呪いの少女と祝福された世界   作:佳山針之介

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2025/03/12 本文編集


第8話 騒がしいハロウィーン

 幾度となく繰り返される授業の日々、それなりに多い宿題をハーマイオニーとこなす毎日。

 シルヴィアは割とホグワーツの平凡な生活は悪く無いものだと思っていた。

 

 その日もいつも通りにダフネと共に授業へ向かっていた。授業の時間はシルヴィアとダフネは一緒に行動する仲になっていた。

「あら、パンプキンパイのいい匂い……」

 廊下にはパンプキンパイを焼くいい匂いがした。

「ほんとだ……。今日は何かあるの?」

 シルヴィアがそう自然に問うと、ダフネは酷く驚いた表情をしていた。何か聞いてはいけない事を聞いてしまったかと思い、シルヴィアは体を固まらせる。

「……きょ、今日は何かあるの? ですって? ……今日は、ハロウィーンよ。

 ホグワーツでは夕食の時間に宴会が開かれるのよ。シルヴィア、貴女もちゃんと来なさいよ? 貴女まだ、まともにホグワーツの宴会の料理を食べてないでしょ? 結構美味しんだから、食べなきゃ損よ?」

「ハロウィーン……あ、ハロウィーンか……。ごめん、すっかり忘れてた……。分かったよ。行くよ……。」

 シルヴィアはなんとなくであったが、ハロウィーンと言うイベントについて思い出した。

 城内に生きている蝙蝠が解き放たれていたり、中身をくり抜いたかぼちゃの中に蝋燭が置かれている。と言う置き物があちらこちらに置かれていた。

 そして生徒達は授業事も休み時間時も関係無く皆、浮かれていた。ハロウィーン・パーティーにどんな料理が出るかどうか楽しみにしている様子で、授業が終わるたびにその話題になる。

 

 授業が一通り終わってから、シルヴィアは今日出た宿題を抱えていつも通り、図書館へ向かう。

 ハーマイオニーと共に宿題をする為だ。ハーマイオニーはシルヴィアが特に苦手な変身術や魔法史について詳しく説明をしてくれる。

 シルヴィアも魔法薬学や薬草学はハーマイオニーよりも知識があったので教え合うという関係が成立していた。

 図書館に向かうなり、いつもの定位置へ向かう。

 いつもなら、自分より先にハーマイオニーが居る筈なのだが居なかった。そんな日もあるか……。と小声で呟いて席に着き宿題を進めた。

 

 結局、シルヴィアが宿題を2教科分ほど終え、外がすっかり暗くなった頃合いになってもハーマイオニーは現れなかった。

 

「……うーん、何かあった……のかな?」

 シルヴィアは宿題を切り上げ、まずは図書館を隈なく探してみる。

 この場所以外にハーマイオニーが来ると言う事は中々無いが、一応探してみる価値はあると思った。しかし、いつもより少ない図書館にハーマイオニーの姿は無かった。

 次にシルヴィアは一旦大広間に向かってみる。

 まだ宴会の時間では無いので人は疎らだった。その疎らな人影にハーマイオニーは居なかった。シルヴィアは少し悩んでから職員室の方へ向かってみることにした。あのハーマイオニーであれば、マクゴナガルやフリットウィック辺りに質問しに行き、それが長引いている可能性があると思ったのだ。

 一旦寮に宿題の類を置いて職員室へ向かった。

 

「居ない……か……」

 職員室を少し覗いてみる限り、まず生徒自体居なかった。

 居るのは怖い顔を顔をしながら事務仕事らしい事をしているスネイプと、そのスネイプに怯えているのか、震えながらこちらも事務仕事をしているクィレルだけだった。

 なんだか、悍ましい空間だった為、シルヴィアは早々に逃げ出した。

 

「次は……う〜ん……」

 取り敢えず、シルヴィアは自分が迷わないように細心の注意を払いながら各教室を巡った。

 ハーマイオニーが授業後、教室で教授に質問している可能性に賭けたのだ。しかし、どの教室も居なかった。

 

「ど、どうしよう……? 迷っちゃった?」

 結局、シルヴィアはまた迷ってしまったのだ。それも今回は1人。

 周囲は全て使われていない空き教室だらけで、誰も居ない。現在の状況を嘆き言葉を紡いだ。

 

