「……セブルス。お主であれば、ヴォルデモートが何処に
ダンブルドアが冷静さを保つようにそう問いかける。
「はい、……リトル・ハングルトンにある墓場。です」
「左様。マダム・マクシームはボーバトンの生徒を頼もう。ハグリッドはダームストラングの生徒を頼もう。ミネルバ、フィリウスはポモーナと共にホグワーツ生を頼もう。全ての生徒を大広間に集めるのじゃ……、本日より世界は再びヴォルデモートの恐怖に侵される事じゃろう……」
ダンブルドアの言葉に一同暗い表情を見せた。そして、各々が行動し始めた。ミレイユはマダム・マクシームに一緒に行くようにと言われたが、それを断って元マダム・ノストラダムス(偽)の血肉に触れようとした。
「……私は誰でしょう?」
血肉から確かに声が聞こえた。その場に居たダンブルドア、スネイプは身震いをした。ミレイユは冷静に血肉を見下ろしていた。
「貴女は、やたらと肩書きの多い魔女……アルテミシア・カーライル」
「正解~♪」
明るい声が聞こえて来た。皆が圧倒されて、動けなくなっている間に血肉は元の人間の形を模り始めた。そして最後には、不気味なほど白い髪に宇宙色の瞳。いかにも魔女と言うローブに大きな魔女帽子を被った若々しい女性になった。
「……っ貴女は! 一体、どういうつもりでここまで放置したのですか? 貴女の力があれば……きっとどうにか出来たのでしょう?」
「残念な事に……今の私は、本来の私の投影でしかない。いわば、自分の1本の髪の毛をこの世界に無理矢理押し込んだだけの存在。私は、とっても儚い存在に過ぎない。私が使える権能も大きく削減されてしまっていると言う話さ。」
アルテミシア・カーライルは若干ふざけたような口ぶりでそう言った。
「──ア、アルテミシア・カーライル……とは、神秘部の?」ダンブルドアが問いかける
「確かに、そこでもごちゃごちゃと活動をしていたね。別に私の職業は
「……貴女はこれからどうするつもりですか?」
ミレイユが静かに聞く。その聞き方には僅かながらに怒気が籠っていた。
「私は、彼女に頼まれたんだ。自分が死んでしまったら、自分の役を引き継いでほしい。と。私は可愛い可愛い自分の弟子の願いを叶えてやった訳だ。ミレイユ、そんな怖い顔をしないでおくれ」
「私は経緯を聞いている訳では無いです。貴女がこれからどうするのかを聞いているんです。」ミレイユは若干苛立った様子で聞いた。
「……取り敢えず、ホグワーツから離れよう。これから先の物語は私が居なくとも進められる。と言うより、私は物語に干渉する事がそこまで出来ない──少し話が進んだら、また登場するかも知れない。」
そう言うなり、跡形もなく消え去ってしまった。
「い、一体──一体?」
バタン!
3人の背後から凄い音が聞こえた。振り返ると、そこにはハリーが居た。
「ハ、ハリー・ポッター!?」ミレイユがすぐさま声を上げる。
ダンブルドアはすぐにハリーに駆け寄った。
「先生、先生! セ、セドリックが……セドリックは……! ヴォルデモートの配下に殺されたんです! そ、そ、それで……それで! シルヴィアがあの墓場に連れて来られたんだ。ムーディは……クラウチの息子になっていた! それで、シルヴィアは……シルヴィアはおかしくなったんだ! ……ヴォルデモートの所為で! ぼ、僕は……どうにか帰る事しか出来なかった。僕には、何も出来なかった!セドリックを連れて帰る事が、シルヴィアの暴走を止める事が、出来なかった!」
ハリーは涙ながらにそう叫んだ。ミレイユはハッとした表情になった。すぐに、ハリー、ダンブルドアに駆け寄った。
「ダンブルドア校長! どうか、今すぐにでもシルヴィア・ネクロタフィオのところへ向かってください。お願いです。彼女を助けて!」
◆
「ミーシャちゃん? どうしたのかい?」
「え?」
目を開けると目の前には、古風な恰好をした白髪の老女が居た。
「あらまぁ……嫌な夢でも見たのかしら?」老女は優しく私の目の端に浮かんだ涙を拭ってくれた。
「え……あ、そうかも……知れません。」
この人は、この人は……誰だっけ?
