呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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結局、前回投稿から20日ほど経ってしまっています。次の話も完成していません。ナメクジ更新頻度で申し訳ないです。


第50話 不慣れなワルツと星空

 恐らく今後のホグワーツ史に残るだろう勝負を行ったハリーは、課題が終わったその瞬間より学校中の英雄となった。そして、今までのバッシングはどこに行ったのか誰からも持てはやされる事になった。

 シルヴィアとしては、ハリーが無用なバッシングに晒される事は無くなった事に加えて、ロンと仲直りした事から何もかも上手くいっていると思っていた。

 

 スネイプはいきなり4年生以上のスリザリン寮生を地下牢教室の1つに集めた。少々窮屈だったが、クリスマスも近いこの季節にはこの窮屈さも丁度良かった。

「さて、君達の中には……既に、ある催しについて知っている者も居るかも知れない」

 いつものように長い、育ち過ぎた蝙蝠のようなローブを翻しながらそう語り出す。その言葉にドラコやクラッブ、ゴイルが身を捩ってどこか誇らしげな顔を他の生徒に見せつけた。

「ホグワーツではクリスマス・ダンスパーティが開かれる。これは、三大魔法学校対抗試合(トライウィーザード・トーナメント)の伝統でもあり、外国からの客人と知り合う機会である。……踊りたければ、勝手にしてくれたまえ。ただし──恥をさらすのだけは控えてもらいたい。」

 そう言って、スネイプは黒い鋭い目でスリザリン寮生を見渡した。

 ここで、ミリセントが非常に小さい声で「スネイプはどうせ誰にも誘ってもらえないから、不機嫌なんじゃね?」と言ったので、シルヴィアとダフネは吹きそうになった。幸い、スネイプには聞こえていないようだ。

「4年生以上が対象だが、下級生も上級生に誘われた場合のみ参加が許可される。夏休みに君達が買っただろうパーティ用のドレスローブを着用する。大広間でクリスマスの夜8時から始まり、夜中の12時に終わる」

 ここまで言ってから、スリザリン生徒のざわめきは大きくなり、クリスマス・ダンスパーティに思いを馳せていた。中でも、パンジーはドラコに引っ付いて一緒に踊りましょう。と言っていた。

 その様子を見てからスネイプの顔はより一層呆れかえるような、嘲るような表情になった。

 

「パートナー探しに現を抜かして、学業を疎かにするような者は──我輩の授業で地獄を見ることになるだろう。」

 この場に居る誰もが思った。スネイプはダンスパーティと言う騒がしい行事を心底嫌がっているのだ。

「──どうやら他寮の連中は、こうした機会に羽目を外し、愚行を晒すことが許されると勘違いしているようだ。しかし──スリザリンは違う。参加するのであれば、それは誇りあるスリザリンの名の下に行うものと心得るのだ。優雅で、冷静で、威厳を持ち、何より──弱みを見せるな。」

 重々しくスネイプはそう言い、立ち去ろうとした。

 

「あ、あの~スネイプ先生?」

 ロイド・バーネットが恐る恐る手を挙げた。スネイプは明らかに面倒臭い。と言いたげな表情で振り返った。

「なんだ」

「その、スリザリン生徒にも何名かはダンスの踊り方を知らない生徒も居ると思います。他の寮では寮監が直々に教えてくださる。と言う事でしたが……スリザリン寮はどうするのですか?」

 バーネットは極めて生真面目な生徒である。彼の発言は確実に冷やかしではないだろう。しかし、状況的に冷やかしのようになってしまっている。実際問題、このスネイプが生徒にダンスを教える教授には誰も見えない。

 

「知っている者に教えてもらえ。我輩は一切関与せぬ」

 先ほどまではスリザリンの誇りが云々と語っていた人物が、一番大事な部分であるダンスを教えてくれないとは何事か。と誰もが思ったが、その事について突っ込めるほどのメンタルを持った生徒は中々居ない。

 

「ねぇ! ダフネ、ミリセント。私たちにダンスを教えてくれない?」

 スネイプが立ち去った後、そう言って、集まってきたのはレジーナ・マーティンソンと彼女に手を引かれているイザベル・ブラッドフォードだった。

「いいけど……あ、じゃあシルヴィアも一緒に教えてあげるよ!」

 ミリセントはそう笑顔で言って答えた。

「あ、ありがとう……」

 シルヴィアはありがたさを感じつつ、今日からクリスマス・ダンスパーティの日々が面倒臭い事になる事を無意識のうちに察した。

 

