ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

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私は何だかんだでモヒートが好きです


酒カスドラゴンと人狼

「ニール、君の故郷には人狼はいるのか?」

 

 大広間宿泊から数日後。11月に突入したことで冷え込みが強くなってきたホグワーツの屋内で、ファヴニルとスパーリングをしていたヴィヴィアが問う。このスパーリングはもちろん魔法ありのスパーリングである。

 

人狼(ルー・ガルー)か……いるな。ヨルの眷族に一人」

 

「予想はしていたが、やはり魔法世界の人狼とはまた違うんだな」

 

「スネイプ先生の授業を聞くに、あれは病気なのだろう? 俺が知る人狼は生まれついての存在だ」

 

 ファヴニルの記憶にある人狼は、親友ヨルガンドの眷族である色男かつハーレムを築いている人狼の男。伊達男という言葉が似合う白いスーツとハット帽子がよく似合う人狼だ。

 対してヴィヴィアが知っている人狼は、人狼症と呼ばれる感染症によって狼人間となってしまった人間のこと。満月の下で変身し、人を異常なまでに襲うことが知られている。この時、人狼に襲われた人間の傷口に人狼の唾液が混ざることで、襲われた人間も人狼症の感染者となってしまう。ただし、これは治療をされたことで生き延びた者だけ。人狼に噛まれたり、引っ掻かれたりした傷は塞がらず、適切な治療を施されなければそのまま失血死してしまう。

 

「察するに……人狼症は性感染症みたいなものだろう。治らないが」

 

「せい……なんだって?」

 

「性感染症。まぁ、粘膜接触によって起こる病気だ。あれも厄介なものでな……俺のようなやつには関係のない話だが、人間はそうもいかん。プロテゴ」

 

 酒の勢いでやらかすやつは何人も見てきた、と言いながらヴィヴィアの蹴りと魔法をいつの間に修得したのか盾の呪文で捌くファヴニル。

 

「厄介な話だよ、本当に……!」

 

「薬に毎月10クヌート、感染者登録に1ガリオン、ライセンス更新にも金がかかる*1と来た。魔法省は何を考えているのやら」

 

「ああ、人狼は、フェンリル・グレイバックのような凶悪犯だけではない。だが、反人狼法が締結された結果、人狼症感染者が貧困に喘ぐ例が相次いでいる」

 

 本来であれば学校に行って、もっと高い給金を得られる仕事に就ける人間や、能力が高い人間もいるかもしれないのに、法律がそれを許さない。無知蒙昧でしかも傲慢かつ差別的と言われても仕方がないやり方は、制度を聞いたファヴニルがどうでも良さそうに鼻で笑う程である。

 

「ところで、いつの間に盾の呪文を覚えたんだ!?」

 

「これか? 少し前に試してみたいことを思い付いてな。突貫だが覚えたんだ」

 

 そう言いながら盾の呪文(プロテゴ)を発動したファヴニルは、ヴィヴィアの攻撃に合わせて拳を振り上げる。その拳には盾の呪文が展開されているが、受け止めるのがファヴニルの狙いではない。

 

「は────ぐあっ!?」

 

「クハッ、やはりな」

 

 ヴィヴィアの放った魔法が明後日の方向に飛んでいくどころか、ヴィヴィアに向かって飛んで直撃する。ファヴニルの狙ったのは、この挙動が起こるのか否かの検証。盾の呪文の形状や強度を変えることができるのは、夏休み中に兄弟や両親、知り合いの眷族などに協力してもらって確認済みである。薄く引き伸ばすことで全方位からの攻撃を防ぐ装甲にも、厚く一点に集中させることで強靭な盾にもできる。

 

 この際、ファヴニルは薄く引き伸ばした時、防いだ魔法が明後日の方向に滑って飛んでいくような挙動をすることに着目した。

 

「プロテゴは軌道を逸らすように防ぐ。弾いて散らすことが多々あるが……それでもそういう挙動をすることが多い」

 

「その挙動を利用した軌道変更か……! 器用なことをするな、君は……!」

 

「そもそも進歩は疑うところから始まる。魔法だってそうだろう。これをこうしたらどうなる、というのは誰だって気になるところだ」

 

