ドラゴン騒動から時間が経ち、学年末試験が終了した。ファヴニルはテスト範囲をほぼ全て暗記しているため、高得点は間違いないので、来年受けるつもりである授業のマグル学の予習を────しているわけもなく、酒のリストに想いを馳せていた。今日は図書室にファヴニルとヴィヴィアしかいないので、誰かに見られないようになどと気にすることはない。
「モルト、質問なんだが」
よくいるレイブンクロー生らしく大量の本を開いてはパラパラと捲り、別の本を開いていたヴィヴィアは、ふと思い出したように口を開いた。
「何だ?」
「ハグリッドのところにいたあのドラゴン、あれはどこで手に入れたのだろうか」
数ヶ月前も前の話。ハグリッドが手放したノーバートというドラゴンがいた。ノルウェー・リッジバック種のドラゴンは無事ルーマニアに運ばれたと聞いている。そんなドラゴンがどうしたのだろう、と首をかしげたファヴニルに対して、ヴィヴィアは続ける。
「ドラゴンの卵は貴重だ。密猟なんてことが起こるくらいには」
「ああ、そうらしいな」
「希少で危険な存在だ。君にとってはそこまでの脅威ではないみたいだが」
「ああ」
「そんな希少なドラゴンの卵を、ハグリッドはどこで手に入れたんだ?」
森番をやっていて、訪れることができる場所は限られているであろうハグリッドが、どこでドラゴンの卵を手に入れたのか……ヴィヴィアはそれがとても気になっていた。
「仮に彼がよく訪れる場所に販売されていたとして……資格を持っていないハグリッドにその店の人間が卵を売るか?」
「売らんだろうな。店の信用に関わる」
「じゃあなぜハグリッドはドラゴンを?」
そう言われてみれば、確かに。
なぜハグリッドはドラゴンの卵を手に入れていて、それを孵化させていたのか。闇市でもあってそこから仕入れたとは思いにくい。あれだけの巨体だ。闇市にいればすぐに分かってホグワーツの信用に関わるだろう。ならばハグリッドはどこでドラゴンの卵を────そう考えた矢先、ファヴニルは少し前にハリーがハグリッドの卵のことについて話していたことを思い出す。
「…………そういえば賭けを持ちかけられてなんとか、とポッターから聞いたが……」
「その賭けでドラゴンの卵を手に入れたということか……? しかし誰が何のために……」
仮にハグリッドが賭けでドラゴンの卵を手に入れたとして、ドラゴンの卵を持ち歩いて賭けを持ちかけてくる人間にとって、何の利益があるというのか。ドラゴンの卵を賭けの材料に使うよりも、どこかで売り払った方が利益になるはずなのに。何のためにハグリッドにドラゴンの卵を賭けた博打をしたのか。
「……ホグワーツに何かがあるのか?」
ファヴニルが何かを考えている中、ヴィヴィアが呟く。
「……まぁ、ありえないわけでもあるまい。ただ、やはりハグリッドに賭けを仕掛けることで何が利益として手にできたのかが疑問だが……」
「彼しか知らない情報、となれば……魔法生物か?」
「ホグワーツで、魔法生物だと? …………ふむ。ヌンドゥとトロールも魔法生物だったか?」
本当にどうしてオスが入って来なかったのだ、と若干の不満を呟くファヴニルを呆れた表情で見ながら、ヴィヴィアは考えることを止めない。
「それらが入り込むことができるルート……というわけではない。ドラゴンの卵を手に入れたのは恐らくその後の話だ」
「一旦手札を整理しようか」
ファヴニルとヴィヴィアが分かっているのは以下の通りだ。
一つ。ハグリッドは何者かとの賭けを行い、ドラゴンの卵を手に入れた。
一つ。その賭けを行った際に、何者かがハグリッドから何か情報を手に入れた。なお、この情報はまだ憶測に過ぎない。
一つ。ホグワーツの守りを突破して、ヌンドゥやトロールをホグワーツに送り込んだ何者かが存在する。
一つ。ホグワーツには何かがある。こちらに関しても憶測ではあるが、可能性が高い。
「何者かが同一人物であり、ヌンドゥとトロールを送り込んだと仮定した時、分かることは……」
「陽動だろうな。生徒や教師に被害が出ればそれはそれで御の字であり、出なかったとしても生徒達の避難に教師陣は動かざるを得ない」
「ヌンドゥは君に、トロールは確か……スネイプ先生が仕留めたと聞いた。そういえば彼はあの騒動の翌日、歩き方が若干不自然だったな。治療は済ませていたはずだが……あの日、怪我でもしたのか?」
「ふむ……仮にもホグワーツの教師。トロールごときに手こずるような人間はいないだろう」
となれば、スネイプは別の何かと戦って負傷したということになる。ホグワーツの教師は実力ある魔法使い達が集まっている。決闘クラブチャンピオンフリットウィックはその代表格だろう。そんな実力者がトロール程度で負傷するとは思えない。
「なら、何と戦ったのかだが……」
「…………爬虫類の臭いはしなかった。だが、ローブから獣の臭いはしたぞ」
「獣の臭い……? スネイプ先生のローブから?」
ファヴニルが口にした内容から、考察をしてみては可能性が低いと考えて破棄していくヴィヴィア。謎が謎のまま堂々巡りをしそうになる中、ファヴニルは何かを感じ取るかのように目を閉じて意識を集中させ始めた。
(獣の臭い……スネイプ先生のローブから漂ってきた臭いは……犬だな。ただ、普通の犬じゃない……魔法生物……臭いの大元はどこだ? 同じ臭いは、どこから来ている?)
