ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

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お酒は二十歳になってから!!守らなかったら減点だけではなくバジリスクの毒牙を漬けた酒がトムの日記に注がれます。


組み分け帽子と酒カスドラゴン

 ホグワーツに到着した後、大扉を潜った先で新一年生達は更なる驚きを隠すことができなかった。

 ホグワーツ魔法学校教師であるミネルバ・マクゴナガルの先導の下訪れた大広間は、ロウソクがいくつも浮かび上がり、どれだけ背が高くても届かないくらい天井が高い。そしてその天井には魔法で生み出された星空が輝いていた。

 

(星見酒か。悪くないな……やはり日本酒か? 星の光を浴びせることで神秘を宿すと聞く。やってみるか)

 

 相も変わらず我らが酒カスドラゴンことファヴニルは酒のことを考えていた。顔はいいのに台無しである。

 

 そんなファヴニルは置いておくが、ファヴニルを含めた新一年生達が立っているのは、大広間に並べられた四つの長机────そのど真ん中である。周囲にある長机にはホグワーツの先輩達が座っているようだった。

 

 大広間の奥にはホグワーツの教師である大人達が座っており、新一年生達を歓迎するかのように微笑みを浮かべていた。……いや、微笑みを浮かべていない人間が何名かいる。が、気にするほどではないだろう。そんな教師陣の中央に座るのは長い髭を蓄えた老人魔法使い。彼こそが偉大なる大魔法使いと名高い現代最強、アルバス・ダンブルドアである。

 

「……アドワーズ、見ろ。あれこそがゴドリック・グリフィンドールの遺産、組み分け帽子だそうだぞ」

 

 隣にいるヴィヴィアだけが聞えるほどの声量でファヴニルが口を開くと、ヴィヴィアはダンブルドアの前に置かれている古ぼけた長帽子を見て少しだけ驚いた表情を浮かべた。

 

「博識だな」

 

「知り合いから聞いたことがあっただけだ」

 

 ファヴニルとヴィヴィアが小さな声で話をする中、大扉が閉まり、長帽子のヘリが口のように裂けて歌を歌い始めた。

 

 

私はきれいじゃないけれど、人は見かけによらぬもの

 

私を凌ぐ賢い帽子

あるなら私は身を引こう

色んな帽子はあるけれど

私は彼らの上を行く

一度私をかぶってみれば

君達行くべき組がまる分かり

 

グリフィンドールに行くならば

勇気がある者が住まう寮

勇猛果敢な騎士道で、真っ直ぐ曲がらぬグリフィンドール

 

ハッフルパフに入るなら

君は正しく忠実で

忍耐強く真実で、懐大きなハッフルパフ

 

学びを尊ぶレイブンクロー

君が意欲を持つならば

機知と知恵ある友人と、ここで必ず出会うだろう

 

スリザリンではもしかして

君はまことの友を得る

どんな手段を使っても、必ずやり遂げ守り抜く

 

かぶってごらん、恐れずに

君を私の手に委ね、私に手なんてないけれど

だって私は考える組み分け帽子! 

 

 

 組み分け帽子が各寮の特色を歌い終えると、大広間に大きな拍手喝采が響き渡る。毎年あれを歌っているのだろうか、とファヴニルが考えていると、ヴィヴィアが呟く。

 

「スリザリンでは真の友……ね」

 

「身内意識が強い、ということだろう。どんな手段を使ってでも仲間を守る────貪欲な蛇らしからぬ寮ではあるが」

 

「蛇は貪欲なのか?」

 

「己よりも大きなものすら丸呑みにするのだ。貪欲であってもおかしくはないだろう」

 

「そういう考えもあるのか。会ったばかりだが、君との会話は面白い────」

 

「静粛に! これより組み分けを始めます!」

 

 二人が話を続けていると、組み分け帽子の近くまでマクゴナガルが声を上げ、大広間に静寂が広がる。

 

「では、今から名前を呼んでいきます。呼ばれた者はこの椅子にお座りなさい。この帽子が、貴方方がこれから七年間過ごす寮を組み分けます」

 

 マクゴナガルはそう言った後、すぐにイニシャルがAの者から名前を呼び始めた。

 呼ばれた者が椅子に座り、マクゴナガルが帽子をかぶせると、少ししてどの組に行くべきかを組み分け帽子が大きな声で叫ぶ。呼ばれた寮は新たな仲間を盛大な拍手や口笛、歓声で迎え入れる。そんな歓迎を受けながら新一年生はその寮の長机へと向かう。

