呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

56 / 58
第53話 炎に焼べられた生命と屍体

「……ねぇ、オリビア。あれは一体誰だと思う?」

 シルヴィアが梟小屋から戻る時、禁じられた森の方角に何やら怪しい影が見えた。

「さぁ……サスガに遠すぎて、よく見えないわね……」

「行ってみよう」

 そう言う、シルヴィアのローブをオリビアが必死になって掴む。

「禁じられた森には、キケンなものだらけよ!」

「そうだね。1年生の頃はクィレル先生に乗り移った例のあの人が居た。2年生の頃は特に知らないけど、何か居たと思う。3年生の頃は当時の極悪犯罪人のシリウスが居た。今年は何が居るかな? 死喰い人(デスイーター)辺りが居るかも知れない! うん、向かおう!」

 オリビアは運命を受け入れた。と言う表情になり、シルヴィアの肩に乗った。

 禁じられた森の端まで1人と1匹が向かうと、そこにはビクトール・クラムとハリーが居た。

「ハ、ハリー!? どうして、こんなところに?」

「い、いや、なんでも……ない」

 クラムの方が、挙動不審になって拙い英語で言葉を発していた。

「どうして、シルヴィアがここに?」

「その……禁じられた森の方角に怪しい影が見えたの……だから、それを調べる為にここまで来たんだけど……なんだ。2人の事か……警戒して、損した……」

「違いますよ。怪しい影はまだ残っています。」

 そう言って現れたのはミレイユ・ノストラダムスだった。

「ミ、ミレイユ!?」

「3人とも来てください。狂気に侵されたクラウチ氏が居ます。私1人ではどうも太刀打ち出来ません。来てください」

 ハリー、シルヴィア、クラムは顔を暫く見合わせてから、ミレイユに着いて行く事を決心した。

「ど、どういう事だい? クラウチ氏が……狂気に侵されているだなんて……」

「見れば全て分かります」

 ミレイユ淡々とそう言って、禁じられた森をずんずんと進んでいく。

 大きな樫の木の陰から、突然男が1人ヨロヨロと現れた。一瞬3人は誰だか分からなかった。クラウチ氏であると聞かされていても分からない程には、変貌してしまっていたのだ。

 クラウチ氏は何日も旅をしてきたように見えた。

 ローブの膝が破れ、血が滲んでいる。顔は傷だらけで、無精髭が伸び、疲れ切って灰色だった。以前見た時にはきっちりと分けてあった髪も、口髭もボサボサに伸び、汚れ放題だった。

 その奇妙な恰好はクラウチ氏の行動の奇妙さに比べれば、まだ序の口だった。

 ブツブツ言いながら、身振り手振りでクラウチ氏は自分にしか見えない誰かと話しているようだった。

「それが終わったら、ウェーザビー、ダンブルドアにふくろう便を送って、試合に出席するダームストラングの生徒の数を確認してくれ。カルカロフが、たった今、12人だと言ってきたところだが……」

「ク、クラウチさん?」

 ハリーは慎重に声をかけた。

「無駄ですよ。彼の精神はとっくの昔に擦り減り、正気を完全に失っている……」

「……それから、マダム・マクシームにふくろう便を送るのだ。カルカロフが1ダースと言う切りのいい数にしたと知ったら、マダムの方も生徒の数を増やしたいと言うかも知れない。いや、元々13人だったか? 大会2週間前に急に参加したいと言い出した生徒が居ると聞いたのでな。まぁ、いい。……そうしてくれ、ウェーザビー、頼んだぞ。頼ん……」

