していた。本当に遅れてしまいそうだ。
「えぇっと、9と3/4番線はここだよね?」
いつもの9番線と10番線の間にある堅そうな柱の前に辿り着いた。既に、ホグワーツ生らしき人は居なかった。
「よし、飛び込もう!」シンシアはそう言ってシルヴィアの手を引いたまま柱に飛び込んだ。
「うわぁ〜! 久しぶりにホグワーツ特急見た〜!」
シンシアの声は今まで聴いた中で1番高揚していた。9と3/4番線のプラットホームには数えきれない魔法使いの家族達が、子供を見送っている。ただ、どこか……どこかおかしかった。
いつも騒がしい筈のプラットホームは非常に静かだったのだ。こんなに人が集まっていて、ホグワーツ特急も煙を吐いているのに。
「さ、急いで、汽車に乗り込んじゃって!」
そう言ってシンシアはシルヴィアの背中を押した。
ここで、シルヴィアは違和感に気が付いた。人々が静止していたのだ。シンシアがシルヴィアの背中を押したタイミングで、まるで時が一気に動き出したかのように、ドッと煩くなった。
それに、ホグワーツ特急が動き出した。シルヴィアは、自分の中で1番高いジャンプをして汽車に飛び込んだ。オリビアも必死にトランクにしがみ付いていたので、落ちる事は無かった。
運動神経がマイナスの値を達しているシルヴィアがこんな事をやってのけたのだ。シルヴィアは自分で自分の成した事を理解出来ていなかった。
振り返って、去り行くプラットホームを臨めば、シンシアがシルヴィアに手を振っていた。まるで、彼女だけ異空間に居るようなそんな違和感を感じた。
「と、取り敢えず……コンパートメントを探そう。どこか、都合よく人の居ないコンパートメントがあればいいんだけど……それか、ダフネとかハーマイオニー達が居るコンパートメント……見つかるかな……?」
「あればイイワネ……」
シルヴィアもオリビアも空いているコンパートメントがあるかは懐疑的だった。実際、汽車の廊下は酷く混んでいたし、人混みを避けながらコンパートメントを覗いてみても、大抵友達同士の会話で盛り上がっている。
このホグワーツ特急が何両編成なのか何故か誰も数えた事が無い為、正確な編成数は謎なのだが、少なくとも10両以上はあるらしい(何故か、12両なのか18両なのかで揉めるらしい)。その為、この長い編成から友人を探すだけでも骨が折れる作業だろう。
去年と同じく、最後尾の車両まで辿り着いてしまった。ただ、運良く誰も居ないコンパートメントを最後の最後で見つける事が出来て、シルヴィアはコンパートメントに飛び込んだ。
「ホントにラッキーね。ギリギリで汽車に飛び込んだって言うのに、こうして空いているコンパートメントを見つけ出せるなんて……」
オリビアは非常に感銘した様子で言った。その頃にはシルヴィアはトランクを置いて、車窓を楽しみ始めた。今は丁度、ロンドン市内を飛び越えたところだ。
「けど、今回は寂しい旅になりそうでね。オリビアぐらいしか話し相手が居ない。これじゃ、いつも通りの日常すぎるよ」
「ナニカいけないわけ?」オリビアは明らかに不機嫌そうに言って、首を180°回転させて、外方を向いた。
「ご、ごめんって……。あ、そうそう。さっきさ、シンシアさんに送ってもらった時……なんか変じゃなかった?」
シルヴィアがそうオリビアに聞いてから約15秒後にオリビアはこちらを向いた。
「……──タシカニ、まるで……ジカンが止まっているように見えたわ……」
「だよね! 本当になんだったんだろう?」
そうシルヴィアが話を広げようとした時、コンパートメントの戸を叩く音が聞こえた。
扉を見るとそこには、濁り色のブロンドの髪が腰まで広がっている少女がコンパートメントが立っていた。シルヴィアは月の妖精が居ればこんな姿形を取るだろう。と勝手に思った。
ただ、少女からは変人のオーラが漂っていた。杖を左耳に挟んでいる所為か、バタービールのコルクを繋ぎ合わせたネックレスを付けている所為か、逆さまに雑誌を持っている所為なのか分からなかった。ただ、変人である事は事実だろう。
「ここ、いい?」
少女はそう聞いて来た。
「うん、構わないよ」
