事件から1時間後。ペンダントを調べていると、ハヤブサ系鳥人族のライアン保安官が声を上げながらグレン連邦保安官の元へやって来た。
「ペンダントの詳細が分かりました!!」
「何者だ?」
ライアン保安官が資料を机に広げる。
「このペンダントは【カルト教団・メデューサ】の物です!」
カルト教団とは、特定の教祖や教義に熱狂的に傾倒し、マインドコントロールなどの手法で信者の思考や人生を支配し、集団や教祖の私利私欲のために反社会的行為や精神的・経済的被害をもたらす可能性のある宗教・非宗教集団の事。
グレン連邦保安官は顔を顰めながらライアン保安官に尋ねる。
「あの爆発はこのカルト教団の仕業だと言うのか?」
「キッド保安官のタレコミ屋に出したというなら、間違いないかと」
「メデューサ……確か危険組織に認定されているはずだ」
「宣戦布告って事か?それとも注目を集める為か?」
グレン連邦保安官とアーサー将軍が言葉を交わす。
「詳しくは実行犯に聞けば分かる事だ。絶対にウェスタン国からは逃がさん!」
「冒険者ギルドにこの2人をバウンティクエストを受注し、指名手配にする。全保安官は捜索を開始しろ!」
「僕達も出ます!」
「行くよキッド君!」
「子供の命を奪った奴に必ず報いを受けさせる!」
キッド、ジャックポット保安官、犠牲になった人間族の子供を最後まで見送ったオースティン保安官が街へと駆けていく。既にジェシカ保安官達は捜索を始めていた。
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日も暮れて夕方を迎えた頃。ザウエル地区2番道路でエルフ族の男性商人が幌馬車に荷物を積もうとしていた。そこへ、ローブを被った2人組が商人に声を掛ける。
「すいません、ちょっといいですか?」
「はい?なんだい?」
「お尋ねしたいのですが、魔導列車はどちらに行けばよろしいでしょうか?この街は初めてなもので道に迷ってしまいました」
商人は作業を止めて2人組に顔を向けた。
「魔導列車?魔導列車なら街の中心のコルト地区から乗るんだよ。丁度この道を右に曲がって進んで行けば駅に着くよ。今の時間だとちょいと厳しいんじゃねぇか?最後の列車がもうすぐ出ちまうよ」
道を教えながら2人組に言うと、2人組は顔を見合わせる。
「どうする?間に合わないかも知れないな……」
「くそっ、早く戻って報告しなきゃいけないのに……」
2人組がそう言うと、商人は親切心にかられてしまい2人組に声を掛ける。
「余程急いでる見たいだな。よし、俺が乗っけてやるから少し待っててくれや」
商人はバタバタと荷物を積み、2人分座るスペースを作った。そのまま移動し、御者席に座って2人に声を掛ける。
「よっしゃ、乗りな!」
「ありがとうございます」
2人組の1人がお礼を言った途端、もう1人が杖を突き出して来た。商人は思わず手を挙げる。
「なっ、なんだ……?」
「騒ぐな。黙って従え」
2人は二手に分かれて御者席と荷台に乗る。杖を持った方がローブを捲ると、サバクイグアナ系の蜥蜴人族だった。もう1人もローブを捲ると黒猫の獣人が顔を出した。イグアナ系の蜥蜴人族の男が商人に尋ねる。
「爆発事件は分かるな?」
「あっ、ああ……」
「犯人は?」
商人が知らないという意味で首を横にブンブン振ると、サバクイグアナ系蜥蜴人族の男は不気味にニヤリと笑う。
「犯人は我々だ。これは聖戦なんだ。【教祖様】が邪神メデューサ様のお告げをお聞きなり、我々は教祖様の代わりに実行したのだ」
「早く出発してくれ、荷台は寒い」
黒猫系の獣人族が「早くしろ」と騒ぎ立てる。商人は死にたくない一心で大人しく言う通りにした。サバクイグアナ系蜥蜴人族の男は手網を叩き馬車を動かし始めた。少し進むと、黒猫系獣人族の男が口を開いた。
「メデューサ教を知りたいか?」
「え?メデューサ……教?」
商人が首を傾げると、黒猫系獣人族の男は突然、怒り始める。
「メデューサ教を知らないのか?これは教育が必要だな」
「列車に乗る前に食料を調達するぞ」
駅まであと1kmという所で馬車を屋台の近くに止めた。