 クラウチ氏の目が飛び出していた。ジッと木を見つめて立ったまま、声も出さずに口だけモゴモゴ動かして木に話しかけている。

「取り敢えず、この人を医務室に連れて行くのを手伝ってください。担架を作る魔法を知っている人は居ますか?」

 3人ともだんまりだった。シルヴィアは単純に覚えていないし、ハリーとクラムは担架を作る魔法が苦手だった。

「……しょうがないですね。では、ミスター・クラム。貴方であれば、この人を上手い事担ぎ上げる事が出来る筈です。頼めますか?」

「きゅ、急に暴れ始めたりは……しないだろうか?」

「では、先に失神させておきますか? 応急処置だと言えば、校医の方も納得してくださる筈です」

「じゃ、じゃあ……私がやるよ。一応、得意の範疇に入るし……」

 シルヴィアが手を挙げた。ハリーとクラムは不安げな様子を見ていた。

「では、シルヴィアさん。お願いします。」

 シルヴィアは恐る恐るローブのポケットから、杖を取り出した。

「本当にダイジョーブなの?」「い、一応……」

 シルヴィアがオリビアと一往復の会話を終え、杖を振り上げようとした時だった。

「逃げて来た……」

 クラウチ氏は囁くような声で言い始めた。4人はそれぞれ驚き、クラウチ氏の囁きを聞き逃さないように集中した。

「警告しないと……言わないと……ダンブルドアに会う……私の所為だ……みんな私の所為だ……バーサ……死んだ……みんな私の所為だ……息子……私の所為だ……ダンブルドアに言う……ハリー・ポッター……闇の帝王……より強くなった……ハリー・ポッター……」

「取り敢えず、シルヴィアさん。彼には急ぎでダンブルドア校長先生に何か言わなければいけない事があるようです。それに、逃げて来たと言う事は、きっと誰かによって口封じされかけている。急ぎましょう。取り敢えず城内に入ってしまえば、皆安全な筈です。」

 一番年下の筈のミレイユが一番しっかりしていた。

 

「ステューピ──「〈ステューピファイ 麻痺せよ〉」

 4人の視界の外から失神呪文を放つ声が聞こえた。不幸にも、クラムとオリビアが最初に倒れた。ハリーとミレイユは咄嗟に杖を構え、失神呪文に備える。

 2、3本の失神呪文はシルヴィアとハリーの手によって弾く事が出来た。

「失神呪文の数が少ない。相手は1人でしょう」

 ミレイユがそう言った途端、ハリーに失神呪文が当たった。シルヴィアは涙目になる。何処からか飛んでくる失神呪文。弾こうにもその3秒後には、次の失神呪文が飛んでくる。

「ど、どうしよう……どうすれば……いいんだろう?」

「……シルヴィアさん、これだけは良く覚えておいてください。アラス……」

 ミレイユが言葉を紡ぎ終わるより前にミレイユに失神呪文が当たった。

「ミ、ミレイユ!」

「〈ステューピファイ 麻痺せよ〉」

「ウギャァッ!?」

 遂にシルヴィアにも失神呪文が命中し、シルヴィアは地面に倒れ込む。

 シルヴィアは確かに失神呪文を受けた筈だ。しかし、意識は覚醒していた。床に突っ伏しているとは言え、聴覚は難なく使えた。相手は失神呪文を唱えながら、金縛りの呪文を唱えたのだろうか?シルヴィアには、どうも状況を読み切れなかった。

 

「む、息子よ! わたしが、わたしが全て悪かった! 許されない事だとは……知っている。そ、それでも……こ、この愚かな父を……許してくれ!」

「何を言い出すものかと思えば、ふん。〈アバダ・ケダブラ 息絶えろ〉!」

 

 ドサリと重い物が地面に倒れ込む音が聞こえた。シルヴィアは全く状況が掴めなかった。死の呪文を唱えたのは、聞いた事の無い若い男の声だった。バーテミウス・クラウチの息子?

 そこでやっとシルヴィアは思い出せた。ダフネの話によれば、バーテミウス・クラウチの息子は、死喰い人としてアズカバンに終身刑になったそうだ。そして、間も無く死亡。彼は死んだはずのバーテミウス・クラウチの息子なのだろうか?

