グレン連邦保安官が現場に到着すると、川の周辺は慌ただしくなった。応援に駆け付けたジェシカ保安官とロッキー保安官は鼻をつまみながらキッドに話しかける。
「すげぇ臭いだな。こりゃ1週間は経ってるな」
「この暑さだ、腐敗も進んでる」
「応援感謝します。ジェシカ保安官、大丈夫ですか?」
ジェシカ保安官は犬の獣人の為鼻が利く。なのでキッドの数倍の嗅覚で腐敗臭を感じてる為ジェシカ保安官は涙目になりながらも堪えていた。ジェシカ保安官はキッドに現場捜査を早めに終わらせるように催促する。
「ほら、さっさ回収しろよ。後は指紋取るだけだろ?」
「はい、直ぐに」
「オースティンは?どこ行ったんだ?」
ロッキー保安官が辺りを見渡しながらオースティン保安官を探す。キッドはグレン連邦保安官の方に指を差しながら答えた。
「オースティン保安官なら今グレン連邦保安官に報告してます」
「あー、無理。あたしらは上に上がるよ」
「初めての死体がバラバラとはな……頑張れ」
ジェシカ保安官とロッキー保安官が法面を上がると、上からグレン連邦保安官がキッドを呼んだ。
「キッド!」
「はいっ、なんですか!?」
「仏さんを引き上げろ。そのまま事務所の検査室に運んでくれ」
「分かりましたー!」
キッドは他の保安官と共に麻袋を引き上げ、荷馬車に積んで保安官事務所の地下室に運んだ。事務所の地下には死体を安置する所があり、クエストで死亡した冒険者や殺人で殺された人の身元を調査する場所である。キッドが奥に進むと、煌々とランプの明かりで照らされた一室がありその中には白衣に身を包み、茶髪でポニーテール。スラリとした人間族の女がいた。
「ご苦労さま。そこへ並べてくれる?」
「はい」
キッドが麻袋から丁寧に並べていくと、白衣の女が声を掛けて来た。
「あなた初めて見る顔ね。名前は?」
「名前ですか?キッド・ウォーカーといいます」
「キッド君ね。私は【フィオナ・マックイーン】。コルト地区で医者をしてるの。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
キッドとフィオナ医師が挨拶を軽く済ませると、早速仕事に取り掛かる。
「さっそくだけど、これはモンスターの仕業ではないのは確かね」
「はい。グレン連邦保安官から指紋を採取してこいと言われたんですが」
「どうぞ?腐敗が進んでるから取れるか分からないけど」
フィオナ医師に皮肉を言われながらもキッドは切断されている腕を取り、指を広げて石版に乗せると指名住所、顔写真が1枚の用紙で石版の脇から出て来た。キッドは紙を取り名前を確認した。
「えーと、名前は『エノノア・ピジョン』ハト系鳥人。年齢は25歳、女性。住所はコルト地区28番地……『レストラン・ハーピィ』というレストランになってるな……という事は、このレストランに行けば……」
「何か分かるんじゃない?」
「はい、では行ってきます」
1階に上がると、丁度よくグレン連邦保安官が廊下を歩いていた。キッドは駆け足でグレン連邦保安官に声を掛けた。
「グレン連邦保安官。指紋採取をした結果、身元が分かりました」
キッドが書類をグレン連邦保安官に手渡すと、グレン連邦保安官は目を凝らして見つめる。
「エノノア・ピジョン……冒険者じゃなかったのか」
「店の身内なのは確かですね」
「よし、今からオースティンと一緒に聞き込みをして来い」
「了解しました」
グレン連邦保安官と別れて再び愛馬のビリーの元へ行くと、既にオースティン保安官が馬に乗って待っていた。オースティン保安官は全てお見通しなのか、キッドが言う前に言い出した。
「聞き込みに行くんだろ?」
「えっ、なんで分かったんですか?」
「身元が分かったからここに来たんだろ?すぐ分かる事さ」
