ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

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Q.竜の楽園ってどんなところ?
超巨大化したファンタジール。

Q.ファンタジールって?
ファンタジーライフというゲームの世界。面白いぞ。


酒カスドラゴンとあれこれ

 ハロウィンの翌日の朝。天井が青空を映し出しているというのに、どんよりとした空気が立ち込める大広間で、グリフィンドールの席を見てひそひそと話をする生徒が多く見受けられる中、ファヴニルとヴィヴィアは平常運転────いや、少し違うことがある。

 

「ヴィヴィア、発声の仕方が違う。風が吹き抜けるような言葉では蛇語だ。オカリナの音を再現するような感じだ」

 

「う、ううむ……?」

 

「寒い日に息を吐く時、ふー、ではなく、ほー、はぁ、と吐くだろう。あの息の仕方だ。そうすればこうして鳥類語が話せる。これは梟語だが

 

「ううん……難しいな……」

 

 突然ファヴニルの口からフクロウのような声が放たれ、周囲の人間が目を見開いた。パーセルマウスならぬオウルマウスである。バードマウスだが。

 

「難しいと思うのは扱いなれていない発声だからだな。慣れてしまえば簡単だ慣れてしまえば、こうして言語を切り替えることだってできる」

 

「何を言っているのかが後者しか分からなかったんだが」

 

「クハッ、そのうち全部聞こえるようになる。話せるようにも、な。何、蛇語も鳥類語もさほど変わらん。昆虫の言語と比べたら断然簡単だぞ」

 

 周囲の驚愕がさらに大きなものとなる中、ファヴニルは全く気にした素振りもない。魔法族にとってのパーセルマウスの認識と、ファヴニルのパーセルマウスへの認識は全く違うのだ。価値観が全く違い、その価値観の違いを直すつもりがないファヴニルにとって、周囲の驚愕は気にする必要のないノイズに等しい。

 

 さて、そんなファヴニルとヴィヴィアから視点を少し外し、現在針の筵となっているハリー、ロン、ハーマイオニーの現状を語ろう。

 

 昨日のハロウィンパーティーの後、去年のトロールとヌンドゥ事件のように事件が起きたのだ。ホグワーツの用務員であるフィルチが可愛がっている猫、ミセス・ノリスが石となって発見されたのである。

 ミセス・ノリスが石化した状態で発見された現場の廊下には一面に水が広がっており、壁には血で書かれた文字があった。内容は下記の通りだ。

 

『秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、気をつけよ』

 

 意味不明な言葉にほとんどの生徒が首をかしげるものではあったが、そんなことよりも現場を目撃した者達の目を引いたのは、第一目撃者であるハリー、ロン、ハーマイオニーの三人だ。ちなみにその現場を目撃してドラコがまた例の言葉を放ったため、本来スリザリン贔屓なスネイプから「指導が足りなかったようですな、マルフォイ?」などの嫌味と共にスリザリンに5点の減点が入った。哀れドラコ。スリザリンの生徒達だけではなく、他寮の人間達もスネイプにとって『穢れた血』という言葉が地雷であることを理解した瞬間である。

 

 激昂するフィルチが教師陣に抑えられつつ、ハリー達はダンブルドアとマクゴナガルに連れていかれ、疑わしきは罰せずというお達しが出されたことで解放された。しかし、ダンブルドアほどの偉大な魔法使いの言葉があったとしても生徒達からの疑いは完全には晴れず、こうして針の筵になっているのだ。

 

 もちろんそんな彼らに声をかける者達も少なからず存在する。今までの行為を謝罪したコリン・クリービー、弱気だが困っている友人を放っておけないネビル・ロングボトム、元気のない妹と弟を励ますために悪戯グッズを懐に忍び込ませようとするフレッドとジョージ、そして双子を窘めるパーシーなどだ。そこにファヴニルとヴィヴィア、二人の影響で他寮に交流しに行くことが多くなったセドリックやチョウなども含まれるとなれば、案外味方は少なくない。

 

「不思議なもんだよなぁ。勇気を尊ぶ、と言いつつ、あいつらを疑うなんてよ」

 

 ふと、ファヴニルとヴィヴィアが座る席に近付いてきたスリザリンの生徒がいた。髪はスポーツ少年のように短く刈り上げているというのに色男という言葉がふさわしい、アフリカ系らしき少年、ブレーズ・ザビニである。二年生でありながらプレイボーイと言われている男である。ホグワーツはどうなっている。

 

「うん? ああ、ザビニか。どうした? また討論か? 悪いが今はヴィヴィアに言語を教えるのに忙しくてな」

 

「へぇ、さっきのあれ、言語なのか。何語だ?」

 

「鳥類語だ。蛇語を覚えるよりも身近で簡単だ」

 

「おいおい、冗談も休み休み言ってくれよ。蛇語ならまだしも、鳥類語? いや、パーセルマウスだって貴重なんだぜ?」

 

「クハッ、なら試してみるか? 丁度フクロウも飛んできたぞ」

 

 ファヴニルが笑ってからすぐに今日のフクロウ便が飛んできた。今日はあまり多いとは言えないが、それでも何十羽という数のフクロウ達が大広間を飛び交うのは、いつ見ても壮観である。

 

そこの黒いフクロウ。アドワーズのフクロウだな? 

