オーリス銀行立て篭り事件から2週間後。場所はウェスタン国から北東の方角5km離れた冬の荒野にフロンティア大陸先住民族の集落。雪が積もる晩に、その集落に盗賊の大群が襲っていた。その先住民族の特徴は上半身が人間で下半身が馬の姿をしている。人はその半人半獣の種族を【ケンタウロス族】と呼んでいた。ケンタウロス族の住民が盗賊に命乞いをしていた。
「頼む!子供達には手を出さないでくれ!」
「お願いします!助けてくださいっ!」
必死に懇願するが、盗賊達は嘲笑いながらケンタウロス族の子供の首に縄で引っ張りる。
「ケンタウロス族の子供は闇奴隷市場で高く売れるんだ。離す訳ねぇ」
「先住民族なら財宝があると思ったんだけどな、期待して損したぜ」
盗賊達は家屋から金目のものを全て持ち去ろうと1ヶ所に集め始める。すると今度は、ケンタウロス族の住処に火を付け始めた。燃え盛る家を眺めながら馬に乗った小人族の盗賊が現れた。盗賊はケンタウロス族の住民に言い放った。
「子供は全員貰う。今から俺のものだ。逆らえば全員皆殺しだ。もし外部に泣きつけば、足を切るぞ!」
盗賊が言うと、勇敢なケンタウロス族の戦士が剣を抜いて襲いかかった。ケンタウロス族の戦士の攻撃を避ける最中、腰から抜いたダマスカス鋼製で三日月の形が特徴のクレセントソードで戦士の首を斬った。ケンタウロス族の戦士の鮮血が雪に飛び散り倒れると、
「逆らうとこうなるぞ!まだ逆らうか!」
他のケンタウロス族の住民達は何も言い返せなくなる。この極悪非道の盗賊の頬には、蜘蛛の刺青が入っていた。クレセントソードについた血を拭うと、手下の盗賊が声を掛けてきた。
「カシラ。こいつら魔石、武器、金品随分隠してましたぜ」
「ご苦労。先住民の戦士が面倒だ。片付けて来い」
「へいっ野郎共、残った先住民の戦士達を殺せ!」
盗賊達がケンタウロス族の戦士達と戦い始めると、物陰に隠れていたケンタウロス族の若き戦士と若いケンタウロス族の女性、老いたケンタウロス族の女性がいた。母親なのか、若き戦士達を逃がそうとしていた。
「母上、私も戦います!」
「いいえ、貴方達は逃げなさいっ!決して戻ってはいけない!」
「ですが!」
「ケンタウロス族を途絶えさせてはいけない。ウェスタン国に行って、冒険者を連れて来るのです!これだけあれば、数人は雇えるでしょう!」
母親の手には大粒の砂金があり、布袋に入れて若き戦士に手渡す。若いケンタウロス族の娘も泣き始める。
「大丈夫、我らは誇り高きケンタウロス族。あんな野盗には屈しません。さぁ、早くっ!」
母親に促されると、若き戦士と娘はウェスタン国に向かって走り始めた。だが、見張っていた他の盗賊に見つかってしまった。
「ケンタウロス族2匹が逃げたぞ!!」
「追えっ!逃がすなっ!」
若き戦士達は振り返る事なく、ウェスタン国に向かって行った。若き戦士は悔し涙を零しながら懸命に駆け抜ける。朝日が上り、冬のウェスタン国に朝がやって来た。キッドは早めに出勤してミーティングルームのストーブに火を入れて部屋を暖めていた。
「今日も寒いなぁ……」
息を白くさせながら呟いていると、寒さを感じさせないジェシカ保安官が入って来た。
「お、キッド。気が利くじゃねぇか」
「おはようございます。ジェシカ保安官寒く無いんですか?」
キッドが震えながら尋ねるとジェシカ保安官はケロッとした態度で、
「全然?まぁあたしは冬に強いタイプの獣人だからな。逆に夏場がキツイんだわ」
「なるほど、そういえば僕が入った当初汗沢山かいてましたからね」
