とある世界で魔王が倒された。それにより世界に平和が訪れて、今日も今日とて平和を満喫していた。国の名は【ビックベル】、そこはロンドール大陸にあり釣鐘型の市壁に囲まれた街。平和が続いて様々な種族が住み始め、街に活気が溢れ返っている。これは、ある冒険者ギルドの職員の英雄譚である。
冒険者ギルド、それはベテランから新米の冒険者が集い、生活の糧となる場所。だが、彼の職場でもある。短髪で光沢のある金髪の髪色に青い瞳。冒険者ギルドの制服でもある黒いベストに白いワイシャツと赤いネクタイにズボンを綺麗に着こなして今日も様々な冒険者達の受付の対応をしていた。
「はーい、ゴーレムの討伐ですね。参加人数は……5名で宜しいですか?」
青年はチラッと冒険者達を眺めた。
魔法剣士、
この世界の冒険者達は、年齢、性別、出身地の他に、冒険者職は満18歳を迎えるとギルドが発行する【冒険者ライセンスカード】に記された★0〜10に分けられる。職業昇格試験で分けられ、例えば、【★5の戦士】の冒険者がいれば5回昇格試験を合格しているので★5までの討伐クエストのモンスターを討伐出来る実力があると認められ、昇格試験に合格すれば冒険者ライセンスカードが更新される。★10以上は伝説級の冒険者とされており、かつての魔王を倒した勇者などが伝説級冒険者だ。言わずとも、0は最下級で駆け出しの新人冒険者とされる。
青年は何の不安も感じる事は無かった。
「はいっ、受注完了しました!」
青年はクエストの依頼書にハンコを押して満面な笑みを浮かべる。冒険者のパーティーの魔法剣士がクエストの依頼書を受け取ると。
「キッドさん、いつもありがとうございます!必ず、ゴーレムを討伐して来ますね!」
「はいっ!クエストの期限は1週間です。皆さんのご武運をお祈り申し上げます。行ってらっしゃい!」
笑顔で送り出すと、冒険者達はギルドを出てゴーレムの討伐に向かって行った。キッドはすぐさま次の冒険者を対応する。
「次の方どーぞー」
キッドが手を挙げて次の冒険者の受付を始める。
「ういっーっす、このクエストお願いしまーす!」
「はーい。クエストの依頼書をお預かりしますね」
クエストの依頼書を確認する。
「えーっと……あれ?すいません、代表の方ちょっと良いですか?」
「あっはいっ!なんですか!?」
キッドはクエストの依頼書の記入漏れを見付け、指をさしながら代表の冒険者に優しく教えた。
「ここなんですけど、クエストの参加人数が記入されてませんし、【武器所持許可証】が人数分提示されていませんよ?」
「あー!すいません!今書きます!」
若い冒険者達は許可証を出し合い、慌てて記入をする。その間、キッドはパーティーメンバーとライセンスカードと【武器所持許可証】を観察していた。武器所持許可証がないとクエストに行く事は許可されない。そして、所持武器登録をしないと武器が買えない。
冒険者ライセンスカードは★0、見た目も全員新米の冒険者。
「すいません、これで良いですか!?」
「あっ、確認しますね……はい、大丈夫です。クエストはゴブリンの討伐です……ね?」
キッドはクエストの依頼書を確認しながら新米冒険者達を眺める。
剣士、剣士、槍使い、魔導士……。★も0、お世辞にもパーティーバランスは悪い。それにそれぞれ持ち合わせがなかったのか有り合わせの装備。
精一杯の優しさを込めて、キッドは新米冒険者達に話しかけた。
「あの、本当に大丈夫ですか?皆さん★0の新米冒険者の様ですが?」
「えっ?ゴブリンくらいなら俺達でも大丈夫ですよっ!」
「そうですよ!雑魚のゴブリンに殺られたりしませんって!」
「そうですか……一応警告します。ゴブリンは洞窟内の戦闘に長けているのでゴブリンだからと言って甘く見ない事をオススメします」
先程の笑顔での対応とは打って変わり、キッドは真顔で新米冒険者に注意を促した。
だが、新米冒険者達は……。
「大丈夫ですって!心配し過ぎですよ!」
「忠告しましたからね?クエストの期限は5日です。5日以内に戻って来ない場合はクエスト失敗及び遭難者扱いと見なされますので気を付けて下さい」
「了解っす!」
若い冒険者達は意気揚々とギルドを出て行った。キッドはニコニコと手を振って送り出した途端、真顔になり呟いた。
「こりゃ全滅だな」
ジリジリ!!