「どうしたのかい? 困った顔をしちゃって」
嗚呼、そうだ。この人は……この人は、メアリーお婆ちゃんだ。
そしてここは、私の故郷……トワイグフェレスト村だ。トワイグフェレスト村の広場だ。お母様の代わりに薬を配り終えた時とか、薬草を摘み終わった後は、広場に行って休んでいたっけ?
「いえ、なんでも無いんです。……きっと少し、嫌な夢を見ていた。きっとそれだけです。」
「そうかい。そうかい。嫌な夢はさっさと忘れてしまうに限る。ミーシャちゃん。大丈夫だよ。この村には、怖い物なんて何も無いんだよ……」
メアリーお婆ちゃんはそう優しく言うと思い出したような表情をした。
「そうだ、ミーシャちゃん。家でアップルパイを焼いたのよ。いつものお礼に食べに行かないかしら?」
「いいんですか!」
「勿論よ!」
──思い出してはダメよ! シルヴィア。お願い! 私の声を聞いて! シルヴィアは、この事を思い出してはいけないわ!
「え?」何処からか声が聞こえた。
「ハーマイオニー?」
ポツリと人の名前が出て来た。……誰、だっけ?
「ミーシャちゃん、どうしたのかい?」
「大丈夫です。風が人の声に聞こえただけです。」
私は夕方になるまで、メアリーお婆ちゃんの家に居た。その時、私はやっと思い出した。メアリーお婆ちゃんはとても優しくて、私を家に呼んでよくもてなしてくれていた事を。なんで、こんな日常を忘れていたのだろうか?
お婆ちゃんとお喋りしていると、自然と涙が零れおちた。お婆ちゃんは何度も「どうしてしまったの?」と聞いたけれど、私には分からなかった。ただただ、私は幸せだった。
「今日は、楽しかったです。また、明日も来ますね」
「えぇ、待ってるわよ」
夕方頃、私は家に帰る。
私の家は、村のすぐ裏手にある大きな森にある小さな館だった。昔の貴族が住んでいた家。だとか、元宗教施設だとか聞いた事がある。お母様でもあの家が元々何だったのかを知らないらしい。
「ただいま戻りました。お母様!」
「あら、お帰りなさい。今日も、メアリーさんと話していたのかしら?」
母は夕食の準備を台所でしていた。私は、母の作る料理が大好きだった。
「うん! とっても楽しかったです! メアリーお婆ちゃんがアップルパイをご馳走してくれたんです。それに、お婆ちゃんのお子さんの話も聞けたんです! メアリーお婆ちゃんのお子さんは、航海士らしくてあらゆる国を船で渡っているそうです!」
「あら、それは本当に凄いわね。船であらゆる国に渡るだなんて勇気のある人なのですね。」
そう言って母は笑った。
暫くして夕食を食べた。その日の夕食はお肉だった。
「天におられるわたしたちの父よ、み名が聖とされますように。み国が来ますように。みこころが天に行われるとおり地にも行われますように。わたしたちの日ごとの糧を今日もお与えください。わたしたちの罪をお赦しください。わたしたちも人を許します。わたしたちを誘惑におちいらせず、悪からお救いください。アーメン。」
「さぁ、頂きましょう」
──今ならまだ戻れる。シルヴィア、戻って来い!
「ロン?」
またポツリと名前が出て来た。……誰、だっけ?
「どうしたのかしら?」お母様は、驚いた。と言う表情で言った。
「いいえ、なんでもないです。このお肉、とっても美味しいですね!」
お母様の夕食は1時間程度で食べ終わり、片付けを済ませた頃には私はすっかり眠くなってしまっていた。
「今日も、色々と手伝いをしてくれたんですものね。ゆっくりおやすみなさい」
「はい、おやすみなさい……」
私は、眠った。
──シルヴィア! これは、ヴォルデモートが見せてる悪い夢なんだ!
