呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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2025/03/12 本文編集



第5話 →ホグワーツ→

「──て! 起きて!

 シルヴィアの耳には唐突に少女の叫び声が入る。

 目をゆっくりと開くと、深刻な表情をしたハーマイオニーが目の前に立って居た。外はすっかりと暗くなっており、深い紫色の空の下に山や森が見えた。汽車は確かに徐々に速度を落としていた。

「もうそろそろでホグワーツに辿り着くわ。早く着替えちゃって!」

 ハーマイオニーに急かされ、シルヴィアは目を擦りながらトランクの中からマダム・マルキンから購入した制服を探し、出して着る。

「後、5分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校に届けますので、車内に置いて行ってください」

 車内にそう声が響き渡った。シルヴィアは緊張のあまり、生まれたての子鹿のように震えていた。

「だっ、大丈夫だから! きっと大丈夫だから!」

 そう言いながら、ハーマイオニーはシルヴィアの背中を摩った。

 しかし、その手もそれなりに震えていた。その間も汽車は益々速度を落とし、完全に停車した。

 押し合いに巻き込まれながら、汽車から出ると外は小さな暗いプラットホームだった。夜の冷たい風がシルヴィアの頬を撫でる。

 シルヴィア的にはとても涼しく気持ちいい風だった。しかし、周囲の生徒達は寒さによって皆震えていた。

 

「イッチ年生! イッチ年生はこっちだ!」

 遠くから大きな声が聞こえる。

 声は、シルヴィアの内臓をも揺らすかのような大きな声だった。驚いて声が聞こえた方をみるとランプを持った普通の人間より、ずっと大きい男。大男がそこに居た。

 

「あの男は動物アイゴを履き違えてキメラやキケンな動物を飼っているヤバい奴だわ!」

 オリビアはそうシルヴィアの耳元で騒ぎ始めた。どうやら、あの大男の飼っている動物に一度食われかけたそうでそれがオリビアにとってトラウマらしい。

「さあ、着いて来いよ──あとイッチ年生は居ないかな? 足元に気を付けろ。いいか! イッチ年生、着いて来い!」

 そう大男が言うものなので1年生は皆、大男の方へ向かう。

 

「まぁ、あの動物アイゴを履き違えてにキメラやキケンな動物を飼っているヤバい奴もいる事だし、私はイッタン退散させて頂くわ」

「え、行っちゃうの?」

 シルヴィアはオリビアがどこかに行ってしまう事に強い不安感を覚えた。それと同時に、このオリビアがずっと自分の近くにいるのは随分と目立つのだろうな。と考えた。

「シルヴィアなら、ダイジョーブよ」

 そう言ってオリビアは飛び立って行った。暫くすると、もうすっかり見えなくなっていた。

「シルヴィア……まさか、もしかして──動物と話せるの……? 」

「えぇっと、そ──「足元に気をつけるんだぞ!

 シルヴィアが必死に言い訳を考えている時に丁度、大男がそう振り返りながら言った。

 ここでハーマイオニーの関心も自分の足元に向かい、これ以上聞いてくる事は無かった。

 

 その後、大男の後に着いて滑ったり、躓いたりしながら険しくて狭い小道を歩いていく。右も左も真っ暗で枝葉が鬱蒼と生い茂っていた。

 シルヴィアは自分が住んでいた森を思い出し、何処か懐かしさを覚えていた。

 ただ、シルヴィアの斜め前に居るシルヴィアと同じくらいの身長の低い少年は2、3回躓いて鼻を啜っていた。

 

 

みんな、ホグワーツがまもなく見えるぞ! この角を曲ったらだ!

「うぉーっ!」

 一斉に歓声が湧き上がった。狭い道が急に開けて大きな黒い湖の辺りに出た。

 向こう岸には高い山が聳え、そのてっぺんに壮大な城が見えた。大小様々な塔が立ち並び、キラキラと輝く窓が星空に浮かび上がっていた。心動かされる景色だった。

 

「4人ずつボートに乗れ!」

 大男は岸辺に繋がれた小舟を指さした。シルヴィアはハーマイオニーと同じ船に乗る。その船には、癖毛の強い黒髪に翡翠の瞳を持つ眼鏡少年と燃えるように真っ赤な髪を持つのっぽの少年が既に乗っていた。

「そう言えば、彼がハリー・ポッターよ」

 ハーマイオニーが眼鏡の少年を指さしてシルヴィアに紹介する。

 ハリー・ポッターと言う少年は若干、ハーマイオニーの事を気に入っていない様子で不機嫌そうな顔をしていた。そして、その隣の赤毛ののっぽの少年は睨むような目を向けていた。

「あっ、うん……そう、なんだ……。」

 シルヴィアはどう反応すれば良いのか分からず、よく分からない反応を見せる。

 その様子を見たハリー・ポッターはシルヴィアに少し同情したのか、そんな目で見ていた。赤毛ののっぽの少年は、シルヴィアに対して優しいとは到底言い難い目を向けていた。

 

「みんな乗ったか? よーし、では、進め!