「……モルト?」
(四階……廊下……いや、部屋か。……三つ首……あの三つ子じゃないだろうな……?)
意識を集中させているファヴニルが、知り合いの三つ子を思い出して一瞬眉を顰めるが、すぐに頭を振って考え直す。
(いや、それはないか……あいつらは今北欧だ……そもそもあいつらはドラゴンだしな……これは……ケルベロスか? ……ケルベロスの他に、変な臭いがあるな。……にんにくか? それと死臭……)
「モルト、どうしたんだ?」
「────ヴィヴィア、いいニュースと悪いニュースとさらに悪いニュースがあるが、どちらから聞きたい」
「いきなりどうしたんだ? ……じゃあ悪いニュースから」
ただ、ファヴニルが真剣さと面白さが混ざり合っているような笑みを浮かべていたので、ヴィヴィアはファヴニルの問いかけに応じる。笑みを浮かべたファヴニルは、信じられない情報を口にした。
「では悪いニュースから話そう。侵入者がいる。しかもそれは教師だ」
「ああ、とても悪いニュースだ。予想していた悪いニュースよりも遥かに」
ホグワーツに侵入者がおり、しかもそれは教師であるとファヴニルが言い出したのだ。そんなことあるはずがないと言いたいところだが、ファヴニルは嘘を吐かない。正確にはつまらない嘘を吐くことは一切ない。ということは事実なのだろうと信じるしかなかった。信じたくはなかったが。
「それで、いいニュースというのは?」
「ケルベロスだ。禁じられた廊下、その部屋にはケルベロスが門番として居座っている」
「ケルベロス……!? なぜそんな魔法生物がホグワーツに……?」
「まぁ、禁じられた廊下の先に隠された何かを守るためだろうよ。その先には悪辣な罠が仕掛けられているようだ」
クツクツと笑うファヴニルの言葉にヴィヴィアはどこが面白いのか首をかしげるが、すぐにその笑みの理由を察した。
ケルベロスはドラゴンには劣るが、狂暴であり、様々な物語で門番として登場する怪物だ。それが門番をしているともなれば、いくら侵入者がいたとしても、ケルベロスを殺してその先に向かうことは至難の業だろう。巨体のわりに結構俊敏なのだ。ヌンドゥと同じくらいの敏捷性を持った魔法生物である。
ならば自分達が何かを思案する必要性は全くない────そう思ったヴィヴィアは、ふとファヴニルの言葉を思い出す。そういえば、さらに悪いニュースというのを聞いていない。
「さらに悪いニュースだ。ケルベロスは突破される」
「……理由を聞いても?」
「クハッ、鈍いなヴィヴィア。情報の手札をもう一度整理してみろ」
ファヴニルの試すような笑みを受けたヴィヴィアは、言われた通りに情報を整理する。
一つ。ハグリッドは何者かとの賭けを行い、ドラゴンの卵を手に入れた。
一つ。その賭けを行った際に、何者かがハグリッドから何か情報を手に入れた。なお、この情報はまだ憶測に過ぎない。
一つ。ホグワーツの守りを突破して、ヌンドゥやトロールをホグワーツに送り込んだ何者かが存在する。
一つ。ホグワーツには何かがある。こちらに関しても憶測ではあるが、可能性が高い。
一つ。ホグワーツには魔法生物のケルベロスがいる。
一つ。ケルベロスの守りは突破される。
必要な情報と、そうではない情報を取捨選択しながら情報を整理して思考を少し動かせば、ヴィヴィアの聡明な頭脳はその結論に至る。
「ケルベロスの攻略方法は、ハグリッドが知っていた……」
「そうだ。何も、殺すだけが攻略方法じゃない。出し抜けばいいんだ」
正直、俺は殺した方が楽なんだが。そんなファヴニルを尻目に、ヴィヴィアはケルベロスの攻略方法について、幼い頃に図鑑で読んだことを思い出す。ケルベロスは音楽を流されると眠ってしまうのだ。個体差はあるものの、ケルベロスに相対した時は音楽を奏でることで切り抜けられると、古い図鑑には書いていた。
「侵入者は、あの廊下に何かがあることを知っていた。だが、それに辿り着くにはケルベロスを突破しなくてはならない」
「だから攻略方法を知っていたハグリッドに近付き、ケルベロスの攻略方法を聞き出した。ドラゴンの卵を囮にして」
「ああ。そして、ケルベロスがいることを知る人間など、この学校には教師以外にいない」
