ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

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疲れた


酒カスドラゴンと決闘クラブ

 ミセス・ノリスが石化してから一ヶ月が経過したが、犯人は未だ見つかっていない。しかし、当初は不安、恐怖などの負の感情が蔓延していたホグワーツも落ち着きを取り戻しつつあり、平穏な日々が続いていた。

 

 もちろんホグワーツの教師陣の厳戒態勢は解かれていないが、平穏を保ち続けているホグワーツの恒例行事が行われてハリーが骨折したりとトラブルが起こった後、事件は起こった。ハリーのお見舞いに行ったコリン・クリービーが石化した状態で発見されたのである。

 

 コリンの行動に嫌気が差していたハリーだったが、コリンが誠意を込めて謝罪したことで水に流した。そんな彼が、ハリーの見舞いに向かった後に石化したとなれば、生徒達の中で猜疑心が再燃することは必至であった。もちろん、ハリーが医務室で寝ていたことを知っている生徒達や教師陣は疑いの目を向けることはなかったのだが、再燃した猜疑心を向けられるハリーとしては、すぐにでも犯人を見つけてやりたいと焦燥感や苛立ちが募る。自分はやっていないのに、身に覚えのない罪を着せられたとなれば、誰もがそうなるだろう。

 

 さて、ハリーがそんな焦燥感に焼き焦がされている中、我らが酒カスドラゴンことファヴニルは、ハッフルパフ寮の張り紙を目にしていた。『決闘クラブのご案内』という内容である。

 

「決闘……ふむ」

 

「ファヴニルも興味があったりするかい?」

 

 張り紙を見ていたファヴニルに声をかけたのは、ハッフルパフ一の人気者にして色男、セドリック・ディゴリーであった。チョウとの手紙を配達する役目をファヴニルにお願いしているがゆえに、交流が多い生徒である。

 

「ああ、ディゴリー先輩。いえ、少々思うところがありまして」

 

「思うところ?」

 

「ええ。敵がわざわざお辞儀をするなんてことあり得るのかと。闇の魔法使いなど、お辞儀をしているやつに向けて魔法を撃ちそうではないですか?」

 

「……まぁ、確かに」

 

 ハッフルパフ寮の中で最もファヴニルと交流のあるセドリックは、この一年弱でファヴニル式に思考が染まり始めていた。闇の魔法使い達がそれをやるかやらないかで言えば、間違いなくやる。それを考えると、誰かを守るために戦うのなら、決闘に乗るふりをして魔法をぶっ放して戦線離脱を図った方が余程建設的だ。

 

 ちなみにセドリックだが、ファヴニルと接する中で結構鍛え始めている。興味本位でファヴニルから教えてもらった戦いの技に魅了され、鍛えているのだ。お蔭で魔法使いとは思えないレベルの筋肉をつけ始めており、もやしっ子とは呼べない、しっかりとした肉体を得ようとしている。引き締まった肉体を手に入れた暁には、セドリックはチョウをさらに魅了するだろう。やはり魔法使いには筋肉が足りない。

 

「戦闘の練習という名目であれば、魔法の練習にも使えますから、有用ではあるとは思いますが」

 

「君、魔法使いながら殴りに来るじゃないか。魔法使いの戦い方じゃないよ、あれ」

 

「ゴドリック・グリフィンドールのメインウェポンは剣でしたが」

 

「おっと、もしかしたら僕達が遅れているかもしれないね」

 

 やはりファヴニルの英才(ばんぞく)教育によって魔法戦士(マジックバーバリアン)的思考に染まっている。魔法使いに足りないのはこういった拳で語る気概────英雄的殴打と蛮族的思考、そして戦況を覆せないと判断したらすぐに逃走できる判断力でもあるのかもしれない。セドリックはこれからどんな試練が待っていたとしても、必ず生き残ることだろう。

 

「まぁ、それはそれとして、参加するのかい?」

 

「催し物ではありますからね。祭りの類と考えれば、参加する価値があるというものです」

 

 ファヴニルはそこまで気にすることでもないが、鬱屈とした空気を運動で吹き飛ばせるかもしれない。適度な運動は体に多くのメリットが存在するのだ。

 

「ディゴリー先輩はどうなさるので?」

 

「僕かい? 僕はちょっと、課題で躓いているところがあってね。チョウに教えてもらうつもりだよ」

 

「そうでしたか」

 

 着々と距離感が縮まっているようで何よりだと、ファヴニルは思いつつ、もしセドリックとチョウが行くところまで行ったら、酒蔵からどれを取り出すかを考えていた。

 

