追想-篠澤広P編-   作:霜凍

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番外編 篠澤広の誕生日 前編

登場人物紹介

・駿河ハル 我らが学P、本シリーズの主人公、設定等は『追想』準拠、作中P表記

・篠澤広 担当アイドル、駿河同様『追想』から地続きの関係、NIAが楽しみ。

・倉本千奈 いい子で可愛い、NIAが楽しみ。

・花海佑芽 濁点好き、補修組みんな好き。

・藤田ことね 今回チョイ役、世界一可愛いらしい。

 

 

12月初旬の某日

 P「21日、丸一日時間を作れますか?」

俺、こと駿河ハルは担当アイドル、篠澤広にそう問いかけた。

 広「21日って、土曜日だっけ…?いいよ。」

そう言って快諾する篠澤さん。

 P「ありがとうございます、良かったです。」

 広「…土曜日に丸1日なんて何かのお仕事?」

 P「え?」

 広「え?」

フリーズ、訪れる静寂。

 P「…そうではありませんが大切な用事がありますから。」

 広「…?なにか予定、入ってたっけ?」

 P「え?」

 広「え?」

全くこの人は…

ウン、と咳払いをしてから続ける。

 P「まあとりあえず大事な予定ですので忘れないようにお願いします。」

 広「…わかった。プロデューサー、お料理配信の事なんだけど……」

………

……

その日の夜

ガチャ、キィ…パタン、カシャ。

 「ただいま。」

誰もいない部屋に向かって帰宅の挨拶をする、返事がないと分かっていても習慣として言ってしまう。

 「よっこい、せっ」

靴を脱いで靴下を脱ぎそれを脱衣場にある籠に投げやる。

あ、片方外れた…二度手間になった。

リビングに繋がる扉を開くと机にpcとベッドと収納くらいしかない簡素な部屋が出迎えてくれる。

その一角、無機質な部屋の中に異彩を放つシアン色が目立つそれら、初星学園が出している『篠澤広』のグッズ…所謂ところの<祭壇>。

 「ただいま戻りました…なんてな。」

独り言を呟きスーツを脱いでハンガーに掛けて

Pから俺へと戻る、ワイシャツはあとで持っていけばいいや、そうパジャマに着替える。

着替えたらケトルに水を入れて沸かす、沸かしている間に既に製粉されているコーヒー豆から適当なものを選ぶ、今日はこれでいいや。

そうしているうちにお湯が湧くのでお気に入りのマグを取り出してコーヒーを入れる。

 「さてさて、今日の進歩は…」

先程作ったコーヒーを手に部屋に置かれたpcの前に座りタスク整理を行う。

 「お料理配信は、近いうちに実力確認を兼ねて何か作ってみる為に学園の料理スタジオを予約しておくとして、クリスマスライブのレッスンの進捗は…ダンスレッスンが酷い有様、と…21日、篠澤さんは多分自分の誕生日って忘れてたよなぁ…」

そう、12/21は担当アイドルの誕生日なのだ。

 「とりあえず1日開けてくれるように頼んだし…外出申請は21:00くらいまでなら下りるかな、プレゼントは…どうしようかなぁ…」

コーヒーを啜りながら思案に耽る。

 「そういえば事務所に置いてあるマグって適当に買ったやつだし"コイツ"もう1個欲しいな…今度あのお店に行かなきゃ…んー、マグもありか?いやーでも…」

そんなこんなで夜は更けていく、窓の外では気の早いクリスマスの飾り付けたちが夜の闇を鮮やかに輝いていた。

 

 

