ハースタル地区の事件から1ヶ月後。【ベレッタ】地区の銀行で強盗事件が発生した。 ウェスタン・ベレッタ・シアターは商業演劇街として知られる演劇産業の地区で、ウェスタンといえば “ベレッタ”地区 。歩道の上に舞台の大スターの星型メダルが埋め込まれていることで有名な観光スポット。また近くのには、スターの手形や足型が残されており、驚くような大スターとすれ違うこともある。
強盗犯はヤモリ系蜥蜴人族の冒険者が銀行内に立てこもっていた。銀行周辺を包囲した保安官達は、グレン連邦保安官の指揮の元犯人と睨み合いを続けていた。
「お前はもう包囲されている!大人しく投降しろ!」
グレン連邦保安官が拡声魔導具で犯人に問いかけるが、犯人は凶器でもある片手斧を突き付けながら叫び出す。
「うるせぇっ!大人しく馬車か馬を用意しろ!この女殺すぞ!」
「いやぁぁっ!」
犯人は人質の山羊系の女性獣人に片手斧を向けると、悲鳴が轟く。あまり刺激してはいけないと判断したグレン連邦保安官は、犯人の要求を呑む事にした。
「分かった、馬を用意する。その代わりに人質を解放してくれ」
グレン連邦保安官がそう持ち掛けると、
「馬と交換だ!そうしたら解放してやる!」
「分かった」
「要求を呑むんですか!?」
隣でピースメーカーを構えながらキッドが尋ねる。すると、グレン連邦保安官は魔線機を取り出した。
「ジャックポット、出番だ」
魔線機の向こうには銀行から約1km離れた建物の屋上に、サボテンの様に背が高く、茶色い鱗のサバクツノトカゲ系蜥蜴人族の保安官がレバーアクションライフルではなく、銃身が特別長い単発式ライフルの照準器を覗きながら構えていた。だが、その蜥蜴人族は、片手でコインをトスしてコインは表を出した。それをチラッと確認した蜥蜴人族はライフルの引き金を引いた。弾丸は真っ直ぐ強盗犯が斧を持つ腕を撃ち抜いた。
「大当たりっ!」
蜥蜴人族はそう言いながら薬莢を排出した。魔線機からはグレン連邦保安官の声が届く。
《ジャックポット、見事だ。合流してくれ》
「了解。今行きますよっと」
───────犯人を逮捕した後に、キッドが驚く様にグレン連邦保安官に尋ねる。
「一体どこから狙撃したんですか!?こんなに障害物があるのに!?」
「驚くのも無理は無い。狙撃の腕も確かだが、他の保安官より運がすこぶる良い奴なんだ」
そう言われたキッドはそんな馬鹿なと言わんばかりに驚いていると、キッドの後ろに先程のサバクツノトカゲ系蜥蜴人族がぬっと立っていた。
「信じられないだろうね。でも、俺が凄いからさ」
「えっ、うわっ!」
「紹介しよう。ウェスタン国全保安官随一の狙撃手の【ルーク・ジャックポット】だ」
キッドが驚きながら後ずさりすると、ジャックポット保安官の背中越しに銃身の長い太陽の様に輝くヒヒイロカネ製のライフルに目が行く。
「珍しいライフルですね?狙撃用ですか?」
「これか?これはゴーレムライフル。大口径・長距離射程の専用ライフルだ。単発式だけど、威力と射程距離は見ての通りさ」
「こんな槍みたいな銃で狙撃出来るなんて……」
キッドが感服していると、ジェシカ保安官が嫌な顔をしながらやって来た。
「ったく、こんな奴に手柄持ってかれるなんてついてねぇぜ……」
「あっ、ジェシカ保安官!」
「ジェシカちゅわぁぁん!会いたかったよぉっ!」
先程とは打って変わってジャックポット保安官はいやらしい顔をしながらドスドスと近付いてジェシカ保安官に抱きつこうとしたが、
「触んじゃねぇよ!クソボケがっ!」
ジェシカ保安官はスラリとした右足でジャックポット保安官の顔面に蹴りを食らわす。
「あ、相変わらずいいキックをお持ちで……」
「ったく、胸糞悪ぃぜ」
「は、はは……」
ジャックポット保安官のインパクトにキッドは顔を引き攣らせた。畳み掛ける様に、グレン連邦保安官が追い討ちをかけるように口を開いた。
「丁度いい。明日からキッド、ジャックポット保安官と組め」
「えっ!?まだオースティン保安官から評価を出してもらってませんよ?」
キッドがそう言うと、偶然にオースティン保安官がウィンストン保安官と共に牢竜車でやって来た。
「おう、若いの!グレン連邦保安官に評価の報告書出すの忘れててよ。今朝出したんだ!急で悪ぃけど、楽しかったぜ!」
「だそうだ。問題は解決したな?」
