1週間後。グレン連邦保安官はウェスタン国の最高権力者でもある国王の城に呼び出された。コルト地区の中心にある城に赴き、謁見の間に辿り着くとそこには、騎士の軍服を着こなして三角帽を脇に抱えているアーサー将軍もその場にいた。テンガロンハットを脱いで敬礼をするグレン連邦保安官の前には、権力を持つ者としての存在感。細かな意匠を凝らした服を着たヘラジカ系獣人族の中年男性が玉座の椅子に座っていた。
「おお、来たかグレン連邦保安官。朝早く済まない」
「おはようございます。【ワイアット・トラップ国王】」
ワイアット国王は魔王を倒した年に、フロンティア大陸に渡りこのウェスタン国を開拓させて今まで大きく発展させて来た人々の1人とも言える人物である。
「アーサー将軍とはもう顔を合わせてるそうだね?」
「はい。1週間程前に、サイクロプスが暴れた件で顔を合わせております」
「なら、王国騎士団の実力はもう分かるね?」
「はい、見事な連携でした」
背筋をピンと伸ばして答えると、
「来て貰ったのは他でもない。この王国騎士団と合同訓練をして貰いたいのだ」
「訓練……と言いますと?」
グレン連邦保安官が首を傾げると、
「七つの大罪やマフィアやギャングがまだ大勢残っている。だが、王国騎士団が生まれて間もない。だが直ぐにでも国民や犯罪者達に王国騎士団の実力と恐ろしさを見せなければない。そこで、君達保安官達と合同訓練をして王国騎士団の存在をアピールしたいのだ。頼む、他の保安官達より君の管轄する保安官達なら信頼出来る。どうか協力してはくれないか?」
国王はどうやら保安官達に悪役を演じて欲しいと言っている様だった。アーサー将軍はこれ見よがしに毅然とした態度を取っていた。以前アーサー将軍がいずれ顔を合わせるという言葉が頭に過ぎった。この事だと理解し、腸が煮えくり返るのを堪えたグレン連邦保安官は冷静な態度で、
「了解しました。我々も選りすぐりの保安官を選出し、訓練に挑みます」
「そうが、訓練する場所は追って連絡しよう」
国王が喜びながら言うと、アーサー将軍はグレン連邦保安官に体を向けて右手を差し伸べた。
「手合わせ感謝します。グレン連邦保安官殿、全力を出しましょう」
グレン連邦保安官は紳士的な態度で握手をする。
「こちらも黙ってやられませんよ」
お互いにとてつもないオーラを出しながら火花を散らす。その後、グレン連邦保安官は事務所にギリギリ時間内に戻り、ミーティングルームに入った。
「おはよう。国王と話をしていて遅くなった。すまない」
深く頭を下げると、ジェシカ保安官が手を挙げる。
「どーしたんすか?なんか悪い事でもしたんすか?」
ジェシカ保安官の言葉にカチンと来たのか、頑丈な造りの教卓にゴンと手を叩き付けてヒビを入れた。
「どーもこーもない。この際だ、話そう。先程、王国騎士団と合同訓練をする事になった」
そう言った途端、保安官達はざわめき出す。
「てーことはだぞ?俺らと騎士団が戦闘訓練するって事だろ?大勢で訓練出来る場所あるんか?」
オースティン保安官が腕組みをしながらグレン連邦保安官に尋ねると、
「この前のサイクロプスの様なモンスターがまた地上に現れたら我々だけでは手に追えないのは事実だ。ここは認めざる得ない。国王も王国騎士団を世間に知らしめる為に我々保安官に殺られ役を演じて欲しいというのだ……訓練場所はおそらくグロック地区の廃城か廃村を使うだろう」
「で?グレン連邦保安官は黙ってあたしらに引き立て役をしろって事ですか?」
ジェシカ保安官が嫌味ったらしく言うと、グレン連邦保安官は鼻で笑った。
「馬鹿言え、俺がそんな事を言うと思うか?俺達は保安官だ、重武装した犯罪者相手に立ち向かわなきゃいけない。ここは王国騎士団達の鼻を赤してやろうじゃないか」
「そ、そんな事したら……減俸処分されるんじゃないですか!?」
ウィンストン保安官が怖気付きながら言う。だが、他の保安官達はグレン連邦保安官の言葉に当てられてやる気と闘志を燃やし出し始める。
「そーだそーだ!ぽっと出の騎士団にいい気にさせてたまるか!」
「減俸がなんぼのもんじゃい!」
「日頃から冒険者相手にしてんだ!今更騎士なんか怖くねぇ!」
「よしっ!よく言った。だが、我々保安官全員が参加する訳には行かない。王国騎士団はアーサー将軍を除いて12名なのでこちらも12名を選出する」
