数日後。今日も今日とてウェスタン国に朝日が昇り、一日が始まった。そんな中、キッドとジャックポット保安官と共に通報を受けてハースタル地区の森の中にまでやって来た。キッドは顔を引き攣らせながら被害者へ聴き取り調査を行っていた。
「そ、それで……見知らぬ人から受け取った毒りんごを食べてしまってこのベッドの上で意識不明になってる状態の間に彼からキスされたと?」
キッドの目の前には赤いリボンを付けた黒髪でショートカットの人間族の若い女性が怯えながら立っていた。
「ええ、あまりにも突然でした……」
「合意ではないと、この毒りんごの持ち主も知らない人から受け取ったと?」
「はい」
「彼とは面識はあるのですか?」
「ええ、まぁ。ですが、深い仲ではありません」
「でしょうね。毒りんごを渡した人とは?」
「いいえ、ありません。初対面の老婆でした」
キッドは困った顔をしながら調書をメモする。そこへ、ジャックポット保安官が加害者の聴き取り調査を終えてやって来た。
「キッド君、どう?彼女落ち着いた?」
「ええ、なんとか。この場合、婦女暴行で彼を逮捕すべきなんですか?それとも謎の老婆を追うべきですか?」
「いや、この場合は2人から危害を加えられたと考えるべきだな」
「なら彼をまず逮捕を?」
「合意じゃなかったんだろ?」
「はい、そうです。彼の言い分は?」
「彼の言い分だと助けたかったっての一点張りだ。この子とは面識はあるけど、深い仲ではないとな」
「なら、決まりですね」
キッドが答えると、ジャックポット保安官は馬の近くで待たせている人間族の男性冒険者がいた。
「彼を婦女暴行で逮捕だ」
「分かりました」
キッドは人間族の男性冒険者に声をかける。
「貴方を婦女暴行罪で逮捕します」
キッドが男性冒険者に手錠をかけると、男性冒険者は拒み始めた。
「そんなっ!?僕はただ彼女を助けたかっただけだ!心肺蘇生だよ!」
「嘘をつくなっ!」
キッドが振り返ると、大木の後ろに隠れていた7人の小人族の老人達が騒ぎ出した。ジャックポット保安官が小人族の1人に近付く。
「貴方方は目撃者ですか?関係者ですか?」
「わしらはシラユキちゃんと一緒に住んでるんだ」
「なら、俺に話を聞かせて貰っても?」
「勿論だ!」
小人族の話によると、被害者のシラユキさんは見知らぬ老婆から毒りんごを貰い、それを食べてしまった為に意識不明の重体となった。小人族達は老婆を追跡しようとしたが、老婆は崖から転落しして死亡したという。キッドは確認を取るために魔線機を取り出した。
「こちらキッド、ハースタル地区の現場付近で転落事故の通報はありましたか?」
《お待ち下さい……15分程前にそこから1km離れた山道で老婆が滑落していると通報されています》
魔線機からそう伝えられた。キッドは小人族の情報が正しかったと判断し、更に尋ねる。
「それで、その老婆はどうなりました?」
《ウィストン保安官とロッキー保安官が到着した時には既に死亡していたとの事です》
「分かりました」
情報を確認したキッドは人間族の女性に声を掛ける。
「残念ですが、毒りんごを渡した犯人は少し前に死亡したらしいです。逮捕出来ずにすいません」
「そうですか……いえ、私は大丈夫ですから」
「はい。老婆は逮捕出来ませんでしたが、彼は逮捕します」
キッドが振り向くと小人族から聴き取り調査を終えたジャックポット保安官が来た。
「どうやら心肺蘇生とは思えないほど長くキスをしていたそうだ。一度も心臓マッサージもせずにな」
「強制わいせつの容疑も?」
「追加だな」
「分かりました」
再び男性冒険者に近付き、今度はホルスターのボタンを外しながら声を掛けた。
「貴方を強制わいせつ罪と婦女暴行の罪で逮捕します」
「そんなっ!?だから言ってるだろ!心肺蘇生していたって!」
「7人の目撃者が心臓マッサージをしてないって言って居るんですよ?それでもまだ否定しますか?」
「くそっ、アイツらめ……」
人間族の男性冒険者は観念したのか、抵抗を止めて手錠をかけられた。
