17:0頃 保健室
レッスン中に倒れた私はリスポーン地点のようにこの保健室のベットで目を覚ます。
正確に言えばまぶたの裏の暗黒に思考をめぐらせている。
今日も倒れちゃった/楽しいね
クリスマスライブ、間に合うかな?/間に合わないかも…ね
間に合わなかったらプロデューサー、私を見限るかな/きっと、しない。それに絶対…すごい顔しながら仕上げさせてくる
そうなったら嬉しい?/きっと倒れても止めてもらえない、それは…とっても
「…ふふ」
自然と口から笑みがこぼれる。
ガラガラガラ、と開く扉の音に瞼を起こす。
??「プロデューサー科1年駿河です、いつもすみません。」
??「いいえ、良いですよ…いつもの事ですから。」
パーテーションを貫通して波が私の耳に届く。
パチ、パチ…とリノリウムの床独特の歩行音、彼がこのベットに近づいてくるのを感じて、寝たフリをしてみることにした。
P「篠澤さん、起きていますか?」
広「…」
P「寝て…ますかね、こんなヤ〇チャみたいな姿勢で…」
実際倒れているのでヤム〇ャと言ってもあながち間違いでもない。
P「仕方ありませんね…よっ、と…」
プロデューサーが、私の私の脇と足に手を差し込み抱き上げるように持ち上げる。
所謂[お姫様抱っこ]。
きっと、起きてるってバレたら下ろされる/どうして?
恥ずかしいから?/そうだね
なんで恥ずかしいんだろう?/それはきっと…
P「…やっぱキレイだな…篠澤さん…」
呟くような一言、きっと…絶対起きてたら言ってくれない言葉、嬉しさで顔が熱くなるのを感じる。
P「ッ…このまま事務所まで行きます、そこまでですよ。」
ふふ、バレちゃったみたい。
私は静かにこくり、と頷くように首を縦に振る。
私を抱えたままプロデューサーは廊下に出る、そのまま雑踏の中へ、私は彼にしか聞こえないように
「ありがとう、好き。」
と呟くのだった。
結局事務所に戻ったあともろくに動けなかった篠澤さんを寮に送り出した。
曰く「動けないって言ってるのに歩いて帰れって言う…プロデューサーは酷い。」と恍惚な顔で申されていた。道中で行き倒れていなければいいが…
とは思いつつも今日の進捗を聞くべくトレーナーの元を訪れた。
コンコン、と職員室の扉をノックし中に入る。
「プロデューサー科1年、駿河です、失礼します。」
職員室内を見回して目的の人物をみつける。
P「お疲れ様です、トレーナーさん。進捗どうですか?」
Daトレ「それは進捗ダメです、って答えるのが正解なのか?」
P「冗談です。」
相変わらずノリのいい人だ。
Daトレ「まあそうだな、一通りの振り付けは覚えられたようだから、後はプロデューサーが言ってたように反復練習だな、そこそこ頑張ってたから後で褒めてやれよ。」
P「そうですね、明日は特別な日でもありますから。」
Daトレ「明日?何かあったか?」
P「いえ、こちらの話です、すみません。今日は一日お付き合いいただいてありがとうございました。」
Daトレ「なに構わないさ。ライブに間に合わない方が私としても困るからな。」
P「はい、なんとしてもライブには間に合わせますので、失礼します。」
一礼して職員室を出る、しっかり頑張ったんだな、篠澤さん…少し労いの気持ちが生まれかけていた。
その後の職員室
亜紗里「ふふ、若いっていいですねー。」
Daトレ「亜紗里先生なにかご存知なんですか?」
亜紗里「明日は篠澤さんのお誕生日ですから、彼も少し浮かれているのかもしれませんね。」
Daトレ「なるほど、しっかりしてるけど年相応なところもあるんだな…私もクリスマス一緒に過ごしてくれる彼氏欲しいぃ…」
亜紗里「まあまあ、焦らなくてもいい人が見つかりますよ。プロデューサー科は男性も多いですし…」
Daトレ「せんせー、今の発言危ないですよ。」
亜紗里「あ、あらあら…あはは。」
後にどこからか漏れたこの発言がとある新聞によって告白されるのだが…それはまた別の話。
12/20 11:55分頃 自室にて
Daトレーナーから送られてきたレッスンの様子を見ながらコーヒーを啜る。
我ながら美味い、マスターの教え方もあってかなり上達したと思う。
ブブーブブ…ブーブーブー…
携帯のバイブレーションに気がつく、そういえば昼間にミュートにしたままだった。
無機質なディスプレイには篠澤さんの文字、何の用だろうか…
ブブブブー…ブ
P「おかげになった電話番号は電波の届かないところにいるか電話に出ることができません。」
広「そっか…残念、話したいことがあったのに。」
P「そうならそうとメッセージでも送ってくれればこんな悪ふざけしませんよ。」
広「プロデューサーは、結構お茶目。」
P「あなたにくらいしかしませんよこんな冗談。」
広「それは…ふふ、嬉しい。」
P「それで、話したい事とは?」
広「…ふふ。」
P「そうですか、それでは俺から。今日はお疲れ様でした、レッスンの様子を見ていましたが酷い有様ですね。」
広「ふふふ、頑張ったアイドルに酷い言い様…」
P「明日レッスンに入れないとなると3日で全て仕上げるということになります、倒れた程度では止めませんので相応の覚悟をしておいてください。」
広「うん、とっても楽しみ。ねぇ、プロデューサー…ううん、ハル。」
P「…なんですか。」
広「時計、見て。」
机に置かれたデジタル時計に目をやる…なるほど。
12/20/Fri/11:59:50、51、52...
12/21/Sat/0:00:00
P「お誕生日おめでとうございます、広さん。」
広「ありがとう、ハル。ふふふ、嬉しい…初めて誕生日のお祝いしてもらった、ハルに初めてを貰われちゃった。」
P「誤解しか産まない表現はやめてください、万が一にも誰かに聞かれていたらどうするんですか。」
広「責任とってくれる?」
P「とりません。」
広「残念。明日の事なんだけどお昼集合になってるから11:00頃に迎えに来て欲しい。」
P「構いませんが、なぜ?」
広「わたし1人で、千奈の家に辿り着ける気がしない。」
P「理解はしましたがそんな事を胸を張って言わないでください。」
広「明日会った時…またおめでとうって言ってくれる?」
P「その程度の事なら、何回でも。」
広「ふふ…じゃあ、明日…ね、おやすみ、ハル。」
P「はい、おやすみなさい、広さん。」
広「うん、おやすみ。」
プツ、と電話が切れる音…
電話の内容を思い出して、反芻して…
「バカップルかよ…」
顔に熱さを感じるが口元は緩んで止まらなかった。