俺の町は今日も今日とて平和です!   作:ボトルキャプテン

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13 ゾンビパニック

 偽造屋のタレコミ屋を手に入れた3日後、事務所で書類整理をしている最中に魔導話が鳴り響く。

 

「はい、ウェスタン保安官事務所のキッド・ウォーカー保安官です」

 

《もしもし、偽造屋ですが……》

 

 魔導話の相手はタレコミ屋の偽造屋からだった。キッドは何気なく挨拶をする。

 

「おはようございます。どうかしましたか?」

 

《ええ、実は……以前言ってた組織から連絡がありまして》

 

 タレコミが入ったと判断したキッドは途端にメモ用紙を用意して、話を聞く準備を始める。

 

「分かりました。詳しくお聞かせください。今から事務所へ来て下さい」

 

《分かりました、今すぐ向かいます》

 

 10分後。偽造屋が事務所にやって来ると、キッドは事前にジャックポット保安官に知らせていた為ジャックポット保安官と共に取り調べ室に入った。偽造屋は何やら怯えた様子だった。

 

「それで、どんな連絡が?」

「えぇ、実は魔導列車のチケットの偽造依頼が来たんです。それもかなりの数で」

「魔導列車のチケットか……密輸か人身売買に使うつもりだな」

「どこの組織が分かりますか?」

 

 キッドが尋ねると、偽造屋は首を横に振る。

 

「いや、言いませんでした……」

「【ギャング】の可能性があるな」

「ギャング?」

「ああ、キッド君はまだ把握してないだろうから教えるけど、ウェスタンには種族別で結成された10のギャング、マフィア、カルテルの組織が存在しているんだ。人間族のバンデッドファミリー。獣人族のカルテルファング。エルフ族のクレイジーフォレスト。ドワーフ族のタイタンズ。蜥蜴人族のコモド一家。小人族のリトル盗賊団。鳥人族の暴走族スカイエンペラー。蟲人族のクイーンホーネット。魚人族のメガロ海賊団。そして、勇者ライトニングが調査している謎の組織七つの大罪。この10の組織があるんだ、覚えておいた方がいいよ」

「はい、分かりました」

 

 キッドはそれぞれのギャング、マフィア、カルテルの名前をメモ帳に記入する。

 

「それで、どの組織からでしょうか……」

「それは分からないな、まずグレン連邦保安官に知らせよう」

「分かりました」

 

 キッドがグレン連邦保安官に偽造屋から手に入れた情報を話した。グレン連邦保安官の指示のもとに、そのまま取り引き相手の組織を一斉に逮捕する作戦が立てられる事になった。

 

───────────────────────

 

 そして、作戦決行の日。偽造屋は依頼通りに偽造した魔導列車のチケットを用意して待ち合わせ場所にやって来た。待ち合わせ場所は飛空挺乗り場近くの空き地だった。キッドとジャックポット保安官は偽造屋に声をかける。

 

「手筈通りに、あなたはパスポートを渡せばいいだけです」

「大丈夫でしょうか……」

 

 偽造屋は不安そうな顔をする。ジャックポット保安官は偽造屋の肩に手を置いて落ち着かせようとする。

 

「大丈夫、我々がしっかり守りますから」

「俺は万が一の為に後方から援護するね、頼んだよ」

 

 ジャックポット保安官はそう言いながらゴーレムライフルを背負いながらその場を離れる。キッドは緊張しながらピースメーカーに弾を込めると、幌馬車数台が空き地に入り、その中の1台は幌馬車ではなく檻を積んだ馬車でその檻を布で隠す様に覆っていた。

 

「グレン連邦保安官、相手が来ました」

 

《了解、こちらも確認した》

 

 キッドが身を潜めると、偽造屋は幌馬車に近付いて行く。すると、ジャッカル系獣人の御者が降りて来て魔導列車のチケットを確認した。

 

「悪くねぇ、いい出来だ」

 

 現金の受け渡しを確認したキッドはピースメーカーを構えながら突入した。

 

「動くなっ!保安官だ、両手を上げろ!」

「おいおい、なんで保安官がここにいやがるんだ?」

「お前ら、獣人族だな?カルテルファングの一味か?」

 

 キッドがジャッカル系獣人に銃を向けると、ジャッカル系獣人の男は余裕の顔をする。

 

「ああ、そうさ。俺達の仕事を妨害する気か?ボスが容赦しねぇぞ?」

「ボス?サイ系獣人の重剣戦士、タンク・ヴァンガードか?」

 

 事前にそれぞれ組織のボスの名前を覚えていたキッドはボスの名前を言う。

 

「分かってるならなぜ邪魔する?」

「そうは行かない。偽造チケットで何をするつもりか知らないが、大人しく帰った方がいいんじゃないか?」

 