数日後のある日

 佑芽「広ちゃん、ちょっといい?」

 千奈「篠澤さん、21日ってなにかご予定があります?」

そう佑芽と千奈が話を振ってくる。

 広「21日?プロデューサーに開けててって言われてる。」

 千奈「まあ!そうなんですのね、さすが篠澤さんのプロデューサー様ですわ。」

千奈が何故か嬉しそうな顔をしている。

 広「?…皆なんでそんな、21日に予定入れたがるの?」

 千奈「へ?」

 佑芽「え?」

 広「ん?」

………

なんとも言えない沈黙が流れる。

 佑芽「あの…さ、広ちゃん、21日にホントに思い当たる事ないの?」

 広「うん、ない。」

 千奈「い、言い切っちゃいましたわ…」

なんとも言えない顔をする千奈、表情がコロコロ変わってかわいい。

 広「むぅ…なんで皆予定を入れたがるんだろう?」

わたしは素直な疑問を投げかけてみた。

 千奈「と、当然ですわ!21日と言えば篠澤さんのお誕生日ですもの!」

 佑芽「そうだよ広ちゃん!お祝いしなきゃ!」

 広「……あぁ!」

そう言えばそうだった。

 千奈「そんなに目をまん丸にされて…本当に忘れてたんですわね…」

 佑芽「もしかして友達とお誕生日会とかやったことないの?」

 広「うん、無い。友達いなかったし。」

大学の時もそんな事をした覚えは無いし、幼い頃にも覚えはなかった。

 広「…じゃあプロデューサーが21日を開けて、って言ったのって…」

 千奈「きっとデートのお誘いだと思いますわ。1日開けててと仰ってたようですし、どこか遠方まで行こうとしてたかもしれませんわね。」

 佑芽「…これで付き合ってないって無理があると思うんだけどなぁ。」

 広「そっか、ふふ、そうなんだ。」

プロデューサーは本当にいつもわたしの事を考えてくれてる、嬉しい。

 千奈「篠澤さんが乙女の顔をしてますわ〜、本当はお誕生日パーティを考えておりましたがプロデューサー様のご予約があるみたいですので仕方ないですわね。」

 佑芽「うんうん、プロデューサーさんも楽しみにしてるだろうしね。」

 広「…プロデューサーに聞いてみる。」

 佑芽「ゔえ゙ぇ゙!?」

 千奈「だ、ダメですわ篠澤さん、せっかくのデートですのよ?」

 広「確かに、デートも行きたい…でも、千奈と佑芽にもお祝いして欲しい…」

 千奈「篠澤さん…」

わたしは携帯を取りだしてプロデューサーの携帯に電話をかける、2コールもしないうちに電話に出るプロデューサー。

 

 P「お疲れ様です篠澤さん、なにかありましたか?」

 広「あのね、プロデューサー…21日のことなんだけど。」

 P「倉本さんからお誘いを受けましたか?」

 広「…知ってたの?」

 P「いえ、普段の様子を見ていれば倉本さんならそうするかな、と予想は立てていました。1日開けて欲しいと言ったのもお誘いがなければ外出を考えていましたが[そういう事]もあるだろうと思っての事でした。」

 広「ふふ、プロデューサーはいつもわたしのことを考えてくれてる。」

 P「そりゃ俺は篠澤さんのプロデューサーですから、当然です。」

 広「そっか、嬉しい。」

 P「倉本さんに変わっていただけますか?」

 広「…千奈は今はいないよ?」

 P「下手な嘘はやめてください、お誘いを受けていても経ってもいられなくて電話をしてきたんでしょう?」

 広「流石わたしのプロデューサー…わたしの事をよく分かってる、今変わるね。」

 

 千奈「お電話変わりました、倉本千奈ですわ…はい、プロデューサー様の慧眼には驚かされましたわ!…分かりました、駿河様…はい、はい、そのつもりですわ…す、駿河様はそれでよろしいんですの?…で、ですがお誕生日デートなんて…ふふ、本当にお熱くて羨ましい限りですわ、ではお言葉に甘えさせていただきますわね、ありがとうございます、駿河様。」

要件が済んだのか携帯渡してくる千奈。

 

