31 涙のバッジアップ
七つの大罪の強欲の罪を逮捕して落ち着いた頃。ウィンストン・ノア保安官の正式の葬儀が静かに行われ、ようやく幕を閉じた。葬儀が終わり、ウィンストン保安官の遺族への挨拶も済ませてからグレン連邦保安官がキッドを含めた全保安官と王国騎士団を集め始めた。
「葬儀の後で申し訳ないが、たった今からキッド・ウォーカー保安官のバッジアップの儀式を行う」
グレン連邦保安官の言葉にキッドは耳を疑った。
「えっ、僕がですか!?」
「ああ。七つの大罪・強欲の罪であるドレスデンの星が盗賊★9と確認された。今回の一件で大きく貢献した為、キッド保安官は今から銅のバッジから銀バッジに昇格する」
グレン連邦保安官はポーチから小さい木箱を取り出して箱を開けるとそこには、銀色に輝く保安官バッジが入っていた。グレン連邦保安官はそれを取り出し、キッドの胸に付けた。
「ウィンストンも認めるだろう。おめでとう、キッド保安官!」
「おめでとう!キッド君!」
「頑張ったな、若いの!」
銀のバッジを胸に付け、キッドは敬礼をした。事務所に戻る前に、キッドは殉職したウィンストン保安官の墓石の前に立ち、バッジアップの報告をした。
「ウィンストン保安官。あなたにも見せたかったです。あなたに命を救われたのに……無能な部下で申し訳ございません……」
ポロリと涙を流していると、
「夫は決して後悔はしていないと思います」
キッドは後ろから声を掛けられた。振り返るとそこには、ウィンストン保安官と同じカナヘビ系蜥蜴人族の奥さんと5歳くらいの息子が立っていた。キッドは慌てて土下座をする。
「この度は本当に申し訳ございません!僕が余計な事をしなければウィンストン保安官は死なずに済んだのに……!すいません!」
何度も何度も頭を地面に叩きつけて奥さんに謝る。キッドはそれしか出来なかった。奥さんは膝を着いてキッドの背中を摩る。
「あなたは悪くありません。逆に私が夫に叱られてしまいます」
「ですが!!」
「夫からはキッドさんの事は聞かされていました。とんでもない奴が入って来たんだ。先輩らしいとこ見せてやるんだって張り切っていたくらいです。だからそんなに思いつめないで下さい」
優しく言われたキッドは更に涙を流す。
「これからも沢山の命を救って守って下さい。それが夫の為にもなりますから……」
「……はい」
キッドは涙を拭って奥さん達に敬礼をし、保安官事務所へと戻った。
2週間後。
破壊された街の復興が進んでいる中、キッドは出勤し銀のバッジを胸に付けてミーティングルームに入ると、グレン連邦保安官が入って来た。
「おはよう。さっそくだが、3日後に【ニューイヤーレーシング】が開催される。我々保安官は来賓者の警備と会場の警備を任される事になった」
ニューイヤーレーシングとは、新年を迎える為に馬やライダーラプトルでウェスタン国を一周するレースを通じて五穀豊穣、世界平和を願うイベントで、参加費や寄付金で復興や支援をを目的として開催されるイベントでウェスタン国では一二を争う程の大規模な祝祭である。
グレン連邦保安官は黒板にウェスタン国の地図を広げ、指示棒で刺した。
「見ての通り、ウェスタン国は巨大な国だ。マスケット地区のスタート位置からぐるっと時計回りに周り、再び戻って来てゴールだ。そこで我々保安官は各ポイントに配置につき、警備する」
「うわぁー、もうそんな季節になったか……」
露骨に嫌がるジェシカ保安官を見て、キッドは苦笑いをしながら尋ねた。
「そ、そんなに大変なんですか?」
「そりゃな。必ずと言っていい程バカが出て来て騒ぎを起こすんだよ」
「レースを妨害したり、どさくさに紛れて盗みを働くやつもいる」
「去年は冒険者同士の大乱闘だったしな」
