一応、エタっては居ません。ただ、明日の投稿以降出来るかは今のところ不明です。上手く行けば今月中にゴブレット編は終わります。
一度投稿して、削除した話を少し加筆修正したものになります。
私は不幸なのだろうか?
貴女は不幸だ。運命から逃れても運命に囚われ続ける事を知らなかったから。
では、貴女は不幸なのだろうか?
私は不幸だ。運命から逃れても運命に囚われ続ける事を知っていたから。
あの子は不幸なのだろうか?
あの子は不幸だ。運命に囚われている事を知らなかったから。
Artemisia Carlisle
鬱蒼と生い茂る、暗緑の森。
葉擦れの音すら吸い込まれ、風も光も忘れたような空間──その深奥に、黒雪が積もっていた。
雪は本来、白いはずのものだ。それがこの森では、まるで闇を孕んでいるかのように、鈍く黒ずんでいた。空に月も星もなく、ただ静寂だけが満ちていた。
雪を踏みしめながら、その闇を縫うように進む黒髪の少女が1人そこを歩いていた。
少女は豪奢なドレスを身にまとってはいるものの、裾は裂け、袖は泥と血にまみれている。肩には矢が射られている。
彼女の歩みの跡には、この
少女は、痛みを抱きしめるように肩をかばいながら、森を進んでいた。
その歩みは、まるで風に消えかける蝋燭の焔のように、か細く、儚かった。それでも、少女の歩みは止まらない。
人間はどんな時でも同胞に対して最悪の裏切りを行う。
人間はどんな時でも醜く、悪に染まっている。
人間はどんな時でも罪がこびり付いている。
人間はどんな時でも罰から逃れようと必死に走っている。
嗚呼、愚カナル人間ヨ。己ノ罪ト罪カラ生ジル罰カラ逃レヨウトスルナ。
嗚呼、愚カナル人間ヨ残酷ナ運命ヲ受ケ入レロ。
少女の左手には少し長い枝が握られている。
それは、母から受け取った魔法の杖だった。しかし、悲しい事に少女は杖の使い方を、魔法の使い方を一切知らない。少女はあまりにも幼過ぎたのだ。薬草の知識なら多少なりとあったが、この深い雪に覆われている森で役立てるには限界があった。
……嗚呼、運命とは何て残酷なものなのだろう。少女の母親が生を諦めた時点で少女の運命は定まってしまっている。少女は、普通の人生を謳歌する事は出来ない。
少女よ、あの醜い人間を見たか!
あの人間達は、お前たちから受けた恩を忘れ、仇で変えそうとしている!
少女よ、あの穢れた人間を見たか!
あの人間達は、一抹の感情を利用してお前を殺すだろう!
少女ヨ、其レデモ人間ヲ信ジル言ウノカ?
愚カデ無垢ナ少女ヨ。永遠ニ森ノ中デ迷イ続ケルガ良イ!
