「「……ドラゴン?」」
冬休みが終わり、ホグワーツに戻ってきたファヴニルとヴィヴィアは、久しぶりに会ったハリーとロン、そしてハーマイオニー・グレンジャーと話をしていた。
ファヴニルはこの三人とそこまで交流があるわけではない。だが、挨拶をされたら返すし、話かけられたら会話をするくらいの交流はあった。違う寮だから、仲が良いわけではないからと交流を断つなど、つまらないものだろう。もちろん、上辺しか見ていない者と交流するとつもりはないが。
アドワーズ家の名誉騎士に任命されたファヴニルの交友関係は意外にも広い。
まずはハッフルパフ。同じ寮の人間ということでハッフルパフのほぼ全員と話をして、ある程度どんな人間がいるのかを把握している。特に話をするのはセドリック・ディゴリーという生徒。これについてはファヴニルがセドリックとチョウの伝書鳩をしているのもあるだろう。
続いてはレイブンクロー。ヴィヴィアを中心に一年生との交流が多い。そしてヴィヴィアを除けばチョウとの交流が多い。伝書鳩である。時折他の上級生達から知恵比べをされることがあるが、年の功で未だ負けていない。勝つ度になぜレイブンクローじゃないんだと言われるが、ファヴニルはハッフルパフだ。
次にグリフィンドール。グリフィンドールで交流があるのはハリー、ロン、ハーマイオニー、双子のフレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリー、そしてネビル・ロングボトム。ネビルについては、ハッフルパフのハンナ・アボットから物忘れは多いが植物学でとても優秀であると紹介され、実際丁寧な仕事ぶりにファヴニルは高評価を下している。ちなみにグリフィンドールで交流がある者は全員ファヴニルのことをニールと呼んでいる。
最後にスリザリン。未だに喧嘩を売ってくる人間が多いスリザリンであるが、攻撃してくるからと拒む理由もない。特に交流があるのは、純血の家でも穏健派らしいダフネ・グリーングラス、ヴィヴィアとの交流を揶揄してきたので軽く討論した後たまに絡んでくるようになったブレーズ・ザビニ、知恵比べをしてくるクールな双子のヘスティア・カローとフローラ・カロー。案外交流がある。
さて、そんなファヴニルとヴィヴィアがハリー達から聞いた情報は、にわかには信じがたい内容であった。ドラゴン。ファヴニルの半分を構成する存在とは別種ではあるが、近縁種の生物。ファヴニル達からすれば本能だけで動いているだけの生物にしては賢い程度の羽の生えたトカゲだが、人間からすれば機嫌を損ねた瞬間死ぬ可能性がある存在。最強種たる誇り高い生物。
「悪いがヴィヴィア、魔法使いの世界ではドラゴンの飼育はできるのか?」
「可能と言えば可能だが……資格が必要だ」
「そうね。とっても難しい試験を合格した人しかドラゴンを飼育、売買ができないって法律で定められてるの」
「ほう」
ヴィヴィアとハーマイオニーの口から伝えられた情報に耳を傾けてみれば、ドラゴンキーパーなる職業もあるようだった。非魔法世界で百年過ごしてきたドラゴンであるファヴニルからすればよく分からない世界だ。そう思いつつ、非魔法界出身のハーマイオニーを見ていると、ふと、イギリスでアップルシードルを配達しに行った歯医者の家の少年と医者の家の少女に似ているような気がした。気のせいかもしれない。
「それで? ドラゴンがどこにいたと? ホグワーツの地下にでもいたか? それとも禁じられた森の奥地?」
「ハグリッドの小屋だよ」
苦々しい────というよりも怖がっているような表情でハリーが告げた言葉に、ファヴニルもヴィヴィアも目を細めた。
よく見ればロンの手には包帯が巻かれており、話を聞く限りドラゴンにやられたと見て良いだろう。ハリーの恐怖は恐らく、次に襲われるのは自分か、それともハーマイオニーか、またロンか……そしてその時、自分の命や友達の命を失ってしまうかもしれないという恐怖だったのだろう。
「ふむ……だが、なぜ俺とヴィヴィアに話を持ってきた?」
「その……ダンブルドアが、ドラゴンについては二人に話してみるといいって……」