 そういった疑問から、様々な技術が生まれてきたことを知るファヴニルは立ち上がったヴィヴィアを油断なく見つつ、杖を振る。

 魔力の流れから、ファヴニルの十八番レヴィオーソコンボだと察したヴィヴィアはすぐさまローブを脱ぎ捨てて身軽になると同時に、近くに置いてあったロープに縛り魔法のインカーセラスを発動。縛り術のイモビラスではなく、こちらの魔法を選択したのはファヴニル並みの魔法耐性持ちに対して、直接拘束する魔法が有効的でないと判断したため。長いロープはファヴニルの腕に巻き付き、ファヴニルと柱を結び付けた。

 

「む」

 

 この程度の拘束であれば、コンマの時間さえあれば破ることができる。だが、ヴィヴィアがロープにかけた魔法はインカーセラスだけではなかった。ファヴニルを縛るロープが、まるで岩の如く固まっている。

 これがヴィヴィアがロープにかけた魔法、対象を固めてしまう魔法『デューロ』だ。しなやかなロープはまるで岩を細長くしたかのように強靭となっており、擬態中のファヴニルでは拘束から逃れるのに秒単位の時間を要する。だが、それでも秒単位の時間しか稼ぐことができない。そこでヴィヴィアはファヴニルの足元に魔法をかけた。

 

沈め(デプリモ)!」

 

「ほう……!」

 

 床が突然底なし沼のように歪み、ファヴニルの足が沈んでいく。ここがホグワーツでなければこの部屋の下にある部屋も巻き込んで倒壊していただろうこの魔法は、物体を沈める魔法『デプリモ』。泥濘に嵌まったように床に足を奪われたファヴニルの動きは鈍く、ほとんど詰みの状態であった。

 しかし、これで詰みになるようであれば、ファヴニルは竜の楽園でとっくの昔にティフォンに喰われて死んでいる。

 

「片手が残っているならまだ詰みではない。気を付けろ」

 

 バキンッ。何かが割れるような音が聞こえる。

 

「それは君みたいなやつ限定────ふぎゅっ!?」

 

 とどめと言わんばかりに攻撃を繰り出したヴィヴィアの足を、杖を握っていたはずの手で掴み、引き寄せてから掴む部位を足から上半身────ヴィヴィアが着ている服の襟元に変更。まるで釣り上げた魚のエラを掴んで持ち上げるかのようにして地面に叩き付けた。

 情けない悲鳴を上げたヴィヴィアだが、受け身は完璧でダメージは少ないものの、叩き付けた先にはファヴニルの黒くて強靭でしなやかで長い尻尾があり、絡め取るようにしてヴィヴィアは動きを封じられてしまった。

 

「擬態を解かせるとは、中々やるじゃないか」

 

「よく言う……擬態を解かなくてもどうにかできただろう?」

 

 部分的に擬態を解いたファヴニルがクツクツと楽しそうに笑うのとは対照的に、悔し気に歯噛みするヴィヴィア。

 

 年季の入り方が年単位で違う、種族的なスペックが違うなど、言い訳はあるが、ヴィヴィアという少女はそれらを言い訳にするつもりはなかった。ファヴニルに一本取れるかもしれないという思いのまま、ほとんど詰みの状況に飛びついて負けたのは自分なのだから。飛びつくのであれば、かもしれないという予測が確信に変わるまで動くべきではなかったと心の中で反省する。

 

「擬態を解かなければ確実に取れる確信がなかったからな。最初と比べれば間違いなく成長しているだろう」

 

「まぁ、そうかも、しれないが……」

 

「一先ず組み手は終わりだ。ストレッチは怠るな」

 

 拘束を解いたファヴニルは、運動後の一杯と言わんばかりにジンのボトルを開けて飲み始める。普通なら急性アルコール中毒か何かでぶっ倒れているレベルだが、ファヴニルはドラゴン。問題はない。

 

「……杜松の実か?」

 

 不意に香った酒の匂いから、ストレッチをしていたヴィヴィアが呟いた。

 

「うん? よく気付くものだな。お前の言う通り、ジンには杜松の実が使われている」

 

「熱病の薬だからな。魔法薬学でも使う。……酒の材料にもなっているんだな」

 

「ああ。ジンは少し前まで規制を喰らって不人気でな……1827年に連続式蒸留機*2誕生という革命が起きてな。その機械を使ったドライ・ジンによって人気が爆発した」

 

 もちろん人は選ぶがな、と笑うファヴニルは「最高のジンを君へ~ロバート・スタイン~」と刻印されたボトルに入っているドライ・ジンを注いでからトニックウォーターを投入。ライムも付ければジン・トニックの完成だ。

 