遂に少女は方角も距離も分からなくなった。進むべき道を失ったのだ。
森は深く、広く、冷たく、彼女を飲み込むようにして揺らいでいた。
いつしか、彼女の足跡さえ雪にかき消されていた。
背後から、歓声と炎の爆ぜる音が唐突に響いた。
少女は恐る恐る振り返る。樹々の隙間から、空に黒い煙が立ちのぼるのが見えた。その煙を目にした瞬間、静かに少女の灰色の瞳に、絶望の色が宿る。
高く昇る赤黒い焔が、宵闇の天蓋を赤黒く照らしていた。
そして、ストンとその場に座り込んでしまった。雪の冷たさも、皮膚を突き立つ枝の痛みも、もはや意味をなさない。
代わりに、どこからか森へと忍び寄る、鼻を衝くような悪臭が少女を包む。何かが燃え、壊れ、終わっていく匂い。少女は、何が燃えているのか無意識のうちに悟っていた。それは、生命を燃やす焔だった。
少女の瞳が、涙で満ちてゆく。
震える左手が、ひとつの枝を、再び強く握り直した。
『──泣クナ、嘆クナ、小娘ヨ。母ガ燃エタ炎ノ音ヲ、ヨク聞ケ。オ前ノ中ニモ、其ノ炎ガアル』
声は頭の中に響いた。誰の声でもない、けれど確かに〝そこ〟にあった。
それは木々の囁きにも似て、風が枝をなぞる音にも似ていた。だが、それ以上に、何か深く古く醜い意志のようなものを宿していた。
『サァ、燃ヤセ! 全テヲ! 復讐ノ業火デ燃ヤシ尽クセ! オ前ニハ、復讐ヲ実行スル力ヲ持ッテイル。魔女ノ娘ヨ。ソノ左手二握ラレシ杖ヲ怒リニ任セテ振リ下ロセ! サァ、燃ヤセ! 全テヲ!』
少女は、目を見開き、杖を見つめる。母がくれた、最期の祈りの象徴。しかし、その杖の奥から、何か黒く淀んだ力が呼びかけてくるのを感じた。
「違う。違う。私達は神の仔。例え、誰かに憾まれたとしても、誰かを憾んだりはしてはいけない。私は、私はただ森の出口を探さなければならない。」
少女の声は震えていた。
本当は恨めしくて仕方がなかったのだ。
自分を騙し、母親を火刑に処したこの世界が。少し賢かっただけで悪い魔女と断罪し、正義の鉄槌と言う名の、欺瞞の炎を向けて来た世界を。
少女はふらつきながら、震える膝で立ち上がる。傷口は増え、足取りはさらに鈍る。
それでもなお、彼女は歩き出した。この暗き森の、どこかにあると信じて──出口を求めて。
しかし、希望はあまりにも脆い。少女はすぐに足を取られ、雪の中に倒れ込む。
口元に、酷く冷たい雪が触れた。
『ゴチャゴチャト御託ヲ並ベルナ! 小娘ヨ、我ヲ受ケ入レヨ。我ハ
少女は耳を塞いだ。叫びそうになるのを、ぐっとこらえた。
「ダメだ。ダメだ。私は……私は、悪魔の言葉なんかに……耳を貸さない……!」
かすれた声が漏れる。それでも、そこには確かな意志が宿っていた。
少女は再び立ち上がる。倒れた場所から、わずかに前へ。
一歩ずつ、一歩ずつ。
この終わりなき闇を抜け、名もなき夜の森を抜けるために。
結局少女は森を抜け出す事は出来ませんでした。
……されど、憐れむ必要はないのです。
ワタシもアナタもこの
めでたし……めでたし……
Artemisia Necrotaphio
◆
リトル・ハングルトン。と言う村を見下ろす小高い丘の上に建つその館は、窓にはあちこち板が打ち付けられ、屋根瓦は剥がれ、蔦が絡み放題になっていた。
かつては、見事な館だった。そう旅人に村人が言えば、旅人は笑うだろう。そのくらいには荒れ果てている館である。
リトル・ハングルトンの村人達は、誰もがこの古屋敷を不気味だと思っていた。それは、50年前にこの館で起こったなんとも不可思議な事件が原因だ。
この事件の犯人は魔法使いだった。魔法使いは魔法でこの館に住む住民を殺した。
住民は医師が診る限り、全く傷つけられた様子が無かった。まるで、恐怖に殺されたのか。と言うように、住民の顔は恐怖が張り付いていた。
マグルは魔法と言うものは、魔法使いと言うものは御伽噺の存在である。と信じて疑わない。特に、二度の大戦を乗り越え科学技術が発展した現代に於いては、子供すら魔法使いの存在なんぞ信じないだろう。
