ハリー・ポッターと酒カスドラゴン   作:エヴォルヴ

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お酒は二十歳になってから!!守らなかったら死喰い人全員にワイン樽が激突します。


趣味と酒カスドラゴン

 ファヴニルにとって、人間の嫉妬やら僻みやらは些事にすらならないものであった。たかが十年と少し程度しか生きていない人間の悪意など、そよ風にすらならない。

 

 ファヴニルがいるところにヴィヴィアがいる。授業中、自由時間など、時間とタイミングが合えばいつも一緒にいる二人の邪魔したり、ファヴニルへの悪口を口にすれば、ファヴニルは全く怒らないが、ヴィヴィアが怒った。ヴィヴィアが怒るが、ファヴニルは何をされても怒らない。真夜中の凪いでいる暗い海を見ているような、不気味なまでに怒らないファヴニルに誰もが少なからず得体の知れなさを感じていた。

 

 そんな得体の知れなさを感じながらも喧嘩を売る者は少なからずいた。ヴィヴィアを唆したと思い込んでいるスリザリンの生徒達である。ヴィヴィアがいてもいなくても彼らはファヴニルに喧嘩を売った。悪口を言ったり、いたずらをしてみたり、物を盗もうとしたり、直接襲ってみたりと様々だったが────全く堪えた素振りを見せなかった。

 

「討論か? では反論させてもらうが────」

 

「ところでお前の言った言葉、あれはどういった意味で言った? 知らずに口にしたわけではあるまい」

 

「どうした? ただ純粋な疑問として聞いているだけなのだが。なぜ泣く? 泣く前に答えろ。泣いてもいいが、質問には答えてくれるか?」

 

 悪口に対しては討論と称し、途端に有無を言わさぬ圧と共に正論、図星のオンパレードで相手が泣くまで質問攻めにした。

 

「ふむ。アドワーズ、こういった落書きについては魔法を使うことが一般的だが、人類はハイターという最強の道具を生み出している」

 

「ちなみにこういった油性のインクであってもアルコールを染み込ませた布で擦れば落ちる。便利だから覚えておくといい」

 

「クハッ。面白いことを考える者もいるものだ。しかし、もっと規模を狭めろ。掃除が面倒だ」

 

 落書きをされたとしても全く動じることなく、人類の発明品各種で汚れを落とし、フィルチから遠回しに褒められたほどであった。ちなみにいたずらを行った者の中には双子のウィーズリーもいたが、双子のいたずらに対しては楽しそうに笑い、軽くあしらっていたため、彼らのいたずらに磨きがかかることになるだろう。

 

「ああ、お前が盗んだそれだがな。インク漏れを起こしていたのだ。処分してくれるというのなら願ってもない」

 

「それと、それはあまり触れない方がいいぞ。鈴蘭の蜜を濃縮してある。……ああ、知らんのか? 鈴蘭は劇毒の花だぞ」

 

「日本に行った際収穫してな。カエンタケという。肌が爛れるから手袋をして管理しろ」

 

 物を盗めば壊れていたり、触れることが憚られるものばかり。なぜ持っているのか問い詰めたいものを隠し持っていたが、それを密告したりすれば自分がファヴニルから物を盗んだことを教師に伝えるようなものなので言えない。

 

 ならば暴力でなら、とヴィヴィアがいないタイミングを見計らい、人気の少ない場所でファヴニルを襲った者達はというと────

 

「温い」

 

「やる気があるのか?」

 

「レヴィオーソ、アクシオ、昇れ(アセンディオ)吹き飛べ(ヴェンタス)、アクシオ、立て(エレクト)回転せよ(サーカムロータ)、レヴィオーソ……」

 

「ふむ。アクシオからアセンディオではなくヴェンタスにした方が繋がりがいいな」

 

「それと、見えているぞ。不意討ちをしたいのなら、クロスボウでも用意するんだな」

 

 魔法の連続使用の練習道具にされてしまった。なお、魔法など使わなくとも回避もできるし、殴る、蹴るなどで片が尽くのだが、せっかくだからと魔法のみの戦闘の練習道具にされてしまった襲撃者達はことごとくレヴィオーソがトラウマとなった。コンフリンゴ、インセンディオ、ディフィンド、ステューピファイなどの魔法も当然習得済みであるファヴニルの引き出しを使わせる者がいつか現れるかもしれない。

 

