ホロライブライダーズ 不死身の闘牛(ザ・リメイク) 作:プロトタイプ・ゼロ
第十一話「何事のない日常」
アレだけの被害が起こった次の日、ホロライブシティは何事もなかったかのように平和が戻っていた。相変わらず仮面ライダー同時による戦闘はたびたび起こるものの、トータスジャマトなどの襲撃は起こっていない。いや、もしかしたらみんな忘れているだけかもしれない……たった一人の仮面ライダーがホロライブシティを守ってくれたことを。
「おはようございまーす!」
「おはようフブキ」
「あ、フブさん! おはようだにぇ」
今日も元気よくホロライブタワーにある練習室にやってきた白上フブキは、荷物を壁際に置いたあと昨日まで穴が空いていたはずのガラスを見る。
「あれ? 昨日仮面ライダーが降ってきた時に割れてませんでしたっけ? もう直ったんですか?」
「フブキ、何言ってるの? 仮面ライダーなんてここに降ってきてないよ? それに割れてもないし」
時間が止まったかのような錯覚に陥った。
仮面ライダーが降ってきていない? ガラスが割れていない?
何を言っているんだ、そう言いたかった。だが、ミオの顔は真剣であり、逆にフブキを心配する表情をしている。フブキの瞳が左右に揺れ動く。信じたくない現実から目を背けたくなる。
一歩一歩後ろに下がりながら、嫌なものから見ないようにするように首を振り、そして……
「あ、フブキ〜!?」
「え、フブさん!? どうしたのさ!?」
白上フブキは逃げ出した。スタッフや物にぶつかることお構い無しに。エレベーターに乗り、一階を目指す。荒い息を整えようと心臓の辺りに手を置き、強引に落ち着かせる。
「それでさ〜、日曜日のあとって絶対月曜日じゃん? もう嫌になっちゃうよね〜」
「しょうがなうわぁ!?」
一階についたエレベーターのドアが開くと同時に走る。その時ぶつかった誰かなんて確認する暇もなかった。
「いたた……今のってフブキ先輩?」
「だよねぇ? あんなに急いでどうしたんだろう?」
尻餅をついた火威青が埃を叩き落としながら立ち上がり、音乃瀬奏が近づく。二人して不思議そうな顔でフブキの去った方を見つめていた。
特に目的地も決めずにホロライブタワーから走ってきたフブキは、中央広場で立ち止まる。
「どうして、みんなそんな……なにも覚えてない顔して」
トータスジャマトがホロライブタワーを目指して歩いた時に潰れたらしい屋台や中央広場によく来る子供達。昨日の段階では大勢の子供達や大人、そして屋台が潰れてなくなっていたはずの場所には、いつも通りの世界が広がっていることに違和感しかない。
まるで――
「昨日のことがなかったみたい、に見えるか?」
突然後ろからかけられた声に、バッと後ろを振り向く。そこに居たのは裏千束だった。手には袋詰めにされた珈琲豆や食料などが入っており、買い物帰りなのが見て分かる。
「あなたは……喫茶店の」
「……黒、そう呼ばれている。そんなことより、こんなところでどうしたの?」
フブキの手を掴み強引に立ち上がらせ、瞼に浮かぶ涙を指で優しく拭き取る。人目が多い場所に有名人がいるから話を聞くのに適さない……そう判断した裏千束はフブキを連れて自分が経営している喫茶店「FlowerLove」に連れて行った。
休業という立て札を扉に置きフブキを適当な椅子に座らせ、珈琲を淹れたマグカップを2つ用意してから自分も向かいの席に座る。
「……」
「……」
気まずそうに視線を背けるフブキと、真っ直ぐフブキを見つめる裏千束。フブキが話し出すまで口を開こうとはしない。
数十分が経った。フブキはまだ話さない。フブキのために淹れた珈琲はすっかり温くなり、そのおいしさを失ってしまっている。裏千束は一杯目を飲みきってからはただひたすらフブキが話すのを待ち続けた。
正直なところ裏千束は我慢が得意というわけではない。むしろ苦手な方だ。だが、こういうときは相手のペースに合わせたほうがいいことくらいは知っている。だから待つ。
「……昨日のこと、あなたは覚えてますか?」
「昨日のこと?」
ようやく話し始めたフブキの口から出てきた言葉に、裏千束は可愛らしく首を傾ける。
フブキの口から説明された今朝の出来事。誰も昨日のことを覚えていなかったこと。なぜか自分だけが記憶していたこと。それらを聞き終えるまでの間、裏千束は真剣な瞳でフブキを見つめている。
「昨日……怪物が現れてましたよね。でっかい怪物が」
「……それが、お前が悩む原因か?」
「はい?」