 

「おぉい、誰か居るのか~?」

 ハグリッドの声が遠くから聞こえて来た。バサバサと何かをやっている音が聞こえた。何やら魔法をかけたらしいが、シルヴィアの知らない呪文だった。

「おぉい、誰か……な、なんてことだ!」

 

 その後の展開はシルヴィアにとって、実に単純明快な物だった。

 ハグリッドは急いで4人を担ぎ上げ、自分の小屋の前まで連れて来たのだ。そして、失神している4人の護衛をファングに任せ、城内へ向かった。

 暫くすれば、マダム・ポンフリーがやって来て、全員に蘇生呪文をかけた。

 

「突然、何処からどことなく失神呪文をかけられたんです!」

 ハリーがまず一番初めに主張した。

「それより、不思議な事は何故あなた達は禁じられた森に居たか。です。」

「私が助けを求めたのです。たまたま、校庭を歩ていたミスター・ポッターとミスター・クラム。それに、何かしらの異変を察知してやって来たミス・ネクロタフィオに助けを求めたんです。気がおかしくなっているクラウチ氏が居るから、医務室に運ぶのを手伝ってほしいと。」

「クラウチ氏ですか? あのお方は病気で療養している筈です。何故、ホグワーツの禁じられた森に?」

「分かりません。しかし、4人も目撃者が居ます。証人としては十分でしょう?」

 ミレイユは、マダム・ポンフリーとの何往復かの舌戦を始めた。どちらもそれなりにイライラしているようだったが、ミレイユに分があるようだった。

「……あの人は、ダンブルドアに何か伝えたそうにしていた」

 その舌戦にクラムまで参加した。シルヴィアはその間に、オリビアに蘇生の呪文をかけた。

「イッタイ、何があった訳!?」オリビアは憤慨している様子だった。

「わ、分からないけど……」

 シルヴィアがもう一度、先ほどあった事を振り返ろうとした時、言わなければならない事を思い出した。

「マ、マダム・ポンフリー。も、もしかしたらなんですけど……この学校内にクラウチ氏の息子さんが居るかも知れないんです。死喰い人の息子さんが。それで、その人が……クラウチ氏を殺害したんだと……」

 全員の視線がシルヴィアに集まる。

「シ、シルヴィアは見たのですか!?」ミレイユが初めに口を開いた。

「待ってください。クラウチ氏の息子なら、もう数年前にアズカバンで獄中死している筈です。」マダム・ポンフリーもあり得ないと言いたげな口調だった。

「ミス・ネクロタフィオ。その話をわしに詳しく聞かせてくれぬかの?」

 そう言って現れたのはダンブルドアとムーディだった。ムーディが現れた途端、ミレイユの表情が強張った。ハグリッドは「ダンブルドア先生様!」と声を上げた。

「……えぇっと、なんというか……私だけ当たった魔法は、きっと金縛りの呪文だったんだと思うんです。それで、体は動かなかったけど、音だけは聞こえたんです。その、私達に呪文をかけた来た人? がクラウチ氏の前に現れた時、クラウチ氏は息子よ。って声をかけたんです。それで、クラウチ氏は必死に謝っていました。……ただ、その後すぐに……すぐに、死の呪文で……殺されていました。」

「ただ、シルヴィア。お前さん達が倒れていた場所には、クラウチ氏の死体は無かったんだ。」

「え?」

 さっきから分からない事だらけなのに、分からない事がまた1つ増えてシルヴィアは混乱する。

「取り敢えず、ハグリッドはカルカロフ校長、マダム・ポンフリーはマダム・マクシーム、それにマダム・ノストラダムスを呼んできてはくれんか? カルカロフ、マダム・ポンフリーの生徒が襲われたのじゃ。それに、1人はマダム・ノストラダムスの玄孫じゃ」

 その言葉にミレイユの表情は明らかに曇った。ハグリッドとマダム・ポンフリーは足早に行動を開始した。

「アラスター、お主はバーティの死体を探してはくれぬかの。なんとしても、どんな形であろうとモ探し出す事が大事じゃ」

「承知した」

 ムーディは唸るようにそう言うと杖を構え、足を引き摺りながら、禁じられた森へと去って行った。

 

「……それで、ミス・ノストラダムスは何か言いたげな表情じゃが、何かあったのかの?」

「いえ、特には……ただ、シルヴィアに忠告したい事があるだけです」

 ミレイユはシルヴィアの方を真面目な表情で言った。

「……シルヴィア、どうか、これから先……少なくともこの事件が解決するまでは、1人になってはいけない。人気の少ない場所に行ってはいけない。どうか、この約束を守って」

