ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

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次回はホグワーツに戻ります


酒カスドラゴンと寸胴鍋の騎士

「つまり……あれなのか? あなたは……」

 

「ああ、円卓の騎士────というかキャメロットの台所番だった女だ」

 

 まぁ、誇るべきこともないただの昔話だわな。

 そう言って鍋をかき混ぜながらフライパンでソテーを仕上げ、懐から取り出した人間の腕を模した植物を操ることでマッシュポテトを作り、近くで休ませていたステーキを最後に本焼きして皿に盛り付けるグウィズノ。盛り付けた直後に七面鳥も焼き上がるという絶妙なタイミングである。

 

「料理の重要性を理解してる連中が少なくてな。男所帯ってのもあって、焼けば何でも食えると思ってやがる連中が多いこと多いこと」

 

「ということはあのマーリンとも面識が?」

 

「マーリン? ああ、あの変なのか。何度フライパンで脳天をかち割ったことか」

 

「えっ」

 

「インペリオ? 愛の妙薬? 霊薬? まぁ、そういうのとか色々見せられたりしたけど、私は厨房と添い遂げると誓った身。気にすることはなかったね」

 

 カラカラと笑う美しき女傑は寸胴鍋で作っていたビーフシチューを小皿にとって味を確かめ、塩を足してから深めの皿に注ぎ入れて生クリームをかける。よい香りがアドワーズ家の広間に漂う中、髪から肌、服まで全て白磁のようなグウィズノは蜂蜜をたっぷり使い、度数の強い酒を染み込ませたケーキのように赤い瞳を楽しそうに細めた。

 

「さぁて、クリスマスだから、いつもより腕によりをかけさせてもらった! 食いな!」

 

 今日はクリスマスということもあって、朝から豪華な食事の数々だ。ステーキ、マッシュポテト、シーザーサラダ、七面鳥の丸焼き、ビーフシチュー……それら全てがおかわり自由のビュッフェ形式である。

 

 ビュッフェの会場に集まっているのは、アドワーズ家の一人娘ヴィヴィアを含めたアドワーズ家の人々と、何やらガチャガチャと何かを弄っている我らが酒カスドラゴンのファヴニル。

 物作りはファヴニルの領分ではないのだが、父、兄、母、姉と物作りに明け暮れている者が身内にいるため、ある程度の物作りはできるようで、竜化せずとも出せる凄まじい膂力によって何かを変形させ続けているようだ。

 

「ファヴニル、お前も作業を止めて食いな! 何かに熱中して断食するのはお前の悪い癖だぞ」

 

「断食のつもりはないんだが」

 

「私が初めて会った時、一週間は飯食ってなかったくせによく言うね」

 

 本当は十年何も食わずに酒造りに没頭していたのだが、ファヴニルの素性を知っている者がヴィヴィアしかいないと察したグウィズノは一週間と鯖を読んで話をしている。気が利く寸胴鍋である。

 

「というか何作ってるんだ?」

 

「ルーンストーンだ。材料が材料だからな。素手で造らざるを得ない」

 

「ああ、お前、名付け親に色々教わってるもんな」

 

 ファヴニルが作っていたのはルーンストーン。なお、ストーンなのに金属製であることにツッコんではいけない。鉱『石』を精練して生まれている金属なので、ストーンということで間違いないだろう。屁理屈かもしれないが。

 

「ほら、食いな。作業はそれからでもできるだろ」

 

「まぁな。……ところでグウィズノ」

 

「ん?」

 

「お前に壊された蒸留施設の金、まだ支払ってもらっていないわけだが」

 

「………………………………口座引き落としでいいか?」

 

「ああ」

 

 九十年前にグウィズノが酔った勢いで破壊した蒸留施設の修理代金を支払ってもらうことが決まった。まだまだ感情の起伏が少なかった────無かったと言った方が正しい────頃のファヴニルにとっては、そこまで気にするようなことでもなかったが、今考えてみれば給料全てを使った蒸留施設を破壊されたことは間違いなくグウィズノを鍋にして圧縮する案件だった。弁償すると言われていたが、今の今まで金を支払ってもらった記憶がないため、今請求したわけである。

 