 ボート船団は一斉に動き出して鏡のような湖面を滑るように進み始める。みんな黙って口をあんぐりと開けて目の前に聳え立つ巨大な城を見上げていた。

頭、下げぇー!

 先頭の何艘かが崖下に到着した時、ハグリッドがそう声をかけた。

 一斉に生徒たちが頭を下げるとボート船団は蔦のカーテンを潜り、ぽっかりと空いた城の真下にあると思われるトンネルを潜る。

 そうして、地下の船着場に到着した。全員が岩と小石の上に降り立った。

 

 後ろでヒキガエルがどうとか話していたのが聞こえた。

 大男はボートの点検が終わると生徒達を先導し、ゴツゴツとした岩の路を登り、湿った滑らかな草むらの城影の中にたどり着いた。

 そして最後に石段を登り、巨大な樫の木の扉の前に集まった。

 

「みんな、居るか? お前さん、ちゃんとヒキガエル持っとるな?」

 大男は大きな握り拳を振り上げ、城の扉を3回叩いた。

 すぐに扉がパッと開きエメラルド色のローブを来た背の高い老女が現れた。

 とても厳格そうな顔つきをしており、シルヴィアも出来るものならばこの人には怒られたくないと思った。

「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです。」

「ご苦労様、ハグリッド。ここからは、私が預かりましょう」

 そう厳格そうな老女、マクゴナガル教授と大男ハグリッドの会話が終わると、1年生はマクゴナガルに連れられて進み出す。

 玄関ホールはあのグリンゴッツのような作りであり、天井は高く松明が空間を優しく照らしている。随分と荘厳だと感じた。

 マクゴナガルに連れられてホール脇にある小さな空き部屋に辿り着く。

 途中、大広間の前を通り過ぎたが、あり得ないほど人が居た。シルヴィアはそこからまた疲れを見せる。ただ、それでも覚悟を決めなければ。これからは殆ど1人の時間が無い。そう自分の心を奮い立たせる。

 

「まずはホグワーツ入学おめでとうございます」

 マクゴナガルはそう祝辞を述べた。その後、寮についての概要を説明し、学校側の組分けの儀式の為の準備が終わるまでこの部屋に待機していなさい。と告げた。

 

 シルヴィアはすっかり、組分けについて膨大な不安感を覚えた。

 そのシルヴィアの隣のハーマイオニーは早口で呪文を言っている。シルヴィアは一切呪文など覚えていないのだ。

 もし、杖を持って魔法を放て。と言う試験方式の組分けだったらどうしよう。シルヴィアは心の中がズーンと重くなった。

「一体、どうやって寮を決めるんだろう」

 ハリー・ポッターが隣の赤毛の少年に話かけた。

「試験のようなものだと思う。すごく痛いってフレッドが言っていたけど、きっと冗談だ」

 赤毛の少年はそう答えた。『きっと冗談だ』の言葉があっても、シルヴィアの不安をもう一層深めるのは安易だった。

 緊張している所為か、狭い部屋に押し込まれてる所為かシルヴィアの息はどんどんと浅くなっていく。

 どうにかシルヴィアは深呼吸を思い出そうとするが無理だった。

 

 突然、後ろの壁から真珠のように白く少し透き通った色の人間達が()()()()()来た。

 シルヴィアは驚きのあまり本当に気絶してしまいそうになる。

 どうやら議論しているようで、驚いて腰を抜かしている1年生の事など気にしていない様子だった。

 誰かがあれはゴーストだ! と叫んだ。そしてマグル生まれの生徒を中心に(尚、ハーマイオニーは除く)もっと驚いてしまった。

 しかし、そのゴースト達は議論に夢中でその喧騒すら気がついていない様子だった。

 

「もう許して忘れなされ。彼にもう一度だけチャンスを与えましょうぞ」

 太った小柄な修道士らしいゴーストが言う。しかし、話し相手のひだがある襟のついた服を着て、タイツを履いたゴーストは首を横に振った。その首は不自然に揺れており、1年生の恐怖を駆り立てた。