クリスマスの夜。この不気味な館には魔法使いが居た。窓の外には深々と雪が積もっている。
とても隣人を慈しむような顔をしていた2人が居たのだ。1人は、誰もが恐れる闇の帝王。として名を馳せた魔法使い。ヴォルデモート。そして狡猾な鼠。ピーター・ペティグリューだった。
ペティグリューは震えながらも、醜い赤子のような形になったご主人様の世話をしていた。そんな2人の足元を蛇が這っていく。ヴォルデモートは蛇に甘い言葉をかける。しかし、それはペティグリューからしたら不気味なガラガラとした音に過ぎなかった。
「遅い……俺様の最も、忠実な部下が……遅い」
ヴォルデモートはそうしわがれた声を発した。その声で部屋の空気は一気に張り詰める。ペティグリューは自分の足が蔦か鎖で固定されて、動けないようにされている錯覚に陥った。
「そ、そろ……そろ、く、来るかと思います。ご主人様。」
ペティグリューは震えながらも言葉を発した。ペティグリューの手は既に手汗でびっしょりだった。
「申し訳ございません。ご主人様。ホグワーツで少々、面倒な者に引き留められていました」
部屋のドアを押し開けるようにやってきたのは、少しそばかすのある、色白の薄茶色の髪をした男だった。それなりにハンサムだったが、ハンサムだったのは既に歴史になっていた。彼は目元に皺があり、非常に高いストレスに長年悩まされていた事が明確に分かった。
「おぉ、遅すぎて……ダンブルドアの元へ寝返ったかと……思ったぞ。バーテミウス・クラウチJr」
ヴォルデモートは新たに訪れた男に、バーテミウス・クラウチJrにそう声をかける。新たに訪れたクラウチJrの方はペティグリューのように震える事は無かった。
「とんでもありません。私があの老い耄れの元へ寝返る? いついかなる時でも私は、ご主人様の忠実なる下僕でございます」
クラウチJrは半ば陶酔したような表情でそう言った。
「ならば、良い。……計画の方の進捗は?」
「順調です。ご主人様。ただ……少々懸念点はございます」
「なんだ?」
ヴォルデモートの声はまた部屋の空気を張り詰めさせた。ペティグリューはもうこの部屋に居たくなかった。されど、逃げ出したら死より恐ろしい目に遭う事は知っている。それに、何よりも自分は逃げる先が無い。ペティグリューはガクガク震えながらもこの部屋に居るしか無かった。
「面倒な老い耄れが増えたのです。」
「ほう? それは、
「えぇ、そんなところです。名前はエトワール・ド・ノストラダムス。老女は私の変装を一目で見抜き、私の部屋にやってきたのです。そして、杖を向けて来ました。しかし、すぐに私はこの手でその老女を始末しました。
……しかし、その老女は次の日には涼しい顔をして私の目の前に現れたのです。それどこか、私を監視している気概がある。それでも、私の事をダンブルドアや他の教職員に言う気は無いようですが……」
その言葉を聞いて、ヴォルデモートは一瞬悩んだ表情をしたが、一瞬の事だった。
「予見者の家系など……俺様の計画には、何の支障もない。それに、どうせ1年後には……俺様の支配下にある国の魔法使いだ。邪魔をする気が、無いのならば……今のうちは、自由にさせていれば良い」
ヴォルデモートは非常に傲慢だった。エトワール・ド・ノストラダムスの本当の脅威などヴォルデモートの能力であれば察する事も容易だった筈だ。しかし、ヴォルデモートは思考を止めた。
「ご主人様、2つほど質問をして良いでしょうか?」
「ふん、俺様は今、非常に機嫌が良い。……いくつだって質問してくれて、構わない」
ヴォルデモートは計画が概ね順調。と言う言葉を聞き、ご満悦の様子だった。
「では、まず1つ目に何故、
「ほぉ……先に、貴様の2つ目の質問とやらを聞かせろ」
