年度末、ホグワーツ魔法学校大広間には、全校生徒が集まって今学期の終わりを告げるパーティーに参加していた。
「諸君! また、一年が終わった!」
ダンブルドアの演説が大広間に響き渡っている中、ファヴニルはいつも通りハッフルパフの席に座って薬水で喉を潤していた。喉の調子はドラゴンブレスに関わるのである。教師陣も、生徒達も何も言わないのは、ファヴニルがそれをいつも飲んでいることが常習化しているからだ。そのうち酒を飲み始めるかもしれないが、それはそれ。さすがに式典で飲むほどアルコール依存症になっているわけではないのだ。あくまでも酒が好きなだけで、アルコールが好きなわけではない。
大広間の天井には赤い寮旗が飾られており、今学期の優勝がどの寮かこれでもかと物語っている。正直目に悪いカラーリングな気がしてならないのは気のせいだろうか。きっと気のせいだろう。気のせいであってくれ。
ちなみに教師陣ではスネイプがどこか機嫌が悪そうに顔を顰めており、対照的にマクゴナガルは喜びを露わにして目をキラキラと輝かせていた。生徒達の方はというと、特にグリフィンドールが嬉しそうにワクワクしており、スリザリンはどこか不満げにしている。
「今年も一年、色々なことがあった。楽しいこと、辛いこと、嬉しいこと、悲しいこと。どんな経験も素晴らしい糧となる。将来、自身の道を切り開く時、きっとそれは役に立つ。……さて、諸君。儂は知っての通り、長話が好きではない。英雄譚や、冒険譚、偉人伝は大好物じゃがのう」
一瞬だけ、ファヴニルとダンブルドアの視線が交錯した。本人達以外の全員がそれに気付くこともなく、ダンブルドアは続けた。
「皆、今年の一年よく頑張ってくれた。秘密の防衛に関わった者達は特に苦労をかけた」
ダンブルドアがグリフィンドール寮の席や教師陣など、あの場所に関わった者がいる場所に視線を向けてウインクをした後、ダンブルドアがにっこりと笑った。
「では今年の優勝寮を発表しようかの。優勝寮はグリフィンドール!」
その声にグリフィンドールでは喜びを表す歓声が響き、ファヴニルも含めた────スリザリンの生徒は不服そうではあるが────拍手を送る。
今年の寮の点数は本当に僅差だ。あと少しでも違えばスリザリンやハッフルパフ、レイブンクローが取っていたかもしれない程に、本当に僅差だったのだ。だからこそ、スリザリンの悔しさはひとしおだろう。心なしかハッフルパフやレイブンクローの生徒達も悔しそうにしている。
「よしよし、グリフィンドールの生徒達よ、よくやった。だが、最後にいくつか……直近までの出来事で、加点しなくてはならないことがある」
歓声や拍手が響き渡っていた大広間の中で、ダンブルドアが良く通る声で宣言する。
「まずは諸君。勇気には様々なものがある。友情の形も、またそれぞれじゃ。友を守るため、一緒に戦うことも勇気と言えるだろう。しかしの、友を守るために友の敵となってでも止めようとする、立ち向かう勇気は、並大抵の勇気がなくては湧いてこない」
「その果てに友と決別するかもしれない……そんな恐怖を思えば、間違いなく。ゆえに、儂は友を守るために類まれなる勇気を示したネビル・ロングボトムに10点を与えたい」
グリフィンドールの席で、さらなる歓声が爆発する。隣の席や向かいの席、さらに遠くに座っていた先輩や同級生からももみくちゃにされているネビルは、照れくさそうにしながらも嬉しそうに笑っていた。
「これがまず一つ。次に、優しさとは、時に誰かを突き放すという行為も含まれておる。その行為によって、離れていく者もいるだろう。しかし、真に聡い者は、それが自分を想ってくれているからこそであると気付く。その気付きはきっと、強い絆を生み出すのだ」
