俺の町は今日も今日とて平和です!   作:ボトルキャプテン

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30 七つの大罪・強欲の罪 後編

朝日が登った保安官事務所で出勤して来たキッド達に情報が舞い込んで来た。事務所のミーティングルームには保安官全員とアーサー将軍率いる王国騎士団がいた。

 

「今日中に攻めてくる!?昨日の今日だぞ!?」

「ああ、逮捕したキッドとロッキーが逮捕した盗賊が白状した」

 

 ジェシカ保安官が驚く中、グレン連邦保安官が話し続ける。

 

「七つの大罪・強欲の罪はおよそ1000人で構成されている盗賊団。オースティンが離した盗賊が引き連れて戻ってくると言っていた」

「警告はしたんだ、もし来たら無条件で逮捕、射殺が出来るだろ?」

 

 オースティン保安官は悪びれもなく言う。

 

「だが近隣住民に被害が出る可能性がある。直ちに避難勧告を出し、他の保安官事務所へ通達する。冒険者ギルドにもバウンティクエストを手配して置く。今日は過酷な任務になるから気を引き締めていけ!」

「我々、王国騎士団も全力でサポートします」

 

 保安官達が慌ただしく動き始める。キッドも国中を駆け回って避難勧告を出していた。

 

2時間後。

 

 時刻は昼過ぎ。集められた冒険者と保安官は街中各所に配置されたが、特に重点的に固められたのはウェスタン国の入り口、マスケット地区。キッドを含めた選りすぐりの保安官達とバウンティクエストを受注した冒険者達が配備され、保護していたケンタウロス族の若き戦士。レッドと王国騎士団もここに立っていた。最前線の部隊は、緊張の面持ちでその時を待っていた。

 

「なんだ?この音?」

 

 その場にいた者達は、一斉に辺りを見渡す。

 

「なんだ?この地鳴りは?」

 

 静まり返ったマスケット地区に地鳴りが鳴り響く。現在ウェスタン国の各地区に避難勧告が出されている為、住民はほとんど残っていない。ジャックポット保安官が建物屋根から望遠鏡で街の外の辺りを見渡すと、その地鳴りの正体が分かった。

 

「前方1km先に大群を発見!!」

「───────────っ!?」

 

 集まった保安官、冒険者達は言葉を失い、生唾を呑む。今日に限って雪の降らない天気のお陰で視界が広がっている。馬に乗った盗賊達が、マスケット地区に侵攻して来た。射程距離に入って来た瞬間、オリビア連邦保安官の命令が下った。

 

「警告は不要よ。撃てぇ!」

 

 保安官達に発砲命令が下る。途端にレバーアクションライフルの銃声が鳴り響く。盗賊達の先頭集団が幾人かが倒れるが、蜘蛛の子を散らした様に進軍は止まらない。

 

「王国騎士団、冒険者諸君。武器を構えろ!」

 

 王国騎士団のガウェインが両手剣を構えて迎撃体勢に入る。

 

「王国騎士団の誇りにかけて奴らの侵攻を食い止める!!」

 

 遂に戦闘が始まった。打ち鳴らせる剣撃の音と魔法の爆発音。銃弾と魔法が飛び、叫び声と怒号が響き渡る。

 

「今日こそ、王国騎士団の力を示すんだ!」

 

 弾丸と、剣と、血が地面に染み渡る、大乱闘が始まった。マスケット地区での戦闘が始まったと同時に、ウェスタン国各地区でも、別の連合軍が戦闘を開始していた。

 

「神よ許したまえ……っ!!」

 

 その中の空中を飛び抜け、盗賊達を蹴り倒す、クリス保安官の姿があった。

 

「クリス、魔法に当たるなよ?」

 

 同じ場所を任されたマフィア狩りのジャンゴ保安官が、呆れながら、獣人族の男を叩き潰していた。

 

「ブラッド、太陽が雲に隠れたぞ!出て来て手伝え!」

 

 ジャンゴ保安官がそう言うと、建物に身を潜めていたブラッド保安官が両手にピースメーカーを手にしながら飛び出して来た。

 

「日光さえなければ私に怖いものはないのだよっ!」

 

 全弾を盗賊達に撃ち込むと、再び太陽が顔を出す。それと同時にブラッド保安官は建物の中へ再び隠れた。

 

「ヴァンパイアってのは不便だな、せっかくの大仕事だってのに」

 

