俺の町は今日も今日とて平和です!   作:ボトルキャプテン

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第1章
01 不作の新人


  ───────半年後。戦闘経験が全く無かったキッドは、ギルドが設立した保安官訓練学校に入学し、厳しい訓練を受けてようやく保安官になる事が出来た。訓練中にとある事件が起り、それにより訓練学校を卒業出来たのはキッド・ウォーカーただ1人だけだった。

 

歴史を遡るとフロンティア大陸とロンドール大陸を支配しようとしていた魔王が勇者一行に倒されて魔王軍との戦争が終結し、勇者の働きにより奴隷制度が廃止になり奴隷制を認めない大陸となった。魔王軍との戦争が終わるとフロンティア大陸全体結ぶ魔導鉄道を敷設するため【大陸横断魔導鉄道】が設立された。その工事にはロンドールから海を渡った人間族、獣人族、妖精(ピクシー)族、蜥蜴人(リザードマン)族、ドワーフ族、エルフ族、魚人族、蟲人(インセクター)族、鳥人(ハーピィ)族、小人(ホビット)族の種族移民が従事し、同年にフロンティア大陸で鉱脈から高密度の魔石が発見されたとロンドールで報道されたのをきっかけに、それ以降フロンティア大陸では【マジックストーンラッシュの大陸】と呼ばれるようになった。

 

 そんなビックチャンスが手に入れられる大陸にキッドはロンドールから西からガレオン船で海を渡り、大陸横断魔導鉄道に乗り込んで馬車の車輪の様な形に形成されている荒野と西海岸に挟まれた国【ウェスタン】へとやって来た。

 

ウェスタンの面積は12,562km²で、人口は約996万人。魔王との戦いが終結してから数年でフロンティア大陸は国が50ヶ国まで増え大きく発展している。

 

 ウェスタンの駅に辿り着いたキッドは、荒野の大地に一歩踏み出した。馬車や竜車が行き交う街の中を歩き進み、今後勤める事になる保安官事務所に辿り着いた。保安官事務所は5階建てのレンガで頑丈な造りだった。保安官事務所の造りは1階が受付や更衣室、装備保管室、馬房があり、地下には留置場がある。

 

 キッドは扉を開けて受付の人間族の女性に声を掛けた。

 

「おはようございます。キッド・ウォーカー到着しました」

 

 受付の人間族の女性は顔を上げた。

 

「あっ、今日から来る新人の方ですか?」

「はい、そうです」

 

 キッドが答えると、

 

「でしたらこの先の更衣室で着替えてから2階のミーティングルームに向かって下さい」

 

 キッドは女性の指した方向に顔を向ける。

 

「はい、分かりました。ありがとうございます」

 

 キッドは女性に一礼し、更衣室に向かった。中に入ると、様々な種族の保安官達が装備を整えて雑談をしている中、キッドはよそよそしく自分のロッカーを探して着替えを始めた。保安官の服装はギルド職員と変わらず、ベストにスーツズボンである。着替えていると辺りから、

 

「あいつ、もしかして新人か?」

「噂はホントだったのか?今回の新人は【不作】だって」

「仕方ねぇよ。あんな事件があったんだからな……」

 

 そんな言葉が聞こえて来た。だがキッドは気にすること無く着替えを終えてガンベルトを腰に巻き、今日から相棒となる【銃】をホルスターに収めた。

 

銃とは様々な魔導具と共に新たに開発された武器であり、保安官専用の武器である。

 

 テンガロンハットを被り、そして新人保安官の証である銅のバッジを胸に付けてロッカーを閉じた。2階に上がり、ミーティングルームに入ると様々な種族の保安官達が椅子に座っていた。キッドは最前列の席に座ると、筋骨隆々とした体格のバイソン系獣人が白金色のバッジを輝かせながら教壇に歩いてやって来た。

 

「おはよう。新人の為に自己紹介をしよう。俺の名前は【連邦保安官】の【ジノベール・グレン】。バイソン系獣人とバッファロー系獣人のハーフだ。早速だが、今日から新しい新人が入った。新人、立て」

 

 グレンに促されたキッドは慌てて立つ。

 

「皆も噂を聞いていると思うが、今年は不作だ。なので、虐めないように可愛がってやれよ?」

 