「修道士さん。ピーブズには、もうあいつにとって十分過ぎるくらいのチャンスをやったじゃないか我々の面汚しですよ。しかも、ご存知のように、奴は本当のゴーストじゃない」

 すると1年生の存在に気が付いたようだった。

 

「新入生じゃな。これから組分けされるところか?」

 太った修道士が1年生に微笑みながら問いかける。2、3人が黙って頷く。

「ハッフルパフで会えるとよいな。わしはそこの卒業生じゃからの」

「私はグリフィンドールの寮憑きゴーストですからグリフィンドールで会えると良いですね」

 ひだ襟ゴーストは途端、シルヴィアを見つめる。

「貴女は……えぇっと、誰でしたっけ。……あぁ! そうだ、そうだ。メロペーの子にそっくりだ! ……成程、血は続いていたのか……良かった。」

「さぁ、行きますよ。組分け儀式が間も無く始まります。」

 マクゴナガルの厳しい声が部屋に響く。

 その為、シルヴィアは呆気に取られたまま、ゴーストに何も聞き返せぬまま大広間に向かう事になった。

「さぁ、一列になってついて来てください」

 シルヴィアはもう先程のゴーストの言った事など考えている暇がなくなり、これからの組分け儀式について杞憂する事になった。

 自分が何処の寮にも選ばれなかったらどうしよう。という思考の沼に沈んでいた。

 

 間も無く1年生はマクゴナガルに連れられて大広間に入る。

 大広間の空中には何千という蝋燭が浮かんでおり、4つの寮ごとに分かれた長テーブルを照らして居た。

 テーブルには既に大勢の上級生達が着席しており、キラキラと輝く金色のお皿とゴブレットが置いてあった。

 天井は本物の空のように見えて、黒い空に星が点々と輝いていた。

「本当の空が見えるように魔法がかけられているのよ。〝ホグワーツの歴史〟に書いてあったわ」

 シルヴィアが特に聞いた訳でも無いが、ハーマイオニーは丁寧に教えてくれた。シルヴィアは小さく「へー」と言った。

 広間の正面にはもう1つ長テーブルがあって、教職員が座って居た。あの大男ハグリッドやシルヴィアの入学準備に引率したスネイプが見えた。

 また、中心には白く長い髭を伸ばした老人が立って居た。一番偉そうなのだからあの老人が校長であり、あの肩書きの長いアルバス・ダンブルドアなのだろうと考えに至る。

 なんとなく優しそうではあるけれど、どこか侮れなさそうな人だとシルヴィアは感じた。

 

 マクゴナガルは1年生を大広間の前まで引率をし、1年生をまた整列させた。

 そして整列させ終わると大広間の隅から継ぎ接ぎのボロボロでとても汚らしい帽子と古い椅子を持って来た。

 大広間はそこでシーンと静まり返る。すると帽子がピクピクと動き出した。途端、つばの縁の破れ目がまるで口のように開いて、帽子が()()()()()

 

 

私はきれいじゃないけれど

 人は見かけによらぬもの

 私をしのぐ賢い帽子

 あるなら私は身を引こう

 山高帽子は真っ黒だ

 シルクハットはすらりと高い

 私はホグワーツ組分け帽子

 私は彼らの上をいく

 君の頭に隠れたものを

 組分け帽子はお見通し

 かぶれば君に教えよう

 君が行くべき寮の名を

 

 グリフィンドールに行くならば

 勇気ある者が住まう寮

 勇猛果敢な騎士道で

 他とは違うグリフィンドール

 

 ハッフルパフに行くならば

 君は正しく忠実で

 忍耐強く真実で

 苦労を苦労と思わない

 

 古き賢きレイブンクロー

 君に意欲があるならば

 機知と学びの友人を

 ここで必ず得るだろう

 

 スリザリンではもしかして

 君はまことの友を得る

 どんな手段を使っても

 目的逐げる狡猾さ

 

 かぶってごらん! 恐れずに!

 興奮せずに、お任せを!

 君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)

 だって私は考える帽子!

 

 

 帽子の歌が終わると広間に居た全員が拍手喝采をした。4つのテーブルにそれぞれお辞儀をして、帽子は再び静かになった。

 帽子はホグワーツ4寮の特徴を歌にしてかつ、組分け方法まで歌ったようだ。

「つまりは、ただ帽子を被れば良いって事?」

 ハーマイオニーが若干落胆した声で言った。

 けれども、シルヴィアにとって朗報だった。もっと求めるのであれば、誰も居ないところで被ってしまいたかったが……。

「そ、そうみたいだね。」

「折角、呪文……覚えたのに……」

 ハーマイオニーはそこまで言うとガックシとしていた。

 シルヴィアとしては呪文など一切覚えていないに等しかったので、本当にありがたいと思った。

 

「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子を被って椅子に座り、組分けを受けてください」

 マクゴナガルは長い羊皮紙の巻紙を手にしてそう言い、羊皮紙の巻紙を広げた。

 それなりの長さで、あの羊皮紙に生徒の名前が書いてある事は、難なく察する事が出来た。

 

「アボット・ハンナ!」

 金髪のおさげの少女が転がるように出てくる。帽子を被る。そして少しすると

ハッフルパフ!

