───────数日後。今日も今日とて夜の荒野の町を巡回中にコルト地区の一件の八百屋から通報が入った。駆け付けたキッドは顔を引き攣らせながら取り調べを行っていた。
「もう一度お尋ねします。小腹が空いたからこの八百屋さんに忍び込んで野菜を盗み食いをしたという事ですね?」
キッドが現行犯で逮捕した窃盗犯のマーモット系獣人族の男に尋ねる。
「はい、すんません」
マーモット系の獣人族の男は口の周りをトマトの果汁塗れにしながら答えた。キッドの事情聴取によると、このマーモット系獣人族の男は酒を飲んだ帰りに小腹が空いた為、どこかに食べる店はないかと歩いたが店が殆ど閉まっていた為、たまたま窓の閉め忘れていた八百屋が目に入り、侵入を試みたと言う。だが体格が良過ぎたのが仇となり、店の棚を倒してしまい、物音を立てて店の主が気付き通報したという。
「さっさと追い出してくれっ!店をめちゃくちゃにしやがって!!どうすんだよ、明日からどう暮らしていけってんだ!!」
激昂する人間族の男性店主はマーモット系獣人族の男に怒鳴り散らす。クリス保安官はマーモット系獣人族の男に手錠をかけながら店主を落ち着かせる。
「お気持ちお察しします。訴訟を起こすのであれば後日弁護士を雇う事をお勧めします。彼には必ず神から厳しい罰が下されるでしょう」
「ああ、そうしてもらうよ!」
「こちらクリス保安官、容疑者を確保。牢竜車を要請します」
《了解、直ちに向かわせます》
数分後、牢竜車が到着して御者の人間族の中年男性保安官とエルフ族の男性保安官の2人と合流した。
「こいつか?逃げずに食い続けてたバカってのは?」
「どんだけ食い意地張ってんだよ!」
「クリス保安官。後は俺達に任せな」
「頼みます、あなた方に神の御加護を」
「ありがとよ、んじゃな」
クリス保安官とキッドは牢竜車を見送り、再び愛馬に跨ると再び魔線機に通信が入る。
《ナイトホーク地区の住宅街で不審者が徘徊しているとの通報。クリス保安官、キッド保安官向かえますか?》
「了解、直ちに向かいます」
キッド達が現場に急行し、静まり返った住宅地をランプを照らしながら見渡していると……円錐形の帽子、ひだ襟、ゆったりとした上着とズボン、爪先のふくらんだ靴格好をした人物が不気味に歩いていた。
「あれは【道化師】ですね……なんでこんな時間に?」
「大道芸の帰りかも知れませんね」
道化師というのは、商人職の1つで公園や劇場で大道芸を見せながら収入を得ている。有名な道化師になると貴族などから屋敷に呼ばれて大金を獲得出来る事もある。
キッドは念の為に警戒しながら道化師に声を掛けた。
「こんばんは、不審者の通報を受けて来たのですが。お話し聞かせて貰っても良いですか?」
「………………」
道化師は無言のまま近付いて来る。ランプの明かりのお陰でなんとか蜥蜴人族やドワーフ族でないのが確認できたが、化粧をしているのもあって人間族なのかエルフ族なのかは判別が付かなかった。
「お疲れの様ですが、大丈夫でしょうか?治療師を呼びますか?」
クリス保安官も優しく声を掛けると、道化師は右手を腰に回す。すると、腰から【ホースマンズ・フレイル】を出して来た。ホースマンズ・フレイルとは、騎兵が片手で使える様に作られた軽く短い打撃武器である。
「武器だっ!」
「動いてはいけません。貴方を撃ちたくないのです」
キッドとクリス保安官は直ぐに撃鉄を起こしてピースメーカーを構える。警告を促すが、道化師は何も言わずに武器を片手に近付いて来る。
「武器を捨てて止まって下さい。最後の警告ですよ?」
そう言った瞬間、道化師は指笛を鳴らし始める。夜の住宅街に鳴り響くと似た様な格好をし、斧、剣、槍で武装した道化師達があちこちから現れた。キッドとクリス保安官は道化師達に囲まれてしまった。
「数が多いですね、応援を呼びますか?」
キッドはクリス保安官に背中を合わせてピースメーカーを構える。だが、クリス保安官は涼しい顔をしながら、
「大丈夫です。神は我々をお守りしていますから応援は不要です」
「えっ、呼ばなくて良いんですか!?10人は居ますよ!?」
「大丈夫。さぁ、道化師達よ、最後の警告です。武器を捨てて地面に伏せて許しを乞うのです。さすれば……神はお救いになるでしょう」
