ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

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ハイボール作る時に三ツ矢サイダーを使ったらどうなるかを実験し、甘くて飲みやすい代わりにごくごくいって悪酔いしそうだと思った今日この頃。まぁ、私、酒は一ヶ月に三回飲めば多い方なんですけどね。

それと私、最近嬉しいことがありまして。ええ、低評価の数が少し見ないうちに増えていることがとても嬉しいのです。

どっかで話したかもしれないんですけど、私達、低評価を付けてくれる方は「自分はこいつより面白い作品が書ける」という自信の表れであり、創作への意思表示だと考えております。なので、私の作品よりも面白い作品が低評価の数だけ生まれると思っています。それが何より嬉しいのです。面白い作品なんていくらあってもいいですからね。

もちろん高評価もとても嬉しく思っております。ありがとうございます。

さて、能書き垂れたところでいつも通りの合言葉を。

お酒は二十歳になってから!!守らない場合、手に入れるもの全てが温められます。


幕間の物語
ヴィヴィア・アドワーズとドラゴンの故郷


 日差しが強く、肌がじりじりと焼けるように感じる八月。ヴィヴィア・アドワーズは、人気の少ない海辺にある小さな喫茶店で雪のような削り氷にフルーツソースとクリームがたっぷりかけられたスイーツと、温かいコーヒーを飲みながら待ち人を待っていた。

 

 この海辺の喫茶店がファヴニルとの集合場所ではないのだが、少し前に読んだ非魔法界の雑誌にこの喫茶店の記事が載っており、集合場所に近いということでここで時間を潰している。大人ではないので注文していないが、ウィスキーをかき氷にかける大人のかき氷なるものも存在しており、ファヴニルがいれば間違いなく注文しているだろうと思いつつ、自家製フルーツソースがかけられたかき氷を堪能するヴィヴィア。大人びていても甘いものが好きな女の子であることには変わりない。

 

 冷えた身体をホットコーヒーで温め、かき氷で涼む。途中、頭がキーンと痛むこともあったが、これもまた夏の風物詩であると考え、ヴィヴィアはかき氷と食べ続け、待ち人が訪れた頃に完食した。

 

「ヴィヴィア、待たせたな」

 

 ヴィヴィアが顔を上げると、黒い髪と黄金の瞳の友人が立っていた。初めて出会った時と似た動きやすそうかつどこか気品さを感じさせる服を着ており、髪をオールバックなどに整えたらどこかの貴族の令息に見えるだろう。

 

「おや、ここにいるとは言ってなかったし、まだ時間もあったはずだが……」

 

「女を待たせるものではない、と言われてな」

 

 まぁ、飛ばしてきた。

 そう言って肩をすくめたファヴニルは、ヴィヴィアの座っている席の近くに置いてあったトランクケースを持ち上げ、店主にヴィヴィアが注文したかき氷とホットコーヒー分のお金を丁度支払う。

 

「……あとで返すからな」

 

「そこまで困窮してはいない。このくらいならな」

 

 有無を言わせる隙を潰した支払いに呆気に取られたヴィヴィアは、すぐにお金をファヴニルに渡そうとしたが、ファヴニルはそれを断固として受け取らない。こういったところをきっちりしているのは、百年生きている年の功と言ったところか。

 

「ところで良かったのか、ヴィヴィア」

 

「何がだ?」

 

「いや、何やら貴族同士のあれこれがあったそうじゃないか。それに参加しなくても良かったのかとな」

 

 喫茶店を出て晴れ渡った海辺に向かうファヴニルが隣を歩くヴィヴィアに問いかけたのは、手紙に書かれていた貴族の家が集まるパーティーについて。貴族の子供達の顔合わせ目的もあるはずのパーティーに参加しないことにしたと書いていたので、ファヴニルは少しだけ気になったのだ。

 

「ああ、あれか……別に私がいてもあまり意味がない場だからいいんだ」

 

「ならいいんだが」

 

「興味が?」

 