(ダンブルドアが? ……確かに私の家にはモルト曰く竜殺しの武器があるが……)
「そもそも、ハグリッドは資格を持ってるのか?」
「この話を持ってきたのが答えだと思うけど?」
「勉強家なら持っている────待て、まさか持っていないのか?」
グリフィンドールの三人がほぼ同時に重々しく頷いた。ヴィヴィアは頭が痛くなるのを感じ、ファヴニルはルールあってこその自由というものがホグワーツにはないのかと目を細めた。
「このままじゃハグリッドの小屋も森も焼け野原になっちゃうよ」
「ふむ……そのドラゴン、生後何ヶ月かは分かるか?」
「確か……一ヶ月ちょっと?」
「ノルウェー・リッジバックか……!」
成体となれば十メートルを超える巨体を持ち、水中の哺乳類を捕食するドラゴンだ。たまに鯨と間違えてファヴニルの親戚を襲い、逆におやつにされているドラゴンだが、生後一ヶ月から三ヶ月で火を吐くようになり、劇毒の牙を持つ獰猛な個体である。
「ウィーズリー、解毒は済ませたか?」
「え? ああ、うん。ハーマイオニーがやってくれたよ」
「そうか。痛むようならマダム・ポンフリーのところへ行くといい。何、草を刈っている際に手を切り、毒草に触れたとでも言えばいい」
正直に言うだけが賢い人生ではないぞ、とファヴニルが言えばハーマイオニーは納得ができないでいそうな、納得していそうな微妙な表情を浮かべ、ハリーとロンは何となく分かったようなそうでもないような表情で頷く。
「それにしてもドラゴンか……まぁ、殴って黙らせて服従させるのが一番早いな」
「そんな野蛮なやり方したらハグリッドが黙ってないと思うんだけど……」
「クハッ、ハグリッドには悪いが、俺は隣人の方が大事だからな」
特に酒を飲めるようになった時、酒を振舞いたいと思える隣人は大事なのだ。その隣人が傷付く可能性があるのなら、ドラゴンの腸を抉りだして惨殺することも厭わない。向こうが襲ってきたのなら、正当防衛で叩き潰して心臓を抉り、喰らう。ドラゴンと戦うということは、そういうことなのだ。
(まぁ、やろうと思えばドラゴンを酔い潰すこともできるが)
ファヴニルの持っている酒の中には八岐大蛇すら酔い潰す酒もある。人間が飲めば一発で急性アルコール中毒を引き起こして病院送り待ったなしのとんでもない酒が眠っている。神々ですら飲むことを避けるような禁忌の酒や、知る人ぞ知る名酒、歴史家が聞けば言い値で買い取ろうとするほどの歴史的価値の高い酒も。ドラゴンが酔い潰れる酒の一つや二つ、持っていてもおかしくはない。
ファヴニルは匂いが全くない酒が入った容器を空にしながら、悲壮な覚悟をしている最中の三人に連れられて、ハグリッドの小屋に向かった。
ホグワーツ魔法学校の敷地、その北部にハグリッドの小屋は建っている。そんな小屋の前に立った瞬間、ファヴニルは小さく溜め息を吐いた。冬だというのに寒さを感じない。むしろ夏の暑さのような熱気をハグリッドの小屋を中心に感じる。
「俺の後ろから出るなよ」
「う、うん……」
「さすがにでしゃばりはしない」
「ちょっと、どうして私の方を見て言うのよ」
「落ち着け、三人共。深呼吸は……熱気で逆に肺を痛めるか」
小屋の中から聞こえてくるドラゴンの鳴き声を聞いて震える三人を宥めるヴィヴィアを背にしたファヴニルは、小屋のドアをノックしようとして────屋根を突き破りながら飛び出してきた黒い影に飛び掛かられた。その黒い影は何を隠そうハグリッドが孵化させたドラゴンの子供だ。
「「「ニール!!」」」
(殺されないだろうな、あのドラゴン)
悲鳴にも近い叫びが三人の少年少女から上がるが、ファヴニルのあれこれをある程度知っているヴィヴィアは飛び掛かってきたドラゴンに同情を隠せなかった。飛び掛かられている張本人であるファヴニルは全く動じることなく、拳を振るった。
「伏せ」
「ギャガァアッ!!?」
ドラゴンの堅牢な鱗すら砕く拳がノルウェー・リッジバックの顔面に炸裂し、ドラゴンは強制的に伏せの状態にされる。
「躾がなってないな、トカゲ。無謀な戦いを挑むようにと飼い主に教えられたか?」