「まぁ、正確にはイーニアスが作ったカフェ式連続蒸留機*3の登場から人気が爆発したんだが……あいつの作っている酒はウィスキーだからな」

 

 ファヴニルにとってブレンデッドウイスキーも素晴らしいが、今日の気分はジン。トニックウォーターを混ぜて飲めば辛口でスッキリと飲みやすく、だが間違いなく酒であることを感じさせる爽やかな酒精が鼻腔を吹き抜けていく。

 

「まぁそれはそれとして。ジンは甘口もあるが、辛口が主流だ。砂糖がダメだという脱狼薬と一緒に飲んでもいい酒かもしれんな」

 

 砂糖を混ぜてはならないらしい脱狼薬はクソ不味いらしい。

 

「砂糖が入ってはダメなのか?」

 

「らしいぞ。スネイプ先生に質問したところ、懇切丁寧に教えてくださった」

 

 何だかんだで向上心があるやつ、疑問点が出たのなら授業後にすぐ聞きに来るやつにはちゃんと付き合ってくれるのが、スネイプという男であった。嫌味が混じることもあるにはあるが、間違いなくスネイプはホグワーツの教師であった。

 

「トリカブトをメインに、様々な材料で作るそうでな。少しでも失敗すれば劇薬、そもそも材料が手に入りにくい高価なものときた」

 

「そして法律と制度。…………色々とダメではないか?」

 

「そうだな」

 

 魔法世界も非魔法世界も似たり寄ったりかもしれないが、魔法世界の法律や制度の杜撰さや穴の大きさがファヴニルとヴィヴィアの中で再認識される。

 

「偏見が強いのも分からんでもないがな。何せ感染経路が分からん」

 

「……そうか、唾液と血液が混ざることで発症するものだものな」

 

「ああ。気付かずに人狼症を移された者、移してしまった者は……案外少なくはないかもしれん」

 

 人狼となった人間の唾液と血液が混ざることで感染する人狼症。もはや一種の呪いのようなそれに偏見を持ってしまうのは無理もない。だからと言って差別して良いというわけではないが。

 

「まぁ、中々お目にかかることもないのが現実だが、万が一ということもある。対処法は知っておくべきだろうな」

 

「君はそのまま殴り勝てるかもしれないが、私は逃げるくらいしか思いつかないんだが……」

 

「ああ、それも正解だ。だが、今のお前にはネァイリングがある。俺の鱗であれば人狼の爪や牙は通らんだろうさ」

 

 肩を竦めたファヴニルはジン・トニックを飲み干して干し肉を齧った。ちなみにこの干し肉はバジリスクの肉を干したものである。バジリスク酒は現在熟成中。

 

「ところでヴィヴィア、今度のクィディッチだが……全員参加らしいな」

 

「ああ。……シリウス・ブラックが侵入したことが疑われてる中、生徒を一か所に集めて守れるようにしたいのだろうが……」

 

「「大雨の中でやるか、普通」」

 

 同じ言葉が同じタイミングで二人の口から飛び出し、お互いに笑う。

 そう、今度のクィディッチはホグワーツ生、ホグワーツ教師全員強制参加のイベントなのだ。本来ならシリウス・ブラックが侵入している疑いがあり、吸魂鬼がいる状況でやるべきではないイベントなのだが、ホグワーツ────魔法使い達のクィディッチ好きは凄まじいものだった。強制参加については教職員、生徒双方から反対意見が出なかったことで締結されたものだが、クィディッチにあまり興味を持っていないヴィヴィアと、酒のことしか考えていないファヴニルは正直なところ少しだけ呆れていた。

 

「まぁ、大荒れであろうとサッカーや野球、ミュージックフェスをやる非魔法世界の人間と変わりはないか」

 

「どこにでもそういう熱狂的なものはあるんだな」

 

 やはり魔法世界の人間と非魔法世界の人間には魔法が使えるか否か程度の差しかないのではなかろうか。

*1
オリジナル設定。メガトンガバルドン6V魔法省ならやりかねないという妄想

*2
間違いなく革命

*3
間違いなく革命




なお、ジンの人気は1960年代だとまだまだ低迷期だったそうで、ボンベイ・サファイアが登場して人気がまた上昇していったそうです。高級志向なジンも増えていったのはそれ以降なんだとか。クラフトジンなんかも一時期流行りましたよね。

ちなみにグウィズノは現在アドワーズ家で働いてます。居心地がいいそうです。
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