「ジャックポットなんかもっとキツイと思うぜ?アイツ冬場厚着するくらいだからな」
そんな他愛のない話をしていると、次々と保安官達が入ってくる。大分部屋も温まって来た頃に、グレン連邦保安官が入って来た。
「おはよう。今日も冷えるな。今日は雪が少し積もったから事故が起きやすくなっているから気を付ける様に。巡回の組み合わせはジェシカとウィンストン。キッドとオースティン。ジャックポットとロッキーだ。その他は普段通りで頼む。以上だ」
ミーティングを終えたキッドとオースティンは普段通りに装備を持って冬のウェスタンへと駆けて行く。
「いやはやこの寒さは骨身に染みるのぉ」
「やっぱりドワーフ族も寒いのは苦手なんですか?」
雪が溶けてぬかるんだ道を常歩で進んで行くと、魔線機に通信が入った。
《全保安官に通達。【マスケット地区】でケンタウロス族が住民と口論しているとの通報。至急現場に向かって下さい》
通信を聞いたオースティン保安官は首を傾げた。
「ケンタウロス族?なんでまたウェスタン国なんかに来たんだ?」
「ケンタウロス族って、フロンティア大陸の先住民族ですよね?」
「ああ、そうだ。だが先住民族と我々の社会状況がちと複雑であまり関わりがないんだがな……。冒険者がちょっかいでも出したのかも知れん」
ケンタウロス族との関係は魔王軍との戦争がきっかけでモンスターと決めつけられ差別問題が現在も上がっている。その為互いの文化にも影響が出始めているという。マスケット地区はコルト地区から南の方角にある地区でウェスタン国の玄関口とされている。小さな商店街もあり、駆け出しの初心者冒険者が拠点を置く地区でもある。
そのマスケット地区でケンタウロス族が揉めているらしい。色々腑に落ちないオースティン保安官は魔線機で応答した。
「こちらオースティン。現場に向かってみる」
オースティン保安官とキッドがマスケット地区に入ると、雑貨屋の店主と若いケンタウロス族の青年が口論していた。
「おいおい、何をそんなに揉めてるんだ」
オースティン保安官が馬に乗ったまま声を掛けると、雑貨屋の店主が困った様子で答えた。
「良かった保安官さん、このケンタウロス族をなんとかしてくれ!」
「わかったわかった。どーしたんだ?」
オースティン保安官とキッドはケンタウロス族の若い男性と雑貨屋の店主の間に入る。
「さっきから何言ってるか分からんのです。何か頻拍してるのは分かるんですがね?」
「あー【ネイティブ語】で話しかけられてたんですね。言語が分からないから店主は困ってると……。オースティン保安官、ケンタウロス族の使うネイティブ語は僕話せないですよ?」
「安心せい、俺は話せる。ちょっと離れるぞ」
オースティン保安官はケンタウロス族の若い男性をキッド達から距離を置いてネイティブ語で話しかけた。
「落ち着け、何を慌ててる?一体何があったんだ?」
すると、ケンタウロス族の男女はネイティブ語で返された為少し驚いた様子だった。ケンタウロス族の若い男性はオースティン保安官に事情を説明し始めた。
「我々の村が盗賊の大群に襲われた。助けて欲しい、大勢の仲間が危険に晒されている」
「盗賊の大群?相手の数は分かるか?」
「1000はいた。頼む、今から助けに行って欲しい!」
盗賊の人数を聞いた途端、オースティン保安官は顔をしかめる。1000人が相手だとちょっとした戦争見たいな状態になってしまうからだ。
「待て待て、俺ら2人が行っても喧嘩にすらならん。まずは事務所に行って、事情を─────」