伏せの状態から復帰できずにいるドラゴン────ハリー達曰く名前はノーバート────は、殴られて罅が入っている顔を掴まれ、握り潰されそうになってからようやく何に喧嘩を売ろうとしていたのかを理解した。自分が喧嘩を売ったのは、格上中の格上。ヌンドゥは気付かなかったが、ドラゴンであるノーバートは遺伝子に刻まれていた恐怖によって、理解した。ファヴニルは、己を喰い殺すことすらできる怪物であると。
「ノーバート!! お前さん、ノーバートに何やっちょる!!?」
「襲いかかってきたからな。殴らせてもらった」
「何かお前さんがノーバートが嫌なものでも持ってきたんじゃないのか!?」
「クハッ、だとしたら俺の存在そのものがこいつにとっての恐怖だろうよ、ハグリッド」
バキッ、とファヴニルの体から何かが砕ける音がした。その音が何なのか、この場にいる者でヴィヴィアだけが知っていた。人に化けているファヴニルの魔法が解ける時、この音が聞こえるのだ。アドワーズ家に招待した時、ヴィヴィア以外誰もいないと分かった時に変身を解除してくつろいでいたから分かる。ことと次第によっては人間への擬態を解いて全てを叩き潰すつもりなのだ。
「このトカゲが次に襲うのは誰だ? ハグリッドか? いいや違うな。ドラゴンは賢い。食えないやつを襲うような馬鹿じゃない。襲うのはホグワーツの人間だ」
「ノーバートは賢い! 襲うはずがない!」
「このトカゲに食事は必要ないと? 飢えたトカゲがこの翼を広げ、襲うのは柔らかい肉の人間────子供だぞ」
ヒュッ、と誰かの喉からかすれた声が抜けていった。それは誰の声だったのか。冷や水をかけられたように目を見開くハグリッドのものだったかもしれないし、ロンが襲われたのを目撃しているハリーやハーマイオニーのものだったかもしれない。
「ハグリッド、子供だ。このドラゴンが子供を襲った時、お前は何と言い訳するつもりだ? ノーバートとやらは悪くない、腹が空いていただけだとでも言うつもりか? 生類憐みの令を出した江戸幕府の将軍でも言わんぞ」
((((生類憐みの令? エドバクフ?))))
「そんなこと言わねぇ! 世話を怠った俺が悪い!」
「言っておくがドラゴンは味を覚えたらそれしか食わん。熊と同じだ。分かるか、ハグリッド。子供を襲ったドラゴンはな、子供の肉の味を覚える。教育を受けなかったドラゴンは子供の悲鳴を聞いてそれすら甘露と喰らう。父母となるドラゴンは、獲物を苦しめないように一撃で仕留める狩りの技を教える。なぜか分かるか? そうなれば滅ぼされるのは自分だと分かっているからだ」
獲物を苦しめ、悦に浸るドラゴンがいるなどと知れ渡れば、敵は人間だけではなくなる。そのドラゴンの近くに縄張りを持っているドラゴン達もその恥晒しを滅ぼしにやってくるのだ。遥か昔、とあるドラゴンの番を襲い、痛めつけたドラゴンがいた。そのドラゴンは痛めつけた女の番であるドラゴンと、その盟友に牙を折られ、目を抉られ、舌を引き抜かれ、爪を剥がれ、鱗を全て剥がされた後、傷口に高濃度の塩水をかけられ、毒を塗られ────他のドラゴンがいる状態で酷い辱めを受けて殺された。そのドラゴンとドラゴンの盟友の怒りは、冥府の亡者達よりも悍ましい怒りと憎悪に満ちていた。
遥か昔から受け継がれてきた遺伝子がそれを覚えている。だからこそ、ドラゴンは子供に獲物を一撃で仕留める方法と狙う獲物に分別を付けることを教えるのだ。
「ハグリッド、お前にそれができるのか? もしこのドラゴンが人を襲った時、自らケジメを付けることはできるのか?」
「け、ケジメっていうのは……」
「無論、ノーバートとやらを多くの者がいる前で鱗を剥ぎ、目を抉り、牙を折り、爪を剥ぎ────全てを奪い取ってから殺すことだが」
想像するだけでも吐き気を催し、顔をしかめる冒涜的な行為。だが、それくらいの覚悟が無ければドラゴンなど飼うことはできない。飼いならすことなど絶対にできるわけがない。ファヴニルはその覚悟がお前にはあるのかという思いを込めた視線をハグリッドにぶつける。