 盛りつけられた料理からある程度バランス良く料理を取ったファヴニルは、グウィズノが作る料理に舌鼓を打つ。もちろんアドワーズ家の人々もグウィズノの料理に感嘆の声を上げていた。

 

「まさかアーサー王に仕えた料理人の料理を食べることができるとは……長生きするもんだな」

 

「ええ、そうですねぇ……これほどの料理を食べられるのなら、騎士達の士気は高かったでしょうね」

 

「うんや、当時はそこまで毎日作ってなかったぞ」

 

 豪華な料理は何度か作ったものの、毎日豪華な料理を作るということはしなかったグウィズノ。そもそもこの寸胴鍋の女、とある巨人が生み出したゴーレムとホムンクルスのハイブリッドなのだ。食事を必要としない被造物ゆえに、食べることに関しては無関心と言っても過言ではなかった。諸事情でアーサー王が統治するキャメロットで料理番をし始めてようやく料理について関心を得たのである。今に至ってはこうした男勝り喪女である。

 

「結局滅んだしな、キャメロット。知ってるか? 浮気と不貞の黙認って国を亡ぼすんだぜ」

 

「人間なんてそんなもんだろうに。家庭崩壊が国規模になっただけだろう?」

 

「まぁな? マーリンなんて女のケツ追いかけて生き埋めにされて死んでるし」

 

「偉大な魔法使いもまた、欲を断てぬ人の子だったわけだ」

 

「そもそも女日照りだからって私に迫って脳天をかち割られる時点でお察しだろ。他の騎士にもいたけどな、そういうやつ。平等にかち割ったが」

 

「クハハッ、違いない」

 

 カラカラと笑うファヴニルとグウィズノであったが、ヴィヴィア達アドワーズ家の人間は偉大な魔法使いとして讃えられているマーリンの人間臭いところや、明らかに人間の視座から見ていないファヴニル達の発言に絶句していた。一応ではあるが、アドワーズ家の人間はファヴニルが竜の角を生やしている瞬間を何度か目撃している。初めて出会った時からただの人間とは考えていなかったアドワーズ家は、ヴィヴィアがとんでもないやつを連れてきたと改めて思い直した。

 

 正体を何となくではあるが把握されつつあるファヴニルは、擬態は人間社会に溶け込む時に便利なだけであって、そこまで全力で隠しているわけでもないから追及されたら話そう、程度の認識である。魔法使い達からすればとんでもない考え方だろう。なお、事実を曲解して記事を書くようなやつがいれば、二度と物を書けない体にするつもりである。具体的に表現するなら、指を全て斬り落として再生できないようにした後、耳と目を抉り取り放逐する……といった具合に。そんな命知らずがいるわけがないが。

 

「ああ、そうだ。ヴィヴィア、これを」

 

「うん? これはマフラーと……筆記用具、か?」

 

「クリスマスプレゼントというやつだ。去年は渡していなかったからな」

 

 そういえば、とヴィヴィアが去年のことを思い返してみると、確かにそうかもしれない。料理やら知識やらは披露してもらったが、クリスマスプレゼントを貰った記憶はなかったし、自分もクリスマスプレゼントを贈った記憶がない。友人にクリスマスプレゼントを贈っていないという愚行を犯しているとは、とヴィヴィアが天を仰ぎ見そうになりつつ、渡されたマフラーと筆記用具を確認する。

 

 マフラーは絹でも使っているのかと思うほどに肌触りが良く、しかし羊毛のように温かい。このマフラーに使われている絹はサラマンダーの火を使って温められながら編まれたもののため、肌触りと温かさを共存させた一品である。間違いなく高級品だ。

 

 続いて筆記用具だが、これは非魔法界で一般的に使われている筆記用具セットだ。ボールペン、シャープペン、鉛筆、消しゴム、五冊のノートと下敷き────羊皮紙がメインに使われている魔法界からすれば物珍しいものであることは間違いないだろう。現に、マフラーも気に入ったが、アドワーズ家の人々の視線はマフラーよりも筆記用具セットに向けられていた。

 

「こちら側でいつも思っていたんだがな、羽ペンはインクの補充とか面倒だろう。そっちの方が手早く書ける」

 

「よく見れば、君がよく使っているペンか。確かに便利そうだとは思っていたが……」

 