グレン連邦保安官はにこやかな笑みを浮かべながらキッドに尋ねる。流される様にキッドは頷いた。事務所に戻り、日が暮れるまで書類整理をしていると私服姿のジャックポット保安官がキッドに声をかけた。
「キッド君。もうすぐ終わるだろ?」
「えっ?あっ、もうこんな時間か……」
時計を見ると既に定時を過ぎていた。ジャックポット保安官はキッドの机に手を付きながら、
「ここはどうだろう、絆を深める為に飲みに行かないか?」
そんな事を言ってきた。キッドはそれも悪くないなと思い、快く引き受ける。
「分かりました。今帰り支度します」
───────帰り支度を済ませてジャックポット保安官と共にキッドは保安官事務所の近くにある酒場【マグニフィセント】に入った。キッドとジャックポット保安官は席に座り、三毛猫の女性獣人の店員に声をかけた。
「お姉ちゃん、ビール2つ」
「ハイにゃ、直ぐにお持ちするにゃ」
「あっ、チリコンカンもお願いします」
「ハイにゃ」
店員がその場を離れると、ジャックポット保安官がキッドに声を掛ける。
「どうだい?保安官の仕事は?半年近くになるだろ?慣れたかい?」
「ええ、だいぶ慣れて来ましたよ。先輩達の指導のお掛けです」
「言うじゃないか、なら俺も気合いを入れないとな」
キッドとジャックポット保安官はビールで乾杯しようとしたその時。
「てめぇこの野郎!!」
店内に怒号が響いた。キッドとジャックポット保安官が振り返ると、人間族の男性と獣人族の男性冒険者2人が掴み合いをしていた。
「やれやれ、揉め事か」
「止めますか?」
「勿論。夜勤連中ばかりのんびりされちゃ敵わないからね」
ジャックポット保安官は皮肉を言いながら席を離れて冒険者2人に声を掛けた。
「こらこら、一日の終わり時に何をそんなにムキになってるんだ?」
「あぁん!?なんだてめぇ!?」
人間族の男性冒険者の1人が因縁を付けてくると、ジャックポットの胸の金バッチに気付いた。
「──────っ!?」
「俺達も残業したくないんだ。握手してこの場を収めるんだ」
「わ、分かったよ」
「君はどうだ?」
ジャックポット保安官は獣人族の男性冒険者に目を向ける。空気を読んだのか、獣人族の男性冒険者も慌てて手を差し伸べた。
「も、勿論だ!ああ、俺が悪かったよ」
「それで良しっ、2人とも一杯奢るからさ」
「すっ、すまねぇな」
「いいって事さ」
2人の握手を見届けたジャックポット保安官は再び席に戻ると、キッドは尊敬の眼差しをしながら、
「バッジを見ただけであんな屈強な冒険者達を宥めるなんてすごいですね!以前にもあの2人を逮捕した事でもあるんですか?」
そんな事を尋ねる。すると、ジャックポット保安官はあっけらかんとした顔をする。
「えっ?まさか、あの2人とは初対面の人だよ?」
「えっ!?ならなんであんなに怯えてるんですか!?」
更に尋ねると、
「あー多分、俺の運が良すぎるからじゃないか?周りからは運気を奪われると良く言われていたよ」
「保安官じゃなくて、遊び人にでもなれば良かったんじゃないですか?」
「え?俺、元々は冒険者兼遊び人だよ?」
皮肉を言ったつもりなのに思わぬ返答が来た為、キッドは盛大にビールを吹き出した。
「ゲホッゲホッ!んじゃ何故保安官に!?」
「実はね、冒険者の頃は希少クラスのドロップアイテムを引いたりして冒険者仲間からは白い目で見られるし、息抜きにギャンブルしたらあちこちで大当たりを出し続けて出入り禁止になるし」
「行き場所ないじゃないですか」
「そこで、安定した給料が貰える職が保安官って訳さ。俺の頃はキッド君の様に訓練学校は無かったしね。もうここでいいかなぁって感じで試験受けたんだ」
「そんは軽い気持ちで受けて受かったんですか!?どんだけ強運持ってるんですか!」
キッドが上擦った声を出しながら驚いていると、ジャックポット保安官が照れくさそうにする。
「いやぁ、照れるなぁ」
「褒めてませんよ、それにしても凄い強運ですね……」
「さぁ〜?俺自身もなんでか分からないんだよ」
2人でそんな事を話していると、酒場の隅にあるテーブル席が賑わい始めた。キッドが振り返ると、ギャンブルをしている様だった。
「ああ、【Dead or Alive】だな」
「なんですかそれ?」
