キッドはいつも通りに装備保管室から2人分を受け取ってブラッド保安官の元へ走った。ブラッド保安官はキッドを探しているのか辺りを見渡していた。
「遅くなりました。装備をどうぞ」
キッドが装備を渡そうとした瞬間、ブラッド保安官はキッドをギロっと睨み付けながら、
「何をしているんだ君は?」
思わぬ言葉が出て来た。キッドは答えに困りながら答える。
「え?いえ、日勤の時はいつも僕が装備を取りに行くんですけど?」
キッドが説明しようとするが、ブラッド保安官は首を横に振った。
「確かに先輩後輩関係なのは確かだが、我々は同じ保安官なんだから気にする事じゃない。明日からは私も自分で取りに行こう」
「あっ……はい、分かりました」
やり方の違いにキッドは戸惑ったが、気を持ち直して愛馬のビリーにまたがる。ブラッド保安官も黒毛の馬に跨るとその瞬間、ローブが捲り上がってブラッド保安官の素顔が露になった。目が赤く、尖った犬歯を持ち、肌に血の気はないが唇は赤く若々しい素顔だった。キッドは人間では無いと気付き、尋ねた。
「えっ……?ブラッド保安官、貴方の種族はなんですか?」
「私かい?私は魔族でヴァンパイアなんだよ」
「えっ!?ヴァンパイアなんですか!?」
キッドが驚いているとブラッド保安官は何食わぬ顔で、
「何をそんなに驚いているんだい?魔王軍には確かにヴァンパイア伯爵と花嫁はいたけど、私は人間族とのハーフで爵位も最下級の男爵なんだよ。血も吸えないし、力も人間族と変わりない」
ブラッド保安官曰く、ヴァンパイアにも階級があって以前勇者ライトニングと共に戦ったヴァンパイアの花嫁達やヴァンパイア伯爵は最上級のヴァンパイアで男爵であるブラッド保安官は最下級のヴァンパイアだという。
「お陰で魔王がまだいた頃に上位のヴァンパイア達からは落ちこぼれだの一族の面汚しだのと罵られて来たよ。それが悔しかったから魔王が倒された時代に保安官の求人募集を受けて他の保安官を見返してやろうと思ったんだよ」
「そうだったんですか……でも、ヴァンパイアにもこんなに綺麗な心の持ち主がいたんですね!」
キッドは純粋な気持ちでブラッド保安官に言い放つ。それを聞いたブラッド保安官は心を撃ち抜かれたかのようにときめいた。
「そんな風に言ってくれたのはグレン連邦保安官とオリビア連邦保安官だけだったな……嬉しいよ」
「な、なんか照れくさいですね」
「事実を言ったまでさ、さぁ夜のウェスタンを守りに行こうか」
「はいっ!」
2人はランプを首に装着させて愛馬にまたがり、夜の巡回を始める。キッドは昼間の街の活気溢れる雰囲気と全く真逆で静寂の雰囲気に圧倒されていた。
「昼間はあんなに騒々しいのに、夜になると怖いくらい静かなんですね」
「ああ、だからこそ犯罪率が跳ね上がる。気を引き締めてくれ」
「はいっ!」
巡回を始めて深夜を過ぎた頃。コルト地区の公園に1台の幌馬車を発見した。キッドとブラッド保安官は顔を見合わせて頷き、ランプを片手に幌馬車へ近付いた。
「こんばんは~。どなたかいらっしゃいますか?」
キッドが声をかけると幌を捲ってドワーフ族の男性が顔を覗かせた。ドワーフ族の男性を警戒させない為にブラッド保安官が声を掛ける。
「こんばんは、こんな真夜中での寝泊まりは不用心ですよ?」
「あー、すまんすまん。ちょっと夜風に当たりたくて外に出て来たんだ」
「なるほど、お住いは近くで?」
「ああ、ここから数分の所さ」
「そうなんですね。実は最近この近くで強盗などが多発しているので巡回を強化しているんです。冒険者ライセンスカードなどお持ちですか?」
ブラッド保安官が優しく問い掛けると、ドワーフ族の男性は潔く答える。男性は幌を閉じてガサガサと中を探し始める。
「はいはい、ちょっと待って……あれ?どこやったっけ?あれ?」
冒険者ライセンスカードが見当たらないのか、提示するのに時間がかかっていた。そして、
「あー、家に忘れて来ちまったか……」
ボソッと呟いた。キッドはやれやれと言わんばかりに、
「ないんですか?お手伝いしましょうか?」
キッドがそう言うと、
