翌朝。コルト地区の冒険者ギルドにジェシカ保安官が出勤前に顔を出していた。
「おはよーさん、【じーさん】いるか?」
「おはようございますジェシカ保安官。【フレディ・ドム】さんですか?奥に居るんでちょっとお待ちくださいね」
冒険者ギルドの受付嬢はパタパタと走って行きスタッフルームに入って行って誰かを呼びに行った。直ぐに戻って来ると、猿のような痩せかたをしている老いたリカオン系の獣人族の男性が杖を付きながら歩いて来た。
「おやおや、ジェシー。朝からどうしたんだい?」
「おう、じーさん。確かじーさんはヤマト大陸の言葉を話せるよな?」
「ヤマト大陸の言葉かい?あー、話せるが?」
「実は昨日カエデ・イズモっていうヤマト大陸から来た剣士と街で出会してさ、この国の文字は読める様だけど話す事が出来ない見たいなんだよ」
ジェシカはフレディにカエデの詳細を説明すると、
「ほう。ヤマト大陸の冒険者が来るのは久しぶりだね。それで?ここでワシにそのカエデとやらの世話をしろと言うのかね?」
「話が早くて助かるよ。頼めるか?」
「まぁここに居ても若い連中にしか仕事はないからね。こんな老いぼれでも構わないなら引き受けるよ」
「んじゃ、今日にもここに顔を出す筈だから頼んだぜ」
テンガロンハットを被り、ジェシカ保安官は冒険者ギルドを後にした。保安官事務所に入り、更衣室に入って着替えを始めた。ミーティングルームに入りキッドの隣に座ると、キッドが声を掛けてきた。
「おはようございます。今日は遅かったですね?どうかしたんですか?」
「別に、ちょっと寝坊しただけだ。なんだよ、あたしに文句あんのか?」
鋭い目つきでキッドを睨むとキッドはブルっと震えて縮こまると、グレン連邦保安官が入って来た。
「おはよう。伝達事項が1つある。なんでも、ウェスタン国で騎士団を設けて凶悪犯に対抗する組織が出来たそうだ」
その言葉を聞いた瞬間、ウィストン保安官が手を挙げる。
「その騎士団ってもしかして俺達と同じ仕事をするって事ですか?」
「いや、そうではない。簡単に説明すると高リスクな状況で、人質、巨大モンスターの駆除、上級魔法での襲撃事件などの深刻な事件が発生した場合のみに出動する組織だな」
「へぇ、どんな奴らか見てみたいもんだ」
ジェシカ保安官は面白い奴を見つけた様にニヤリと笑う。
「そのうち顔を合わせる事になるだろう。話しは以上だ、今日の組み合わせはキッドとオースティン。ジェシカとジャックポット。ウィストンとロッキー、その他は普段通りだ」
ミーティングが終わるとキッドはロッキー保安官と共に愛馬に跨って巡回を始めようとしたその時、魔線機に通信が入った。
《グロック地区の12番通りにある洞窟型のダンジョンから巨大モンスターがダンジョンから出て来たとの通報。付近の保安官は直ちに急行して下さいっ!》
「ダンジョン外にモンスターがっ!?」
「不味い状況だね。俺達も向かうよ!」
「はいっ!」
キッド達は現場に急行すると、ダンジョンの入り口付近で一つ目の巨人モンスター、サイクロプスが巨大な棍棒でサボテンをなぎ倒しながら大暴れしていた。サイクロプスの足元で冒険者達が必死に戦っていた。既に先に到着していたジェシカ保安官とジャックポット保安官がこれ以上被害が拡大しないように水平二連散弾銃で応戦していた。キッドとロッキー保安官もレバーアクションライフルを片手に駆けつける。
「2人共無事ですか!?」
「あたしらの事はいいから冒険者達を援護しろっ!」
「了解っ!」
「ロッキー、ジャックポットが狙撃するまであたしと時間稼ぐぞっ!」
「あいよジェシー!」
ジェシカ保安官の指示で4人は動き出した。ドワーフ族の男性冒険者が襲われそうになった瞬間、キッドがサイクロプスの顔を狙った。頬に掠り紫色の血が流れるとドワーフ族の男性冒険者からキッドへ狙いを変えた。
「さぁ、僕はここだぞ!」
更にレバーアクションライフルを連射するが、棍棒で防がれてしまった。
「あんなデカいモンスター初めてだっ。早く弾を……っ!!」
慌てて弾薬を込めようとしたがサイクロプスが早く棍棒を振り上げた。キッドは咄嗟に目を瞑った瞬間、突然金属音が鳴り響いた。キッドは恐る恐る目を開けるとそこには、白銀のプレートアーマーの騎士が棍棒を両手剣一本で受け止めていた。
「えっ?」
「ここは我々に任せて貰おう」
「はっ、はいっ!」
プレートアーマー騎士は力強く棍棒を弾くと、サイクロプスは警戒したのか様子を伺い始める。キッドはその隙に冒険者達を避難させた。
「なんだあいつ!?冒険者か!?」
「ありゃ相当の手練だね。★8くらいの実力がありそうだ」