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翌日。出勤してミーティングルームの席に着くと、グレン連邦保安官が入って来た。
「おはよう。ロッキー保安官、我々保安官の中で【お友達】とはどういう意味だ?」
グレン連邦保安官に質問されたロッキー保安官は顔を上げて答える。
「お友達ってのは、【タレコミ屋】という意味の用語ですね」
「そうだ。タレコミ屋は魔導具の次に非常に役に立つ道具だ」
「ダメなゴミ道具だろ、あんな奴ら」
ジェシカ保安官が皮肉を言うと、他の保安官達がクスクスと笑う。グレン連邦保安官はジェシカ保安官に尋ねる。
「ならジェシカ保安官はタレコミ屋を使わないのか?」
「使いますけど、あいつらは平気で嘘を言いますし、調子に乗らせないのが大事です」
「オースティン保安官はどう思う?」
今度はオースティン保安官に尋ねる。オースティン保安官は腕組みをしながら答えた。
「いーや、むしろ仲間と同じ扱いをしておけばよりいい情報を提供してくれると思うがね」
それを聞いたキッドはなるほどと頷く。
「そこで、仕事に慣れて来た新人のキッドに課題を出そうと思う。キッド保安官、自分のタレコミ屋を見つけろ。他の保安官達も通った道だ、評価に繋がるから慎重に選んで探せ。運がいい時にジャックポット保安官と組んでるんだ、彼の助言を聞いてみるといい。今日は以上だ、気を付けて行け」
ミーティングが終わると、キッドは装備を両手に早々とジャックポット保安官の元へ行った。
「タレコミ屋なんてウェスタンにそんなにいるんですか?」
「いるいる。小物から大物までね、それで?目星は付いてるのか?ちなみに俺は中古魔導具店と中古武器屋を使ってるよ。あそこは窃盗品を扱う場合は通報する義務があるからね」
「なるほど……覚えて起きます。他の保安官の人は?」
そう言うと、ジャックポット保安官はしーっと指を立てた。
「それは暗黙の了解で教えないって事になってるんだ」
「そうなんですか!?てっきり情報を共有してるものかと……」
「横取りされたりしたりしたら面倒だからね。さぁ、どうする?」
キッドは少し考えて、
「盗賊を狙おうと思います。盗賊なら小物から大物までいますからね」
「悪くない考えだな。んじゃ、治安の悪いとこ探してみるか」
「はいっ!」
キッドとジャックポット保安官は普段通りにパトロールを始めた。まず向かった先は、【ザウエル地区】という場所で貧困率が高く、凶悪犯罪の発生率が高い地域。盗賊を生業としている者同士の抗争が頻繁に発生している。建物の窓に鉄格子が必要とされるなど、住民たちも日常的に高い警戒を強いられている。キッドとジャックポット保安官が馬で常歩で辺りを見渡していると、道具屋からエルフ族の男性冒険者が慌てて出て来た。エルフ族の男性冒険者は走ってその場を離れると、店主らしき男性が飛び出して来た。
「強盗だっ!捕まえてくれぇっ!」
「運がいいね。アイツを捕まえるよ!」
「はいっ!」
キッドとジャックポット保安官が駈歩で追跡すると、ジャックポット保安官が鞍に付けていた投げ縄を取り出して、エルフ族の男性冒険者に投げつけると、縄の輪っかが体に引っかかった。そのまま引っ張ると、締め付けられてエルフ族の男性冒険者はバランスを崩し転倒した。
「ぐあっ!いってぇ……!」
「保安官だ。強盗の罪で逮捕する」
キッドが取り押さえてエルフ族の男性冒険者に手錠をかけると、ジャックポット保安官がエルフ族の男性冒険者に尋ねる。
「俺達の気配を感じ取って出て来たな?今日が初めてじゃないな?」
「そ、それがどうかしたかよ……」
「実はな、お前の商売敵を捕まえようと思ってるんだ。ここはどうだ?今回は盗んだ物を返してくれれば見逃してやる。その代わりに、この新人保安官に協力しないか?」
「新人?」
エルフ族の男性冒険者がキッドの顔を見上げる。すると、エルフ族の男性冒険者が、
「はんっ、腐っても盗賊★5まで成り上がったんだぜ?誰がお前らの犬になんかなるかよっ!」