初対面であったが、別に断る理由は特に無いと考えた。何よりも、シルヴィアはこの4年間で割とコミュニケーション能力を向上させて、初対面の人でも話せるようになったのだ。
「あれは、『ザ・クィブラー』よ。アタマのおかしい記事が載ってる。」オリビアが少女の手に持っている雑誌を指(羽)指してそう、こっそり言った。
「私、あんたを知ってる。シルヴィア・ネクロタフィオ。スリザリン寮。学校の有名人だ」少女はそう言った。
シルヴィアは自分が有名人になっている自覚はなかったので、頭の上にはてなマークが浮かんだ。
「えぇっと……貴女は一体、どこのどなた?」
「あたしは、レイブンクロー寮のルーナ・ラブグッド。──計り知れない英知こそ、我らが最大の宝なり」
自己紹介をした後、ルーナは歌うように付け加えた。
「ラブグッド!? 『ザ・クィブラー』のヘンシューシャの名前じゃ無い!? ムスメが居たって言うの!?」オリビアは随分と驚いていた。
「あんたは、梟と喋れるって聞いた。本当?」
シルヴィアはびっくりしてしまった。シルヴィア的にはその事は秘密のつもりだったのだ。なのに、この見ず知らずの寮違いの(恐らく)学年違いの少女に知られている。
「ホグワーツの秘密はみんな知ってるんだよン」
「うえぇ!? 本当!?」
「うン!」
ルーナは元気に答えるが、シルヴィアは一気に顔色が悪くなった事を自覚した。
『普通、動物と話す者は魔法界に居ない。
「けど、あんた不思議な人だから。さっきだって、いきなりホームに現れたりした。それに隣に居る魔女も不思議な人だった。」
「誰よりもフシギな子にイワレタク無いわよ」オリビアが不機嫌そうに言った。シルヴィアは『いきなりホームに現れた』と言う言葉に気になったが、ルーナはか構わず、会話を続けた。
「今、その梟はなんて言ったの? その子の名前は?」
「えぇっと……『ルーナは可愛いね』って言ってたよ。この子はオリビアって言うの。とても、賢くて頼りになる梟だよ」
「ふ〜ん」
聞いて来た割にはあまり興味の無さそうな返しをした。すると、ルーナは持っていた雑誌を開いて読み始めた。それも逆さまにだ。
これにより、2人の間にはこれ以上の会話は生まれなくなり、シルヴィアは車窓を楽しみ始めて、オリビアは座席で眠り始めた。
お昼頃。車窓が田園風景に変わった時、車内販売のおばあさんがやって来るまでこの状況は維持された。
「あたしは……カボチャパイとハエ型ヌガーだけでいいや」
「じゃ、私は……そうだな、蛙チョコレートと百味ビーンズを」
2人はそれぞれお菓子を買い求めて、席に着いた。
「そ、その雑誌には……何が書いてあるの?」シルヴィアは勇気を出して聞いた。ここまで会話が無いと、少々気不味いものだ。
「見ていいよ」
ルーナは雑誌を差し出して来たので、シルヴィアは一旦お菓子を退かして雑誌の掲載記事の見出しを見た。
『トロールは実は天才的な数学者だった!? 数字で語るトロールの知能』
一発目にあまりにも荒唐無稽な見出しが飛び込んできて、シルヴィアは吹き出しかけた。その見出しの下へ目線をやるとまた、不思議な見出しの記事が躍り出てくる。
『梟郵便の真実! 実は彼らは魔法省のスパイだった!? 梟生態研究者のハーバート・ウィズダムが見た梟の真実』
『マグルの地球科学は間違い!? 火山は実はドラゴンの巣だった! 寄稿者がストロンボリ島で見た真実』
『魔法界の歴史は書き換えられた? 消えた魔法使いたちの謎』
『魔法省の役人は全員ポリジュース薬で同じ人物だった!? 魔法省役人の影と光』
『ダンブルドアはすでに100回死んでいる!? フェニックスとの禁断の契約!』
『ホグワーツの巨大イカ、実は旧支配者の末裔だった!? ラブクラフト氏が残した伝言』
オリビアが言った通り、この『ザ・クィブラー』と言う雑誌は本当におかしいのかもしれない。ただ、シルヴィアはそのおかしさが面白いと思い始めていた。
「シルヴィア、こんなモノ読んだらアタマがオカシクなるわよ」
「別にいいじゃん。面白そうだよ。特に……あー、これとかいいね。『魔法とは何か? 我々が信じる《現実》という迷妄』」
「ホントーに頭がオカシクなるから辞めなさい!」