ポカンと口を開けるフブキを見て面白そうに笑みを浮かべながら、椅子から立ち上がり珈琲のおかわりを淹れてカウンターに背中を預ける。
「確かに昨日、巨大な怪物……まぁ、ジャマトって言うんだが、そいつらが現れた。ジャマトは既に一人の仮面ライダーによって討伐されているがな」
一人の仮面ライダー、その単語に当てはまる人物をフブキは一人だけ知っている。なにより、昨日その姿を見て――
「あなたは覚えているんですか!? 昨日のことを!!」
「当然だよ。お前が知ってるかどうかは知らないが、デザイアグランプリにはあるルールが存在する」
「ルール……?」
「そう。そのルールとは『デザイアグランプリの退場者は他の人達の記憶から消滅する』というものだ。まぁ、これは仮面ライダーの変身者から記憶が消えることはないが、逆に言えば仮面ライダーじゃない奴らの記憶からは退場者のことが消えてなくなる。ついでにジャマトなどの仮面ライダーに関係することで破壊された日常は次の日になればもとに戻る」
そこまで説明されて理解できないほどフブキは仮面ライダーについて疎いわけではない。机をバンと叩きながらフブキは立ち上がる。
「じゃ、じゃあ……あなたも仮面ライダーなんですか!?」
「そうだね。私も仮面ライダーの一人だよ」
「でも、白上は……白上は仮面ライダーじゃない、です」
落ち込むように椅子に座り黒い珈琲を見つめる。
「そう、不思議な所はそこだよ。お前は私たちとは違い、デザイアグランプリに参加する仮面ライダーじゃない。だから本来なら他のヤツらと同じく昨日の出来事は忘れてないといけない」
珈琲を一口飲みマグカップを机の上に置く。
「昨日、なにを見た?」
「え?」
「お前が落ち込んでいる理由はそれだけじゃないはずだ……見たんだろ? 人が消滅するところを」
「……はい、見ました。道長くんが、青い光に包まれて消えるところを」
フブキの口から放たれた退場者の名前に、裏千束も驚いたように目を見開いた。
「そうか……アイツにはちょっと期待してたんだがな」
心の底から残念そうにそう呟く。勝手に期待していたことは裏千束にもわかっているし、それが理不尽であることも理解している。拳を強く握りしめ、天空都市メサイアを睨みつける。
仮面ライダーに選ばれた転生者の中には狂ってしまった人間も存在する。神々の悪意ある行いは、人の人生を平気で狂わせる。それがどれだけ理不尽なのかを理解していない。
「クソッタレが……」
「白上はこれからどうしたらいいのでしょう……?」
「普通に生活してりゃいい。特別な方法を使わねぇ限りはお前が仮面ライダーに選ばれることはないからな。それと、歪んだ時間を覚えていられるのがお前だけなら、他の奴らと話を合わせたほうがいい」
「それは……そうですけど」
目の前で人間が消滅する瞬間を目にしてしまったその心には深い傷が残っている。それは恐怖となりフブキの心を縛り付ける。
それは深くドロリとした闇になる。
【もう少しだ。もう少しの辛抱。そしたら私が表に出られる】
〜〜〜???〜〜〜
生い茂った木々が無数に広がる大きな植物園のような空間――ジャマーガーデン。庭園の外は森に包まれており、辺り一面に標識や車、建物だった何かの瓦礫が散らばっている。
ジャマーガーデンにある建物から出てきた老人が溢れる汗をタオルで拭き取る。
「ふぅ……今日も生きのいい肥料が流れてきてよかったよぉ」
老人の手にはひび割れたライダーIDコアが多数あった。その中には牛のマークが付いたものも存在する。
「全くぅ……これをうちに送るときはひび割れた状態ってクロスちゃんに言ってあったてしょうにぃ。なぁんでバラバラにしちゃうかねぇ?」
ジャマーガーデンに届いた当初は粉々にしてあったライダーIDコアを、この老人がなんとかひび割れ状態にまで直し、そして休憩するために外に出てきたのだ。
「およ? およよ?」
そんな老人がふと周りを見渡した時、近くで誰かが倒れているのを発見した。急いで近づき安否を確認する。
「まだ生きてる……ここに送られてきて死んでないとは奇跡だなこりゃあ」
倒れていた人物――芙蓉道長を背負った老人は息を切らしながら建物の中へ運んでいった。
〜〜〜不思議な城のある森の中〜〜〜
少年――常闇守は目を覚ました。にじさんじの世界でロード・バロン、仮面ライダークローズ、仮面ライダーブレイズと戦闘を行っていたところまでは記憶している。だか、その音の記憶が皆無だった。
誰かに助けられたのか? そう考えたがあの世界に守以外で仮面ライダーや怪人対抗できる存在などいないことは確認済みだったし、自分以外の仮面ライダーや怪人がいないことも分かっていた。ゆえにその線はありえない。