 そんなシルヴィアの瞳にあるものが飛び込んでくる。それはたまたま開いていた教室に置いてある天井まで届くような大きな鏡だ。

 シルヴィアは自然と鏡に興味が向き、教室の中に恐る恐る入る。中には当然のように誰も居らず、少々カビと埃臭かった。シルヴィアは自然と大きな鏡の前に立つ。

 鏡の枠には金の装飾が施されており、2本の鉤爪状の脚が伸びていた。枠の上の方には文字が彫ってあるのが見えた。

 

すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ

 

 シルヴィアにとって、全く意味の無い文字列のようにしか思えなかった。枠から目を離すと大きな鏡に映る自分が目に入って来る。

 そこに映るシルヴィアは1人では無かった。シルヴィアの他にもう1人映っていた。

 

 それは絹糸のように柔らかく、鴉の濡れた羽のような黒髪ではっきりとした顔立ちに灰色の瞳を持っている女性だった。

 その女性は、鏡の中のシルヴィアの後ろに立ってほんのりと笑っていた。

 

 女性はシルヴィアがいつも着ているような『時代遅れ』な黒を基調としたドレスに身を包んでいた。そしてその灰色の瞳は優しくシルヴィアを見つめているように見えた。

「お、お母……さ、ま……?」

 シルヴィアは鏡の方へ一歩踏み出す。

 ──そこでシルヴィアは激しい頭痛に襲われる。

 これ以上は踏み込んではいけない。と警鐘を鳴らすような頭痛。ダフネからマグルやマグル生まれについての解説を受けた時に襲って来た頭痛と同じような痛みだった。

 シルヴィアは床に座り込み頭を抑える。一体、何がダメなのだろう?

 

「この時代を生きる誰よりも、高貴で尊い血を持つ者よ……」

 誰かの声が聞こえた。自分の耳元から声が聞こえて来た。

 誰の声かは分からない。ただ、シルヴィアはどこかその声に聞き覚えがあった。

「お前はマグルを恨んでは無いか? あの時の深い憎しみの心を忘れては無いだろう? あの時の理不尽を、不条理を忘れてはいないだろう? 母君の恨みを晴らしたいと思わぬかね? 

 お前は我々と共に歩む気には無いかね? 我々の元に来れば、きっとマグル達に復讐を果たす事が出来るだろう。」

 シルヴィアは遂に叫びたくなる程の頭痛が襲って来た。それでも、なんとか意識は保っている。

 保っていなかれば誰かに連れて行かれる。そんな気がした。

ワ、私は……セ、界ォ恨んで……

 自分の意思とは関係無く勝手に唇が動く。違う。違う! シルヴィアはそう叫ぼうとするが、声にならない。

 

───!!

 誰かの怒声が聞こえて来た。

 何を言っているかは聞き取れなかった。ただ、その声を聞くなりすぐ近くでバタバタと足音が聞こえて来た。

 その足音が遠くに行くと同時にシルヴィアの意識も戻って来た。

 そして、なるべく鏡を見ないように部屋から這うように出た。

 

「……ネクロタフィオ? ここで何をしている?」

 頭上から声が聞こえてくる。未だに頭痛が残る頭を上げる。

 そこにはハロウィーン飾り要員の蝙蝠。──に似た格好をしたスネイプが立っていた。

「あ、あの……鏡に……お母様が、映って……いて」

 シルヴィアは部屋を指差しながらスネイプに訴える。スネイプは一瞬目を見開いたが、すぐに戻る。

 

「立ちなさい。」

 そう短く言った。シルヴィアは壁を伝って立ち上がり、自分のローブに着いてしまった埃などを払う。

「ネクロタフィオ。君は最近しっかり薬を飲んでいるか? と言うか、ストックはまだ切れていないか?」

「え? え〜っと……3日に1日ぐらい……──その、忘れてます。ストックは……ホグワーツに来る前に余分に作っておいたので……まだ残っています。」

「そうか。薬の飲み忘れはくれぐれも気をつけるように。ストックが切れそうになったら我輩の元まで来たまえ。用意がある。」

 そう言うとスネイプはシルヴィアの元からすぐに立ち去ろうとする。しかし、途中で止まる。

「ネクロタフィオ。」

「は、はい?」

「クィレルに気をつけろ。」

「え、えぇっと……な、何故。ですか?」

 シルヴィアは理解が出来なかった。

 あの自分以上に吃りの酷い先生を。あのアフリカでゾンビを倒した英雄的な先生を何故、気をつけなければならないのかが理解出来なかった。

 

