俺の町は今日も今日とて平和です!   作:ボトルキャプテン

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14 初めての夜勤

 ゾンビ事件から数日後。キッドは顔を引き攣らせながら3人の豚の獣人族の男性達から事情聴取を行っていた。

 

「えーっと、皆さんはそれぞれ家を建てて直ぐに狼の獣人族の魔法戦士に襲われたと?」

 

 キッドの調べによると、この3人の豚の獣人族は兄弟でそれぞれ家を建て、平凡な1日を暮らしている時に狼の獣人族の男性魔法戦士が突然押し入って来たという。キッドの質問に三男の豚の獣人族が答えた。

 

「そうです。僕は藁作りの家なんですけど、急にやって来て「食い物か、金を出せ!さもなくば家を風魔法で吹き飛ばすぞ!」と言って来たんです!」

「なるほど、ならこの藁の残骸は夢のマイホームだったと?」

「そうですよ!建築費用いくらかかったと思ってるんですか!」

 

 キッドがチラッとジェシカ保安官に取り押さえられた狼の獣人族に目を向けると、

 

「暴れんじゃねぇよ!このクソボケが!」

「いててて!手錠が痛てぇんだよ!頼むから緩めてくれ!」

 

 ジェシカ保安官の怒号が響き渡る。キッドは目を戻し、他の兄達に声をかけた。

 

「では、次にお兄さんに尋ねますが、お兄さんも同じ被害を?」

「ええ、僕は次男なんですけど僕は弟より丈夫な木で家を建てました」

「犯人は弟さんと同じ事を?」

「はい。多少は耐えたんですが、まさか上級魔法まで出すとは思いも寄りませんでしたよ」

 

 キッドが調書を記録していると、ジェシカ保安官の元に突然、野次馬の中から赤い頭巾を被った人物が棍棒片手に現れた。

 

「おばあちゃんの仇!」

「ジェシカ保安官!?」

 

 ジェシカ保安官はものともせずに赤い頭巾の人物に銃を向ける。

 

「動くなっ!もしかして、コイツの知り合いか?」

「そうよ!」

「武器を下ろして下さいっ!」

 

 キッドも事情聴取を中断し、赤い頭巾に銃を向ける。赤い頭巾が武器を捨てながらフードを上げると、金髪の若々しく青い瞳が綺麗な女の子が顔を表した。赤い頭巾の女の子は大人しく両手を上げる。

 

「私のおばあちゃんはそいつに食べられて殺されたのよ!」

「向こうはそう言ってるけど、お前関係してんのか?今更嘘ついたって無駄だからな?」

 

 ジェシカ保安官が脅しをかけると、狼の獣人族の男性魔法戦士が顔を上げる。

 

「えっ、誰だよコイツ!?知らねぇよ!?」

「話聞いてたか!?嘘つくなって言ってんだろ!」

「いやホントに知らねぇって!なんだよおばあちゃんって!」

 

 狼の獣人族の魔法戦士に尋ねると、狼の獣人族の魔法戦士は知らぬ存ぜぬの一点張りだった。キッドは仕方なく、赤い頭巾の女の子に尋ねた。

 

「すいません、本当に彼なんですか?」

「えっ、えっと……。けど、狼の獣人族なのは確かよ!」

「狼の獣人族は俺以外にもウェスタンに山ほど居るだろ!狼違いだっ!見ろよ、豚の獣人族だってこの場に3人も居るんだぞ!?」

 

 それらを聞いたジェシカ保安官とキッドは一理あるなと頷く。ジェシカ保安官が赤い頭巾の女の子に尋ねる。

 

「嬢ちゃん、その狼の獣人族に何か特徴はあるのか?」

「確か、胸元に大きな傷がある筈よ!」

「おい、見せてみろ」

「はっはい……」

 

 狼の獣人族の魔法戦士が渋々鎧を外して服を捲るが、大きな傷は見当たらなかった。獣人違いと分かったキッドは、赤い頭巾の女の子に向かって声を掛ける。

 

「どうやら獣人違いのようです。なので、殺人未遂の容疑であなたを現行犯逮捕します。両手を頭の上に乗せて後ろを向いて下さい」

「なんでよっ!私だって被害者なのよっ!?」

「なんでって、獣人違いだからですよっ!これ以上暴れたら捜査妨害の罪も加わりますよ!?良いんですか!?」

 

 キッドがそう言うと赤い頭巾の女の子は大人しくなり、手錠を掛けられた。それを見届けたジェシカ保安官は魔線機を取り出す。

 

「こちらジェシカ保安官、容疑者2人を拘束した。牢竜車を要請する」

 

《了解しました。直ちに送ります》

 

「それと、もう一つ頼めるか?」

 

《ええ、構いませんが?何か御用でしょうか? 》

 

 ジェシカ保安官は赤い頭巾の女の子に顔を向けながら、

 

「ここ最近、胸に大きな傷跡がある狼の獣人族は逮捕されてるか?」

 

《調べて見ます。お待ちください……》

 

 数秒後、魔線機から返答が来た。

 

《3日前にベルモワ・ガーフィールドという★3盗賊冒険者がザウエル地区の銀行で強盗事件を起こし、射殺されています》

 

「そうか、ありがとう」

 

 魔線機と通信を終えたジェシカ保安官はそのまま赤い頭巾の女の子に声を掛ける。

 