 

 ミリセントはその屈強すぎる体格の割には動けるタイプなので、授業終わりにみっちりとダンスのレッスン時間が取られる事になった。

 あまりシルヴィアは想定していなかったが、ミリセントはステップ1つをとっても足元が安定して見えた。それに加えて、肩のラインも崩れない。完璧なダンスを披露して見せた。その様子に三者三様の感嘆の息を漏らした。

 ダフネが語るには、ミリセントもダフネも数回程純血家のダンスパーティーに招待されて、親にみっちりと教え込まれているらしい。

 レジーナはと言えば、体力がある方らしく、余裕すら感じさせる動きでレッスンをこなしていた。

 汗ひとつかかず、髪も乱れないのが羨ましい。リズム感も良い。それに、物覚えが良くすぐにダンスのステップを覚えてしまった。

 一方で、シルヴィアとイザベルは最初の30分で既に満身創痍だった。

 ステップを間違えるたびにお互いの足を踏み合い、回転のたびに体のバランスを崩し、最後には床に倒れ込むようにして動かなくなった。

 

 因みに、ダフネは空き教室の隅っこで何やら分厚い本を黙々と読んでいた。

 授業中、休み時間問わずダフネはずっとこんな調子だ。だから、シルヴィアも放っておく。と言う手段を取り、最近はミリセントやイザベルと居る時間が長くなっている。

 

「ダ、ダンスをした事無いってことが……人生でここまでのハンデになるなんて……」

 床にひっくり返ったまま、シルヴィアは心底情けなさそうに呟いた。すっかり息は上がり、頬は熱で赤く染まっていた。

「こう、普通の学生生活なら要らなく……ないですか? ダンススキルなんて……」

 隣で同じく横になっていたイザベルが、ぐったりとした声で応じる。

 そんな二人を見下ろし、ミリセントとレジーナは揃ってため息をついた。

 

「あ、そう言えば、2人は誰かにダンスパーティーのパートナーとして誘われたリしたの?」

 ふと、レジーナが話題を変えるように問いを投げた。

 淡々とした口調ではあるが、わずかに興味を滲ませていた。まるで、何気ない風を装いつつも、胸の内では期待が膨らんでいるかのように声音から感じられた。

「え、えぇっと……前にシルヴィアさんと一緒に廊下を歩いていたときに……」

 イザベルが小さな声で口を開いた。言葉を選ぶようにしながら、指先をそわそわといじっている。

「その時、ヴァージル・マグワイアさんとアイザック・サザランドさんに会って……それで、私は……その……サザランドさんに。シルヴィアさんは、ヴァージルさんに誘われました……」

 最後の言葉はほとんど囁くような声になっていた。俯いており、頬はほんのりと赤い。自分で語っておきながら、その内容に照れがこみ上げてきたようだった。

 シルヴィアの記憶が正しければ、イザベルがサザランドにダンスに一緒に行こう。と誘われている時、イザベルの頬はリンゴよりも赤かった。

「えぇ!? そ、それで2人はその誘いを受けたの?」

 レジーナの声がひときわ高く跳ねた。目を丸くしている。

「まぁ、別に断る理由もないからねぇ……」

 シルヴィアがそう答えるとその瞬間、レジーナとミリセントが顔を見合わせ、なぜか謎の黄色い声を上げて盛り上がった。なにがそんなに嬉しいのかはシルヴィアには分からない。ただ、隣のイザベルを見るとサザランドにダンスに誘われた時と同じくらい赤かった。

 

「で、2人は誰かに誘われたの?」

 今度はシルヴィアが逆に尋ねた。すると、2人の黄色い声は一瞬にして終了した。

「……それは、禁句だよ」

 ミリセントはわざとらしく目をそらしながら言った。だが、その表情にはどこか悟ったような、諦めにも似た覚悟が滲んでいる。

「でもまぁ、私は大広間のご馳走にありつけさえすれば、それでいいから」

 その一言は、誰にも計りきれない重みを持っていた。何かを割り切った者の言葉だった。隣のレジーナも苦笑しながら肩をすくめ、「右に同じ」といった反応を見せる。

 ミリセントは、話題の矛先を逸らすように、教室の端で黙々と本を読んでいるダフネに声を投げかけた。

「ダフネはどーなの?」

 話の的を自分から逸らすために、ミリセントは教室の端っこで本を読んでいるダフネに声をかけた。ダフネはここ最近、確かに本をずっと読んでいるが、ずっとシルヴィア達に着いてきていた。どこか、不思議な生活を送っていた。