「だが、それだけで侵入者を割り出せるのか?」
「できるとも。トロールが侵入してきた時、最初の目撃者は誰だ?」
「……まさか」
ヴィヴィアの信じがたいものを見たような表情を見ながら、侵入者の名をファヴニルは口にする。
「クィレル先生だ」
「だが、目撃者というだけだろう?」
「ではなぜヌンドゥに襲われなかった? 背を向けている獲物を狙わない程、あの猫は愚鈍ではあるまい。そして、クィレル先生は仮にもホグワーツの教師。トロールなど、敵ではないはずだ。なのに、慌てたように大広間に来た。報告など、事後報告で良かったはずだ。それか、守護霊での連絡で」
ホグワーツ教師が守護霊を呼ぶ魔法を使えないとは思えない。それもせず、大広間に報告しに来るなど、混乱を招く行為だ。その混乱に乗じて何かをしようとした可能性は非常に高いだろう。
「まぁ、何にせよだ。俺はその侵入者と相対することが決まっている」
「何?」
「契約だ。俺の先祖がホグワーツの創設者達と結んだ契約。それが俺にも適用されている」
やろうと思えば破棄できるが、面倒だからやらないと嘯くファヴニルが杖を軽く振るうと、古い羊皮紙がどこからか現れ、ファヴニルとヴィヴィアがいるテーブルにそっと落ちてきた。羊皮紙の中心にはホグワーツ魔法学校の校章である獅子、蛇、鷲、穴熊の紋章が刻まれている。
汝、眠れる竜よ。
汝、天秤であり、天秤ではない者。汝、平等にして不平等なる者。
恵みであり、天災であり、庇護する者であり、破滅を生む者。
我らが友であり、裁定者たる竜よ。
獅子は誓う。この学び舎に勇気を齎さんことを。
蛇は誓う。この学び舎に純粋を齎さんことを。
鷲は誓う。この学び舎に叡智を齎さんことを。
穴熊は誓う。この学び舎に親愛を齎さんことを。
ゆえに、我らは願う。
その心を以って、学び舎の安寧を守らんことを。
その力を以って、学び舎の裁定を下さんことを。
願わくば、我らが友に、悠久の伴侶あらんことを。
「これは……」
「俺の先祖が交わした契約は今も続いている。ドラゴンは約束を果たす。ゆえに、俺は侵入者と相対することになる」
ドラゴンは財宝を守るものだからな。
そう言って笑うファヴニルの目は笑っていなかった。穏やかに過ごし、酒を飲むことができれば幸せだと考えている酒カスドラゴンにとって、酒を飲む時間を邪魔する者は害悪に他ならない。財宝奪うもの死すべし。奪うのならば、奪われる覚悟をしているということで全力で叩き潰す。契約が適用されている今、ホグワーツのほぼ全てはファヴニルに協力するだろう。ドラゴンにその助けが必要ないとしても。
「ヴィヴィア、お前はどうする?」
「……私か?」
「ああ。共に来るか? 死ぬかもしれないが」
侵入者と相対した時、自分が死ぬことも考えなくてはならないだろう。自分は殺されないから大丈夫、なんてことが戦いにあるはずがないのだから。アドワーズ家に生まれ、幼いころからそう教えられてきたとはいえ、まだ11歳の子供。自分が死ぬ覚悟など、出来る方が難しい。できるのはそう洗脳された者か、恐怖が麻痺している者か、現実を見ることができていない者だけだろう。
ファヴニルの試すような視線を受けながら、数分間考え続けていたヴィヴィアは────
「行くよ、私も」
ファヴニルと共に、侵入者と相対することを選んだ。
「死ぬかもしれないが」
「死なないさ。私は、絶対に死なない」
「その心は?」
「君が守ってくれるだろう?」
老若男女問わず魅了するであろう、美しい笑みを浮かべたヴィヴィアの言葉に、ファヴニルは一瞬面食らったように硬直し、小さく笑った。
「クハハッ……そうだな。ああ、そうだとも。愚問だったな。ああ、お前は死なないとも。俺が守るからな」
「君が危ない時は、私が君を守るよ」
そう言ってファヴニルの目を真っ直ぐ見つめるアクアマリンのように透き通った瞳を見て、ファヴニルは昔のことを思い出していた。いたのだ。そう言って笑った人間が、ファヴニルの友人の中には、確かにいたのだ。それは死を覚悟していた戦士であったり、何も知らない子供だったり、出自を知りながらも遠ざけることなく接してくれた者であったり。彼らの笑顔が、ヴィヴィアの顔と声に重なったような気がした。