「腹黒い人間が集まる場所というのは、俺の友人の大好物だと思ってな」

 

「……悪魔か何かか?」

 

「中らずと雖も遠からず、だな」

 

 どこか楽しそうに笑う酒カスドラゴンだが、ヴィヴィアは不安だった。ファヴニルの故郷にはファヴニル以上に灰汁の強い者が集まっているのだろうと察してしまったのである。その予想は的中しているのだが、ヴィヴィアが思っているよりも灰汁も癖も強い連中が住んでいるので、ヴィヴィアの心は保つのだろうか。

 

 ヴィヴィアが自分の精神がファヴニルの故郷で擦り切れないか心配していると、ファヴニルの足が止まる。目的地に着いたのかと思って周囲を見渡してみるが、太陽の光を反射して光り輝く海と、誰もいないのが不思議なほど白く美しい砂浜が見える。

 

「モルト、海水浴に来たつもりはないんだが……」

 

「そんなわけがないだろう。ここが一番都合がいいだけだ」

 

「都合────ッ!?」

 

 ヴィヴィアのトランクケースを懐に仕舞ったファヴニルの擬態が剥がれ、ドラゴンの特徴が現れる。誰もいない海辺だからいいものの、非魔法界の住人がいた場合、裁判にかけられて、杖を折られてしまうかもしれない状況にヴィヴィアは驚いて目を見開いていた。

 

「よし、ヴィヴィア、しばらく抱えるぞ」

 

「へ……うわっ」

 

 混乱している間にファヴニルに横抱きにされて、現在の状況を把握したヴィヴィアは多少の驚きと羞恥で染めた。しかしその赤く染まった頬もすぐに青褪めることになる。

 

「さて……人を抱えたまま飛ぶのは初めてなんだが……まぁ、一時間もかからんだろう」

 

「すまない、凄く嫌な予感がする────ひぁああああああああああああ!!?」

 

 ドップラー効果を発揮しながらヴィヴィアの声が地上から遠ざかっていく。実は家で箒の練習をしていた時になぜか飛んでいたコンドルが襲撃をかましてきたことがトラウマになり、あまり高い所が得意ではないヴィヴィア。もちろん今になっては克服し始めているが、超高度というあの時と同じ状況にもなれば、子供らしい悲鳴が出てもおかしくはないだろう。

 

「なんだ、高い所は苦手だったか?」

 

「あのな、いきなりこんな高さまで連れてこられたら誰だって叫ぶだろう!?」

 

「そうか? 友人は目を輝かせていたがな。勇気を出し、下を見てみるといい」

 

「高所恐怖症の人間に下を見ろ、なんてよく言えるな……!」

 

 雲を突き抜け、高度一万メートル弱といったところを飛ぶファヴニルに文句を口にするヴィヴィアだが、コンドルに捕まった時とは違い、揺れることも孤独感もない状況に慣れてきたのか口元には不満と好奇心を混ぜ合わせた笑みが浮かんでいた。

 

「そこまであれこれ言えるのなら問題ないな。本当ならスキーズブラズニルでも借りてくるつもりだったんだが……」

 

「待て、とんでもないものを口にしている自覚はあるか?」

 

「持ち主がインドに観光しに行っているらしく、レンタル不可だった。ああ、その代わりにはならんが、試作品のネクタルは貰ったぞ。飲むか?」

 

「試作品のネクタル!?」

 

 悲鳴にも近い叫びがヴィヴィアの口から飛び出る。

 ネクタル。ギリシャの神々が飲んでいるという、不老不死の霊薬ならぬ、不老不死の酒。芳香を放つ甘美な赤い神酒とされ、春の神へーべーが神々に注いで回っているという神話上の酒を、コーヒーを飲むか聞くような気軽さで飲むかと聞いてきたファヴニルの知り合いが何者なのか、聞くことが恐ろしくなっているヴィヴィア。聞かずとも今日会うことになるため、今のうちに慣れておくべきである。

 