「いいから警戒を怠るな。……それと、何故君はこんな場所に居た?」

 スネイプは一気に話を逸らした。もうこれ以上詮索するな。と言う意思表示なのだろう。シルヴィアは物凄く不審に思いながらもスネイプに問いに答える。

「ハーマイオニーを……ハーマイオニー・グレンジャーを探してたので……。図書館に居なかったので。スネイプ先生は知りま──「知らない。取り敢えず、さっさとハロウィーンの宴会に向かえ。」

 そう言うなり、スネイプは去って行ってしまった。

 シルヴィアはよく分からないままその場に取り残される。ただ、教室の窓から見える空はすっかり暗くなっていて、そろそろ宴会が始まる時間である事は容易に想像出来た。

 

 シルヴィアはハーマイオニーが何かしらの事情で図書館に来れず、自分に言いに行こうとはしたが自分が図書館から離れていた為、行き違いになり出会えなかった。と言う結論に至らしめて大広間に向かうことにした。

 正直、シルヴィアは食への興味関心は薄かったし、パンプキンパイの匂いをいい匂いだな。と思ってもそれを食べたい。と言う思考は無かったので、宴会などどうでも良かったのだが、スネイプにも言われてしまったのだから行くしか無い。と心に決める。

 

 大広間前に辿り付いた時、ちょうど同学年のグリフィンドール生女子の話し声が聞こえて来た。

 ハーマイオニーがトイレで泣いていて1人にしてくれと言っていたらしい。シルヴィアは閃いたように、大広間へ入って行く生徒達の波に逆らって女子用トイレへ向かう。

 シルヴィアは歩くのも走るのもそこまで早くない。

 何せ、5年間まともに外に出た事が無かったからだ。シルヴィアがハーマイオニーの元に着いたのは大広間前を離れてだいぶ経っていた。

 

「ハー……マイオニー……?」

 女子トイレにシルヴィアの声が響き渡る。よく耳を澄ませば、誰かの押し殺すように泣いている声が聞こえた。

「い、居るん……だよね?」

 やがてシルヴィアは唯一扉が閉められている個室の前に立つ。

 

「そ、その……」

「シル……ヴィア? ……ご、ごめんなさい。何も言わずに図書館に行かなくて……けど、お願いだから。お願いだから今は来ないで……。1人に……なりたいの……」

 ハーマイオニーはそう言い、シルヴィアを拒絶した。

 シルヴィアは自分がどうすればいいのかが分からなかった。何か、慰めの言葉をかけてあげたい。しかし、シルヴィアは何故ハーマイオニーが泣いているか理由を知らなかった。なので、どうとも言えなかったのだ。

 シルヴィアは暫くそこに突っ立っていた。

 

「そ、その……ハーマイオニー……君は、す、凄いと思うよ! 誰よりも優秀で誰よりも優しい。と思う。」

「えっ、え……?」

「わ、私は……ハーマイオニーが、な、何で泣いてるかは……知らない。

 けど、そのー。なんて言えばいいんだろ……。ハーマイオニーは私の……と、友達だからさ。なんて言うか……そ、その。友達が悲しんでると……私も悲しいし……。と、友達はな、なるべく笑顔でいてほしい……」

 シルヴィアは今まで絶望的に人付き合いをしてこなかったのだ。

 友達だって1人も居なかった。だから、友達が悲しんでいる時どういってあげるのが正しいのか知らなかった。分からなかった。

 

「あ、ありがとう……?」

 ハーマイオニー自体も何て言えばいいのか分かっていなさそうだった。シルヴィアは今はハーマイオニーを1人にしてあげようと考え大広間に戻ろうとした。

 その時だった。廊下から地響きするような音が聞こえてきたのだ。ハーマイオニーは慌てて個室から出て来た。シルヴィアとハーマイオニーは、目を見合わせる。

「い、今の……音は。何?」

「わっ、分からない。け、けど……なんか、に、逃げないと大変な事に……なる気がする。」

 シルヴィアはそう言い、ハーマイオニーの腕を掴んでトイレの入り口の方へ急ぐ。

 その頃には3年ほど前に、シルヴィアが森にあったそこら辺の草を混ぜて新薬を作ろうとした際に、思いっきり失敗した際のあの悪臭が鼻についた。

 あの時、何が失敗の原因だったのか……。

 シルヴィアが回想する間もなく、ブァーブァーと言う唸り声が聞こえた。そしてあの地響きがもうすぐそこまで来ている。シルヴィアもハーマイオニーも恐怖で震え始める。

 

