荒野の国にまた朝日が上り、今日も今日とてキッド達保安官の仕事が始まった。その日の昼休みに、キッドは武器屋の展示品を子供のように眺めていた。展示品には「保安官専用」と立て札が置かれていた。キッドが眺めているのは、最近開発された【レバーアクション型散弾銃】という散弾銃だった。新型の散弾銃とは、レバーアクションライフルの方式を採用した珍しい散弾銃であり、ウェスタン国で初めて改良に成功した【連発式散弾銃】と言われている。
「キッドのあんちゃん、もう昼休み終わっちまうんじゃないのか?」
「あと5分ありますから!お構いなく」
「お構いなくじゃねぇよ。商売の邪魔だって遠回しに言ってるの伝わらないかな?」
「邪魔なんかしてませんよ!ただ見てるだけじゃないですか!」
「それが迷惑だって言ってんだよ!そんなに欲しけりゃ買え!」
武器屋の店主が怒鳴り散らすと、キッドは開き直った様に言い返す。
「お金が足りないんですよ!60万ゴールドですよ!?冒険者の武器ならオリハルコン製の大業物が買える値段なんですよ!?」
「だったらもうちょい金貯めてから来やがれ!毎日毎日鬱陶しいんだよ!保安官呼ぶぞ!」
「僕だって保安官ですよ!」
「揚げ足取るんじゃねぇよ!さっさと仕事しろっ!」
キッドと武器屋の店主と言い争いをしていると、オースティン保安官が入って来た。
「なに騒いでんだ若いの。たった今昼休みが終わったんだが?」
「オースティンの旦那、さっさとキッドのあんちゃんを連れて帰ってくれよ!商売の邪魔だ!」
「あいよ。いつも通り、事務所にピースメーカー、散弾銃、ライフルの弾薬を届けて置いてくれ」
「おうよ。あんたら保安官達はウチのお得意さんだからな。直ぐに届けるよ」
「頼んだぜ、行くぞ若いの!」
「はい。その新型散弾銃、絶対誰にも売らないで下さいよっ!?」
「うるせぇっ!だったら金持ってこいっ!」
店主に怒鳴られながらも店を後にした2人は、馬に跨った。オースティン保安官はキッドに尋ねた。
「あの新型がそんなに欲しいのか?散弾銃なら常に携帯してるじゃねぇか」
現在、ウェスタン国の保安官達が装備している散弾銃は「水平式散弾銃」が採用されている。元折単身銃を二連射出来るように、銃身を横に二本並べた銃器である。2連射しか出来ない為、巨大モンスターや鎧で武装している凶悪犯の相手などに使う事が多い。
「そうですけど、あの散弾銃は革命ですよ!レバーアクションライフルの様に連射出来るんですから!」
「そうだけど、俺ぁ昔ながらの散弾銃の方が使いやすいんだがなぁ」
そんなやり取りをしている最中に魔線機に通信が入った。
《ハースタル地区6番通りの住宅地で発砲事件が発生!現在も死傷者が増え続けてています!近くにいる保安官は急行して下さいっ!》
ハースタル地区とは、山々と森林の自然に囲まれた田舎である。田舎である為、冒険者もあまり多くない。
「ハースタル地区?なんでまたそんな田舎で発砲事件が?」
「……ハースタル地区……確か、”あいつ”の地元じゃ……?」
「考えるのは後だ。こちらオースティン保安官とキッド保安官、現場に向かう!」
キッドは違和感を抱きながら馬を走らせる。その異変に気付いたオースティン保安官がキッドに声を掛けた。
「おい、どうしたんだ?何か思い当たる節があるのか?」
「え、ええ……。実は、ハースタル地区に保安官学校の同期がいまして」
キッドの言葉にオースティン保安官は首を傾げる。
「同期?ちょっと待て。お前さんの同期はあの事件でお前さん以外は全滅したんじゃなかったのか?」
「いえ……実は、僕以外に1人だけ生き残った人がいます」
「ならお前さん以外にも保安官になったって事か?」
「……彼は、学校で不治の病に掛かりそのまま退学して行きました。その為、あの事件を免れる事が出来たんです」