「ああ、試作品だからアルコールも不老不死の成分も入ってないぞ。味は桃味だ」

 

 飲みたいのなら、俺の首に吊るされている水筒に入っている、と口にしたファヴニル。快適な空の旅が始まって大体数分。そこから十分弱黙ったまま考え続けたヴィヴィアは、最後に好奇心が勝ったのか、抱えられたままファヴニルの首に吊るされている水筒の蓋を開けた。

 

「────────驚くほど甘いな!? これは本当に桃味か!?」

 

「クハハッ、造った本人曰く桃味だそうだぞ? 俺にとってはマンゴー味だったが」

 

「うん? 私にはアイスクリームとイチゴの味がしたんだが……」

 

「……ほう? ということは、飲んだ者によって味が変わるのか?」

 

 ヴィヴィアがもう一度口にした試作品ネクタルの味は、やはりアイスクリームとイチゴを混ぜ合わせたような濃厚な甘い味だ。さっきから驚き続けて早打ちを繰り返す心臓の音が収まっていき、呼吸が整ったヴィヴィアは、ファヴニルが言っていた通り下を見る。────そこには、絶景が広がっていた。

 

「……これは、凄いな」

 

「ああ。人類が空に憧れ続けた理由が理解できる」

 

 どこまでも広がる水平線、緑に覆われた小さな無人島など、普通に生きていれば見下ろすことができる機会が少ない空の世界がそこにはあった。高い場所が苦手なヴィヴィアであっても、この光景を見た後であれば高所も悪くない────ただし落ちないことが約束されている時に限る────、そう思えた。

 

「俺の友人曰く、人間とは飽くなき欲望、終わらぬ闘争、様々な淘汰によって進化を続けてきた生き物であるそうだ」

 

「興味深い話だな。欲望か……文明の開化もそれが起因しているということか?」

 

「まぁ、その友人も一説だと言っていたが……俺は一理あると考えている」

 

 世界中の書物を蒐集し、読み漁っては悦に浸る友人のことを思い出しながら、ファヴニルは話を続ける。

 

「まずは欲望だが……鳥のように空を飛んでみたい、魚のように海を渡ってみたい。そんな思い、願い……欲望と言い換えてもいい願望を昇華し、人間は飛行機や船を生み出した」

 

「なるほど……」

 

「それを闘争に使うようになり、人間は様々な兵器を生み出した。例えば軍艦、例えば戦闘機……魔法使い達が魔法で決闘をしている間、非魔法界の住人達はいかに効率的に敵を打ち倒すかを考えてきた」

 

 本来の用途に活用されなかった技術や理論も多くある。その技術や理論で多くの兵器が生まれ、進化し、その犠牲となった者達がいる。その犠牲によって生まれた技術が、様々な分野に応用され、発展した。痛ましく、悍ましい戦いの歴史。多くの犠牲、淘汰を繰り返し、人間は発展してきた。

 

「誰もが目を背けてはならない、犠牲の山が積み上がる歴史。クィレル先生が悍ましいマグル、と言ってたのも……俺は否定しない。だが、その中で強く、気高く生きる人間がいることも、俺は知っている」

 

「……今更だが、君は何歳なんだ? 本当に私と同じ12歳なのか?」

 

 ヴィヴィアの疑問は、ホグワーツに通っている時も思っていたことだ。入学時から11歳だとは思えない落ち着きぶりと、大人びた雰囲気。この少年は本当に自分と同じ年齢を生きてきた者なのだろうか。

 

「ふむ……まぁ、人間換算だと……何歳だったか……」

 

(……人間換算!?)