「見付けたぞ!ケンタウロス族!」
話を遮る様に突然、無精髭にボサボサ頭、いかにも不潔な格好をした人間族の男性を筆頭に。エルフ族、ドワーフ族、ヤマカガシ系蜥蜴人族、ハイエナ系獣人族、ハゲワシ系鳥人族、ミヤマカミキリ系の蟲人族の冒険者達が馬でやって来た。無精髭の冒険者がオースティン保安官に声を掛ける。
「悪いな、ソイツは俺達の獲物なんだ」
無精髭の冒険者の言葉にオースティン保安官は首を傾げる。
「はて?このケンタウロス族が獲物?2年前にケンタウロス族に対する討伐やバウンティクエストは禁止になった筈だが?」
「討伐じゃねぇよジジイ。俺達はソイツを捕まえに来たんだ。保安官の出る幕じゃねぇ」
いきなり喧嘩腰で言い放つ。オースティンの隣でキッドも異様な雰囲気を感じ取り、ホルスターのボタンを外して臨戦態勢に入った。その間、オースティン保安官は冷静に尋ねる。
「そうもいかん。事情を聞かん事にはこの場を立ち去る訳には行かんな。俺の見る限り、このケンタウロス族の2人は追われてる様だが?お前さん達、何か知らんか?」
オースティン保安官は無精髭の冒険者に尋ねると、
「俺達が誰だか知ってんのか?【七つの大罪・強欲の罪】のメンバーだぞ?それを知ってて言ってんのかジジイ」
「ほう、あの七つの大罪のメンバーか……ならこの間、魔導列車を襲った件でお前さん達の親玉が賞金首になってるのは知っとるかね?」
「だったらなんだ?たった2人で俺達を捕まえるか?」
無精髭の冒険者が言い放つと、
「2人じゃねぇよ、クソボケ」
無精髭の冒険者達が左の路地に顔を向けると、そこにはジェシカ保安官が建物に寄り添いながら立っていた。屋根にはジャックポット冒険者、反対の右路地にはウィンストン保安官。そして、キッド達の後ろにロッキー保安官がクセのある歩き方をしながら現れた。
「たった6人弱で何が出来る?」
「なんだって出来んだよ。てめぇは臭ぇから風呂入って出直せ」
ジェシカ保安官が眉間に皺を寄せながら言い放つと、ハイエナ系の獣人族の男が睨み付ける。
「このクソアマ、調子乗ってんじゃねぇぞ」
「おっと、レディに対して随分な言い方じゃないか。この世界一の色男のロッキー保安官が全員逮捕しちゃうぞ?」
ロッキー保安官も拍車をチャリチャリ鳴らしながらホルスターのボタンを外す。
「言うじゃねぇか、エルフの癖に……上等だよ。そのケンタウロス族を渡さねぇって事で良いんだよな?」
無精髭の冒険者も腰に差してたグラディウスソードの柄に手をかける。それを見たオースティン保安官は呆れた様にため息を吐く。
「やれやれ……近頃の若いやつは血気盛んで困るな……。雑貨屋の店主は邪魔だからケンタウロス族の娘さんと一緒に店に避難しときな」
「はっ、はい……!さっ、こっちへおいで!」
雑貨屋の店主は言われた通りにケンタウロス族の娘を手招きしながら店の中へ避難した。店主は直ぐに扉を閉めて鍵をかける。他の野次馬達も危険を察知して建物中へと避難して行った。それを見送ったケンタウロス族の若い男性は背負っていた弓矢を構え始める。重苦しい雰囲気の中、オースティン保安官は最後の警告を促す。
「一応決まりだから警告するが、抵抗せずに武器を捨てて投降しろ。さもなくば発砲、又は射殺するぞ?良いのか?」
「うるせぇよ。テメェらこそ、全員ぶっ殺してやるよ!!」
無精髭の冒険者がそう言った瞬間、ヤマカガシ系の蜥蜴人族の冒険者が杖を取り出して構えた瞬間、
ズドン!!