 

「……どうせ言っても誰かは分からないわよ」

 ダフネは、ページを捲る手も止めずに静かにそう答えた。その声はあまりに自然で、まるで当たり前のことを言うようだった。

「い~や、当ててみせる!そうだねぇ……マグワイアとサザランドは抜かして……バーネット?」

 レジーナは当たったでしょう! と言いたげな表情でそう言ったが、ダフネは本から目を離す事は無かった。

「違う」

「ノット?」

「違う」

「ザビニ?」

「違う」

「えぇ……難しいな。じゃ、エイブリー? それともマルシベール? 私、アイツ苦手なんだけど」

「違う」

「クラッブ……な訳無いか。ゴイルもスナイドあり得ない。あの3人はトロール3兄弟だしな。う~んマルフォイはパーキンソンとだし……」

「ダフネの相手は同級生じゃなくて、上級生だよ。」

 横からミリセントが呟くように言った。抑えた声ではあったが、どこか意味深だ。

「じゃあ、分かりっこないよ。何、純血家の言い付け的な?」

「──まぁ、そうね。」

 ダフネのその態度は、ダンスパーティなんて興味を一切持っていない。と言いたげな態度だった。レジーナはその雰囲気を悟り、ダンス練習に立ち戻った。

 

 

 学期最後の週は日を追って騒がしくなった。クリスマス・ダンスパーティの噂が四方八方に飛び交っていたが、シルヴィアはその半分は嘘だろうと思っていた。

 

 例えば、レジーナが持ち込んできた噂である〝ダンブルドアがマダム・ロスメルタから蜂蜜酒を800樽買い込んだ〟とかだ。いくら何でも量が多すぎるだろう。

 但し、魔法界の超人気ロックバンド(シルヴィアにイザベルは知らなかったが)である〝妖女シスターズ〟の出演を予約した。と言う噂は本当らしかった。WWN魔法ラジオネットワークを聴いて育ったミリセントは異常な興奮ぶりを見せた。

 また、レジーナ自体マグルのロックバンドが好きなようで、魔法界のロックバンドに深い興味を示していた。

 ホグワーツに入学するまでは魔法界もマグル界も知らなかったシルヴィアや、厳粛な教会の孤児院で育ったイザベルは〝ロック〟も〝バンド〟も何ぞや。と言う状況だった。

 

 何人かの先生、フリットウィックやバーベッジなどは生徒が完全に上の空なので、授業をこれ以上進行させるのは不可能であると判断し諦めた。

 フリットウィックは生徒にゲームをして遊んでよい。と言ったので、シルヴィアはレジーナ、イザベル、ミリセントと雑談を授業中していた。(勿論、ダフネは本を読んでいた)

 バーベッジはマグル界のロックバンドの話をし始めて、〝ビートルズ〟が凄い。と話していたが、シルヴィアは一切ピンと来なくて途中から居眠りを始めてしまった。

 ただ、その2人が特別甘いだけで、魔法史のビンズやスネイプ、ムーディ、マクゴナガルは最後の鐘が鳴るまで授業を続けた。

 

 ホグワーツの教職員は、ボーバトンとダームストラングの客人を引き続きあっと驚かせたいと願いを込めクリスマスには城を最高の状態で見せようと決意したらしい。

 大理石の階段の手すりには万年氷の氷柱が下がっていたし、12本のクリスマスツリーはいつものように大広間に並んでいた。飾りは赤く輝く柊の実から、ホーホート無く金色の梟まで盛りだくさんで、今まで見たホグワーツ城の中でも最高の景色にシルヴィアは圧巻された。

 城内にある鎧兜には全部魔法がかけられて、誰かが傍を通るたびにクリスマス・キャロルを歌った。

 

 

「あーっと、シルヴィア?」

 いつも通りの夕食を終え、イザベラと一緒に寮へ戻ろうとした時、後ろから声がかかった。それは、ロンだった。シルヴィアは第一の課題が終わってから、ロンやハリー、ハーマイオニーとじっくり話すような時間を取れていなかった(ハーマイオニーとはマグル学の教室で少し会話があった)。

