キッドは何時になく緊張しながらジャンゴ保安官の隣を並走する。なぜなら未だに会話という会話をしていないからだ。強いてあげるとしたら「結婚は?」という質問に、「してない、いや、していた」という初っ端から地雷を踏んでしまった為である。キッドは気まずそうな顔をしながらジャンゴ保安官の様子を伺うと、
「何を見てる?」
「い、いえ……交流する方法を考えてました!」
緊張のあまりに声を上ずらせながら答える。ジャンゴ保安官はそれがおかしかったのか、くすりと笑う。
「緊張する事はない、今まで通りに勤務すればいい」
「はっはいっ!」
ナイトホーク地区を一通りに巡回をしていると休憩時間がやって来た。キッドとジャンゴ保安官は馬を繋ぎ、ハンバーガーの屋台に顔を出した。ドワーフ族の店主は2人に声をかける。
「らっしゃい保安官、なんにする?」
「チーズバーガーとポテトを頼む」
「あいよ、飲み物は?」
「レモネードで頼む」
「あいよ。そっちのあんちゃんは?」
「あっ、僕も同じやつでお願いします!」
「あいよ、ちょっと待ってな」
ドワーフ族の店主はテキパキと料理を始める。ジュージューと焼けるモンスターの肉汁とチーズの匂いがキッドの空腹を刺激する。最後に木のコップに大きな氷が入り、レモネードが注がれた。
「お待ちどうさん、2つで1300ゴールドだ」
「はい、650ゴールド」
「こっちもだ」
「毎度あり」
キッドとジャンゴ保安官はベンチに座り、新聞紙に包まれたチーズバーガーを開いて大きくほうばる。
「うわ、美味しい……」
「ここのバーガー屋は美味いんだ」
「ジャンゴ保安官のお気に入りなんですか?」
「まぁな」
チーズバーガーを堪能している最中、ガラの悪そうな人間族の若い男性冒険者達がクエストの帰る途中なのか、ゾロゾロと歩いて来た。人数は6人でその中の1人がキッドの愛馬ビリーに気付くと、なんのためらいもなく近付いた。
「へぇ、いい馬じゃねぇか」
「お前に価値が分かるのか?」
仲間内でそんな言い合いをしていた。声に気付いたキッドはムッとし顔つきになり、席から立ち上がって冒険者達に近づいた。
「こんばんは、僕の愛馬に何か御用ですか?」
「あぁん?」
手斧を腰に差していた冒険者がキッドを睨み付ける。キッド、バッジが見える様に見せつけながらホルスターに手をかける。
「もう一度言います。僕の愛馬に何か御用ですか?」
キッドのバッジに気付くと、
「保安官の馬があまりにもかっこいいもんでさ、なぁ、どうだ?俺に売ってくれねぇか?」
怖気付くどころか、売買を求めて来た。キッドは呆れながら答える。
「この馬は保安官事務所が所有しているので僕に権限はありません」
「細けえ事は気にするなよ、100万ゴールドか?200万ゴールドか?」
「話し聞いてました?売りませんよ」
「なんだとこの野郎っ!」
手斧を差した冒険者がキッドに掴み掛ると、槍を背負った軽装の冒険者がリーダー的存在なのか止めに入って来た。
「何してやがる!大人しくしてろってボスに言われてただろ!?」
槍を背負った冒険者は手斧を差した冒険者を突き飛ばしながらキッドに振り向く。
「済まなかったね保安官。コイツ、言う事聞かなくて……困ってんだ」
槍を背負った冒険者は軽く頭を下げる。キッドも警戒を解いてホルスターから手を離した。
「いえ、お互い穏便に済ませましょう。装備を見る所、あなた方はクエストの帰りの様ですが?」
「ああそうなんだ。昼休み中に迷惑かけて済まなかったね、ウチらはもう帰るよ。そっちの蟲人族の保安官さんも、悪かったね」
「はい、お気を付けてお帰りください」
槍を背負った冒険者はこの間、ずっと睨み付けていたジャンゴ保安官にも挨拶をしてその場を去って行った。この時、ジャンゴ保安官はホルスターに手を置いて警戒をしていた。口論が収まると、キッドは再びテーブルの席に着いた。
「すいません、ご迷惑おかけしました」
「いや、適切な判断だったよ。あの冒険者達は【バンデッドファミリー】の一味だったしね」
「バンデッドファミリーってあの人間族で構成されている!?」
以前タレコミ屋を手に入れる時に教えて貰ったファミリーの名前が出た為、顔を驚かせる。
「ここで逮捕者を出してたら余計面倒だったからね、アレが正解なのさ」
「報復の恐れが?」
「それも有り得る。バンデッドファミリーは保安官を恐れないからな」
「保安官を恐れない……以前、冒険者ゾンビの事件で痛感しました」
「まぁ、問題は起きないだろう。さて、昼休みも終わりだ。巡回に戻るよ」
「はいっ!」
キッドはレモネードを一気に飲み干して席を立って巡回に戻って行った。ナイトホーク地区を出てグロック地区に入った途端に魔線機から通信が入った。
《グロック地区の12番通り付近の坑道型ダンジョンで報酬強盗が発生。ジャンゴ保安官、キッド保安官。現場に急行出来ますか?》
