ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

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寝ます。


酒カスドラゴンとクィディッチ?

 明朝。ファヴニルはハッフルパフの寮監であるポモーナ・スプラウトに許可を取って魔法植物を栽培していた。栽培しているのは、噛み噛み白菜と呼ばれる鋼をも砕く牙を持つ白菜だ。土から離れて転がると、養分を求めて敵に襲いかかる不思議な魔法植物である。ファヴニルの運用方法は攻撃手段などではなく、ただ漬物や炒め物などにしたいがための栽培だ。

 

「ふむ……肉付きは良くなってきたが、色味が悪いな」

 

 ファヴニルが持っているのは鮮やかな緑色と橙色になるはずが、薄緑と赤色の噛み噛み白菜。肥料が良くなかったのか、それとも多すぎたのか。農業に狂っている姉のニードヘッグならばすぐに対処できたのだろうが、ファヴニルは通常の植物ならともかく、魔法植物の知識がそこまで多いとは言えない。酒造りにおいて植物は欠かせないエッセンスの一つであるがゆえに、作物の栽培はよくやっていたのである。実際、竜の楽園の各地にファヴニルがニードヘッグ達に委託している畑が存在するのだ。

 

「……スプラウト先生に訊いてみるか」

 

 色味が良くない噛み噛み白菜は鍋にして食べることにして収穫し、懐のポーチに仕舞い込んでおく。あとでホグワーツの屋敷しもべ妖精に野菜や肉を貰って鍋を作ろうと思いつつ、ファヴニルは朝日すら昇っていない朝のホグワーツの廊下を歩く。

 

「……おや」

 

「ああ……お久しぶりですね、ファヴニル」

 

「ええ、お久しぶりです、灰色レディ。叡智の人、その忘れ形見よ」

 

 恭しい礼をしたファヴニルに微笑むは、レイブンクロー寮のゴースト灰色レディ。ファヴニルを通して、懐かしい思い出を見出しているかのように優しく微笑む彼女は、ファヴニルに問いかける。

 

「こんな時間に何を?」

 

「魔法植物の収穫を。噛み噛み白菜を収穫していました。ただ、色味が悪いので鍋にでもしようかと」

 

「まぁ……少し、見せてくれますか?」

 

「ええ、もちろん」

 

 ファヴニルが懐から取り出した噛み噛み白菜を見て、灰色レディは小さく頷いた。

 

「病気ですね。土が悪いのでしょう」

 

「病気、ですか」

 

「正確には、土の中にいる細やかな虫によるものです。……ええ、本当に……ホグワーツを出てからの学びはとても多かった……リンヴルムが共に来てくれなければきっと、木の皮を食べる生活を送っていたことでしょう」

 

「それはそれは……」

 

「ふふ、懐かしい思い出です。……ああ、でも……お母様にも、男爵にも、悪いことをしました」

 

 遠い記憶を思い返す灰色レディは、憂いを帯びた表情を浮かべて呟く。ファヴニルが大祖母から聞いていた話によれば、灰色レディはロウェナ・レイブンクローの髪飾りを盗み出して出奔したという。「全く、あの子は本当にお転婆娘よな」、と蜂蜜酒をジョッキで一気飲みしながら豪快に笑っていたことを思い出し、ファヴニルは憂いの主な原因が髪飾りなのではと見当を立てる。

 

「……そういえば、血みどろ男爵が俺を見て苦い顔をしていたのは一体……」

 

「ああ、私を刺そうとした彼が、リンヴルムに全ての歯が折れるまで蹴られたからでしょう」

 

「クハッ、大祖母様は若かりし頃から全く変わっていないようだ」

 

「ええ、彼女は私の憧れです。あの時代、創設者の誰よりも鮮烈に生きた彼女に憧れた魔女は多いと思いますよ」

 

