ジェシカ保安官とキッドはそのまま外に繋いでいた愛馬の元へ行き、ジェシカ保安官は何故かティンバー弾を数箱取り出した。キッドはジェシカ保安官に尋ねる。
「ティンバー弾なんてどうするんですか?」
「どうするかって?そんなもん、決まってんだろ」
ジェシカ保安官はピースメーカー2丁にティンバー弾を装填しながら、
「コモド一家のアジトに行くんだよ。あんたはオーリス銀行に連絡してカエデに木剣持ってベレッタ地区の6番通りに来いって伝えろ」
「カエデさんをですか?けど、ギルドでクエストを受注しなければカエデさんは動けませんよ?」
「まずオーナーに今から冒険者ギルドに行って用心棒のクエストの手続きと保安官事務所で被害届を出して貰え。バウンティクエストが発行され、合法的にコモド一家を潰せるからな」
「なるほど……逮捕も出来るし、討伐も出来る。分かりました」
キッドはホテルに戻ってオーナーに事情を説明すると、オーナーはその足で直ぐに保安官事務所と冒険者ギルドへ向かって行った。キッドは魔導話を借りてオーリス銀行に連絡し、カエデにジェシカ保安官の伝言を伝えた。
「ジェシカ保安官、カエデさんに伝えて来ました」
「よし、んじゃ行くか」
ジェシカ保安官とキッドはベレッタ地区の6番通りに向かう。6番通りに到着すると、アンキロタクシーに乗ったカエデが木刀を腰に差してやって来た。ジェシカ保安官は馬から降りてカエデに声を掛ける。
「忙しいのに悪かったな。ちょっと急用でコモド一家っていうチンピラを片付けたいんだ。協力してくれ」
ジェシカ保安官がそう言うと、カエデは分かったと言いたいのか黙って頷いた。少し歩い先には、貴族の屋敷の様な大きさの豪邸の前にたどり着いた。ジェシカ保安官はキッドに指示を出す。
「キッド、あたしらは正面から仕掛けるから、あんたはここで応援を待て」
「分かりました。ですが、カエデさんは言葉を話せませんよ?大丈夫なんですか?」
キッドが尋ねると、ジェシカ保安官はピースメーカーを2丁持ちながらカエデと共に歩き出した。
「安心しろ、悪党退治が始まったらお互いに体が勝手に動くよ」
そう言いながら屋敷の門を蹴破って入って行った。するとそこに玄関を見張っていた手下のミドリガメ系蜥蜴人族、ヤモリ系蜥蜴人族、シマヘビ系蜥蜴人族が怒鳴り始めた。
「なんじゃわりゃぁっ!!」
「ここがどこだか分かってのかいっ!!」
「おおう?保安官が何の用じゃ!?」
何も言わずにジェシカ保安官は3人に発砲した。それに合わせるようにカエデが3人を薙ぎ払った。その衝撃で玄関が開かれると、たむろしていた手下達が騒ぎ始める。
「な、なんやこいつら!?」
「保安官だ。てめぇらの親玉を恐喝罪と殺人罪の容疑で逮捕しに来た」
「なっ、なんやて!?」
「お、おめぇら!頭を守れっ!!」
様々な武器を持った蜥蜴人族の手下達が2人に襲いかかって来た。ジェシカ保安官は2丁のピースメーカーを構えて発砲する。
「五体満足で助かると思うなよクソ野郎共っ!!」
「相手の獲物は木剣と銃2丁だ!!ビビんじゃねぇっ!!」
「『ファイヤーボルト』ッ!!」
「『サンダーボルト』ッ!!」
手下達は発射魔法で応戦するが、カエデは華麗に躱しながら魔法使い達の懐に潜り込み、倒して行く。その間、ジェシカ保安官は弾切れになり、薬莢を排莢してティンバー弾を装填すると、背後から斧を持った手下が襲いかかる。
「死ねオラァッ!!」
「─────っ!!」
「頼んだぜ」
ジェシカ保安官は体を反るように斧を躱すと、後ろに控えていたカエデが木刀を突き出した。斧の手下は倒され、装填を終えたジェシカ保安官は再び発砲しながら突き進む。すると、手下の1人が両手を上げながら近付いて来た。
「まっ待て!撃つなっ!ホテルの用心棒殺したやつなら2階にいる!あ、あと、頭の所まで案内するから助けてくれっ!頼む!」
「へぇ、聞き分けの良い奴がいるじゃねぇか……ほら、チップだ」
ジェシカ保安官は降伏した手下の眉間に銃口を突き付けながら睨み付ける。そして、なんの躊躇いもなく、冷徹な表情で引き金を引いた。
「死にはしねぇよ。しばらく笑うと激痛が走るけどな……」
そう呟きながら薬莢を排莢する。すると、辺りの手下を片付けたカエデがやって来た。
「そっちも終わったか。カエデ、こっからは二手に分かれて頭を探すぞ。お前は1階、あたしは2階を探す。そして奥の庭で落ち合うって事でいいな?」
