ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

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寝ます。


酒カスドラゴンとアドワーズ

 アドワーズ家の大きな屋敷は、当たり前ではあるがとても手入れが行き届いている。百年も生きて様々な場所で酒に関わっている中で、貴族の家にも出入りすることがあったファヴニルは、この家がどれだけ大切に手入れされてきたのかを理解しつつ静かに周囲を見回していた。

 

「ここでいつも皆と食事をしている」

 

「……ふむ、厨房と一体化しているのか」

 

「初代が元々料理を好んで作っていたそうでな。その名残……だそうだ」

 

 何でも、従者や当時仕えてくれていた屋敷しもべ妖精達にも料理を作って振舞っていたそうだ。魔法使いの中でも変わり者だったに違いないアドワーズ家の初代の話を聞いていると、ファヴニルの視界に、広間とキッチンが一体化している部屋に飾られている武器────剣と槍が融合しているような外見の槍が飛び込んでくる。

 鑑識眼があるわけではないが、家の者に鍛冶仕事に明け暮れている者がいるため、その武器がどれだけの武器なのかある程度理解することができた。そして、その剣槍が何のために生み出された存在なのかを、目にしただけで理解した。

 

「……あれは」

 

「うん? ああ、あれか? 初代がとある者から賜ったという槍でな。錆だらけではあるが、アドワーズ家の家宝とされている。銘は────」

 

「ネァイリング」

 

「……何?」

 

「竜殺しの剣槍ネァイリング。正しく使えるのであれば、俺の天敵だ」

 

 ヴィヴィアが見ればただの錆びた剣槍だが、ドラゴンの血を引くファヴニルが見れば、己を殺しうる武具の一つであろう輝きを放つ剣槍である。

 

「ベオウルフの剣と同じ名を付けられているだけあって、素晴らしい武器だ」

 

「待て、モルト。竜殺し? あの錆だらけの槍がか?」

 

「ああ、人間にはそう見えるんだな? ドラゴンからすれば、あれほどギラギラと輝いている武器は中々ないぞ?」

 

 竜殺しの逸話を持つ武具はどれもこれも至宝と言っていい輝きを持っている、と笑うファヴニル。己の天敵を見てどうしてそんなに楽しそうにできるのかとヴィヴィアが困惑していると、二人に────正確にはヴィヴィアに────近付く影があった。

 

「ヴィー! おかえりなさい!!」

 

「お、お母様────!?」

 

 それも、凄まじい勢いで突撃してきた影が。襲撃者はシックで動きやすそうなドレスに身を包んでおり、腰には杖の他にレイピアを佩いている。髪色はヴィヴィアと同じく銀色で、背丈は女性にしては少々高め。聞いていて耳が痛くならない綺麗なソプラノボイスを響かせてヴィヴィアに突撃してきた襲撃者は、何を隠そうこのアドワーズ家の当主エレイン・アドワーズである。

 

「もっとよく顔を見せて! ええ、ええ、とっても可愛らしい顔! さすが私の娘! 本当に可愛いわ!」

 

「お、お母様、客人がいるのでこのくらいに……」

 

「クハッ、仲が良好で何よりだよ、アドワーズ」

 

「あら? ああ! あなたがヴィーの手紙に書いてたファヴニルね? 私はエレイン・アドワーズ。よろしくね!」

 

 そう言いながらもヴィヴィアの顔をこねくり回したり、頬ずりしたりすることを止めないヴィヴィア似の女性、エレイン。一人娘を最も可愛がっているであろう彼女は、ヴィヴィアから落ち着きや遠慮などを全て取り除いたとしてもこうはならないだろうと思えるほど、テンションが高い。顔はとても似ているが、性格は似ても似つかない。

 

「ファヴニル・モルトキュールです。彼女にはとてもよくしていただいて────」

 

「ヴィーの手紙にはよくあなたの名前が出てきてね、どんな子なのかって気になってたんだけど……うん、いい子そうで安心したわ!」

 