 キッドがジャッカル系獣人の男に言うと、他の幌馬車から様々な獣人族が降りて来た。それぞれ手には剣や杖、弓矢を持っていた。目の当たりにしたキッドに更に緊張が走る。

 

「……こんな所で全員逮捕されたくないだろ?」

「それはこっちのセリフだ。あんたこそ1人でこんな所で死にたくねぇだろ?」

「どうかな?僕は1人じゃない」

 

 そう言い放つと土煙と蹄の音が鳴り響く。カルテルの1人が騒ぎ出す。

 

「待ち伏せだっ!殺せ!」

「うおおおおぉっ!」

 

 コヨーテ系獣人の男が片手剣でキッドに襲いかかろうとしたその時。後方で援護していたジャックポット保安官の1発の弾丸がコヨーテ系獣人の男に命中した。その隙にキッドは早撃ちで他の獣人族の膝を撃ち抜き、偽造屋を避難させる。

 

「てめえの顔覚えたからな。夜道に気を付けな」

 

 ジャッカル系獣人族の男はそう吐き捨てて撃たれた仲間を見捨てて幌馬車で逃げて行った。撃たれたコヨーテ系獣人族の男が腹部の銃創を抑えながら布で覆っていた檻に手をかける。

 

「はぁ、はぁ……他の組織に使うつもりだったが……仕方ねぇっ!」

 

 布を剥がすと檻の中には10匹以上の様々な種族のゾンビが呻き声を上げていた。ジャッカル系獣人族の男は、檻の鍵を外して檻を開けた。

 

「七つの大罪から買った上級冒険者のゾンビ。てめぇらで試してやるよ!」

 

ゾンビとは、かつて生命体であったものが、すでに生命が失われているにもかかわらずダンジョンや樹海などに徘徊しているアンデッドモンスターである。

 

 ゾンビ達は檻から出て来て直ぐに馬車を破壊し、逃げた馬に乗り損ねたジャッカル系獣人族の男に気付き、襲いかかった。

 

「や、やめろっ!俺じゃねぇっ!向こうだ!ギャァァァッ!」

「不味いっ!」

 

 ジャックポット保安官はゴーレムライフルからレバーアクションライフルに替えてゾンビに発砲する。キッドはゾンビから距離を置きながらピースメーカーを連射する。

 

「なんでゾンビなんか連れて来たんだ!?」

「キッド君!他の獣人を守れ!何か情報を持ってるはずだ!死なせる訳には行かないっ!俺は応援を呼ぶ!」

「分かりました!」

 

 弾薬を装填しようとすると別のゾンビが襲いかかって来た。キッドは装填を中断し、慌てて距離をとる。装填を終えてラクーン系獣人の男の元へ駆け付けると、撃たれた肩を抑えながら蹲っていた。

 

「うぅ……た、助けてくれ……」

「助けてやるから情報を話すんだ。でなきゃゾンビの餌になるぞ!」

「うっ……喰われるよりはマシだ。協力する」

 

 キッドは魔線機を取り出して応援を要請する。

 

「こちらキッド保安官。モンスターの襲撃!応援を要請!」

 

《了解、ウィストン保安官とオースティン保安官が現場に急行中です》

 

 ラクーン系獣人族の男に肩を貸しながらゾンビに攻撃を仕掛ける。だが、6発全て撃ち終えてしまった為弾切れになった。

 

「くそっ!」

 

 慌てて逃げようとするが、思う様に進まない。ゾンビが追い付いて噛み付こうとしたその時。

 

「キッド!」

 

 ジャックポット保安官が愛馬で駆けながらレバーアクションライフルでゾンビの頭に弾丸を命中させる。キッドはラクーン系獣人族の男に止血を施してから手錠をかけ、そのままジャックポット保安官の愛馬に乗せた。ジャックポット保安官は降りて愛馬の尻を叩いてその場を避難させた。

 

「もうすぐグレン連邦保安官達も戻って来る」

「はい、今のうちに装填します」

 

ガリガリ、ガリガリ……。

 

 何かを擦る音が鳴り響く。キッドとジャックポット保安官は顔を見合せる。

 

「なんの音ですか?」

「応援じゃないのは確かだな」

 

 ピースメーカーとレバーアクションライフルに弾薬を装填して音の方向に構えると、壊された幌馬車の影からフルプレートメイルに身を包んだゾンビが現れた。鳴り響いていた擦れた音の正体は、ゾンビが足甲を引き摺る音だった。

 

「おいおい、冗談だろ!?」

「聖騎士のゾンビ!?」

 

 聖騎士ゾンビは微かに知性が残っていたのか、ゾンビに食われたジャッカル系獣人族の男の片手剣を拾うと、騎士の構えをする。

 