 そう帽子が叫んだ。右側のテーブルから歓声と拍手が上がり、アボット・ハンナはハッフルパフのテーブルに着いた。

「エイブリー・ダン!」

スリザリン!

 エイブリー・ダンは一息も入れぬ間にスリザリンに組分けされた。エイブリーの次に呼ばれたボーズン・スーザンと言う少女で彼女はまたハッフルパフになった。

「ブート・テリー!」

レイブンクロー!

 今度は左端から2番目のテーブルに拍手が沸き、テリーが行くと何人かが立って握手で迎えた。

 その次のブロックハースト・マンディもレイブンクローだったが、その次に呼ばれたブラウン・ラベンダーは初めてグリフィンドールになった。一番左端のテーブルから弾けるような歓声が上がった。口笛まで聞こえて来た。

 その次のブルストロード・ミリセントはスリザリンに組分けされた。

 

 ここまで見てシルヴィアはキリキリする胃を抑えながら、自分がどのくらいで呼ばれるかを考え始めた。ABC順だとNは14番目だ。丁度、真ん中ぐらいである。

 シルヴィアの胃はどんどんと痛みが増していき、頭痛までしてくるようになった。

「大丈夫?」

「うん……」

 ハーマイオニーが心配してそうシルヴィアに話しかけたので、苦し紛れにシルヴィアは返答する。

 

「フィンチ=フレッチリー・ジャスティン!」

ハッフルパフ!

「フィネガン・シェーマス!」

グリフィンドール!

 

 シルヴィアは今までの組分けを観察して来て、寮が決まるまで人によって時間が異なるのが分かって来た。

 被って一瞬で決まる事もあれば、被って3分ほどかかってしまう人も居る。

 

「グレンジャー・ハーマイオニー!」

 隣のハーマイオニーが呼ばれた。

 彼女は少々緊張しているようでカクカクと壇上に上がり、椅子に座った。彼女の寮が決まるのも少しばかり時間がかかった。ただ、最後には……

グリフィンドール!

 帽子が叫んだ。

 ハーマイオニーは嬉しそうに拍手で出迎えてくれているグリフィンドールの長机の方へ向かう。どこかで呻き声が聞こえた。

 

「ロングボトム・ネビル!」

 遂にLまで来てしまった。シルヴィアの番はもう目の前だ。

グリフィンドール!

 ロングボトム・ネビルは帽子を被ったままグリフィンドールのテーブルに向かってしまい、爆笑の中をトボトボ戻って、次のマクドゥガル・モラグに渡した。

 大広間は大爆笑に包まれたが、シルヴィアは居た堪れない気持ちになった。

 マクドゥガル・モラグの次に呼ばれたマルフォイ・ドラコと言う生徒は名前を呼ばれるなりふんぞり返って前に進み出た。

 そして帽子は彼の頭に触れるか否かのうちに「スリザリン!」と叫んだ。

 

 シルヴィアは自分の出番が近づく中、考え込む。シルヴィアはマルフォイと言う苗字を何処かで聞いた事があるのだ。それも悪評の方で。

 どんなに頭を捻ってもどこで聞いたのか分からなかった。

 

「ネクロタフィオ・シルヴィア!」

 シルヴィアは遂に名前を呼ばれた。それと同時に大広間の各地で小さな話し声が溢れ出す。

 どれもシルヴィアの耳にはギリギリ内容が入ってこない程小さい声で、シルヴィアは不安感を強める。

 

 少々傾いている古い椅子に座るとすぐに帽子が被せられる。

 生徒達がみんな、自分を見ている。という状況がとんでも無く恐ろしかった。

 