「光栄です」

 

「息子ができる日も近いかしらねぇ」

 

「む?」

 

「お母様!?」

 

 ニコニコと笑うエレインに対してファヴニルは疑問符を浮かべ、ヴィヴィアは何を言っているんだと叫んだ。なんてとんでもないことを言い出すんだ、この母親はと言わんばかりの大声に、エレインはコロコロと花のような笑みを崩さない。

 

「この子ったら私に似て面食いだし、しかも人を見る目がとっても厳しいから。許婚に、なんて話題が出ようものなら即刻拒絶の姿勢だったし」

 

「望まぬ結婚など、破滅を生むのみかと」

 

 それであれこれ拗れて破滅した家庭をいくつか知っているファヴニルは、表情一つ変えることなく意見を述べる。ファヴニルの意見を聞いたエレインはにっこりと笑顔で頷いた。

 

「ええ、ごもっともだと思うわ! 私もあの人と恋愛結婚したし。自分の子供にも自由に恋愛して、大切だと思える人と結ばれてほしいの!」

 

 もちろん、誰かに大きな迷惑をかけて清算しない人はダメよ? と冷たい笑みを浮かべるエレインを見て、何かそういったものを見てきたんだろうなぁ、と察する二人。

 目配せをして何を見たのかは聞かないことにしつつ、未だに抱き着かれているヴィヴィアはどうにかエレインの拘束を抜け出そうとするが、万力のような力────というよりも、恐るべき技量で抱き締められているため抜け出すことが叶わない。娘を抱きしめるためだけに武の一端を利用している不思議な母親である。

 

「その点、君はとっても高評価! ヴィーが男の子を家に招待するのも、友達を連れてくるのも今日が初めてなの! しかもとっても信頼されてるみたいだし!」

 

「確かにモルトを信頼してはいますが……お母様が思うような関係では……」

 

「もー、私じゃなくてお父さんに似て硬いんだから! あ! 今日はお爺様達も来るからドレスを着てね! ファヴニルは……うちが服を出すわ」

 

「お気遣いいただきありがとうございます。ですが、フォーマルスーツは一式常に持ち歩いていますので」

 

「あら、用意周到なのね! そこもポイント高いわ! じゃあ私、ちょっと狩りに行ってくるからよろしくね!」

 

(……ほう、自ら食料を調達するのか。確かにこの辺りには猪や鹿もいるからな。なるほど、この環境がアドワーズを強くしたのだな)

 

 嵐のように去っていったエレインを見送ったファヴニルは、最後に高速で頬ずりされていたヴィヴィアを見る。友人には見せたくないような醜態を見せてしまったとでも思っているのか、ヴィヴィアは顔を赤くして俯いていた。大人びていようがやはり11歳の少女である。

 

「家族仲が良好なのは、良いことだぞ」

 

「それはそうだがな、分別ぐらいは付けてほしいものだ……」

 

「コミュニケーションがことごとく殺し合いに発展するよりはいいと思うがな」

 

「比較対象がおかしい気がするんだが」

 

 溜め息を零したヴィヴィアの横で酒を呷るファヴニル。友人の家であっても、酒カスドラゴンであることは全く変わっていない。どこまで行っても酒カスドラゴンは酒カスドラゴンなのだ。

 

「全く……それにしても、ドレスか……ヒラヒラした服は好みじゃないんだが」

 

「案外侮れんぞ? ああいった服に得物を隠されると中々分からん」

 

 あの時は武器が砕けたが、と呟いたファヴニルにヴィヴィアは引き攣った笑みを浮かべた。

 

「それは、経験談か?」

 

「そうだな。あの時のやつの顔は傑作だったぞ?」

 

 それもそうだろう。自分の武器が砕ける、などという本来起こるはずがない事態が起こったのだから。ドラゴンの鱗に傷を付けることもできず、砕けた武器を見た者の心情は、想像に難くない。

 

「素晴らしい剣術だったがな。示現流……間違いなく必殺の一撃。美しい技だった」

 

