ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

31 / 36
酒カスドラゴンと新たなる学期

 とんでもないトラブルに見舞われながらも、ホグワーツに入学した生徒達。新入生である彼ら彼女らはさておいて、組み分けが終わった数日後のファヴニルのテーブルはいつも通り────否、いつも以上にカオス極まっていた。

 

「クハッ……」

 

 ファヴニルが座るテーブルには、大量に積み上がったサラダとパンとステーキが置かれていた。その中でも一際目を引くのは、彼が食事をしながら捲り続けている分厚い────辞書並みに分厚い手紙だ。

 

「まったく、達筆なやつだよ」

 

「これ、詩か?」

 

「ああ。前編中編後編と構成されているな。その後、ちゃんとした手紙もある」

 

 送られてきたのは、長編の小説よりも長々と綴られた詩。それが三冊。ギルデロイ・ロックハート自伝小説【ギルデロイ・ロックハートと世界逃忘記】や、その作品への感想文、ファンレターよりも分厚い手紙をファヴニルは苦にした様子もなく、普段見せることがないような優しい笑みを浮かべてページを捲っている。

 

 いつもは見せない表情が絶妙にぶっ刺さったらしいホグワーツ生の何名かが、致命傷を受けたかのような呻き声を上げて悶え出したが、ファヴニルは手紙にご執心。

 

「これを書いたのは君の友人なんだろうが……そういう趣味があるのか?」

 

「いや。ただ、これを書いたやつは無口でな。手紙に自分の想いを全部乗せる癖がある」

 

 何年分を乗せたか分からない程の分厚い思いの丈を、一つ一つ慈しむように見つめるファヴニルは手紙が汚れないように心掛けつつ食事を続ける。

 

 そんなファヴニルに少しだけ呆れた表情を浮かべたヴィヴィアは、不意にファヴニルが捲るページの一文に目が釘付けになった。その一文は、誰かに対して────いや、誤魔化すこともない。ファヴニルに向けて愛を囁いている一文。一文というか、数ページに亘って「自分がどれだけ君のことを愛しているか」的なことを書いている。

 

「……?」

 

 その一文が視界に飛び込んできたヴィヴィアの心が一瞬だけざわついた。

 

「どうした」

 

 なぜ自分の心がざわついたのかを考える前に、黄金の輝きを湛えたファヴニルの瞳がヴィヴィアの顔を捉える。それだけで、彼女の心のざわめきが鎮まっていく。

 自分だけを映している黄金の瞳に、何だかよく分からないが妙な優越感を覚えつつヴィヴィアは肩を竦めた。

 

「ああいや……何か胸につっかえたような感じがして」

 

「そうか。水分不足でもそうなることはある。魔法族に多い事例だが、水分不足、油分塩分過多……それとお前は問題ないが運動不足に筋肉不足。不健康そのものだな」

 

「そうだな……確かに痩せすぎだったり必要以上に太っていたりする魔法使いは少なくない」

 

「魔法で何でもできる弊害だろうな。セドリック先輩を見ろ、あの肉体美。まさにギリシャ彫刻だ」

 

 手紙を読みつつも、セドリックが座っている席を指すファヴニル。その指の先にいるセドリック・ディゴリーは……筋肉(スパルタ)であった。

 

「…………なんだか、前にもまして筋肉質になったな?」

 

「健全な肉体にこそ健全な魂は宿る。……まぁ、半分以上は俺のトレーニングに付き合っていたせいもあるだろうが」

 

 彼が口にしている料理も、よく見れば脂質が少ない鶏肉を使った料理や野菜が多め。もちろんエネルギーとなる糖質をパンを食べることで摂取することも忘れていない。ちなみに食べているパンは全粒粉を使ったちょっと黒いライ麦パン。時代の最先端を行っている気がしないでもないが、気にしたら負けだ。

 

 細く、筋肉質で、バッチリ引き締まっている彼の肉体美はまさにギリシャ彫刻のよう。夏休みで関係が進んだらしいチョウ・チャンもまた、彼の隣に相応しい女性となるため、ついでにクィディッチのエースとしてさらに磨き上げるため、ファヴニルの朝トレに参加し始めている。どうでもいい情報として、鍛えたお蔭なのか若干バストアップしている。同じく参加しているヴィヴィアは────うん、まだまだ伸びしろという感じ。