キッドの早撃ちが炸裂し、ヤマカガシ系の蜥蜴人族の魔法使いの肩を撃ち抜いた。それを皮切りに、悪漢達は散らばる。ハイエナ系の獣人族の冒険者は剣士なのか、両手剣を構えながらジェシカ保安官に襲いかかった。ジェシカ保安官はいとも容易くピースメーカーを抜いて3発発砲し、ハイエナ系の獣人族の冒険者を倒した。
「くっせぇんだよ、ボケ」
「このメス犬がぁっ!」
ジェシカ保安官の背後にドワーフ族の冒険者が両手斧を振りかぶっていたが、ジャックポット保安官が屋根から狙いを定めて頭を撃ち抜いた。
「わりぃな、ジャックポット」
「良いってことさ。大丈夫かい?」
「問題ねぇよ」
ジャックポット保安官とジェシカ保安官が話している間に、ミヤマカミキリ系の蟲人族とエルフ族が宿の中へ逃げ込んだ。それを見逃さなかったウィンストン保安官がオリハルコン製のピースメーカーを構えながら宿の中へ入ると、宿の主人が両手を上げていた。
「わ、私はここの従業員です!」
「2人は?」
主人は片手てで指を差していたのは2階の方だった。階段を上がり廊下を歩いていると、突然エルフ族の悪漢がドア越しに槍を突き出して来た。頬を掠めたウィンストン保安官はそのままドア越しに2発撃ち込むと、エルフ族の悪漢が倒れ込んできた。残されたカミキリ系蟲人族の悪漢も奥まで追い詰められると、ショートソードを抜いて襲いかかっ来た。ウィンストン保安官は廊下に設置されていた机を蹴飛ばして動きを止めてまた発砲した。そのまま窓に倒れ込んで外の地面に落下した。
「あちゃ〜。窓壊しちゃった……すいません。弁償します」
ウィンストン保安官は弾を装填しながら宿の店主に頭を下げる。その頃、キッドはヤマカガシ系蜥蜴人族の魔法使いを逮捕し、ロッキー保安官は飛んで逃げようとするハゲワシ系の鳥人族に向かってピースメーカーの銃口を向けた。
「止まれ!止まらないと撃つぞ!!」
ハゲワシ系の鳥人族の悪漢は警告を無視してそのまま飛び立とうとしたその時。狙いを定めたロッキー保安官が発砲した弾丸が翼に直撃し、そのまま建物の屋根に墜落し雪で滑り落ちる。指でスピンさせながら銃をしまい、ハゲワシ系鳥人族に手錠をかけて連行すると、他の保安官達が集まっていた。
「全員倒したな?」
「ああ、4人射殺で2人はキッドとロッキーが逮捕した。残りは……」
「おい、そっから出て来い」
ウィンストン保安官とジェシカ保安官が話し合っている時に、オースティン保安官がいきなりしゃがみこんで建物の床下に話し掛け始めた。キッド達もしゃがんで見るとそこにはこの寒空の中、無精髭の冒険者が隠れていた。
「た、頼む……命だけは……」
「いいから出て来い」
「は、はい……」
オースティンに促された無精髭の冒険者はゴソゴソと床下から這い出てきた。雪と泥まみれになった無精髭の冒険者は両手を上げた。
「オースティン、どうする?逮捕すんのか?」
「そうだな……なら、親玉に伝えろ。ウェスタン国近辺での略奪行為を即刻止め、直ちに保安官事務所に出頭しろ。さもなくば手下諸共全員射殺する。分かったか?」
「わ、分かった……」
無精髭の冒険者が立ち去ろうとすると、ロッキー保安官とキッドがオースティン保安官に尋ねる。
「オースティン、逃がしていいのか!?」
「逮捕して情報吐かせればいいのでは!?」
だがオースティンは何食わぬ顔しながら、
「いや良いんだよ。ちゃんと警告と出頭命令を出したんだからな」
無精髭の冒険者を見送りながら、魔線機を取り出して事務所に連絡を取った。
「こちらオースティン保安官。容疑者を2人を射殺、2人を逮捕した。牢竜車を要請する」
《了解、直ちに向かわせます》
ケンタウロス族の若き戦士に顔を向ける。
「アンタは俺達と来い、2人とも保護してやる」
「分かった」
「名前は?」
ケンタウロス族の若き戦士は身振り手振りをしながら自己紹介を始めた。
「俺の名前は……【レッド】」
「そうか、詳しく聞かせてくれ」
オースティン保安官達は現場の処理を行い、保安官事務所に戻ったその日の晩に無精髭の冒険者はウェスタン国から数キロ離れた洞窟のアジトに戻っていた。洞窟の中には、頬に蜘蛛の刺青の入った小人族の男が洞窟を照らすほどの金銀財宝の上にあぐらをかいて座っていた。
「略奪行為を止めて出頭しろ。出頭しなければ全員射殺するってそう言っていたんだな?」
「はい、そうです……」
無精髭の冒険者はブルブルと震えながら答えた。小人族の男は鼻で笑いながら、
「ふっ、この【七つの大罪・強欲の罪】の1人。【略奪貴公子ドレスデン】に歯向かう奴がまだいたとは」
ドレスデンは立ち上がって手下達に指示を出した。
「盗賊の諸君、略奪の時間だ!行き先は……ウェスタンだ!」
ドレスデンは洞窟の岩壁に貼られていた地図にクレセントソードを突き刺した。刺さった場所は、ウェスタン国の場所だった。