悪態を付けてきた。だが、それもお見通しだったのか、ジャックポット保安官は余裕の顔をしながらキッドに声を掛ける。
「キッド保安官。クエスト法15条第2級強盗の懲役は何年だっけ?」
「第2級強盗は懲役2年〜5年ですね」
「だって。なんなら今から裁判所に連絡して君の家に捜査令状出して貰って調べたって良いんだよ?そこから過去の盗品が1つでも出たら更に臭い飯を食う事になるよ?」
ジャックポット保安官が脅かす様にエルフ族の男性冒険者に言うと、
「待て待て!分かった、分かった!話しを聞いてくれ!」
「えっ、なってくれるんですか?」
手錠を掛けられながら立ち上がると、気まずそうな顔をする。
「俺みたいな盗賊職なんかより、もっといい奴がいるぜ?」
「へぇ、それはなんですか?」
キッドが尋ねると、エルフ族の男性冒険者はジャックポット保安官の方に顔を向ける。ジャックポット保安官は何を言いたいのか悟ったのか、キッドに声を掛ける。
「ここからはキッド保安官の判断に任せるよ?」
「うーん……」
キッドが顔をしかめながら考える。悩んだ末出した答えは、
「なら、聞かせてもらっても良いですか?」
「分かった。【偽造屋】ってのがいるんだけど……」
「偽造屋?」
キッドが首を傾げると、エルフ族の男性冒険者は鼻で笑う。
「へっ、なんだ知らないのか?偽造屋ってのは犯罪組織の中心にいるんだよ。俺達見たいなその日暮らしの盗賊なんかよりよっぽど役に立つと思うぜ?この先の裏路地に店があるから行ってみるといい」
「なるほど、いい情報を貰いました」
「なら、解放してくれるよな?」
「今回は見逃します。けど、次貴方を見つけたら……分かりますよね?」
「ああ、この際ジョブチェンジして足を洗うよ」
「分かりました」
取り引きをしたキッドは手錠を外して解放すると、エルフ族の男性冒険者は盗んだ物を置いて行き、その場を後にした。
「★5の盗賊を見逃すなんて勿体ないねぇ」
「大丈夫です。掌紋を取っておいたので」
「ほぅ、なかなかやるじゃないか。んじゃ、その偽造屋さんの所に行きますか」
「はいっ!」
2人は強盗事件を片付けて偽造屋の元へやって来た。キッドがドアをノックしようとしたその時。
「待って、キッド保安官」
「えっ、なんですか?」
「こういう時はノックしなくていいよ」
「なるほど……」
キッドがノックをせずにドアを開けると、人間族の中年男性とキツネ系獣人の青年がいた。キツネ系獣人の青年は何かを受け取り早々と出て行った。店の中には様々な魔導具が陳列しており、鍛道具も備わっていた。
「ここは貴方のお店ですか?」
「え、ええ。そうですが?」
キッドが人間族の中年男性に尋ねると、怯える様に答えた。
「色んな魔導具がありますね。鍛道具も」
「え、ええまぁ……」
「見た事ない魔導具がありますけど、これはなんですか?何かを偽造する魔導具ですか?」
キッドが質問すると、人間族の中年男性は俯いてしまう。畳み掛けるようにジャックポット保安官も声を掛ける。
「この設備だと、冒険者ライセンスカードや武器所持許可証とかも作れそうですね。冒険者ギルドが発行する物をここでもし作成していたら重罪ですよ?」
観念したのか、人間族の中年男性は口を開いた。
「食って行く為です……」
「ならどうです?僕のタレコミ屋になりませんか?冒険者ライセンスカードを欲しがる小物じゃなく、七つの大罪の様な大物犯罪組織の情報を教えてくれれば安定した報酬が受け取れますよ?」
キッドが説明すると、人間族の中年男性は悩んでいるのか顔をしかめる。
「もし、我々保安官を裏切ったらこの店は捜査対象になり、全て押収されるし、あんたは豚箱行きだよ?」
ジャックポット保安官が釘を刺すと、
「この歳で刑務所はゴメンだ。七つの大罪かどうかは分からないが、組織から依頼が来てる」
「ならなってくれるんですね?僕のタレコミ屋に?」
「ああ、ただ命の保証はしてくれよ?」
「勿論です」
その言葉を聞いたジャックポット保安官が、
「おめでとう。立派なタレコミ屋さんを見つけたね」
キッドは運良く、保安官の中で質のいいタレコミ屋を手に入れた。