 

「………………私はあまり変化してないな」

 

「お前の場合は食べる量が少なすぎるんだ。もっと食え」

 

 食べなければ育つものも育たないし、引き締めることができる部位も引き締まらないというもの。ヴィヴィアの場合は日々のトレーニングの成果もあって引き締まってはいるが、食事量が少ないせいで育つはずのものが育っていない。

 

 まぁ、無限の可能性があるヴィヴィアの身体的特徴はさておいて。いつの間にか手紙を一冊読み終えたファヴニルは残っていた食事を目にも止まらぬ速さかつ、全く粗雑さを感じさせない動きで食べ尽くして立ち上がる。

 

「今日の授業は……闇の魔術に対する防衛術か」

 

「前回までは復習だったからな。今年は何を題材にするのやら」

 

 去年の教師だったロックハートが、今頃ヨルガンドに連れられてワールドツアーを開催しているであろうことを思い出して、少しだけおかしな気分になりつつ、ファヴニルとヴィヴィアは大広間を出ていく。いつも通りのことなので、在校生のほとんどは気にもしていないが、純血主義の家に生まれた新入生や、ファヴニルを逆恨みしている節がある生徒などがその背中を睨むように追いかけていた。そんな暇があるのならセドリックのようにマジックバーバリアンとして進化すればいいのに。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 闇の魔術に対する防衛術の教室に集まったハッフルパフとレイブンクローの三年生は、教卓に立っている新たな教師、リーマス・ルーピンと、彼が用意したクローゼットを注意深く見つめていた。まだよく分からないものや、中身が分からないものに対して警戒するというのは、ロックハートの授業で最初に習う内容である。

 

「さぁ、皆。このクローゼットにはとある怪物がいるんだけれど……ああ、もちろん凄く危ないってわけではないけれどね」

 

 ルーピンはそう言いつつ、ガタガタとクローゼットを揺らしている存在が何者なのか口にした。

 

「真似妖怪ボガートという魔法生物だ。知っている人はいるかな?」

 

 ハッフルパフ、レイブンクロー、その全員が手を上げた。教科書の読み込みはどの授業であっても基本中の基本である。なお、読み込みをしても魔法薬学の教科書は間違いがあったりするため、魔法薬学の教師であるスネイプに質問攻めするのが良い。その際に疑問点をリストアップして羊皮紙に纏めて提出すると効率的で、稀に評価される。質問攻めにされたせいでスネイプの機嫌が悪くなる可能性も無きにしも非ずだが、それはそれ。大事故を起こすよりはマシである。

 

「ではMiss.アドワーズ、答えてくれるかな?」

 

「はい。ボガートは相対した人間の最も恐れるものを真似て脅かす魔法生物とされています。その生態もあってか、正体がわからないとも言われています」

 

「その通り! 去年のロックハート先生の授業でも習ったと思うけれど、ボガートは危険性が少ないとされている。けれど、闇の魔法使いが使った事件があったからね。闇の魔術に対する防衛術で取り上げることになっているわけだ」

 

 レイブンクローに2点を加点しつつ、ルーピンは続ける。

 

「危険度が少ないとされているのには訳がある。ほとんどの人がどう対応するかを理解しているから、というのが大きいね。もちろん恐怖に負けて、立ち向かえない人もいるのを忘れてはいけないよ」

 

 黒板に書かれた内容を羊皮紙に書き纏める生徒達の動きがある程度落ち着いた後、ルーピンはボガートをどう撃退するかという内容に手を付けた。

 

「さて……ボガート退治において重要な要素。それが笑顔だ。そんな笑顔を浮かべるためには、恐怖が馬鹿馬鹿しい姿をしていればいい。例えば、庭妖精がバルクアップしてる、とかね。呪文はこうだ。────リディクラス!」

 

