俺の町は今日も今日とて平和です!   作:ボトルキャプテン

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17 恋のライバル?

  ブラッド保安官から告白されてから2週間後、非番のお昼時にキッドはコルト地区の酒場に来ていた。昼時だからか、店の中は冒険者や労働者で賑わっていた。キッドが呼び出した理由としては、ブラッド保安官からの告白を相談する為である。普段の制服姿とは打って変わって、白いシャツに茶色のベストとジーンズというカジュアルな格好で現れた。その相談相手というのは……番犬と恐れられているジェシカ保安官だった。ジェシカ保安官は若干イラつきながらレモネードの入ったグラスを片手にキッドを眺めていた。

 

「で?なんだよ、相談って?非番の日にあたしを呼び出すなんて余程の事なんだろうな?」

「ええ、実は……その……」

「なんだってんだよ!こっちは忙しいんだよ!」

 

 不満が爆発したジェシカ保安官がテーブルを叩き付ける。キッドは慌てて口を開く。

 

「分かってます!その、なんというか……説明が難しいんですよ!」

「なんだよ、オリビア連邦保安官が好みだから口説き方でも教えろってのか?おいおい、寝言は寝て言えよ?このボケナス」

 

 ジェシカ保安官が皮肉を言うと、キッドは顔を赤らめる。

 

「なっ!違いますよ!!確かにオリビア連邦保安官は綺麗ですけど!」

「んじゃなんだよ、笑わねぇから言ってみな?」

「ええ、実は……」

 

 ジェシカ保安官はレモネードを飲みながら言い放つ。そして、キッドが意を決して、

 

「ブラッド保安官に告白されまし──────」

「ブゥーーッ!!」

 

 キッドの顔面にジェシカ保安官のレモネードが散弾銃の様に口から噴き出した。キッドはナプキンでレモネードで濡れた顔を拭う。

 

「はっ、はぁ!?ブラッドの旦那にか!?」

「え、えぇ……。どうしたらいいのか分からなくて……」

「その辺の小娘かと思えば、旦那かよ……そりゃ分かんねぇわ」

「あの、どうすれば……良いんですかね?」

 

 ジェシカ保安官は言った通りに笑わずに真剣に聞き入れ、何かを考え始めた。

 

「うーん、同性愛とか人種差別にはあたしは興味はねぇけどよ」

「僕だってありませんよ!?」

「じゃあ何が問題なんだ?だったらさっさと断りゃ良いじゃねぇか?」

「だって……先輩ですし、尊敬してますよ。性格も紳士的ですし……」

「人としては好きだから、断りづらいってか?」

 

 キッドの考えを見抜いたのか、ジェシカ保安官はキッドの言いたい事を言い当てた。見抜かれたキッドは黙って頷く。

 

「ったく、しょうがねぇなぁ……」

 

 ジェシカ保安官はそう言いながら一気にレモネードを飲み干した。

 

「とりあえず、明日でブラッドの旦那とは組むの終わりなんだろ?」

「はい、なんか……明日の夕食は用意しなくていいと言ってましたけど」

「ふーん……なるほどな、分かった。あたしに任せな」

 

 頼もしい事を言いながら、ジェシカ保安官は立ち上がった。キッドはジェシカ保安官に顔を向ける。

 

「任せろってどうするつもりなんですか?」

「簡単じゃねぇか、諦めさせりゃ良いんだよ」

 

 ───────翌日。非番が明けて再び夜勤に励むキッドはいつも通りに出勤すると、ピクニックバスケットを持ったブラッド保安官と出会した。

 

「やぁ、キッド君」

「あっ、お疲れ様です!」

「今日の夕食、私に任せてくれないか?」

 

 ブラッド保安官はピクニックバスケットを擦りながらどこか恥ずかしそうに言う。

 

「えっ?あっ、はい……分かりました」

 

 制服に着替えてミーティングを済ませて装備品を受け取り愛馬に跨って街に繰り出した。珍しくなんら事件も起きること無く、休憩時間を迎えると、ブラッド保安官とキッドはコルト地区の酒場に馬を止めた。

 

「そろそろ休憩にしようか」

「あっ、もうこんな時間なんですね」

 

 キッドも懐中時計を懐から取り出して確認し、愛馬のビリーから降りて柵に繋ぐ。店の中に入りると、エルフ族の女性店員が近付いて来た。

 

「いらっしゃいませ!何名様でらっしゃいますか?」

「2人だが、見ての通り我々は勤務中なので2階のテラスの席を貸して頂けるかな?」

 

 ブラッド保安官は金のバッジを見せると、エルフ族の女性店員は察したのか、快く聞き入れてくれた。

 

「保安官でしたか、いつもご苦労さまです。では、お2階のテラスをお使い下さい」

「ありがとう。では、キッド君行こうか」

「はい」

 

 大賑わいの酒場を眺めながら階段を上がると、夜空を眺めながら食事が出来るテーブルが設置されていた。ブラッド保安官が先に腰掛けて座りランチバスケットをテキパキと広げ始めた。

 

「さっ、キッド君も座って座って」

「あっ、はい。失礼します」

 