「え、えぇ……2つ目に何故ご主人様はあのシルヴィア・ネクロタフィオと言う小娘をハリー・ポッターと同じくらい狙っているのですか? あのシルヴィア・ネクロタフィオと言う小娘は、一部特異な点はあります。それでも一般的となんら変わりなく生徒に見えますが……」
そこまで聞くとヴォルデモートは暫く黙り込んだ。しかし、すぐに口を開けた。
「2つの質問を同時に答えよう──」
◇
あの夢のようなダンスパーティが終わり、その後のクリスマス休暇は皆宿題に追われ、夢を見ているどころでは無かった。
得体の知れない分厚い本を読んでばっかりだったダフネですら、本を読み進める事を諦め宿題に唸り声を上げていた。
そうしてクリスマス休暇は終わった。
その頃に、あの日刊予見者新聞の記者であるリータ・スキーターがハグリッドに関する不名誉な記事を発表していたが、噂に基本的、疎いシルヴィアの耳には入る事は無かった。
そうして、時は飛ぶように過ぎていってあっと言う間に第2の課題の前日になっていた。
「シルヴィア! その、知っていたらでいいんだけど……水の中でも呼吸する事が出来る薬草とか無いかい? ネビルがそれっぽいものがある。って言ってたんだけど……それに、シリウスもこういうのは専門家に聞いた方がいい。って言ってんだ。シルヴィアは心当たり無い?」
夕食の時間、シルヴィアがいつもの通り天井を眺めている時に雪崩込むようにハリーがやって来た。ロンやハーマイオニーが居ない事に疑問を抱いたが、今は切羽詰まっているらしい。シルヴィアは気にしない事にした。
「えぇっと、無い事も無いけど……どうして?」
「あぁっと……その、実は第2の課題内容が水の中で大切なものを探す。っていう課題なんだ。ホグワーツでは酸素ボンベは使えないし、僕はそこまで長く息は続かない。それで、ハーマイオニーを頼ってみようとしたんだけど、いつの間にか居ないんだ! ロンもだよ! 信じられるかい?」
シルヴィアは酸素ボンベが何かはよく分からなかったが、今の状況的に深く突っ込むべきでは無い事は容易に理解出来た。
「心当たりがあるのは〝鰓昆布〟っていう薬草なんだけど……」
「それはホグワーツ校内に植わっているかい!?」
シルヴィアが鰓昆布と言う薬草名を言うなり、ハリーは焦ったような表情でそう問いかけた。
「あーと、うん……その、多分、植わってないかな。あるとしたら──そうだね、スネイプ先生の個人用薬品保管庫かな……。良ければ、私が貰って来ようか?」
ハリーは話を聞いている間、表情がコロコロと忙しかった。スネイプと言う単語を聞くな否や絶望の表情をしたが、シルヴィアが貰って来ようか。と言う言葉で目の前に天使でも降臨したかのような表情になっていた。
「お願い! 本当にごめん……」
「別にいーの。いいの。分かった。明日の朝一番に競技場前に行って絶対に渡すから。それでオーケー?」
「オーケーオーケー! ベリーグッドだよ! 本当にありがとう!」
そう言うなり、ハリーはもう寝る準備をしなくちゃ。と息巻いて大広間から出て行った。
「そういえば、鰓昆布って淡水と海水で効果が違うんだっけ? きっと潜るのはホグワーツの湖だろうし……まぁ、どうにかはなるかな……」
シルヴィアはそう独り言を言いながら、ゆっくりと席を立ちスネイプの個人用薬品保管庫へ足を進めた。今のシルヴィアは脱狼薬を作っている都合上、スネイプの個人用薬品保管庫に入り放題の身分だった。その事を利用してハリーの為に鰓昆布を取って来よう。と言う手筈だった。
「それでいいのですか?」
「ヒャッワッ!?」
シルヴィアが悲鳴を上げた。廊下から出て来たのは、あのミレイユ・ノストラダムスだった。最近すっかり会う機会が減ったので、本当に驚いた。
「ミ、ミレイユ! びっくりさせないでよ!」
「シルヴィアさんは……本当にいいのですか?」
ミレイユはシルヴィアに謝罪の言葉など告げずに、最初会った時よりも圧倒的に流暢になった英語で話しかけて来た。