深く考えようとして頭の奥がズキッと痛み始めた。
「ここは、どこなんだ?」
自分が寝ていたベッドから降り辺りを見渡す。ベッドと机、そしてタンス。それしかこの部屋には存在していなかった。あまりにも殺風景としすぎてはいないかと思った。守でさえも部屋は普通に整理整頓しているし、壁にある本棚とかには自分が興味のある神話や考古学関係の本がびっしり並んでいたりする。
「まぁ、さっさと出るか」
幸い扉には鍵がかかっているわけではなかった。ドアノブを回せばあっさり開いた扉。外は少しボロついた廊下を歩き、穴の開いた個所から外へ出る。
誰もいない静かな場所。荒らされた花。遠くに見えるのは巨大で不気味な森。その近くには茨で囲まれた大きなお城。誰かが住んでいるとは到底思えないと思った守は、人の多そうな方へ歩いていく。
「ここは、本当にどこなんだ……?」
起きたばかりで十分に動けない状態でありながら、なんとか森を抜ける。数日をかけて広大に広がる緑地を抜ければ、これまた巨大な壁に囲まれた巨大都市。
守がこの時まだ知らないが、この巨大都市こそクロスギーツにより開催されたデザイアグランプリの中心とも言え、クロスギーツが拠点にしているホロライブ世界なのだ。
少しボロついた服装をしていることから、なぜか番兵からは同情と憐れみの視線を向けられながら入ることを許可される。ホロライブシティは大勢の人で賑わっており、笑顔溢れる街だと思えた。だが、守にはその日常に少し違和感を覚えた。
どんな違和感なのかと聞かれると答えづらいことではあるが、確実に何か違うと思える。そう思いながら歩いていると、近くで女性の悲鳴が守の耳に届く。思わず走って向かってみると、そこには奇妙な姿をした怪人が、紫色の長い髪をツインテールにした美少女――常闇トワを襲っているところだった。
それを見た瞬間、守の腰にどっからともなく飛んできたドライバーが巻き付き、怪人に向かって飛び蹴りを食らわせる。突然怪人が吹き飛ばさ目をパチクリさせているトアを見る。
「姉さん、大丈夫?」
「は? え、誰……?」
トアが守に疑問をぶつけたその瞬間、吹き飛ばされた怪人――ポーンジャマトが怒り狂ったように足踏みしている。それを見て守はドライバー――リーパードライバーの中央部分であるサーガオーブセッターに宝玉のような見た目をしたハデスサーガオーブをセットする。
リーパードライバーから独特な待機音が流れ、ドライバーの右側についている鎌――リーパーサイスを下ろす。するとリーパーサイスがハデスサーガオーブを半分に切る。
「ハデス、変身」
守の周りに黒い嵐のような風が舞い上がって包み込む。黒い風で見えなくなった場所に二つの複眼が輝くと黒い嵐が真っ二つに斬り裂かれ、中から冥王と呼ぶのに相応しい見た目をした仮面ライダーハデスが姿を現した。
「うぇえ!? 仮面ライダー!?」
トアが後ろで驚くのを無視してハデスに変身した守は、殴りかかってきたポーンジャマトの拳を避けカウンターを食らわせる。重い拳が思いっきり腹に当てられたポーンジャマトが痛そうにうめき声を上げながら後ろに下がる。その後突然大声で何かを叫んだ。
「なに……?」
ポーンジャマトの叫びにより、至るところから同じ姿をしたポーンジャマトが現れる。まるで痛めつけられた仲間を助けに来たように。中にはジャマトライダーに変身した個体も何匹か存在していた。
「これは……ちょっと分が悪そうかな」
仮面の下で若干冷や汗をかきながらポーンジャマトを一体ずつ倒していく。時々襲ってくるジャマトライダーの攻撃を紙一重で躱しながらカウンターを決め、変身に使われているジャマトレイズハマックルとデザイアドライバーを破壊する。
今現在ハデスが変身できる形態が基本フォームであるスタンダードモードしかないため、多数との戦闘に苦戦を強いられている。
「ちょ、来んなってマジ!!」
「姉さん!! くっ……邪魔だ!!」
目の前でジャマをするジャマトの一体を殴り飛ばし親愛なる姉を守るべくトアの前に立ち、自らを盾にする。ジャマトの攻撃からトアを庇いながらなんとかジャマトライダーを撃破すると、息切れを起こしながら膝をついた。
「ちょっと大丈夫なの!?」
「大丈夫……それより、その首飾りにつけてる奴をちょっと貸してほしい」
「え、これ……? なんのためにさ?」
「この状況を打破するために」
そう宣言する言葉に嘘はなかった。あとはトアが守を信じてくれるかどうかだけの賭けに等しい。だが、その賭けは守の勝ちだ。