 キッドが反対側に座るとブラッド保安官はバスケットから卵のサンドイッチとハムとチーズとトマトが挟まったサンドイッチを取り出した。

 

「今日、来る前に作って来たんだ。沢山食べてくれ!」

「あ……はい。頂きます」

「キッド君の口に合うといいが……」

 

 キッドは卵のサンドイッチを手に取り口に運ぶ。それをかたづを飲んで見守るブラッド保安官。そして、キッドは満面な笑みを浮かべた。

 

「うわっ、美味しいですよ!」

「ほんと!?嬉しいなぁ……!」

 

 ブラッド保安官が嬉しそうな顔をしたその時。

 

「よぉよぉ、随分仲良しじゃねぇか?」

「なっ……なぜ君が?」

 

 ブラッド保安官の視線の先にある入口のスイングドアから、私服のワイシャツのボタンを上から3つ開けており、大人の色気を出した勤務を終えたジェシカ保安官が立っていた。

 

「ブラッドの旦那……今は勤務中だよな?保安官たるもの公私混同は良くないんじゃないかぁ?」

「どういう事だ?ジェシカ保安官?」

 

 サンドイッチを置いてブラッド保安官はジェシカ保安官を睨みつけると、

 

「おいおい、鈍いにも限度ってもんがあるだろ?キッドが嫌がってるのが分かんねぇのか?」

 

 ジェシカ保安官の言い方が気に入らなかったのか、ブラッド保安官の眉間にシワが寄った。

 

「分からないな。一体何が言いたんだ?」

「わかんねぇなら、教えてやるよ」

 

 そう言いながらジェシカ保安官はキッドを抱き寄せて大きな胸の中へ抱きしめた。元々女性の獣人族は人間に近い為、人間族の様な体つきをしている。その為、キッドはもにゅっと柔らかい胸に押し込まれた状態になっている。その状態でジェシカ保安官はブラッド保安官に、

 

「コイツはあたしのもんだ、黙って手を引けって言ってんだよ」

「ほぉ、言うじゃないか……お嬢さん」

「第一、手作りの夜食なんて気色悪ぃんだよ。女でもやんねぇぞ?」

「えっ、そうなのか!?キッド君!?」

「むーっ!むーっ!」

 

 ブラッド保安官はキッドに尋ねるが、胸の中に顔を埋めてるので答えられなかった。

 

「指導する先輩に対して言える訳ねぇだろボケナス」

「むーっ!むーっ!」

「ちょっ、てめぇくすぐってぇだろ……黙ってろ!1ヶ月そこらでキッドをモノに出来ると思ってんのか?こちとら基本を叩き込んだんだぞ?」

 

 ジェシカ保安官がキッドの頭を撫でながら言うと、ブラッド保安官は悔しかったのか普段の紳士的な態度とは程遠い様な顔付きでハンカチを歯で引っ張り始める。

 

「キィーーッ!今は私が指導者だ!新しく基本を叩き込めばいいっ!」

「そんな時間無駄だろうが!」

「なんだとこの小娘っ!」

「うっせぇ!この色狂いジジィ!十字架突き刺すぞっ!」

「なんだとこの牝犬っ!」

「ならコイツの使えねぇとこ10言えんのか!?」

「ぐっ……そう来たか……」

 

 ジェシカ保安官がそう言い放つとブラッド保安官は言葉を詰まらせた。キッドはキッドで10もあるのかと落ち込む。

 

「えーっと……」

「優柔不断、体力ない、根性ない、ビビリ、銃火器オタク、ガリ勉、帽子似合ってない、ガンベルトダサい、ブーツ臭い、いい歳してボクって言う!!」

 

 畳み掛ける様に言うとジェシカ保安官の胸の中でキッドは死にたいと呟いた。

 

「キッド君を悪く言うなっ!何時まで胸の中に閉じ込めてるつもりだこのアバズレッ!」

「うるせぇ落ちこぼれヴァンパイアがっ!」

 

 キッドを引き離して2人は掴み合いが始まった。投げ出されたキッドは慌てて2人の仲裁に入る。

 

「やめてくださいっ!このままだと通報されますよ!?」

 

 キッドが大きな声で言うと、2人はピタッと止まる。

 

「確かにそうだな、大人気無かった。このサンドイッチはキッドが食べてくれ私は少し頭を冷やして来るよ」

 

 そう言い残し、ブラッド保安官はテラスから出ていった。キッドはジェシカ保安官に、

 

「ジェシカ保安官、なにもあんな言い方しなくてもいいじゃないですか」

「これくらい言わなきゃ伝わんねぇんだよ。これで暫くは大人しくしてるだろ。あたしはこれで帰るぜ」

 

 ジェシカ保安官はボタンを直して酒場へ戻って言った。取り残されたキッドはサンドイッチを残さず食べた。休憩時間が終わって酒場を出るとブラッド保安官は既に馬に乗っていた。キッドの方に視線を一切向けず、一言も発しないで黙々と業務をこなしていた。指導期間が終了しても、ブラッド保安官はキッドの評価報告書を提出して早々と着替えて帰ってしまった。キッドはこれで良かったのかと顔を曇らせてしまった。

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