「そ、その……何がそれでいいの。なの……? しゅ、主語が無いと……よく分からないよ……?」
「生き残った男の子を
ポツリと呟くようにミレイユが言った。何処か、心ここに有らず。と言う様子だった。
「ど、どうしてよ!」
「生き残った男の子が
ミレイユの次の言葉は紡がれなかった。彼女は瞳に大粒の涙を流していたのだ。
「ど、どうしたの? さ、さっきから……」
シルヴィアはそう言いながらミレイユを抱き締めた。自分が幼い時分、涙を流した時にいつも母が抱き締めて慰めてくれた。それを思い出したのだ。シルヴィアとしては殆ど無意識のうちに行動をしていた。
「シルヴィアさんは、とても純粋で優しい心を持っています。そんな貴女の陰には……深い闇が張り付いています。」
ミレイユはシルヴィアに抱き締められながら言葉を発する。
「そ、それは一体どういう事?」
「私にも、私にも分かりません。けれども、けれども……貴女はこの先に行っていけません。貴女の行動で、生き残った男の子が
「その、どうしてハリーが
シルヴィアがなるべく丁寧に聞く、それでもミレイユは泣き続けていた。
「もう、止しなさい。ミレイユ」
そう言って現れたのは、あのマダム・ノストラダムスだった。今日も今日とて深い青色のローブを纏っている。
「お、おばあ様」
ミレイユは明らかに動揺した様子を見せた。
「ミレイユ、もうお辞めなさい。その子が困ってしまっておる。」
「おばあ様! どうか、お聞きください! 生き残った男の子が勝利すると、闇の帝王が復活してしまうのです! ……どうしてかは分かりません。そこにどんな因果があるか分かりません。それでも、絶対に。絶対に! 生き残った男の子を勝たしてはなりません!」
マダム・ノストラダムスに対して必死にミレイユは、主張した。マダム・ノストラダムスの表情は一切変わらなかった。驚く事も無く、失望する事無く、ただの虚無だった。
そして、ミレイユの言葉が終わってもマダム・ノストラダムスは黙り込んだままだった。
「わしは既にその事を知っている。君のように優秀な予見者だからの。」
マダム・ノストラダムスは優しい口調でそう言った。
「では、では! どうか、生き残った男の子を試合に勝たせないようにしてください! ……確かに、あの少年は不憫です。突然誰かの陰謀により選手に選ばれました。その不憫に報いる栄光を求めるのは人として当たり前の行動でしょう。しかし、しかし! 彼を勝たせてはいけないのです!」
ミレイユはそう言い切った。シルヴィアとしては、自分の友人に対して負けを求められている時点で、そこそこ不快だった。ただ、ここまで必死なミレイユを見ると詳しい訳が知りたいと思い始めた。
「シルヴィア・ネクロタフィオ。君はいつの日か、記憶を強制的にでも呼び起こさせられる場面が必要だろう。」
「え?」
いきなり、会話の舞台に自分が引き摺り出されてシルヴィアは驚いた。マダム・ノストラダムスは玄孫の言葉を無視したのだ。
「確かに、君にとっては辛かろう。それでも──「貴女は、本物のおばあさまじゃない!」
ミレイユの言葉にこの空間が凍ったのが、よく分かった。
「何を言うとる。わしは、君の高祖母で間違いないぞ?」
マダム・ノストラダムスは苛立つ事無く、ミレイユに優しく言い付けるようにそう言った。
「違う、違う。違う! 貴女は違う。──おばあさまはもう、死んでいるから!」
シルヴィアは目を見開いて驚いてしまった。声さえ出なかった。そして、瞳に涙を浮かべるミレイユとマダム・ノストラダムスを交互に見た。
「成程。その……根拠は?」
焦ることなく、冷静にマダム・ノストラダムスは問う。その表情は、先ほどまでの優しい笑みは無い。
「おばあ様の星は、もうとっくの昔に堕ちてしまっている」
「なるほど、予見者としての才能……か」
シルヴィアには理解出来なかった。では、このマダム・ノストラダムスは何者なのだろうか?