「他の寮との交流により、それを理解し、実を結ばぬかもしれぬその行動を実行し続けていたダフネ・グリーングラス、ブレーズ・ザビニ、ヘスティア・カロー、フローラ・カローにそれぞれ5点ずつ与えたい」
不機嫌だったスリザリンの席が喜びの歓声を上げた。これでグリフィンドールと並んだのだ。名前を呼ばれた四人は満足そうに、誇らしげに胸を張っている。なお、グリフィンドールからは少しだけ不満の声が上がったが、優勝は変わっていないので本当に不満の声を上げたのは少数だ。
「そしてこれが最後じゃ。このホグワーツを築き上げた偉大な魔法使い達は、お互いの手を取り合い、友情をはぐくみ、関係を作ってきた。利害関係の一致もあったのじゃろう。しかし、その団結こそが、多くの闇を打ち払う力となったのじゃ。多くの障害、多くの問題を、団結することで突破してきた。……今のホグワーツには、あまりないと思われたもの……それを体現しようと様々な寮の者と縁を結んだ者が、二人おる」
その言葉に、誰もがハッフルパフとレイブンクローの変わり者を見た。同じ寮の人間だけではなく、別の寮の人間とも交流し、縁を作り、交流してきた二人の男女を。
「かつてホグワーツにあった融和をもう一度生み出そうとしていたファヴニル・モルトキュール、ヴィヴィア・アドワーズにそれぞれ30点ずつ与えたい」
ダンブルドアの宣言に、静まり返った大広間で、ダンブルドアがにっこりと心底嬉しそうな笑みを浮かべて杖を構えた。
「さて、儂の計算違いでなければ、装飾を変えねばならんの」
そう言って笑うダンブルドアが杖を振るうと、グリフィンドールの寮旗だけだった天井の旗が赤、緑、黄、青────四つの色に染まり、教師陣の座る席の後ろにある大きな時計には獅子、蛇、穴熊、鷲がお互いを支え合うような絵が描かれ、祝福を告げるファンファーレのような音楽も流れ始めた。
「ほっほっほ。まさかこの絵と光景をもう一度見ることができるとはのう。……では、改めて発表するとしよう! 今年の優勝は────────グリフィンドール! スリザリン! ハッフルパフ! レイブンクロー!」
一瞬遅れて、全ての寮が大喝采を上げた。ホグワーツ城全てが揺れているかと思う程の大歓声と割れるような拍手と共に、今学期の終了を告げる豪華な食事がテーブルに現れる。
「さぁ皆の衆、喜びを分かち合いながら────かっこめ!」
今まで見ることが無かった光景に教師の面々も驚きを隠せず、目を輝かせた。いくつになっても、素晴らしいものに目を輝かせる感性というのは変わらないのだ。
ファヴニルはヴィヴィアが座っている席に向けて、ゴブレットを少しだけ動かす。それに気付いたヴィヴィアも嬉しそうな笑顔で小さくゴブレットを掲げた。
パーティーも終わり、キングスクロス駅行き乗り場でホグワーツ特急に乗ったファヴニルは、コンパートメントの中で流れゆく景色と、大量購入したチョコレートを肴に酒を飲んでいた。
そんなファヴニルの向かいには、一年前と同じようにヴィヴィアが座っており、酒を飲むファヴニルを呆れた様子で見ている。
「君は本当に、あれだな。酒が好きなのだな」
「ああ。去年漬けたベニテングダケの酒がよく漬かっている。ヴァイキングは戦いの前にこの酒を飲んで士気を上げたそうだぞ」
「……それ、マジックマッシュルームの類ではないだろうな?」
「マジックマッシュルームはアステカにおいてはテオナナカトルと呼ばれ、今でも神聖なものとして扱われているな」
毒々しい色をしたキノコが漬けられている瓶の中から、また酒を取り出して盃に入れたファヴニルはクツクツと笑い、酒を呷る。