「……クハッ」
「モルト?」
「いいや、何でもない。────まぁ、危険なことは極力俺がやらせてもらう。契約を履行するのは俺だからな」
「なら、君がしくじった時に私が動けばいいわけだ。楽な仕事もあったものだな」
「違いない」
お互いに笑い合う中、ヴィヴィアは心の中で何となく一つの確信を持っていた。侵入者がファヴニルと相対した時、ファヴニルの力の一端を見ることになると。未だ底が見えないファヴニルの実力を見ることができるなら、怖さよりも少しだけ────本当にほんの少しだけ、楽しみと興味が打ち勝った。
さて、消灯時間を過ぎた夜中。
立ち入り禁止の禁じられた廊下の最奥部にて、侵入者は息を荒くして肩を上下させるハリーの前に立っていた。侵入者はニヤニヤと見下すような笑みを浮かべてハリーを見ており、ハリーはあらん限りの怒りを込めた視線を侵入者に向けて睨みつけている。
侵入者────クィレルは、いつも見せていた怯えた様子も、どもる様子もなく、堂々とハリーに杖を向けて立っている。そもそも、攻撃魔法の一つも覚えていないハリーが、ホグワーツの、闇の魔術に対する防衛術を教えている教師に勝てるわけがないのだ。
さらに言えば、クィレルの後頭部に取り憑いている闇の帝王を名乗る魔法使い、ヴォルデモートもいるのだ。幼いハリーが勝てる要素は微塵もなかった。
「さぁ、石を渡せ! ハリー・ポッター!!」
「渡すもんか! 僕は絶対にお前に負けないぞ!! 死んでも渡すもんか!!」
だが、ハリーは諦めなかった。それは蛮勇だったかもしれない。しかし、それでも自分をここまで送ってくれた友人であるロンとハーマイオニーに報いるためという思いが、ハリーの心に強く根付いていた。ここで自分が折れた場合、きっとクィレル兼ヴォルデモートは自分も、ロンも、ハーマイオニーも殺すだろう。そんなことさせて堪るか、と恐怖を拭うように叫び、震える体を抑えつける。
「震えているぞ、ハリー。大人しく石を渡してくれるならば、そんな恐怖に苛まれることもない」
冷たく、心に沁み込んでくるような声を聞くだけで震えが止まらない。怖くて仕方がない。敗北すれば、間違いなく命はない。冷や汗が噴き出る。杖を持つ手どころか全身が震えて、焦点が合わない。死が急速に迫ってきているこの瞬間が、怖くて仕方がない。逃げ出したい。
だが、どこに逃げるのか。逃げるなんて、絶対にできない。
「何度だって、言ってやる……!」
「────ほう」
「石は、絶対に渡さない! 渡さないぞ! 渡すもんか! 僕が死んでも絶対に渡さない!!」
「そうか。……ならば、お前の望み通りにしてやるとしよう」
クィレルの体の主導権を握ったヴォルデモートが、ハリーに向けて杖を振り上げる。
(ああ、やっぱり怖い。せめて、痛くないと、いいなぁ……)
ハリーは迫りくる死の恐怖に負けて、目を閉じてしまう。ヴォルデモートが、クィレルが、ハリー自身が、この場にいる誰もがハリーの死を確信したその時だった。
「はぁ……つまらんな」
心底つまらなそうな声が、ハリーの後ろにある扉から聞こえた。バッ、とハリーが振り向くと、そこには目を疑うような怪物の姿をしたファヴニルと、制服姿のヴィヴィアがいた。
「あの程度の謎解き、魔法の知識を使わずとも突破できる。そしてその先では……何ともつまらんやつがいるときた」
「君にとってはそうなんだろうがな、私達人間にとっては脅威だったぞ?」
「クハッ、ほぼ全ての謎を数十秒で終わらせたお前がそれを言うか?」
「君だって酒を飲みながら適当に粉砕していたじゃないか」
ヴィヴィアと談笑しながら入ってきたファヴニルの姿は、本当に怪物のようだった。禍々しい捻じれた角が生え、制服を突き破って飛び出した翼と尻尾、頬まで広がっている漆黒の鱗、鋭い爪と牙。まさに怪物。まさにドラゴン。ドラゴンを人間と混ぜ合わせたらこうなるのだろうな、という姿をした半人半竜のファヴニルに、誰もが目を見開いていた。
