───────夜が明けてからオリビア連邦保安官は強盗犯の魔法使いの1人を取り調べを行っていた。普段は艶やかな雰囲気を出しているのだが、今回は今にも咬み殺す勢いで犯人を尋問していた。
「さぁ、とっとと答えなさい。あなた達だけじゃあんな大仕事出来ないわよね?誰の指示で動いていたの?」
「けっ、誰が言うかよ……」
強盗犯も負けじと啖呵を切る。カチンと来たのか、オリビア連邦保安官は机を蹴飛ばす。
「舐めんじゃないわよ坊や。どうしても話さないって言うなら、私のタレコミ屋を使って今後逮捕した犯人をあんたが情報を密告したというありもしない情報を流すわよ?そしたらあんた、五体満足無事でいられるかしら?」
魔法使いは慌てて顔を上げる。
「お、おい!保安官がそんなデマカセしていいのかよっ!」
「保安官だから何しても良いのよ。私だから良かったものの、昔の同期だったらあんた今頃無事じゃ済まなかったのよ?さぁ、どうする?」
オリビア連邦保安官が魔法使いに取引きを持ちかけると、余程怖いのか犯人は口を開いた。
「わ、分かったよ。ただし命の保証だけはしてくれよ?」
「良い子ね、勿論よ」
魔法使いが情報を話し始めると、オリビア連邦保安官は目を見開いた。
「七つの大罪があなたの親玉って事なのね?」
「ああ、ボスは俺達にノルマを課すんだよ。一月に100万ゴールドを奪って来いって……だから仲間を道化師に変装させて時間稼ぎをしてる間に魔導列車を襲ったんだ」
「月100万ゴールド……そんなに稼いで何をするつもりなの?」
オリビア連邦保安官は首を傾げると、
「俺も分からねぇけど、金に執着してるのは確かだ……」
「そう……情報はそれだけ?もう少し詳しい情報はないの?」
更に情報を引き出そうとしたが、魔法使いは首を横に振る。
「いや……俺は下っ端だからボスの顔すら知らねぇんだ。毎回魔導話で連絡してくるからな」
「なら……ウェスタンの外で最近あちこちの小さい村や街で起きてる略奪行為をしていた事件はあんたち七つの大罪の仕業だったのね?」
ウェスタン国の外にはポツポツと小さい町が点在している。そこに最近になって野盗が町を襲っている事件が多発していた。冒険者ギルドはクエストを発行し、冒険者を送り込んだが返り討ちにされたのか、誰1人帰っては来なかった。襲撃の際に通報は受けていたが保安官が到着する頃には既に逃走した後だった。
「ああ、金になるもん全部奪ってボスに献上したよ。武器、薬、食い物、女、子供」
オリビア連邦保安官は立ち上がり、魔法使いに言い放つ。
「周りを奪い尽くしたから最後に大きな街を狙うって訳か……」
「そうだと思う、それと……仲間うちで聞いた話だと、ボスの胸には蜘蛛の刺青が入ってるって噂だ」
「蜘蛛の刺青?ようやくまともな情報ね」
「俺が知ってる情報はこれで全部だ」
「最後に1ついいかしら?」
オリビア連邦保安官はおもむろに手袋をはめて紙袋から魔薬草を取り出した。
「この植物の事は分かるわよね?」
「……見た事はある。けど、俺は今まで魔薬草関連の略奪はしてねぇ」
不可解な点に再び首を傾げた。
「どういう事?あんた達がこの魔薬草を流してるんでしょ?」
「知らねぇよ。俺達は盗みを働いてただけだ、魔薬草は扱った事もねぇ」
埒が明かないと踏んだオリビア連邦保安官は別室の方に向かって、
「グレン、貴方の意見も聞かせてくれる?」
グレン連邦保安官を呼ぶと、隣の部屋で監視していたグレン連邦保安官が入って来た。
「本当に知らないのか?洗いざらい話せば減刑を求めてやる」
「ちょっと待ってくれ、あんた達一体何の話してんだ?ボスからだって魔薬草を捌いて来いって命令今までされた事もねぇんだ!」
「グレン、どう思う?」
オリビア連邦保安官が尋ねると、グレン連邦保安官は不安が過ぎったのか、額から汗を滲ませながら口を開く。
「考えたくはないが、七つの大罪はグループに分かれている」
「意味が分からないわ、分かりやすく言ってくれる?」
グレン連邦保安官は紙と鉛筆を持ちある図を書きながら説明を始める。
「要するにだ、七つの大罪は強盗団ではなく盗み担当、魔薬草密売担当と言った感じで幾つかのグループに分けられているという事だ。つまりコイツの場合は盗みを担当していたって事だ」