ジェシカ保安官が指示を出すと、カエデはコクンと首を縦に振ってそのままゆっくりと歩いて行った。
「可愛くねぇやつだな、さぁーてと……」
ジェシカ保安官は階段を上がりながら2階の1つの部屋のドアに向かって発砲した。風穴が空くと手下が何人か潜んでいた。ジェシカ保安官はニヤリと笑いながら喋り出す。
「ハズレを引いたなおめぇら……。殺しはしねぇが地獄を見せてやる。必ずな。さっさとケツまくって逃げ出しな、ここは地獄の入り口だ。でねぇと……『地獄の番犬』に食われるぞっ!!」
「うわぁぁぁぁっ!!」
「逃げろっ!かないっこねぇっ!!」
隠れていた手下達が蜘蛛の子を散らす様に逃げ出した。だが、ジェシカ保安官が逃がす訳もなく、淡々と引き金を引いて行った。
「地獄の苦痛を味わいな、ゴブリンちゃん。おっと、ゴブリンより下か」
手下達が激痛で悶絶している。その頃、庭の倉庫に隠れていた手下とコモド一家の頭のコモドオオトカゲ系蜥蜴人族の【ダウン・コバル】がいた。シマヘビ系蜥蜴人族の手下が外の様子を伺う為に顔を出した。
「音が……聞こえなくなったか?まさか、全滅したんじゃ……?頭。他の奴らひょっとして……頭っ!」
鱗の肌にサラシを巻こうとしているコバルが尋ねられた。手下に背中の獣脚竜の刺青を見せながら、
「聞こえとるわ。どいつもこいつも全く役に立たんのぉっ!」
体を張った手下にかける言葉とは思えない悪態が出た。我慢出来なくなったシマヘビ系蜥蜴人族の手下がショートソードを抜いて怒鳴った。
「そんな言い方ないでしょう!?みんな体張ったんですよ!?もう無理っすわ。あんたについていけねぇよ!!」
頭に血が上った手下が言い放つ。すると、コバルも頭に来たのか振り向いて、たてかけいた柄が長く、先の刃の部分が蛇のようにくねくねと曲がっているのが特徴の【蛇矛】を手に取り、手下に突き刺した。
「ケツまくるやつも切り捨てるまで……ったく、どこのどいつかのぉ?カチコミかけたやつは……」
コバルが血が付いた蛇矛を振っていると、
「なんだ、探す手間が省けたじゃねぇか」
コバルが目を向けるとそこには、装填を終えたジェシカ保安官と無言で睨みを利かせるカエデが立っていた。コバルは睨み付けながら、
「おめぇらか、ウチらに喧嘩ふっかけて来たのは……」
「あたしらはてめぇを殺人罪と恐喝罪の罪で逮捕しに来たんだよ」
「何をグダグダ言ってやがる。獣人の女のくせに……伊達にワシは竜騎士★7の実力でコモド一家の親分張ってんだ、てめぇら見てぇな小便臭ぇ小娘2人に、易々と捕まるかよっ!」
ちなみに竜騎士とは、槍を自由自在に操り、千変万化の攻撃を仕掛ける事も出来る。戦士★5、槍使い★5、騎士★5の資格が必要で攻守ともに万全な上級職。新米剣士や騎士の冒険者達からは憧れの職とも言われている。
コバルが啖呵を切ると、右手で蛇矛を持ち、左手を地面に付けながら低く構える。
「まとめてかかって来い。一世一代の大喧嘩しようじゃねぇか」
「はぁ?喧嘩なんかする訳ねぇだろクソ野郎」
ジェシカ保安官は撃鉄を起こし、カエデは木刀を中段の構えで迎え撃つ。両者にジリジリと緊張感が走る。重い空気を切り裂く様に先に動いたのはコバルだった。ジェシカ保安官はバックステップしながら3発発砲するが、当たらなかった。
「まずはてめぇから始末してやるよ!!」
コバルが縦に蛇矛を振り下ろすと、ジェシカ保安官は両手のピースメーカーを交差させて防いだ。ピースメーカーにキリキリと火花が飛び散る。ジェシカ保安官が蛇矛を防いでる隙にカエデが一気に距離を詰めて来た。だが、相手はギャングのボスで竜騎士の資格を持った男。一筋縄には行かなかった。コバルは尻尾で木刀を防ぎ、難を逃れた。
「残念だったな。女剣士、俺はもう1本腕があるんだぜ?」
「─────っ!!」
「カエデ、下がれっ!!」
ジェシカ保安官の指示でカエデは下がるが、その間にジェシカ保安官は力任せの蹴りを叩き込まれた。
「ぐふっ!?」
コバルに比べ、はるかに線の細いジェシカ保安官は、その一撃に吹き飛ばされる。竜騎士の恐ろしさが垣間見える。
「安心しろ、今回のツケはあんたらの体でキッチリ取り立ててやるからな。覚悟しろ」
「っぺ……だったら、この弾丸で払ってやるよ!」
ジェシカ保安官は銃口をコバルに突き付ける。だが、射線にカエデが入っていた。
「おいおい、俺が避けたら仲間に当たっちゃうまうぜ?良いのか?」
「構わねぇよ……」
ドンッ!!ドンッ!!