 

 何名かの新一年生の名前が呼ばれ、組み分け帽子によって寮を決められていく中、遂にファヴニルの名が呼ばれる事となる。

 

「ファヴニル・モルトキュール!」

 

 マクゴナガルに呼ばれたファヴニルは、小さく息を吐いてから組み分け帽子がある椅子へと足を向ける。

 

「ではな、アドワーズ。また会おう」

 

「ああ。寮が違ったとしても話をしようじゃないか」

 

 ヴィヴィアに声をかけ、組み分け帽子のある椅子に向かっていくファヴニルは、自分に向けられている視線の中に様々な感情が混ざっていることに気付く。

 

 好奇、猜疑、興味、疑問、嫉妬、悪意、恐怖────様々な感情が織り交ぜられている視線を浴びながらも、ファヴニルはどこ吹く風で飄々としている。興味の無いものにはほんの少しですら関心を向けることがないゆえに、どんな視線や感情を向けられようと動じることはないのだ。

 

 人波を掻き分け、組み分け帽子の前に立ったファヴニルは注目を一身に受けつつも組み分け帽子に、騎士が行うような恭しい礼をした。

 

「初めまして、ゴドリック・グリフィンドールの遺産たる組み分け帽子殿」

 

「ああ、初めまして。こうして挨拶をしてくれる者は久しぶりだ」

 

「では、組み分けを」

 

 酒カスドラゴンであるファヴニルではあったが、人間であろうと、大きな功績を残した故人への敬意を払うことはある。周囲から好奇や嘲笑を向けられようが、それを行うことを止めることはない。

 挨拶もそこそこに椅子に座ると、マクゴナガルがファヴニルの頭に組み分け帽子をかぶせた。

 

「ほう……ほう……! ああ、そうかそうか。百年周期。君の父が来たのも丁度二百年前だった」

 

 ファヴニルの家では百年周期で魔法界と非魔法界を行き来する。魔法族と非魔法族、それぞれの文化を百年間学び、見続け、楽しむために。また、どちらかの世界で一生の番や趣味を得るために。ファヴニルは番を見つける前に酒を見つけて沼に嵌まった。

 

「父は壮健だ」

 

「そうだろうとも。向こうの百年はどうだったかね?」

 

「面白いものばかりだったよ。戦争はくだらなかったが、様々なものが生まれた。酒も進歩した」

 

「そうかそうか。……さて、思い出話に花を咲かせたいところだが、今日は組み分けを行ってしまおう」

 

 嬉しそうに笑う組み分け帽子はファヴニルの頭の中を読み取り、唸り声を上げた。

 

「うーむ、難しい」

 

「難しい、か」

 

「うむ。君は才能に満ち溢れておる。どの寮に入ったとしても、君は大成するだろう」

 

「大成には興味がないな」

 

「ああ、分かっているとも」

 

 君の父もそうだった、と口にする組み分け帽子はファヴニルの首を動かして寮を見せる。最初に見せたのはグリフィンドールだ。

 

「君は真なる強者へ挑むための勇気を持っている。どんなものにでも立ち向かうことができるその勇気は、グリフィンドールへと入ることで更に成長するだろう」

 

 次にレイブンクローの席を見せる。

 

「また、君は多くの知識を趣味に注ぎ込むための勤勉さを持っている。様々な知識を以って趣味を更に昇華させたいという願望もある。レイブンクローに入れば、君は更に賢くなるだろう」

 

 次に見せたのはスリザリンの席だ。

 

「続いて君は、本当に守りたいものや友人、家族のためならば卑怯、卑劣、外道と言われ蔑まれる手段に手を染めることすら厭わない覚悟がある。時には誇りすら捨て去る覚悟もね。君がスリザリンに入れば、偉大な者への道が開けるだろう」

 

 そして組み分け帽子は最後にハッフルパフの席を見せる。

 

「最後に、君は優しく、しかし厳しさもまた優しさと理解し、それを実践できる。趣味のためならばどんなに困難な道であっても進み続ける忍耐力もある。ハッフルパフに入るのなら、君はきっとその優しさと忍耐強さを昇華させるだろう」

 

 四つの寮を見せた後、組み分け帽子は結局最後は君の意思が最も尊重されるがね、と言い含める。オススメはするが、最終的な判断はその者の意思に委ねることが多いと伝えられたファヴニルは、疑問に思ったことを問いかける。

 