「えぇっと、どうしたの? ま、また何かあったの?」

 シルヴィアは恐々とロンに聞いた。ロンは何か言い淀んでいるようだった。その様子から、イザベルは何かを察したようで、先に寮へ向かう。と小声で伝えて立ち去った。

「えぇっと、僕と……僕と一緒にダ、ダンスパーティいかない?」

 シルヴィアはその言葉を聞いて非常に申し訳ない気持ちになった。

「あーっと、その。誘ってくれてありがたいんだけど……わ、私……もう誘われていて。ご、ごめん」

 なるべくロンを真っ直ぐ見ないように、言った。

「あーだよね。もう一週間前だもんね。オーケー。ごめん、ありがとう」

 そういうとロンは逃げるようにシルヴィアの前から立ち去って行った。シルヴィアは、何とも言えない申し訳無さが心の中で滞在する事になった。

 

 

 4年生にはやるべき宿題がどっさりと出されたが、大抵の生徒は勉強する気になれず、クリスマスまでの1週間を思いっきり遊んだ。特に、校庭に深々と積もった雪を使った雪合戦は格別に楽しく、誰もが幼いあの頃に戻ったように歓声を上げ、頬を赤く染めて駆け回っていた。

 ただ、そこには、ダフネの姿はやはりなくダフネはクリスマス休暇の殆どの日を本を読んで過ごしていた。

 

 また、クリスマス・ダンスパーティからあと少しである事からシルヴィアも緊張していて、寝室で1人でステップの練習をしていた。マグワイアに会うたびに『ダンスパーティの時に足を踏んずけたらごめん』と謝った。それは、イザベルも同じでサザランドに会うたびに謝っていて、サザランドも困っていた。

 

 そして、遂に勝負のクリスマス当日がやって来た。

 シルヴィアは、朝から妙に落ち着かず、寝室の片隅で1人、バレリーナのようにステップを踏み続けていた。私服であるロングワンピースの袖が柔らかく揺れ、足音が絨毯の上でかすかに響いた気がする。

 

「も、もしも……ダンスのステップがテスト前10分で暗記した公式みたいに記憶からすり抜けて行っちゃったらどうしよう!」

 シルヴィアは、着替え終わってからブルーオルタシア色のドレスの裾を握りしめ、嘆き始める。

「だ、大丈夫ですよ。ほ、ほら私たち……数週間練習、練習したんですから!」

 隣に居たナイトグリーン色のドレスを身に纏ったイザベルがシルヴィアを宥めるように、或いは自分を納得させるように言った。

「どうせ、始まれば練習した通りにはいかないものよ」

 深緑色のドレスを身に纏い、大抵の準備を終えているダフネは手を止めることなく、どこか達観したような口調で言った。緊張で震えている2人の髪の毛はダフネの手によって見違えるほど美しく整えられていた。

 シルヴィアの白髪交じりの黒髪は今日だけは黒く染められており、編み込みが施されていた。また、イザベルの波打つ金髪は柔らかなカールを描いている。

 ダフネは非常に手先が器用だった。昔から体が弱く、ベッドの上で出来る編み物や縫物ぐらいしか出来なかった。だから、細かい作業が得意になった。そう、自嘲していたがあまりの技術力に2人はうっとりしていた。

 

「そろそろね」

 ダフネが部屋の置時計を見て言った。

 既に、レジーナとミリセントは大広間のご馳走目当てに全速前進してしまっており、寮には居ない。

 シルヴィアとイザベルは慣れないヒールの高い靴でヨロヨロと歩きながら、大広間に向かって歩き出す。ダフネは相変わらず、慣れているようでコツコツと軽快な音をさせながら進む。ダフネは深い深緑色のドレスだった。

 寮の談話室内、城の廊下、玄関ホールに至るまで美しく着飾った少年少女が居た。

 玄関ホールはすっかり生徒でごった返しており、大広間のドアが開放される8時を待って、みんなウロウロしている。自分と違う寮のパートナーと組む生徒は、お互いを探して、人混みを縫うように歩いていた。

 シルヴィアとイザベルも当然のように、首を伸ばしながらマグワイアとサザランドを探していた。5分程度探していると、同じように人を探しているらしいマグワイアトサザランドト目が合った。2人はそこに居るようにと目で合図を出してた。

 

「こんばんは」

 きっちりとしたパーティドレスローブを身に纏った2人はいつもより、幾分か大人っぽく見えた。

 

