キッドが唖然としていると、ジャックポット保安官に声を掛けられた。
「おい、おいっ!」
「え……はっ、はいっ!」
「魔線機で応援を呼べ!今すぐだ!」
滅多に怒らないジャックポット保安官がこの時ばかりはキッドに怒鳴った。キッドは慌てて魔線機に手をかける。
「こちらゴール地点のキッド保安官。爆発が発生!2ヶ所で爆発が発生しました!直ちに応援を寄越して下さいっ!」
《りょ、了解!全保安官に通達。爆発事件発生!!手の空いた保安官はゴール地点に集結して下さいっ!!》
事務所の司令室も驚きを隠せない。新年早々に爆発を起こす輩なんているとは誰も思いつかないだろう。歓声が突如として悲鳴と断末魔に変わったのだ。観客はパニックに陥り、あちこちに逃げ惑う。
「大丈夫ですか!?」
「キッドは向こうの負傷者を見てくれ!」
キッドとジャックポット保安官は柵を壊して怪我人に向かう。そこはまるで戦場と化しており、おびただしい怪我人の山だった。
「数十名の負傷者を確認!レースを止めて下さいっ!治療師をゴール地点に寄越して下さいっ!早くっ!」
キッドが魔線機で言い放ち、負傷者の止血を施す。その負傷者は足を片方吹き飛ばされており、出血が酷かった。ジャックポット保安官は辺りを見渡し、走り始めた。
「こちらジャックポット保安官。今から爆発現場に向かう!誰でもいいから直ぐに来てくれ!!参加者を止めて周囲の安全確認を……早く止めないと怪我人が増えるぞ!!」
ジャックポット保安官が2ヶ所目の爆発現場に向かうと、既にダルメシアン系の獣人族の女性保安官とハヤブサ系鳥人族の男性保安官が駆け付けており、怪我人の手当てをしていた。
「また爆発するの!?助けて!!」
「大丈夫、心配しなくていい。直ぐに助ける。1ヶ所目の爆発現場にも治療師を寄越してくれ!早くレースを止めてくれ!」
魔線機に怒鳴り散らしながら怪我人の元へ向かうと、
「ジャックポット!」
後ろを振り返ると、他の地区を警備していたオースティン保安官が駆け付けて来た。オースティン保安官は馬から降りて報告する。
「死者が2人出た。1人はこの小さい人間族の子供だ。家族は負傷して病院へ」
オースティン保安官の脇には布を被せられた子供の死体が横たわっていた。やりきれないジャックポット保安官は頭を悩ませる。
「くそっ、どうすればいい……」
「落ち着け、このまま放ってはおけん。俺に任せろ」
「頼む、オースティン。退避させないとまた爆発の恐れがある」
ジャックポット保安官は歩き出して他に重症を負った人はいないか探し始める。その間、治療師が到着して順番に治療魔法を施していく。
30分後。
グレン連邦保安官、アーサー将軍、王国騎士団が到着し、惨状を目の当たりにする。2人は顔を顰めながらジャックポット保安官に声をかける。
「爆発現場はどこだ?」
「そこの観客席と、向こうの外灯付近です」
「目撃者はいそうか?」
「あの人混みですよ?厳しいと思います」
「封鎖範囲はどれくらいだ?」
「半径2km程封鎖中です」
「5kmに拡げよう。捜査範囲を広げる」
グレン連邦保安官とジャックポット保安官が話していると、アーサー将軍が爆発現場を見て何かを感じ取った。
「爆薬では無さそうだ。おそらく、爆発魔法を封じたスクロールだな」
「爆発魔法……『グレネード』でしょうか?」
キッドがアーサー将軍に尋ねると頷いた。
「その可能性は高い」
「ならまだスクロールはありそうですね……」
「キッド保安官。今現在の死傷者数は?」
「現時点で死者は3人、その1人は人間族の子供です……」
キッド保安官がアーサー将軍に話していると、子供の死体を移送しようとしたオースティン保安官に気付いた。
「待て!遺体を無闇に動かすな!ランスロット、止めろ!」
「了解!」
「待って下さい!子供の遺体ですよ!?」
キッドがアーサー将軍に言うと、
「遺体に僅かな手がかりがある可能性がある。だから動かせない……」
「そんな……」
「おい、そこのお前!」
「オースティン保安官、落ち着いて!!」