 男の魔法使いからは姉御、姐さんと呼ばれ、魔女達からはお姉様と呼ばれていたというリンヴルム・モルトキュールの武勇は竜の楽園でも轟いている。

 気に入らないことがあれば声を大にして言うし、喧嘩があれば割って入って両者を気絶するまで殴る蹴るの暴行を行い、酒と飯を交えて話を聞く。豪傑、女傑の類であるリンヴルムは竜の楽園で隠居しているが、竜の楽園の住人達に愛されている竜人である。それは魔法界であっても変わらなかったようだ。

 

「土については、スプラウトに伝えてあげてください」

 

「ええ、もちろん伝えておきます。俺の植物栽培にも関わることですから」

 

 灰色レディにもう一度頭を下げて別れ、ファヴニルは何を思ったのかハッフルパフ寮に帰ることなく散歩を開始する。週末、授業の無い今日日、何も考えることなく瓢箪の薬水を飲みながらホグワーツを散策しても、怒られることはないだろう。全員が起きる時間となったら、ヴィヴィアでも誘ってホグワーツの散策をしよう。もちろん、ヴィヴィアの予定を聞いてからにはなるが。

 

 今日の朝食は何だろうと思いつつ、薬水を飲んで歩くファヴニルは途中、ピーブスに出くわしたが瓢箪を見た瞬間に絶叫して逃げていった。哀れピーブス。悪戯していい相手としてはいけない相手を学習するべきである。

 

「……ん?」

 

「「「お?」」」

 

 喋る絵画達や、ゴースト達に挨拶をしながらホグワーツの廊下を歩いていたファヴニルが制服姿ではない一団と出くわした。その中にはファヴニルの友人であるハリーや、双子のフレッドとジョージもいる。

 

「ニール、おはよう」

 

「よぉ兄弟! また悪戯グッズを見てくれよ!」

 

「今回も傑作だぜ!」

 

「おはよう、ハリー。ぞろぞろと集団でどうした? あとフレッド先輩とジョージ先輩、片付けのしやすいもので頼むよ」

 

「「それは俺達の気分さ!」」

 

 爛々と目を輝かせる男を先頭とした一団はグリフィンドールの生徒達で、先頭の男以外はどこか眠そうだ。まだまだ夜が明けたばかりというのもあるのだろう。非魔法界の人間でもこの時間帯に起きている人間は少ない。

 恐らくは爛々と目を輝かせる男────オリバー・ウッドがこの一団を叩き起こしてきたのだろうな、と予想を付けつつ、デリカシーの有無を高速で反復横跳びするファヴニル・モルトキュールは禁句を口にする。

 

「睡眠不足は肌の天敵ですよ、先輩方」

 

「それは分かってるわよ」

 

「でもクィディッチ狂いのオリバーがそんなの気にすると思う?」

 

「正直未だにキレてない私達はきっと世界の誰よりも慈悲深いわ」

 

 クィディッチ、と聞いてファヴニルは疑問符を浮かべる。はて、クィディッチ。クィディッチとは何だったか。マクゴナガルが何やら言っていたような気がするが、興味のないことは一瞬で脳から抹消するファヴニルはクィディッチについて全くの素人であった。

 

「というかあなた本当に男よね? 肌艶とかきめ細かさ桁違い過ぎない? 何かやってる?」

 

「三食毎日食べてよく動き、八時間は寝る。それとちゃんと水分補給を行う。レモン水なんかがおすすめです。……ところで、ぞろぞろと集団で何を?」

 

「クィディッチの練習さ! 君も魔法使いなら、一度は見たことがあるだろう? 箒を使った素晴らしいスポーツを!」

 

「ふむ……?」

 

「知らない!? 知らないのか!? ホグワーツに、魔法界にいるのに!?」

 

 狂気を纏うオリバーが悲鳴とも絶叫とも断末魔とも取れる叫びをあげた。

 

「すまないな先輩。俺は興味のないことは一瞬で忘れるタイプのやつでしてね」

 

「クィディッチを知らない生徒がまだいるなんて……! いいだろう! ハッフルパフの生徒に塩を送るようで少々気が進まないが、我々の練習風景を見せようじゃないか! さあ、僕達についてきたまえ!」

 

(……狂気的だな。まあ、ベクトルは違うが俺達も同じ穴の狢か)

 