「そ、その……あ、足を踏んづけたら……本当にごめん、なさい」

「いいんだよ。僕だってパーティで踊るだなんて初めてだ。初めて同士頑張ろう」

 マグワイアのその優しい言葉にシルヴィアの心が絆される音が確かに聞こえた。初めてまともに喋った時は、シルヴィアを気にせずに物理学を極めたい。宇宙へ行きたい。など話していた少年とは思えないほどの気の遣いようだった。

 シルヴィアの頭が少し火照っている頃合いに、正面玄関の樫の扉が開いた。ここで一気に冷気が滑り込んできて、シルヴィアの火照りは治った。また、冷気と共にカルカロフに連れられたダームストラングの生徒達が入ってきた。

「ダームストラングの生徒が全員入ってからホグワーツ生が入るそうだよ」

 マグワイアは冷静にダンスパーティの段取りを教えてくれた。どうやら、ボーバトンの生徒は既に大広間に待機しているらしい。そして、ホグワーツ生が入ってから、代表選手が入っていくそうだ。シルヴィアは段取りの話などいつしていたものか。と疑問に思ったが、気にしない事にした。

 

「代表選手はこちらへ!」

 丁度、代表選手の話をしている時に、マクゴナガルのはっきりと下声が聞こえた。マクゴナガルは赤いタータンチェックのパーティローブを着て、帽子の縁にはかなり見栄えの悪い塙祖飾っていた。

「あの子は……ハーマイオニー!?」

 シルヴィアは思わず声を上げてしまった。ダームストラングの代表選手、クラムの隣に居た薄青色のローブを着た綺麗な女子生徒は確かにハーマイオニーだった。彼女はいつも無造作に広がっている髪をどうにかしたらしく、滑らかな髪になっていた。そんな髪を頭の後ろで捻じり、優雅なシニョンで結い上げていた。

 シルヴィアが居る事に気が付くと、お淑やかに手を小さく振った。シルヴィアは目を丸くさせながら、手を振り返した。

 

「あ、僕達が入る番みたいだ。」

「う、うん。」

 シルヴィアは慣れないハイヒールを不規則にコツコツ言わせながら、大広間に入って行く。

 大広間はいつもとは様子が圧倒的に異なっていた。壁はキラキラと銀色に輝く霜で覆われ、星の瞬く黒い天井の下には、何百と言うヤドリギや蔦の花綱が絡んでいた。各寮のテーブルは消えてなくなり、ランタンの仄かな灯りに照らされた10人ほどが座れるようなテーブルが、百余りおかれていた。

 途中、あまりにもよろけすぎるのでマグワイアが気を利かせて、自分の腕を掴むように勧めた。シルヴィアはその時は何も疑わずに掴んだが、席に着いた途端恥ずかしさを思い起こした。

 イザベルとサザランドのペアと同じテーブルになったが、シルヴィアは色んな事に試案を巡らせすぎて他に誰が居るのかまともに見ていなかった。

 ただ、クィディッチについて早口で語る少年の声が聞こえたので、クィディッチオタクのティモシー・ベレスフォードは同じテーブルだったのだろう。とシルヴィアは後に振り返った。

 

「だ、大丈夫かい? 寒い?」

「あ~、いやいや、大丈夫大丈夫。す、少し緊張しているだけだよ。うん、そうだよそう」

 シルヴィアは完全に動揺した調子で言うと、丁度大広間に代表選手達が入って来た。大広間に居た生徒達は代表選手達を拍手で迎え入れた。その後、代表選手達は大広間の一番奥に置かれた、審査員が座っている大きな丸テーブルに座った。

 

「さぁ、大いに食べ大いに国際親善を楽しみなさい!」

 ダンブルドアのその音頭で食事開始となった。

 目の前には金色に輝く空の皿があった。その隣には小さなメニュー表が置かれてあった。何をすればいいのか分からず、シルヴィアがイザベルの方へ目配せすると隣に居たサザランドが、メニューに書いてある料理名を読み上げた。すると、忽ち金色の皿の上にはご馳走が現れた。

 ただ、シルヴィアとして緊張のあまりお腹がさほど空いておらず、どの料理も食べる気にはなれなかった。その為、天井の星を眺めていた。

 

