ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

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チョコレート酒

ファヴニルが持つ酒の一つ。
木製の箱に入っていた年季を感じさせるリキュール。

チョコレートの香りがする酒は、当時の酒の歴史をひっくり返しても見当たらぬ試作品であるようだ。

かつて、誰かがファヴニルに贈った酒の一つであり、ファヴニルが飲まずに保管している酒。
酒好きだというのに、どうにもこれだけは、開けられぬ。


酒カスドラゴンとバレンタインデー

 長めの冬休みが明けて、ハーマイオニーが石化したことを知ったファヴニルとヴィヴィアはマクゴナガルを含めた教師陣にホグワーツの怪物がバジリスクの可能性を伝えた。

 

 マクゴナガル達は提示された考察に真っ青になりつつも頷き、限りなく答えに近い考察に対して点数を与えた。もちろん鵜呑みにするべきではないが、可能性があるのならばと対策を立案して一度解散となった。

 

 そんな教師陣の会議にて、闇の魔術に対する防衛術を担当するロックハートがとある提案を行い、それが今、ファヴニル達の目の前で行われている。

 

「ハッピーバレンタイン!!」

 

 目の前の光景にファヴニルは興味深そうに目を細め、ヴィヴィアは目を点にして眺めていた。

 二人の視線の先には、こんな状況だからこそ暗い空気を吹き飛ばすべきだと主張し、そのためのイベントを開催中のロックハートが妙に派手な桃色のマントを羽織り、魔法を披露している。

 

 そんな彼の周りには呆れつつも「まぁ、これで生徒の不安が晴れるのなら」、と言わんばかりの表情を浮かべているマクゴナガルとスネイプがいる。

 

「バレンタインか……」

 

「どうしたニール、懐かしそうだな」

 

「俺にとってのバレンタインはな、ピュートーン兄さんがいつも以上の大規模改築を行い、ニド姉さんが媚薬効果のあるカカオを作り、ティフォン姉さんが眷族の体にチョコレートを塗り楽しみ……母さんはニド姉さんの作ったカカオでチョコレートを作り、父さんはチョコレートで武具を作り、俺は板チョコを参加費としてチョコレートフォンデュ祭りを開催しつつ友人達と共に修羅場を作っている連中を眺める、そんな催しだ。中々面白いぞ」

 

「ニール、待ってくれ。言葉の洪水をワッと一気に浴びせかけるのは」

 

 ファヴニルの口から息継ぎすることなく放たれた言葉にヴィヴィアが目を回しそうになりつつも、彼が伝えた内容を噛み砕こうとする。噛み砕こうとして、宇宙を背負う猫となってしまった。

 

「特にニド姉さんが作ったカカオで作ったチョコを塗られた姉さんの眷族が乱れに乱れ────うん? どうしたヴィヴィア。そんなところに宇宙はないぞ」

 

「誰のせいだと……」

 

 呆れたようなヴィヴィアの横で小さく笑うファヴニルは、ロックハートの近くにいる小鬼や屋敷しもべ妖精が妙な仮装をしていることに気付く。作り物の羽を生やした彼らは恐らく、恋のキューピッドとか、そういった類を模したものなのだろう。

 

「……手紙を持っているということは、あれは恋文か何かか?」

 

「君も恋文という概念を知っているんだな」

 

「タイプライターとして仕事をしていたこともある。恋文、遺言、盲目の者の声を文章にする……あとは、戦争で手足を失った者の代筆などもしたな」

 

 ファヴニルのことを知る者は少なくない。非魔法界の人間で、酒に携わる機会や郵便、物書きなどの機会があったのなら知らない人間は少ないだろう。姿が変わらないため、夢か何かだと思っていただろうが。

 

「それにしても、あの小鬼……何のために手紙を持っている?」

 

「届けるためだろう? 君もよくやっているじゃないか」

 

「ああ、そうか。なるほど、フラッシュモブというやつか?」

 

 いや、あれとはまた別のものか? いやしかし……とブツブツ呟くファヴニルは、桃色に装飾された大広間を眺めつつ遠い記憶を探るように十数秒唸った後、深く考えたり思い出すことを止めた。

 この催し、生徒達がそこそこ熱狂しているため、こっそり酒を飲んでいてもバレることはないかもしれない────そう思い始めているファヴニルは、ふと、隣に立っているヴィヴィアが疑問を抱いたことに気付く。

 

「なぁニール」

 

「なんだ」

 

「君は誰かから好意を向けられた時、直接言われたり、直接手紙を渡された方がいいのか?」

 

「ふむ……」

 

 ヴィヴィアからの質問に対し、ファヴニルは少しだけ考えて口を開いた。

 