「な、何が来ているのよ!」

 そうハーマイオニーが叫んだと同じタイミングで廊下の角を曲がって来た存在が居た。その存在は月光に照らされ嫌でもよく見えてしまう。

 恐ろしい光景だった。背は4m以上もあって陰鬱な曇りの日の雲よりもずっと暗い灰色の肌。岩石のようにゴツゴツのずんぐりした巨体。禿げた頭はその体に比べ随分と小さかった。

 短い脚は、今までシルヴィアが森の中で見て来たどの木の幹よりも太く、コブだらけの平たい足がついている。

 腕が異常に長いので、手にした巨大な棍棒は足を引きずっている。物凄い悪臭を放っており、見ているだけで鼻が曲がりそうだった。

 シルヴィアは、銀行で出会ったあの小さな異形の彼らと逆バージョンだと咄嗟に思った。しかし、彼らのような知性は一切感じられず、衝動のみで動いているように見えた。

 その、中身の無い頭は遂にこちらに歩み出す事を決めたようで、ドシドシと音を立てながら歩いてくる。シルヴィアは完全に硬直してしまった。

 

キャアアアア!! シ、シルヴィア! ど、どうしよう! あれはトロールだわ! トロールは殆ど知性が無いんだけど、厄介な事に大人の魔法使いでも倒せないほどの凶暴性を持っているのよ!」

 ハーマイオニーは叫び声をあげながらも、きっとどこかの本から仕入れて来たであろう情報を話す。

 ただ、シルヴィアは動けない。人生史上最大の恐怖を覚えて叫び声をあげる事すら、儘ならない。

 シルヴィアが動けない間もノロノロとではあるが、トロールは2人の元へ近づいて来ている。

 それも棍棒を振り回しており、壁やら廊下に置かれている石像がどんどんと破壊されて行っている。

 

「な……んとか……しな、い……と」

 シルヴィアは絞り出すように声を発する。しかし、それでも動けない。やがてトロールは2人の目の前までやって来る。

「に、逃げましょ! シルヴィア! 今なら、ギリギリ逃げ切れ──」

 シルヴィアの手には、柘榴の木で出来た自分の杖が握られていた。

 何故握っているかはシルヴィアも分からない。ただ、杖をトロールに向けていた。トロールは棍棒を振り下ろそうとしていた。

 

「む、無謀だわ! 1年生の力でどうにかなるような相手じゃな──「わ、私は! シ、シルヴィア・ネクロタフィオ。誇り高き──!」

 シルヴィアは自分の言葉を終える前に杖から2本の閃光を飛ばす。その2本の閃光はトロールへ向かい命中した。するとトロールの棍棒は見事に放物線を描いて吹き飛んだ。

 

〈ウィンガーディアム・レヴィオーサ 浮遊せよ〉!

 今度はあちら側から2人の少年の声が聞こえた。

 トロールの注意は一気に少年の声がした方に向く。シルヴィアとハーマイオニーがそちらの方を向くとポッターとウィーズリーが杖を持って立っていた。

 2人は魔法を放っていた。その放たれた閃光はシルヴィアが吹き飛ばした棍棒に当たり、棍棒が跳ね返る。そして見事に華麗にトロールの頭にぶつかる。

 トロールは怯んだようで、大きな音を立てながら倒れる。

 

「よ、よよ……よか、よかった」

 シルヴィアは緊張がすっかり解けたようで、床に座り込む。

 

「これ……死んだの?」

 ハーマイオニーが口を開く。

「いや。ノックアウトされただけだと思う。」

「け、けどあれはなんだったの? こいつの棍棒が、君の呪文が当たるなり吹き飛んだけど。」

 ポッターがそう口を開いた。シルヴィアは少しの間黙ってから口を開く。

「わ、分からないや……。昔、お母様がやってたのを見様見真似しただけだから……」

 シルヴィアはそう答えた。トロールと対峙した。と言う緊張度があまりにも大きすぎた為、シルヴィアは殆ど初対面のポッターに対しても吃らず話す事が出来た。

「あれって、多分だけど〝武装解除呪文〟だと思うわ。だって、呪文が当たるなりトロールの手から棍棒が離れたもの! 凄いわ。1年生じゃ習わないような魔法だと思うわ。よく出来たわね……」

「え、えへへ……」

 スネイプ、マクゴナガルそれに、クィレルがやって来た。

 クィレルはトロールを見るなり、ヒーヒーと弱々しい声を上げ、胸を押さえて座り込んでしまった。

 ここでシルヴィアは若干違和感を覚えた。

 何故、ゾンビを倒した。と言う偉業を持っているような先生がトロールを見ただけで過剰反応をするのか……。シルヴィアは少しの間クィレルを見ていた。

 スネイプはトロールを覗き込んだ。マクゴナガルはハリー、ロン、ハーマイオニー、シルヴィアを順に見つめた。

 マクゴナガルは今まで見た事がないほどまでに怒っていた。シルヴィアは「ヒッ!?」と小さな悲鳴を上げた。

 

「一体全体、あなた方はどういうつもりなんですか?