グレン連邦保安官はそう伝え、保安官全員を品定めすかの様に見渡す。保安官全員が生唾を飲み込む。重苦しい空気の中、グレン連邦保安官は代表者を決めたのか口を開いた。
「日勤から6人選ぶ。ジェシカ、ロッキー、オースティン、ジャックポット、ウィンストン……そして、キッド。夜勤からはオリビア連邦保安官に選んで貰う。選ばれた者は追って連絡する。巡回のペアは、ロッキーとオースティン。ジャックポットとキッド。ジェシカとウィンストン。その他は変わらずいつものペアで組むように。以上だ」
朝のミーティングが終わると、キッドはグレン連邦保安官の元へ駆けていく。
「グレン連邦保安官!?研修も終えてないのに僕を選ぶんですか!?」
「ああ、その話しなんだがな?遅れた2ヶ月分はこの合同訓練で賄う事になったんだ。オリビアとも話は付いている」
「それなら……はい……頑張ります」
「期待してるぞ」
グレン連邦保安官とキッドはその場を別れてそれぞれ職務に着いた。
合同訓練当日。
午前10時。場所はグレン連邦保安官の予想通り合同訓練する場所は、グロック地区の廃城で行われる事となった。廃城は整備され、貴族が住める程修復された。ガウェインを先頭に、騎士団達は整列した。ガウェインは魔線機を使って叫んだ。
「王国騎士団、12名整列完了。出撃可能です」
ガウェインの鋭い視線の先は廃城。そのとき、別の席で来賓として来ていた大勢の貴族達や国王と共に座っていたアーサー将軍とグレン連邦保安官が魔導拡声器で話し始めた。
「これより、王国騎士団、保安官の合同訓練を開始する」
「真剣、実弾は使わずに騎士団は木製の武器を使い、保安官は【ティンバー弾】を使用する。それに加え、騎士団の装備はプレートメイルではなく、兜以外は『チェインメイル』を装備する」
ティンバー弾とは、弾頭が木材で作られた殺傷能力の無い弾丸である。だが、着弾すると痣などが出来るほどの威力がある。騎士団が今回装備するチェインメイルとは、鎖を縫い合わせて作った軽装の鎧である。
「今回の合同訓練は騎士団が人質救出し犯人全員を制圧するまで続く。互いの健闘を祈る」
この合同訓練はあくまでもデモンストレーションなのだ。それを知っている保安官達は城内で殺気立って待ち構えている状態だ。
2人の説明が終わると、ガウェインが魔導拡声器で廃城に向かって叫び始める。
「保安官諸君。これから突入するが、我々騎士団は真剣を使用しないこと以外は実戦同様に行う。我々は決して手を抜かないのでそちらも立て篭り凶悪犯になったつもりで向かって来て下さい」
ガウェインがそう言うと、騎士団達はニヤニヤしながら兜を装着する。ガラハッドの声を聞き、キッド達もレバーアクションライフル、水平式散弾銃、レバーアクション散弾銃、ピースメーカーにティンバー弾を装填し始めた。
「それと、怪我をしない様に治療師を呼びましたから、安心して下さい」
ガウェインが嫌味ったらしく捨て台詞を聞いた瞬間、ジェシカ保安官が呟いた。
「……ぶっ殺してやる」
「おいおい、ジェシー本気で殺すなよ!?」
「それじゃ、俺とブラッドは先に配置に着く」
オースティン保安官がジェシカ保安官を宥める中、ジャックポット保安官とヴァンパイアのブラッド保安官がそれぞれ持ち場に向かって行く。その途中にブラッド保安官は極限に緊張して震えているキッドに声を掛けた。
「キッド君、大丈夫かい?」
「はっ、はい……大丈夫です」
「大丈夫。キッド君をたぶらかす騎士団は私がぶちのめすから安心してて良いからね?」
頼もしい言葉すら耳に届いていなかった。夜勤上がりで不機嫌なブラッド保安官はキッドに危険及ばない様にするつもりらしい。前もって作戦を立てていた保安官チームはそれぞれ持ち場に着いた。
「作戦開始っ!」
アーサー将軍の指令と共に、廃城の表口と裏口に到着した騎士団が木槌で扉を破り突入する。王国騎士団第2部隊が裏口から突入した場所は食料倉庫で、食料倉庫の窓が全て塞がれており、暗闇に包まれていた。6名が縦一列に並びながら薄暗い中を進んで行く。最後尾を守っていた盾の騎士【パロミデス・サタン】の背後に蝙蝠の様にぶら下がったブラッド保安官が音も立てずに現れ、パロミデスの後頭部に水平式散弾銃を向けて、
バァン!!