 グレン連邦保安官が軽いジョークを言うと、他の保安官達はクスクスと笑う。

 

「半年間の訓練を経てこのウェスタン保安官事務所にやって来た。保安官としてやって行きたいなら結果を出す事と、正しいやり方を頭に叩き込むんだ」

「分かりました」

 

 キッドが座ると、グレン連邦保安官が他の保安官達に指示を出し始めた。

 

連邦保安官というのは保安官の上司であり、保安官の上級職である。

 

「んじゃ、栄えある不作の新人キッド・ウォーカーを指導をするのは……【ジェシカ・レジーナ】、今日はお前に任せる」

 

 キッドが後ろを振り向くと、白と黒が混じったのショートカット髪型に金色に輝くバッジを付けた黒いベストとズボンに真っ白なワイシャツに耳が突き出たテンガロンハットを被り、引き締まった目付きのシベリアンハスキー犬系の獣人族の女性が座っていた。

 

「りょーかーい」

「今日は初日だ。最後にならない様に先輩の言葉を一言も聞き漏らすなよ?」

 

 グレン連邦保安官に釘を刺されたキッドは大きく頷いた。

 

「はい。分かりました」

「んじゃ、今日も気を付けて頑張ろう」

 

 ミーティングが終わり、席を立とうとしたその時。

 

「ジェシカ保安官。ちょっと新人に話があるから待っててくれ」

「へいへい。あたしはコーヒーでも飲んで待ってますよ」

 

 ジェシカ保安官がミーティングルームから出ると、グレン連邦保安官がキッド近付いて来た。

 

「報告書を読んだ。大変だったな」

「ええ、まぁ……はい」

「だが、ここに来たという事は、辞めるつもりはないんだろう?」

 

 その言葉にキッドは顔を曇らせるが、直ぐに気を取り直した。

 

「勿論です。でなきゃ、他の同期達に顔向け出来ませんから」

 

 キッドの真っ直ぐな目にグレン連邦保安官は黙って頷いた。そのままキッドは1階に降りて装備品保管室から装備品を受け取り、装備品を担ぎながら馬房に向かうと、ジェシカ保安官が立って待っていた。

 

「遅かったじゃん。何?グレン連邦保安官になんて言われた?「もう辞めちまえ」とか言われた?」

「いえ、同情されました」

「ふーん、あの事件がトラウマになってるから?」

「どうでしょうか、僕にはそう聞こえませんでした」

「さぁね、来たからにはビシバシ働いて貰うから覚悟しな」

 

 荒っぽい言葉遣いのジェシカ保安官に連れられてキッドは管理する芦毛の馬の前に立たされた。

 

「今日からこの馬があんたの相棒。名前は無いから好きに呼べばいい」

「はい」

「馬が負傷していないか確認しな。もししてたら記録を忘れんなよ?」

「はい」

「その次は銃に弾を込めてホルスターに収める」

「はい」

 

 キッドは指示通りに銃にスムーズ弾薬を装填させる。

 

キッド達が装備する銃は【ピースメーカー】と呼ばれる回転式拳銃で、6発装填する事が出来る。

 

 キッドの青みが暗くにぶい青緑色のピースメーカーを見たジェシカ保安官が少し驚いていた。

 

「あんた、随分使い古した銃持ってんのね。【鉄製】じゃない」

 

冒険者の武器と同じように保安官が装備する銃にも品質がある。鉄製、ミスリル製、ヒヒイロカネ製、ダマスカス鋼製、オリハルコン製、アダマンタイト製そして、最上級の硬度を誇るメテオタイト製がある。

 

 そんな銃を目の当たりにしたジェシカ保安官に嫌味を言われたが、気にする事なくキッドは口を開いた。

 

「これは、訓練所の教官から貰ったんです」

 

 キッドの言葉にジェシカ保安官は口が滑ったと言わんばからりの顔をする。

 

「悪い、そんなつもりで言ったつもりじゃない」

「いいえ、気にしてませんから」

「そっか。それじゃ馬に乗って」

 

 そう言ってジェシカ保安官は自分が管理している栗毛の馬に跨る。キッドもゆっくりと相棒の馬に跨った。

 