「今確認したら3日前に別の事件を起こしてその場で射殺されたってよ」

「えっ、嘘……ほんとに……?」

「ああ。今確認取れた」

 

 それを聞いた赤い頭巾の女の子は目から涙を零しながら呟いた。事件を解決したキッド達は一日の勤務を終えて保安官事務所に帰ってくると、腕組みをしながらグレン連邦保安官が仁王立ちしていた。

 

「勤務ご苦労だったな」

「お疲れ様です」

「つかれーっす」

 

 キッドとジェシカ保安官が近付くと、

 

「キッド保安官、ちょっといいか?」

「はい?なんですか?」

「キッド保安官は【夜勤】はまだだったな?」

「はい。夜勤はまだ経験ありません」

 

ウェスタン国保安官事務所の夜勤は日勤の時とは環境が大きく変わる為、ベテラン保安官や夜行性獣人族や鳥人族が多い。

 

 ジェシカ保安官は経験があるのか、哀れみの目と緩んだ口でキッドの肩を叩く。

 

「あちゃ〜。ご愁傷様だな」

「えっ!?なんでですか!?なんでそんな可哀想な目しながらニヤついてるんですか!?」

「早速明日から半年。夜勤に入って貰うからな、頼んだぞ」

 

 グレン連邦保安官はそう言って自分のオフィスに戻って行く。ジェシカ保安官もキッドをニヤニヤしながら見ながら女子更衣室に入っていった。腑に落ちないキッドは何故ニヤつかれたのか不思議に思いながら男子更衣室に入っていった。

 

───────────────────────

 

 翌日。夕方になり、ウェスタンの街に静けさがやって来た。外には魔石街灯が灯り、あらゆる店は営業を終えて店仕舞いを終えていた。キッドも夕方から出勤し、更衣室に入ると日勤だったオースティン保安官、ロッキー保安官、ジャックポット保安官、ウィンストン保安官達と顔を合わせた。

 

「お疲れ様です」

「聞いたぞ若いの、初めての夜勤だろ?」

「初めての夜勤かぁ、懐かしいなぁ……色んな意味で」

「まぁ、その……頑張れ」

 

 出勤して間もなく同情されてしまった。キッドは「なんで?そんな風に言うの?」と言わんばかりに首を傾げる。キッドは堪らずジャックポット保安官に尋ねた。

 

「ジャックポット保安官、なんで夜勤で同情されるんですか?そんなに夜勤って日勤と違って厳しいんですか?」

「いや、まぁ……勤務は確かに日勤と比べると夜は犯罪率が上がってリスクが高まるのは確かなんだけど……まぁ、なんというか、夜勤専属の保安官は一癖も二癖もある奴らばっかりなんだよ」

 

 キッドはそれを聞いた途端、荒くれ者の保安官を想像した。

 

「そんなに怖がる事ないさ、とって食ったりしないから安心しろ」

 

 ウィンストン保安官に励まされると、キッドはパァっと明るくなる。

 

「ですよね、同じ保安官なんですから大丈夫ですよね!」

 

 ウィンストン保安官の言葉を胸にキッドはミーティングルームに入っていくと、直ぐに目に入ったのが蟲人族、鳥人族、ローブを被った人間族人物が横3列に並んで座っていた。何故か他の保安官達は少し席を離れて座っている。キッドも首を傾げながら席に着くと、グレン連邦保安官と黒豹系の獣人族の女性保安官が入って来た。

 

「おはよう、今日も全員揃ってるな?」

「おはよう。グレン、彼が新人かしら?」

「そうだ。日勤からの引き継ぎ事項を説明する前に、新人のキッド保安官だ」

 

 キッドは立ち上がって後ろを向いて自己紹介を始める。

 

「キッド・ウォーカー保安官です。今日から半年間よろしくお願いします!」

 

 小さく拍手が鳴り、よろしくと先輩から声を掛けられる。再び着席すると、グレン連邦保安官が口を開く。

 

「では日勤からの引き継ぎ事項だが、ダンジョン内で婦女暴行事件が起こり犯人の1人を逮捕、1人は逃走中だ。逃走中の犯人はカイル・トロースというマントヒヒ系獣人族の男だ。写真を配布するから顔を覚えていてくれ。日勤からは以上だ」

 

 グレン連邦保安官が引き継ぎを終えると、黒く光沢のある毛と鋭い眼光の黒豹系獣人族が口を開いた。

 

「ありがとう、グレン連邦保安官。君が新人ね?私はグレンと同じ連邦保安官の【オリビア・ウィリアム】。よろしくね?」

「はいっ、よろしくお願いします!」

 

 キッドはオリビア連邦保安官が男性だと思っていたが、女性とは思わず面食らってしまう。グレン連邦保安官もそれを見抜いたのか、後ろでクスクスと笑っていた。

 

「それじゃあ、キッド君は今日は……彼に頼もうかしら?【ブラッド・ローゼンベルク】保安官、良い?」

 

 キッドが目を向けるとそこには青白い顔色をした人間族がローブを深く被って座っていた。ローゼンベルク保安官がローブを上げながら返事をする。

 

「了解です。ボス」

「それじゃ、夜の治安を守るわよ!気合い入れなさいっ!」

 

 オリビア連邦保安官から気合いを入れられた保安官達は夜のウェスタンに向かって行った。

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