オースティン保安官とジャックポット保安官がウンザリするような言い方で会話に入ってきた。そこへ、グレン連邦保安官が奥の手を出してきた。
「皆の気持ちは確かに分かる。安月給で半日近く警備しなければならいからな。そこで、この保安官事務所の【クリント・ジャスティス】所長へ直談判した所……特別手当1万ゴールドを支給する事になった」
それを聞いた途端、保安官達は耳を大きくしながら静まり返った。その1人としてロッキー保安官が手を挙げた。
「保安官全員で1万ですか?それともそれぞれ1万という事ですか?」
「個人に1万ゴールドだ。どうだ?やる気は起きて来たか?」
その言葉を聞いた瞬間、保安官達が一斉に騒ぎ出した。
「やってやるぜ!」
「うおおぉ、今月は色々買いすぎたから助かったぜ!」
「母ちゃん、俺やったぜ!」
「何買おっかなぁ〜、ねぇ?何買う?」
「私は新作のブーツでも買うわ!」
ワイワイ騒ぐ中、グレン連邦保安官は宥める。
「やる気を出してもらったのは結構。前日には書類でそれともそれぞれの配置を記しておくから目を通して置くように。ニューイヤーレースの件は以上だ。では、今日の配置は……」
その日は皆上機嫌で仕事をこなした。レース会場になる通りには柵が建設され始めていた。
レース当日。
保安官達はいつもより1時間早く出勤し、それぞれ配属された位置に向かって行った。キッドが配置されたのはゴール地点で、近くにはスタート地点に配属されたジャックポット保安官が配置に着いた。キッドは応援に駆け付けた国民を監視しながらジャックポット保安官に声を掛けた。
「凄い人ですね、こんなに賑わうなんて」
「そりゃ一大イベントだからな」
息を白くしながらジャックポット保安官は言う。今日に限って運が向いたのか、天気は快晴だった。整備された道も乾燥して問題なかった。
《それでは、ニューイヤーレース間もなく出走です! 5、4、3、2、1……スタート!!》
馬やラプトルが一斉に駆け出した。それと同時に沿道からは歓声が地鳴りのように鳴り響く。
《さぁ始まりましたニューイヤーレース。今年の英雄は一体誰になるのでしょうか!!先頭を走るのはエントリーナンバー5番の白い閃光と呼ばれた冒険者のドルトス選手です!その相棒ライダーラプトルのクロスはどんどん差を伸ばして行きます!!》
実況にも熱が入る。キッドとジャックポット保安官は妨害にならないように柵の隅に立って監視を続けると、魔線機から応答があった。
《全保安官に通達、レースが始まった。高い特別手当を払っているんだからしっかり働けよ!》
グレン連邦保安官から檄が飛んで来た。キッドとジャックポット保安官に緊張が走る。同じ頃、100メートル程離れた沿道でローブを被った不審な人物2人組が人混みを掻き分けながら歩いていた。
「準備は良いか?」
「問題ないわ。『スクロール』にも問題ない」
スクロールとは、魔法が記録された巻物のことで、消費魔法アイテムである。通常は習得していない魔法を一時的に使えるようになる。
ローブを被った人物は麻袋からスクロールを取り出して広げ、詠唱を始めた。すると、スクロールに書かれた魔法陣が不気味に光り出す。
「3分後に爆発するようにしたわ」
「よし、これで2つだな。【邪神メデューサ教】万歳……」
「邪神メデューサ教万歳……」
そう呟きながらその場を離れた。その頃キッド達は、レースの監視を続けていると、レースの終盤を迎えていた。先頭を走っていたドルトス選手の姿が見えた。
「早いな、もう一周して来たのか……」
「まぁな、障害物もないしラプトルの脚なら3時間で周って来れるさ」
《ドルトス選手1着でゴール!!連覇達成です!!》
その後、次々と参加者がゴールに到着したその時。
ドーン!! ドーン!!
2ヶ所で突然大爆発が起きた。キッドとジャックポット保安官は突然の出来事で唖然としてしまった。