 

 ファヴニルがヴィヴィアの下に飛来した黒いフクロウに向けて声をかけると、黒いフクロウはまるで笑っているかのように目を細める。

 

いかにも。君は確か、この子と一緒にアドワーズに来ていた賢人だね

 

俺は賢人ではないよ。ただの愚者だ

 

卑下するのは良くない。君はこの子達に認められた名誉ある騎士なのだから。それに、こうして私と話をできている人間はそういない

 

 傍から見ればお互いにホーホー言っているだけにしか見えないが、フクロウ達からすれば、自分達の言葉を口にし、しかもこちらの言っていることをしっかりと聞き取れる人間など、中々いない。だからこそ、だろうか。

 

ねぇ、本当に僕達の言葉が分かるの? 

 

 灰色のフクロウが言った。

 

ああ。昔取った杵柄、というやつだな

 

わあ! 本当に聞こえてるんだ! 

 

人間とこうして話ができるって、中々できない体験だね! 

 

 ファヴニルの肩に、目の前に、腕に、膝に、頭に────大量のフクロウが殺到していた。これでファヴニルが翼や尻尾も生やしていたら止まり木代わりにしてさらに集まっていただろう。ファヴニルが羽毛の塊にまみれてしまっている。

 

こうして話せる人間がもう一人増える予定だ。俺の隣に座っている少女がその候補だ

 

ほう、ヴィヴィアがか。やはりアドワーズ家で一番の才と呼ばれているだけある

 

そういうわけだから、今日は一度解散してくれると嬉しい。そうさな……半月で、リスニングくらいはできるようにしてやるつもりだ

 

 ヴィヴィアの背筋に冷たいものが伝ったような気がしたが、気のせいだろう。

 ファヴニルの言葉を聞いたフクロウ達は少しだけ名残惜しそうにしていたが、ファヴニルの周囲に集まっていたフクロウ達はフクロウ小屋に飛んでいった。

 

「マジかよ」

 

「事実だ。……ザビニ、お前はフランス人の女を口説く時、何語を話す」

 

「……フランス語?」

 

「イタリアならどうだ?」

 

「イタリア語だが……って、ああ、そういうことか」

 

 全く下心を感じさせないファヴニルからの質問に困惑の表情を浮かべるしかないブレーズだったが、少し考えてから質問の意図を察して頷く。

 

「学んだ数だけ手札が増えるわけだ」

 

「そうだ。それが女を口説く時でも、異国の友人と語らう時であっても変わらん。動物の言語とは、隣人を増やすための手段の一つだ」

 

 ファヴニルには全くそんな気はないが、例えば大の動物好きな女を口説く時に動物とコミュニケーションを取れるとなれば、距離が近付いて、口説き落とせる確率が上がるだろう。言葉が通じない異国に放り出された時、動物達が異国の通訳をしてくれるかもしれない。通訳の果てに、人間の友人もできるかもしれない。そうすれば新しい縁ができる。

 

 竜の楽園には世界中からあらゆる存在が集まるため、言語を学ぶ環境として最適であった。ゴルゴーン三姉妹、北欧の巨人、ヨーロッパ諸国の妖精、精霊、夜の暗闇よりも深い闇に潜むよく分からない者、火の玉、妖怪、怪異、など……言語がバラバラな魑魅魍魎跋扈な人外魔境。精神が削れない自信があるのであれば、言語を学ぶには丁度良い環境である。

 

「その気があるなら教えるが、どうする」

 

「いいのかよ」

 

「いいも何も、学問に学ぶ姿勢以外の何が必要だ? 血筋も、人種も、寮も関係ないだろう」

 

 当たり前のように口にするファヴニルを見て、ヴィヴィアは笑い、ブレーズは呆れる。ファヴニルにとって、身分など些細な問題なのだ。ファヴニルの基本の物差しは、その人間と美味い酒が飲めるかどうかなのだ。美味い酒が飲めるのであれば路地裏に住む荒くれ者であっても、路上に住むホームレスであっても関係ない。酒が不味くなるような人間であるのなら、それが貴族や王族、友人となった者であっても路上の石ころを見るような目で接する。身分などどうでもいい。それは学問であっても同じだ。何かを学ぶために必要なのは学ぶ姿勢のみ。それ以外に何が必要だというのか。

 

 バゲットを噛み千切ったファヴニルが、ブレーズに対して学ぶのか否かを問う視線を向ける中、ブレーズはニッ、と笑って口を開く。

 

「なら、グリーングラス達も巻き込ませてもらうぜ。俺だけお前のスパルタレッスンを受けるなんて真似、したくないし。それに、俺は今魔法薬学に苦戦中だからな」

 

「ああ。いつから始めるかはお前達に任せる。その気になったら声をかけろ」

 