「ジゲン……?」

 

「一の太刀を疑わず、二の太刀要らず。日本有数の武人が初撃を必ず避けよと言った流派だ」

 

 あの時、竜殺しの力を宿した武器を持っていれば、深手を負っていたのは間違いないと言い切れる惚れ惚れする技の数々を思い出すだけで、酒が何杯も飲める。そして彼らとの思い出を振り返るだけで、酒樽一つは消費できるだろう。だからこそ人や酒と関わり続けるのを止められないのだ。

 

「ところでモルト。フォーマルスーツはいつも持ち歩いているのか?」

 

「ああ。冠婚葬祭全てにおいてフォーマルスーツは必須だからな」

 

 特に、人間と関わり続けるドラゴンにとっては。

 ファヴニルは心の中でそう呟き、酒ではなく薬水に口を付ける。人の生涯など、ファヴニル達ドラゴンにとっては瞬きのようなものだ。百年も生きていれば、嫌でも人の生き死にに関わるのだから、別れの日がいつ来てもいいように備えるのは当然のことである。

 

『本当に、あの時から変わらないのね……私はもう、しわくちゃのお婆ちゃんになってしまったわ。それでも美しいだなんて言える?』

 

『ああ、悔しいなぁ……もう俺は何も見えない、何にも聞こえない爺さんだよ。あんたの絵、完成させる前に、こうなっちまった。カッコ悪ぃよなぁ……』

 

『ねぇお兄ちゃん……僕、綺麗だったかな?』

 

(ああ、間違いなく、素晴らしい輝きだったとも。涙が出るほどに、美しく、カッコよく、綺麗な星だった)

 

 別れの日が来た時、盛大に笑おう。盛大に泣いて、笑って、酒を飲み、見送ろう。そのために、備え続けるのだ。

 

「……モルト?」

 

 薬水を飲みながら感傷に浸るファヴニルを見て、ヴィヴィアは違和感を感じた。いつも達観していて、酒のことしか考えていないと豪語する酒好きのドラゴンが、どこか寂しそうに見えたから。だが、その違和感もファヴニルが口を開いた直後に消える。

 

「アドワーズ、部屋に案内してくれるか?」

 

「あ、そうだったな。すまない、屋敷の案内に夢中だった」

 

「いや、いい。好きなものについて熱中している時は、誰だってそうだからな」

 

「ふふ、君もそうだものな」

 

「クハッ。そうだな」

 

 軽口を叩き合いながら、二人はアドワーズの屋敷を歩いていく。竜殺しを成したことがない剣槍が、二人がいなくなるまで見送っていた。

 その剣槍が竜殺しではなく、別の怪物殺しの槍となるのは、まだ先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、数時間後。使用人も含めた会食に招かれたはずのファヴニルは、屋敷の中にある円形の訓練場にて木製の剣を握ってヴィヴィアの曾祖父と対面していた。

 

(なぜこうなったのだったか……)

 

 思い返したのは、アドワーズ家のジビエフルコースに舌鼓を打っている時のこと。素晴らしい料理の数々は、様々な国で料理と酒を味わってきたファヴニルの舌を唸らせる味わいだった。そんな料理に感動していた時、突然ヴィヴィアの曾祖父であるリチャード・アドワーズが、手合わせを所望してきたのである。

 

 反対したのはヴィヴィアのみという超アウェー状態で、断る理由もなかったファヴニルはそれを了承した。魔法を使って手合わせを行うのかと思えば、案内されたのはこの訓練場。好きな武器を使えと言われたため、木製の剣を選び────こうして対面している。

 

「すまんなファヴニルよ。ヴィーの手紙を読んだ時から、是非とも手合わせをしたいと思っていたのだ」

 

 本当に魔法使いかと疑いたくなるようなガタイの老人────老人にしてはあまりにも若々しいが────が剛毅な笑みを浮かべて言う。ヴィヴィアの曾祖父であるリチャードは、魔法使いとは思えない鍛え抜かれた肉体に見合う木製の大剣を握っている。