 マクゴナガルの声は冷静さを必死に保とうとしている声だった。

「殺されなかったのは、運が良かった。寮に居るべきあなた方がどうしてここに居るのですか?」

 スネイプはハリーに素早く厳しい視線を向けた。

 何故、この先生はポッターに対して憎悪にも似た感情を持っているのだろう。とシルヴィアは思った。

 

「マクゴナガル先生! 聞いてください。私がトロールを探しに来たんです。私……私、1人でやっつけられると思いました……。本で読んでトロールについては色んな事を知ってたので。」

 ハリーもロンもシルヴィアも目を見開いて驚いた。ハーマイオニーが真っ赤な嘘をついているのだ。

「もし、3人が私を見つけてくれなかったら……私、今頃死んでいました。シルヴィアは武装解除呪文でトロールの棍棒を吹き飛ばしました。それで、ハリーとロンはそのトロールの棍棒をトロールの頭に当ててノックアウトしてくれました。

 3人とも誰かを呼びに行く時間がなかったんです。シルヴィアが1番に来てくれました。けど、その時点でトロールに追い詰められていたんです。ハリーとロンが来てくれた時もシルヴィアが棍棒が吹き飛ばしたとは言え、私、もう殺される寸前で……」

 ハリーとロンはその通りです。と言う顔を装った。シルヴィア若干戸惑いながらも皆と同じ表情を作ろうとした。

「まぁ、そういうことでしたら……」

 マクゴナガルは4人をじっと見た。

「ミス・グレンジャー、なんと愚かしい事を。たった1人で野生のトロールを捕まえようなんて、そんな事をどうして考えたのですか?」

 ハーマイオニーは項垂れた。ハーマイオニーは規則を破るなんてそんな事は絶対しない人間だ。その事は学年中に殆ど周知の事実だった。

「ミス・グレンジャー、貴女には失望しました。グリフィンドールから5点減点です。……判断力に欠けていますよ!」

 マクゴナガルはそうはっきりと言った。

 

「あなた達3人も! 無事だったのは運が良かったからです。1年生で野生のトロールを相手にして生きて帰れる者はそう居ないでしょう。よって5点ずつ3人に与える事にします。」

 ハリーとロンは顔を見合わせて嬉しがっていた。

 ただ、みんなよりもずっと視線の低い所に居たシルヴィアは目の前の異変に気が付く。スネイプの足から血が流れていたのだ。

 

「4人とも怪我が無ければそれぞれの寮に帰った方が良いでしょう。生徒達がさっき中断したパーティーの続きを寮でやっています」

 マクゴナガルがそう言ったので、ハーマイオニーはシルヴィアの手を取って立たせて4人は寮へと進み出した。

 

「武装解除呪文を無言で放ったけど……そんなの見様見真似で出来ないと思うわ。……どこで身につけたの?」

 ハーマイオニーが帰り際に聞いて来る。シルヴィアは少し悩むが特に答えが浮かんでこない。

「よく分からないや……。けど、本当にごめんなさい。……えぇっとミスター・ウィーズリーにミスター・ポッター。

 私、君達が来るとは想定できなくて……危うく君達に棍棒が当たるところだった。」

「ま、まぁ……結果的に当たってないし、大丈夫だよ」

 ポッターはそう答えた。

「君って……その〜、純血主義者じゃないの?」

 ロンが気不味そうに聞いて来た。シルヴィアは、あまり間を置かずに話し始めた。

「……違うかも。私、数日前にそんな主義について知ったからし、マグルとかマグル生まれの事についてもそう。……それに、ハーマイオニーと……と、友達だし!」

 そう言うとウィーズリーは大層不思議そうな物を見る目になってシルヴィアを見た。

「あの悪名高き『墓場の君主』のネクロタフィオなのに……」

 ウィーズリーはそう呟くように言った。その声は誰の耳にも届いて居なかった。その頃には丁度別れ道になる。

「じゃあね! シルヴィア!」

「うん! 3人ともじゃあね!」

 