離れた場所でランスロットに止められたオースティン保安官が激昂しながらアーサー将軍に食ってかかる。
「こんな小さい子供を路上に放置すると親御さん達に言うつもりか!?」
「やめろオースティン。感情的になるな!」
グレン連邦保安官が慌てて止めると、オースティン保安官はアーサー将軍が距離を置く。
「グレン、どう思う?【テロリズム】だと思うか?」
テロリズムとは、政治的な目的を達成するために暴力および暴力による脅迫を用いることを言う。 『テロ』と略される。
グレン連邦保安官は頭を悩ませる。
「もしこれをテロだと見なしたら大変な事態になるだろう……住民はパニックを起こして更に被害が大きくなるかも知れん。間違いなら取り返しがつかん」
「一体どこの誰の仕業だ?こんな事をしでかして、何を企んでいる?」
グレン連邦保安官は頭を掻きむしりながら考える。ふと、爆発地点をしゃがみながらじっと見つめて……。
「テロだ……間違いない。捜査本部を設立し、犯人を突き止める」
大きな賭けに出た。グレン連邦保安官はそれから保安官達に指示を出し始める。
「事務所では狭い。どこか大きな倉庫を一時的に借りてそこを捜査本部にする」
「なら我々王国騎士団の基地を使うといい。あそこならウェスタン中の保安官達を入れてもお釣りが来る」
「なら頼む、アーサー将軍」
事件から2時間後。
キッド達はオースティンに遺体の監視を任せて場所を移し、王国騎士団の訓練施設にやって来た。レンガの倉庫の中へ入り、騎士団のケイとユーウェインの魔法を使ってレース会場を見立てた場所の模型を作り出した。
「爆発地点はここと、ここ。子供の遺体は……そこだな。保安官達は自分達のタレコミ屋を当たって情報が入ってないか探れ。犯人は1人ではなく綿密に計画された犯行に違いない」
キッド達に指示が出されると、合流したロッキー保安官が手を挙げる。
「その前に、目撃者を当たるべきです。こういう時に必要なのは目撃者です。病院で被害者から話を聞くべきではないですか?」
「ならそれは他の保安官事務所に任せよう。ベレッタ地区の保安官に応援を要請しておく。それと、担当になった保安官に犯人が紛れている可能性もあるから冒険者ライセンスで身元の確認を怠るなと注意しておけ」
「了解しました」
グレン連邦保安官の指示により、捜査が始まり出した。ジャックポット保安官はキッドに声をかける。
「俺達はゴール地点近辺で聞き込みをして見よう。何か分かるかも知れない」
「分かりました!」
キッドとジャックポット保安官は爆発現場へ戻って行った。2人は直ぐに近くの道具屋や武器屋に入り聞き込みを始める。
「現場で不審な物を見ませんでしたか?」
「いや、見てないな……なんせあの人混みだから……」
「そうですか、ご協力ありがとうございました」
「ここもダメかぁ……」
肩を落としながら店から出ると、キッド保安官の魔線機に通信が入った。
《こちら司令室。キッド保安官、聞こえますか?》
声の主は保安官事務所の司令室からだった。
「はい、聞こえます。どうかしましたか?」
《はい、キッド保安官の『お友達』が至急連絡を取りたいと事務所に連絡がありました》
お友達というのはタレコミ屋の隠語で以前契約した偽造屋のタレコミ屋の事。
キッドはタレコミ屋の身に何かあったのではと思い、道具屋に戻って魔導話を貸してもらい、偽造屋に連絡を取った。
「もしもし、キッド・ウォーカーですが?どうかしましたか?」
《あっ、キッド保安官。実は1時間程前に変な依頼人が来まして……》
「変な依頼人?」
《ええ、魔導話ではなく、店に来ていただけますか?》
突然の呼び出しに、キッドは思わず溜め息を吐く。
「すいません、今ちょっと忙しいんですよ……後にして貰えますか?」
キッドがタレコミ屋にそう言うと、ジャックポット保安官が道具屋に入って来た。ジャックポット保安官は通話中のキッドを見て首を傾げた。
「どうした?何か情報を掴んだか?」
「ちょっと待ってください。上司が……なんか偽造屋の店に変な依頼人が来たと言って来たんです」