 広「お熱いって…千奈にどんな話したの?」

 P「誕生日デートならこれから何十回でもいけるという話です。」

 広「そうだね、ちなみにプロデューサーの誕生日って何月だっけ?」

 P「2月ですね。」

 広「じゃあ、お祝いしなきゃだね。」

 P「それはその時に考えましょう、21日ですが倉本さんのパーティに行ってあげてください。」

 広「…いいの?」

 P「もし罪悪感が残ると言うならクリスマスにでもデートをしましょう、それで埋め合わせです。」

 広「ふふ、分かった…楽しみにしてる。」

 P「ではそのようにしましょう、倉本さんにはよろしく伝えておいてください。」

 広「うん…ありがとう、ハル。」

 P「…倉本さん、そこにいるんですよね?」

 広「…忘れてた、いつもの癖。」

 P「切りますよ、まだ今日のタスクが済んでませんから。」

 広「うん、じゃあまたレッスンの時に、ばいばい。」

電話を切る、千奈と佑芽は「はわわわわ」といった様になんだかあたふたしていた。

 広「いく。」

 佑芽「ひ、広ちゃん、今ハルって!」

 千奈「そうですわ篠澤さん!し、下のお名前で呼び合う関係ってことですの?」

 広「…うん、2人の時だけ…」

 『きゃあ〜』

千奈と佑芽から黄色い声が上がる。

 千奈「そういえば以前駿河様の帰省に同行しておられましたわね…もしかしてその時に?」

 佑芽「ねね、どっちから告白したの?なんて言ったの?すっごい聞きたい!」

 千奈「これはパーティの際に存分に聞き出さなければなりませんね、花海さん!」

 佑芽「そうだね!千奈ちゃん!」

 広「ふふ、大変な日になりそう…でも、参加する…よ。」

 千奈「ふふ、決定ですわね。わたくし気合を入れて準備致しますわ!」

 佑芽「だね!千奈ちゃん!」

 広「ふふ、期待してる。」

もしも、わたしが初星学園に来なかったら、きっとこんな素敵な友達は出来なかったし、プロデューサーとも会えなかった…あぁ、わたしはこの道を選んできて、とても幸せ。

だから…

 広「ありがとう。佑芽、千奈。」

 千奈「うふふ、当然ですわ、だって。」

 佑芽「当たり前だよ、広ちゃん、だって。」

2人『篠澤さん(広ちゃん)は私の友達だから!』

 広「…ふふ、そっか。」

目の奥が震えて熱くなるのを我慢して、誤魔化すように、いつものように笑った。

 

 

時は流れて12/20のレッスン室

 P「今日は特別レッスンを用意しました。」

 広「わぁ、それはとっても…楽しみ。でも、なんで?」

 P「クリスマスライブが間近だというのに寒いせいで普段のレッスンすらままならず振り付けを覚えきれていない人がいるからです。」

 広「当然の結果、わたしの適温は20℃前後。」

 P「トイプードルですかあなたは。」

 広「プロデューサーがわたしをペット扱いしてくる、鬼畜。」

 P「ペットの方が手間がかからないのでそれ以下です。」

 広「ふふ、でも手間のかかる子ほど?」

 P「憎たらしいですね。」

 広「流石はわたしのプロデューサーだね、最高。」

 Daトレ「そろそろイチャつくのやめてもらっていいか?」

 P「すみません、と言うわけで篠澤さんには今日1日でダンスを覚えてもらいます、1度覚えればあとは反復練習ですので何とか間に合わせます、俺は用事で外部にでますので夕方に迎えに来ます。」