「食べなくて大丈夫?」

 マグワイアは優しくシルヴィアに聞いて来た。

「うん。ちょっと、緊張しすぎてお腹空いてないや……」

 シルヴィアはそう言って苦笑いした。

「そうだよね。僕も少し胃が痛いや……」

 マグワイアもまた苦笑いをする。そして、食事からは目を逸らして満点の星空を映し出している天井をゆっくりと見上げた。

「大広間の天井から見える星空はいつ見ても綺麗だよね」

 ふと呟くようにマグワイアが言った。その横顔を見て、シルヴィアもまた天井を見上げた。

「うん。とても綺麗。……けど、星空を見ていると自分が凄いちっぽけな存在に思えてきちゃって……少し怖いかな」

 シルヴィアはそう言いながらも天井に映し出された星空を見る。2人は、星空に魅入られるように暫く沈黙し続けた。やがて、シルヴィアが口を開けた。

「──確か……マグル学でやったよね。私達が住む星は地球って言う名前で、地球は太陽系っていう惑星系にある惑星の1つに過ぎなくて、太陽系自体も天の川銀河の一角にある。天の川銀河もまた、銀河群の一部に過ぎない。そして、銀河群自体も超銀河団のうちの1つ。

 小さい頃は、私達が立っている地上は宇宙の中心にあって、この世界に存在する全ては私達の為にあると思っていた。けど、違うみたい」

 シルヴィアはそこで口を噤んだ。話しているうちに、自分でも何を言いたいのかわからなくなってきて、恥ずかしくなった。

 「こんな、訳の分からないことを突然言い出してごめん……」と謝ろうとした瞬間、マグワイアがぽつりと呟いた。

 

「──本質的には……人類には、絶対的な意味なんて存在しないってことかも知れない。って事かもね。僕らが生まれる前に、宇宙は何十億年も存在していたし、僕らがいなくなっても、きっと平然と続いていく。

 そう考えると、僕らの存在って、本当に一瞬だけ灯る火花みたいなものなのかも知れない。僕らは長い長い宇宙や地球の歴史でほんの一瞬だけ存在していた意味なき者でなのかも知れない。」

 シルヴィアはマグワイアのその言葉を聞いて途方も無い虚無感に苛まれる事になった。

 隣を見るとマグワイアは思い出した。と言う表情をした。

 

 「そういえば、ザック……僕の友人であるアイザック・サザランドは意外にも占い学を取ってんるんだけど、トレローニーっていう予見者が予見したらしいんだ。『1999年に世界が滅ぶ』って予見したそうだ。それも『必ず』ね。」

 マグワイアのその唐突な言葉にシルヴィアは一瞬で青ざめた。

 自分が、その滅びの予見に関わっている──否、世界を滅ぼす者として指名されたという記憶が脳裏に蘇ってきたのだ。

 確かに信じたくはない。けれど、否定する確かな根拠もない。信じる事も信じない事も出来ない。その事実が胸の奥に、冷たい針のような不安となって突き刺さっていた。

「もしも、世界が滅ぶとしたら……僕らが今まで生きて来た十数年は全て無意味。と言う事になるのだろうかね……?」

 この話に続くとしたら、シルヴィアは全ての無意味を虚無へと帰す存在だろうか?

「う、う~ん……分からない、や。」

 精一杯の平静を装って答えたものの、動揺を隠しきれない。話題を変えようとしたが、うまく言葉が出てこなかった。

 すると、マグワイアはふと空を見上げて、ぽつりと言った。

「僕は、魔法使いでありながら、科学的では無い事は信じたくない。それに元々、魔法使いの中でも予見は不正確なものだと言われているようだよ。

 けど、……けど、仮に全てが後5年で滅ぶとして、だからって全部が無意味ってわけじゃないと思うんだ。意味が最初から与えられてないなら、僕らが意味を作ればいい。滅びが避けられないとしても、その途中で何を残せるかは、僕らの自由だと思うんだ。」

 マグワイアの声は穏やかだったが、そこには芯のある静かな力があった。

 

「きっと僕らは、本能的に永遠を夢見る。でも、永遠なんて存在しないって、宇宙は最初から知ってる。それがきっと運命なんだろう。それでも僕らは、星のような一瞬に、意味を込めようとする。僕らは生きている限り燃え続けようとする。」

 シルヴィアは何かを言いかけて、飲み込んだ。

 同じテーブルの生徒達は2人の会話など気にする事無く、ご馳走を平らげ雑談に花を咲かせている。天井に映し出された偽りの星空のみが、2人の会話を聞いているような錯覚に陥る。

