ウェスタン国を照らす太陽が沈み、満月と共に夜がやって来た。今日も今日とてキッドは夜勤を従事していた。だが、キッドはその日の晩にある妖精族を逮捕した。キッドはいつも通りに顔を引き攣らせた状態で犯人の取り調べを行っていた。
「えー、ピノキオさん。あなたはこのターコイズ石を道具屋に売ろうとしたら店主に偽物とバレ通報されて今ここにいる。間違いありませんね?」
木の妖精族の男は俯きながら黙って頷いた。
「では、これは本当にターコイズ石では無いのですね?」
キッドがそう尋ねると、ピノキオは顔を上げた。
「いいえ!これはれっきとしたターコイズ石です。魔王軍が密かに隠し財産として隠していた魔石の1つなんですよ!?」
ピノキオが鼻息を荒らげながら言い放つ。だがキッドはピノキオの伸びた鼻を凝視しながら言い放つ。
「嘘ですよね?」
「嘘じゃありません!」
「嘘ですよね?なんですかその長くなった鼻は?」
キッドが伸びた鼻を人差し指でつつくと「いたっ」と言いながら避けた。
「道具屋さんは鑑定スキルを持ってるので偽物と本物が判別出来るんですよ?よくこんな子供騙しを思い付きますね」
嫌味を言うと、ピノキオもカチンと来たのか顔をしかめた。
「本物だって言ってるでしょう!」
鼻を更に伸ばしながら容疑を認めないピノキオ。キッドは呆れた様子で魔導鏡に顔を向けてジャンゴ保安官に助け舟を求める。すると、勤務時間をとうに過ぎてしびれを切らしていたジャンゴ保安官がドアを勢い良く開けて中に入って来た。
「これを見ろ」
ジャンゴ保安官は鉛筆を見せてから両手で持ってべキッとへし折った。あたかも「次はお前の鼻をへし折るぞ」と言わんばかりだった。それをピノキオは震え上がり、
「すいません、その辺に落ちてる石をターコイズ石色に色を塗っただけです。はい、それは偽物です!僕は詐欺を働きました!」
ピノキオが容疑を認めると、伸びに伸びた長い鼻は一瞬で元の長さに戻った。
「なら貴方を詐欺の容疑で逮捕します」
手錠を掛けられたピノキオは廊下で待機していた保安官に連れられて行った。どっと疲れが出たキッドは机にベッタリと寝そべった。
「あー……疲れた……」
「ご苦労だったな。後は報告書を提出して帰ろう」
「ふぁい、今書きます」
その後、報告書を提出してキッドとジャンゴ保安官は帰宅する準備を始めた。キッドとジャンゴ保安官は保安官事務所の入り口で別れて帰宅した。キッドは自宅にたどり着き、キッドはコルト地区で均整の取れた三角屋根の平屋に住んでいた。ノロノロと動きながら鍵を開けて部屋に入り、キッドはガンホルダーを壁に掛けてシャワーも浴びずに泥の様にベッドに倒れ込んで眠りに着いた。
6時間後。
時刻は夕方の4時を迎えていた。出勤時間まであと2時間も余裕があるがキッドは目を覚ました。起き上がってシャワーを浴びようと浴室に向かおうとしたその時、リビングに3人の男が立っていた。
「……えっ?」
寝起きの一言を出した瞬間、後ろから棍棒で殴られた。訳も分からず頭から血を流しながら倒れ込むと、
「おい、連れてけ」
「はい」
キッドは頭に布を被せられ拘束された。その後直ぐに2人に抱えられながら連れ出され、幌馬車の中に放り込まれた。暫くして意識を取り戻したキッドが椅子に座らせた状態で拘束されていた。被せられていた布を取られて目を開けてゆっくり辺りを見渡すと、10人くらいの人間族の男達に囲まれていた。人間族の男達の後ろには木材やレンガなどが積まれており、どこかの倉庫だとすぐに分かった。
「初めまして、キッド・ウォーカー君」
人間族の男達が道を開けると、気品と威圧を感じる服を着た人間族の男が現れた。キッドは男の正体が誰か直ぐにわかった。
「バンデットファミリーのボス【コステロ・ルチアーノ】」
「自己紹介は要らない様ですね」
「ならここは、バンデットファミリーのアジトって所か……。バンデットファミリーが僕に何の用ですか……?」
キッドがコステロに尋ねると、コステロは不気味に笑みを浮かべる。
「乱暴な扱いをしてしまって申し訳ない。我々はマフィア、貴方達保安官と接触する方法がこれしか思い付かなかったのですよ。お連れしたのは他でもありません、キッド君にお願いがあったのです」
「お願い?」
「ええ、単刀直入に言います。貴方達が扱う武器でもある銃を我々に仕入れて貰いたいのです」
目的を聞いたキッドは目を丸くさせる。
「何を言ってるんですか、銃は保安官の資格を持つ者しか扱えない武器ですし、一般人は買えません。まずもって銃の取り扱いが分からないでしょう?」
「ええ、その通り。ですが以前貴方の同期であったトミー・ムッツォは保安官でもないのに扱えた。という事は扱い方さえ覚えれば一般人でも使えるという事ですよね?」