 

「魔法使いとは思えない、鍛え抜かれた肉体ですね」

 

「ハハハッ! 最近の若い連中は肉体を磨くことを怠っておるがな、健全な肉体にこそ、健全な精神が備わるというものよ。隠居しても、鍛錬は止められん」

 

「なるほど、道理だ」

 

「その点ファヴニル、お前は良い。よく磨かれておる。これから打ち合うのが本当に楽しみだ!」

 

 気持ちのいい男だと、ファヴニルは感じた。この曾祖父あってのアドワーズ家といったところだろうか。訓練場のベンチにはアドワーズ家の者達が全員座っており、この手合わせをワクワクしている表情で待ち望んでいた。

 

 アドワーズ家の人間は全員少なからず鍛えられている。ヴィヴィアの隣に座っているエレインと、その夫であるロット・アドワーズ、ヴィヴィアの祖父ケイン・アドワーズと祖母リリガン・アドワーズも大なり小なり魔法使いとは思えない段階まで鍛え抜かれている。その従者達も言わずもがなだ。

 

 鍛え抜かれた肉体を持った者達が武器を握り、魔法も振りかざしてくるとなれば、確かに多くの者達が恐れるだろう。日本のことわざで例えるなら、鬼に金棒。ファヴニル達ドラゴン流に例えるなら、シグルドにグラム、ヘラクレスに棍棒、ゲオルギウスにアスカロンと言ったところか。

 

 類まれなる強者を前に、ファヴニルは笑う。ファヴニル達ドラゴンは強者との戦いに喜びを感じる不思議な感性をしている。それは最強種として、退屈を凌ぐための感性なのだろうか……そこまで考えて、ファヴニルはこちらを見ているヴィヴィアをちらりと見た。

 

「……クハッ」

 

 ヴィヴィアが目で訴えかけていたのは、善戦ではなく、勝利。曾祖父の勝利ではなく、友人の勝利を願う少女の視線を受けて、やる気を出さないほど、ファヴニルはクズではなかった。

 

「では、やろうか」

 

「ええ」

 

 ヴィヴィアと戦った時と同じように、リチャードの闘気が増幅するのに合わせてファヴニルの闘気も膨れ上がっていく。空気が張り詰め、誰もが息を呑み────古時計の鐘の音が鳴った瞬間、戦いが始まった。

 

「フゥンッ!!」

 

 大剣がまるで木の棒のように軽々と振り上げられ、高速で叩き付けられる。初撃で確実に仕留める勢いで振り抜かれた大剣はファヴニルの脳天に叩き込まれたかに思われたが……その違和感を最初に感じ取ったのは大剣を振り下ろしたリチャードであった。

 

(防がれた! 当たっておらん! 儂の一撃を剣の腹を使って逸らしたか!!)

 

「ああ、素晴らしい……本当に素晴らしい……!!」

 

「むぅっ!?」

 

 リチャードの眼前に飛び込んできた踵を咄嗟に躱す。不意打ちを躱されたファヴニルは、全く堪える素振りを見せることなく、むしろ楽しげだった。

 

「アドワーズも────ああ、貴殿ではなくてヴィヴィア……呼びにくいな。もうヴィヴィアでいいか。彼女は魅せてくれた」

 

 対面するリチャードは、ファヴニルの変貌を感じ取り鳥肌が立つ感覚を覚えていた。まるで芸術品を見て感動を覚えた少年が、近くにいた保護者にその感動を伝えるかのような無邪気さの中に、強者との戦いに喜びを感じる怪物のような気配があったのだから。

 

「さっきの一撃は本当に素晴らしいものだった。あの一撃を防げる人間がどれほどいるか……研鑽の果てに至った、極致の一撃。本当に素晴らしい……」

 

 ファヴニルの黄金に輝く瞳が蛇のように裂ける。心の昂ぶりが耐え切れなくなり、ドラゴンの一部が現れ始めているのだ。

 