 ミレイユはシルヴィアが1年生の時よりもずっとしっかりしている1年生だった。多分、人生2週目なのだろう。シルヴィアはそうぼんやり思いながら、頷いた。

 

 暫くすると、ハグリッドに連れられたカルカロフが、マダム・ポンフリーに連れられたマダム・マクシーム。それにマダム・ノストラダムス(偽)がやって来た。

 カルカロフが選抜選手が何者かに襲われたと言う事件を陰謀だと捲し上げ、ハグリッドと口論をしたり、ミレイユがマダム・ノストラダムス(偽)にまだ、答えを見つけられていないのか。と煽られていたリ、色々と散々だった。

 

 その後、シルヴィアはハリーと途中まで一緒に帰り、大広間から丁度出て来たスリザリンの生徒の集団の後ろを金魚の糞のように引っ付いて行く事で寮へ戻った。

 

「ちょっと。ちょっと! どうしちゃった訳!?」

 まず初めにやって来たのは、ミリセントだった。後ろにはダフネやレジーナ、それにイザベルも居た。

「えぇっと、さっき禁じられた森で殺人事件を目撃……見ては無いな。聞撃? しちゃって……?」

「はぁ!? どういう訳!? 益々分からない。え、授業を全部休んだのは?」

「あぁ、そっちか。それは……単純に……気分が乗らなくて……」

 その後、聞撃した殺人事件の詳細を事細かく聞かれて、シルヴィアは困惑しながらも全てを話した。後に、この話は城内に広がって、シルヴィアは自分の口の軽さに後悔する事になる。

 

 

 第三の課題の日であっても、ホグワーツは教育機関としての営みを止めなかった。むしろ期末試験が迫り、生徒たちは一層ぴりぴりしていた。

 シルヴィアはハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてシリウスと共に、ハリーの課題対策にかかりきりだった。その結果、素でこなせる魔法薬学・薬草学・呪文学の実技以外は散々な成績になったのは言うまでもない。(ロンも散々な目に遭ったらしい)

 だが、シルヴィアにとって成績などどうでもよかった。何より気掛かりなのは、今夜行われる第三の課題の行方だった。

 大広間で盛大な晩餐会が開かれたあと、シルヴィアはいつの間にかグリフィンドールのテーブルに紛れ込んでいた。

 ハーマイオニーと一緒になって、まるで取り憑かれたように、これまでのハリーの課題対策で出てきた呪文をハリーに教え込むように次々と唱え続ける。妨害の呪い(インペディメンタ)盾の呪文(プロテゴ)粉々呪文(レダクト)四方位呪文(ポイント・ミー)……

 途中でロンとハリーに「もううるさい」と言われるまで、2人は延々と呪文を繰り返した。

 第三の課題はクィディッチ競技場で行われる。シルヴィアは最後まで胸のざわつきが収まらず、豪華な夕食もほとんど喉を通らなかった。

「紳士淑女の皆さん。あと5分もすれば、わしからクィディッチ競技場へ向かうようお願いすることになる。三大魔法学校対抗試合、最後の課題が始まる。代表選手はバグマン氏に従い、今すぐ競技場へ向かってくれ」

「ハ、ハリー……絶対に死なないでね!」

「ここまで来たんだもの、大丈夫よ!」

「優勝杯、持って帰ってこいよ!」

 シルヴィア、ハーマイオニー、ロンがそれぞれに激励の言葉をかける。ハリーは緊張しながらも小さく笑い、立ち上がった。ちょうどその頃、セドリック、デラクール、クラムも席を立つ。大広間のあちこちから、彼らを称える拍手が湧き起こった。

「だ、大丈夫かな……」

「きっと、きっと、大丈夫。絶対に。ハリーなら、やり遂げてくれるはずだわ!」

 声を震わせるハーマイオニーの言葉は、まるで自分に言い聞かせているようでもあった。

 やがて、クィディッチ競技場へ向かうようにというダンブルドアの声が響いた。生徒達はザワザワと立ち上がり、大広間を出て行く。

 クィディッチ競技場までやって来るとクィディッチ競技場は、見事な変貌を遂げていた。6メートルほどの高さの生垣が周りをぐるりと囲み、正面に隙間が空いている。

「うわ~、なんだアレは……」

「迷路のようだ」

 呆気に取られている3人の脇から現れたのは、シリウスだった。シリウスはいつもの陽気な表情と共に、何処か影のある表情をしていた。血は繋がらないとは言え、ハリーの親であるシリウスにとってこの瞬間は晴れ晴れしい舞台なのかも知れない。しかし、何処か不安が隠せていない様子だった。

