呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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2025/03/12 本文編集


第7話 友情と飛行訓練

 魔法薬学の授業が終わり、シルヴィアは教室をダフネと一緒に出た。

 しかし、寮へ戻る道中にシルヴィアは地下牢教室に忘れ物をした。と言ってダフネから離れ廊下を1個曲がる。

 そこでハーマイオニーから受け取り、ポケットに入れていた羊皮紙の切れ端を見る。ハーマイオニーから渡される時に小声で『誰も居ない場所で見て』と言われていたのだ。

 

もし出来たら授業終わりに図書館に来て

 

 しっかりとした字で書かれていた。

 これはきっと『話したい事がある』ってやつだろう。シルヴィアはそんな展開を本で呼んだ事があったので知っていたのだ。

 まずは、教科書の類をスリザリン寮に置きに向かう。シルヴィアはスリザリン寮の合言葉を羊皮紙に書いていたので、1人でも入る事が出来た。

 

「あ、シルヴィア! 掲示板見た?」

 ダフネ、ミリセント、パンジーは掲示板の前に固まっていた。

「み、見てないけど……」

 シルヴィアは掲示板の指さされた場所を見る。羊皮紙が張り出されていた。

 

飛行訓練は木曜日の15時30分に始まります。グリフィンドールとスリザリンの合同授業です

 

 掲示板のすぐ近くでは、マルフォイがマグルが乗った()()()を危うくかわした。と言う話を永遠と繰り返していた。

 シルヴィアにとって()()()がさっぱり分からなかったので、マルフォイの話が凄いのか凄くないのか、よく分からなかった。

 ただ、あれほど繰り返して言っているのだからきっと自慢なのだろう。とシルヴィアでも分かった。

 

 また、目の前のミリセントは自分の実家の上空を飛び回って()()()()()()にぶつかりかけた。と言う話をして、ダフネとパンジーから明らかに盛りすぎだろう。と言われていた。

 ただ、言った当の本人であるパンジーも上空からマグルの()を追跡して遊んだ。と言ってダフネとミリセントから盛っている。と言われていた。

 ダフネはあまり体が強く無い為に箒に乗ったことも数えられる程度しか無く、ほんの十数cmだけ浮かんだだけ。と自嘲気味に言った。

 それを言った直後、ミリセントとパンジーから必死のフォローを受けていた。

 そんな中、シルヴィアは箒で空を飛ぶ。と言う発想が一切無かった為、みんなの話に一切着いていけなかった。

 

「あ、そうだ。私、図書館に行かなきゃ。」

「え? もう宿題を進めるの? 来週提出でいいって言われたじゃん」

「……えっ、あ、まぁ……その〜早めに終わらせた……方が、いいかなって……」

 シルヴィアは宿題の事などすっかり忘れていたが、こうなれば宿題をしに行く。と言って図書館に行った方が自然だろう、っと思いそう言う事にした。

 3人はまだ飛行訓練の授業について喋り足りない様子だったので、一緒に来る事は無かった。

 シルヴィアは変身術の宿題と魔法薬学の宿題を持って図書館に向かった。

 図書館の前の廊下は何度か通った事があったので、シルヴィアは迷わずにすんなりと図書館に辿り着く事が出来た。

 

 図書館は先程の寮の談話室内の喧噪とは打って変わって、本を捲る音や羽ペンが掠れる音。椅子が軋む音ぐらいしか聞こえなかった。

 シルヴィアはハーマイオニーを探す為に図書館を歩き回る。

 暫くして校庭がよく見える窓側の席に、見覚えのある栗毛のグリフィンドール少女が居るのを発見する。シルヴィアは少しだけ時間を置いて少女に声を掛ける。

 