「来るぞっ!撃てっ!」

「はいっ!」

 

 キッドとジャックポット保安官は迎撃すると、弾丸は鎧に命中するが腐っても相手は上級職の聖騎士。生半可な銀の弾丸では聖騎士ゾンビの鎧は貫通しなかった。聖騎士ゾンビは足を引き摺りながら剣を振り下ろすが、キッドとジャックポット保安官は左右同時に避けた。

 

「この野郎っ!」

 

 ジャックポット保安官が頭に数発発砲すると、弾丸の衝撃で兜が脱げ落ちると腐敗したエルフ族の顔が露になった。聖騎士ゾンビは片手剣を片手で薙ぎ払う様に振り回す。ジャックポット保安官は距離を保ちながらレバーアクションライフルで応戦する。その間にキッドは反対側に回り込み、ジャックポット保安官を射線に入れないように援護射撃する。

 

「早く弾を……!」

 

 キッドはガンベルトに手を伸ばすが、全ての弾薬を使い切ってしまっていた。慌てて愛馬のビリーを呼び寄せようとするが、逃げ惑う馬車馬達に怯えてしまっていた。その間に聖騎士ゾンビはキッドに襲いかかる。

 

「キッド君っ!!」

 

 ジャックポット保安官は聖騎士ゾンビにレバーアクションライフルを構えたが、こちらも弾切れを起こした。全弾装填する余裕も無かったジャックポット保安官はレバーアクションライフルを投げ捨て、背負っていたゴーレムライフルに弾を込める。膝を着いて照準器を合わせ、懐からコインを取り出して弾くと、コインは表を出した。

 

「これで終わりだっ!」

 

 ゴーレムライフルの引き金を引くと、銀の弾丸は真っ直ぐに聖騎士の後頭部に目掛けて飛んで聖騎士ゾンビの頭を撃ち抜いた。聖騎士ゾンビは糸が切れた操り人形の様に崩れ落ち、灰となって鎧を残しながら消えていった。弾を排莢したジャックポット保安官は呟く。

 

「大当たりっ!」

 

 それから10分後。に応援がジャックポット保安官の愛馬と被疑者の1人を確保して合流した。被疑者は牢竜車に乗せられると、グレン連邦保安官に声をかけられた。

 

「聖騎士のゾンビを良く倒したな。2人共ご苦労だった」

「あのゾンビ達を一体どうしようとしたんでしょうか?」

 

 キッドが小難しい顔をしながら尋ねると、

 

「それはやっこさんに聞けば分かる」

 

 その後。ラクーン系獣人族の男を保安官事務所に連行し、取り調べを行った。立ち会ったのはキッドとジャックポット保安官の2人で、魔法のガラスの向こうにはグレン連邦保安官がいる。その魔法のガラスとは、表面に魔力を流すことで、光を反射させつつ透過させる特殊な魔導具で明るい側からは鏡のように、暗い側からは向こう側が見えるという特徴がある。グレン連邦保安官が見守る中、取り調べが始まった。

 

「あのゾンビはどこから連れて来たんだ?」

 

 ジャックポット保安官がラクーン系獣人族に尋ねると、ラクーン系獣人族の男は何かに怯えながら答えた。

 

「あ、あれは……よく分からねぇが七つの大罪から買ったって聞いた」

「七つの大罪……あの謎の組織ですか?」

 

 キッドが尋ねると、ラクーン系獣人族の男は下を向く。

 

「俺は詳しく分からねぇけど、そいつらからゾンビを買って他のギャングを襲わせようとしたって聞いた。モンスターに襲わせれば抗争にはならないってな」

「けど逆に食われたって事か。七つの大罪の事で他には知ってる事はないのか?魔薬草を密売していると聞いているが?」

 

 ジャックポット保安官が尋ねると、ラクーン系獣人族の男は首を横に振る。

 

「俺はこれ以上ほんとに知らねぇんだ。逃げた奴なら詳しいかも知れねぇが暫くは身を潜めるだろうな」

 

 お手上げ状態のジャックポット保安官は助言を聞く為に魔法ガラスの部屋にいたグレン連邦保安官の元に行く。

 

「どう思いますか?」

「奴は下っ端だ、何も知らないんだろう」

「通常通りに逮捕しても?」

「構わん。七つの大罪、厄介な組織の様だな……」

「俺の直感なんですが、七つの大罪というのは7つの組織の様に思えるんです」

 

 グレン連邦保安官はジャックポット保安官の言葉に顔を青ざめる。

 

「滅多な事を言うんじゃない。そう考えたらキリが無いだろ」

「考え過ぎだと良いんですが……」

 

 ジャックポット保安官はその後、ラクーン系獣人の男を殺人未遂の罪で逮捕し、事件の幕を閉じた。

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