 

「ああ、112くらいだったか? いやもっと行っていたか……? 長いこと生きていると年齢を数えるのが億劫になっていかんな」

 

 さらっと世間話をするような軽さで自身の年齢を口にしたファヴニルに対して、ヴィヴィアは驚愕と困惑を隠せずにいた。

 百年。百年生きた者など、ダンブルドア並みに年老いているはずなのに、今自分を抱えて飛んでいるファヴニルの姿は自分と同じくらいの年齢の少年にしか見えない。人間と闇の魔法生物の混血は若い姿を維持しやすい、なんて話をどこかで聞いたことがあるが、それにしたって若すぎる。

 

「故郷の換算だとほとんど生きてない若造だぞ、俺は。故郷の者達曰く、俺は生まれながらに死んでいて、最近ようやく生まれて生を謳歌している子供らしい」

 

「……本当に、どうなってるんだ、君も、君の故郷も」

 

「趣味に明け暮れる者しかいない場所で生まれた半竜半人だ」

 

 情報が多すぎて、頭が回らない。思わずまた試作品のネクタルを飲んでしまった。甘くて美味しい。

 ヴィヴィアが回らない頭をどうにか動かそうとしていると、高速で空を飛んでいたファヴニルの動きが遅くなる。

 

「……モルト?」

 

「そろそろ────いや、もう着くぞ」

 

「何?」

 

 ヴィヴィアが首をかしげた直後、何か薄い膜のようなものにぶつかったような感触に襲われる。不快な感覚ではなく、むしろ、春風を浴びたような暖かさすら感じるそれを突き破ったとヴィヴィアが自覚した瞬間、彼女の目に大きな樹木────のように見えるが凄まじい大きさの竜の骨だ────が中心に聳え立った巨大な陸地が写る。

 

「ようこそヴィヴィア・アドワーズ。境界の向こう側、竜の楽園へ」

 

 それは、不思議な大陸だ。緑豊かな陸地には巨大な農耕地があったり、現在進行形で建築が進んでいる建物だったりが見える不思議な大陸であった。

 巨大な翼を広げて飛ぶドラゴンの近くには、ファヴニルのように半分人間で半分ドラゴンという姿の者がいたりするのが見える。太陽に照らされた自然豊かなその大陸に思わず息を呑んだヴィヴィアを抱えるファヴニルに、近付く影があった。

 

welome bak favnir. it's energeti and more than anything

 

 近付いてきたのは赤い翼を広げて飛ぶ半竜だった。ファヴニルとは違い、こちらは人間の姿が混ざっているというわけではなく、どちらかと言えば物語に登場するリザードマンに近い姿をしている。だが、リザードマンにしては燃えすぎている。赤い翼もよく見れば炎が翼の形をしているし、赤い目も炎で構成されているのか時々瞳が揺らぐ。

 

an you speak in the human language? こっちの言葉は伝わらん」

 

「ああ、それは失礼した。それにしても、君が人間を連れてくるのは初めてだな? 番か?」

 

「つが────!?」

 

「違う。友人だ」

 

「即答か。相変わらず……って言えばいいのか? ヨルガンドが笑うぜ」

 

 炎がドラゴンの形をしているような彼は、楽しそうに笑う。

 

「喧嘩好きはむしろ同意するんじゃないのか」

 

「あん? あいつ、日本で番見つけてきたぞ?」

 

「何!?」

 

「ああ、その反応に僕もなった。まさか大蜘蛛の娘と番になるとは思いもしなかったからな。ちなみに式は今日の記念パーティーと同時に行うそうだぞ」

 

 そう言って炎のドラゴンは用事があるので、と話してファヴニル達とは別の方向に飛んで行ってしまった。赤くなった顔を冷ましつつ、ヴィヴィアは降下し始めたファヴニルに問いかけた。

 

「モルト、今の彼は?」

 

「イフリートだ」

 

「…………イフリートというのは、トカゲだったと思うんだが」

 

「それはイフリートが残した痕跡から生えてきた残り火のようなやつだな。本体はあいつだ」

 

 緩やかに降下し、城のような構造をした建物の屋上に降り立ったファヴニルは、三十分程度抱えられっぱなしだったヴィヴィアを優しく立たせる。酒のことが絡まなければ紳士的な人間らしいファヴニル。なお優先順位は酒>友人である。どう足掻いても酒カスドラゴンなのだ。

 

「────あら、帰ってきたのねニール」

 