「では、優秀なミレイユ・ノストラダムスよ。いつから気が付いていた?」
「
「ほう? 君は殊勝な予見者だ。国際魔法使い連盟に働きかけて、将来君が素晴らしい立場に座れるようにしてやろう」
ミレイユは黙り込んだままだった。
「あぁ、それでも大事な問いをしていなかった。ミレイユ・ノストラダムスよ。君に1つ重大な問題を出そう。──私は誰でしょう?」
そう言うと、マダム・ノストラダムスは立ち去って行ってしまった。
「ご、ごめんなさい。シルヴィアさん。私は、私は……あの人の正体を探らなければいけません。そうしなければ、もしかしたら取り返しのつかない事になってしまうかも知れない!」
ミレイユはそう叫びながら、立ち去ってしまった。結局、シルヴィアはスネイプの個人用薬品倉庫へと向い、〝鰓昆布〟を難なく手に入れる事に成功した。
◇
そして、試合当日の朝一番。シルヴィアはハリーに鰓昆布を渡した。
「ありがとう! 本当に助かった!」
「良かったよ。そう言えば、ハーマイオニーとロンは?」
試合前ならば、友達想いの2人ならハリーに付きっ切りで居る筈だ。しかし、今日ばかりは何故か居なかった。
「分からないんだ。少なくともロンは昨日、寮に帰ってきていない。ハーマイオニーの方も多分そうなんだ」
「そっか……何があったんだろう?」
「分かんないや。けど、取り敢えず僕、頑張ってみるよ!」
「うん! 応援しているからね!」
そう言って2人は分かれた。
そうして、試合開始前30分前にシルヴィアは本読みダフネとミリセント、レジーナ・マーティンソン、イザベラ・ブラッドフォードと共に凍りそうな湖上に設けられたスタンドへ移動した。
スタンドでは、ウィーズリーの双子が賭け事をしないか。と生徒達を誘っていた。
「代表選手はこんな冷たい湖を泳ぐわけ?」レジーナはあり得ない。と言いたげな表情で言った。
「まぁ、大人達は居るから流石に凍死しないと思うけど」ミリセントはそれでも不憫だ。と言う表情で言う。
「と、と言うか……湖の底には大イカが居ますよね? そ、それに、噂だとタコ型の異星の邪神が住んでいる。って聞きましたよ?」
イザベラは震えながら言うが、レジーナが「それは、クトゥルフ神話の読みすぎ」と突っ込みを加えていた。
「さて、全選手の準備が出来ました。第二の課題はわたしのホイッスルを合図に始まります。選手達は、きっちり1時間のうちに奪われたものを取り返します。では、3つ数えます。いーち……にー……さん!」
ホイッスルが冷たく静かな空気に鋭く鳴り響いた。スタンドは拍手と歓声でどよめいた。選手達は次々に湖に飛び込んでいく。ハリーのみは靴下を脱いだりなんだりして手間取っていたが、最終的にはハリーも湖へ飛び込んだ。
「え~っと、もしかて……」
さっきまで拍手と歓声を上げていたミリセントが何か言いたげに言葉を発する。本を読んでいるダフネ以外は何を言いたいのか理解出来ていた。
「これって、観客は何が起こっているのか分からない水面をただ見つめている……だけ?」
「そうみたいですね」「そうだね……」
周囲を見ると他の観客もそれを察したようで、周囲の人々と雑談を開始していた。
「そう言えばなんですけど……あの際魔法協力部部長のバーテミウス・クラウチ氏は何処へいったのでしょか?」
イザベルが審査員席を指さした。そこにはあの気難しそうな初老のバーテミウス・クラウチ氏の代わりに気難しそうな赤毛の青年。そう、パーシー・ウィーズリーが居た。
「あの赤毛は……あ! ウィーズリー家の三男じゃなかったっけ? なんで、アイツがあそこに?」