「ハリー? 悪い夢? こんなにも幸せな夢が悪い夢?」またポツリと名前が出て来た。……誰、だっけ?
──シルヴィア、あんた騙されているのよ。もうこれ以上この幻想の奥へと入ろうとしないで……
「ダフネ? みんなどうしちゃったの? そんなに必死に……」またポツリと名前が出て来た。……誰、だっけ?
……あれ? トワイグフェレスト村にハーマイオニーやらロン、ハリー、ダフネって子……居たっけ?
「じゃあ、お母様行ってきます!」
「えぇ、夕方になる前にはかえって来なさい。」
今日も私は、薬草採りに励む。お母様の負担を少しでも減らせるように、私も仕事をしなければならないのだ。
「ん、あれ?」
いつも薬草を採りに来る場所の近くに、身に覚えの無い恰好をした老人が居た。
「えぇっと、お爺さんは……一体?」
「シルヴィアよ……これ以上歩みを進めてはならん。お主は悪い幻想を見ているのじゃ。お主が忘れた筈の、思い出してはいけない記憶を思い起こさせる為の悪い幻想を見ておるのじゃ……」
「ダンブルドア先生……?」
待って、ダンブルドア先生って誰? 私は、学校に行っていない筈なのに……?
『邪魔をするな、愚か者が! ……チッ時間を早めるか』
「ッ誰!?」
私が振り返った時には、〝ダンブルドア先生〟は居なかった。
「……疲れてるのかな? と言うか、シルヴィアって……誰なの?」
──私、長い名前が嫌いなの。短い方が呼びやすくて語感も良くていいでしょ?
お母さん? いや、お母様の声じゃない。誰の声……?
──確かに、名前と言うのは過去を思い出す要素になってしまうから、それが正しいのでしょう。
お父さん? 私には、お父さんなんかいないのに……誰の声……?
私はいつもの通り、薬草を摘んで夕方頃に家に帰った。
「アルテミシアお嬢さん?」
帰る途中、村に来ていた商人のおじさん達が出て来た。確か、この商人のおじさん達は、海の向こうの帝国から来たらしい。
「え、えぇっとどうしたんですか?」
「実は賢女殿に用事があって来たんです。けれども、まぁ……この森が深くて……」
「早い話、道に迷ってしまったんです。どうか、アルテミシアお嬢ちゃん。私達を賢女殿の場所まで案内してくださいませんか?」
2人はとても困った。と言う表情をしている。困っている人を助ける事こそ、人の務め。
「もちろん、構いませんよ! 私が母の元まで案内しましょう!」
──君はもう少し人を疑い、人に根拠の無い信頼を寄せるな。
「え?」
おじさん達の後ろには、黒髪のべっとりとした気味の悪いおじさんが居た。
──世界と言うものは、君が想像するよりもずっと醜く汚らわしく悪意に満ちている。君を利用とする輩も一定数居る。
「えぇっと? 貴方は、一体?」
「アルテミシアお嬢ちゃん、どうしたのですか?」
商人のおじさんに声をかけられた。その頃には、気味の悪いおじさんはすっかり消えてしまっていた。
「……ちょっと、最近疲れているみたいで。大丈夫です。すぐに母の元へ案内しますから!」
「
森の曲がりくねった道を歩いている時も、商人のおじさん達は海の向こうの帝国の話や今まで行商に行った街、村の話をしてくれた。私は、このトワイグフェレスト村しか知らない。私にとって村の外とは未知なる世界であって、商人のおじさん達の話は永遠に聞いて居たいほどだった。
──世界は容易いものでは無い。世界は生温いものではない。純粋無垢は人を救わない。自分も救えない。
また、知らない人の声が聞こえてくる。一体、一体誰なんだろう?