 ヴィヴィアがよろめきながらも立ち上がり、魔法界でも非魔法界でもない不思議な風が吹き抜ける竜の楽園の空を見上げていると、ゾッとするくらい美しい声が響く。耳から脳へ、脳から全身へ心地良い感覚が流れていくような、そんな声だ。

 

「ああ。…………全く変わってなくて何よりですよ、姉上」

 

 振り向けば、美しい容姿の女性が立っていた。動きやすそうな服に身を包んだ女性は、ファヴニルと同じ黒い髪だが、瞳の色が違う。黄金ではあるのだが、黄金の中に火のように輝く赤が混ざっている。肩まで伸びている髪を一つに纏めており、ちらりと見えるであろううなじを見れば、多くの男が息を呑むこと間違いなしだ。ファヴニルと同じように翼を持ち、瞳孔が爬虫類のように裂けている。鱗はファヴニルと違い、黒が混ざった赤。角は無いが、尻尾がある。

 

 容姿が整っている自覚があるヴィヴィアから見ても、彼女ほど美しい女性は中々いないだろうと断言できた。人間とかけ離れた特徴を持つことを差し引いても背筋が凍る程に美しい容姿を持った女性は、ファヴニルの姉だという。

 

「あら気持ち悪い。いつものように姉さんと呼べばいいものを。それとも、番にかっこつけたい年頃かしら? 敬語も心底気持ち悪いからすぐやめてくれる? 止めなかったら借りているバルムンクで斬るわよ? それともグラムがいいかしら?」

 

「イフリートもそうだが、どうして番に結び付ける。ヴィヴィアは友人だ。それとバルムンクを抜いたらこちらは借りている金剛の鎌を抜くが?」

 

「ふふ、可愛い弟との喧嘩も悪くないわね。ええ、とってもいい提案。久しぶりにあなたの臓物をぐちゃぐちゃにかき回して啜ってあげましょうか? 苦悶の声を上げるあなたはとっても可愛らしいもの」

 

「クハハッ……やれるとでも?」

 

「ウフフッ……百年とそこらしか生きていないくせに強がるのは止めた方がいいわよ」

 

 おどろおどろしい空気と猟奇的な言動をしているとは思えないほど、女性の所作はとても綺麗で、声はゾッとするくらい美しい。安らぎすら感じさせる声で放たれる猟奇的な言葉の数々に、ヴィヴィアは顔を引き攣らせることしかできない。

 

「ヴィヴィア、紹介しよう。猟奇的な感性をしている以外はまともな俺の姉、ティフォン・モルトキュールだ」

 

「初めまして、可愛いニールのお友達。私はティフォン・モルトキュール。ファヴニルの姉です」

 

「ヴィ、ヴィヴィア・アドワーズ、です」

 

「ええ、ええ。ニールの手紙で名前は知っていたけれど……ウフフッ、とっても可愛らしいお嬢さん。ニールの友人じゃなかったら食べてしまいたいくらい……」

 

「えっ」

 

「冗談よ。……ああ、でも、弟の友人を私色に染め上げるというのも得難い経験かしら……」

 

 音もなく、まるで蛇のように近付いてきたティフォンがヴィヴィアの頬に手を添えて、美しい微笑を浮かべて甘くて蕩けてしまいそうになる声音でそう言う。ちなみにティフォンがヴィヴィアに近付いた際に使った技術は、縮地である。技術の無駄遣いとはまさにこのことか。

 

「はぁ……相変わらずで何よりだよ姉さん」

 

「あら、ごめんなさいね。可愛らしい子を見るとどうしても」

 

 ゾワゾワと背筋に良くないものが伝っていくような感覚を味わうヴィヴィアに救いの手を差し伸べたファヴニルの表情は、いつもよりも穏やかだ。

 

「悪いなヴィヴィア。俺の姉は男だろうが女だろうが可愛いものは全て喰ってしまうやつだ」

 

「あら、分別は付けているわ。それに、私は女の子の方が好みよ」

 