「12番通りならここから3分で着きますね」
「そうだな。こちらジャンゴ保安官。現場に急行する」
事件現場はサボテンが生えている山に形成された廃坑道型のダンジョンに到着した。ダンジョンの広さは5メートル程でトロッコを使っていたと思われる線路があった。キッドとジャンゴ保安官はレバーアクションライフルに弾薬を装填し、ランプを腰に下げながらジャンゴ保安官を先頭にして突入して行った。ジャンゴ保安官は頭の鋏の隣に生えている小さい触覚をピクピクさせながら迷路の様な坑道を迷わずに突き進みながら被害者を探し始めた。分かれ道に差し掛かる。キッドがどっちか悩んでいると、何かを感じ取ったのかジャンゴ保安官はキッドに声を掛ける。
「被害者は右の道にいるな」
「え!?何故分かるんですか!?」
「ああ、俺の触覚は僅かな振動や声を探知出来るからな」
ジャンゴ保安官は自分の触覚に指をさしながら自分の能力を説明する。
「便利な触覚ですね、疲れないんですか?」
「市民の命を守るのが仕事だからな、疲れる余裕なんてないさ」
そんな事をいいながら進んで行くと、頭から血を流している小人族の女性神官が倒れていた。キッドが止血を施してから事情を聞くと、3人で受けたクエストから戻る途中に残りの2人に魔力が切れた所を襲われたらしい。だが、昔に坑道で使っていた緊急用魔導話がある場所だった為連絡出来たという。
「運が良かったですね。緊急用魔導話が無ければ発見されませんでしたよ」
「ありがとうございます……」
「その襲った冒険者の特徴は?」
「えーっと……人間族の魔法剣士とドワーフ族のシールダーです」
「なるほど、まだモンスターが近くにいるかも知れません。ここを出ましょう」
キッドが小人族の女性神官に肩を貸し、ジャンゴ保安官を先頭に来た道を戻り始めた。ようやくダンジョンから脱出した途端、
「わぁぁぁぁっ!来るなぁっ!」
小人族の女性神官を襲ったと思われる冒険者の2人がサボテンに擬態していた食人植物のモンスター数匹に襲われていた。ジャンゴ保安官は魔線機を取り出しながら、
「向こうは運が悪かった様だな。こちらジャンゴ保安官、被害者を救出中にモンスターに襲撃された。応援を要請する!」
《了解、直ちにブラッド保安官とクリス保安官を急行させます!》
ジャンゴ保安官はレバーアクションライフルでサボテンの食人植物に攻撃を始めた。1匹に命中すると、銃創から黄色い体液を垂れ流しながらジャンゴ保安官の方に振り向いた。
「俺が相手だ」
食人植物がジャンゴ保安官に掴みかかると、レバーアクションライフルの銃床を使っていなしながら銃口を頭と思われる所に向けて発砲した。至近距離で発砲するとサボテンの頭は弾け飛び、地面に倒れた。
「ここで休んでて下さい!」
キッドもドワーフ族のシールダーに襲っていた食人植物に狙いを定め発砲した。レバーアクションライフルで近付きながら発砲すると、食人植物は数箇所風穴を空けながら倒れた。死んだのを確認し、キッドはドワーフ族のシールダーに声を掛けた。
「怪我はありませんか?」
「あっあぁ……助かった……」
「我々が来た理由はご自身が良く分かってますね?」
キッドがレバーアクションライフルに弾薬を装填しながら尋ねると、ドワーフ族のシールダーは観念したのか、盾を降ろした。
「ああ……小人族の神官の件だろ?助けてくれるなら逮捕でもなんでもいいっ!」
ドワーフ族のシールダーは余程懲りたのか、すんなりと逮捕に応じた。だがまだモンスターが残ってる為、逮捕は出来なかった。考えたキッドはドワーフ族のシールダーに背中を向け、警戒を強めた。
「まだモンスターは残ってます。だから手を貸して下さい」
「生き残れるなら何だってやれるさ、盾しか取り柄がないんでね」
キッドに背中を合わせる様にドワーフ族のシールダーはキッドを守り始める。その頃、ジャンゴ保安官はシャツをボロボロにし、レバーアクションライフルを槍の様に振り回しながらサボテン系の食人植物を1匹ずつ確実に仕留めていた。破れたシャツの間からは黒く光沢のある蟲人族特有の甲殻が露出しており、甲殻のおかげでサボテンの棘が刺さらない様だ。そして、最後のモンスターを倒したジャンゴ保安官は人間族の男の魔法剣士に声を掛けた。
「神官を襲ったのはお前か?」
「そ、それは……」
言い逃れを考えているのか、人間族の男魔法剣士は口を濁していると、しびれを切らして食人植物の死体に発砲して驚かせた。
「どうだ?まだ言い逃れ出来ると思ってるのか?」
人間族の男魔法剣士はこれ以上怒らせてはいけないと本能で悟ったのか、剣を捨てて両手を頭に乗せて膝を着いた。
「はい保安官、俺が襲いました」
「懸命な判断だな。お前を逮捕する」
ジャンゴ保安官は人間族の男魔法剣士に手錠を掛けるとようやく応援が駆けつけた。小人族の女性神官の手当てを終えると、犯人2人は牢竜車に乗せられて行き事件は解決した。