「はい。場所はコルト地区の28番地のレストラン・ピジョンです」
「分かった、行くぞ」
───────数分後。目的のレストラン・ピジョンに着いたキッドとオースティン保安官はレストランの近くに馬を繋ぎ、スイングドアを開けて中に入ると、大勢の客で賑わっていた。
「満員ですね」
「飯時だからな。さて、従業員はどこだ?」
キッドとオースティン保安官が辺りを見渡すと、ハト系鳥人族の女がエプロンを付けて接客をしていた。オースティン保安官は近付き、金バッチを見せて声を掛けた。
「お忙しい中失礼。俺はオースティン・トンプソン保安官。こちらはキッド・ウォーカー保安官。失礼ですが、エノノア・ピジョンさんの事で少しお話があるのですが?」
「えっ……エノノア?すいません、私は昨日から働き始めたので誰か分からないです。店長をお呼びしますか?」
「出来ればお願いします」
「はい、店長〜!」
女性店員が呼ぶと、店の奥から店の名前から似合わないカバ系の獣人の男性が大きな包丁を片手にノシノシと現れた。キッドとオースティン保安官の身長を遥かに越えていた為、2人は口を開けながら見上げた。
「これはこれは、店長がまさかの獣人族とは」
「ええ……ハト系の鳥人族が出て来ると思ったんですがね……」
思わず本音を漏らしてしまった。だが、カバ系の獣人の男性は普段から言われ慣れているのか、ヘコヘコと頭を下げる。
「よく言われます。あっしは料理が好きなので種族はこだわらないんで」
「早速だが、旦那にエノノア・ピジョンについて少し話があるんだが?」
「エノノア?えぇ、分かりました。こちらへ」
カバ系獣人族の店長が包丁を置いて別室に案内した。ギシギシと椅子を音を立てながらオースティンとキッドが話し始める。
「実は先程、エノノア・ピジョンさんが遺体で発見されました」
「……えっ?エノノアが!?」
「お気の毒に……お気持ちをお察しします」
理解が追い付かなかったのか、カバの獣人は少し間を置いてからオースティンの言葉に反応した。キッドは慰めの言葉をかける。オースティン保安官は優しい声で聞き込みを始めた。
「エノノア・ピジョンさんはいつから欠勤を?」
「エノノアは確か、シフト表だと先々週の週末まで出勤しています。無断欠勤し始めたのは先週からです」
カバ系の獣人の店長はシフト表を調べながらオースティン保安官の質問に答える。
「エノノアさんは誰かに恨まれたり、トラブルを抱えてたりとかはありませんでしたか?」
キッドがメモを取りながら質問をするが、カバ系の獣人の店長は首を横に振る。
「いえ、彼女は店でも評判の良い子でしたから特に恨まれたりはしないはずです!」
「そうですか……」
キッドと店長のやり取りを見ていたオースティン保安官は何かを悟ったのか、早々と聞き込みを切り上げた。
「お忙しいところすみませんでした。何か思い出したらご連絡ください」
「いえ、なら折角ですからウチの自慢のシチューでも食べて行きませんか?バイトの子に作らせたんですが?」
店長が立ち上がろうとした時キッドが答えようとした瞬間、オースティン保安官がキッドの口を黙らせて代わりに答えた。
「いえ、お気持ちだけで結構。我々は今勤務中ですから」
「そうですか……」
キッドとオースティン保安官が店から出て馬に跨ると、オースティン保安官がキッドに声を掛けた。
「若いの、この事件どう思う?」
「どうって……どう見てもあの店長が怪しいと思いますよ?種族差別するつもりはありませんが、鳥人族の店に獣人族が働いているなんてなんだか不思議です」
キッドが得意気に推理すると、オースティン保安官が顔をしかめた。キッドはその変化に反応して、
「何か間違えてますか?」