「好みの話は今していない。……喧嘩とつまみ食いを趣味にしているのは相変わらずか」

 

「可愛らしいもの、美しいものを愛でるついでに戦いも嗜む。いい趣味でしょう?」

 

「まぁな。いい趣味だとは思う。だが、それで何人の女を泣かせてきたのかを思い出してみろ」

 

「それ、あなたが言う?」

 

「俺は女性とのこうした交流はヴィヴィアが初めてだが?」

 

「あなたこそ女泣かせで笑えちゃうわ」

 

 お互いの胸ぐらを掴み合い、喉元に錆だらけ────ドラゴンからすればギラギラと輝いている────ナイフを突きつけながら笑顔で口撃の応酬が止まらない姉弟。同族嫌悪、同担拒否など、そういったことではない。相性も悪くないし、お互いに信頼しているし、家族として愛している。信頼しているし愛しているのに殺し合い一歩手前まで喧嘩するというのはいかがなものか。ドラゴンの感性とは人間とかけ離れている。

 

「……まぁいいわ。ヴィヴィア、あなたドレスは持ってきているかしら」

 

「……はっ! あ、ええ、はい。モルトから持ってくるようにと────」

 

「あら、モルトって呼んだら私を含めたモルトキュール全員が反応するわ。ちゃんと名前を呼ばないとダメよ?」

 

 確かにそうだ。ファヴニル・モルトキュールと、ティフォン・モルトキュール。どちらもモルトキュールで、モルトと呼べば二人が反応してしまうだろう。言われてみればそうだ。この地にはモルトキュール姓がどれだけいるのか。少なくともファヴニルの両親と目の前の姉はモルトキュールである。

 ヴィヴィアは心の中で納得し、ファヴニルのことをニールと呼ぶことにした。そうしないと絶対にモルトキュール姓の全員が反応して面倒なことになると察したのだ。

 

「ああ、そうだ。ニール、ヴィヴィアの部屋はあなたの部屋でいいかしら?」

 

「相部屋にする必要はないだろ────」

 

「ピュートン兄さんが改築しまくってるせいで部屋がクラッシュ&ビルドされ続けているのよ。私達が使っている部屋以外」

 

「……そうか」

 

 遠い目をしつつも楽しそうかつ諦めたように笑ったファヴニルは、ヴィヴィアが使う部屋をどこにするかを決定した。

 

「ヴィヴィア、悪いが部屋は俺と同じ部屋だ。……まぁ、俺は基本的に酒蔵にいるから好きに使ってくれ」

 

「あら、客人がいるんだから趣味は二の次にしないと。お母さんに怒られるわよ?」

 

「そうだな。着替えなどをする時は声をかけてくれ。その際は部屋を出る」

 

「ホグワーツでも思っていたが……君はあれだな。結構明け透けだな」

 

「気を遣う時は使うが、遣わないでいいなら、それはそれでいいと思っている」

 

 そんなことをのたまいながら、ブランデーの酒瓶を取り出して飲み始めるファヴニル。デリカシーがある状態とデリカシーが無い状態を光の速さで反復横跳びし続ける弟を見て、全く変わっていないことに安堵と呆れを混ぜ合わせた溜め息を吐くティフォン。明け透けなことに慣れて苦笑するヴィヴィア。

 三者三葉の反応を示した後、ティフォンは咳払いをしてからヴィヴィアに微笑みかけた。

 

「とにかく、境界の向こう側、竜の楽園へようこそ、ヴィヴィア。偉大なる始祖シルシュの名の下に、私達はあなたを歓迎するわ」

 

「……一度休んでもいいか? 情報量が多すぎて頭が痛い」

 

「ああ、もちろんだ。案内しよう」

 

 ここから帰る頃には、何が起こっても驚かない程度の度胸と器量が生まれているだろう。そんな確信を得ながら、ヴィヴィアはファヴニルの後を追った。




ティフォン・モルトキュール
趣味:喧嘩、つまみ喰い
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