「ただいま戻りました! お母さッ──」
家の扉を開けた時、私の足は大地から離れていた。
「ミーシャ!? 貴方達は一体何者ですか!?」
驚いたお母様は今まで見た事の無い表情で私達を見ていた。眼球を少し動かして、下を見ると私の首元には剣が当てられていた。
「悪魔と契約した忌まわしき魔女め! 少しでも動いてみろ! お前の娘の首と胴体は分かれる事になるぞ!」
私は泣きそうだった。いや、泣いていた。私は今から殺されようとしている。
……大昔、自分が自我を持つよりずっと前にも同じような目に遭った気がする。正確な記憶が無いので、何とも言えないが、確かにそんな事あった。
「一体、何事なのですか?」
「貴様達魔女の母子の所為で、この村の作物の実りが悪くなったんだ! 悪魔と契約した魔女が居るからだ!」
お母様は目を見開いて驚いていた。
「そうですか……ならば、そう言う事でしたら……」お母様は苦し気な表情をしていた。そして、何かを覚悟した表情になる。
「フィリス・ブラック。堕ちてもブラックの血筋。そこに居る愚かで醜い魂を持つ商人よ、覚悟しろ!」
そう言うとお母様は素早く杖を取り出し、魔法をかけた。私の首元に当てられていた剣は何処かへ飛んでいき、それと同時に2人とも気絶した。
「さぁ、ミーシャ。逃げましょう。この村から逃げましょう。」
「はい。」
お母様は素早く身支度を整えて、私の手を引いて家を出た。外は、雪が降り始めており、とても寒かった。手は悴んでいたが、お母様の手の温もりがあったから、何も怖く無かった。
バシュッと風を裂く音が聞こえた。お母様が呻いた。お母様を見ると足に矢が突き刺さっていた。お母様は地面に倒れ込んだ。
「ミーシャ。私の愛しい娘よ。お逃げなさい。この……杖を持って。……この森から抜け出しなさい。」
そう言って、私に杖を渡した。
「お、お母様は……? お母様は……どうなるのですか!?」
「いいから、お逃げなさい! あの村人達が来るより前に!」
お母様はそう言って私の背中を押した。私は、走るしかなかった。雪は次第に積もっていく。寒い。手は悴んでいる。白い息が無限に出てくる。肺が凍るように痛い。
私はお母様を見捨てて走り出したのだ。
◇
鬱蒼と生い茂る、暗緑の森。
葉擦れの音すら吸い込まれ、風も光も忘れたような空間──その深奥に、黒雪が積もっていた。
雪は本来、白いはずのものだ。それがこの森では、まるで闇を孕んでいるかのように、鈍く黒ずんでいた。空に月も星もなく、ただ静寂だけが満ちていた。
雪を踏みしめながら、その闇を縫うように進む黒髪の少女が1人そこを歩いていた。
少女は豪奢なドレスを身にまとってはいるものの、裾は裂け、袖は泥と血にまみれている。肩には矢が射られている。
彼女の歩みの跡には、この
少女は、痛みを抱きしめるように肩をかばいながら、森を進んでいた。
その歩みは、まるで風に消えかける蝋燭の焔のように、か細く、儚かった。それでも、少女の歩みは止まらない。
──その少女は私だった。私は今から殺されようとしている。
私の左手には少し長い枝が握られている。
それは、お母様から受け取った魔法の杖だった。しかし、私は杖の使い方を、魔法の使い方を一切知らなかった。何も出来なかった。
遂に私は方角も距離も分からなくなった。進むべき道を失ったのだ。
森は深く、広く、冷たく、私を飲み込むようにして揺らいでいた。
いつしか、私の足跡さえ雪にかき消されていた。
背後から、歓声と炎の爆ぜる音が唐突に響いた。