「あっ、いやあるから!ちゃんとあるから!」
男性は頑なに幌を開けなかった。キッドは何かを隠していると確信し、ブラッド保安官に話しかける。
「これは明らかに酒を飲んでますね」
「ほぉ。その根拠は?」
「日勤に今の言葉を言った奴は皆、必ずと言っていいほど飲酒運転をしていたんですよ。現に酒の匂いもしますしね?」
「悪くない判断だね。なら、飲酒運転で逮捕だね」
「はい」
2人は頷き、ドワーフ族の男性に声を掛ける。
「すいません、一旦外に出て来て貰いますか?」
「えっ!?」
何故かドワーフ族の男性は逮捕されるのを恐れているのか、出て来るのを渋る。ブラッド保安官はホルスターに手を掛けながら、
「何か不都合でもあるんですか?」
「あっ、いや……でも……その……」
ブラッド保安官が尋ねるとドワーフ族の男性は歯切れの悪い言い方をする。キッドも段々口調を強めていく。
「まずは幌を開いて下さい。それとも何かを隠してるんですか!?」
「無いよ!分かった!分かったよ、今出るから!」
ドワーフ族の男性は幌を捲って外に出て来た。キッドがランプで照らすと、ドワーフ族の男性の姿に目を疑った。
「…………武器は持ってないようですね……はい」
キッドの目の前には、女性用の下着を身に付けたドワーフ族の男性が手足に手枷と足枷を付けた状態で立っている。キッドはどこから聞いていいのか分からくなる。
「いやあの……それは……そのぉ、装備品ですか?」
「肌着です」
自分でも何を聞いているのか不審に思うキッドとそれを否定するドワーフ族の男性。この何とも説明し難い雰囲気にブラッド保安官が冷静な態度で口を開いた。
「酒は飲んでも飲まれるなと言うが、その様子だと貴方は相当飲まれた様だな。迎えに来てくれる友人や、冒険者仲間はいるのか?」
「い、いや……友達は居ないんです。クエストでも一人でこなせるクエストしかしませんし……」
「アンキロタクシーも呼べませんか?」
「財布も家に忘れて来てしまって……」
「ですが、このまま夜の道を徘徊させる訳には行きません」
「だろうな、こんな格好じゃな」
キッドとブラッド保安官は警戒を解き、手枷足枷を外したほぼ丸腰のドワーフ族の男性に尋ねる。
「今夜はどのくらい飲んだんですか?」
そう尋ねると、ドワーフ族の男性は首を傾げる。
「いや……すまん、覚えていない」
「そうですか……」
忘れる程飲んだのをは明白の為、キッドは更に簡単な飲酒テストを出してみた。
「では、両手を横に付けて僕のこの手を見てください。動かないで下さいね?指示するまで何もしないで下さい」
「ああ……分かった。分かったよ」
ドワーフ族の男性は指示に従う。
「では、僕の人差し指を目で追って下さい」
キッドはゆっくりと右手の人差し指を横に動かして行く。すると追うように目で追う。キッドは意識がハッキリしていると黙って頷く。
「問題無さそうですね、では次はこの地面のえぐれた所を綱渡りをする様に歩いて見て下さい」
キッドは地面を足で地面を削って線を描いた。ドワーフ族の男性は黙って頷くとドワーフ族の男性はスムーズに進み始める。キッドとドワーフ族の男性のやり取りを優しい目で見守るブラッド保安官。
「歩き方も問題無さそうですね。着替えはあるんですか?」
「えっ?着替えはないよ」
「家にはもちろんあるんですよね?」
「家の鍵は開いてるんですか?」
「開いてるよ。俺一人だしね」
キッドは手錠を取り出して、
「では、貴方を飲酒運転で逮捕します。その前にあなたの家に立ち寄って着替えを取りに行きます。その状態では保安官事務所の留置所には入れられないですから」
「分かった。けど、家に行くのは俺も一緒に?」
「いえ、牢竜車の中で待機して貰います。直ぐに取りに行ける所に着替えはないんですか?」
「どーかな?覚えてないんだ」
ドワーフ族の男性は手錠を掛けられながら答えた。
「こちらキッド保安官、1人を逮捕したので牢竜車を要請する」
《了解、直ちに急行させます》
その後、牢竜車の御者保安官に事情を説明すると「なんだあの格好!?」と驚き叫んだ。