「……あぁ、来てくれたのね。良かった」

 ハーマイオニーは声を抑えてそういう。シルヴィアはハーマイオニーの隣に座る。

「シルヴィアは……やっぱり魔法薬学が得意なのね? ご両親が何かその関係の職業に就いていたりしていたの?」

「うっ、うん。そうだよ。親も、優秀な魔法薬学者だったらしいし……」

 シルヴィアは親のことは知らない。スネイプにそう聞いただけだった。

 ただ、確実に自分が魔法薬の調合が得意なのと親は因果関係があると思っていた。

「血筋ってヤツなのね……。──ねぇ、シルヴィアは……私の事、どう思って……る?」

 ハーマイオニーは不安気に聞いて来た。ただ、ほんの一瞬シルヴィアはピンと来なかった。その表情を察してハーマイオニーが喋り出す。

「ほら、そのー、グリフィンドールとスリザリンって……仲が悪いじゃない? それで、シルヴィアは……スリザリンで友達を作ってるみたいだし。そ、その、私ってマグル生まれでしょ? スリザリンの生徒からしたら……マグル生まれってのは、忌むべき存在。みたいじゃない?」

「わ、私ね。さっき、マグルとかマグル生まれ。について教えてもらったの。純血主義って言うのも汽車でハーマイオニーに教えてもらって初めて知った。私は……よく分からないの。じ、自分がどうすればいいのか。私は、ハーマイオニーに出会えて良かった。ハーマイオニーは色んな事を知っている。──流石に、教科書を暗記しよう。って意気込んでいた時は若干、ひ、引いたけど。けど、その努力は……高尚だと思う。そんな凄いハーマイオニーとマグル生まれ『だから』関わりを断ち切るなんて……悲しい。スリザリンの人達とも上手くやっていきたい。けど、どうすればいいか……分からないの」

 シルヴィアはそう語った。

 その言葉はあまりにも拙く幼かった。けれども、心をこめていった。ハーマイオニーは少し悩んだように目を泳がせてから、シルヴィアの腕に抱かれている宿題を見つける。

 

「と、取り敢えず……宿題を持って来たんでしょ? 一緒にやりましょうよ」

「え? あ、うん。そうだね。」

 結局、2人は夕食前まで一緒に宿題をした。

 あまり言葉を交わさず黙々と宿題を進めた。結局、シルヴィアは変身術の方の宿題は終わらなかったが、魔法薬学の宿題は終わらせる事が出来た。

 

 

 2人は廊下を一緒に話しながら笑いながら歩いていた。他学年の生徒達は、スリザリン生とグリフィンドール生の異色のコンビに驚きを隠せない様子だった。

「私ね、シルヴィアとあの洋装店で出会えて良かったと思うの。古めかしい服装で如何にも魔法使いらしい子。そして魔法薬と薬草学が得意。それに、その2教科に限れば、意欲があるように見えた。──だけども蓋を開けてみればあまり魔法界の事について詳しく無い。私は……マグル生まれだからみんなと遅れてるって思っていたの。実際、マグル生まれって学年通してもあまり多く無いからね。だから、物凄く不安だったわ。なんと言うか、ちょっと似てる人に会えて嬉しかったの。確かに、シルヴィアと私じゃあ、立場が全然違うけど。けど……その、シルヴィア。これからも一緒に勉強しようよ。今日みたいにさ。」

「うっ、うん! そうしよう!」

 

 そして、2人は来週の授業終わりにまた一緒に図書館で勉強をする約束を立てて別れた。

 シルヴィアは忘れる事ないように日記に書く前に先に羊皮紙の切れ端に歩きながらメモしてローブのポケットに仕舞い込んだ。

 

 シルヴィアがスリザリン寮に戻るともうすでに人は夕食を食べに出払っており、談話室には人っ子1人居なかった。

 取り敢えず、シルヴィアは部屋に戻って宿題の続きをしようと考えた。

 

「シルヴィア?」

 部屋にはダフネがまだ残っていた。

「あ、ダ……ダフネ?」

「ハーマイオニー・グレンジャーとの勉強会は楽しかった?」

 シルヴィアはこの部屋の温度が一気に冷えた事を肌で感じた。

 確か、ダフネはシルヴィアにスリザリン寮で穏便に暮らしたいならあまり関わらない事を勧めていた。自分の助言を無視された同義な行動をシルヴィアは取った。

 ダフネは、自分の行動をどう思うのだろうか?