「喰らっても良かったが、生憎、勝てと言われているのでな。先程の一撃の返礼をさせてもらおう」

 

 剣の柄を握り潰す勢いで握りしめたファヴニルは、リチャードの懐に潜り込み、人間の姿を保った状態で出せる全力で木製の剣を振り抜く。その一撃が叩き込まれた場合、リチャードも無事では済まないだろう。

 だが、その一撃がリチャードに直撃することはなかった。正確にはクリーンヒットすることはなかった。さすがは創設者達に仕えていた騎士の家系の中でも最強と謳われる武人と言ったところか、一撃が叩き込まれる瞬間に同じ方向へと飛び、ダメージを最小限にしてみせた。

 

「クハハッ! これも避けるか! ……だが、ダメだな」

 

「……うむ。そうだな」

 

 使用人の誰かが、あっ、と声を上げた。ファヴニルが握っていた木製の剣が、根元からポッキリ折れてしまっている。これでは戦いを続けることはできない。

 

「別の武器を使って仕切り直してもいいが……その場合、また折ってしまうだろうな」

 

「ええ、間違いなく。これ以上やるなら、お互い本物でやるしかないでしょう」

 

「ハハハ! 随分豹変するものだな! さっきの血の気の多い状態が素か?」

 

「どちらも俺の本性、とでも言っておきましょう」

 

「ククク……! ヴィーめ、いい男を連れてきたものだ」

 

「……言っておきますが、彼女とはそういう関係性ではありませんよ」

 

「おう、今はそういうことにしておこう」

 

 機嫌が良さそうに笑うリチャードの言葉にツッコむこともしないファヴニル。勘違いも誤解も全てヴィヴィアに丸投げするつもりである。さっきまでのやる気はどこに消えてしまったのかを小一時間程度問い詰めたいところではあるが、情熱の全てが酒に注がれているやつに何を言っても無駄であることは自明の理であった。

 

「ところでこの戦いはどちらの勝ちで?」

 

「お前でいいだろう」

 

「引き分けでいいのでは?」

 

「儂は攻撃を躱されただけでなく、一撃貰った。お前の勝ちでいいだろう」

 

 ここは絶対に譲ってたまるものかと言わんばかりのリチャードは、ファヴニルの背中を思い切り叩いてから観戦していた全員に聞えるように、とんでもないことを口にした。

 

「儂に一撃を喰らわせたファヴニル・モルトキュールをアドワーズ家の名誉騎士としたいが、どう思う!」

 

「「は?」」

 

「よろしいのでは?」

 

「まぁ、うん。リチャード様に一撃入れるとか、どんだけヤバいことかは分かるし」

 

「つまり彼もまたアドワーズの人間……ってこと!?」

 

「なるほど、会食は彼の歓迎会も兼ねていたのですね」

 

 リチャードの言葉にファヴニルとヴィヴィアが目を丸くしている中、使用人達が口々に賛成の声を上げる。

 

「強さ、礼儀、ヴィーからの信頼もある……いいと思いますよ」

 

「お父様?」

 

「いいじゃない! 賛成!」

 

「お母様?」

 

「はは、若い者が増えるのは善いことですな」

 

「ええ、ええ……昔を思い出しますわ」

 

「お爺様とお婆様まで……!」

 

 ヴィヴィアがアドワーズ家の賛成ムードに押し流されつつある中、名誉騎士に任命されそうになっている我らが酒カスドラゴンは────

 

(……まぁ、そうやって名誉云々と名付けられたのは何度もあるし、気にすることもないな)

 

 懐から薬水が入っている瓢箪ではなく、禍々しい瓢箪を取り出して、酒を飲んでいた。自分が置かれている状況と、ヴィヴィアの困惑とアドワーズ家の団欒を肴に飲んでいるのである。神経が太いどころではない。酒カスドラゴンが酒カスドラゴンたる由縁は、どんな状況であっても酒のことを考えていることにあるのかもしれない。

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