キッドがそう説明すると、ジャックポット保安官は何か思い当たる節があるのか深く考え込む。そして、受話器を貸せとジェスチャーで伝えた。
「なんか上司が話を聞きたいそうです。代わりますね」
ジャックポット保安官は受話器を受け取り、タレコミ屋と話し始めた。
「もしもし、ルーク・ジャックポット保安官です。お尋ねしますが、店に映像記録用の【魔導水晶玉】を設置してますか?」
魔導水晶玉とは、映した物を記録する事が出来る魔導具だ。
タレコミ屋はジャックポット保安官の質問に答えた。
《ええ、設置してます。それが何か?》
「今から伺いますね。我々が到着するまでドアを開けないでください」
ジャックポット保安官はそう言い残し、受話器を置いた。なぜ行くと判断したのか、ジャックポット保安官に尋ねた。
「どうして行くんですか?聞き込みしなきゃいけないのに……」
「俺の勘がビンビンに反応してるんだよね。おそらく、君のタレコミ屋に今回の事件の犯人が来たのかも知れない」
ジャックポット保安官に言われた瞬間にキッドはハッと気付く。
「もし、何かの偽造を依頼してたなら……」
「可能性はあるだろ?」
「なら、善は急げですね」
キッドとジャックポット保安官は愛馬に跨って偽造屋の店に向かった。
「こんにちは、キッド・ウォーカー保安官です。開けてください」
キッドがそう言うと、カチャッと鍵を開ける音がした。ドアはゆっくり開き、偽造屋が顔を覗かせた。
「キッド保安官、お待ちしてました」
「何があったんですか?」
「とにかく、中へ……」
キッドとジャックポット保安官は中へ入る。
「それで、魔導話で言っていた変な依頼人とは?」
「ええ、実は2時間程前に魔導列車のチケットを偽造されたんですが、料金が払えないからこのペンダントを代わりに置いて行ったんです」
偽造屋は机の引き出しからワニに蛇が絡み合っている紋章のペンダントを出した。キッドとジャックポット保安官はまじまじと見つめる。
「なんだこのペンダント」
「見た事ないですね、何かの宗教の様な感じもしますが」
「これを見せて「貴方にもメデューサ教のご加護を……」とか言ってました。聞いた事のない宗教だったので、ちょっと気になりまして」
「魔導水晶玉は?」
「はい、その時の記録はここにあります。どうぞ……」
偽造屋が魔導水晶玉を用意していた。映像を見たキッドとジャックポット保安官は顔を見合わせる。
「どうします?報告しますか?」
「ああ、グレン連邦保安官とアーサー将軍にも見せた方がいいね」
「そうしましょう。この水晶玉借りて行きますね!」
「はっ、はい」
キッド達は再び戻り、グレン連邦保安官に声を掛ける。
「グレン連邦保安官!これを見てくださいっ!」
キッドは魔導水晶玉を再生させると、偽造屋に来たローブを被った2人組が映し出された。
「うーむ……」
「2人は魔導列車のチケットを偽造してもらい、代金代わりにこのペンダントを置いて行ったそうです……」
キッドは借りてきたペンダントをグレン連邦保安官に見せると、
「これだけでは犯人とは断定出来ん……。もし無実の人物だったらそれこそ大惨事だ」
「ですが唯一の手掛かりです!試してみる価値はありますぜ!」
ジャックポット保安官はキッドの意見を後押しする。決めかねたグレン連邦保安官はジャックポット保安官に顔を向ける。
「……上司としてではなく、一保安官として聞く。ジャックポット、お前の勘ではどうだ?」
決めあぐねてるグレン連邦保安官。その言葉を聞いたジャックポット保安官はニヤリと笑う。
「誰もボスを責めたりしませんよ。俺の勘を信じて下さい。奴らが犯人です」
「アーサー将軍。責任は俺が取る。この2人を犯人とする」
腹を括ったグレン連邦保安官を目の当たりにしたアーサー将軍は力強く頷いた。
「分かった。クビになる時は付き合ってやる」
「すまんな、このペンダントを徹底的に調べるぞ!」
「了解!!」
保安官達は鰐と蛇が絡み合った紋章のペンダントを調べ始めた。