「……………………できねぇ……俺にゃあそんなこと、できねぇ……!」
「ならこのノーバートとやらを手放せ。その方がこいつのためにもなるし、お前自身の教訓にもなる」
ペットを飼うというのは、それだけの覚悟を持っていなければならないと。万が一人を傷付けた場合、自分の手でケジメを付ける。そんな覚悟が必要なのだと。
うなだれるハグリッドはまだどこかに未練が残っているのか、了解とも拒否とも分からないどっちつかずな声を出している。だが、ファヴニルとノーバート、ハリー、ロン、ハーマイオニー、ヴィヴィアの顔を見て、どこか覚悟を決めた表情を浮かべた。
「分かった。俺は……ノーバートを手放す」
「「「ハグリッド……!」」」
ハリー達がどこか驚いたような、感動しているような声を上げた。
「ただ、頼みがある。ノーバートを、殺さずに、どうにかしてくれんか……」
「ふむ。生憎俺はそういった縁がないからな。……ダンブルドアに聞くか」
ロンが何か言いたげにしていたが、ファヴニルが口元に手を当てて考える素振りをするふりをして沈黙しておけというハンドサインをしてきたので、一旦言葉を飲み込む。
「それと……また暴れられても困るからな」
そう言ったファヴニルがノーバートの口に何か透明な液体を流し込む。するとノーバートは唸り声を上げることを止め、気分が良さそうに眠ってしまった。
「な、何を飲ませたの?」
「八塩折之酒。日本で最初に作られたとされる酒であり、八岐大蛇を酔い潰したという逸話のある酒だ」
「な……あなたお酒を持ち歩いてるの!?」
「ああ。ダンブルドアに許可は取っているぞ?」
質が悪いことにファヴニルはダンブルドアと飲み友になっていた。絵面が最悪この上ないかもしれないが、忘れてはいけない。ファヴニルはもう百年は生きている酒カスドラゴンなのだ。ホグワーツで所構わず酒を飲んでいないだけまだ温情と言える。なお、ハッフルパフ寮では一人部屋になっているファヴニルなので、部屋で死ぬほど飲んでいる。なぜ二日酔いにならないのか、酒の匂いが付かないのか。
「とりあえずこれでしばらくこいつは眠ったままだろう。その間にダンブルドアの指示を仰ぐ」
早く行くぞ、とファヴニルはヴィヴィア達を連れてダンブルドアのいるであろう校長室へと向かう。ハグリッドの小屋から校長室まではとても長い道のりだが、さすがは子供。話題がポンポン出てくるため全く退屈することがない。
「そういえばニール、ニコラス・フラメルについて何か知ってることはある?」
「酒飲み爺さんがどうした?」
「「「酒飲み!?」」」
ニコラス・フラメル────というよりもフラメル夫妻とファヴニルは少しだけ親交があった。ワイン工場でどの酒を買うかで悩んでいたフラメル夫妻に、このワインの味はこうだ、合わせる料理は肉料理よりもデザートがいいかもしれないなど様々な助言をしたことで仲良くなり、家で酒を飲み交わしたことがあったのだ。フランスの酒が懐かしいと言われたので、フランスの、恐らくフラメル夫妻が結婚した時期であろう頃に作られたフランスのワインを取り出したら、驚かれながらも喜ばれ、昔話で盛り上がった。
ファヴニルの口から飛び出た情報により、ハリー達は聞きたかった情報ではなく、そういった豆知識というか雑学の方に耳を傾けていく。何だかんだと言いつつも、ハリー達は普通の調べ物よりも、雑学などの方が好きな年頃である。
そんな雑学を聞きながらガーゴイルの石像が守る校長室の扉の前まで辿り着くと、ファヴニルは扉を押そうとしたが全く動かないことに違和感を覚えた。
「……ふむ」
「合言葉が必要なのね。何かしら……」
「うーん……あ、そういえば朝会った時になんか言ってたぜ。えーと……最近のブームなんとか……ああっ! ゴソゴソ豆板!」
「ちょっとロン、真面目に────」
ロンがそう言った瞬間、ガーゴイルが守る扉が重い音を立てながら開かれる。なぜお菓子の名称を合言葉にしているのか。
「お手柄だな、ウィーズリー」
「ええ……開いちゃったよ」
「仮にも校長室の合言葉なのに……」