「え、えぇっと……そ、その──「別に、私はあのハーマイオニー・グレンジャーと仲良くする事自体は否定しないわ。マグル生まれ差別とか純血主義は時代遅れの思想であって馬鹿らしいのは事実だもの。

 それに、今やマグルやマグル生まれと関わっていかないと魔法使いは生き残れない。それが現実だわ。

 純血主義者は、あまりにも夢を見過ぎているのよ。未だに自分達がマグルよりも優位である。って言う夢を。」

 ダフネはベッドに腰を下ろしながらそうスラスラと言った。シルヴィアはハーマイオニーから聞いていた通り、スリザリン寮生は大抵がマグル生まれと言うものを嫌悪していると思っていた。

 ……ただ、ダフネは違うのだろうか?

 

「私ね、時々考えるの。純血として生まれて血の呪いとか言うクソみたいな呪いに蝕まれて、這いずるように生きるよりもマグル、もしくはマグル生まれとして生まれて何も呪いを受けずに生きている。どっちが幸せかって。」

 ダフネはそう言って天井を見て何か考え込んでいる様子だった。シルヴィアはまた新出単語。〝血の呪い〟と言う言葉を聞く。

「……えぇ、そうね。シルヴィアは血の呪いなんて知らないものね。……血の呪いってのはグリーングラス家が古くから受け継いでる呪いよ。

 何処の誰がその呪いを受けたのか知らないけど……少なくとも13世紀頃から存在していたそうよ。グリーングラス家で生まれた女は大抵その呪いを受けて生まれてくる。私だってそう。妹はもっと状況が悪いわ。」

「ダ、ダフネって妹、さんが……居るの?」

「えぇ、そうよ。アストリアって言うの。とても可愛い子。だけど生まれた時から、私以上に体が弱いわ。

 ──可哀想な子よ。昔からグリーングラス家はそう言った意味では、嫌われてる節があったわ。グリーングラスの血を受け継いでいる事が発覚して婚姻が無効になった人も居るぐらいには……。

 だから、正直言ってマグルやマグル生まれは羨ましいわ。そんな呪いにかかっていなくて。気が楽そうで……」

 ダフネの言い分は厭世的で、シルヴィアもどうフォローすればいいのか分からなかった。

 

「えぇ、そうね。ごめんなさい。いきなりこんなに重い話をしちゃって。……私はね、基本的に純血主義はどうでもいい。純血である事もどうでもいい。少なくとも今の情勢だとね。

 ……それで、スリザリン内の話に戻すと。正直に言って貴女は異質な存在だわ。」

 自分は異質な存在。その言葉は嫌にシルヴィアの心に突き刺さった。ただ、ダフネは話を続けていく。

「……ネクロタフィオと言う名字は重要な意味を持つの。500年前に失われた筈の純血の名家の名字だからね。まぁ、失われたと言うよりはあまりにも不吉だから変えたと言う話だけど。そんな名字を名乗っている少女。

 ……因みにだけど、シルヴィア。貴女はどの程度自分の一族について知ってるのかしら?」

 シルヴィアは頑張って記憶を再生するが、オリビアが何かそれっぽい事を言っていた事しか思い出せず、その話の内容はすっかり忘れてしまっていた。

 

「知らない、ようね。──500年前にアルバート・ネクロタフィオって言う人物が居たのよ。彼はだいぶ狂っている人で……まぁ、これ以上はあまり言わなくていい事だって知ってるけど……彼は【殺戮卿】って呼ばれていたそうよ。」

「【殺戮卿】……って、どっかで……あっ! 最初の変身術の授業に行った時にみかけた肖像画の!?」

「そうよ。彼がアルバート・ネクロタフィオ。彼は歴史上でも中々に過激な純血思想であったそうよ。そして、メロペー・ブラックと言う女性を娶った。

 2人の間には子供が出来たそうだけど魔力が不安定で結局、母親メロペーによって殺されるそうよ。

 ──ここまでの話を知っている生徒は割と普通に居る筈だわ。魔法界でもそこまで知名度は高く無いとは言え、有名な話ではあるもの。それに、シルヴィアの名字を不思議に思って調べる人だって何人か居た筈よ。私もその1人だもの」

 シルヴィアはダフネの話したネクロタフィオと言う一族の話を聞いて驚いたが、同時に恐ろしいと思った。自分の名字があまりにも業が深い事を知ってしまった。

 

「この話はスリザリン寮内でも有名な話になり始めている。500年前の伝説的な純血の名家の名字を持つ1年生。自然とそのアルバートとメロペーの血が続いていたと考えるでしょうね。