「そうか、それは心配だな。念の為に情報が入ってないか聞いてみよう。こちらオースティン保安官。銃撃犯の情報を知りたい」
オースティン保安官は魔線機で事務所に連絡を取った。
《お待ちください……》
「頼む、無事で居てくれ……!!」
《目撃情報では、散弾銃で保安官2名、ハースタル地区に住んでいた冒険者15名、一般市民3名を既に射殺している模様です》
「散弾銃を使ってるという事は、まさか保安官がやったのか!?」
《いいえ、保安官ではありません。目撃情報では犯人は「トミー・ムッツォ」との事》
「えっ!?」
「ヒヒーン!!」
キッドは思わず愛馬のビリーを急に止めてしまった。キッドは何かの間違いではないかと魔線機を取る。
「本当に、本当にトミー・ムッツォなんですか!?何かの間違いでは!?」
《いいえ、間違いありません》
「おい、どうしたんだ!?」
「そんな……トミーが……」
キッドは事実を受け止める事が出来ず、魔線機を持つ手を震わせていた。オースティン保安官は駆け寄り、声を掛ける。
「若いの、おい若いの!今は住民の安全が最優先だっ!しっかりしろ!」
「はっ、はい……」
───────馬を走らせてから数分後、ようやくハースタル地区に到着した。辺りでは冒険者達が火炎魔法で反撃したのか、あちこちで火災が起きており、住民が逃げ惑っていた。馬から降りたキッドとオースティン保安官がピースメーカーを抜きながら近くの武器屋を覗くと、ハースタル地区の武器屋の店主が殺されていた。
「新型の散弾銃と弾薬が無くなってる……」
「まさか、トミーが!?」
「まだ分からん」
店の外に出ると、逃げ惑っている住民に出会した。オースティン保安官は声を掛けた。
「おい、犯人を見たか!?」
「いいえ、悲鳴と銃声しか聞こえてません!」
「そうか、この先なら安全だ。早く逃げろ!」
オースティン保安官が避難を指示すると、銃声が鳴り響く。キッドとオースティン保安官が銃声の方向に顔を向けた。
「向こうだ!おい、付いてこいっ!」
「はいっ!」
銃声がした場所にたどり着くと、冒険者達の死体が転がっていた。燃え盛る炎の先に人影を発見した。
「動くなっ!保安官だ。武器を捨てろ!」
「トミー!もう辞めるんだ!」
キッドとオースティン保安官がピースメーカーを人影に向けると、全身黒装束で身にまとい、茶髪のショートカット、顔のソバカスが特徴的な男だった。キッドは顔を見た途端本人と判断した。トミー・ムッツォが新型の散弾銃を片手に無表情で返り血を浴びた状態だった。
「聞いた事ある声ど思っだら、やっぱりキッド君だったのかぁ?」
「トミー!!何やってんだよ!何でこんな真似を!?」
「なんで?動機が?ゲホッゲホッ……んだなぁ、なんだろうなぁ?」
トミー・ムッツォが噎せながらもそう言った瞬間に、新型の散弾銃をキッド達に向けて発砲して来た。キッドとオースティン保安官は慌てて物陰に隠れながら魔線機を取り出す。
「こちらオースティン保安官!犯人は新型の散弾銃を所持している!至急応援を寄越してくれ!」
《了解!ジェシカ保安官、ロッキー保安官、ウィストン保安官が向かっています!!》
「若いの!応戦しろ!」
オースティン保安官はピースメーカーで応戦するが、キッドはショックのあまりに両手を震わせる。オースティン保安官はキッドの手を抑えるように手を添えた。
「いいか、同期だろうが友達だろうが罪を犯したら犯罪者だ。お前が怖気付いていたらさらに被害者が増える!止められるのは俺達だけなんだ!」
「はっ、はいっ!」
キッドとオースティン保安官は応戦を始め、銃撃戦が始まった。トミー容疑者は弾切れになり、瓦礫に隠れながら弾帯から弾薬を取り出して咳き込みながら散弾銃に装填する。オースティン保安官はその隙に愛馬を呼び寄せてレバーアクションライフルを取り出し、反撃する。