私は恐る恐る振り返る。樹々の隙間から、空に黒い煙が立ちのぼるのが見えた。その煙を目にした瞬間、私の心を絶望が支配した。
高く昇る赤黒い焔が、宵闇の天蓋を赤黒く照らしていた。
そして、ストンとその場に座り込んでしまった。雪の冷たさも、皮膚を突き立つ枝の痛みも、今の私にとってもはや意味をなさない。
代わりに、どこからか森へと忍び寄る、鼻を衝くような悪臭が私を静かに包んでいった。何かが燃え、壊れ、終わっていく匂い。私は、何が燃えているのか無意識のうちに悟っていた。それは、生命を燃やす焔だった。
震える左手が、ひとつの枝を、再び強く握り直した。
『──嘆くな、泣くな、小娘よ。母が燃えた炎の音を、よく聞け。貴様の中にも、その炎がある』
声は頭の中に響いた。誰の声でもない、けれど確かに〝そこ〟にあった。
その声は、その声の主は……
『マグルが憎いだろう? 魔女と言う理由で集団でよってかかって襲ってくる醜い無力な存在を……さぁ、怒れ! 燃やせ、全てを! 貴様が持っている復讐の業火で燃やし尽くしてしまえ! 貴様には、復讐を実行する〝力〟を持っている。さぁ、燃やせ! 全てを!』
少女は、目を見開き、空を見る。空には、あの空の彼方には蛇のような面をした男が見える。狂気の緋色の瞳を持つ男の顔が見える。
「違う。違う。私達は神の仔。例え、誰かに憾まれたとしても、誰かを憾んだりはしてはいけない。私は、私はただ森の出口を探さなければならない。」
少女の声は震えていた。
本当は恨めしくて仕方がなかったのだ。
自分を騙し、母親を火刑に処したこの世界が。少し賢かっただけで悪い魔女と断罪し、正義の鉄槌と言う名の、欺瞞の炎を向けて来た世界を。
少女はふらつきながら、震える膝で立ち上がる。傷口は増え、足取りはさらに鈍る。
それでもなお、彼女は歩き出した。この暗き森の、どこかにあると信じて──出口を求めて。
しかし、希望はあまりにも脆い。少女はすぐに足を取られ、雪の中に倒れ込む。
口元に、酷く冷たい雪が触れた。
『御託を並べるな。小娘よ、
私は耳を塞いだ。叫びそうになるのを、ぐっとこらえた。
「ダメだ。ダメだ。私は……私は、悪魔の言葉なんかに……耳を貸さない……!」
私は再び立ち上がる。倒れた場所から、わずかに前へ。
一歩ずつ、一歩ずつ。
この終わりなき闇を抜け、名もなき夜の森を抜けるために。私は歩みを進めた。
◇
「居たぞ!矢で足を潰せ!」
バシュッと風を裂く音が聞こえた。あの時と同じだ。その途端、足に激痛が走り私は地に伏した。罵声が後ろから聞こえてくる。呆けていると、私は複数人から押さえ込まれ、完全に動けなくなる。
「魔女の娘を捕まえたぞ! すぐに、火刑に処せ!」
私は、私は殺されてしまうの?
『さぁ、怒れ! 集団にならなければ力を示す事すら出来ぬ、矮小な存在を。穢らわしいマグルを!』
なんで、この人達は……私を殺そうとしているのだろう?
意識が途切れた。暗闇の中で誰かが永遠と『憾めよ憾め。マグルを憾め。貴様を殺そうとするのは、愚かしきマグルだ』と囁いていた。耳を塞ぎたくとも体は動かなかった。
「おい、起きろ! 魔女の娘!」
額に石が当たった。目を開くと、村人達は皆眼下に居た。私は、十字架に縛り付けられていた。何が何だか理解出来なかった。
「アルテミシアは魔女だ! 異端には業火をもって裁きを! 悪魔と契約した穢れた女を殺せ! さぁ、魔女に鉄槌を! 正義の断罪を!」
「違う……違う……私は……わた……」
神父様がそう叫んだ。神父様は温厚だったはずだ。彼は、何に取り憑かれてしまったの……?