 だって、そのメロペーはアルバートに殺され、アルバートは弟夫婦に殺されるのよ。そして、その弟夫婦の1人息子スチュアートは苗字を変えてしまうもの。因みに、その苗字は……ローズブレイド。」

「ローズブレイド? ……最近、どっかで聞いたような……」

 シルヴィアは必死に頭を回転させるが、何かが引っかかって上手く思い出せなかった。

「聞いたことがある? じゃあ、私の憶測は当たってるかもね。ローズブレイド家と言うのは結構最近まで生き残っていたわ。

 確か、名前はヘンリー・ローズブレイドとオフィーリア。けれども、2人は5年前に死んでしまう。2人は優秀な魔法薬学者だそうよ。」

「も、もしかして……わ、私が……忘れてしまった両親って……」

「貴女、何かがおかしいと思ってたら両親の事、覚えていなかったの!?」

 ダフネは非常に驚いた表情でシルヴィアを見た。シルヴィアはただ、頷くしかなかった。

 

「そうなの……ね。まぁ、私の憶測の話だけど。貴女の一族はアルバート・ネクロタフィオとメロペーの殺された筈の子供。そして、その子供は自分が殺されないように。そして自分の子孫がネクロタフィオ家に殺されないようにする為にイギリス魔法界に関わらず過ごして来ていた。

 しかし、貴女のご両親は何らかの事象でもうこの世に居なくて因縁付けで尚且つ、500年前とは言え血のつながりがあるローズブレイド家に貴女を任せたんじゃないかしら? ……まぁ、本当に憶測に過ぎないんだけどね」

 シルヴィアはここでやっと思い出す。スネイプがグリンゴッツ銀行にて金を引き出した口座の名義は『ローズブレイド』だった。では、きっと自分の養育者はヘンリー・ローズブレイドとオフィーリアだったのだろう。

 

「……純血の王家とも言われたブラック家の跡取りがもう殆ど居ないと同義なこの時代だと、貴女のヒエラルキーは自然と上がってくる。ネクロタフィオ家は全盛期だとブラック家を凌ぐほどに栄えた一族だったそうだからね。

 まぁ、貴女自体の両親がよく分からないから純血なのか半純血なのか判断付かないんだけども。……それでも伝説的な一族の名前を持つ存在は重要よ」

「は、はぁ……」

 シルヴィアは呆気に取られていた。あまりにも情報量が多すぎるのだ。

 自分は殺された筈の人の子孫。記憶の中で朧げになっている両親はローズブレイドと言う名字を持って居て、祖先を殺した人の子孫。

 それに加えて、このスリザリン寮の生徒達はやたらと自分に面倒な役割を付与した。と思い、若干スリザリン寮に入った事を後悔し始めていた。

 

「だからこそ、貴女がグレンジャーと関わるとこう言う人が出て来ると思うの。貴女を〝血を裏切る者〟と呼ぶ人が……。

 だって貴女はかの過激な純血思想であったアルバート・ネクロタフィオとブラック家の嫁と言う純血思想ゴリッゴリの2人の子孫である事は確定しているもの。」

「……ち、〝血を裏切る者〟って何?」

「純血なのにも関わらず、マグルを擁護する人の事を指す言葉だわ。よく言われてるのはグリフィンドールのウィーズリーとかでしょうね。まぁ、それも含めてどうでもいいんだけど……」

「ダフネは……そうなるの? 擁護はしてないけど……純血主義ってのを否定してたし……」

「さぁ、どうかしら? 私は表には言っていないからね。言われないんじゃないかしら? それに両親は過激では無いとは言え、それなりに純血主義だし。

 ……私は今後、何かが起こったとしても上手く立ち回れるように……嘘で周囲を騙しているの。もし今後〝例のあの人〟が復活しても無事生き残れるように……この短い人生をこれ以上削られるのはたまったもんじゃ無いわ。」

 ダフネは非常に真剣な表情でそう言った。ダフネは11歳なのに自分の正しい身の振り方を心得ているようだった。

 