「いいか若いの?人は見た目じゃないってもんだ。別に獣人が鳥人の店で働いて何が悪いってんだ?」
「いや、悪くはありませんが……オースティン保安官はもう目星を付けたんですか?」
「まぁな、奴さん恐らく今夜にでも動き出すぞ」
「どうしてです?」
キッドが首を傾げるとオースティン保安官が得意気に髭を弄りながら、
「今日俺たちが来たから焦って逃げ出す筈だ」
「まさか、魔法で証拠を消すかも知れないのに?」
「いーや、これは素人の犯行だ。冒険者なら死体をわざわざ残す意味が無いからな」
「なるほど……」
「今夜は長くなるぞ、グレン連邦保安官に連絡しておこう」
───────その晩。キッドとオースティン保安官はレストランから50メートル程離れた物陰からレストランを監視していた。
「もうすぐ0時になりますね、夜勤の保安官にも連絡しましょうか?」
キッドが双眼鏡当てながらオースティン保安官に尋ねると、タバコに火をつけて一服しながら答えた。
「もう連絡したよ。他に事件が起きたら優秀な保安官がいるから安心しな」
「優秀?夜勤専門の保安官がいるとでも?」
「ああ、日勤に出れないから夜勤のみに出勤してる」
「そんな人が居るんですか!?」
キッドが驚きながら尋ねるとオースティン保安官は言いづらそうに、
「ま、まぁ……そのうち夜勤を経験しなきゃねぇから嫌でも会えるさ」
「え?なんですかその言い方……。気になるんですけど……」
ぐわぁぁぁっ!!
突然、真夜中に叫び声が響いた。しかもその叫び声はレストランから聞こえて来た。
「ほーら動きがあったろ?」
「逃げ出すって言ったじゃないですか!」
「そこは予想だ。ほら、行くぞ!」
オースティン保安官はタバコを投げ捨て、キッドと共に馬で急行する。2人はピースメーカーを抜きながら窓を覗くとそこには……椅子に拘束された店長とその前にはハト系鳥人族の女性が手に包丁を片手に立っていた。店長は包丁で体を切り裂かれたのか、体中から血を流していた。
「あれは昨日から入ったっていうアルバイトの!?」
「やっぱりあの娘さんが嘘を付いてた見てぇだな。俺が気を引き付けるからお前さんが裏口から入って無力化しろ」
「了解」
オースティン保安官が立てた作戦で動き始めた。オースティン保安官はドア越しに声を掛けた。
「保安官だ。お嬢ちゃん、それ以上罪を重ねるな」
「うるさいっ!こいつが悪いのよっ!安い給料でこき使うから!」
「気持ちは分かる。だけど店長を殺したっていい事にはならねぇぞ?それに、エノノアさんだって浮かばれないんじゃないか?」
ベテランらしくオースティン保安官が説得するが、更にヒートアップし始める。
「浮かばれるですって?あいつがこいつに色目使って給料上げようとしたからよっ!だからバラバラにしてシチューに混ぜてやったのよ!」
「おやおや……食わなくて正解だったわ。さぞムカついただろうな……けど、これ以上罪を重ねるな」
「知ったこっちゃないわっ!死ね、このクソ野郎がっ!」
アルバイトの鳥人族の女性が包丁を振りかざした瞬間。裏口から侵入したキッドが発砲して包丁を弾き飛ばした。すかさずキッドが取り押さえた。
「貴女を殺人未遂と監禁の容疑で現行犯逮捕します」
「ちくしょうっ!ちくしょうっ!」
「良くやった」
「いえ、オースティン保安官が気を引き付けたからですよ」
「まぁな。こちらオースティン保安官、治療師を牢竜車を要請する」
《了解。直ちに向かわせます》
オースティン保安官が魔線機で牢竜車を要請すると、店長の拘束を解いたキッドの腹の虫が鳴き始めた。
「腹減りましたね。自慢のシチューでも食べたいですよ」
キッドの言葉に店長とオースティン保安官が顔を見合せて、
「い、今夜はいや止めとけ」
「え、ええ。止めといた方が良いですよ」
2人は慌てて止めた。