 ホグワーツ散策をしていたらなぜかグリフィンドールの生徒に連行されることとなったファヴニルは、オリバーの熱狂的────狂気的なまでのクィディッチ愛を聞かされつつ、クィディッチの競技場に訪れる。

 競技場に到着するまでに聞かされたのは、クィディッチのルールやチームの話。キラキラを超えてギラギラと目を輝かせてクィディッチの魅力を語るオリバーに対し、穏やかに、時折相槌を打って、軽く質問を投げて会話を発展させていたファヴニルを見て、グリフィンドールの選手達は畏怖と尊敬の念をファヴニルに向けていた。クィディッチのクの字すら知らないド素人が、狂気を纏うオリバーの話を聞き流すこともなく真摯に聞いているなんて。

 

(ニール、僕ほんとに君のこと尊敬するよ)

 

 興味のないことを聞き続けるなんて苦行、自分ならやりたくない。ハリーは心の中でファヴニルに心からの尊敬の念を向けた。

 

「さて、俺は観客席にでもいるとしよう。競技場にいても、俺がやれることはないからな」

 

「ああ、きっと君もクィディッチに興味を持ってくれると信じてるよ! さぁ練習開始だ諸君!!」

 

 意気揚々と叫んだオリバーに続く形で、グリフィンドールのクィディッチ選手達が箒に乗って空を飛び始める。基礎練習からなのか、箒に乗ってその場に滞空するところから始まった練習は、時間が経つにつれてスポーツらしいものへと変化していく。ランニングのように全員で箒に乗って飛び、隊列を組んだり、旋回したりと戦闘機のパフォーマンス飛行にも見える数々を披露する選手達。朝日が昇った頃まで行われた基礎練習を見て、ファヴニルは見事なものだと頷いていると、シャッター音が聞えた。

 

「わお! 凄いなぁ! これは凄い写真が撮れるぞ!」

 

(……一年生か? カメラ……ふむ、非魔法界出身か。……なんだろうな。昔いた迷惑記者と同じ気配がするのは)

 

 茶色がかった鼠色の髪の少年を見て、遥か昔に死んだ人様に迷惑をかけてまで新聞記事を作ろうとした迷惑記者を思い出したファヴニルは、若干目を細める。趣味も推し活も、人様に迷惑をかけた時点でただの犯罪行為と何ら変わらない。他人に迷惑がかからないラインを見極めて、趣味を謳歌しなければ孤立するのは己なのだ。信用も信頼も失えば、趣味に没頭することなどできない。特にファヴニルの趣味である酒はそうだろう。酒は飲んでも飲まれるなという言葉があるくらいなのだから。

 

「そこのカメラを持った一年」

 

「────へ? あ、僕?」

 

「そうだ。写真撮影の許可を取ったのか?」

 

「え? 許可?」

 

 きょとんとした表情を浮かべたグリフィンドールの一年生に、思わず溜め息がこぼれそうになったファヴニルだったが、さすがは百年は生きているドラゴン。そんなことはおくびにも出さなかった。

 

「許可なく写真を撮るという行為を何と呼ぶか知っているか? 盗撮だ」

 

「と、盗撮だなんて! 僕はそんなことしてない!」

 

「現にしてるだろう。してないと主張するなら、俺はオリバー先輩にでも確認を取るが」

 

 もしかしたら、自分達の練習を写真に撮ることで客観的にどうすればいいプレイができるのか、学ぼうとしているのかもしれないから。

 

「まぁ、許可を取っていないのなら、彼らからの顰蹙は待ったなしだ」

 

 カメラも壊されるかもな、とファヴニルが呟き、練習中のオリバーを呼ぼうとすれば、グリフィンドールの一年生は青褪める。その反応で許可を取っていないことを確信したファヴニルは、一年生の少年と目線を合わせて窘めるように言葉を紡ぐ。

 

「一年生、名前は?」

 

「コ、コリン・クリービー……」

 

「クリービー、許可なき行為、同意なき行為はただの犯罪だ。言い方はあれだが、強姦となんら変わらない」

 

「ご……!?」

 