「……貴女は、シルヴィアはグレンジャーと関わって誰かから〝血を裏切る者〟と罵られる覚悟はあるのかしら?」

 シルヴィアは息が止まった。

 自分が他者から罵られる。とても怖い。けれども、ハーマイオニーは最初に話しかけてくれた子で一緒にお菓子なるものを食べた仲だ。上手くやっていきたい……。

 

「わ、私は……それでも、ハーマイオニーと仲良くしたい!」

「……その頑固さと言うか、決心の強さと言うか……なんと言うか。私には無いものだから貴女を純粋に尊敬するわ。

 ……と言うか、貴女ってスリザリンに悉く向いて居ない気がするわ。まぁ、いっか。さ、一緒に大広間に行って夕食を食べに行きましょ! ギリギリ夕食は残っていると思うし。」

「ダ……ダフネは、私のことを、その……〝血を裏切る者〟って罵らない?」

 そう言うとダフネは鼻で笑った。

「言ったでしょう? 私は純血主義なんか正直言ってどうでもいいんだって。少なくとも、今はそこまで重要じゃ無い。

 だから貴女のその行動は私にとってはどうでもいい。の内に入るわ。それに、さっきも言ったでしょ。私は貴女の決心の強さ。尊敬しているわ」

「そ、そう……なのね」

「さぁ! 急がないと本格的に夕食に食べれる物がなくなるわよ!」

 シルヴィアはダフネに手を引かれ大広間へ急ぐ。

 

 結局、大広間の夕食は残り少なくかぼちゃパイ1つのみだった。シルヴィアはダフネにそのパイを譲り、水だけ飲んで帰った。

 

 

 今日は魔法薬学の授業でハリー・ポッターが理不尽とも言える減点を受けているのを見て、オリビアの言っていた事は大体正しいと知った。その後。ハーマイオニーと少し話してから一緒に図書館で勉強をした。自分は魔法薬学の課題しか終わらせなかったけど、中々に楽しい時間だった。

 寮に戻ってきてからダフネに色んな事を教えてもらった。自分が悍ましい一族の末裔。自分が殺された筈の人の末裔。本当に()()()()()で凄い一族みたいだ。困った話だ。出来れば、スミスとかのありふれた名前に変えたいと思った。

 

 

 みんなが待ち遠しい飛行訓練の日。15時半の15分前にスリザリン生はみんな揃って正面階段から校庭へ向かった。空はイギリスでも中々無いぐらいに晴れており、皆の頬を優しく撫でる風が吹いていた。

 傾斜のある芝生を下って校庭を横切り平坦な芝生まで歩いて行くと、校庭の反対側に禁じられた森が見えた。

 シルヴィアは自分が住んでいた森を思い出し、いつかはあの森に後で行ってみよう。と考えていた。

 

「なんだよ、ボロ箒じゃないか!」

 マルフォイは平然と置かれていた20本程の箒を見るなりそう愚痴を零し、隣に居るグラップとゴイルに共感を求め、2人も嗤った。

 シルヴィアは箒で空を飛ぶ。と言う行為に対して密かに期待感を募らせていた。

 

「あ、そうそう。シルヴィア。学校の箒は確かにドラコの言う通りボロいらしいわ。高い所に行くと震え出す箒とか、どうしても少し左に行ってしまう癖のある箒とかがあるそうよ」

「えぇ……その、そんなのでちゃんと、飛べるの?」

「大丈夫よ。貴女が落ちたらミリセント辺りがキャッチしてくれるから」

「……それは、それで、ミリセントが怪我しない?」

「あの図体を見てみなさい。多分大丈夫だから。」

 シルヴィアは段々と不安が募るのを感じた。

 間も無く、グリフィンドール生もやって来た。一瞬の緊張感があったが、すぐに飛行訓練担当のマダム・フーチがやって来た。白髪を短く切り、鷹のような黄色い目をしていた。

 人間でこれほどまでに鷹に寄せられる人なんて居たんだ。とシルヴィアは心の中で零した。

「何をボヤボヤしているんですか! みんな箒の側に立って。さぁ、早く!」

 開口一番ガミガミだった。

 シルヴィアは自分の足元にある箒を見下ろす。

 随分と古いようで小枝が何本か飛び出していた。これでは、自分の家にある数年使っていない掃除用箒とどっちが状態がいいか。と言う具合だ。

 