「……でも、その、もし私が……本当に、その……世界を滅ぼす者だったら? そういう意味が……運命がもう最初から与えられてるなら……」

 声は掠れていた。「もしも」の仮定に逃げ込んだつもりだったのに、唇の裏に、ほんのりと鉄の味がした。

 何故、こんな感情になっているのか分からなかった。あのトレローニーの言葉はシルヴィアは、そこまで気にしているつもりは無かった。けれども、どこか心にずっと引っかかっていたのかも知れない。

 マグワイアはシルヴィアの顔を見なかった。ただ、天井に映る星空から視線を外さずに言った。

「だったら尚更、君が何をするかが大事なんじゃないかな。運命が君を終末の使者と定めたとしても、それをどう受け止めるかは君の自由だ。意味や運命が例え神に与えられていたとしても、それに従う義務なんて、誰にもない。」

「でも……その、予言通りだとしたら……滅びは止められないんでしょ? 抗ったところで、結局、何も残らないなら……」

「それでも、抗うってこと自体が……多分、最も人間らしい行動なんだと思う。」

 マグワイアは、そこでようやくシルヴィアを見た。

 「無意味なことを、それでもやろうとする。意味なんてなくても、怖くても、目の前の誰かのために何かしようとする。その一瞬に、全てがある気がするんだ。」

 シルヴィアは答えられなかった。けれど、胸の奥にあった冷たい針が、少しだけ溶けていくような気がした。

 もし世界が滅びるとしても──もし自分が、その引き金になってしまうとしても──。

 それでも、何かを選ぶ自由は残されている。意味の無い世界で、意味を作るという選択肢は、まだ自分の手に残されている。シルヴィアはそう思えてあ。そう思う事が出来た。

 

「まぁ、世界が滅ぶだなんてきっとトレローニーの出任せだろう。君がそこまで自分が滅ぼしてしまう。と言う仮定を立てる。と言う事はトレローニーにそんな事を言われたのかい?」

「そ、そうなの。そうだよね、トレローニー先生の出任せに過ぎないよね。」

 そう言うと、マグワイアは少し考え込む仕草をした。

 

「──僕は時々、可笑しな夢を見るんだ。夢の中で僕は科学者。僕は地球文明に滅びを齎す災厄に抗おうとする科学者。その行動が無意味であると僕は知っている。

 そんな夢をもう数年見ている。だから、少し考え込んでしまうんだ。ザックから『1999年に世界は必ず滅ぶ』と言う予見。僕の見た世界では、もう少し地球は存続していたけど、仮にあの夢の世界みたいにこの世界も滅んでしまったら。それでも、僕は──その科学者は、最後まで抗おうとしてたんだ。」

 マグワイアの瞳は自分の将来の夢を語るような光に満ち溢れているように感じられた。

「僕らの人生に意味なんて、初めからなかったかもしれない。結果も変えられなかったかもしれない。でも、その手を止めなかった。

 そして、僕は宇宙へ出た。星の光は遥か昔に放たれたものだ。その殆どは、今この瞬間にはもう存在していないかも知れない。けれど、それでも、今尚僕たちの夜を照らしている。

 ……僕たちのすることは、たぶん星の光と似てる。届く頃には、もう意味なんて残っていないのかもしれない。でも、それでもきっと、誰かの空に残る。僕は、そんな気がしてる。」

 マグワイアの言葉には、確信でも楽観でもない、不思議な諦観と、奇妙な信念があった。

 

「──君達の会話は非常に興味深い。クリスマス・ダンスパーティに話す内容としては、どうにかしている気がするがの」

 そう言って現れたのは、フランスの予見者マダム・ノストラダムスだった。

「人生とは、しばし意味の無いものと定義される。それが、運命が定めた摂理である。しかし、人々は人生に価値を与えたがる。それが人であるからだ。人とは、世界とは滅びに抗う為に生まれてきて、それで無意味な人生に意味を自己定義する。

 さて、君達はそのような哲学者擬きな話を辞めてしまって、年相応に『妖女シスターズ』なるバンドの演奏でも見ておると良い。」

 そう言って、ステージを指さした。

 話に夢中になって気が付かなかったが、大広間の人々は『妖女シスターズ』を熱狂的な拍手で迎えていた。

 シスターズと言う割には全員毛深い男性で、着ている黒いローブは芸術的に破かれていたり、引き裂かれていたりしていた。シルヴィアはその類の芸術を知らなかったので、なんでこんなにも小汚い恰好をしているのだろう。と疑問に思った。

