俺の町は今日も今日とて平和です!   作:ボトルキャプテン

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16 禁断の恋

 それから約1週間が経った。夜勤にも慣れて来たキッド保安官はブラッド保安官と共に装備を受け取りに向かった。その時、ブラッド保安官は装備保管室の保安官に声を掛ける。

 

「済まないが、ピースメーカーの弾薬を一箱くれないか?」

「はいっ!ブラッド保安官!どうぞ!」

 

 装備保管室の保安官はブラッド保安官に弾薬の箱を手渡しする。だがその時、人間族の女性保安官が書類の山を持ってブラッド保安官に向かって走って来た。人間族の保安官は気付いてなかったのかブラッド保安官に衝突してしまい、書類と弾薬を廊下にぶちまけてしまった。

 

「すいません!大丈夫ですか!?」

「いやいや、大丈夫だよ。事務の書類整理も大変だね」

「はっはい……本当にすいませんでした!!」

 

 女性保安官は書類を集めて早々とその場を後にする。残されたキッドとブラッド保安官は散りばめられた弾丸を拾い始める。

 

「あーあ、大丈夫ですか?」

「なぁに、大した事ないさ」

 

 その時、ブラッド保安官とキッドの手が触れた瞬間。ブラッド保安官に電撃が走ったかのように衝撃が走った。ブラッド保安官は咄嗟に立ち上がってしまう。その時にベストの胸ポケットからメモ帳を落としてしまった。

 

「あっ、ブラッド保安官?メモ帳を落としましたよ?」

 

 キッドが拾った瞬間にメモ帳に挟めていた紙が落ちてしまう。その紙を拾い上げると、その紙にはキッドの様々な角度の似顔絵が描かれていた。その似顔絵はもう100人の保安官が見たとしてもキッドとわかる程の出来栄えだった。

 

「えっ?これって……」

 

 キッドが唖然としていると、ブラッド保安官はパッとメモ帳と紙を取り上げて胸ポケットにしまった。

 

「弾薬は全て拾ったね?」

「えっ……あっ、はいっ!」

「それじゃ、馬を用意しようか」

「あっ、なら僕が取りに行きますね!入り口で待ってて下さい!」

 

 駆け足でキッドは向かった。その間、先程の似顔絵が気になり首を傾げる。その姿を異様な目で見つめるブラッド保安官があった。

 

「さっきの似顔絵なんで僕だったんだろう……?あれか!似顔絵の練習をしてたんだなきっと!それだ!間違いない!」

 

 愛馬のビリーとブラッド保安官の愛馬を引き連れながらそう考え始めていた。

 

「ブラッド保安官!どうぞ」

「あぁ、ありがとう」

 

 キッドが手綱を渡した途端、ブラッド保安官はキッドの手を掴んだ。驚いたキッドにブラッド保安官は、

 

「見たんだろ?」

 

 そう呟いた。キッドは先程の似顔絵の事を言っていると思い、

 

「え?あっ、はい」

「本当に?全部見たの?」

「ええ、すっごい上手いですね。あれならどんな指名手配も逃げられないですよ!」

「ふーん、そっか」

 

 そうブツブツ言いながら愛馬に跨り、進み始める。キッドは不気味に思いながらビリーに跨り、後を追った。

 

───────────────────────

 

 夜のグロック地区を巡回していると、以前ロッキー保安官と共に入ったダンジョンから人間族の女性冒険者が泣きながら助けを求めて来た。

 

「助けてぇっ!お願いっ!」

「どうしました!?」

 

 キッドがビリーから降りて人間族の女性冒険者にランプを片手に近付くと、20代前半くらいの若い女性と分かった。その女性の装備や衣服はモンスターにやられたのか、ボロボロだった。

 

「何があったんですか!?」

「ダンジョンの奥で獣人の人に……ぐすっ」

「キッド君。彼女を安全な場所に連れて行きなさい」

 

 ブラッド保安官は鞍から毛布を取り出して女性冒険者にかけた。ブラッド保安官の顔は怒りに満ちていた。

 

「ブラッド保安官はどこへ!?」

「私かい?そりゃ勿論、悪党退治さ」

 

 ブラッド保安官はホルスターからアダマンタイト製のピースメーカーを抜いて弾薬を装填した。それと同時に、ダンジョンからマントヒヒ系の獣人族の男が現れた。

 

「ちっ、保安官か」

「動くな。その顔は……指名手配犯のカイル・トロースだな?婦女暴行の容疑でお前を逮捕する」

 

 ピースメーカーの撃鉄を起こして銃を構えるブラッド保安官。だが、マントヒヒ系獣人族の男は怯むことなくブラッド保安官に近付いて来ると、マントヒヒ系の獣人族の男の身長は2mを越えていた。

 

「おい、まさか保安官2人でこの俺を捕まえようってのか?」

 

 マントヒヒ系獣人族の男は重剣戦士を生業としているらしく、巨大な大剣を背中に背負っており、その大剣に手にかけながらブラッド保安官に言い放つ。だが、ブラッド保安官は涼しい顔をしていた。

 

「笑わせるなよ小僧。お前ごときで可愛い後輩を使うものか、私1人で相手をしてやる」

「ほぅ、面白ぇ!やれるもんならやってみな!!」

「最後の警告だ。武器を捨て、両手を上げるんだ」

「保安官なんて怖くねぇなぁ!」

 