「ふむふむ……。これまた珍しい子が来た。ネクロタフィオ。その名字を聞くのは実に500年ぶりだ……」

 帽子はそう喋り始めた。それも脳内で。

 シルヴィアはまたびっくり仰天し、幸か不幸か大広間の人々の視線など気にしている場合じゃ無くなった。

「慣例に従うならば、スリザリン。それに、君は大いなる大望を背負っている。しかし、知識への探究心もある。よってレイブンクローも外し難い……。

 勇気はあるにはあるが、あまりにも小さ過ぎる……。まぁ、成長の余地はあるがな。それと、優しさも持ち合わせているかもしれんが、純粋無垢と優しさは似て非なるモノだ。」

 そう一通りの事を言ってから、帽子はうーんっと言って悩み始める。

 シルヴィアは帽子が話さなくなってから今度は大広間の視線が気になり始める。

 大衆からの視線と言うものは、シルヴィアにとって恐ろしいものであり、恐怖そのものだった。

 どれくらい経ったのだろうか。シルヴィアにとっては30分ぐらい経ったのを感じられた。

 

5分を超えたぞ! 組分け困難者(ハットストール)だ!

 誰かがそう叫んだ。すると広間は少々の喧騒に包まれ始める。

 シルヴィアの知らない誰かが自分に対して何を言っている。そんな状況にシルヴィアはもう恐怖で震える。を通り越して固まっているしかなかった。

 

「そうだの。君はどこの寮がいいかね?」

「──ひ、人が……すっ、少なければ……もう、それで良いです……」

 シルヴィアは絞り出すように言葉を紡ぐ。帽子は「ふむ」と何か決めたような声を出した。

「それでは慣例と君自身が背負っているその大望にかけてスリザリン!

 組分け帽子はそう宣言した。

 シルヴィアは全身の力が抜けた気がした。帽子をマクゴナガルに返してから、スリザリンのテーブルへヒョロヒョロと覚束ない足取りで向かう。

 スリザリンの生徒はシルヴィアに拍手喝采を送った。

 

「私は監督生のジェマ・ファーレイ。よろしくね。シルヴィア・ネクロタフィオアさん」

 自分より数歳年上の茶髪の女子生徒がそう言い、シルヴィアに握手を求めて来た。シルヴィアは「あっ、はい。よ、よろしゅ、しく……おねが、い……します」と噛みながら挨拶を言って握手した。

 そして、空いている所に座る。

 

「貴女が、ネクロタフィオさん? これからよろしくな。私は、ミリセント・ブルストロード」「私は、ダフネ・グリーングラス。よろしくね、ネクロタフィオさん。」

 先に組分けされていた女子生徒2人がそうシルヴィアに自己紹介した。

 ミリセント・ブルストロードと言う生徒は、シルヴィアよりも丸々頭1つ違う背丈をしており、それに加えて体付きも良かった。シルヴィアは彼女に若干の威圧感を感じた。

 また、ダフネ・グリーングラスの方は金髪碧瞳の少女で、何処か弱々しい雰囲気を漂わせていた。

「にしても、組分け困難者なんて珍しい話だよ。50年に一度しか現れないそうだし。」

 ミリセントはそう言った。

 シルヴィアにとって勿論、組分け困難者なんて言葉は今日初めて聞いたし、意味もあまり分からなかった。

 困難者。つまりは溢れ者。と言う事だろうか? シルヴィアは、既に寮生活に不安感を覚えていた。

 

「まぁ、ネクロタフィオなんてスリザリンで決まっているようなものなのに。どうして、あの組分け帽子は悩んだのかな?」

 ブルストロードはそう若干、組分け帽子に対して不満を漏らした。

「ほら、ネクロタフィオがホグワーツに入学してくること自体が久しぶり過ぎて忘れていたんじゃない? と言うか、残っていたのね。ネクロタフィオ家って」

 グリーングラスがそう続けた。

 シルヴィアはこの2人がどうやら、〝ネクロタフィオ〟と言う名字に拘っているように聞こえ、あまりいい気がしなかった。

「次はあの子が来るはずだわ」

 グリーングラスは前を指差す。そこにはザ・可愛い感じ。の黒髪の女の子が座って居た。

スリザリン!

 スリザリンのテーブルは、溢れんばかりの拍手をパンジー・パーキンソンに送った。

 

「ミリセント! ダフネ!」

 3人は久方ぶりの再開を喜ぶような盛り上がりを見せていた。

「全く、つい10分前ぶりの再開なのにこんなにはしゃぐだなんてね。」

 どこか傲慢さを感じる物言いをしたのは、シルヴィアの隣にいつの間にか来ていた金髪オールバックの少年だった。

 彼の後ろには、まるで従者のようにこれまた体格のいい男子が居た。

 シルヴィアは、自分の無い記憶力をどうにかフル回転させる事で彼がマルフォイ。と呼ばれて居た事を思い出す。

 