 それと同時に、代表選手達が自分のパートナーを連れてダンスフロア出て来た。(尚、ハリーは連れて。と言うより、パートナーであるインド系の女子生徒パーバティ・パチルに連れられていた)

 

 そうして、妖女シスターズはその見た目とは合わずに、スローの物悲しい曲を奏で始めた。そして、代表選手達はダンスを踊り始めた。ハリー以外は皆、軽やかに踊っておりハリーはどこか不恰好なダンスになっていた。

 シルヴィアは正直安心してしまった。自分より圧倒的に目立つ立場にあるハリーがあの調子であれば、自分はマグワイアによっぽどの迷惑をかけない限り十分やり遂げられる。と思ったからである。

 暫く、代表選手が躍った後、他の生徒達もダンスフロアに出て行く。

「大丈夫かい?」

「が、頑張る……」

 マグワイアはシルヴィアの手を取って、ゆっくりとエスコートした。シルヴィアはどこか気恥ずかしさがあった。

 ダンスフロアに辿り着いて少し辺りを見回した。イザベルとサザランドが既に踊っており、2人とも楽しそうに笑っていた。また、ロンはパドマ・パチルと不機嫌そうな顔で踊っていた。他にも、ドラコとパンジーが躍っている様子なんかも見えた。

 あのダンブルドアはマダム・マクシームとワルツを踊っていたが、まるで背丈が大人と子供で、ダンブルドアの三角帽子の先がやっと、マダム・マクシームの顎をくすぐる程度だった。

 

「え、えぇ?」

 隣でマグワイアの困惑する声が聞こえた。マグワイアの視線の先を見ると、かのマッド-アイ・ムーディは、天文学のシニストラとぎこちなく二拍子のステップを踏んでいた。シニストラはムーディの義足に踏まれないように神経質になっている様子だった。

「なんだか、面白いね……さ、僕らも踊ろう」

「う、うん」

 そうして、シルヴィアとマグワイアも群衆に交じり、踊り出す。

 シルヴィアは本当に全身全霊集中しながら、ワルツを踊った。

 踊り始めてから5分経過(シルヴィアとしては30分くらい経過したように思えた)しても1回もマグワイアの足を踏む事は無かった。されど、すぐに疲れ切ってしまった。

「大丈夫かい? 一旦、休もうか?」

 マグワイアは意外と気が利くらしく、そう言ってくれたおかげでシルヴィアはダンスフロアから撤退する事が叶った。

 

「ご、ごめん。足は踏まなかったけど、足を引き摺る事になっちゃって……」

「いいんだよ。僕は誘いを受けてくれただけで嬉しかったからさ。」

「どうして、私をダンスパーティに誘ってくれたの?」

 ふと気になったので、シルヴィアは尋ねた。マグワイアは話を逸らすように空を眺めて「星、綺麗だなぁ~」とわざとらしく言っていた。シルヴィアはそんな様子を見て、まぁいっか。と思って天井の星空を眺めた。

 

 その後、2人は踊る事無く、寮へ戻りシルヴィアはドレスのまま即眠りに着き、後にダフネに怒られる事になった。

 また、シルヴィアはクリスマスの日に会える筈の両親と会えず、数時間はしょぼくれていた。





スネイプ:
 ダンスパーティはスリザリン以外なら、各寮監がダンスのお作法を教えてそうだけど、スネイプは絶対教えなさそう。かつ、スリザリン寮内ならダンスのお作法を叩き込まれた人が居そうなので、スネイプはダンスを教えるイベントを避けられそうな気がします。

レジーナ・マーティンソン:
 度々登場するオリジナルスリザリンキャラクター。孤児。父親は闇払いに母親は死喰い人に殺されている。と言う設定を持っている。
 明るい性格らしい。

イザベル・ブラッドフォード:
 教会に着いている孤児院で過ごす。とても信心深い。そして、とてもコミュニケーションに問題を抱えているが、乙女なところがある。

ヴァージル・マグワイア:
 度々登場するオリジナルスリザリンキャラクター。本当は魔法より物理学を学びたい。
 初登場時と比べたら、随分と紳士的な性格になっている。

シルヴィアとマグワイアの会話:
 なんか哲学的な事を喋っている。
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