 睨み合う2人の間に緊張が走る。最初に長い沈黙を破ったのはマントヒヒ系の獣人族の男だった。一瞬で抜刀し、ブラッド保安官を袈裟斬りしようとしたが、華麗に一撃を躱した。

 

「なにいっ!?」

「今度はこっちの番だな」

 

 ブラッド保安官は1発、2発、3発と放った。だが、至近距離だったのに全く相手に当たっていなかった。マントヒヒ系獣人族の男も撃たれてないのを自分の手で確認した。

 

「当たってねぇぞ?この野郎、脅かしやがってぇ!!」

 

 マントヒヒ系獣人族の男は再び振りかぶるが、

 

「それは……どうかな?」

「死ねぇっ!!」

 

 大剣を振り下ろそうとした瞬間、ビタッと止まった。マントヒヒ系獣人族の男は背中を確認すると……右肩、尻、太ももに銃創が出来ていた。

 

「なっなにぃ!?」

 

 マントヒヒ系獣人族の男が膝を付くと、ブラッド保安官は不気味に笑い出す。

 

「驚いたか?私は曲がりなりにもヴァンパイア男爵。弾丸に魔力を込めるなんて朝飯前さ」

「まっ、魔力だと!?」

「その証拠に」

 

 ブラッド保安官は空に向かって1発撃つと、弾丸は羽虫の様に円を描く様にブラッド保安官の周りを飛び始めた。

 

「確かに私は落ちこぼれのヴァンパイアだが、モンスターや同族意外なら絶対に負けない」

 

 真紅の満月をバックにブラッド保安官は言い放つ。マントヒヒ系獣人族の男は勝てないと判断したのか、大剣を投げ捨てた。

 

「ちっ……俺の負けだ……さっさと手錠かけろよ」

「賢明な判断、感謝する」

 

 ブラッド保安官はマントヒヒ系獣人族の男に手錠をかけた。そして魔線機を手に取る。

 

「こちら、ブラッド保安官。指名手配中のカイル・トロースを逮捕した。牢竜車を要請する」

 

《了解。直ちに急行させます》

 

 そこへ、被害者女性を避難させていたキッドが合流する。

 

「ブラッド保安官、さっきの弾丸はどうやったんですか?外したと思ったら急に方向転換して当たりましたけど!?」

 

 驚いたキッドは目を輝かせながらブラッド保安官に尋ねると、ブラッド保安官は頬を赤らめながら、

 

「た、大した事はし、してないよ。装填する時に魔力を込めて操ったのさ」

「えっ!?そんな事出来るんですか!?」

「魔族は他の種族より数倍の魔力を持っているからこそ出来るんだ。発砲してからも魔力で弾丸を操作しなければならないから魔力の消耗も激しい。魔族以外の種族には不向きなんだよ」

「魔族ならではの業ですね!凄いです!」

 

 キッドは尊敬の眼差しでブラッド保安官を見つめると、ブラッド保安官は顔を赤らめる。

 

「そ、そんな事より被害者女性を保護しないとね」

「そうですね」

 

 牢竜車に容疑者を引き渡して被害者の人間族の女性を事務所で保護していると、被害者の親族が引き取りに来た。親族は泣きながらキッドとブラッド保安官に礼をして帰って行った。その後、報告書をまとめているとあっという間に外が明るくなり始めた。

 

「あっ、もうすぐ夜明けか……」

 

 オリビア連邦保安官に報告書を提出し、帰り支度を始めるとブラッド保安官が既にワイシャツにジーンズの上に真っ黒のローブを羽織っていた。キッドに気付いたブラッド保安官はキッドに声をかけた。

 

「今日もお疲れ様」

「お疲れ様でした」

 

 キッドが着替え始めると、ブラッド保安官が何か言いたげそうな顔をする。

 

「キッド君」

「はい?なんですか?」

「帰る前にちょっと話があるんだ。私に付いてきてくれるか?」

「えっ?あっ、はい。分かりました」

 

 ロッカーに制服を仕舞い、帰り支度を済ませたキッドはブラッド保安官と共に事務所を後にした。事務所から少し離れた所に公園があり、歩き始めるとブラッド保安官が立ち止まった。

 

「あれ?ブラッド保安官?どうしたんですか?」

 

 キッドが振り返ると、ブラッド保安官は神妙な顔付きをしていた。それはまるで一世一代の大勝負の覚悟を決めるかのように。

 

「キッド君……」

「はい?なんですか?」

 

 2人の間に朝日が登り始めると、

 

「君が好きだ!大好きなんだ!」

 

 思わぬ言葉にキッドが唖然とする。だが、ブラッド保安官は思いの丈をぶつけ始めた。

 

「ずっと、ずーっと自分の心にしまっておこうと思ってた。けど、見て褒めてくれただろ!?似顔絵……!」

「えっ……はい……」

「だったら自分の気持ちにこれ以上嘘をつくのやめようって……!」

 

 ブラッド保安官は片膝を付いて頭を下げる。

 

「だが私は君の指導する立場……!だから、君を1人前にするまで時間をくれ!」

 

 ブラッド保安官はそう言って日光が当たらぬようにその場を走り去って行った。取り残されたキッドは我に返り、

 

「あっ……えーっと……どうすれば良いんだろう……とりあえず、帰ろ」

 

 突然の告白に複雑な気持ちを抱えながらキッドは帰宅した。

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