 まぁ、とにかく。襲撃を行った者達の多くはファヴニルの手によって叩き潰されてしまった。その話を聞いてもなお虎視眈々と襲撃の機会を狙う者はいるが、何の対策もしていない人間に負けてやるほど、ドラゴンは甘くない。

 

「それにしても、面倒事が舞い込み続ければ厄介ではないか?」

 

「アドワーズ、俺の親友の格言を贈ってやろう。死なぬと高を括る者はサンドバッグに丁度良い。死を覚悟した者は実力を試すのに丁度良い」

 

「君の親友は蛮族か何かなのか?」

 

「まぁ、世間一般では不死と呼ばれるものを何度も殴り殺して屈服させてペットにする程度には蛮族だな」

 

 今となってはそのペットも蛮族的思考の仲間入りだ、と笑って梅酒をストレートで一気に飲み干すファヴニルの隣では、お湯で割った梅シロップを口にするヴィヴィア。ここ一週間でヴィヴィアは梅シロップの魅力に取り憑かれてしまった。甘く、しかしスッキリとしたどこか懐かしい味わいの梅シロップの魅力に気付いてしまったヴィヴィアだが、毎日飲まない程度の節度くらいは持ち合わせている。なお、家に帰ったら瓶と氷砂糖と梅を手に入れようとしているのでダメかもしれない。

 

「君の親友に興味が出たが会いたいとは思えないな」

 

「やつは今日本の鬼と殴り合ってくるとか言って日本にいるぞ」

 

 確か酒吞童子共と殴り合うと言っていたか、と親友の笑顔を思い出して笑うファヴニル。

 

「……喧嘩好きなのか?」

 

「いや、頭のいい蛮族なだけだ」

 

 土産に日本の酒を買ってくると言われたので楽しみにしているファヴニルは、親友が買ってくる日本酒に想いを馳せながら大広間でちょろまかしてきた料理を摘まむ。今回の料理は魚の蒸し焼きであった。臭みが完璧に消えており、ハーブの香りが食欲を促進させる素晴らしい出来栄えの料理と、わざわざ日本に行って学び、買い付けた梅と材料で漬けた梅酒。合わないはずがなかった。

 

「ところでアドワーズ。スリザリンが俺を襲撃するようになったのは、間接的にお前が原因なわけだが」

 

「ああ、それはすまないと思っている」

 

「いや、責めているわけではない。ただ疑問なのだ。お前の家は、そこまで凄まじい影響力があるのか?」

 

 たかが純血の一族というだけだろう、となんとなしに言い切ったファヴニルに思わず笑ってしまうヴィヴィア。純血であることを誇りに思っている者が聞けば、間違いなく不遜だと憤慨するであろう言葉は、ヴィヴィアにとって心地良いものであった。

 

「まぁ、な。……私の家の先祖は、創設者達────特にスリザリンに仕えていたとされる家なんだ」

 

「ほう」

 

「だから、ホグワーツに入るアドワーズ家はいつもスリザリン。そしてサラザール・スリザリンに最も近い純血とも言われている」

 

「だから、影響力も強いと?」

 

「その影響力は曾祖父の尽力によるものだ。血筋もあっただろうが……曾祖父の功績が大きい」

 

 銀色の髪を揺らし、誇らしげに微笑むヴィヴィアは続ける。

 

「曾祖父の功績と血筋……それと容姿だな。私達の家は全員美形で生まれる」

 

 そう言って見せてくれたのは、ヴィヴィアが常日頃から持ち歩いているペンダントの中身。

 家族写真であろうそれの中心で笑うのは、幼い頃のヴィヴィアだ。その両隣には影がある色男然とした紳士と、ヴィヴィアに似ている容姿の女性。その三人を中心に固め、アドワーズ家だけではなく家に仕えている者であろう者達もいい笑顔を浮かべている、素晴らしい写真である。虐げられた者がいないと分かる素晴らしい写真は、ファヴニルの目に素晴らしい宝物として映った。

 

「そんな家に生まれた私は、まぁ、見てくれは悪くないし、才能も……まぁある方だろう。そこに血筋と来れば、有象無象が集まってくる」

 

「お前が才能がまぁある方だと言ったら、この世界の半数以上が凡俗以下となるわけだが」

 

「謙遜と取ってくれ」

 

「謙遜も過ぎれば嫌味と傲慢だ。才能があるのなら誇れ」

 