『マグルは愚かだ。愚かなマグルは愚かな事しか為せない。集団で1人を悪者に仕立て上げ、集団で私刑に処すことしか出来ない……』
「魔女に鉄槌を!」「魔女に業火を!」「魔女に天罰を下せ!」
村人たちは各々にそう叫び始めた。
「も……もう、やめて。私が、私が……私が、何を……何をしたって言うの?」
私の嘆きは誰の耳にも届かなかったようだった。
『貴様は何もしていない。愚かで醜いマグルは、自らの利益の為に凶行に走っているだけだ……』
焦げた木の匂い。足元から濃い煙が上がって来る。
熱い熱い。苦しい苦しい。苦しい。死にたくない。死にたくない。死にたくない!
「あ、あがっ……グっ、ど、どう……どうして……?」
火はあっという間に私を包んでいた。揺らめく炎の向こう側に嗤う商人の男たちが見えた。アイツの所為だ。アイツらが来てからこの村はおかしくなった。
『憎ラシイダロウ。人間ガ憎ラシイダロウ! 人間ナド……否、此ノ地上デ生キ永ラレテイル命アル者ハ、全テ滅ンデシマエバ良イ!』
「「……お前らが私達を魔女と呼ぶならば、私達は世界を呪う
『ナラバ、我ノ力ヲ貸ソウ! 復讐ハ罪ガ故ノ者。愚カナル人間共ヨ、ソノ罪ノ罰ヲ粛々ト受ケ入レロ!』
「「燃エロ、燃エロ、ソノ穢レタ魂ヲ全テ燃ヤシテ仕舞エ! アア! 燃エテシマエ、全テ燃エテシマエ! コノ永遠ノ喜劇ニ花ヲ咲カセヨウ!」」
結局少女は森を抜け出す事は出来ませんでした。
……されど、憐れむ必要はないのです。
ワタシもアナタもこの
めでたし……めでたし……
Artemisia → Sylvia Necrotaphio
◆
──炎。煙。罵声。
あの夜の村のざわめきが、目の前に広がっていた。
足元に焦げた木の匂いがまとわりつき、肺の奥まで焼き付く。息が苦しい。いや、これは記憶じゃない……現実だ。
気がつくと、私はヴォルデモートの前に立っていた。背後には黒いローブの死喰い人たちが円陣を組んでいる。あの蛇のような瞳が、私の全てを見透かして笑っていた。
「……思い出したな」
低く、鋭く、蛇のように絡みつくような声。
胸の奥で、何かが弾けた。それと同時に封じられていた筈の何かが、溢れ出す。皮膚の下を奔るような脈動。心臓がひとつ打つたびに、周囲の空気が震えた。
やめろ……落ち着け……! 心の中で必死に叫ぶ。けれども足元から立ちのぼる光は、私の意志を裏切って天へと伸びていく。
死喰い人たちがざわめき、後ずさるのが見えた。
掌が勝手に持ち上がる。魔力が、私の指先から溢れようとしている。
違う……こんなこと、望んでない……!
でも、脳裏にはあの炎の夜がこびりついて離れない。怯える村人と商人。嗤う〝森の意思〟。そして──燃え落ちる十字架。あの時、私の声と重なりあった声は誰だったのだろうか?
「ハハハハハ! 流石だ、素晴らしい!