「シリウス……大丈夫?」

 シルヴィアが問う。

「え、あぁ、大丈夫だ。ただ、最近妙な事が続いていて……少し心配なんだ。」シリウスは一瞬の間を置いて返答した。

「妙な事……?」ハーマイオニーも会話に入って来る。ロンは兄達の賭けに参加しているところだった。

「実は……いや、いい。そろそろ課題が始まる。」

 シリウスがそう言った頃合いには、バグマン氏が杖を喉元に当てて「〈ソノーラス 響け〉!」と唱えているところだった。

「紳士、淑女の皆さん。第三の課題、そして、三大魔法学校対抗試合最後の課題が間もなく始まります! 現在の得点状況をもう一度お知らせしましょう。同点1位、得点は85点──セドリック・ディゴリー君とハリー・ポッター君。両名共にホグワーツ校!」

 競技場の大歓声と拍手に驚き、禁じられた森の鳥たちが、暮れかかった空にバタバタと飛び上がった。

「3位、80点──ビクトール・クラム君。ダームストラング専門学校!」また拍手が湧いた。

「そして4位──フラー・デラクール嬢、ボーバトン・アカデミー!」

 ハリーが途中で手を振ってくれたので、4人はニッコリと笑ってハリーに手を振り返した。

「では……ホイッスルが鳴ったら、ハリーとセドリック!」バグマンが言った。

「いち──に──さん──」

 バグマンがピッと笛を鳴らした。ハリーとセドリックが急いで迷路に入って行った。観客席はかつてない盛り上がりを見せ、皆が皆歓声を上げていた。

 暫くすると、クラムが。またしばらくするとデラクールが迷路の中に入って行き、代表選手は全員迷路の中へと入って行った。

 

「なんか、こう……実況中継みたいなのをしてくれたらいのに……」

 ハーマイオニーが不満気に言った。この頃には、競技場の観客は雑談を始めており、誰が一番に帰って来るのかを賭けあったり、進展があるまで寝始める者まで現れていた。

「こう、魔法で上手い事出来ないのかな……」

 

 確かに、3人はハリーの事が心配で心配でならなかった。しかし、如何せん選手達の動きが見れないので暇なのだ。

 3人が次食べたいフローリアン・フォーテスキュー・アイスクリーム・パーラーのアイスの種類を話している時だった。

「赤い花火が上がりました。赤い花火は選手が助けを求めているサインです!」

 バグマンがそう解説をした。シルヴィアは迷路の方を見て、赤い花火を確認しようとした。

 

 ──しかし、その感情に続く景色を私は知らない。

 大きな歓声が競技場を轟いた気がする。

 ……違う、アレは歓声では無い。あれは悲鳴だ。それも悲鳴だけでは無い。爆発音が聞こえた。

 ハーマイオニーの悲鳴。ロンの驚いた声。シリウスの誰かを助けようとする声。色々な声が幾重にも重なって耳の中に響いた。

 人々は逃げる。逃げる。私はハーマイオニーとロンに手を引かれながら逃げている。逃げている?

 私は転んだ。何かにつまずいて転んだ。いや、何にもつまずいていない。誰かの呪文が当たった? 分からない。ただ、1つ分かる事はその時には、ハーマイオニーの手もロンの手も私の手には握られていなかった事だけだった。

 

 

「……フィオ! ……クロタフィオ! ネクロタフィオ!」

 次、目を開いて見た景色は、継ぎ接ぎの顔を持つムーディ先生が目の前に居た。ムーディ先生が私に呼び掛けていた。

「ムー……ディ……せ、ん生?」

 薄っすらとした意識の狭間。自分が生きているのか死んでいるのかも良く分からない。私は、微睡みの中に居た。

「安心し給え。会場でちょっとした爆破事件が起こっただけだ。お前は現場で転んでしまって、意識を失っていた。医務室に向かおう」

 ムーディ先生はそう言って、私の手を引いて立ち上がらせた。その手は嫌なぐらいに力強く強引で怖かった。

 私はまだ、微睡みの中に居る。特に目を覚ましている筈なのに、自分が今どこにいるのかムーディ先生の後ろ姿以外、視野に入って来なかった。

 ここは何処なの? 私達は何処へ向かおうとしているの?