「右手を箒の上に突き出して!」

 マダム・フーチが掛け声を言った。生徒は皆、箒の上に右手を突き出した。

「そして、『上がれ!』と言う!」

 そう言われた途端、みんなが「上がれ!」と叫んだ。

 意外な事にシルヴィアの箒はすぐに上がって来た。

 しかし勢いが結構あって、あと少しで突き指しそうな勢いだった。ダフネの箒は、地面をコロリと転がっただけで、少し遠い場所に居るハーマイオニーも同じだった。

 あのハリー・ポッターやマルフォイはすぐに自分の手に収まっていた。ただ、多くの箒は飛び上がっていなかった。

 

 次にマダム・フーチは箒の端から滑り落ちないように箒に跨る方法を教えた。

 生徒達は見様見真似で箒に跨った。マルフォイは得意そうな顔で箒を握っていたが、間違った握り方をしている。として注意を受けていた。

「さぁ、私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。箒はぐらつかないように抑え、2メートルぐらい浮上して、それから少し前屈みになってすぐに降りて来てください。笛を吹いたらですよ──1、2の」

「えっ!? うっ、うわぁぁぁ!!」

 皆が緊張して笛を吹かれるのを待っていた時。

 マダム・フーチが笛を吹こうとしていた時に叫び声が上がった。グリフィンドールのネビル・ロングボトムだった。

 どうやら、地上で置いてきぼりを喰らいたくなかったそうで、笛が鳴るより前に地面を蹴ってしまったようだ。

 

「こら、戻って来なさい!」

 マダム・フーチお大声を他所に、ロングボトムは空高く飛んで行く。4メートル、6メートル。

 グリフィンドールもスリザリンも関係なくこの惨状に叫び声を上げて見つめていた。間も無く、ロングボトムは声にならない悲鳴を上げて、箒から真っ逆さまに落ちていった。

 運がギリギリいいのか、彼は草の上にうつ伏せで墜落した。途中、ポキッと嫌な音がしたが……

 

 マダム・フーチはロングボトムと同じくらい真っ青になって、少年の上に屈み込んだ。

「手首が折れているわ……」

 小さな声が聞こえて来た。シルヴィアは今の惨状を見て出来れば一生箒に乗りたく無いと思った。

「さあさあ、ネビル、大丈夫、立って」

 そう言ってロングボトムを立たせるとマダム・フーチは生徒達の方を向き直った。

「私がこの子を医務室に連れて行きますから、その間は誰も動いてはいけません。箒もそのままにして置いていくように。

 さもないと、クィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出て行ってもらいますよ。さあ、行きましょう」

 涙でグチャグチャの顔になったロングボトムは、手首を押さえ、先生に抱き抱えられるようにして、ヨレヨレになって歩いて行った。

 シルヴィアは大変居た堪れない気分になった。あの、ロングボトムはあと数分後の自分に見えたからだ。

 

 マルフォイが2人が居なくなった途端そう大声で笑い出した。

「あいつの顔を見たか? あの大間抜けの」

 そう言って他のスリザリン寮生達も囃し立てた。

 シルヴィアはロングボトムの事を大層気の毒に思っていたので、少しスリザリン寮生達から距離を物理的に置いた。

 その間もグリフィンドールもスリザリンも言い争いをしている。

 特に、シルヴィアとして衝撃的だったのは別に悪い印象も無かったパンジーの語気がやたらと強かった所だ。

 それにミリセントも何かあまりよく無い事を言っていた。ダフネは自分と同じくこの状況を傍観している。

 シルヴィアはこの言い争いを聞いていれば心が荒む。と考えてもう一歩後ろに下がった。

 

「ご覧よ! ロングボトムのばあさんが送って来たバカ玉だ」

 あのロングボトムが落ちた草むらの中から何やらキラキラと光る玉を拾い上げて、そう得意気にマルフォイは言った。

「マルフォイ、こっちへ渡してもらう」

 ポッターはそう静かな声で言った。みんなはお喋りを止めて、2人に注目していた。マルフォイはニヤリと嫌な笑みを浮かべた。

「それじゃ、ロングボトムが後で取りに来られる所に置いておくよ。そうだな──木の上はどうだい?」

「こっちに渡せったら!」

 ポッターは強い口調で言った。

 シルヴィアは、スネイプに続きマルフォイも性格が悪い人間である。と言う認定を心の中でした。しかし、この状況をとやかと言えずにただ傍観している自分も性格が悪い人間では無いか? 