 王国騎士団の第2部隊隊長トリスタンがロングメイスを振り回しながら言う。すると、建物からブラッド保安官が顔を出す。

 

「そう言えば、この先のコルト地区は誰が守ってるんだ?オーリス銀行だってあるのに」

「さぁな」

 

 一方その頃。コルト地区まで侵攻して来た盗賊達はオーリス銀行を見つけた途端、目の色を変えて駆けていた。

 

「でっけえ銀行だ!金がわんさかあるにちげぇねぇ!」

「早いもん勝ちだ!」

 

 だが、そこにはオレンジ色の着物と小豆色の袴で身を包み、防寒用のマフラー。手には革手袋に茶色のブーツを履いたカエデが立っていた。ドアの隙間からはオーリス銀行の店長が顔を出しながら、

 

「カエデさん、奴らから銀行を守って下さいっ!」

 

 店長がそう言うと、カエデはこくんと首を縦に振る。それと同時に刀を抜いた。

 

「相手は女冒険者1人だ!殺っちまえ!」

 

 盗賊達はカエデを取り囲み、襲いかかった。カエデは燃え盛る炎の様に刀を振るい盗賊達を斬り捨てる。そこへ駆け付けた冒険者達は唖然としていた。

 

「あれが、噂に聞く【沈黙の剣士】か……」

 

さらに同じ頃。

 

 ザウエル地区の一角で、この混沌している状況の中、火事場泥棒を働いていたリトル盗賊団を見付けたジェシカ保安官、ロッキー保安官、王国騎士団のケイが奮戦していた。

 

「ま、まて!分かった!分かったから殺さないでくれ!」

「てめぇら腐れ外道に待ったもクソもねぇんだよ!」

 

 リトル盗賊団のボス小人族の【ヴァリレオ・ハントン】は顔を痣だらけにしながら命乞いをしていた。一味全員を逮捕したジェシカは気を昂らせており、後にやって来た盗賊達を睨み付けていた。

 

「今度は七つの大罪かぁ?どいつもこいつも手癖の悪ぃ奴等だなぁっ!ちょっとは汗水かいて働いてみやがれクソ野郎共がぁっ!!」

 

 ジェシカ保安官は目に付いた端から次々とピースメーカーと銃身を切り詰め、銃床も短くした改造散弾銃を発砲して大暴れをする。

 

「あ、あのジェシカ?ジェシカさん?」

「聞こえてない様だが……大丈夫なのか?」

「グルルルルルッ!!」

 

 荒ぶるジェシカ保安官をロッキー保安官とケイが見たのは正に獣そのものだった。ロッキー保安官とケイは敵じゃなくて本当に良かったと安心していた。

 

そして、保安官の本陣である保安官事務所。

 

「怪我人はマックイーン医師がいる医療班の元へ!弾薬の補給も忘れるな!」

「了解!」

 

 グレン連邦保安官がウェスタン国の地図を睨みながら保安官達に素早く指示を出している。戦闘が始まって1時間が経過している。既にマスケット地区、コルト地区、ベレッタ地区、ザウエル地区、ハースタル地区の5つの地区で数多くの負傷者が出ていた。強欲の罪の盗賊達の侵攻は未だに止まらない。

 

「グレン。ベレッタ地区に人手が足りない。私が行く!」

 

 アーサー将軍も出陣の準備を整えて出張ろうとしていた。

 

「先に行けアーサー!俺も直ぐに行く!」

 

 アーサー将軍は出陣し、グレン連邦保安官も自分のアダマンタイト製のピースメーカーとレバーアクションライフルに弾を込める。慌ただしく持てるだけの弾薬を持って外に出るとウィンストン保安官と出会した。

 

「うわっ、すいません!」

「構わん。弾薬の補給か?」

「はい!ハースタル地区はなんとか持ちこたえてます。グレン連邦保安官はこれからどちらへ?」

「ベレッタ地区だ。向こうが押され気味らしい。俺とアーサー将軍で押し返してくる!」

「分かりました。皆に伝えておきます!」

「気を付けろよ!」

 

 2人は別れてグレン連邦保安官はベレッタ地区へと向かった。ウィンストン保安官は弾薬を補給し、再びハースタル地区に向かう途中に、何気なく人気のない路地に目を向けると、エルフ族の保安官が男に腹部を何度も刺されていた。ウィンストン保安官は急ブレーキをかけて相手にピースメーカーを向ける。

