─────翌日。ブラッド保安官との勤務を終えたキッドは少し早めに出勤し、ブラッド保安官を探していた。更衣室に入ると、たった1人でポツンと制服に着替えていたブラッド保安官を見つけた。
「あっ、ブラッド保安官おはようございます」
「キッド君か、おはよう。今日は早いな」
話を聞かれる訳には行かない為、辺りに他の保安官がいないか確認しながらキッドも着替え始め、ブラッド保安官に声をかけた。
「ブラッド保安官、昨日の件なんですけど……」
「昨日……うん、俺は気にしてないから大丈夫」
ブラッド保安官は何食わぬ顔で答えた。キッドは続け様に言い放つ。
「そ、その……ちゃんと話さないと行けないと思って」
「話さないといけない……か、そうか……」
上は保安官のワイシャツは下着というアンバランスな格好のままブラッド保安官はキッドの方に向いた。キッドも両手をギュッと握って拳を作りながら、
「ごめんな─────」
「だぁぁぁぁっ!聞こえない聞こえないっ!何も聞こえないっ!」
「いや、ブラッド保安官!?しーっ!静かにして下さいっ!」
「いやぁぁぁぁっ!」
「あーもうっ、ごめんなさいっ!」
キッドはブラッド保安官に向かってお断りの意味でごめんなさいと深々と頭を下げた。ブラッド保安官もはっきり聞こえたのか、膝から崩れ落ちた。
「そ、そんな……」
「ブラッド保安官……その……」
「…………何故だ?」
「えっ?」
「何でダメなんだ?私が魔族だからか?それともジェシカ保安官と付き合ってるからなのか?それとも、私が男だからなのか……?」
うずくまりながらキッドに尋ねる。キッドも中途半端な格好をしながら膝をついて答えた。
「ジェシカ保安官とは付き合ってません。アレはジェシカ保安官が勝手に言った事です」
「─────っ!?なら」
「それだけじゃないんです。僕は、ブラッド保安官の事を先輩としてとても尊敬しています。いつも冷静沈着で誰にでも優しくて、僕がミスをしてもしっかりフォローしてくれる理想の先輩だと思っています。ですが、それは……恋愛感情とかじゃないんです……。僕は普通の先輩後輩の関係が一番嬉しいんです。こんな僕に好意を持っていただきありがとうございました……」
キッドが土下座をして深く頭を下げた。ブラッド保安官は理解したのか、立ち上がって再び着替え直した。ビシッと制服姿になったブラッド保安官の顔はスッキリした顔をしながら、
「キッド君の評価は昨晩に提出させて貰った。多少ミスはあったけど問題無さそうだ。今日からまた是非頑張ってくれ」
ブラッド保安官はそう言い放ちながらテンガロンハットを深く被る。だが、その奥には涙が溢れていた。キッドも制服に着替えてミーティングルームに行き席に座るとオリビア連邦保安官が入って来た。
「こんばんは、みんな。早速だけど、キッド君とブラッド保安官が1ヶ月指導を終えたので今日から別の保安官と組んで貰うわ。そうね……【クリス・ギャレット】保安官、良いかしら?」
キッドが横を向くと、ワシミミズク系の鳥人族の男性保安官が胸から十字架を取り出して祈っていた。鳥人族は頭が鳥で体は獣人族と同様人間に近い姿をしている。異なる所は背中から翼が生えているという所だ。その鳥人族のクリス保安官が頭を下げながら答える。
「それが神の思し召しというのであれば……承ります」
「クリス保安官は牧師と僧侶の資格を持つ稀な聖職者の保安官なんだから頼りにしてるわ。日勤からの引き継ぎは特にないわ、今夜も街を守るわよ!」
ミーティングルームを出て装備保管室に向かうと、クリス保安官が既に装備品を受け取って待っていた。
「すいません!直ぐに取りに行きますから!!」
キッドが慌てて行こうとすると、
「慌てなくて良いですよ。ここに貴方のもありますから」
「えっ!?」
クリス保安官は既にキッドの装備品も受け取っており、準備を済ませていた。
「すいません!ありがとうございます!」
「準備が出来次第出発しましょう」
キッドは急いで愛馬のビリーを連れて行くと、どういう事かキッドが先に出た筈なのにクリス保安官は既に白毛の馬に跨っていた。
「おかしいな、先に出た筈なのに……?」
「私は鳥人、飛べば先を越せますよ」
「えっ……?飛ぶ?天井スレスレを?僕に気づかれずに?」
なんとも言えない気持ちでコルト地区を進んで行き、大物冒険者が拠点にしているグロック地区に入った。すると、魔線機から応答があった。
《グロック地区6番道路で男女が口論しているとの通報がありました。クリス保安官、キッド保安官向かえますか?》
家庭内騒動の通報が入った。クリス保安官は魔線機を手に取り答えた。
「こちらクリス保安官、現場に急行します。神の御加護を……」
クリス保安官とキッドは馬を走らせて現場に向かった。……数分後、現場に着くとそこにはドレス姿の人間族の女性と紳士服を着た人間族の男性が取っ組み合いをしていた。