 あのポッターのように、グリフィンドール生の悪しき行動を咎める事が出来ない自分もまた性格が悪い人間では無いか?

 ──そう考えるようになり、シルヴィアの益々心は疲弊していった。

 

 その頃にはマルフォイはヒラリと箒に乗り、飛び上がった。

 遂には、樫の木の梢と同じくらいの高さまで舞い上がり、そこから浮いたまま地上のポッターに挑発をした。

「ここまで取りに来いよ、ポッター!」

「ダメ! フーチ先生が仰ったでしょう、動いちゃいけないって。私達がみんな迷惑するのよ!」

 ハーマイオニーが箒を掴み飛び上がろうとしているポッターに叫ぶ。

 しかし、ポッターは無視して箒に跨り地面を蹴り空へ飛び上がった。忽ち、マルフォイと同じ高さまで上がっていた。

 グリフィンドール生もスリザリン生も皆、息を呑み、キャーキャー叫ぶ。ポッターとよくつるんでいるウィーズリーは歓声を上げていた。

 

「こっちへ渡せよ。でないと箒から突き落としてやる」

 ポッターの怒りがひしひしと感じられた。

「へぇ、そうかい」

 一方のマルフォイはせせら笑っていたが、顔が硬っていた。

 

 ポッターは覚悟を決めたのか箒を両手でしっかりと掴み、マルフォイへ槍のように突っ込んでいった。

 マルフォイはかわしたが、ポッターは鋭く1回転して体制を整え直す。グリフィンドール生はその様子に拍手を送った。

 シルヴィアはただただ怖かった。こんな学校始まって早々に戦いが起こるとは思ってもいなかったからだ。

 

「クラッブもゴイルもここまで助けに来ないぞ。ピンチだなマルフォイ!」

 ポッターがそう言うとマルフォイは嫌な笑みを浮かべた。

「取れるものなら取ってみるがいい、ほら!」

 そう言うとガラス玉を空中高く放り投げ、自分は早々に地上に帰っていた。

 ポッターはすぐにそのガラス玉が落ちるよりも先に落下し、地面スレスレの場所で玉を掴んだ。間一髪でポッターは箒を引き上げて、水平に立て直し、草の上を転がりながら軟着陸した。あのガラス玉も無事なようだった。

 シルヴィアはその様子を全て見てから緊張の糸が切れて地面に座り込む。心臓に悪い。それだけ思った。

 

「ハリー・ポッター!」

 次に校庭を響かせたのはあのマクゴナガルの大声だった。マクゴナガルは走ってポッターの元へ駆け寄った。

「まさか──こんなことはホグワーツで一度も……」

 マクゴナガルは、どうやらショックで言葉も出ない状態らしい。

「……よくもまぁ、そんな大それた事を……首の骨を折ったかもしれないのに……」

 数名の生徒がマクゴナガルに向かって必死に弁明をするが、マクゴナガルはその全てをピシャリと聞き入れなかった。

 彼は、本当に退学処分になってしまうのだろうか? 

 シルヴィアはポッターに対してなんとも言えない感情を持った。まだ1ヶ月も経っていないのに退学だなんて、普通の生徒であれば嫌な事だろう。……可哀想にも程がある。しかし、マダム・フーチの言った通りならばそうなってしまうのだろうか?

 だったら、マルフォイも同様では無いか? ついでに自分も退学にしてほしい。ここの人達を見ていると心が疲れる。

 そんな事を考えているうちに、マクゴナガルはポッターを連れて城に向かって大股で帰って行ってしまった。

 

「見ろよ! ポッターはまだ1ヶ月も経っていないのに退学だそうだ!」

 マルフォイは活き活きとそう言った。

「だったら、貴方もよ! マルフォイ!」

 ミス・パチル。と先ほど呼ばれていた少女がそう言い返した。隣に居るウィーズリーと言う赤毛の少年を含めてグリフィンドール生は、マルフォイに対して大ブーイングをした。

 シルヴィアはまた1歩と人々から物理的に距離を置いた。

 

 グリフィンドール寮とスリザリン寮の言い争いが苛烈していく……。

 その矛先が決して自分に向いているものでないと知っていながらもシルヴィアは段々と気分が悪くなる一方だった。

 

「お黙りなさい!」

 マダム・フーチの厳しい声が響き、途端に言い争いは止んだ。

「授業を再開します……と言いたい所ですが。マクゴナガル先生から聞きましたよ! 