突如、【魔導話】が鳴り響く。魔導話というのは、音声を魔力に変え、離れた場所に伝達し、これをふたたび音声に戻すことで、相互に通話できるようにした通信が出来る魔導具だ。キッドは受話器を取った。
「はい、冒険者ギルド職員のキッド・ウォーカーです」
《キッドさん、ギルドマスターのロジャー・ハンセンがお呼びです》
受話器の相手はギルドマスターの秘書からだった。
「はい、分かりました。今行きます」
チンと音を立てながら受話器を戻し、受付のカウンターに『不在中』と木札を立てて冒険者ギルドの2階にあるギルドマスターの部屋に向かった。キッドはドアをノックした。
「キッド・ウォーカーです」
「入りたまえ」
ガチャッとドアを開け、中に入った。部屋の壁には、手入れの行き届いているサーベルが飾られており、その前にはドワーフ族の男性がソファーに偉そうに座りながら年季の入ったを剣を磨いていた。ギルドマスターは
「お疲れ様です、ギルドマスター。要件と言うのは?」
「立ち話もアレだ、とりあえず掛けたまえ」
「はい。失礼します」
キッドはギルドマスターに言われ、一礼してからソファーに腰を下ろした。ギルドマスターの顔を伺った。
「実はね【ギルド協会】から【新大陸フロンティア】への派遣が決まってね?」
【ギルド協会】というのは、ロンドールの他に、世界各国に存在している冒険者ギルドの組織である。【新大陸フロンティア】は、ロンドール大陸から西へ向かって海を挟んだ【未開拓の大陸】だ。
「派遣ですか?なら冒険者に通達しなければならない事ですよね?」
「いや、派遣と言っても今回はちょっと違うのだよ」
「違う?」
キッドが首を傾げると、ギルドマスターは葉巻の火を消してソファーから立ち上がり、窓に近寄りながら話し始めた。
「ギルド職員は長く務めていると【知識】が培ってくる。それにより、ギルド職員は見送った冒険者が生きて戻ってくるか、又は帰らぬ人になるか見抜く事が可能と言う」
キッドはうんうんと頷く。
「キッド・ウォーカー君。私が何を言いたいのか分かるかね?」
「そうですね……冒険者が関わらないという事は『辞令』ですか?」
そう答えると、ギルドマスターは「ガハハ」と笑った。
「流石は我が【冒険者ギルド・ビックベル支部】随一の知識の持ち主だ!話しが早くて助かるよ!」
「まさか、僕に行けって事ですか!?」
キッドは青ざめながらテーブルをバンと叩いた。
「まぁ、遠からず近からずって所だね」
「無茶言わないで下さい!ただでさえビックベルから出た事もないのに!!」
「まぁまぁ、話ぐらい聞きたまえ」
「聞くだけですからね!?それで?新大陸で何をすればいいんです?」
「うむ。では、本題に入ろう。魔王が倒されてから数年経ち、仕事が激減した冒険者達が一山当てる為に海を渡って開拓事業に勤しんでいる。だが、新大陸はロンドール程法律が未だに知れ渡っていない無法地帯の大陸なのは知ってるね?」
「ええ、まぁ……はい。新聞で読んだ知識程度ですけど……。それで、冒険者でもないギルド職員が新大陸に行って何をするんです?」
キッドが首を傾げると、ギルドマスターは真剣な顔つきになり、話し出した。
「ふむ、単刀直入に言おう、キッド・ウォーカー君。君には【新たに開発された新しい職】に就いて貰いたいのだよ」
「開発された職……えっ!?僕がジョブチェンジしろって事ですか!?」
キッドはテーブルを再びバンと叩いてギルドマスターに意見した。すると、ギルドマスターは「まぁまぁ」となだめる。
「そう、君が戦闘経験やクエストの経験が皆無なのは重々承知だ。だが、冒険者にはないモノを君は持っている」
「冒険者には……ないモノ……?」
「それは君の武器でもある知識さ。モンスターの生態や、冒険者の下級職から伝説級職までの一つ一つの役割能力を熟知している。ベテラン冒険者ならそれも可能だが、伝説級冒険者になったのはほんのひと握りのみ。そこで伝説級冒険者の次に知識の豊富なギルド職員に白羽の矢が立った」
冒険者にクエストの情報を提供しなければならないから冒険者ギルド職員は伝説級冒険者並の知識がないと務まらない。
「ちなみになんだがキッド君。君は冒険者の職に関してどれくらいの知識があるのかな?」
「冒険者の職ですか?えーっと、前衛職だと戦士、剣士、武闘家、魔法戦士、魔法剣士、騎士、剣闘士、冒険者、聖騎士。中衛職は槍使い、竜騎士、重剣戦士、精霊戦士、ネクロマンサー、盗賊。最後に後衛職が魔導士、神官、賢者、シールダー、レンジャー、弓使い、狩人、霊幻道士、魔物使い。絵本にまでなった伝説級冒険者はさしずめ、勇者とその仲間達って所ですかね?」
キッドが淡々と答えると、ギルドマスターはうんうんと頷いた。
「流石はキッド君。噂にたがわぬ素晴らしい知識だね!」
「恐れ入ります」
「ちなみになんだが、【特殊職】は?」
特殊職というのは、商人や鍛治職人などを指す職で冒険者や住民にサービスを行う職である。
「特殊職は商人、薬剤師、医者、大工、治療師、鍛治職人、料理人、合成技師です」
「その通り。その特殊職に新たに開発された職が追加される」
「それで?その新しい職というのは一体?」
キッドが首を傾げてギルドマスターに尋ねると、ギルドマスターはコホンと咳払いをして、
「では、発表しよう。新たに開発された職は、【保安官】だ」
「ほ、ほあんかん?」
「保安官とは、犯罪を犯した冒険者達を取り締まる職だね」
「え?なら、モンスターと戦ったりはしないんですか?」
「主に保安官は冒険者を取り締まるのが仕事だからね、滅多にない」
キッドはその言葉を聞いて一安心した。そして、そのままギルドマスターに恐る恐る尋ねた。
「そ、それで僕にどうしろと言うのですか?」
「キッド君、是非君にその保安官になって貰いたいのだ」
「えっ••••••えぇ〜!?」
キッドは上ずった声を出してしまった。