元保安官候補生同期のトミーの事まで事前に調べ上げていたコステロは淡々と話し続ける。
「店を襲って奪ってしまうと後々面倒ですからね。そこで、新人の保安官のキッド君に銃を買ってもらい、我々に流して貰うというのが我々の目的です。勿論、報酬と費用は我々が用意します。必要経費ですからね。どうです?悪い話ではないでしょう?」
コステロはキッドに持ち掛けるが、キッドは馬鹿げた話を聞いて鼻で笑う。
「断る。大体僕がそんな事する訳ないでしょう、銃の横流しと犯罪者達に使い方を教えるなんて出来る訳ない。僕はこんな事をする為に保安官になったんじゃない」
キッドが頑なに断ると、コステロはため息を吐いた。
「そうですか、好条件を前にどうしても断るというなら少し痛い目に合えば考えが変わるかも知れませんね」
コステロが手下に合図を送ると、1人の人間族の男が角材を手にして前に出た。以前夜にビリーを売って欲しいと声を掛けた男だった。
─────2時間後。保安官事務所ではいつも通りに夜勤保安官達が出勤して来た。その数分後、オリビア連邦保安官がミーティングルームに入って来た。
「おはようみんな。全員揃って……あら?キッド君は?」
オリビア連邦保安官が言うと、ブラッド保安官、クリス保安官、ジャンゴ保安官が辺りを見渡さした。
「キッド君?休むなんて一言も言ってないよね?」
「確かに、彼に限って無断欠勤はありえませんね」
「そうよね?事務所にも連絡来てないし……ジャンゴ保安官?何か聞いてないの?」
ミーティングルームにいた保安官達はジャンゴ保安官に視線を向ける。だが、ジャンゴ保安官は首を傾げた。
「いや、何も聞いていないんだが?」
「変ね……ならジャンゴ保安官。巡回の前にキッド保安官の自宅に行ってみてくれる?もしかしたら体調を崩してるのかも知れないわ。他の保安官はいつも通りよ?」
ミーティングが終わりジャンゴ保安官が立ち上がると、ブラッド保安官とクリス保安官がジャンゴ保安官に近付いて来た。
「ジャンゴ、本当はキッドと何かあったんじゃないのか?」
「我々は味方。隠してるのであれば打ち明けて欲しい」
「馬鹿なことを言うな。本当に知らない」
「本当に?神に誓うか?もしキッド君何かあったらタダじゃおかないぞ!?」
ブラッド保安官は目を真っ赤にさせて今にも襲いかかりそうな勢いでジャンゴ保安官に言い放つ。
「ある訳ないだろ。アイツの家に行けば分かることだ」
ジャンゴ保安官はそう言い放ち、ミーティングルームを早足で出て装備保管室で装備を受け取りキッドの家に向かった。キッドの自宅に辿り着いたジャンゴ保安官が玄関のドアに目を向けると、ドアの鍵が壊されているのに気付いた。ただ事じゃないと判断したジャンゴ保安官は直ぐにホルスターから銃を抜いて中に入った。
「キッド、無事か?」
辺りを見渡すと、廊下の床に血液が残されていた。ジャンゴ保安官は顔を青ざめさせながら魔線機を取り出した。
「こちらジャンゴ、キッド保安官の自宅で血痕を発見した。キッド保安官は何者かによって拉致された可能性がある!オリビア連邦保安官に連絡してくれ!」
《了解、直ちに連絡します》
ジャンゴ保安官はその間に部屋中を探し回りガンホルダーは発見したがキッドの姿は無かった。数分後、オリビア連邦保安官が険しい顔をしながらキッドの自宅へやって来た。
「どう?何か手掛かりは見つかった?」
オリビア連邦保安官の言葉にジャンゴ保安官は首を横に振る。
「いや、このガンホルダーだけです」
「寝込みを襲ったのか、それとも背後から攻撃されたのか……。最近誰かの恨みを買ったりしてない?よく思い出して」
ジャンゴ保安官はそう言われると、ハンバーガーの屋台の件を思い出した。
「そういえば、この前バンデットファミリーの一味に因縁を吹っかけられた時がありましたね……」
「バンデットファミリー?」
「ええ、馬を売って欲しいと声をかけられていましたね」
「可能性はありそうね……。マフィアに通づるタレコミ屋を知ってる?」
「1人います。キッド保安官は俺に任せて貰えませんか?」
責任を感じているのか、ジャンゴ保安官は真剣な顔で言う。だが、オリビア連邦保安官は首を縦に振らなかった。
「ダメよ。私達夜勤専属保安官全員で探し出すわ。貴方だけに任せたら日勤連中になんて言われるか……」
「……あんたの面子より新人の命が優先だ。ダメと言われても勝手にやらせて貰う」
「ジャンゴ、あなたまさか1人で!?」
「悪いか?」
ジャンゴ保安官がオリビア連邦保安官を睨みつけながら言い放つと、オリビア連邦保安官は殺気を感じていた。
「キッド保安官の居場所が分かったら直ぐに連絡しなさい。非常事態の時はその場の判断に任せるわ。責任は私が取るから」
「分かりました」
そう言い残し、ジャンゴ保安官はキッド保安官の自宅を後にしてどこかへ走り去って行った。