 勝手に箒に乗って飛んだ生徒が居た。っと。ミスター・マルフォイ! スリザリンに20点減点です。勿論、グリフィンドールもミスター・ポッターの件がありましたから同じく20点減点です。」

 その言葉にスリザリンもグリフィンドールも肩を落とした。

 

「そして、今日は授業は中止です! こんな事が起きるだなんて前代未聞! 許し難い事実です! さあ、解散! 城へ戻って!」

 マダム・フーチがそう言うと杖を振って箒を全て回収してしまい、怒りながら城へ帰って行った。

 シルヴィアは正直言って安心していた。あのロングボトムのように怪我する事なく今日の授業を乗り越えられたのだ。

 出来ればもう一生、飛行訓練の授業などあってほしく無いが、どうなるのだろうか?

 そんな事を考えながら立ち上がり、ローブに着いた芝生を払う。他の生徒達はぶつくさ愚痴を言いながら城へ足を向け始めていた。

 

「シルヴィア。安心してるわね?」

 ダフネがすぐに近づいて来てそう言った。

「……正直に言ってね。ミスター・ロングボトムみたいに怪我はしたく無いもの……」

「そうね。私も正直言って安心しているわ。私、全然箒のセンスが無いからね。」

 シルヴィアとダフネは2人で苦笑しながら城へ戻った。





 ダフネに自分の一族について調べられて色々知る。以下知った事
 ・自分の祖先は【殺戮卿】アルバート・ネクロタフィオとその妻、メロペー・ブラック。
 ・メロペーはアルバートにアルバートは弟夫婦に殺される。
 ・祖先の弟夫婦の息子であるスチュアートはローズブレイドに姓を変える。
 ・アルバートとメロペーの子は魔力が不安定であり、メロペーに殺害される。
 ・が、生き残って居た。その後、イギリス魔法界に干渉せずに生きていた(ダフネ憶測)
 ・シルヴィアの親は何らかの理由で死ぬ(ダフネ憶測)
 ・その際、因縁があるとは言え血のつながっている現代のローズブレイドであるヘンリーとオフィーリアにシルヴィアを任せる(ダフネ憶測)
 
ダフネ:
 血の呪いの所為で長くは生きられない。その為か厭世的。ネクロタフィオ家についての色々調べて憶測を語った。ただ、上の箇条書きで言うところの3つ目まではわりと魔法界の中で有名な話ではある。
 純血主義は割とどうでもいいと思っている節があるが、自分のその短い人生をなるべく延命させるべく都合よく立ち回るつもりではある。(独自設定)

アルバート・ネクロタフィオ:
 500年ほど前のネクロタフィオ家の当主。【殺戮卿】として有名。ホグワーツに肖像画がある。弟夫婦に殺される。

メロペー・ブラック:
 500年ほど前の人。アルバート・ネクロタフィオの妻。自分の子供を殺害する(?)。アルバートに殺される。
 500年前にブラック家があるかどうか不明だが今作ではある。(独自設定)

スチュアート:
 アルバートの弟夫婦の長男。名字をネクロタフィオからローズブレイドに変える。理由は不吉だから。

ヘンリー・ローズブレイド:
 5年前まで生きていたローズブレイド家の末裔。魔法薬学者だった。恐らく、シルヴィアの養育者。

オフィーリア・ローズブレイド:
 5年前まで生きていたローズブレイド家の末裔、ヘンリーの妻。魔法薬学者だった。恐らく、シルヴィアの養育者。

飛行術のくだり:
 最後の減点以外は原作準拠。

今回:
 正直、情報量詰めすぎたなぁ、とは思っている。以後、気をつけます。

ダフネが想像したシルヴィア周りの家系図的な何か:
 https://privatter.me/page/67a0818dd8109


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次回投稿は1月21日です。
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