 まず最初に浮かんだのは、セドリックとチョウが生まれた年に造られたワイン。長い年月が経過し、その時間の中で死が二人を分かつまで共に歩める人を見つけたというのは、本当にめでたいことである。二人の歩みを思い出せるようにと、生まれ年のワインを贈るべきだろうか。

 

 それとも、ファヴニルが厳選した酒のいくつかを贈るべきか。生まれ年の酒だとしても、好みに噛み合わなければただの酒である。美味しく飲めてこそ、酒は輝くのだ。二人の好みを聞いて、その好みに合わせた酒をいくつかピックアップしたものを贈るべきだろうか。

 

 最近はヴィヴィアが近くにいれば、ある程度酒のこと以外も考えるファヴニルではあるが、やはり本質は酒カスドラゴン。寝ても覚めても酒のこと。趣味に生きるというのはこういうことなのだ。

 

 さて、そんな酒カスドラゴンが見ている張り紙の『決闘クラブ』、今週の木曜日に行われることが決定されている。決闘という名の訓練を通して、戦闘に仕える魔法の技術を高めていくことは間違いではないし、ぶっつけ本番の魔法よりかは成功率が高まるはずだ。判断力を培うことで、引き際を考える力も見についていくことだろう。

 

 そんなことを考えながら、ファヴニルは木曜日の予定を決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決闘クラブ当日の木曜日。ファヴニルは開催場所である広い部屋で、主催者のギルデロイ・ロックハートの話を聞いていた。

 

「皆さん、こんにちは。ようこそ決闘クラブへ」

 

 口元の大きな傷がチャームポイントとなっているロックハートは、今回の決闘クラブ開催の意図を説明する。と言っても、やはりと言うべきかロックハートの最重要事項はどう凌ぐか、どう逃げるかのようで、血の気の多い生徒達から落胆の声が上がっている。授業は確かに厳しいし、実力が身についている実感もある。だが、こうも逃げ腰な大人を見ると、情けなく見えてしまうのも無理はない。

 

 だが、そんな彼らの印象を覆すことになったのは、ロックハートとスネイプ、マクゴナガルの攻防だ。

 

「プロテゴ!」

 

「アクシオ! プロテゴ!」

 

「フリペンド!」

 

 ロックハートは全力で逃げる、防ぐ、妨害するを繰り返して時間まで凌ぎ続けるという、防御や逃走に徹した行動ではあったが。あのスネイプとマクゴナガルが攻撃をし続けているというのに、逃げに徹したロックハートを捉えることができずにいたのだ。

 

 最終的にスネイプとマクゴナガルの魔法が同時に直撃してしまい、ロックハートの敗北が決定したものの、ホグワーツの教師二人を相手取り、得意を押し付け続けることで制限時間ギリギリまで凌いだロックハートを情けない大人と嗤う愚か者はいないだろう。

 

(ふむ。フリペンドの衝撃を盾代わりに。……ああ、ヨルの咆哮から着眼点を得たか)

 

 見事な手本を見せてくれたロックハート、スネイプ、マクゴナガルに拍手が送られる中、ファヴニルはロックハートを引きずり回していたヨルガンドのことを思い出していた。心が死ぬ半歩手前まで世界中を引きずり回された経験は、間違いなくロックハートの実力を確かなものにする経験だったに違いない。彼の本を今年読んだが、ヨルガンドのことをぼかしつつ、自分が危機的状況に陥った時、どのように身を守ったのかが細やかに書かれていた。地獄のような旅だったのだろう、若干恨み節やトラウマを訴えるような部分もあった。ヨルガンドが読めばもう一度ワールドツアー開催である。開催されればきっと、文字通り素晴らしい戦士として生まれ変わるだろう。

 

 ファヴニルが今度ヨルガンドにロックハートの本を持っていってやろうと考えているうちに、ロックハートが生徒同士で試合をしてもらおうと言い出した。まずは代表として二人、生徒達の前で戦ってもらうのだという。

 

「ニール、立候補してみるか?」

 

 ファヴニルの隣には、やはりヴィヴィアがいた。ローブをいつでも脱げるようにした状態でいる彼女は、明らかにファヴニル戦を想定している。ファヴニルの何でもありな手合わせによって、ローブは目隠しアイテムという認識が染み付いているようだ。

 

「俺が出たら魔法以外も使うぞ。確実に拳が出る」

 

「ふむ……まぁ、自衛手段を学ぶという名目なのだから、何をしてもいいのではないか? 私も蹴る自信がある」

 

「君達本当に魔法使い……?」

 