 

「動くなっ!」

「噂の保安官ってのも、大した事ないな……」

 

 声をかけたが男は見向きもしない。ウィンストン保安官は馬から下りて声を強める。

 

「聞こえなかったのか!?次は警告しないぞっ!?」

 

 それでもこちらを見ようとしない男に、ウィンストン保安官は撃鉄を起こし、発砲した。だが、一瞬のあと、ウィンストン保安官の体がクロス状に血が吹き出した。

 

「蜥蜴人族か。鱗が硬いなぁ」

 

 いつの間にか男はウィンストン保安官の背後に立っていた。身長は10代前半位の子供と変わらない高さだが、顔付きは大人の様な感じだった。その中で特徴なのが頬に彫られた蜘蛛の刺青。鋭い目つきでウィンストン保安官を睨んでいた。

 

「な……にっ!?」

「殺す気で斬ったんだけど、硬かったな」

 

 両手に血の滴るクレセントソードを持った男は、ゆらゆらと体を揺らしながらウィンストン保安官を見つめる。

 

「咄嗟に下がって致命傷を避けたのか……お前」

「子供かと思ったがこの殺気……小人族か、このっ!!」

 

 ウィンストン保安官はピースメーカーを発砲する。だが、男は縦横無尽に素早く動き回って弾丸を全て躱した。ウィンストン保安官はレバーアクションライフルに切り替えて更に撃つ。

 

「早い……小人族ってのはこんなにすばしっこいのか!?」

 

 男は外灯の上に着地しながらウィンストン保安官を見下ろす。

 

「俺の手下から聞いたよ。出頭しろだって?冗談じゃねぇ。俺は欲張りなんだ、ありとあらゆる物を全て手中に収める。全部奪ってやるよ、この国全てをなぁ」

 

 ウィンストン保安官が慌ててレバーアクションライフルに弾を装填していると、男は腕をだらりと下げた。

 

「俺を怒らせたのをあの世で後悔しろ」

「貴様……一体何者だ!?」

「俺は、強欲の罪・略奪貴公子【ドレスデン・ガードナー】だぁっ!!」

 

 ドレスデンと名乗った男の手からクレセントソードが投げられた。たまたま弾薬の補給に戻って来ていたキッドは、屋根を突き破って空に飛び出した何かに驚いた。

 

「えっ、何!?魔法?」

 

 三日月の形をした2つの何かがブンブンと音を立てて舞っている。キッドは方向を変えて魔法らしきもの元へ向かった。ウィンストン保安官はレバーアクションライフルを接近戦に備えて独自に改造を施していた。ライフルの銃口にナイフを取り付けてライフルを槍に変えた。

 

「槍に変わるのか、面白い物持ってるなぁ……」

「俺は手先が器用なんでね。こういうの得意なんだよ」

 

 ウィンストン保安官はレバーアクションライフルを槍の様に振り回し、ドレスデンに突き出した。ドレスデンは2本のクレセントソードでガードすると、銃口に目が入る。

 

ドン!

 

 至近距離で発砲した。だが、ギリギリの所を躱すが頬をかすめていた。頬から血が流れるとドレスデンはギョッとした。

 

「なるほど、そういう仕組みか。大した武器だな」

「それはどーも。次は外さねぇ」

 

 ウィンストン保安官は次弾を装填して構えると、ドレスデンもクレセントソードをクルクルと回しながら喋りだした。

 

「器用な奴は嫌いじゃないよ。それも選ばれた才能の1つ。欲しいなぁ」

「才能?これが才能だって?笑わせんな。器用さだけで保安官が勤まると思ってるなら、お前の悪行も大した事ないな。この国にはとんでもない奴らがわんさかいるんだ」

 

 ウィンストン保安官は長年勤めてきたが、楽な事では無かった。

 

「運がすこぶるいい奴、多彩な知識と経験を活かした奴、種族問わず触れ合える奴、そして、銃を早く撃つ奴」

 

 ジャックポット保安官、オースティン保安官、ロッキー保安官、そしてキッドの事を挙げる。

 

「器用?苦労したぜ、蜥蜴人族の太くて長い指と爪じゃ細かい作業は難しいからな。コレを生み出すまでにどれだけ救えなかった事か」

「知らねぇよ。だったら無ざまに死ねぇ!」

 