「好意の定義にもよるな。友愛、親愛といったものは、言葉にする必要もないだろう。互いに感じるものだからな」

 

「では恋愛ではどうだ?」

 

「さて……残念ながら俺は恋を知らん。女心を知らん。知っているのは酒と歴史と友人の人柄くらいだ。しかし……そうだな。直接伝える、という行為は強い力を持つとは思う」

 

 誰しも、誰かと死別した時、もっとその人とやりたいことがあった、言いたいことがあったなど、そんな思いがこみ上げてくることは少なくないだろう。生きている間は誰もが「まぁ、伝えなくてもいいや」と思い、感謝などを心の中に仕舞ってしまうことが多いのだ。だから、その人が死んでから後悔を抱くのだ。

 

「きっと、恋愛、家族愛というのは結局、口に、態度に、行動に出さねば伝わらんのだろう」

 

 秘めたまま死別など、きっと悲しいことだろう。ファヴニルはよく分からないが、それが悲しいことであると非魔法界で知り合った者達がよく話していた。だからきっとそうなのだろうとファヴニルは思っている。

 

「つまり、直接伝えられた方が君としては好印象だと?」

 

「恐らくな。他人の口からや、手紙よりも……きっと、直接言われた方が、心に届くのだろうよ」

 

「そうか」

 

「お前はどうだ、ヴィヴィア」

 

「私か? ────私も君と同じだよ。もっとも、心を許した相手に言われれば、だが」

 

「そも、恋愛に発展するというのはそういうものだろう。親密な間柄が、さらに先に進むのだから」

 

 ファヴニルはそう言って大広間に置いてあるチョコレートを一つ取り、口に放り込む。ひたすらに甘いそのチョコレートは、きっと辛い酒や苦い酒────それも強い酒だ────によく合うだろうと思いつつ、そのままでは食べられないとフルーツも口にする。

 

「フルーツと合わせるのが前提か。口直しは……おお、チーズか」

 

「んぐっ……なんだこのチョコ、苦いぞ」

 

「ハイカカオチョコレートだな。それを少しカレーに入れると深みが出るぞ」

 

 ホグワーツが開校してから類を見ないほどの規模で開催されているバレンタイン行事であっても、ファヴニルとヴィヴィアは平常運転。

 

 しかし忘れてはいけない。ファヴニルとヴィヴィアは────────ホグワーツの生徒、教師を含めた中でも顔がいい。面のいい男と女であり、内面も良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夜。ファヴニルとヴィヴィアはフィルチすら知らない小部屋で脂が乗りに乗ったブリを食べていた。ちなみにブリはファヴニルが懐の疑似四次元ポケット内で熟成させていたものである。

 

「……はぁ、落ち着く味だ」

 

「怒涛のバレンタインだったからか、よく沁みる。ぶり大根のおかわりはまだあるぞ」

 

「もらおう」

 

 ヴィヴィアは甘酒だが、ファヴニルは辛口の熱燗を飲んでいる。どちらもファヴニル謹製の酒だ。

 

「それにしても、和食というのは素晴らしいな。繊細で、しかし大胆で、落ち着く味わいだ」

 

「日本の食は奥が深いぞ。……しかし、お前は生魚を食べられる側なのだな」

 

「ああ、ステーキのレアに近いものだと考えたらな。……脂の乗りが素晴らしい」

 

 ファヴニルと関わり続けていたことで身に着けた箸を用いてブリの刺身を口にするヴィヴィア。何のためらいもなく刺身を口にした彼女に、ファヴニルは豪胆なことだと思いながらも味が染みた大根と熱燗を交互に楽しむ。ぶり大根の濃厚な味わいと、辛口の熱燗の突き抜けるような香りが素晴らしい。

 

 ブリ料理の数々に舌鼓を打つ二人は心なしか疲れを感じさせるが、こうなった原因はバレンタインにあったと言っても過言ではないだろう。

 

 ファヴニルにも、ヴィヴィアにも複数の手紙が殺到したのである。通常のラブレターもあったものの、愛憎入り混じる手紙の中には剃刀が入っているもあれば、何なのか分からない液体が入った小瓶が入っていたり、髪が入っているお菓子、妙な臭いがするお菓子などが入っていたこともあった。なぜか手紙本体がヌルヌルしていることもあった。

 

 無論、ヤバそうなものは例外なくファヴニルが焼いた。インセンディオなどではなく、ドラゴンの炎で焼き尽くした。ヴィヴィアの分まで焼き尽くした。手紙は内容を全て読んでからまともそうなものには真摯に返信の手紙を書き、ヤバそうな内容は見なかったことにして焼却した。

 