 学びたいのであれば、教える。それが誰であろうとも、ファヴニルは物を教えるだろう。もちろん一々皮肉を挟んだり、真面目に受けようとしないやつや、舐め腐っているやつには当然の報いを与えて教え込む。ファヴニルにとって、最も心と体に刻み込みやすい教訓とは、痛みである。

 

 ファヴニルの教育とはティフォンから受けた教育の賜物である。色ボケ、喧嘩狂いと言えど、母の教養を最も受け継いでいるのがティフォンなのだ。だから、教訓を与えるか否かの基準点が、『ティフォンであればどうするか』から始まる。絶対に基準にしてはいけないやつを基準にしているように見えるが、これでどうとでもなっているのがファヴニルである。

 

「それにしても、秘密の部屋か。ヴィヴィア、何か知っているか?」

 

「サラザール・スリザリンがホグワーツを去る前に作ったという部屋だな。サラザール・スリザリンの後継者しかそこに入れず、その部屋には恐ろしい怪物が眠っているそうだ」

 

 スリザリンの生徒に呼ばれてブレーズが去っていった後、ゴブレットに注がれた水で口の中を潤していたヴィヴィアが言う。ヴィヴィアが知っているのはそこまでだ。

 

「これについては、純血の家系であれば全員知っているだろうな。特にスリザリンは」

 

(ふむ……スリザリンの秘密の部屋に、恐ろしい怪物……まぁ、十中八九蛇だな)

 

 単一の蛇なのか、複数体の蛇なのかにもよるが、ファヴニルはその怪物を酒に漬けることを決意している。次に気配を感じ取ったら、確実に漬けに行くつもりである。この場にファヴニルの友人がいたら、嬉々として便乗するだろう。特にヨルガンドは嬉々として便乗する。

 

「……それにしても、純血だったか? あれは何を基準として純血と称するんだ?」

 

 ふと、ファヴニルがいつも気になっていた爆弾を口にしたことで、大広間はシン、と静まり返った。

 

「うん? どういう意味だ?」

 

「人間の誕生は紀元前────猿から始まっているんだぞ? だというのに、魔法を使える猿というのは存在しない。魔法使いの言う純血とは、どこを基準としているんだ」

 

 そう言われてみて、ヴィヴィアはファヴニルの家に置いてあった歴史書や、非魔法界の歴史の教科書を思い出してみる。その時は「こっちではこういう歴史があるんだなぁ」程度の認識であったが、言われてみれば、人間が遥か昔から存在しているのなら、魔法使いが発生した時期があるはずなのだ。

 

「歴史を辿っていけば、確実に魔法界と非魔法界は混ざり合う。どこかで魔法使い発生の歴史が必ず存在しているはずだ。創設者よりも前から魔法使いはいるのだからな」

 

 とんでもない爆弾を投下し続けるファヴニルに多くの視線が向けられているが────教師陣にも興味深そうに聞き耳を立てている者が何名かいる────、ファヴニルは全く堪えた様子もない。

 

「それを思考の隅に置いて物事を考えると、穢れた血、などという差別用語は何とも滑稽な言葉と化すな?」

 

「────ふふっ。ああ、確かにそうだな? 祖先を辿り続けていたら、最終的にはマグル……非魔法界の人々に辿り着く可能性が恐ろしく高いのだから」

 

 ファヴニルの考察に根拠はない。しかし、それを否定できるような証拠を提示できる者はいない。ゆえに、純血であることに誇りを持っている者達は、ファヴニルを睨むことしかできなかった。何を言っているのかさっぱり分からず、疑問符を浮かべ続ける者もいる中でファヴニルは皿を空にして立ち上がる。

 

「こうした別の角度による視座も中々面白いものだな」

 

「他の学問も別の角度から見ると、また別の発見がある。武術も発生した時期を見ればまた発見があるかもな」

 

 余談になるが、とんでもない爆弾を投下しまくったファヴニルによって視線が逸れたことで、ハリー達が針の筵状態から脱出できていた。どんな視線を向けられ、何を言われようとも我が道を突き抜けていくことしかしないファヴニルの姿を見て、ハリー達はちょっとだけ尊敬の念を抱いた。




実際、魔法使いっていつから生まれたんですかね? 霊媒師とか、そういった家系の人間が突然変異した存在だったりするんでしょうか。
これとは違うかもしれませんが、動物とかの進化を見て、「こいつはどういう意図でこんな進化を?」と考えるの結構大好きなんですよ、私。面白くないですか? スタートが同じ生物とか近縁種でも、住む環境が少し違うだけで進化の方向性が真逆だったりするんですよ? 殻を脱がない選択をした生き物がいれば、殻を脱いで身軽になることを選択した生き物もいる。走ることに特化した進化を遂げた生き物がいれば、鈍足でも体を大きくする方向に進化した生き物もいる。動物だけじゃなく、植物の進化も見ていて楽しいです。「乾燥しているなら少ない水を溜め込めばいいじゃない」理論で進化したサボテンとか、「種を遠くまで運びたいから動物に種を運ばせればいいじゃない」理論で進化した野生ゴボウとか。「どうしてそんな進化をしたんだよ」って視点であれこれ生き物を見てみると超面白くないですか?
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