 

「我がご主人様、ヴォルデモート卿。シルヴィア・ネクロタフィオをお連れ致しました。」

「シルヴィア! 来ちゃダメだ! 逃げろ!!」

 ハリーの声が意識の端から聞こえて来た。

 

 ……ヴォルデモート卿!?

 

 私の意識は一気に覚醒した。横に居たムーディ先生だと思った人は、いつの間にか顔の傷跡を消していた。肌は滑らかになり、削がれた鼻はまともになり、義眼を付けていた目は本物の目になっていた。その人は見知らぬ魔法使いだった。

 

「そいつは、そいつは! クラウチさんの息子だ! 死喰い人(デスイーター)の!」

 ハリーがそう叫んでいた。ハリーは墓に縛り付けられて、動けない様子だった。腕に怪我もしていた。

 私の眼球は、急いで今の状況を脳内に叩きこもうと必死に動いている。

 墓に縛り付けられたハリー。何かを囲むように平伏している黒いローブの魔法使い達。魔法使いの中心に置いてある大きな鍋、その隣に佇むピーター・ペティグリュー。その隣で誇らしげに立っている禿げ頭の魔法使い。

 私は、この禿げ頭の魔法使いの正体を無意識のうちに知っていた。けれども、私の感情は随分と冷静では無いようで、否定しようと必死になっている。

 例のあの人は、ハリーに倒された筈だ。例のあの人は、もう死んでいる筈だ。例のあの人は、もうこの世に居ない筈だ。

 

……シルヴィア・ネクロタフィオ嬢――いや、アルテミシア・ネクロタフィオ嬢。俺様の復活の宴に足を運んでくれたこと、心より感謝する。貴様のような高貴な血を引く令嬢が、この場に現れたのだ。実に、喜ばしい……

 ヴォルデモートの嫌に白い唇の端がゆっくりと歪む。シルヴィアは恐ろしくて恐ろしくて

礼として教えてやろう。あの愚かしい老人──ダンブルドアとやらに奪われ、忘れ去ってしまった〝本当の貴様(アルテミシア)〟を、な。

 そうして、ヴォルデモートは杖を振り上げた。

 

 

「貴女は死んでいない」

 血だらけの審査員席で、人の形を保っていない血肉にミレイユは声をかけていた。

 先ほど起こった大爆発の震源地は審査員席だった。しかし、マダム・ノストラダムスは爆破する寸前で、審査員達を席から放り出した。その為、三校の校長。それに、バグマン、ウィーズリーは無事だった。

しかし、マダム・ノストラダムスは爆発をまともに受け、身体を破壊され、今では血と肉の塊になっていた。幸運な事に、観客席の生徒達は皆、ホグワーツ城の方へ逃げ出したし、教授達も誘導した。その為、マダム・ノストラダムスの血肉を見た者は殆ど居なかった。

「ミレイユ……貴女がこの状況を理解出来ないのも納得出来ます。唯一の肉親が非業の死を遂げるのは……悲しい事でしょう」

 マダム・マクシームがミレイユの肩に手を置き、そう語りかけた。

「いえ、マダム・マクシーム。この人は死んでいない。……私の高祖母は既に亡くなっています。あの、アラスター・ムーディに成り代わった死喰い人によって殺されています。」

 マダム・マクシームがフランス語で話したと言うのに、ミレイユは英語でそう主張した。ダンブルドアは目を見開いた。

「アラスターが……死喰い人と入れ替わっていた?」

「えぇ、そうです。これは不明確な情報ですが、きっとアラスター・ムーディが使っていた部屋を探れば何かしらの証拠が出るでしょう。」

 ミレイユは淡々と語った。

「セブルス! 今すぐに、アラスターの部屋へ向かってくれ!」

 ダンブルドアは隣で控えていたスネイプに指示する。スネイプも焦った表情で急いで城へ向かって行った。

 