「けど、今の時代にまさかネクロタフィオ家が生き残っているだなんて驚きだよ。僕はドラコ・マルフォイさ。それでこっちはゴイル。そっちはクラッブ。よろしく。」

 そう言い、ドラコ・マルフォイは手を差し伸べて来た。シルヴィアが恐る恐る握手を受けようとすると……

「あ! ドラコばっかりずっる〜い!」

 パンジーがそう声を上げた。

 今はちょうどハッフルパフが生徒を獲得して喜んでいる渦中だった。ミリセントは、その大柄の体から想像通りの力を出力してシルヴィアを自分の方へ向けた。

「ネクロタフィオさん! これから、スリザリンとしてよろしくね!」

 そう言い、ミリセント、ダフネ、パンジーはシルヴィアと握手をした。

 シルヴィアはその全てを「あっ、はっ……はい。うん」と言いながら受けた。

 

「私の事は全然、パンジーって呼んでくれていいんだからね!」「私だってミリセントって気軽に呼んで!」「私も、ダフネでいいわよ」

「あ、あ。うん。わ、私も……シルヴィア……で、だいじょ、大丈夫だから。」

 シルヴィアは完全に3人の勢いに負けていた。

 

「ザビニ・ブレーズ!」

 最後の少年がスリザリンに決まって今年の組分けは終わった。シルヴィアは一気に緊張が解けるのを感じた。

 大広間の前では長い白い髭を蓄えた老人。アルバス・ダンブルドアが満面の笑みで立ち上がる。

 

 シルヴィアとしても、アルバス・ダンブルドアが笑顔で立ち上がった時のは、しっかり覚えて居た。しかし、そのダンブルドアが何を話したのかと言う記憶が一切無かった。

 

 

 

愛シノ我ガ娘ヨ。オ前ハ直ニ理解スルダロウ。我ノ神聖デ偉大ナル計画ォ……

 

 

 シルヴィアが目を覚ますと見覚えの無い天井が見えた。

 困惑しながらも体を起こす。するとやっと部屋の全貌が見えてくる。部屋の中にベッドが沢山置いてあるのだ。

 シルヴィアはめいっぱいの想像力を働かせるが、宿以外の答えは出てこなかった。頭痛がなんとなく残っているのを感じられた。

 

「全く、ヒト酔いでタオレチャウだなんて、最後の最後までユダン出来ない子だコト」

 隣に居たのはオリビアだった。

 いつの間にか自分の近くに戻って来ていたようだった。梟の感情表現を知らないシルヴィアでも良い加減分かってきた。これは呆れている。

「うぅ……、ねぇ? ここは一体どこなの?」

「ここはイムシツってやつよ。校医を呼んで来てアゲル」

 そう言ってオリビアは、どこかへ飛び立って行った。数分して人間の足音と梟の羽ばたく音が聞こえてきた。

 

「ミス・ネクロタフィオ? 大丈夫ですか。」

 優しそうな初老の女性が現れた。この人が校医である事は想像に容易い。

「えっ、は、はい……だじょ、大丈夫です……」

「それは良かったです。新入生は大抵毎年1人はこういう子が居るもんですよ。貴女だけではありませんから、安心してください。」

 シルヴィは一応、安心したがその毎年1人枠に自分が収まっている。という現実は少々悲しいものだった。

「……さて、今夜はどうしますか? ここに泊まりますか? 寮へ戻りますか?」

 シルヴィアは熟考を始める。ここに泊まってしまえば1人の時間を過ごせる。しかし、学校という場所に行く事を決断した今。寮へ戻り、交友を深める方がいいのでは無いか……?

 

「え、えっと……その、りょ、寮へ……戻り、まっ、す」

「まぁ、そうですね。寮に言って寮生や同室の生徒達と関係を深めるのは重要ですからね。……ちょっと待っててください。寮監の教授を呼んできますから」

 そう言い校医はさっさと部屋を出て行った。

「けど、貴女がまさかスリザリンにクミワケされるとは……。いや、ウスウス察していたけどまさかね……」

 オリビアはそう心外そうに言った。

「組分け帽子に『慣例に従えばスリザリン』って言われたんだけど……なんか知らない?」

「……そうねぇ、ネクロタフィオ。そのイチゾクは魔法界でも有名よ。中世の時代に結構栄えた名家だもの。スリザリン寮生はみんな貴女がネクロタフィオっていう事実に拘っていたでしょう? そう言うことよ。」

 自分の名字にそこまでの意味があるとはシルヴィアは知らなかった。

 