オリビアは必死に言っていたが、シルヴィアは記事を読み始めた。オリビアは明らかなため息を吐いていた。
◆
シルヴィアが大抵の記事を読み終える頃には、ホグワーツ特急は速度を落とし始めていた。その為に急いでシルヴィアは制服に着替えた。
「あんたは、いつも忙しそう……」
「う〜ん、なんでかこうなっちゃうんだよね……」
シルヴィアとルーナは短い会話を交わしてから、コンパートメントを出た。汽車の通路は例年と同じように、ホグワーツ生で溢れていた。この人混みでは、ハーマイオニー達やダフネ達を見つける事は叶わないだろう。シルヴィアは完全に諦めの心に入っていた。
そして、ホグワーツ特急は真っ暗なホグズミードの駅に停車した。
デッキの戸が開いた時に頭上で雷が鳴った。外は土砂降りで、みんな背を丸めてローブのフードを被って降りた。まるで天の慟哭だ。シルヴィアも勿論フードを被った。すぐにローブが雨水で重くなる。
しかし、ただ1人。ルーナはフードを被らず雨に打たれていた。
「ルーナ? フードを被った方がいいと思うけど……」
「いいの。自然を感じているだ」
あまり、ルーナの言っている事を理解出来なかったが、取り敢えずルーナと共に在校生の人波に乗る。
遠くの方で、ハグリッドの『イッチ年生はこっち!』と言う声が響いていた。彼の声はどんな土砂降りでも響くそうだ。
この頃には、オリビアは「こんな雨の中トブなんて……」と文句を垂れながら、梟小屋目指して飛び出して行っていた。
「……この馬は、一体?」
駅の外にはおよそ100台の馬と馬車が待っていた。馬車を引いている馬は皆一様に気味が悪く、ゾワっとした。そうだ。シルヴィアはまだ1度も正規の方法でホグワーツに入っていない。
1年次は他の新入生と共に湖を船で横切った。2年次はロンドンで迷って、そもそもホグワーツ特急に乗れなかった。3年次は汽車で気絶したので覚えていない。
よって、シルヴィアは4年生にして初めての正しい新学期を迎える事が出来ているのだ。
「あんたも見えるの?」ルーナはそうシルヴィアに問いかける。
「え、見える……けど、普通は……見えないの?」
シルヴィアが辺りを見回しても、誰1人としてあ気味の悪い馬について話していない。大抵の人の会話は、宴会でどんな料理が出るかの話だった。シルヴィアはまたもや、自分は異端側だったのか。と落胆した。
「うん、そうだよ。けど、あたしはここに来た最初の日から見えていたよ。こいつ達、いつも馬車を牽いていたんだ」
「へぇ……」
シルヴィアとルーナがそんな会話をしていれば、すっかり馬車の残りも少なくなっていた。
2人は急いで黴臭い馬車に乗り込んだ。1番最後の馬車だった為に、2人以外乗り込んでくる生徒は居なかった。少しすれば、気味の悪い馬は大雨の中をホグワーツ城へ向けて進み始めた。
シルヴィアはすっかりびしょ濡れとなって、疲れていた。しかし、馬車に乗る時間はそんなに長く無い。眠る事は出来ない。ローブの中に入れていた『ザ・クィブラー』を開いて読み始めた。
Keep Calm and Carry On:
イギリス政府が第二次世界大戦の直前に、開戦した場合のパニックや戦局が悪化した場合の混乱に備えて作成した、国民の士気を維持するための宣伝ポスターのフレーズ。
実はあまりポスターが印刷されていなかった為に、有名では無い。2000年にポスターが再発見され流行っている。
ルーナ・ラブグッド
ザ・クィブラーの編集長の娘。レイブンクロー所属。変人。喋り方が難しい
昨晩、今後の構想を考えた際にゴブレットは15話+1話(閑話)。騎士団は15話+1話。謎のプリは14話+1話。7章目は13話+1話。8章目は12話+1話。エピローグに3話。になると言う構想を立てました。
即ち120話になる予定だそうです。若干、増減はするかも知れませんが、取り敢えずまだ半分も行っていません。それと、後半に行くにつれて独自要素が増えて行きます。
取り敢えず、予定は立ったのでエタる事なく更新を続けていければな。と思っています。
今現在、明日投稿する原稿はありません。ので、また休載です。絶対に完結させますので、どうかお付き合いのほどよろしくお願いします。