発砲し、激しい銃声が鳴り響いた。
「ぐおおっ!」
衝撃で吹っ飛ばされたパロミデス。そのお陰で隊列が乱れた第2部隊はパニックに陥った。
「なんだ!?どうした!?」
「パロミデスがやられました!!」
「なんだと!?円陣形態!背後を守れ!」
第2部隊隊長の【トリスタン・ゾーウ】が一喝する。直ぐに円陣を組んで背中を守り始めた。ブラッド保安官は装填し、暗闇の中縦横無尽に動き回って何度も発砲した。雨あられの如くティンバー弾をくらう騎士団達は激痛に耐えていた。
「ユーウェイン!魔法で辺りを照らせ!」
「了解!我らを照らしたまへ……『ライトボール』っ!」
魔法担当の【ユーウェイン・マルス】が光る玉を魔法で形成するが、ブラッド保安官は既にパロミデスを引きづりながら既に食料倉庫から離脱した後だった。パロミデスが消えたのに気付いたトリスタンは魔線機を取り出した。
「こちら第2部隊、パロミデスが行方不明!」
「保安官が抵抗してるぞ!?話しが違うじゃないか!」
混乱し始めると、アーサー将軍から通信が入る。
《了解した。各部隊、もう一度言う。本日の合同訓練は真剣、実弾を使用しない以外は実戦と同様。保安官達を見つけ次第制圧しなさい!》
アーサー将軍が魔線機で言い放つと、グレン連邦保安官が隣でクスクスと笑っていた。
「何か可笑しいですか?」
「いや?全力でかかってこいと言ったのはそちらだろう?」
ぐうの音も出ないアーサー将軍。同じ頃、城内の奥にある玉座の間では鎧を脱がされて縄で縛られたパロミデスが仰向けに寝かされており、【死亡】と書かれた紙が貼り付けられていた。
「不用心だなぁ。暗闇とは言え、あそこで後ろを警戒しないのはいただけないな」
パロミデスに向かってロッキー保安官が煽り出す。
「第2部隊は食料倉庫を上がってくる。第1部隊は今どこにいる?」
犯人役のリーダーを任されたジャンゴ保安官が尋ねると、人質役のエルフ族の女性保安官がテーブルに城内の地図を広げる。
「第1部隊は……正面入り口から突入して来たので、今は恐らく玄関ホールを捜索しています」
「玄関ホールか……」
その頃、第1部隊は両脇に2階に繋がる階段がある玄関ホールを通り、階段近くにある1つの部屋のドアを開けると食事をする部屋なのか、長いテーブルが置かれていた。カーテンが閉められているが、若干隙間があり隙間から日光が漏れている。第1部隊隊長のガウェインが辺りを警戒していると、
「むー!むー!」
オースティン保安官が口を塞ぎ縛られながら仰向けに寝かされていた。
「ドワーフ族の人質を発見。辺りとテーブルの下を警戒しろ」
「了解!」
ガウェインが武器を背中に収め、オースティン保安官に近付く。その間、他の5人に辺りを警戒させた。ガウェインがオースティン保安官の縄に手が触れた瞬間、縄は突然緩みオースティン保安官は水平式散弾銃の銃身を切り詰め、銃床も短くした改造散弾銃をガウェインの腹に突き付けた。
バァン!!
散弾銃の威力でガウェインは吹っ飛ばされた。驚いた騎士達は慌てて武器を構えるが隊長の安否が気になっていた。
「ベディヴィア!隊長を援護しろ!!パーシヴァルは犯人を倒せ!」
「了解!!」
だが、パーシヴァルはテーブルと椅子が邪魔で思う様に動けなかった。距離を置いたオースティンは改造散弾銃を構える。
「人質に成り済ます輩もいるんだ。無闇に近づいちゃあいかんぞ若いの」
ベテランならでわの捨て台詞を吐いて更にもう一発撃った。第1部隊は隊長を失い、混乱し始める。
「玄関ホールまで退避だ!退避しろ!」
「待てランスロット!犯人が出て来るかも────」
ケイの言葉を無視したランスロットが玄関ホールに戻った瞬間。階段に隠れていたジャックポット保安官がゴーレムライフルで狙いを定めていた。
ズドン!