「トミーは散弾銃の訓練では、生徒の中でトップの成績です……。散弾銃では勝ち目がない……。ならっ!」
「若いの、何か閃いたのか!?」
「僕が回り込みます!援護して下さいっ!」
「分かった、気を付けろよ!」
キッドはピースメーカーの装填を終えて回り込もうとしたら、トミー容疑者は予想していたのかキッドに散弾銃を向ける。だが、オースティン保安官の援護射撃で免れた。オースティン保安官に気を逸らした瞬間、トミー容疑者の後ろに付いた。
「トミー!もう止めろ!」
「ゲホッゲホッ……オラが撃てるんだか?キッド君……ゲホッゲホッ」
「お前……まだ病気が……」
トミー容疑者は口を抑えながら咳き込むと、手には血が着いていた。
「なんで、そんな体で罪を犯したんだ!?安静にしてれば……!」
「キッド君にはわがんねぇ。オラがあれからどんな扱いを受けて来たが……。この病が悪化する前までは町の人達も親切だっだけども、病と分かった途端にオラを避けるようになっただ。影では散々コケにされて、ずっと好きだった人にも裏切られでオラがどんなに辛がったが、キッド君にわがんのが?ゲホッゲホ……」
トミー容疑者が町の住民や冒険者達から虐げられた時の復讐が動機と分かった。だが、キッドは銃をホルスターに仕舞い、説得を始める。
「まだ希望はある。今なら治癒魔法で和らげる事が出来るかも知れない。だから、自首してくれ!頼む!」
キッドが懸命に問いかけるが、トミー容疑者は首を縦に振る事は無かった。
「気休めは良してけろ、かなりの数を殺したんだ。オラはもう死刑になるに決まってる。自分のケツは自分で拭くべ……!!」
トミー容疑者が自分の胸に散弾銃の銃口を突き付けた瞬間、キッドは散弾銃の銃身を狙い、自殺を阻止した。
「自殺なんてさせない。出来る限り罪を償うんだ……」
「ゲホッゲホ……相変わらずすげぇ早撃ちだなぁ。散弾銃はオラがトップだったけども、早撃ちはキッド君には適わねぇなぁ……」
キッドは近付いて弾帯と弾き飛ばした散弾銃を取り上げると、オースティン保安官がレバーアクションライフルを構えながらやって来た。
「大丈夫か、若いの!」
「はい、大丈夫です。こちらキッド保安官、犯人を確保。牢竜車と水魔法使いを要請……」
《了解、後3分で到着します》
キッドが魔線機を仕舞うと、オースティン保安官が手錠を取り出してキッドに歩み寄った。
「お前さんが逮捕しろ」
そう言いながら、手錠を差し出す。
「…………出来ません……」
キッドは首を横に振った。かつての友人に手錠をかけることなど、出来るわけが無かった。
「クエスト法に則り、容疑者を逮捕するのがお前さんの仕事だろ?権利を説明して手錠をかけろ」
オースティン保安官はキッドの手を取り、手錠を握らせる。キッドの腰を優しく叩く。その手はしっかりしろ、頑張れという意味が込められていた。キッドは黙ったまま、トミー容疑者に手錠をかける。
「トミー・ムッツォ─────。殺人の容疑で現行犯逮捕します。あなたには黙秘権がある。あなたの供述は、法廷であなたに不利な証拠として用いられる場合がある。あなたは弁護士の立会いを求める権利がある。もし自分で弁護士に依頼する経済力がなければ、質問に先立って公選弁護士を付けてもらう権利がある。これらを全て理解したか?」
「理解したよ、ゲホッゲホ……訓練通りだな、キッド君……」
トミー・ムッツォが牢竜車に乗せられてその場を離れて行く。キッドはもう二度と会う事が出来ないと分かっていた。その為、牢竜車が見えなくなるまで見送った。こうして、僅か1時間で起こった惨劇は保安官、冒険者、住民を含めて30人を越える殺人事件は幕を閉じた。