「────ファヴニル・モルトキュール、ヴィヴィア・アドワーズ……? なぜここに……そしてマグル風情が、なんだその姿は」
瓢箪に入った酒をがぶ飲みしているファヴニルは、ヴィヴィアを後ろに下げさせながら、つまらないものを見るような目でヴォルデモートを見る。
「クハッ、マグルか……俺が非魔法界の人間に見えていたとはな。ヌンドゥを殺したところを見ていたのにな。voldemortともあろう者が」
「……何?」
「ああ、聞き取れないか? 言語学には全く精通していないと見た。勉学に励んだらどうだ? まぁ、もっとも……」
学ぶのは、生まれ変わってからだろうが。
そう言いながら酒を飲むことを止め、ファヴニルはヴォルデモートではなく、ハリーを見る。
「ハリー・ポッター。見事だ。お前は見事に守護者が現れるまで石を守り通した。汝の勇気に、敬意を」
「ニール……?」
「そしてvoldemort。愚かしい魔法使いよ、マグル風情と侮ったな? 愚かしいものだ」
嘲笑するように────いや、本当に嘲笑しながら、憐みの目を向けるファヴニルにヴォルデモートは青筋を立てつつも余裕を見せたままでいた。
「お前は知らないのだな。瞬間瞬間を必死に生きた者達の輝きを。文化を。歴史を」
趣味に明け暮れていながらも、ファヴニルは多くの人間の生き様を見てきた。外からの脅威に備えるために走り回った男を見た。戦争が横で起きていても学問を教え続けた男を見た。絵を描くことに生涯を捧げた者を見た。百年の歴史の中で起こった戦争を見てきた。焼け野原になっても復興した日本を見た。原子爆弾が落とされ、黒い雨が降り注いだ場所でも懸命に生きて、苦しかったはずなのに酒を飲み交わし、最期にファヴニルのことを案じて逝った者達がいた。戦争に勝つことよりも弟を案じる姉の偉大さを見た。超人的な仕事ぶりと必要であれば相手が誰であろうと直言を厭わない果敢な姿勢の看護師と出会った。慈愛と献身をその身に宿した修道女と出会った。
涙が出るほど美しい、暖かな光を放つ星々のような人間。今、この瞬間も人間は進化し続けている。今この瞬間を必死に歩き続けている。
「愚かな魔法使いよ。お前に死を贈りに来たぞ」
ファヴニルの手には、いつの間にか一振りの武器が握られていた。鞘に納められたその剣は、鞘越しからも禍々しく、悍ましい気配を放ってる。
「……なんだ、それは……!?」
「too late do you offer to make peace with me, for now I have drawn the sword dainsleif, which was smithied by the dwarfs, and must be the death of a man whenever it is drawn; its blows never miss the mark, and the wounds made by it never heal.」
ファヴニルがハリー達には全く理解できない言語を口にしながら、その剣を鞘から抜き放つ。ルーンが刻まれた血のように赤黒い刀身が剥き出しになり、禍々しく、悍ましい気配は更に強くなる。それと同時に、暴力的なまでの神秘と魔力も。
「この武器の名は、教えなければなるまい。魔剣ダーインスレイヴ。ドワーフの遺産は、貴様の血を全て啜るまで鞘に納まることはないぞ。……貴様如きに使うなど、勿体ないにも程があるが」
ヴォルデモートが叫ぶ。
「殺せ!! 惨たらしく!!」
「クハッ、開戦の言葉すらつまらんとはな。飲まないとやってられんな」
ファヴニルとクィレル兼ヴォルデモートの戦闘が、始まった。
ヘグニはこう答えた。「おまえが和解を求めるにしても、もはや遅すぎる。私がもうダーインスレイヴを抜いてしまったからだ。この剣はドウェルグたちによって鍛えられ、ひとたび抜かれれば必ず誰かを死に追いやる。その一閃は的をあやまたず、また決して癒えぬ傷を残すのだ」
ウィキソース英語版 - Prose Edda/Skáldskaparmál 19:37, 25 July 2006 (UTC) の版より引用。
このダーインスレイヴですが、借り物です。レンタル品です。