「最後に、弾が入った銃を持って走り回るんだからケツの穴引き締めろよ?」

「はいっ!分かりました!」

 

《コルト地区6番通りで銀行強盗が発生。ジェシカ保安官、向かえますか?》

 

 キッドが緊張していると、【魔線機】から声が聞こえて来た。

 

魔線機とは、中に内蔵されている魔石の魔力使って通信を行うための魔導具。この魔導具で遠く離れた保安官事務所からやり取りする事が可能になる。

 

 その魔線機にジェシカ保安官が答えた。

 

「こちらジェシカと新人、直ぐに向かう。んじゃ、新人のお手並み拝見と行こうか?」

「はいっ!」

 

 ジェシカ保安官とキッドは馬を走らせてコルト地区の銀行に向かった。

 

このウェスタンは12の地区に分かれており、ウェスタン国の中心であるコルト地区は商業区でもあり、冒険者ギルドで様々な冒険者が集まっている。街を巡るにはラプトルライダーやアンキロタクシーと呼ばれる循環竜車が便利だという。

 

 事件現場に辿り着くと、そこには人間族の女性魔導士と、エルフ族の男性盗賊が袋に詰まった現金と杖とダガーを手にしながら銀行の出入り口で騒ぎを起こしていた。ジェシカ保安官とキッドは馬を避難させてホルスターから銃を抜き、強盗犯に向けた。

 

「保安官だ!武器を捨てやがれこのクズ野郎共!」

 

 ジェシカ保安官の怒号を聞いた冒険者達は杖とダガーを向けて来た。

 

「【番犬ジェシー】が来やがった!魔法で殺っちまえ!」

「任せなっ!【ファイヤーボルト】!」

 

 人間の女性魔導士がキッド達に魔法を放って来た。

 

ボルトと言われた魔法とは、発射系魔法。貫通性に優れ、鎧などを貫く威力がある。連射、破裂など上位互換の魔法もある。

 

 火の魔法は地面に当たり、爆発して地面が飛散する。ジェシカ保安官とキッドは3発ずつ応戦したが弾は外れてしまい、二手に別れて物陰に隠れた。

 

「あたしが盗賊狙うからあんたは魔導士を狙って!」

「了解しました!」

 

 キッドはガンベルトから弾を抜き取り、装填し、一旦ホルスターに収めて様子を伺う。

 

魔法と銃ではこちらが不利と思うだろう。だが、実際は保安官にも有利な所もある。

 

「おい、早く魔法撃てよ!逃げられねぇよ!」

「分かってるわよ!『貫く魔法を我に撃たせたまえ……』」

「─────っ!!」

 

 キッドは詠唱している一瞬の隙を突いて素早く銃を抜き、引き金を引いた。キッドのピースメーカーから放たれた銃弾は杖に直撃し、魔導士は杖を地面に落とした。

 

「動くなっ!膝まづいて両手を頭の上に乗せろ!」

「くっそ……なんて速さなの!?」

 

 キッドは手早く強盗犯を取り押さえ、女性魔導士に手錠をかけた。

 

「へぇ、初日で強盗犯を逮捕するなんてやるじゃねぇか!」

 

 肩越しに振り向くと、ジェシカ保安官がもう1人の男性盗賊に手錠を掛けてこちらにやって来きた。

 

「訓練所でも、魔導士相手を想定してたものですから」

「そっか、こちらジェシカ。強盗犯2人を逮捕。【牢竜車】を要請」

 

 ジェシカ保安官が魔線機で保安官事務所に牢竜車を要請した。

 

牢竜車とは、牢屋が備わっていて容疑者を護送する竜車である。

 

 ───────数分後。牢竜車が到着し、犯人を牢屋に入れたキッドは銃をホルスターに収めた。

 

「ほら、まだ1日が始まったばかりなんだからシャキッとしなっ!」

「は、はいっ!すいませんっ。ジェシカ保安官は冒険者から番犬ジェシーって呼ばれてるんですね」

「冒険者達が勝手にそう呼んでるだけさ。あたしは別に気にしてないよ」

 

 ジェシカ保安官とキッドは牢竜車を見送った後、再び荒野の街を駆けて行った。

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