 ファヴニルとヴィヴィアが魔法使いにとっては蛮族的思考であろう考えを口にしていると、気分転換で来ていたハリー達がやってきた。さっきまでの攻防を見て、ハリーはやる気に満ちているのが見て取れるが、ロンとハーマイオニーはファヴニルとヴィヴィアの話を聞いてちょっと引いているらしい。

 

「ふむ……立候補制だとよろしくなかったようですね。では、指名を────」

 

 立候補者が誰もいなかったことでロックハートが指名制に切り替えた直後、ファヴニルとロックハートの目が合った。ロックハートは少しだけ考えた後、にっこりと笑顔を浮かべてファヴニルを指さした。

 

「モルトキュール、君の実力を是非見せてほしい」

 

 誰かが指名されると思っていたファヴニルは、自分が指名されたことに少しだけ驚きつつも人混みが分かれてできた道を歩いて壇上に上がる。

 

「ロックハート先生、ルールは」

 

「何でもあり。目潰し、金的などは無し」

 

 小さい声で伝えられた内容に頷いたファヴニルは、自分の相手を指名されるのを待とうとしたが、すぐに手が上がった。ヴィヴィアだ。どこかうずうずしているのは、アドワーズ家が戦闘民族の血筋だからなのか、それとも竜殺しを成し得る家系だからなのか、はたまたヴィヴィアが戦闘狂のきらいがあるからなのか。

 

 いつもクールなイメージがあるヴィヴィアの、戦いに挑む戦士のような笑顔にハリー達が驚いてぎょっとする────恐らくここに集まった生徒の殆どが驚いている────中、ファヴニルは小さく笑みを浮かべた。

 

「私が相手を務めさせていただいても?」

 

「クハッ……拒否させるつもりなど一切ないくせに白々しいことだ」

 

「おお、では、アドワーズ。壇上へ」

 

 生徒達の視線など知ったことかと言わんばかりに、静かな闘志を滾らせながらヴィヴィアがファヴニルのいる壇上に上がっていく。

 疑念、期待、好機、嫉妬────三者三様の視線や感情が渦巻く部屋の中で向かい合った二人は、準備運動と言わんばかりに体を伸ばし始める。

 

「何でもあり……でいいんだな?」

 

「ああ。……あ、ゲームの技は止めてくれ。まだ対応できない」

 

「了解した」

 

 竜の楽園で見せた、アーケードゲームにインスピレーションを得たという技の数々。アクシオで引っ張られた後、高速連打の後、上空にかち上げられてそこから殴られ続ける竜の楽園で造られたサンドバッグ。ドリームコンボだ何だと意味の分からないことを言いながら、ファヴニルの友人であるヨルガンドや、喧嘩狂いのティフォンと共に連携を改善していく様はもはやドン引きの領域に踏み込んでいた。時代の最先端を突き進み過ぎている。

 

「では、私が審判を。両者構えて」

 

 一年生の時に戦った時もそうだったが、二人は構えない。ゆら、ゆら、と体を弛緩させて、いつでも動けるように臨戦態勢へと移行する。

 ビリビリと肌を貫くような闘気を感じるロックハートは両者の健闘を願い────戦いの火蓋を切った。

 

 

 

「始めッ!!」

 

 

 

 そう言われた瞬間、ファヴニルとヴィヴィアは杖を振るう────ことはなく。

 

「ほう」

 

「やっぱり蹴ってくると思ったよ、ニール!」

 

「クハハッ、読んだか」

 

 近くにいたロックハートのことを気にすることもなく、ほぼ同時に顎を狙った回し蹴りを放っていた。初手から魔法使いらしからぬ攻撃手段である。ちなみにロックハートは、ヨルガンドに引きずり回された経験から鋭い危機感知を発揮して蹴りをバク転で避けながら離脱している。

 

 フワリ、としなやかな着地で壇上から降りたロックハートに小さな拍手が起こる間にも、攻防は激化していた。

 

 至近距離で魔法の撃ち合いをしながら、拳で、脚で攻撃する。魔法が弾かれた直後には脚か拳が迫り、それを避けるか防ぐかをすれば、別の手札が飛んでくるために瞬時に攻めと守りを切り替え続けなくてはならない。呪文が弾かれ、拳が逸らされ、蹴りが相殺される。まともな魔法使いであれば野蛮極まりない攻防だ。接近戦など、魔法使いがやることではないのだから。

 

「もう一本は使わないのか?」

 

「使わせてみろ」

 

「その余裕、絶対に崩してやろう!」

 