「一番ユウメイなの丁度500年くらい前にトウシュだったアルバート・ネクロタフィオね。

 気狂いだとか殺人依存症だとか……一番有名なのは【殺戮卿】ね。彼は結局、弟フウフにコロサレタそうよ。……まぁ、つまりはアクメイ高きイチゾクって訳ね。

 ネクロタフィオの一族は大抵がスリザリンに組分けされていたそうだから、その意味での『慣例』なんじゃないかしら?」

 シルヴィアは完全に動きが止まる。

「──ねぇ? その……今から名字って変えられないかな? 例えばスミスとかに……」

「それで、変えたのがスチュアート・ネクロタフィオね。丁度、アルバートを殺した弟夫婦の長男よ。

 当時の婚約者の名前に倣って他の名字を名乗るようになったそうよ」

「そう、なんだ。先越された……。オリビアは詳しんだね。梟なのに……」

「梟をナメルんじゃ無いわよ! まぁ、貴女とトモダチになった後にイロイロ調べたからね。」

「調べた……の? 梟なのに……?」

「だから、梟をナメルんじゃ無いわよ!」

「コホンッ」

 1人と1羽が会話に花咲かせていると大きな咳払いが聞こえた。

 咳払いが聞こえた方を見ると、そこにはスネイプが立っていた。シルヴィアは何故、この場にスネイプが立っているのか、一瞬理解出来なかった。

 

「えっ? あ、えと……なんで? ですか。」

「我輩がスリザリンの寮監だからだ。……君の体調が良好ならば、寮へ戻るぞ。ミス・ブルストロード、ミス・グリーングラス。それにミス・パーキンソンが君の体調の事を大層心配していた。」

「あっ、え……はい」

 シルヴィアはベッドから出て立ち上がる。

 少々立ち眩みに襲われるが、倒れないようにしっかりと保つ。そして、オリビアがシルヴィアの肩の上に乗る。若干重かったが、それを言ったらなんとなく怒られる気がしたので言わなかった。

 

「そ、その、校医先生。あ、ありが、とうございました。」

 シルヴィアは机で作業をしていた校医に詰まりながらも言う。

「えぇ、明日からは早速授業も始まりますから体調に十分気を付けてくださいね。それと、私はポンフリーです。生徒からはマダム・ポンフリーと呼ばれています。」

「は、はい! ありがとうございます。マダム・ポンフリー!」

 そう言ってシルヴィアはスネイプを追いかける。スネイプの足は前と変わらず早かった。

 シルヴィアは、なんと無く気怠い体を頑張って動かしながらスネイプについていく。

 途中、動く階段だとか話し出す肖像画が沢山あって、シルヴィアはまた目眩がした。

 

「──ミス・ネクロタフィオ。君はまず人前でその梟と話すのは辞めた方がいいだろう。普通、動物と話す者は魔法界に居ない。()()だとか思われたくなければ控える事を勧める。」

 スネイプはそう告げた。

()()──は、はい。わ、かりました。」

 シルヴィアは短く返答した。その後も特に会話は無く進んだ。

 どれほど歩いたのか、いつの間にか日の光入らぬ地下になって居た。

 

「寮には合言葉がある。スリザリンの場合2週間ごとに変わる。その合言葉を忘れてしまえば寮には入れなくなるから注意しておけ。君の場合、梟にでも吹き込んでおけ。今の合言葉は〝純血〟だ。あの壁に向かって言えば寮へ入れる。」

 そう言い、スネイプは壁へ向かおうとした。

 

「あ、あの……先生。」

「何かね?」

「〝純血〟ってなんですか?」

 スネイプは一瞬頭を抱えそうになる。

「一般的には一族の中で、純粋な魔法使い、魔女しか輩出していない、もしくはそれらの者たちとしか親戚関係を結んでないとされる一族の魔法使いを指す言葉だ」

「……な、なんだか何と無く……分かった気がします。ありがとうございます。」

 シルヴィアは、分かっているのか分かっていないのか微妙な表情をして居た。

 ただ、なんとなくハーマイオニーが汽車の中で『純血主義』について話していた事を思い出し、何かしら関係があるのだろう。と適当に推察した。

 

「とにかく、寮に入るぞ。…………〝純血〟」

 スネイプがそう感情を込めずに言葉を発すると、壁から扉が浮き出てくる。そして勝手に開く。

 中は黒と緑を基調とした内装をしており、大理石に囲まれている為かどことなく高級感のある空気を漂わせていた。

 この空間が湖の底にあるのか、窓は水に覆われており、海洋生物が少し泳いでいるのが見えた。

「クライわね。日光っていうもののトウトサが知れたでしょう?」

「それはそうかも……」

 