ミリセントがそう審査員席を望遠鏡で覗き込みながら言った。
「バーテミウス・クラウチは酷い病気だそうよ。また、多分嘘だと思うけど」
「話聞いてたの!?」
ダフネの答えにレジーナが一番に驚いた。ダフネは呆れたかのように、本から目を離した。
「そんなに大声で話していれば、聞き漏らしたりはしないわよ。」
「そっその、バーテミウス・クラウチ氏の仮病はどういう事なの?」
シルヴィアがダフネにそう問いかける。ダフネは少しの間言うかどうか悩んだ末、言葉を発した。
「バーテミウス・クラウチの息子は死喰い人だったのよ。それも、あのネビル・ロングボトムの両親を拷問して廃人にした大罪人。当たり前のように彼は終身刑を言い渡されてアズカバン監獄へ送られたそうだわ。そして、その息子は数年前に死んだ。」
ダフネがそう言い切った。何故、数年前に死んだ息子が関係してくるのかシルヴィアには分からなかった。息子の死は遅効性の毒だったというだろうか?
「けど、この物語には続きがあると思うの。バーテミウス・クラウチの息子は何らかの方法で生きていた。そして、息子によってバーテミウス・クラウチは殺されてしまった。
──まぁ、ただの妄想に過ぎないんだけどね。けど、バーテミウス・クラウチの息子は随分と優秀だったそうだから、そのくらいの事は可能かも知れないわ」
シルヴィア達に冷たい風が吹き抜けた気がする。
「こ、怖い事言わないでよ。ダ、ダフネ」
すっかりレジーナは震えあがっていた。ここで、シルヴィアはある事を奇跡的に思い出した。それは、ミレイユと初めて出会った時の予言の一節だ。
「〝大いなる知恵の園で血が流され、命が散った後、滅ぼされた王は召使と仇の力を助けを借りて、闇の中に再び偉大な姿で現れる〟」
「え、急に何!?」ミリセントが驚いた口調で言う。
「ミレイユ・ノストラダムス。──マダム・ノストラダムスの玄孫が言った予言。私は、予言だなんて信じるのは荒唐無稽だとは思っている。けど、どこか引っかかるのよ。」
ダフネは完全に本を閉じて脇に置いた。
「もしかしたら、〝例のあの人〟の復活は……目前に迫ってるかも知れない」
頬を裂くような風が吹いた気がする。
「そ、そんな気の重い話よりもパーッと明るい話をしようよ! あ、そうだ。みんなは将来何になりたいの?」
レジーナが会話に笑顔を捻じ込んだ。しかし、ミリセントとダフネは黙り込んだままだった。
「わ! 私は、今居る孤児院のお手伝いをしたいと思っています。勿論、他に何か仕事をしながら。ですけど……」
珍しくイザベラが先陣を切った。
「そっか、イザベラの孤児院って確か教会にくっついてるんだっけ?」
「うん! そうなの。元は大体500年くらい前に住んだいたその地域の貴族のご令嬢さんが建てたらしいんだけどね。」
「いいよねぇ~教会にくっついているタイプの孤児院って。なんだか、一生平穏に過ごせそう。私のところなんか、毎日喧嘩三昧だよ」
ここで、シルヴィアはイザベラとレジーナが孤児院トークを始めてしまったが故に、話に着いて行けなくなってしまった。ので、ボーっと何も起こらない水面を眺め始めた。
何も起こらない水面。平穏な毎日。しかし、どこか嫌な予感がする。
「あ、そう言えば……昨日見た夢はムーディがマダム・ノストラダムスに成り代わっている夢だっけ?」
「え、何それ怖~っ」
レジーナはシルヴィアの独り言をすぐさま拾い上げ、そう言った。シルヴィアはどう反応すればいいのか分からなかった。
この後、イザベラが夢の話に派生して、平行世界の自分を夢に見る。その平行世界の自分はとても恐ろしい敵、吸血鬼と戦っている。その光景が怖い。と言っていたが、レジーナにただの夢でしょ。と一蹴されていた。