 ホグワーツにて、ファヴニルの人気は悪くない。むしろ良い。モテると言っても過言ではない。それが加速したのは決闘クラブにてヴィヴィアと激闘を披露したことだけではなく、その後、魔法の扱いに悩んでいる生徒にさりげなく助言をするなどの行動がファヴニルの人気を加速させたのだ。

 

 元々ファヴニルは差別をすることなく、誰に対しても分け隔てない。良くも悪くも平等に接するし、悪事や差別をするのなら平等に叩き潰す。大体のことに無関心であったり、すぐ忘れるからどうでもいいと思っているだけなのだが、彼のその在り方が非魔法界出身の者にも、魔法界出身の者にも心地良いものだったらしい。

 

 中には淡々と叩き潰してほしい、淡々と罵ってほしい、作業的に抱き潰してほしいなどという倒錯的な考えを持つ者もいるようだが。恐ろしいことである。

 

 ヴィヴィアもまたファヴニルとほぼほぼ同じといったところだ。お姉様に罵られたい、お姉様に甘やかされたい、お姉様に抱かれたいなど、倒錯的な手紙が大量にある中、「どうすればアドワーズ先輩のようにカッコいい人になれますか」、という純粋な手紙があったことでヴィヴィアの精神は保たれた。ファヴニルと純粋な手紙がなかったら精神がおかしくなっていたかもしれないヴィヴィアの心に平穏があらんことを、と祈りたいほどである。来年もきっとバレンタインは疲れる行事になるであろう。前例が生まれてしまったがゆえに。

 

「バレンタインが終われば、次はホワイトデーか」

 

「正直今から何が起こるのか恐ろしくて堪らないのだが」

 

「クハッ、今日よりはマシだろうよ」

 

 ファヴニルはそう言って熱燗────ではなく、冷え切った中ジョッキに注ぎ入れた生ビールを一気に飲み干す。気持ちがいいくらいの飲みっぷりである。

 

「ところで、ネァイリングのことだが……」

 

「ああ」

 

「バジリスクにも通用するのだろうか?」

 

「問題ないだろう。それは竜の鱗を貫き、竜を殺すための武器なのだから」

 

 神でもない巨大な蛇程度、倒せないわけがない。

 そう言ってファヴニルはヴィヴィアの器にちょうど焼けたブリの照り焼きを乗せ、釜で炊いた米を握る。熱々のおにぎりと脂が乗った柔らかい照り焼きを前にして、まだ食べ盛りの子供であるヴィヴィアは耐えることができなかった。

 

「はぐ……熱い……が、美味いな……! このおにぎり、というものも、塩加減が完璧だ……」

 

「日本酒を造るにあたり、米の扱いは死ぬほど学んだからな」

 

「君が呟いていたあの歌も米の扱いには欠かせない要素なのか?」

 

「ああ。炊飯器が使えればいいんだが……電気がないからな、ホグワーツには」

 

 ファヴニルが歌っていたのは、米を炊く時の教訓のようなものだ。『はじめちょろちょろ、中ぱっぱ、ブツブツいうころ火を引いて、ひと握りのワラ燃やし、赤子泣くともふた取るな』……昔から言われてきた釜で米を炊く時のコツと言ってもいいだろう。ちなみに土鍋を使う場合は『はじめちょろちょろ』の部分が省かれる。釜であれば弱火、強火、弱火、追い炊き、蒸らしだが、土鍋であれば強火、弱火、強火、蒸らし。炊飯器であればスイッチ一つ────技術の進歩とは素晴らしいものである。

 

「バジリスクの話に戻るが、俺の炎を吸収しているんだ。問題ないだろう」

 

「……君の炎、たまに色が違う気がするんだが、あれは?」

 

「ドラゴンの基本的なブレスと、俺達ドラゴンが個々に使える炎の違いだな。ティフォン姉さんであれば催淫、媚薬の効果を持つブレスを放てるし、父さんであれば金属を放てる。……ああいや、父さんは硫化物だったか?」

 

「では君はどうなんだ?」

 

「俺か? 俺は……酩酊、腐敗、劇毒だな」

 

「待て、多くないか?」

 

「生物濃縮の結果のようなものだ。ヨルも複数のブレスを放てるしな」

 

 なお、ネァイリングが吸収したのはファヴニル特有の炎属性ではなく、地獄の火炎にも似た通常ブレスの炎であるのだが、バジリスクをステーキにすることはわけないだろう。




ファヴニル達は食べる、飲むなどでブレスの属性を増やせます。害のない生物濃縮みたいなもんです。
ファヴニルのブレスはエルデンに出てくる腐敗ブレスと永眠と魅了(ミケラァ)と毒壺が混ざったもんだと思ってください。魅了(ミケラァ)を二日酔いと受け取ってください。
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