クリス保安官は釘を刺す様に道化師達に問い掛けるが、無言のまま道化師達は武器を構えたままだった。薄暗い空間の中、1人の道化師がキッドに襲いかかった。
「警告したからなっ!」
キッドは悪態を付きながらその道化師に発砲する。右肩に当たった道化師は銃創を抑えながらこちらを見つめている。これを機に、次々と道化師達が襲いかかって来た。
「神よ……お許しください……」
クリス保安官が呟いた瞬間、クリス保安官はランプを投げ捨てて翼を開き、夜空に羽ばたいた。
「とっ飛んだ!?クリス保安官、何処ですか!?」
キッドが距離を取りながら道化師達に発砲する。道化師達に治療魔法を覚えているのが混ざっているのか、先程攻撃した道化師も傷口を塞いで攻撃に参加して来た。
「どうする……先ずは治癒魔法を使うやつを狙うべきか!?」
呟きながらキッドが悩んでいると、背後からショートソードを構えた道化師が近付く。
「しまった!?」
背後を取られたキッドは咄嗟に銃口を向けたが反応に遅れてしまった。
だが、その時。
暗闇からクリス保安官が滑空しながら道化師に右脚を突き出して音もなく道化師を蹴っ飛ばした。
「大丈夫ですか?」
「すいません、助かりました!」
「油断なさらず、治癒魔法を扱う道化師は私が探しますので貴方は他の道化師を頼みますよ?」
「分かりました!」
クリス保安官は再び飛び上がって暗闇に消えて行く。キッドは一旦ピースメーカーをホルスターに収め、蹴り飛ばされた道化師に手錠を掛けて身柄を拘束した。
「残り……9っ!」
キッドは透かさず得意の早撃ちで4発撃ち、後ろから迫っていた道化師の2人に発砲する。4発はそれぞれ2発ずつ足と肩に命中した。道化師達は無言のまま地面にショートソードや槍を落とすと、キッドは蹴って拾われない様にした。指笛で愛馬のビリーを呼び寄せてサドルバッグから予備の手錠を2つ取り出して2人を拘束した。
「これで7っ!」
拘束を終えた瞬間、空から手錠で拘束された道化師6人が落ちて来た。
「これで1です」
「凄い、たった数分で6人を無傷で逮捕するなんて」
「そんな事はありませんよ。さて、残りの1人は……」
キッドとクリス保安官の目線の先には、メイスを持った道化師がいた。道化師は他の仲間が逮捕された為、メイスを捨てて一目散に逃げ出した。
「止まれ!止まらないと撃つぞっ!!」
キッドが逃げようとしている道化師に銃口を向けたが、クリス保安官に止められた。
「もう血を流す必要はありません」
「ですが、このままでは逃げられてしまいますよ!?」
「私に任せなさい」
そう言うと、クリス保安官は飛び上がりあっという間に追い付いて道化師の顔を蹴って転ばせた。最後の1人を鳥人族特有の対趾足でガッチリ押さえ付けながら魔線機を取り出した。
「これで良いでしょう。こちらクリス保安官、武装した道化師を10人逮捕。牢竜車を要請します」
《了解!直ちに向かわせます!怪我はありませんか!?》
通信司令の係員も尋常ではないと察知してクリス保安官に尋ねる。
「問題ありません。それとオリビア連邦保安官にも連絡を頼みます」
《了解!直ちに!》
───────10分後、牢竜車と共にオリビア連邦保安官が顔を青くしながらやって来た。来て早々クリス保安官とキッドに声をかける。
「2人共怪我はない!?」
「ええ、問題ありません」
「僕も大丈夫です」
道化師達は牢竜車に詰め込まれても沈黙し続けながら3人を見つめていた。オリビア連邦保安官は負けじと睨み返す。
「気味の悪い奴らね、あれから道化師が暴れてるっていう通報がいくつか出て他の保安官達で対処したけど一体何が目的なのかしら?」
「一言も喋らないのが余計不気味ですね」
キッドが顔を曇らせながらオリビア連邦保安官に言う。ブツブツと何かを推理している。そして……オリビア連邦保安官は「まさか……」と呟きながら、
「2人共、警戒を強めて……コイツらは、囮よ」
そう言った瞬間、魔線機に通信が入った。
《全保安官に通達。ウェスタン国に向かう魔導列車にて列車強盗が発生!!繰り返します!魔導列車強盗が発生!!》
キッド達に緊張が走った。