「ま、まあ、開いたんだしいいんじゃないかなぁ?」
ファヴニルを先頭にする五人は校長室に入り、休憩中らしいダンブルドアに対面した。
「おお、そろそろ来ると思っておったよ、ファヴニル、ヴィヴィア、ハリー、ロン、ハーマイオニー」
「ならすぐに本題に入りましょう。……あのドラゴンをどうにかする方法はありますか。できれば殺処分じゃない方法がいいそうです」
正直殺処分した方が早いが、とは言わない。思ってはいるが、ファヴニルにも口に出さない程度の良識くらいはあった。なおこれ以上被害が出ていたら殺処分待った無しであった。特にヴィヴィアやハーマイオニーなどを襲った暁には殺処分確定である。男であれば傷は勲章になるが、女性の傷は勲章になることが少ないのだから。
「うむ。君が譲歩してくれたようで本当にホッとしておるよ。して、方法じゃが……ある。ルーマニアでドラゴン・キーパーに就職した卒業生がおる。ロンの兄、チャーリーじゃ」
「ルーマニアか」
「何か縁があるかの?」
「母の生まれがルーマニアの南部でした」
また知らない情報が出てきたが、それについて聞くのは後にしようと考えるヴィヴィアの横で、ファヴニルは解決ムードになっている三人には悪いが、と思いつつ口を開く。
「さて、シナリオはどうしますか」
「そうじゃのう……ホグワーツに迷い込んだドラゴンの雛を儂が一時的にルビウスに預け、時が来たのでしかるべきところに引き渡した……というのが丸いじゃろうな」
「リスクは」
「大きいじゃろうが、とんでもなく……というわけでもない。まぁ、許容範囲のうちじゃよ」
「もう一声欲しいですね。雛が迷い込むなんて滅多にないはず。ドラゴンは案外その辺りしっかりしている」
「うむ……育児放棄か、密猟者か……どちらが良いかのう」
いかにバレずに不正を行うかを相談する二人に、四人は引き攣った顔をすることになった。確かに穏便に、誰にもバレることのないようにドラゴンをルーマニアに連れていくともなれば、そういった不正に手を染めなければならない。ハーマイオニーは清濁併せ吞むことも大事だと自分に言い聞かせて耐えている。耐えられるものなのだろうかというところはツッコんではいけない。
「ふむ……あのトカゲの気性や成長であれば、育児放棄が一番かと。気性難で協調ができない生き物が育児放棄されることは、野生では珍しくない」
「うむ。ならばその線で行こう。では、儂はチャーリーに手紙を書く。五人共、このことはくれぐれも内密にな」
「ええ、もちろんです」
穏やかな口調と朗らかな表情であったが、有無を言わせぬ圧を感じさせたダンブルドアに一礼したファヴニルは、話に若干置いてかれ気味だった四人を連れて校長室の外に出る。
「さて、今回の件で教訓を得たな。犯罪の隠蔽には更なる犯罪と不正、汚職が必要になると」
「「「うっ……」」」
ファヴニルの言葉に声を詰まらせた三人は、今回の件で教訓を得た。友人を庇うことも大切だが、それが犯罪だった場合、どうすればいいのか、友人が辛い目に遭ったとしても見捨てた方が友人のためになることもある選択を選ばなくてはならないということを学んだ。
「でも、その……助けてくれて、ありがとうニール」
「俺は隣人が傷付く可能性を断ちたかっただけだよ。あのトカゲはそうなり得た」
「ほんと助かったよ、ニール。ありがとな」
「ありがとう、ニール。その、不正は良くないけれど」
「ああ。……っと、そういえばそろそろ昼食の時間だな。今日は肉料理だそうだぞ」
そう言うと、我先にと駆け出していった三人。やはり魚よりも肉が好きらしい。
「肉か……赤だな」
「君は本当に────って、おいワインボトルを出すな」
「このワインも歴史があってな。始まりは紀元前125年まで遡る。1800年代にはボジョレー地区にほど近い美食の街リヨンでの流行った。解禁日なんかもあってな……ああ、ちなみにこれは大体五十年前くらいのものだ」
当たり年だったらしいぞ? と笑うファヴニルはワインボトルを仕舞い、別の赤ワインが入った小さいボトルを取り出して口にする。ホグワーツであっても酒カスドラゴンは健在であった。