 少しだけ興味が先行したのか、ヴィヴィアはノートの一ページ目にボールペンを使って文字を書いてみる。スラスラと文字が書けるし、インクの補充が必要ないのは高得点である。しかも、ホグワーツで使っている羊皮紙のように一枚一枚取り出す手間も存在しないので、黒板の内容を書いてまとめる際にも使いやすい。学生の自分にとって素晴らしいプレゼントだ。

 

「気に入ったか?」

 

「ああ。素晴らしいプレゼントをありがとう。……私からも何か渡さないとな」

 

「別に見返りを求めて渡したわけではないが」

 

「素晴らしいものを贈ってもらったのだから、お礼をするのが筋というものだろう?」

 

 ファヴニルが拒否しようと何かお礼を渡すつもりであるヴィヴィアに肩をすくめたファヴニルは、そういえば、と魔法生物図鑑を取り出す。

 

「ホグワーツの怪物、特定できたぞ」

 

「何?」

 

「待って、怪物? ヴィー、ファヴニル、ホグワーツで何か起きてるの?」

 

 一日前倒しでのクリスマス休暇、としか伝えられていないかった保護者達の空気が張り詰め始める。ホグワーツから色々と説明がなされていると思っていたファヴニルとヴィヴィアは同時に顔を見合わせて、ホグワーツで現在起こっている事件について話し始めた。

 

 何名かの生徒が石となったり、秘密の部屋が開かれたこと、秘密の部屋の怪物について調べていたことなどを話し尽くすと、アドワーズ家の者は全員目が据わった。まるでこれから戦争でも起こるのかというレベルの変わりようだ。

 

「ホグワーツに口を出すつもりはなかったけれど、状況説明をしっかりしない体制には、ちょーっと口を挟まないといけないかしら?」

 

「アルバスのやつ、秘密主義も度が過ぎればどうなるか、知っておるだろうに」

 

「とりあえずホグワーツに確認の手紙を出します。それと……あれこれ言うくせに何もしない理事会にも」

 

「怪物ですか……ああ、そういえばハグリッドが杖を折られた件に関係しているかもしれませんねぇ。あの時彼を犯人であると発見したのは……ああ、マールヴォロでしたか」

 

 ファヴニルとヴィヴィアのことを置いてけぼりにして、アドワーズ家の人々が行動を開始する。蝶よ花よと可愛がるヴィヴィアが怪物に襲われる可能性があるのであれば、アドワーズ家は全力で騒動の解決に当たるだろう。去年の賢者の石騒動が起こる前に彼らに声をかけていれば、もっと早くに事件が終わっていたかもしれない。結果、犯人がどうなるかは分からないが。

 

「それで、怪物は何だったんだ?」

 

「ええ。スリザリンの秘密の部屋の怪物が現れる時、蜘蛛が逃げ出すことや、雄鶏が殺されていたことを考えれば、答えは案外簡単だった。……バジリスク。蛇の王と謳われる魔法生物だ」

 

「バジ……? ああ、卵が美味しいあいつか?」

 

「グウィズノ、お前が言っているのは恐らくコカトリスだ」

 

「ん? ああ、そっちか。あれの卵で作るエッグベネディクトは絶品だぞ」

 

 置いてけぼりにされていたのはファヴニルとヴィヴィアだけではない。そもそもホグワーツとは何ぞやという領域にいるグウィズノもまた、アドワーズ家の勢いに乗り遅れている。

 朝からドタバタと慌ただしく飯をかき込んだ彼らがファヴニルとヴィヴィアを置いて行動を開始した後、ファヴニルは懐から清酒を取り出して呷る。

 

「千年近く生きているバジリスク……いい酒の材料になりそうだ」

 

「あー、蛇酒か……どうなんだ、実際」

 

「人を選びはするな。バジリスクはそもそも食えるのか?」

 

「バジリスクなー……正直ウシガエル食った方が食いでがあると思うぞ」

 

 即死光線を放てる怪物がホグワーツにいるかもしれないというのに、ファヴニルは平常運転である。ヴィヴィアもファヴニルに引っ張られて落ち着いてはいるが、恐怖はしっかりと残っている。まだ精神異常者側ではないようであった。

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