ヴォルデモートが低く囁く。その声は熱と一緒に血の中に入り込んでくるようだった。
──駄目だ……駄目だ、これ以上……! 私は、誰の命も奪いたくない。
光が爆ぜた。
轟音と共に地面が割れ、石片が宙を舞う。炎が蛇のように宙を舞い、誰かを飲み込んだ。死喰い人達が叫び声を上げて散り散りに逃げた。私は膝をつき、頭を押さえる。
──止めたい。誰も傷つけたくない。
でも、私の中の何かが叫んでいる。『モット焼ケ!』と。『モット壊セ』と。
熱い。息が出来ない。あの時と同じだ。謂れなき罪で火刑に処された1486年12月25日と同じだ。涙が勝手に溢れる。
「貴様はとっくの昔に500年前に死んでおるのだ! 貴様は復讐の為に生きている亡霊にすぎん! さぁ、愚かなるマグルを全て焼け! 燃やしてしまえ!」
「シルヴィア!」
突然聞こえたその声は、鋭くも柔らかく、私を現実に引き戻す力を持っていた。深淵の中に光が灯った気がした。
ぼやけた視界に、銀髪と半月形の眼鏡が揺れる。
ダンブルドア校長が立っていた。杖を握り、私とヴォルデモートの間に割って入っていた。。
「これ以上はさせん」
低く、しかし揺るぎない声だった。視界の端でヴォルデモートがそそくさと退場するのが見えた。
私の暴走する魔力は、彼の放った眩い光の壁にぶつかり、火花を散らしながら弾かれた。胸の奥の熱が少しずつ、しかし確かに冷めていく。
──私は……助かったのだろうか?
視界が暗転した。私は、助かってしまったのだろうか?
──私は、この手で復讐を願い……私はこの手でトワイグフェレスト村の人々を……皆殺しにした。
──私は、心に宿る悪魔を制御出来なかった。私はこの手でオフィーリア・ブラックとヘンリー・ローズブレイドを殺した。
──私は、まんまとヴォルデモートの策略に乗ってしまった。過去を思い出し、狂気に陥りバーテミウス・クラウチ・ジュニアを殺した。
私は、生きているだけで間違っているんだ。
私は、生きているだけで罪なんだ。生きているだけで罰なんだ。
……本来であれば、500年前に尽きる筈の命だった。それが500年の時を超えて、未だに生きている。神への冒涜。なんて悍ましい命なのだろう?
「ダッ、ダンブルドア先生……。私は、あと何人殺せば死ねるのですか? 私は、何故、何故……生きているのですか?」
私を現実世界に連れ戻してくれた
【挿絵表示】
マダム・ノストラダムス(偽)の正体:
正体は、アルテミシア・カーライル。やたらと肩書きの多い魔女。
本人曰く、『本来の私の投影でしかない。いわば、自分の1本の髪の毛をこの世界に無理矢理押し込んだだけの存在。私は、とっても儚い存在に過ぎない。私が使える権能も大きく削減されてしまっている』との事
セドリック:
ナレ死
ハリー:
何とか逃げて来た。セドリックを持ち帰る事は出来なかった模様。因みに、ヴォルデモートと杖が繋がるより前にシルヴィア暴走イベントがあったので、杖の芯が同じである事は知らない。
ミーシャ、アルテミシア・ネクロタフィオ:
500年前のトワイグフェレスト村に住む敬虔なキリスト教徒。薬草を集めて母が作り出した薬草を売っていた。
メアリーお婆ちゃんと言う人と仲が良かった。
火刑に処された時、怒りに染まりトワイグフェレスト村の住民を皆殺しにしている。
謎空間:
シルヴィア(アルテミシア)の記憶をヴォルデモートが掘り起こし、無理矢理再生している状態。
ハーマイオニーやハリー達は、シルヴィアの心自身が作り出したこれ以上記録を辿らせないようにするための壁のようなもの。
お母様:
フィリス・ブラック。500年前の魔法使い。アルテミシアに杖を託し、火刑に処された。
帝国からの商人:
黒幕的存在。結構暴論で母子を追い詰める。作物の実りが悪いのは事実。帝国というのは、神聖ローマ帝国。
クラウチ・ジュニア:
ナレ死
ダンブルドア:
英雄。今世紀で最も偉大な魔法使いはシルヴィアを救いにやって来てくれた。
お母さん、お父さん:
オフィーリア・ブラック、ヘンリー・ローズブレイド。2人はシルヴィアの魔力暴走によって殺されてしまっている。
取り敢えず、ここで炎のゴブレット編本編は終了で、いつも通りの閑話を挟みちょっとした解説&小ネタ紹介のプライベッターを書いて終わりです。