余談だが、ハリー達とは列車に乗る前に別れた。ハリー達はファヴニルに聞きたいことがあったようだったが、来年度に覚えていたら答えると言われ、絶対に忘れないように日記をつけるよ、と笑って別れた。乗り込む直前にはフレッド、ジョージ、ネビル、セドリック、チョウ、ブレーズ、ダフネ、ヘスティア、フローラなどにも挨拶をされ、ファヴニルやヴィヴィアとの討論で完全敗北を喫したドラコ・マルフォイ一同からも挨拶をされた。なお、挨拶と思っていたのはファヴニルとヴィヴィアであって、ドラコ一同は皮肉るために来ていた。
「それで、夏休みの予定なんだが……集合はいつにする?」
「ふむ……そうさな…………そちらに任せる。俺の予定はいつでも空いているしな」
「酒の探求に明け暮れるかと思っていたよ、私は」
「クハッ、それもまた一興だがな。招待すると言ったのは俺だ。いつでも来ていいように予定を空けるのは当然だろう?」
「……」
『ああ、分かるぞ、君。この酒のことしか考えていないようなやつにそういった考えもできたのかと思ったんだろう』
『分かる。分かるよ。でも、知っての通りこいつ、結構考え無しじゃないから』
『ええ、そうですね。禁酒だと言っても禁酒しない馬鹿でしたけど』
『酒のことになると本当に酒カスドラゴンなんだけどね』
『うん、分かる……唖然とする気持ちは本当に分かる……』
『ダンスもなぜか完璧だったのはちょっと引いた』
『だけどニールの旦那が振舞ってくれる酒は全部美味いぞ、お嬢ちゃん!』
『『『それな』』』
何を当たり前のことを、と言わんばかりの笑みを浮かべたファヴニルに面食らったヴィヴィアは、ファヴニルの後ろで何やらゴーストのような半透明で様々な服装をしている人々が頷いていたような気がしたが、気のせいだろう。そもそもファヴニルの後ろは壁だ。誰かがいるはずもない。
「……まぁ、時間が決まったら伝えるよ」
「ああ、そうしてくれ。梟で送ってくれてもいいが、ドラゴン急便を使うといいぞ」
「待て、知らない急便だぞそれは」
「どんな場所でも荷物を届けてくれる急便だ。しかも早く届く。便利だぞ」
魔法界の貨幣でも、非魔法界の貨幣でも利用可能な急便だと言ってチョコレートを口に放り込むファヴニルに、頭が痛そうにするヴィヴィア。ドラゴン急便、間違いなくファヴニルのとんでも親戚か友人の趣味だろうと察したからである。神秘の秘匿も魔法界の法律も全く気にしていないとんでもない急便、秘匿性も高いので知っている者は利用している急便であり、実はアドワーズ家の一部────特にリチャード達年配組────も使っているのは別の話。
「はぁ……」
「どうした? チーズでも食べるか? 美味いぞ」
「……いただこう」
受け取ったチーズはとても美味であった。特にチョコレートと合わせると濃厚な味わいがさらに強まり、とても美味しい。
「ああ、そうだヴィヴィア。荷物の中にはドレスを含めておいてくれ」
「? なぜだ?」
「近いうちに親戚の結婚記念パーティーがあるんだ。何日か続けて行うからな。その際に……まぁ、ダンスもある」
「……もしかしなくても、君の家は貴族の家か何かなのか?」
「いや、貴族ではないな。……まぁ、血筋を辿れば貴族や王族に行きつく連中もいるにはいるが」
まぁ、氏より育て柄、という言葉もあるから関係ない話だな。
そう言って瓢箪の酒を飲むファヴニルにあんぐりと開いた口が塞がらないヴィヴィア。今更ながら、とんでもないやつと縁を結んでしまったかもしれないと、また発生した頭痛に苛まれるヴィヴィアの姿すらファヴニルは酒の肴にしていた。やはりこいつの本質は酒カスドラゴンであった。
短いけどエピローグ終わりじゃい!!
次回は…多分プロフィール紹介…かな?