 間も無くシルヴィアが寮へ戻ると談話室ではマクゴナガルが言った通り、ハロウィン・パーティーが執り行われていた。

 みんな談話室に運ばれて来た食べ物を楽しそうに食べており、大抵の生徒達はシルヴィアが帰って来た事もそもそもシルヴィアが居なかった事も気がついて居ない様子だった。

 

シルヴィア! 何処行ってたのよ!」

 パンジーはすぐさま帰って来たシルヴィアを捕まえて問い詰める。

 その後ろにはダフネと皮付きポテトを平らげているミリセントも居た。

「う〜ん……ちょっと、怪物退治に?」

 シルヴィアはそう言うなり、1番近くのテーブルに置いてあったパンプキンパイを一切れ取り、口に放り込む。

「ふ〜ん。案外、ホグワーツの料理って美味しいんだね!」

 3人は口をポカーンと開けてシルヴィアを見ていた。

 あの気弱で、最近はマシになって来たとは言えいつも吃っているシルヴィアが、スラスラと言葉を発しているのだ。

 それにパンプキンパイを口に入れた瞬間、いつも以上に口角の上がった笑顔まで見せた。

 

「ど、どうしちゃったのシルヴィア!? 頭でもぶつけたの?」

 ダフネがすぐに問う。

「まぁ、そんなものかも。ふわぁ〜……眠くなっちゃった。私はお先に失礼するね」

 そう言うなりシルヴィアは手をヒラヒラさせながら部屋の方へ向かってそのまま姿を消した。

 

「ほ、本当に……どうしちゃったのかしら?」

 ダフネが一番驚いていた。

「まぁ、いいんじゃない? きっと成長ってやつだよ。」

 ミリセントはそう言ってパンプキンパイを2切れ同時に平らげた。ダフネとパンジーは目を見合わせて口をパクパクとさせていた。

 

 

「けど、トロールがどうして城内に居たのかな? ……ここはあまりにも物騒すぎる学校だよ」

 シルヴィアは日記を書きながら1人呟いた。

 それに、もう1つ気になる事があった。スネイプの脚の傷だ。スネイプの脚は見るも無惨な程にズタズタになっていた。

 シルヴィアの謎の経験則上、あれはそれなりの大きさの動物に引っかかれた跡だ。少なくともトロールにやられた跡では無いと思う。

 

「も、もしかしなくても……この学校、怪獣とか居る?」

 シルヴィアはブルっと自分の身が震えるのを感じた。冗談じゃない。学舎に怪物とかどうして居るんだ。

「そう言えば、オリビアはあのハグリッドって言う人が飼ってる動物に……殺されかけたんだっけ?」

 けれども、あの人を殺す視線を持ち合わせているスネイプが某元一般郵便梟のように怪物に殺されかける筈無い。あれは怪物をも殺す事が出来るタイプの目だ。

 

「まぁ……私がとやかと考えても無駄か……。よし、疲れたし寝よう」

 

 

 余談であるが、次の日のシルヴィアは今までの自信なさげな性格を脱却した。その変化にパンジーとダフネは大層驚き、ミリセントは歓喜した。





ハロウィーン:
 シルヴィアに存在を忘れられていた。よくよく考えたらハリポタはハロウィーンに色んな事件が起こりやすい。

みぞの鏡:
 『すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ』
 鏡の前に立つ者の心の奥深くにある最も切なる望みを映し出す。シルヴィアは母親が映った。

絹糸のように柔らかく、鴉の濡れた羽のような黒髪ではっきりとした顔立ちに灰色の瞳を持っている女性:
 シルヴィアの母親。

トロール:
 馬鹿でかい。そして馬鹿。力だけある。後、臭い。臭さはシルヴィアによると『3年ほど前に森にあったそこら辺の草を混ぜて新薬を作ろうとした際に、思いっきり失敗した際のあの悪臭』である。

ロン:
 ロナルド・ウィーズリー。赤毛のっぽ。ギリギリシルヴィアに認知されている。シルヴィアを怪訝に思っている。飛んできた棍棒をウィンガーディアム・レヴィオーサで棍棒を見事、トロールの頭に落とす。

ハリー:
 原作主人公。この話で初めて今作主人公と会話(一往復)をした。飛んできた棍棒をウィンガーディアム・レヴィオーサで棍棒を見事、トロールの頭に落とす。

ウィンガーディアム・レヴィオーサ:
 浮遊魔法。
 ハー子「レヴィオーサよ、あなたのはレヴィオサー……」

『墓場の君主』のネクロタフィオ:
 ネクロタフィオ家を恐る呼び名。詳細はまたいつか。


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