「アメル、なんでもいいから食い物を買って来てくれ」
「分かった。あんたはいいのか?」
アメルと呼ばれた黒猫系獣人族の男は商人に尋ねると、
「いや、俺はいらない。頼む、馬車はやるから家に帰してくれ、家族が待ってるんだ」
商人が懇願するが……、
「ダメに決まってるだろ。あんたも一緒に来るんだ。アメル買ってこい」
「了解」
アメルは荷台から降りて屋台に駆けていく。商人は為す術なく俯きながらサバクイグアナ系蜥蜴人族の男の様子を伺っていた。サバクイグアナ系蜥蜴人族の男は時刻表を確認しているのか1枚の紙を眺めている。先程突きつけられた杖と脇に置いていた。逃げるなら今しかないと判断した商人は御者席から飛び降りた。
「アメル!アメル!戻って来い!商人が逃げた!」
サバクイグアナ系蜥蜴人族の男も御者席から降りたが既に商人は路地に入って姿を消していた。異変に気付いた屋台の店主がそれらをずっと見ていると、サバクイグアナ系蜥蜴人族の男は焦ったのか、アメルを乗せてその場を立ち去った。
「クソッ!油断した……!!」
「何やってんだよ!イグナート、何で縛って置かなかった!?」
「黙れ!お前だって気付いてなかったろ!もういい!一旦駅から離れるぞ!」
イグナートと呼ばれたサバクイグアナ系蜥蜴人族は怒りをアメルにぶつける。八つ当たりを食らったアメルも言い返した。その同時刻。ジェシカ保安官とロッキー保安官の魔線機に通信が入った。
《全保安官に通達。ザウエル地区2番道路付近で幌馬車強盗が発生。犯人は2人組で蜥蜴人族と猫獣人族との事!!》
「ザウエル地区……グレン連邦保安官の情報だと駅に向かうと言ってたな……。ロッキー、あたしらが現場に向かうよ」
並走していたロッキー保安官はテンガロンハットを被り直す。
「キッド君とジャックポット保安官は近く見たいだけど、俺たちの方が早いからね。俺らが捕まえよう」
「こちらジェシカ保安官。ロッキー保安官と共に幌馬車強盗を追う」
ジェシカ保安官達は愛馬でザウエル地区の住宅地に入ると、暗闇に幌馬車が道のど真ん中に止まっていた。馬車馬は繋がれておらず、どこかへ消えていた。
「ロッキー、なんかあの幌馬車怪しくないか?馬車馬もいないぞ」
「確かに、ちょっと調べて見るか」
ロッキー保安官が馬から降りてホルスターからピースメーカーを抜き、幌馬車に近付こうとしたその時。
「『ファイヤーボルト』!!」
幌馬車から火の玉が放たれて来た。攻撃と判断したロッキー保安官はピースメーカーを発砲した。
「ジェシカ!攻撃して来たぞ!!ヤツらだ!!」
「やってやんよこの野郎っ!!」
ジェシカ保安官も馬から降りてレバーアクションライフルで応戦する。その隙にロッキー保安官は魔線機で通常を試みる。
「こちらロッキー保安官、幌馬車強盗を発見!ザウエル地区の4番通りの住宅地だ!!」
《了解!全保安官に通達。幌馬車強盗を発見!直ちにザウエル地区4番通りに急行して下さいっ!》
「イグナート、吹っ飛ばせ!」
「任せろ……彼の者を吹きとばせ『グレネード』!!」
イグナートが魔法を唱えて杖を突き出すと、住宅に置かれていた樽に隠れていたロッキー保安官の足元に魔法陣が現れた。ロッキー保安官は直感でその場を離れると、魔法陣が突然爆発した。
「この野郎っ!」
「ロッキー、大丈夫かっ!?」
ジェシカ保安官もレバーアクションライフルで連射して援護射撃をする。ロッキー保安官も腰を屈めて愛馬を呼び寄せレバーアクションライフルに切り替えた。
「犯人は爆発魔法を使う、応援を早く寄越してくれっ!」
「あたしらから逃げられると思うなよ邪教徒共っ!!」
激昂するジェシカ保安官。だが犯人達も黙ってる訳がなかった。
「黙れっ!彼の者の吹っ飛ばせ……『グレネード』ッ!!」
今度はアメルが爆発魔法を唱えた。アメルはジェシカ保安官を狙うと、ジェシカ保安官の地面に魔法陣が現れた。
「ヤバッ!」
咄嗟に離れると爆発が起こり爆風でジェシカ保安官は吹き飛ばされてしまった。それを目の当たりにしたロッキー保安官が叫ぶ。
「ジェシカ!ジェシカ大丈夫かっ!?」