「組み分けは人の本質を見抜くものではないのか?」

 

「いいや、違うとも。確かに本質を見て組み分けを行うこともあるがね、本質が変わる者、自分の本質を理解していない者も多い。より適性のある寮へ、本質を見つけることができるであろう寮に向かわせることだってある」

 

「なるほどな」

 

「時折現れるそういった子供達に聞く質問がある。君には必要がないかもしれないが、君の父にも聞いた事ではあるし、君にも問うとしよう」

 

 そう言って組み分け帽子はどこか楽し気に質問を投げかけた。

 

「ファヴニル、君の勤勉さや、勇気、狡猾さ、優しさや忍耐強さは何のためにあるんだい?」

 

「趣味」

 

「ああ、そうだろうとも。ではその趣味は何のためにあるものだい? それを趣味にした理由は何だい?」

 

 組み分け帽子の問いかけに対して、一瞬だけ考えたファヴニルは小さく笑みを浮かべた後、言葉を紡いだ。

 

「俺はね、酒が好きだ。飲むのも、造るのも、振舞うのも大好きだ。だって酒はどんな時であっても寄り添ってくれる飲み物だ。人類の歩みや発展を象徴する飲み物だから」

 

「……なるほど」

 

「嬉しい時に酒を飲んで、本当にめでたいと大笑いして酔いに身を任せる。怒りに身を任せて酒を飲めば、気付いた時にはどこかスッキリしている。悲しい時、その悲しみを忘れ、もしくは抱えて進むために酒を飲む。酒を飲んで楽しくなれば、多くの者が笑顔に溢れる。どんな時であっても、酒は寄り添ってくれる」

 

 付き合い方を考え、正しく付き合うことで、酒は様々なものに対する薬となる。溺れてしまえば毒となる。ありとあらゆる時代、人類と共にいた表裏一体な飲み物である酒が、ファヴニルは大好きだった。

 

「俺にとって百年なんてあっという間だ。そのあっという間の中で、駆け抜けていく者を俺は酒のように見ていたい。振舞ってやりたい。振舞ってやりたいと思える相手が酒を飲めるようになる日だって、あっという間に来るからな」

 

「うむ。どれだけ長い時間であっても辛抱強く────まぁ、君にとってはあっという間なのだろうが、その気が遠くなるような時間まで待つ忍耐力を持つ君にはきっと、この寮がピッタリだろう」

 

 嬉しそうに頷いた組み分け帽子は、声高らかにファヴニルの行くべき寮の名を叫んだ。

 

 

「ハッフルパァァァァァフッ!!!!」

 

 

 わっ、とハッフルパフ寮の生徒達が拍手喝采でファヴニルの入寮を歓迎する。

 

「あなたに感謝を、組み分け帽子殿」

 

「礼には及ばんよ。君の旅路に多くの祝福があることを祈っているよ」

 

 組み分け帽子を脱ぎ、ファヴニルは先輩や新一年生が座るハッフルパフ寮の長机に座る。

 しばらく組み分けが続き、ヴィヴィアの番がやってくると、スリザリン寮の方から歓声が聞えた。ヴィヴィアという貴族の少女の名はスリザリンに所属する者達にとって特別なものらしい。

 

「……クハッ」

 

 不意に、ファヴニルは小さく笑う。人で作られた海を掻き分けながら、堂々と歩いていったヴィヴィアが組み分け帽子が置いてある椅子に座る直前、ファヴニルの方に顔を向けて小さく微笑んだのだ。宝石のように美しい少女の微笑みはファヴニルが気付いてすぐに消え、組み分け帽子がかぶせられる。

 

 誰もが彼女がスリザリンに組み分けられるだろうと確信し、その顛末を見届けようと視線を集中させる中、組み分け帽子は多くの者にとって予想外の答えを伝えた。

 

 

「レイブンクロー!!」

 

 

 その声によってスリザリンの者達は────いや、スリザリン以外の者達も目を剥いて沈黙し、しかしファヴニルとダンブルドアなどの一部だけが笑みと共に拍手を送る。レイブンクローの長机に向かう時もヴィヴィアから微笑みを向けられたファヴニルは、スリザリンの生徒達を見ながら、脳破壊とやらをされた者達をアテにして飲む赤ワインは美味いと聞くが本当だろうか、と本当にくだらないことを考えていた。やはり酒カスドラゴンである。




ファヴニル・モルトキュールの杖

トネリコの木、ドラゴンの心臓の琴線
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