Dead or Aliveとは、スタッフがダイス2個をダイスカップの中で振り、プレイヤーはDead側かAlive側にチップを張る。Dead側とAlive側とに同じだけのチップが張られたらダイスカップを開き、2個のダイス目の数が偶数ならDeadの勝ち、奇数ならAliveの勝ち。負けた方のチップは勝ったプレイヤーたちの配当となる。
「って訳よ」
「へぇ、ってかアレ合法なんですか?」
「まぁ、本物の金銭を賭けなければ合法さ」
「こんな大っぴらに違法賭博なんてする訳ないですよね」
2人で様子を伺っていると、スタッフの冒険者がダイスカップにダイスを入れてテーブルに叩きつけるとプレイヤーの冒険者に声をかけ始める。
「Dead or Alive!さぁ、張った!張った!」
「Dead!」
「Alive!」
「Dead!」
「Alive!」
プレイヤーの冒険者が駆け始めると、ジャックポット保安官がボソッと呟いた。
「4と2でDead」
「えっまたまたぁ、そんなピッタリに当たる訳─────」
キッドが呆れた様子で言うと、
「4・2のDead!!」
スタッフの声が聞こえて来た。思わずキッドはジャックポット保安官の顔を2度見する。
「ほんとに当たった!凄いじゃないですか!もう1回当てて下さいよ!」
「しょうがないなぁ……」
キッドがワクワクと目を輝かせていると、スタッフの冒険者がダイスカップにダイスを入れてテーブルに叩きつけた。
「Dead or Alive!さぁ、張った!張った!」
「Dead!絶対にDeadだ!」
「いーや!Aliveだ!」
盛り上がりが最高潮になったその時、ジャックポット保安官が口を開いた。
「3と6でAlive」
「どうだ!?」
キッドが様子を伺うと、冒険者のスタッフがダイスカップを開けると。
「3・6でAlive!!」
「また当たった!!強運過ぎませんか!?」
「自分でも恐ろしいくらいだよ」
ジャックポット保安官が謙遜していると、賭けに負けたのかDead or Aliveをしていた鳥人族の男性冒険者がキッド達に近付いて来た。
「おい、あんたら俺達の賭け事に関わってんのか?」
鳥人族の冒険者が因縁を吹っかけて来た。そんな事に慣れているのかジャックポット保安官は立ち上がろうとしたキッドに落ち着けと言わんばかりに手を伸ばしながら鳥人族の冒険者に声を掛けた。
「いや、失礼。随分盛り上がってたから少し混ざっただけさ」
「恍けるんじゃねぇよ。本当はアイツとグルなんだろ?」
「僕たちは関係ありません」
キッドがなんとか場を収めようとするが、鳥人族の冒険者はキッド達のバッジに気付かずに更にヒートアップする。
「ガキは引っ込んでな!そうだな、あんちゃん代わりに賭け金出してくれたら見逃してやるよ」
「なぜ俺が君のギャンブルの賭け金を出さなきゃないんだ?」
カチンと来たのか、ジャックポット保安官が眉間に皺を寄せる。キッドも応戦出来るようにプライベート用のピースメーカーのホルスターのボタンを気付かれない様に外した。すると、ジャックポット保安官が一呼吸置いて話し始める。
「おいおい、さっきまでチップで賭けてたんじゃないのか?」
「冗談じゃねぇ、おもちゃのチップで賭け事が出来るかよ」
「そうか……」
そう言った途端、ジャックポット保安官は鳥人族の冒険者をテーブルに押さえ付け、頭にピースメーカーの銃口を突き付けた。
「お前を賭博罪で逮捕する」
「なっ、て、てめぇ保安官かっ!?」
「バッジに気付かないで因縁吹っかけて来たのはそっちだろ?」
他にDead or Aliveに参加していた冒険者達も慌てて逃げようとしたが、キッドが早撃ちでテーブルに穴を開けた。
「動くなっ!すいません、猫のお姉さん。通報をお願いします」
「はっ、はいにゃ!そのテーブル弁償して下さいにゃ!」
「勿論です」
───────数分後。夜勤の保安官が到着して冒険者6名を引渡した。キッドはホルスターに銃を仕舞うと、ジャックポット保安官が声を掛けた。
「よっ、せっかくの飲み会が台無しになってしまったね」
「いえ、仕方ない事ですよ」
キッドがそう言うと、ジャックポット保安官は酒場にいた住民や冒険者達に向かって。
「皆、済まなかったね。今日は俺の奢りだ!」
そう言った瞬間、酒場はドラゴンの咆哮よりも大きい歓声がコルト地区に鳴り響いた。