その様子を見て、少し可哀想だと思ったが、夢を真に受けすぎて現実世界に影響を与えているのならば、夢でしょ。と言う言葉で忘れてしまった方がずっと幸せなのだろう。と思い、イザベラを庇う事はしなかった。
次に、好きな食べ物。と言う世界中全ての人間の会話デッキに入ってそうな無難な話題を話してから、3人は居眠りを始めた。その間もダフネとミリセントは深く悩んでいる様子だった。
◇
次にシルヴィアが目覚めた時は全てが終わっていた。
湖の畔を見ると、代表選手の他にロンとハーマイオニー、金髪の少女がびしょ濡れだった。行方不明だったハーマイオニーとロンはどうやら、水の中に居たそうだ。
どうやら、ホグワーツ代表のセドリック・ディゴリーが一番に帰って来たらしい。但し、制限時間を1分遅れした為、原点となり47点を与えられていた。次に戻ってきたのは、ダームストラング代表のビクトール・クラム。40点を与えられた。ボーバトン代表のフラー・デラクールは途中棄権し、25点だった。
そして、ハリーは取り残されていたデラクールの人質(?)を助けて帰って来たので、道徳的な行動だと評価され帰って来るのは一番満点の50点を与えられた。
これにて、第二の課題は終わった。シルヴィアはすぐにハリーに称賛の言葉を浴びさせたかったが、マダム・ポンフリーが代表選手と水の中居た生徒(人質と言うらしい)に濡れた服を着替えさせる為に、みんなを引率して城へと歩き出してしまったので、すぐに言う事は叶わなかった。
Artemisia Carlisle:
アルテミシア・カーライル。『第41話 月影の魔女』に登場しているやたらと肩書きの多い魔女。
森を抜けようと走っている少女:
肩を矢で射貫かれ、血を雪に垂らしながら森を走っている。手には杖を持っているが、生憎な事に魔法の使い方は知らない。
めちゃくちゃ森の意思に唆されているが、それには抗っている。
鰓昆布:
深緑色の昆布で、ぬるぬるしている。これを食べると1時間、耳の後ろに鰓が生え、鰓呼吸が可能になる。
ミレイユ・ノストラダムス:
久々の登場。ハリーを三大魔法学校対抗試合で勝たせてはいけないと主張する。シルヴィアはその言葉の真意を理解していない。
おばあ様(マダム・エトワール・ノストラダムス)は亡くなっていると主張し、マダム・ノストラダムス(偽)に褒められている。
マダム・ノストラダムス(偽):
突然、シルヴィアとミレイユの前に現れた予見者。偽物。実は会話シーンがある『第45話狂気のマッド-アイ・ムーディ』~『第47話炎のゴブレッドの影』の途中まで彼女が使用した二人称はお嬢さんで統一されている。
しかし、『第47話炎のゴブレッドの影』『第48話不憫な少年ハリー』~『第50話不慣れなワルツと星空』そして今話では、二人称は君で統一されている。
読者の皆さんもマダム・ノストラダムス(偽)が誰なのか当ててみよう!()
マダム・ノストラダム(本物):
既に死んでいる。具体的に言えば、『第47話炎のゴブレッドの影』の時から
クトゥルフ神話:
アメリカの作家H・P・ラヴクラフトとその友人たちが創作した架空の神話体系。日本ではニャル子さんやクトゥルフ神話TRPGで有名。
バーテミウス・クラウチ:
病気になっていて、パーシー・ウィーズリーが代打を務めている。
息子は死喰い人としてアズカバンへ送られた。その後、獄中死した。筈である。
イザベラとレジーナの孤児院談話:
イザベラの話は小ネタに過ぎないので、そこまで関りは無い。