足を撃たれたランスロットは激痛で思わず膝を付く。だが、痛みを堪えながら立ち上がり、ジャックポットを睨み付ける。
「おのれぇっ!!コソコソ隠れてないで正々堂々と勝負しろぉっ!!」
「うわー!怒った怒った!」
頭に血が登ったランスロットは双剣を抜いて階段に向かって走り出し、ジャックポットはライフルを肩で担ぎながら階段を上がって逃走を始める。ランスロットが階段を半分まで上がった瞬間、反対側からクリス保安官が飛びながら蹴りを繰り出して来た。
「ぐはぁっ……い、いつの間に……!?」
「頭に血が登ると冷静な判断が鈍くなります。常に冷静が必要なのです」
気を失ったランスロット。クリス保安官はランスロットを肩で担ぐとジャックポット保安官が戻って来た。
「ヒュ〜♪すげぇ蹴りですね。流石はクリス保安官」
「茶化してはいけません。彼の手当をせねば……」
「そうっすね。戻りましょう」
クリス保安官とジャックポット保安官が離脱した同じく。下の部屋ではレバーアクションライフルとピースメーカーで撃ちまくるオースティン保安官とパーシヴァル、ケイ、ガラハッド、ベディヴィアが戦闘を続けていた。
「隊長!しっかり!隊長!」
ベディヴィアが声を掛けるが、ガウェインは意識を取り戻さない。
「ベディヴィア、今私がそっちに行く。パーシヴァル、テーブルや椅子を奴に投げ付けてくれ!」
「任せろ!へへっ、面白くなって来たなぁっ!そらよおっ!」
パーシヴァルが椅子をオースティン保安官に投げ付ける。オースティン保安官は堪らず隠れてしまった。その隙にケイがガウェインに近づいて回復魔法を唱え始めた。
「かの者を癒したまえ、『ヒール』ッ!!」
緑色に光り輝くと、ガウェインは咳き込みながら意識を取り戻した。
「す、済まない……ゲホッゲホッ!!」
「回復しちまったか……まぁ、恐怖心と警戒心を植えつけられただけでも儲けもんか……」
オースティン保安官は何度か発砲し、牽制してからその場を逃走した。
「待ちやがれクソジジィッ!!」
「待てパーシヴァル!!冷静になれっ!」
ガウェインがパーシヴァルを引き止めると大人しくなった。
「どうすんだよ隊長!ランスロットもいねぇし、このままじゃ全滅だ!」
「この先を進めば食料倉庫に繋がっている。第2部隊と合流しよう。犯人グループは潜んでいる筈だ、一気に攻めるぞ!」
「了解!」
作戦を立て直したガウェインは魔線機を取り出し通信を始める。
「こちらガウェイン。トリスタン、聞こえるか?」
《聞こえる》
「そちらの状況はどうだ?」
《すまん。パロミデスが捕まった……そっちは?》
悪い知らせを聞いたガウェインは顔を歪める。
「こっちはランスロットがやられた。バラバラじゃダメだ。ここは合流して一気に叩こう」
ガウェインがそう言うと、向こうからは「そうした方がいい」という声が聞こえて来た。
《了解。玄関ホールを真っ直ぐ進めば中庭がある。そこで落ち合おう》
「了解した」
ガウェインは魔線機を腰に戻し、部隊に伝えた。
「玄関ホールの先にある中庭で落ち合う事になった。ここから出るぞ」
「了解。全員ぶちのめさねぇと気が済まねぇ!」
激昂するパーシヴァル。だが、ガウェインは冷静さを保ってパーシヴァルを宥める。
「落ち着け、敵の思う壺だ」
ガウェイン達は玄関ホールを警戒しながら先に進み扉を開けると、円の形をしていて中心には枯れた噴水があり、朽ちた花壇が並んでいた。ガウェイン達は辺りを警戒しながら進むと、反対側からはトリスタン達も警戒しながら向かって来ていた。ガウェインが手で合図をすると、トリスタンも合図を返した。部隊が合流した瞬間、
バァン!バァン!
どこからともなく銃声が2回鳴り響いた。ガウェインとトリスタンが互いに後ろを振り返ると、ケイとユーウェインが右手と左手を抑えていた。利き手を狙われ2人は杖を落としてしまう。一瞬で魔法を封じられてしまった騎士団達が顔を上げると、中庭を囲んでいた多数の窓から突然、犯人役の保安官達が現れてレバーアクションライフルで狙いを定めていた。
「囲まれた!?」
「まさか……向こうも攻めてくるとは……」
だが、ガウェインは諦める事なく、背中の両手剣を抜こうとしたその時。
「撃てっ!」
ジャンゴ保安官の指示により、レバーアクションライフルの一斉射撃が行われた。轟音が城の外まで響くと、来賓の貴族達はざわめき出す。銃声が止み玄関ホールの扉が開くと王国騎士団12名が『死亡』と書かれた紙を貼り付けられた状態で保安官達と共に出て来た。隊長のガウェインは面目丸つぶれというのが悔しいのか、顔を真っ赤にして俯いていた。唖然としている貴族達に向かってキッドが目を泳がせながら、
「す、すいません……全員射殺しちゃいました」
……案の定、このあと保安官全員は減俸処分を科されて一件落着した。だが、この時は……誰もが最悪の事件が起こるとは誰も思ってなかった。