 談話室には人は誰も居なかった。その為、この空間の冷たさをより感じた。

「もう消灯時間を過ぎている。故に誰も居ないだけだ。掲示板に1年生の部屋割りは書いてある。それを見なさい」

「はい。わ、わかりました。」

 スネイプは伝えるべき事は伝え切った。という様子でさっさとスリザリン寮から立ち去った。シルヴィアは一旦、談話室を軽く一周してから掲示板を見る。

 

「……同室……居るのか……」

「そりゃあ、寮セイカツなんだからイルに決まっているでしょう?」

 ズラッと並んだ名前から、自分の名前を探し出す。シルヴィアの名前と並んで書いてあったのは、あのダフネ、パンジー、ミリセントの3人だった。

 シルヴィアとして嫌な印象は今のところ無いが、3人がそれぞれ仲が良さそうで自分が異質な存在。と言う雰囲気があるような気がして、どこか気不味いのだ。

 

「行くしか……ないよね。寝てるかな? 迷惑にならないかな……」

 そう言ってシルヴィアは掲示板に書いてある部屋番号の部屋まで行く。

 部屋はすっかり締め切られており、シルヴィアはそっと音がしないように扉を開ける。

 

「シルヴィア! 良かった。戻ってこれたのね!」

 最初に飛び込んできたのはミリセントだった。

 ミリセントは大柄の為、小柄なシルヴィアは自分の骨が折られるのでは無いか。という危機感を抱いた。また、押しつぶされる危機感を抱いたオリビアはすぐに空いてるベッドの方へ飛び立った。

 

「その、ごめんなさいね。いきなり私達が騒いだから……色々あったもんね。疲れちゃって……倒れちゃったんでしょ?」

 パンジーが大層申し訳ない。の表情で謝った。

「あっ、いや。その……だい、大丈夫。……けど、そ、その。疲れちゃった。……ごめん。」

「いいのよ。シルヴィアのベッドはあそこだからもう休んじゃいなさいよ。」

 ダフネがそう言った為、シルヴィアは自分のベッドへそのままダイブする。

 疲れ切っていたシルヴィアの意識を繋いでいた糸はプツンと切れて深い闇の中へと落ちて行った。





大男、ハグリッド:
 ルビウス・ハグリッド。オリビア曰く『動物アイゴを盾にキメラやキケンな動物を飼っているヤバい奴』森番である。

マクゴナガル:
 ミネルバ・マクゴナガル。シルヴィアが出来るものならば怒られたく無い見た目をしていると思った人。クィディッチ以外では魔法界随一のまとも枠。副校長、変身術教授、グリフィンドール寮監。

太った修道士:
 ハッフルパフの寮憑きゴースト。陽気で寛大な性格。生前は軽はずみな修道士で、思わず魔法を披露して処刑された。十世紀後半の人物らしい。

ひだがある襟のついた服を着て、タイツを履いたゴースト(首無しニック):
 グリフィンドールの寮憑きゴースト。本名ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿。1492年10月31日に処刑される。が、切れ味の悪い斧だった為に首と胴体が完全に切断されなかった。

組分け帽子:
 寮分けをする利口な帽子。ハリポタでの諍いの原因である節がある。アズカバンやら極東の島国にかつてあった藩の寮に組分けされる事は無い。元々はゴドリック・グリフィンドールの持ち物。

組分け困難者:
 組分けに5分以上かかった新入生。50年に1回程度しか起こらないめずらしい現象。原作ではマクゴナガル先生とピーター・ペティグリューがそうである。

ジェマ・ファーレイ:
 ウィザーディング・ワールド(Webサイト)のスリザリン寮の紹介ページに登場するホグワーツ監督生。女子生徒。

ミリセント・ブルストロード:
 シルヴィアよりもずっと身長が高く、体格が良い。

ダフネ・グリーングラス:
 金髪碧瞳の少女で何処か弱々しい雰囲気を漂わせている。

パンジー・パーキンソン:
 原作ではパグ犬だとか言われているが、ハーマイオニー視点である事を鑑みて普通に可愛い子だと言う設定。イメージは映画版アズカバン。

ドラコ・マルフォイ:
 どこか気取っている金髪オールバック。スリザリンに秒で組分けされた。クラッブとゴイルを腰巾着にしている。フォイ。シルヴィア的にはマルフォイ。という名字に聞き覚えがある。

マダム・ポンフリー:
 ポピー・ポンフリー。魔法絡みで事故ったり怪我した子供たちを治してくれる頼りになる存在。


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