「キッド保安官は女性を頼みます」
「分かりました!」
キッドとクリス保安官は2人組に近付いて声を掛けた。
「こんばんは、神も上から嘆いていらっしゃる……。こんな夜更けにお止めなさい……」
「そうですよ、ちょっと落ち着いて下さいっ!」
「離してっ!悪いのはそっちよ!」
「違うって言ってるだろ!誤解なんだって!」
2人を引き離してそれぞれ話を聞く事にした。キッドはメモ帳を片手に人間族の女性から話を聞き始めた。
「まず、お名前を教えてください」
「ふぅ……私はシンデレラ」
「シンデレラさん……。一体何があったんですか?差し支えなければ教えて貰っても?」
「えぇ、彼からガラスの靴を貰った後にプロポーズをされたんだけど、アイツと来たら……思い出すだけでも腹が立つわ!」
ガラスの靴を履いたシンデレラと名乗った女性は腕組みをしながら怒りに満ちていた。
「それで何が?」
「あの馬鹿野郎が浮気したのよ!」
「あちゃ〜。訴訟を起こすなら弁護士を探した方がいいですね」
調書を書き始めようとしたその時、シンデレラが激昂しながら叫び出す。
「ふざけんじゃないわよっ!その浮気相手ってのが私の母親だったのよ!?落ち着いてなんかいられないわよっ!なによ、こんなもん!」
シンデレラは履いていたガラスの靴を脱いでクリス保安官と男がいる方向に投げ捨てた。ガラスの靴は地面の石に当たりバリンと音を立てて砕け散る。
「おいっ!折角拾ってやったのに!」
「いい気味ね!ざまぁないわ!このクソッタレ!」
「このぉっ!ちょっと優しくしてやればつけ上がりやがって!」
今にも飛びかかりそうな男をクリス保安官が宥める。
「落ち着きなさい。貴方も悔い改めるべきだ」
「だから……俺は浮気なんかしてないん─────」
「きやぁぁぁっ!貴方どうしたの!?なんで保安官と一緒にいるの!?」
路地から人間族の中年女性がランプを片手に悲鳴を上げる。シンデレラが振り返った瞬間。
「シンデレラ!?あなたこんな真夜中に何やってるの!?早く帰って明日の仕事が山ほどある───」
「うるせぇクソババァッ!!家で散々こき使った挙句の果てには男まで奪うっての!?」
突然、罵詈雑言を言い放った。シンデレラの母親は顔を引き攣らせながら、
「さぁ?なんの事かしら?所で、何故彼がここにいるの?家で待ってたのに?」
シンデレラの母親は男性に尋ねると、男性は顔を歪ませる。
「お母様、お母様からも言って下さいっ!シンデレラは私達が不倫関係だと決め付けて手に負えないんです!」
それを聞いたシンデレラの母親は顔を青ざめさせながら、
「えっ……不倫?貴方、シンデレラなんかもう愛してない、形だけ結婚して私と一緒になるって言ってたじゃない!」
修羅場の空間に爆弾発言を言い出した。それを聞いたシンデレラは更に怒りをあらわにする。
「何よそれ!?どいつもこいつも私の事をバカにして!もう、頭に来たわ!」
シンデレラはキッドを突き飛ばし、ドレスのスカートを捲ると太ももに隠していたナイフを取り出して走り出す。キッドは瞬時に銃を抜きながら叫んだ。
「武器だっ!」
クリス保安官は男性を守る様に立ち塞がりながら銃を構える。
「お止めなさい……無闇に人の道を踏み外してはいけません……」
「武器を捨てて下さいっ! あなたはたった今保安官に対する暴行の容疑を起こしました。これ以上罪を重ねないで下さいっ!」
ウェスタン国のギルド法で犯罪を上乗せする事になっている。例えば、保安官に暴行してしまうと、暴行と捜査妨害を起こしてしまったので2つの刑で罰せられてしまう。
シンデレラははっと我に返り、ナイフを落としてへたりこんでしまう。キッドがナイフを押収し、クリス保安官が手錠を掛けた。
「神の慈しみに信頼して、貴女の罪を告白しなさい……。神の許しを求め、心から悔い改めの祈りを唱えるのです」
クリス保安官はそう優しく問いかけると、シンデレラは黙って俯きながら大人しくなった。すると、シンデレラの母親が口を開く。
「なんて子なのかしら、恥ずかしいったらありゃしないわ!」
手錠を掛けられたシンデレラに言い放つ。それを聞いたキッドは怒りを覚えた。
「実の娘になんでそんな事を言えるか理解出来ませんね。ことの原因はあなた達なのに」
「こちらクリス保安官。容疑者を1人確保、牢竜車を要請する……」
《了解、直ちに向かわせます》
数分後、シンデレラは牢竜車に乗せられて行った。クリス保安官は取り残された男と母親に近付いた。
「彼女は悔い改めるでしょう。ですが、神は見逃す事はありません。あなた方も悔い改める必要があるでしょう……」
クリス保安官がそう言い放つと、2人はバツが悪そうに顔を逸らしてクリス保安官に視線を合わせなかった。