「ゲホッ……大丈夫……だっ……この野郎っ!」
吹き飛ばさてもライフルだけは手放さないジェシカ保安官。寝転がった状態でアメルを狙う。だが、幌馬車を盾にしている為、なかなか弾が当たらない。
「アイツら2人共魔導師か……グレネードは★4以上じゃないと習得出来ない特殊な魔法だぞ」
グレネードとは、衝撃波による殺傷、破壊を狙った上級魔法の1つで★4以上の魔法使いが習得が可能。殺傷半径が小さく、敵と近迫した状況や巨大モンスターの足やダンジョンの構造物の破壊に使用される事が多い。他にも、上位互換で『ダイナグレネード』『ニトログレネード』などがある。
そんな危険な魔法を使っているのだ。とても保安官2人では太刀打ち出来ない。だが、ジェシカ保安官とロッキー保安官は諦めずにその場に留める為に、立ち向かっいる。住宅のそばにある樽や木箱に身を潜めながらレバーアクションライフルで応戦していると、ドアーフ族の男性住民がドアを開けてロッキー保安官に声を掛ける。
「なんだ!?なんの騒ぎだっ!?」
「いいから隠れてろっ!凶悪犯が暴れているんだっ!」
ロッキー保安官がレバーアクションライフルに弾を込める。その間にアメル達は魔法の詠唱を終えており、ロッキー保安官の方向へ杖を向ける。
「彼の者を吹きとばせ……『グレネード』ッ!!」
「くたばれ……『グレネード』ッ!!」
アメル達は慌てたのか、狙いを間違えてしまいロッキー保安官2メートル手前に魔法陣が現れた。だが爆発が凄まじく、ロッキー保安官は尻もちを付いてしまう。
「なんて威力だ……クソッ」
「ロッキー、無事かっ!?」
「問題ない。ジェシカ、まだ弾はあるか!?」
「あたしはまだ60発はあるよ、あんたは!?」
「同じくらいだ」
そこへ、夜勤保安官のブラッド保安官とクリス保安官が応援に駆けつけた。
「ジェシカ、ロッキー。大丈夫かい?」
「ブラッドとクリスの旦那。気を付けろ、爆発魔法を使うぞ」
「ここは無闇に散らばっては住民に被害が広がってしまいます。4人でフォーメーションを組んで追い込みましょう」
クリス保安官の提案で4人は道路の両端に2人組になり、反撃した。
「この国を舐めるなよ邪教徒共っ!」
「黙れ!メデューサ様を馬鹿にするなっ!『グレネード』!!」
激昂するアメルは爆発魔法を放つ。今度はあえて手前の場所を狙い爆発させた。爆発で飛散する砂利を利用したのだ。ただの砂利道が凶器に変わってしまった。その飛び散った砂利でロッキー保安官の鼻から血を流し始める。
「ロッキー、大丈夫かっ!?」
「こんな鼻血なんともないっ、こんなとこで爆発させやがって」
クリス保安官はロッキー保安官に声を掛ける。ここでようやくオースティン保安官が現場に駆けつけた。
「ジェシー、ブラッド。犯人は?」
「あの幌馬車の向こう側だ」
「ブラッド、魔力で狙えないのか?」
「残念だが、姿が見えないから使えないんだよ……でなきゃとっくに逮捕してるよ」
「俺も回り込んで狙う」
そう言い残し、オースティン保安官は水平2連式散弾銃を持って建物の反対側から幌馬車に向かった。2件程越えると、幌馬車の御者席が見えた。影でコソコソと魔力を溜めている2人組を確認した。オースティン保安官はジェシカ保安官に魔線機で声を掛ける。
「ジェシー。俺が散弾銃で仕留める。援護しろ!」
「了解、気を付けて!」
オースティン保安官が狙いを定めて発砲すると、ジェシカ保安官達に気を取られていたイグナートとアメルの足に命中した。
「ぐあぁぁっ!!」
「足が、足がぁぁっ!」
「イグナート、逃げろ!俺が引き受けるっ!『グレネード』ッ!」
アメルは足を撃たれても杖を突き出した。狙ったのはジェシカ保安官達ではなく、オースティン保安官だった。オースティン保安官の地面に魔法陣が現れると、オースティン保安官は慌ててその場を離れた。爆発が起きてオースティン保安官は少し吹き飛ばされた。
「やれやれ、なんて威力だ……」
イグナートは痛みで詠唱出来ずに悶え苦しむ。アメルが詠唱している隙にジェシカ保安官達は距離を詰めてようやく犯人を取り押さえる事に成功した。