「大変ですアルバス!」

 マクゴナガル、フリットウィック、ハグリッドがバタバタと迷路の方からやって来た。

「ど、どうしたのじゃ?」

「セドリック・ディゴリーとハリー・ポッターが何処にも居ません。それに……優勝杯が何処にもないのです!」

「な、なんじゃと!?」

 ダンブルドアは明らかに狼狽えた。ミレイユは血と肉になったマダム・ノストラダムスから初めて視線を外して、辺りを見回した。

「ダームストラング校長のイゴール・カルカロフが居ない。……ダンブルドア校長、これが全ての答えなのでしょう」

「あぁ……なるほど、なるほど。……全ては、わしの所為じゃ。わしの所為で……わしの所為で……」

 そう後悔の念を言っていた。しかし、ミレイユにはダンブルドアは既に次の事を考えていると分かった。

「ダンブルドア校長。今すぐ、今すぐにでも、ハリー・ポッターとセドリック・ディゴリーが連れ去られた場所を特定してください。そして、他に行方不明の生徒が居ないか安否確認をして下さい」

「そうじゃ、そうじゃな……ミネルバ、フィリウス。それぞれの寮生の安否確認を。ポモーナにもするように言っておいてくれ。それに、スリザリンは監督生に命じるのじゃ」

 2人は硬い表情で頷き、城へと急いで行った。2人へ向かって暫くして、スネイプがやって来た。

「校長。アラスター・ムーディは偽ムーディによって捕らえられていました。恐らく、偽ムーディはポリジュース薬を用いてアラスター・ムーディに成り代わっていた。そして、エトワール・ド・ノストラダムスの死体も……ありました。」

「成程……」

「アルバス! 大変です!」

 そう言ってやって来たのは、先ほど城へ駆けて行ったマクゴナガル、フリットウィックだった。

「ハリーの他に……シルヴィア・ネクロタフィオが……ミス・ネクロタフィオが行方不明です!」

 

 

「アルテミシア・ネクロタフィオ……思い出せ。全てを、思い出すんだ……!」

 ヴォルデモートが、忘れた筈の私の名を呼んだ瞬間──胸の奥で、何かが裂けた。





禁じられた森:
 ほぼ毎年何かしらが起こるある意味呪われた森。

クラウチ氏:
 気がおかしくなっている。所謂、SAN値喪失。ウェーザビーとは、クラウチ氏の元部下で、パーシー・ウィーズリーを間違ってウェーザビーと呼ぶことがある。 
 クラウチ氏の息子に殺された(シルヴィア推測)

シルヴィア・ネクロタフィオ:
 失神呪文はギリギリ得意の範疇に入るので、クラウチ氏にかけようとするが、紆余曲折あって杖を振るう事は無かった。
 失神呪文をかけられた筈だが、何故か意識ははっきりしており、クラウチ氏殺人事件を目撃ならぬ聞撃している。
 会場にて爆破事件が起こり、ごたごたしている間にクラウチ・ジュニアに連れ去られる。
 ヴォルデモートからアルテミシア・ネクロタフィオと呼ばれる。

ハリー・ポッター:
 原作では、ダンブルドアを呼びに行こうとしてスネイプにダル絡み(意訳)をされたが、今回はそんな事には遭わず仲良く失神の呪文をかけられた。
 原作通りに墓場に連れ去られている。

ミレイユ・ノストラダムス:
 1年生の筈なのに、誰よりもしっかりしている女の子。
 血と肉の塊になったマダム・ノストラダムス(偽)に話しかけられるぐらいには、メンタル強者。

爆破事件:
 審査員席を震源地として爆破事件が起こった。マダム・ノストラダムスが審査員席に座っている者達をみんな放りだしたので、死者はいなかった。
 みんなパニックて城の方へ逃げて行った。最終的には教授もそのように誘導した。


今夜19時06分に続きが投稿されます。一応、その話で炎のゴブレット編本編は終了。20日8時06分に閑話が投稿されて炎のゴブレット編は終了します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。