 その言葉を聞いてコリンが顔を赤くした。自分がやっていることをそんなことと同意義にしてほしくない、という怒りによる赤面だったかもしれないが、コリンが何か反論する前にファヴニルが続ける。

 

「お前はこのことを軽く見ていたかもしれない。だがな、想像してみろ。例えばお前が怪我をした時。嬉々として写真を撮るやつを見て、お前はどう思う」

 

「…………凄く、不愉快になる」

 

「そうだ。それと同じだ、クリービー。一枚だ。一枚の写真で心が傷付く。最低限のマナーを持たない者によって心を傷付け、自殺一歩手前にまで追い込まれた友人を俺は知っている」

 

「……」

 

「マナーを守らず、使いどころを誤れば、道具は凶器と何ら変わりない。クリービー、お前はその手に持っているカメラをどうしたい。犯罪の道具か? それとも思い出を共有できる道具か?」

 

 お前はどうしたい。

 そう言って見つめてくるファヴニルの目を見て、コリンはしばらく沈黙を保ち────カメラを買い与えてくれた父から言われていた「人に迷惑をかけるような使い方をしてはいけない」、という言葉を思い出した。思い出して、今度は自分がしてきたことへの羞恥心で真っ赤になりながらカメラのフィルムを取り出す。

 

「えと……先輩」

 

「ファヴニル・モルトキュールだ。好きに呼べ」

 

「モルトキュール先輩、このフィルム、壊してもらえますか」

 

「いいのか?」

 

 強い眼差しと沈黙。それだけてファヴニルはコリンの覚悟を感じ取った。彼はきっと、二度とこうした盗撮行為を行うことはないだろうと。

 

「分かった。これは破壊しておく。……そろそろ朝食の時間だ。大広間に行くといい。迷惑をかけたやつがいるのなら、謝っておくんだぞ」

 

「はい。あの、ありがとうございました、先輩!」

 

 頭を下げて逃げるように観客席を立ち去ったコリンを見送り、ファヴニルは受け取ったフィルムを握り潰す。バラバラに粉砕されたフィルムを消失魔法で消し去ってから競技場を見てみれば、何やら揉めごとの気配があった。スリザリンのクィディッチ選手とグリフィンドールのクィディッチ選手が一触即発の状態で睨み合っている。

 

(獅子と蛇は相性が悪いのか……? キマイラも鵺も仲良くしているだろうに……ヨルの眷族にも獅子はいるが、ヨルと相性はいいぞ?)

 

 溜め息を吐きつつ、何が起きているのかと観客席から飛び降りたファヴニルは、いつの間に来ていたのか、ロンやハーマイオニー達の姿も捉えつつ、人間離れした聴覚と視力で状況を判断しつつ近付いていく。

 

「フリント! 何をしに来た!!」

 

「何を、なんて決まっているだろう。クィディッチの練習をしに来たんだよ、オリバー」

 

「ここはグリフィンドールが昼間まで使うと許可を得たんだ!」

 

「許可ならこちらも取っているさ」

 

 どうやらダブルブッキングというものが発生してしまい、言い合いになっているようだ。ダブルブッキングというのは中々難しい問題────というわけでもない。お互いが譲り合えばそこまで大きな揉め事に発展することはない。男女間の約束事によるダブルブッキングが発生した場合の修羅場はともかくとして。

 しかしグリフィンドールとスリザリンがそんな譲り合いの精神を発揮するだろうか? 否、しない。遠い昔ならば違ったのだろうが、今の双方に譲り合いの精神など存在しない。睨み合いが言い合いに変わり、魔法合戦になるのも時間の問題だ。第三者からの意見を聞き取れるほどの冷静さを保っている者は少ないと見ていいだろう。

 

「貴様の意見なんて誰も聞いてない。黙っていろ、穢れた血め!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、グリフィンドールとスリザリン、双方がざわつき、その言葉を使ったドラコ・マルフォイを非難するような視線が向けられる。

 

「……はぁ、サラザール・スリザリン。貴殿の純粋たる誓いとは、ああいった差別主義を生み出すためのものだったのか?」

 