 ドレスデンが襲いかかろうとすると、突然横から弾薬がドレスデンに飛んで来た。ドレスデンはそれを弾き飛ばすとそこには、キッドが立っていた。

 

「ウィンストン保安官!?大丈夫ですか!?」

「なんだコイツ……」

 

 突然の乱入に、ドレスデンが呆気にとられている隙に、ウィンストン保安官はレバーアクションライフルに弾薬を装填する。

 

「そこの蜥蜴人族より先に、まずお前を殺してやるよぉっ!!」

 

 目にも止まらぬ速さでキッドとの距離を詰めてクレセントソードがキッドの首を切り落とそうとした、まさにその時。

 

ドン!

 

 ドレスデンの右太ももに弾丸が当たった。

 

「この野郎……!?」

「ウィンストン保安官!!」

「援護する!体勢を整えろ!」

「この死に損ないがぁっ!『強欲の三日月(グリード・クレセント)』ッ!」

 

 ウィンストン保安官に気を取られた隙にキッドはバックステップでドレスデンと距離をとる。激昂したドレスデンは怒り任せにクレセントソードをウィンストン保安官に投げ飛ばし、ウィンストン保安官の体を貫いた。武器が無いのを確認したキッドはピースメーカーを抜くと、殺気に気付いたドレスデンはキッドの方へ顔を向ける。

 

「うわぁぁぁぁぁっ!!」

 

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!

 

 キッドの6発の弾丸がドレスデンの体中に当たった。右太ももの傷がドレスデンの素早さをコンマ数秒遅らせたのが幸いした。そのコンマ数秒あればキッドなら銃を抜けると分かっていたウィンストン保安官が自分を犠牲にしてチャンスを作ったのだ。

 

「ごほ……」

 

 ドレスデンはピースメーカー全弾当たったのにも関わらずまだ倒れない。キッドはチャンスを逃さないようにドレスデンを取り押さえた。

 

「お前を、保安官暴行の容疑で逮捕する!」

 

 地面に押さえ付けながらドレスデンに手錠をかけてから直ぐにウィンストン保安官の元へ駆けていくと、ウィンストン保安官は微かに意識を保っていた。

 

「ウィンストン保安官!?大丈夫ですから!必ず助けますから!こちらキッド保安官。ウィンストン保安官が重症!場所はハースタル地区手前の……」

 

 キッドが救援を求めようとすると、ウィンストン保安官は手を伸ばして魔線機に手を置いた。

 

「よ、よせ……まず……犯……人は……拘束したのか……?」

「拘束しました。だから動かないで!!」

「もう助からない……アイツは……七つの大罪……の」

「七つの大罪……なんですか!?」

 

 弱々しい声でウィンストン保安官は話し続ける。

 

「あい……ツは、お、親ダマ……」

「親玉……?アイツがですか!?」

 

 キッドの質問にウィンストン保安官はコクコクと頷く。キッドが振り向くとドレスデンはあれだけ撃たれたのに未だ逃げようと体をくねらせていた。

 

「逮捕しました……大丈夫です……」

「……そう……か……」

 

 ウィンストン保安官は安心したのかそのまま息を引き取った。数分後、応援が駆け付け、ウィンストン保安官の殉職が全保安官に知れ渡った。親玉が逮捕されたのがきっかけで盗賊達は次々と降伏を始めた。

 

数時間後。

 

 全てが終わった頃には夕方を迎えていた。負傷者50名死者8名という犠牲が出たが、民間人の犠牲者は0だった。そして、昼間とは打って変わって静まり返った保安官事務所では、別れの儀式が行われていた。

 

「ウィンストン・ノア保安官。これまでの奉仕感謝する。どうか、安らかに休んでくれ……後は、我々が引き継ぐ……」

 

 グレン連邦保安官が別れの言葉をと敬礼をすると、ウィンストン保安官の棺の前で同じ様に全保安官が敬礼をする。キッドも涙を流しながら黙って敬礼をしていた。それを見ていたジェシカ保安官は声をぐもらせながら、背中をパンと叩く。

 

「もう泣くな……アイツの為にもっと強くなれ……!!」

「ひっぐ……はい……」

 

 ウィンストン保安官が犠牲となってしまったが、七つの大罪の一角、強欲の罪を逮捕する事が出来た…………。

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