 ルーピンの発した詠唱に続いて、生徒達がリディクラスと叫ぶ。その様子に満足気に頷いたルーピンは、クローゼットの封印を解いた。

 暗闇に包まれたクローゼットの奥から現れたのは、大きなゾンビ犬。きっとホラー映画か何かを夏休みに見たのだろう生徒がリディクラスと叫べば、ゾンビ犬はファンシーなぬいぐるみと化した。その後に続くように、生徒が入れ替わりながらボガート退治に参戦していく。ちなみにヴィヴィアは自分を連れ去ったコンドルが現れた。今でもトラウマらしい。

 

「さぁ、最後はモルトキュール、君だ!」

 

 ルーピンに呼ばれたファヴニルはゆっくりと立ち上がり、ボガートの前に立つ。半人半竜である自分は何を怖がるのだろうか、そもそもボガートは何に変身するのか、それとも変身しないのか────そんなことを考えていると、ボガートが変身する。

 

「……ああ、総司か」

 

 布団の上で、真っ白になってげっそりとしている美少年。ファヴニルが死に目に立ち会うことができなかった人間の一人だ。

 

「クハッ……酒は辛いのに限ると言うから渡したら吐き出しおってからに」

 

 だが、この酒カスドラゴン、美少年が冷たくなっていく姿を見ても、彼が元気だった頃に飲み交わした酒について考えていた。それを動じていない、もしくは効いていると勘違いしたのか、ボガートはまた別の姿に変わる。

 

「クハッ、次はフローレンスか」

 

 次に現れたのは鬼気迫る形相の女性。年老いているというのに、苛烈さが伝わる女性は自分が動けなくなるまで戦い続けた────否、動けなくなっても別のやり方で戦い続けた女傑。

 

 またボガートが姿を変える。次は小さな子供、次は老紳士、次は名を残すことなく消えた錬金術師、次は国家と結婚した男や女など……とにかくやけくそのように姿を変えるボガート。だが、ファヴニルは全く動じない。動じないどころか、どこか嬉しそうに笑っていた。もう二度と会えなくなってしまった友人に、こんな形ではあるが会えたことにファヴニルは少しだけ嬉しくなっていた。

 

 ファヴニルの正体をヴィヴィア以外は知らない。だが、誰もがファヴニルがどこかの貴族か何かだと勘違いしていることもあって、色んな人達と若いながら会って来たんだなぁ……といった思いを抱いている。

 

「まぁ、そろそろ幕引きだ。久しぶりに会えて、俺は嬉しかったよ。リディクラス」

 

 ファヴニルが唱えると、青年がファヴニルに酒の入ったジョッキを向けて満面の笑みを浮かべた。その変身がボガートの限界だったのか、ボガートは小さな音を立てて消えてしまった。

 

「……すまない、モルトキュール。色々と思い出させてしまった」

 

「いえ。むしろ感謝したいところです」

 

「…………そうか。君は、強いんだな。────────さて! ボガートの恐ろしさや対策は理解できたかな? ボガート退治に成功した子達全員に1点ずつ加点! 宿題は……ボガートが関係していた事件を調べて羊皮紙一枚にまとめておいで。では、今日はここらで解散!」

 

 ルーピンの話が終わるのとほぼ同時に、授業の終わりを告げる鐘が鳴った。今回の授業について話をしながら、ハッフルパフとレイブンクローの生徒は教室から出ていく。

 一番最後に教室から出たファヴニルに付き添っているヴィヴィアは、先程ボガートが変身した人物達について聞いてもいいか否かを迷いつつ、ファヴニルのことを横目で見ていた。

 

「総司にフローレンス、ギュスターヴ……なんとも懐かしい顔ぶれだったな」

 

「その……彼らはもう?」

 

「ああ。もうずっと前にこの世を去っている。気を遣わなくてもいいぞ。あいつらの思い出は酒が主でな……特にフローレンスには禁酒だと何度言われたか」

 

 カラカラと笑うファヴニルと、思い出話に花を咲かせる彼のいつも通りの姿に安心するやら呆れるやらするヴィヴィア。

 いつも通り、変わらない日常。ただしホグワーツの外には吸魂鬼(ディメンター)の群れと、指名手配犯のシリウス・ブラック。ホグワーツの安全神話がこの三年間で崩れ落ちている気がしないでもないが、それでも穏やかな日常が続いていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。