「いいよ、ちょっとだけだかんね!!」
獅子の紋章が入った黄色い宝玉のような玉を受け取ったハデスは立ち上がるとハデスサーガオーブをリーパードライバーから抜き取り、受け取った玉――「ネメアの獅子」のサーガオーブをリーパードライバーにセットする。
リーパードライバーから半透明の獅子の姿をしたオーラが出現し、ハデスの周りを走り回る。その際に攻撃判定が入っているのかジャマトの群れを蹴散らしていく。
リーパードライバーから独特な待機音が流れ、ドライバーの右側についている鎌――リーパーサイスを下ろす。それによりリーパーサイスが「ネメアの獅子」のサーガオーブを半分に切る。すると半透明な獅子のオーラがハデスを飲み込む様に一体化してフォームチェンジを完了する。
見た目はほぼ変わらないが顔に獅子のような鬣が追加される。仮面ライダーハデス・ネメアモードへとフォームチェンジした瞬間辺り一面にオーラを放ちジャマト達を一瞬だけ威圧する。それはまさしく百獣の王が現れたかのように。
ゆっくりと歩き出したハデスは次第に歩きから走りに変更し、ジャマトの群れを蹴散らすように倒していく。殴りかかってきた最後のジャマトライダーの拳を手のひらで受け止めその胴に蹴りを放つ。
吹き飛ばされたジャマトライダーが他のジャマトを巻き込みながら爆破される。その光景を見たトアは小さく「強くね?」と呟いた。
ある程度数を減ったのを確認すると、ネメアモードからスタンダードモードに戻る。
「大丈夫?」
「え? あ、うん……大丈夫だけど」
「そうか、よかった」
周りを見れば自分以外の仮面ライダーたちがジャマトと戦闘を行っている。黒い龍を従えた黒騎士や、盾を持った仮面ライダーなど……それを見てハデスはトアを連れてその場から立ち去る。
人気のない裏路地にやってくると変身を解き、「ネメアの獅子」のサーガオーブをトアに渡す。
「はいこれ」
「え、でも……確かにちょっとだけって言ったけど」
「これは姉さんのだろ? だったら返すよ」
「そうだけど、というか姉さんって……あれ?」
受け取ったサーガオーブを見てからずっと呼ばれ続けていた呼び方について聞こうと顔を上げると、さっきまで一緒にいたはずの守はいなくなっていた。
まさかお化けか? と顔を真っ青にしながら走り去っていくトアの姿を建物の上から眺めていた守は、元気そうなトアを見て少しだけ笑う。
「君が俺の知る世界の姉さんじゃなくても、俺にとっては姉さんだよ」
そう言い残して守はその場から去っていった。
それから暫くしてジャマトの群れは殲滅された。
「思ってた以上にいなかったな」
「だねぇ……もっといるのかと思った」
先程まで戦闘を行っていたリュウガとオシリスの二人は、大量発生したはずのジャマトが少ないことに疑問を抱きながら変身を解除する。
「あ、そうだ……これやる」
「えぇ!? ちょ、うわわわ」
変身解除と同時にオシリスに変身していたユメに何かを放り投げるように渡す。それをユメは落とさないように慌てながら受け取ると、受け取ったものは、大盾を前に構えた騎士の姿を模したレイズバックルだった。
「これ……」
「前拾ったんだ。私には必要ないからお前にやる」
「でも、いいの?」
「デザイアドライバーにしか認証しないものを私が持ってても宝の持ち腐れだろ」
「ありがとう!!」
「ちょ、お前抱きつくなっ!!」
ユメは満面の笑みを浮かべながら裏千束に抱きつく。モガモガと暴れながら裏千束が青筋を浮かべている。少ししてから拳骨を落とされて涙目をなりながら頭を痛そうに抱えるユメと、拳が真っ赤に染まって痛そうに息を吹きかけている裏千束がいたのだった。
〜〜〜どこかのオーディエンスルーム〜〜〜
様々なお菓子で溢れかえったオーディエンスルーム。そのソファに足を組みながら座りお菓子を食べている美少女がいた。ピンクと白のメッシュが入った黒いロングヘアーにオッドアイで赤・黒のゴスロリチックな衣装に身を包んでいる。
「感謝してよねミッチー。アンタが死んだらるし――アタシが困るんだから」
全体的に黒とピンクで装飾されたオーディエンスルームで優雅にお菓子を食べていた少女は、食べ終えた袋を地面に放り捨てると大きく伸びをしながら立ち上がる。
「さぁて、アタシも行こうかな〜……ふふ、推しの姿を拝みにね」
少女は妖しい笑みを浮かべながらオーディエンスルームから消える。その目的がなんなのかは、今のところ不明である。
どうだったでしょうか?
良ければ感想などくれると嬉しいです!
それではまた次回!