「ならコイツは強盗担当のボスの事を言ってたって訳?そんなの、ありえないわ」
理解できないというより、その考えだけはしたくなかったと言わんばかりにオリビア連邦保安官は頭を悩ませ始める。それに追い討ちをかけるように、
「いや、その考えは間違ってはいねぇ。金にものを言わせて冒険者を雇ってたんだからな」
「その資金はどこから?あなたが用意したの?」
「ボスの使いが俺の所にやって来て、200万ゴールドくらい寄越したんだ。その資金で目立つ様に道化師に変装させたんだ」
魔法使いの言葉を聞いてオリビア連邦保安官はブツブツと呟きながら考え始めた。
「資金は調達されている……それはどこから?魔薬草を売った金……。蜘蛛の刺青……七つの大罪と名乗っている……あっ!」
閃いたのか、あっと声を出す。グレン連邦保安官は少し驚いた。
「なんだ急に、何か思い付いたのか?」
「簡単よ。七つの大罪、7つのグループがあるって事よ。傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲この7つになぞられた組織があるのよ」
「つまり、この強盗団の親玉は……強欲の罪を司っているのよ。金に執着している理由はそこにあるわ」
オリビア連邦保安官の推理にグレン連邦保安官ははっとする。
「そうか、だから魔薬草に関心がないのか。通りで話しが通じない訳だ」
「じ、じゃぁ……」
魔法使いは恐る恐るオリビア連邦保安官に声をかけると、オリビア連邦保安官は……。
「とてつもなく巨大な犯罪組織という事ね」
「俺達は強欲の罪の親玉を怒らせたって事になる……」
「グレン、この話はまだ憶測の段階だからまだ黙っていた方が懸命よ。タレコミ屋を使ってもっと情報を集めて確信に変えないと他の保安官事務所に説明出来ないわ」
「そうだな、俺のタレコミ屋を使って探って見よう」
グレン連邦保安官は早足で部屋を出て行った。残された魔法使いとオリビア連邦保安官は顔を見合わせる。
「大した情報が無かったから減刑は難しいわね」
「そ、そんな……」
オリビア連邦保安官は部屋の外に待機していた保安官を呼び、魔法使いを連れて行った。オリビア連邦保安官は懐から懐中時計を取り出して時刻を確認する。
「遅くなってしまったわね、早く帰って寝たい……ふわぁ……」
背伸びをしながら取り調べ室を後にした。その日の夕方、再び出勤したオリビア連邦保安官はネクタイをキュッと締めてミーティングルームに入った。
「おはよう皆、魔導列車の時はご苦労さま。それじゃ、まずはクリス保安官とキッド君が昨日で研修が終わったから今日から別の保安官にお願いするわ。そうね……【ジャンゴ・ベルナルド】保安官、お願い出来る?」
オリビア連邦保安官の視線の先には、黒い光沢で頭に2本の鋸の様なハサミが生えているノコギリクワガタ系蟲人族がいた。ジャンゴ保安官は黙って頷く。
「日勤からの連絡事項は最近、小人族のリトル盗賊団とドワーフ族のタイタンズでの間で抗争が起きてるそうよ。一般市民に危害が及ばないように細心の注意をして頂戴。以上よ!」
キッドがジャンゴ保安官の元に行くと、無言で合図しながらミーティングルームを出た。キッドは寡黙なジャンゴ保安官に声をかける。
「今日からよろしくお願いします。装備はどうしますか?僕が持って行きますか?それとも一緒に?」
「…………一緒に行く」
「あっはい」
そのまま装備保管室に行き、2人の装備品を受け取る。ジャンゴ保安官はホルスターからダマスカス鋼製のピースメーカーを抜いて耳元でシリンダーを回してチェックする。装備保管室の保安官が口を開いた。
「ジャンゴ保安官、指示通りにシリンダーと撃鉄を交換してオイルを注油しました」
「…………」
ジャンゴ保安官は黙って頷きながらホルスターにしまった。キッドはかっこいいと思ったのか、真似をしてシリンダーを回すと……。
「似合わねぇよ、もう少し箔がついたらやりな」
と言われてしまった。キッドはクールな蟲人族のジャンゴ保安官の様にまだまだひよっこと思われているようだった。