 ただし誇りを驕りにはするな、と苦言を呈するファヴニルに頷くヴィヴィアは微笑みを浮かべる。

 

「とにかく、私達の家には見え透いた好意と下賤な思考の者が多く寄ってくる。血筋も、容姿も……上辺だけのものだというのにな」

 

 ヴィヴィアの話を聞きつつ梅酒を飲むファヴニル。他人の身の上話を酒の肴にして飲む酒はどんな味かと考えたが、そこまで美味いものだと感じなかったようだ。身の上話を語らせておいて感想が酒というのが、どこまで行っても最低な酒カスドラゴンである。

 

「ホグワーツでもそれは変わらないだろうと、どこか諦めていたんだが……何があるか分からないものだな。今、こうしているのは夢なんじゃないかと思う自分もいるくらいだ」

 

「薬水でも飲むか? 苦いから目が覚めるぞ」

 

「遠慮しておこう」

 

 瓢箪を差し出されたが、丁重に断るヴィヴィアに対して、ファヴニルはそうかと納得して薬水を懐に仕舞う。趣味の酒に関して何かされなければ結構聞き分けがいい方なのだ。

 

「君はどうなんだ、モルト。君の家の話は聞いたことがないから気になるんだが」

 

「俺か? 俺の家はまぁ……趣味人ばかりだ」

 

 毎日鍛冶仕事に明け暮れている者、庭の改造に明け暮れている者、畑の改良に明け暮れている者、喧嘩に明け暮れている者、裁縫に明け暮れている者、料理に明け暮れている者、研究に明け暮れている者、釣りに明け暮れている者、大工に明け暮れている者、魔法に明け暮れている者、武芸に明け暮れている者など、様々な趣味人がいるファヴニルの家。その全員がドラゴンやその力を宿したことでほぼ永遠と言えるくらいの寿命を獲得している人間である。

 

「まぁ、趣味人しかいないのは俺の家だけではないんだが」

 

「……君のような人が何人もいるということかい?」

 

「そうだな。俺は酒のことしか脳に無いが、俺の周囲もそういったやつが多い」

 

 朱に交われば赤くなるという言葉があるように、モルトキュール家を含めたファヴニルの住む故郷に婿に来た、嫁に来たなどの理由で入った者達は、最初の数ヶ月は趣味に生きる者達を見て愕然としたりするが、数ヶ月もすれば染まり切る。永遠に近い寿命の中で趣味の一つや二つ見つけなければおかしくなるというものだ。

 

「それは何とも……楽しそうだな」

 

「クハッ……。そうだな。退屈はしない」

 

「だが、趣味に生きるのなら、なぜホグワーツに?」

 

「ああ、俺の故郷では魔法界と非魔法界の両方を見て学ぶという教えがあるからな」

 

「それは、なぜ?」

 

「仮に魔法界で趣味を見つけられなかったとしても、非魔法界で見つけられるかもしれないだろう?」

 

 百年という時間を使って世界を知れ、足りないと感じたらさらに百年使って学べ────という言葉もあるのだが、ヴィヴィアが気付いているわけでもなし。まだ話す必要はないだろうと考えいるため伝えない。

 

「面白い考え方だな」

 

「そうして俺は酒の魅力に取り憑かれたわけだ」

 

「なぜそこに着地したのかは聞かないでおくよ」

 

 ファヴニルが酒に関することを話し始めたら止まらないというのはこの一ヶ月弱で理解していたので、突っ込むことを止めたヴィヴィアは間違いなく賢明な判断だっただろう。

 

「クリスマスにでも来るか?」

 

「いいのか?」

 

「ああ。俺の家の連中が全員お前について仔細を聞かせろとうるさいからな。来てくれるとありがたい」

 

 家の連中だけではなく、近所の連中も仔細を知りたいと言っていたため、ぜひ来てもらえるとありがたいと思うファヴニルの目はとても真剣な色を宿していた。仔細を語るか、連れてこないならば改造した吠えメールを送り付けるぞと言われていたからである。

 

「そこまで言われて断るのも悪いな。機会があれば是非行かせてほしいな」

 

「ああ、是非来てくれ」

 

 そこからは本当に毒にも薬にもならない会話をしながら休日の朝食を済ませる二人。大広間ではなく、別の部屋でこっそり食事をする、というどこか背徳的な行為は、11歳の少女にとっては堪らないものだったようで、休日はこうしてこっそりどこか別の部屋で食事をする機会が設けられることになった。

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