 この場にサラザール・スリザリン本人がいたのなら、青褪めて否定しただろう。ファヴニルを含めたモルトキュール────否、竜の楽園に住む者達は全員差別を嫌う。そんなくだらないことをしている暇があるのなら自分を磨くことに時間を使えばいいのに。

 

「言ったなマルフォイ! なめくじ食らえ!」

 

 見事な速度で呪いを完成させたロンがドラコにその呪いを放つが、破損していた杖では魔法を制御することは難しく……呪いはロン本人に逆噴射された。

 そして、物凄く大きなナメクジを自分の口から吐き出すロンを見て、ファヴニルは苦笑した。嫌がらせの極みのような呪いだ。清めた塩でも飲ませたらいいのだろうか、とよく分からないことを考えつつ、ファヴニルは睨み合いを続ける面々の下まで到着する。

 

 ロンはハリーとハーマイオニーに支えられる形で離脱した。哀れなり、ロナルド・ウィーズリー。

 

「穢れた血だと!? よくもそんな悍ましいことを言えたな!!」

 

 怒りを燃え上がらせるオリバーを筆頭にグリフィンドールの選手達が杖を抜けば、スリザリンの選手達も杖を抜く。一触即発である。

 

「練習するんじゃないのか、双方」

 

「ハッフルパフのやつがなぜここに……いや、そんなことはどうでもいい。部外者が口を出すな!」

 

「いや、出すが。練習試合とかしないのか」

 

 ファヴニルの言葉を聞く者はいない。話を聞かずに戦争を始めるのは人間の悪い所だ、と溜め息を吐いたファヴニルは、喧嘩両成敗という考えに行きつく。

 

「なぜクィディッチの選手がクィディッチで白黒つけようとしないのか、理解に苦しむが……仕方あるまい」

 

「部外者は黙っていろと言った! ……ああ、思い出したぞ。貴様も確かマグル出身だったな。アドワーズを誑かしたとかいう」

 

 なぜこのタイミングでヴィヴィアの話が出てくるのか甚だ疑問ではあったが、ファヴニルは獅子と蛇の双方に呆れ果てた目を向けながら言う。

 

「言い争いを続けて時間を潰すくらいなら、教師を交えて話をつければいいものを。それとも、魔法使いとは一度痛い目を見ないと学習しない質か?」

 

「箒も持っていないやつが何ができるっていうんだ?」

 

「知っているか、先輩。箒を使わずとも人間は空を飛べる」

 

 つまらなそうにそう言ったファヴニルの態度を挑発と判断したフリントが、ファヴニルに杖を向ける。

 

「痛い目を見ないと分からないのは貴様の方みたいだな?」

 

「いや、事実を言っただけなんだが……非魔法界ではハングライダーという道具やウイングスーツなんてものが────おっと」

 

 放たれた魔法の閃光を軽々と躱したファヴニルは、魔法を放ったフリントを見て指の関節という関節を鳴らした。ヌンドゥ騒動を忘却魔術によって忘れてしまっている彼らは、それがファヴニルの戦闘態勢への移行だと気付けない。

 

「今なら誤射ということで何もしないが……どうする? これ以上やるなら、喧嘩両成敗でどちらも骨の三本は覚悟してもらうことになるが……」

 

 面倒くさそうに言うファヴニルの漏れ出す敵意をすぐに感じ取ったのは、グリフィンドールのクィディッチ選手であった。

 

「フレッド、こりゃあれだな?」

 

「おうよ、ジョージ」

 

「「逃げるが勝ちってやつだ!!」」

 

 グリフィンドールの中で最もファヴニルと関わっている人間の二人であるフレッドとジョージの言葉を皮切りに、勇気と蛮勇の違いを知る生徒達が逃げ出す。ようやくファヴニルが纏う空気が変わったことに気付いたスリザリンの生徒も逃げたそうにしていたが、プライドやフリントの圧が逃げることを許さないのか、杖をファヴニルに向け続けている。

 