 広「うん、分かった。」

 P「ではトレーナーさん、よろしくお願いします。」

 Daトレ「任せておけ、プロデューサーから許可も出てるからみっちりしごいてやる。」

 広「ふふ、わたし、生きて終われるかな…ふふ。」

楽しそうな篠澤さんの声を背にレッスンを後にした。

………

……

初星学園を出てバスに揺られること少し、裏路地に入り目立たないその店に入る。

カランカラン、というドアベルの音。

扉を開けるとコーヒーのいい香りが漂ってくる。

 「いらっしゃい。」

アンティーク調の家具に揃えられた店内のカウンターに佇む老紳士、白色の髪をオールバックにまとめた眼鏡のナイスシルバーが応対してくれる。

 P「こんにちは、マスター。」

 マスター「やあハル君、今日は豆の注文かな?」

初星学園に入って先輩に勧められたこの店は俺の行きつけの店になっている。

 P「いえ、今日はそうではなくて…少し相談に来たんです。」

 マスター「ほう、相談かね。すこし座って話そうか、1杯淹れるからカウンターに座って待っててくれ。」

 P「ありがとうございます。」

カウンターに腰をかけてマスターの仕事を観察する。

ミルで豆を挽く音やサイフォンにコーヒーが溜まっていく様子など見ていて飽きない、完成された様子はそれ自体が美しい。

そんな様子を眺めて少し待っているうちに出来上がったコーヒーを持ってきてくれるマスター。

 マスター「待たせたね、今日はベーシックにコロンビアコーヒーにしてみたよ。」

 P「ありがとうございます、いただきます。」

香りを楽しみ1口口をつける、クセの少なくバランスのいいコロンビアコーヒーのいい所が出ている、コーヒーの香りが鼻に抜けサイフォンコーヒーならではの滑らかさが喉を通り過ぎる。

 P「…やっぱりマスターの淹れるコーヒーは美味しいですね、ドリップじゃこうはいきませんから。」

 マスター「そうだろう、ハル君も1台持ってみたらどうだい?お安くしとくよ?」

 P「さすがにコーヒーの勉強までする時間は…取れそうになくて…」

 マスター「そうだろうねぇ、それで相談だったかな?」

 P「はい、以前おすすめしてもらったマグなんですが、あれをもう2つ買おうとおもってまして。」

 マスター「以前君に勧めたのは確か天目のマグカップだったかな、2つとなると…どなたかのお祝いの品かな?」

 P「お祝いと言えば正しいのですが、俺が事務所で普段使いしたいのと…たんt、大事な人が誕生日なのでそのプレゼントに、と思ってですね。」

 マスター「ははは、気に入ってもらえているみたいで嬉しいよ。その贈り主は男性かい?女性かい?」

 P「女性…ですね、俺より年下ですけど。」

 マスター「ふむ、そうなるとあんまり渋いデザインは好まないかもしれないね…その子もよくコーヒーとか紅茶とか飲むのかい?」

 P「えぇ、よく飲んでますよ。俺がここで買った豆や茶葉を置いてありますから。そこから選んで俺が淹れてあげてます。」

 マスター「そうなると…一応聞くんだけどねハル君、恋人だったりするのかな?」

 P「ン゛ッ!」

コーヒーをふきかけた。

 マスター「ははは、当たらずも遠からず…となるとそうだね、アレがいいかな。少し待っててくれ。」

そう言い残して店の奥に向かうマスター、少しして桐箱を抱えて戻ってきた。

 マスター「藍染水滴と辰砂、青と赤のペアカップだよ。」

どうだい?と言って中身を見せてくれる、藍染水滴の青と地の白の美しい色合いを持つ1品と辰砂の深い赤の映える1品。

どちらが使っていてもおかしくないようなペアカップだった。

 P「凄くいいと思います、けどこれかなりするんじゃ?」

 マスター「実はね、4.5年前かな…クリスマスに家内と使おうと思って買ったんだけどもっといいものをプレゼントされてね、出すに出せずいたんだよ。」

 P「仲がいいんですね、羨ましいです。」

 マスター「そうだろう?昔私が白いペアマグカップをプレゼントした時に「白の意味って知ってる?」と聞いてきてね、クリスマスの時に同じ事を言われたものだからつい嬉しくなってしまって…おっと、すまないね、話が逸れたよ。

だからこれは店の売り物じゃなくて私の私物なんだ、もしハル君が良ければ…お安くしてくよ。」

 P「じゃあこうさせて頂けますか?カップ代はちゃんとお支払いします、なので上手なドリップの淹れ方を教えて欲しいです。」

 マスター「ははは、ハル君も男の子だね…うんうん、若いっていいねぇ。いいよ、君の提案に乗ってあげよう。」

 P「ありがとうございます…あ。」

気がつけばカップが空になっていた、少し口惜しさを覚える。

 マスター「ふふふ、私の教え方は厳しいからね、これから大量のコーヒーを飲むから今これくらいにしておいた方がいい。ハル君、1ついい事を教えてあげよう。」

 P「なんでしょう?」

 マスター「世の中、大抵の問題はコーヒーを1杯飲んでいる間に解決するものだよ。」

 P「肝に銘じます。」

それから俺は夕方手前までマスターから手ほどきを受けることになった。

カップ代は安くなかったがいい勉強ができた。

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