 基礎的な呪文しか使っておらず、やろうと思えば誰でもやれる戦い方。だが、この場にいる者の多くが鍛錬不足であり、自分でもできるなんて口が裂けても言えない。やってみろと言われても絶対にできない。

 

 この戦いを見てスネイプやマクゴナガルが驚いているが、驚いているのは近接戦闘を交えていることではない。この二人、攻防で会話をしながら魔法を撃っているのだ。つまり無言呪文を習得して、十全に使いこなしているのだ。まだ二年生であるはずの二人の実力に、思わず舌を巻く。

 

 ファヴニルとヴィヴィアの情熱的なダンスは会場の誰もを魅了して止まない。ハリー達も、ファヴニルを目の敵にしている者達も、遊び半分で来た者達も、全員が二人の戦いに目を奪われ、息を呑んで勝負の行方を見守っている。

 

「では方向性を変えようか」

 

「ッ!?」

 

 背筋に冷たいものが奔ったヴィヴィアは、迫ってくるファヴニルの手を蹴り上げて距離を取る。掴まれたら終わり、そう感じさせる何かがファヴニルの手から放たれていたのだ。

 

「いきなり動きを変えるな! びっくりするだろう!」

 

「対応しているくせによく言う」

 

 手足が届く距離ではなくなり、二人の戦いは魔法の撃ち合いがメインとなった。なお、ファヴニルは魔法を撃ちながらヴィヴィアに接近しており、ヴィヴィアは掴まれたら終わりと察しているので逃げの一手。だが魔法を撃つ手は緩めない。どのタイミングで反撃に移るかを考える中、突然ヴィヴィアの体に軽い衝撃が伝わり、視界が真っ暗になった。

 

「ッ!?」

 

 突然のことに驚きながら、自分の視界が真っ暗になった原因を引っぺがす。ファヴニルの着ていたローブだ。そして、この一瞬の隙があれば、ファヴニルが急接近することを許してしまう。

 すぐに状況を見極め、対応せんと動こうとしたヴィヴィアだったが、何かに掴まれているかのように体が全く動けずにいた。

 

「捕まえた」

 

 動けずにいる原因であるファヴニルの声が後方から聞こえて驚いたヴィヴィアは、今自分がどのような状態であるのかを理解して小さく息を吐く。

 

「捕まえるにしても、もっとやりようはあると思うが?」

 

「クハッ……これ以外の方法でお前を捕まえてみろ。後ろ蹴りを喰らうだろうに」

 

 ヴィヴィアをまるで、スケートやダンスのパートナーのように密着する形で拘束するファヴニルは笑う。まだまだ絡め手には弱いな、という思いと、次はこの手が通じないだろうという確信と期待。やるとしても、尻尾も使わないといけなくなるだろうな、とヴィヴィアの成長に笑いが止まらないファヴニルは、ヴィヴィアの杖を優しく奪い取ってロックハートに向ける。

 

「────素晴らしい戦いでした。二人の戦いに拍手を」

 

 ロックハートが拍手を送ると、それに続くようにして会場全体から大きな拍手の嵐が巻き起こった。どれだけ魔法使いらしからぬ戦い方であったとしても、二人の戦いは会場にいた者達を魅了してみせたのだ。

 

「それにしても、いつの間に私の後ろに回っていたんだ?」

 

 拘束から解放されたヴィヴィアが戦闘後で燃え上がるように熱い体と思考を冷ましながら問いかけると、ファヴニルは何でもないかのように言う。

 

「ローブをフリペンドで飛ばしたのと同時にフリペンドを地面に撃ち込んで、天井を跳ねる形で回り込んだ」

 

 曲芸もいい所である。テクニカルすぎる魔法の使い方に、会場の誰もが思わず白目を剥きそうになったほどだ。まさか衝撃を放つ魔法で自分を飛ばすなんて、誰が考えようか。

 

「相変わらず、魔法の使い方が一般的じゃないな」

 

「意表を突くのは戦闘の基本だぞ」

 

「まぁ、それはそうなんだがな? もっとこう……あるだろうに」

 

「もちろん体幹がなければ意味がない。お前もできると思うぞ。……というか、前々から思っていたんだがな。お前、細すぎるぞ。危うく折りそうになる」

 

「これでも鍛えている方なんだがな……?」

 

「もっと食え。細すぎるし、軽すぎるぞ」

 

「ニール、こんなところで持ち上げるなっ!?」

 

 称賛に応えるでもなく、ファヴニルとヴィヴィアはいつも通り。誰が何と言おうと変わらない平常運転であった。

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