 ゆらゆらと体を動かすファヴニルにもう一度魔法を撃って、痛い目を見せてやろうとしたフリントは、次の瞬間、頭蓋骨がかち割られ、脳髄が飛び出したような衝撃を受けた。

 

「ぎゃべっ……!?」

 

「骨云々は訂正する。拳骨一発は覚悟しろ」

 

 拳骨。拳骨と言ったか、このハッフルパフの生徒は。大きなたんこぶを作って、ビクンビクンと痙攣するフリントと、煙が出ているように見えるファヴニルの拳を交互に見て、スリザリンの生徒達は心の中で叫ぶ。そんな威力の拳骨があってたまるかと。

 

「一つ」

 

「ごるぱっ!?」

 

「二つ」

 

「げしゅたるっ!?」

 

 戦慄している間に、また二人拳骨の前に沈む。応戦しようとした者もすぐに拳骨を叩き込まれて地面に沈んだ。人間の体から出てはいけないような音が聞えた気がしたが、きっと気のせいだろう。日本のコミックのような大きなたんこぶができているが、死んではいない。

 

「そ、空から魔法を撃て! 一方的に撃ち降ろしてやれ!」

 

 残りのスリザリンの生徒が被害から免れるために箒に乗って空に逃げたが、魔法を撃ってもファヴニルには当たらない。ファヴニルは杖を抜いていないが、スリザリンの生徒は杖を抜いて、空から魔法を撃ち続けている。こんなところを教師の誰かに見られたとしたら、スリザリンの生徒達は顰蹙を買うこと間違いなしだろう。

 

「何をしているんです!!」

 

「何をしておるか!!」

 

 ファヴニルがいい加減撃ち落とすかと考えた直後、怒号のような叫びが競技場に響いた。騒ぎを逃げ出したグリフィンドールの生徒達から聞いて急行したマクゴナガルとスネイプの登場だ。

 

「状況はフレッドとジョージから聞きました。寄ってたかって一人を攻撃するとは、一人の人間として恥ずべき行為です!!」

 

「……モルトキュール、たんこぶを作って気絶してる生徒は貴様がやったのかね?」

 

「ええ。言い争いを止めるように進言したら呪いを放ってきたものですから」

 

 フリントが呪いを放ったのは事実だが、他の生徒が呪いを放ったかと言えば答えはノーだ。しかしながら、それを証明することができる者はここにいない。マクゴナガルもスネイプも、ファヴニルに魔法を撃っている生徒を目撃してしまっている。

 スネイプは長考した後、空にいる生徒達を睨んで降りてくるように命じ、詰るような視線を向けた。

 

「吾輩は、クィディッチの練習を許可した覚えはあるが、一人の生徒を寄ってたかって攻撃する許可を与えた覚えはありませんな?」

 

「あの、その……」

 

「言い訳は結構。マルフォイ、聞くところによると貴様は悍ましい差別用語を口にしたそうだな?」

 

 いつもはスリザリン贔屓が凄まじいスネイプだが、今の彼は全くそんな気配を見せない。いつも以上に不機嫌そうに表情を歪めるスネイプに、ドラコは何も言えずにいた。

 

「軽い揉め事ならば見逃すつもりだったが……さすがの吾輩も見過ごせん。来い」

 

 有無を言わせぬ圧を放ち、ドラコと気絶していないスリザリンの生徒を連行していくスネイプ。いつものスネイプとは全く違う姿に、マクゴナガルも若干や驚きつつ、ファヴニルへと目を向けた。

 

「Mr.モルトキュール、怪我はありませんか?」

 

「はい」

 

「よろしい。……ですが、このようなことを二度と起こさぬように。今回だけ、減点と罰則は課しません。昨年度のあなたの成績や生活態度を鑑みての処置です」

 

「寛大な処置に感謝します、マクゴナガル先生」

 

「もう行きなさい。Miss.アドワーズがあなたを探していましたよ」

 

 マクゴナガルの言葉に頷き、競技場を離れるファヴニル。朝食を逃してしまったものの、趣味に没頭している間食事を忘れることが多々ある彼にとって、空腹はそこまでの苦痛ではなかった。

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