キッド達が唖然としていると、6人の騎士達が様々な武器を装備してサイクロプスに立ち向かって行く。1人は盾で防ぎ、1人は魔法で煙幕を張り、1人は双剣でサイクロプスの指を切り落とす。見事なコンビネーションだった。棍棒を落としたサイクロプスは踏鞴を踏むと、2人が槍と大斧でサイクロプスの両足の腱を斬った。
「グオオオオオッ!」
バランスを崩したサイクロプスはそのままうつ伏せに倒れ込む。サイクロプスは顔を上げた瞬間、両手剣を持ったプレートアーマーの騎士に首を切り落とされた。ものの数分で巨大なサイクロプスを倒した場面に保安官達は驚きを隠せなかった。
「すげぇ、あのサイクロプスを一瞬で片付けちまったよ……」
ロッキー保安官とキッドはモンスターをテキパキと片付けているのを眺めていると、先程キッドを助けた白銀のプレートアーマー騎士が近付いて来た。
「お怪我はありませんか?」
「え、ええ。怪我はありません。貴方方は一体何者ですか?」
キッドが尋ねると、白銀の鎧騎士が兜を脱ぐと白髪で白い肌、トルコ石の様な色の瞳をした人間族の男性だった。
「申し遅れました、我々は───────」
「お前達大丈夫かっ!?」
キッドとロッキー保安官が振り返ると、グレン連邦保安官と黒と金色のプレートアーマーの鎧を着た人間族の中年男性が一緒に近付いて来た。白銀のプレートアーマー騎士は中年男性を見た途端深々と頭を下げ始める。
「ご苦労だったな」
「いえ、造作もありません」
「あの……グレン連邦保安官、この方々は?」
ロッキー保安官がグレン連邦保安官に尋ねると、
「ああ、今朝説明したウェスタン国国王が新たに設立した組織の【王国騎士団】だ。そして、この方はこの騎士団を指揮する【アーサー・ヘラクレス将軍】だ」
アーサー将軍は紹介されると、騎士らしい礼儀作法を行う。
「お初にお目にかかります。責任者及び指揮者のアーサー・ヘラクレスと申します。そして、両手剣を持つ彼は、騎士団第1部隊隊長の【ガウェイン・コーカサス】と言います」
アーサー将軍がガウェインを紹介すると、ガウェインは深々と頭を下げる。すると、モンスターの片付けを終えた他の騎士達もゾロゾロと近付いた。双剣を持っていた騎士がアーサー将軍に声を掛ける。
「将軍、サイクロプスの死骸撤去完了しました」
「うむ。ご苦労、保安官達に君達を紹介するから整列してくれ」
「はっ!」
騎士達はガウェインを先頭に双剣、槍、斧、杖、盾の順番に整列してそれぞれ兜を脱ぎ顔を露にした。
「では我々騎士団を紹介します。双剣を持つ騎士は【ランスロット・グラント】生真面目な性格の切り込み隊長です」
ランスロットと呼ばれた騎士は褐色肌でドレッドヘアーに鋭い目つきの人間族の男性だった。ランスロットは呼ばれた同時に頭を下げた。
「次に、槍を持つ騎士は【パーシヴァル・アトラス】彼は少々放漫ですが、腕は折り紙付きです」
パーシヴァルと呼ばれた騎士は長髪を後ろに束ねており、キリッとした顔立ち、顎髭を生やし、琥珀色の瞳をした人間族の男性だった。
「斧を待つ騎士は【ガラハッド・ティティウス】。第1部隊随一の力自慢です」
ガラハッドと呼ばれた騎士は無精髭を生やし、茶色の短髪。トパーズ色の瞳をした人間族の男性がニヤニヤしながらキッドを見つめていた。キッドもムッとした態度で睨み返す。
「そして、支援担当の騎士は【ケイ・ネプチューン】。後方支援、遠距離攻撃、回復が主に担当で魔導師、僧侶、剣士★6の資格を持つ優秀な騎士です」
ケイはメガネをかけて胸を張って背筋を伸ばし堂々とした姿勢、赤い髪を靡かせながらこちらを見下しているようだった。ジェシカ保安官はそのケイの態度が気に入らないのか鋭く睨みつける。
「そして、最後に盾を持つ騎士は【ベティヴィア・モーレン】。騎士団の誰よりも度胸と根性のある勇敢な騎士です」
ベティヴィアは他の騎士達よりも頭1つ背が低くて小柄な体格。緑色の髪色に無表情。顔の無数の傷でいかにも歴戦の猛者のようなオーラを出していた。ロッキー保安官もコイツは只者じゃないと直ぐに悟った。
「私を含めて合計13名が我々王国騎士団です」
「残りはどこ居るんだ?」
グレン連邦保安官が尋ねると、アーサー将軍は毅然とした態度で。
「基地で待機しています。本来我々は1部隊6人で活動するので」
「ほう、なら他に優秀な騎士が6名居ると」
「そういう事です。近いうちに会う事になるでしょう」
「それはどういう意味だ?」
アーサー将軍はグレン連邦保安官の質問に敢えて答えずに、部隊を引き連れてライダーラプトルに乗って撤収して行った。ジェシカ保安官はグレン連邦保安官に尋ねる。
「なんか鼻につく奴らでしたね」
「そう言うな。共に国を守る組織なんだからな」
そう言いながらも何か起こるのではないかと不満を隠しきれないグレン連邦保安官だった。