ジェシカ保安官が撃った弾丸2発はコバルに向かって行くが、コバルは見切って弾丸を躱す。
「仲間撃ち殺しててめぇも死ねぇっ!!」
コバルは蛇矛を振り上げようとしたその時。射線に入っていたカエデが空中で半回転して弾丸を躱し、その遠心力の勢いで水平斬りをした。カエデの一撃はコバルの首に直撃する。
「ごへぇあ……な、なんだよ……いま……の……」
何が起こったのか理解出来ずに、コバルは白目をむいて倒れた。ジェシカ保安官は銃口を向けたまま確認すると、失神したのを確認し、ピースメーカーをホルスターにしまい、コバルに手錠をかけて魔線機を取り出した。
「こちらジェシカ保安官。コモド一家のボス、ダウン・コバルを逮捕した。牢竜車を要請」
そう言うと、
《こちらグレン。既に屋敷内の手下達は連行した。屋敷前に待機しているから親玉を連れて来い》
保安官事務所の司令室からではなく、グレン連邦保安官からだった。ジェシカ保安官は安心しきったのか、少し微笑みを浮かべる。
「了解」
ジェシカ保安官は魔線機をしまってカエデに顔を向ける。
「外に仲間が待ってる。コイツを外に連れて行くぞ」
カエデは首を縦に振り、ジェシカ保安官と協力してダウン・コバルを起こして外に連れ出すと、コバルは意識を取り戻した。コバルは余程プライドを潰されたのが応えたのか俯いたまま大人しく牢竜車に入って行った。鍵をかけようとしたその時、コバルがジェシカ保安官に声をかけた。
「あんた……なんで実弾を使わなかったんだ?あんた程の腕っぷしなら皆殺しにだって出来たのによ……俺になんか聞きてぇ事でもあんのか?」
コバルが痛めた首をゆっくりと傾げながら尋ねると、ジェシカ保安官は辺りに誰もいない事を確認して応えた。
「勘がいいな。そうだよ。お前に聞きたい事がある」
「なんだよ」
「3年前に、ダイヤウルフ系の獣人族とケイブウルフ系の獣人族の保安官があるギャングに殺された。あたしはその犯人を探している」
ジェシカ保安官が神妙な面持ちでコバルに尋ねる。すると、コバルは鼻で笑いながら、
「ふっ、俺がまだ竜騎士をやってた頃じゃねぇか。知らねぇよ」
コバルが軽くあしらうと、肩透かしを食らったように大きく溜息を吐いた。
「やっぱお前でも分かんねぇか……」
「だけど、恐らくギャングやマフィアの仕業ではねぇと思うぜ?」
「なんでそう言えんだよ。なんか心当たりがあんのか?」
ジェシカ保安官は興味が湧いたのか、牢竜車の中へ入った。コバルも少し驚いたが話を進める。
「あくまでも噂だからな?俺がコモド一家を立ち上げた後にこんな話を聞いたんだ。金さえ払えば相手が保安官だろうが国王だろうがどんな殺しも請け負うイカれた奴がいるって」
「誰だ!?そいつの名前は!?」
ジェシカ保安官はコバルの首を掴みながら声を荒げる。
「俺だって旗揚げして間もなくだ、大金なんて用意出来るわけがねぇ。だけど、名前も顔も全く知らねぇんだ……もしかしたら、そいつに殺されたんじゃねぇのか?」
コバルは激痛に耐えながら答える。すると、外からグレン連邦保安官がジェシカ保安官を呼んでいる事に気付いた。
「……っち、なんも分からねぇと同じじゃねぇか」
「これ以上は本当に知らねぇ。保安官に喧嘩ふっかけて俺達になんのメリットがあんだよ」
「そうだな……分かった」
そう言い残し牢竜車から降りて牢竜車に鍵をかける。すると、グレン連邦保安官が辺りを見渡しながらやって来た。
「なんだ、ここにいたのか」
「どうしたんすか?」
「邪神メデューサ教団の件だ。先程、裁判所から逮捕状が発行された」
「ホントか!?」
「間違いない」
ニューイヤーレースの時にテロを起こしたメデューサ教団に逮捕状が発行されたのだ。
「なら、報告書を作成してから向かいます」
「ああ、分かった。お前の相棒も報酬を貰ってさっき帰った。たった2人で良くやった」
───────その後。ジェシカ保安官が事務所に戻ると、オースティン保安官、ロッキー保安官、ジャックポット保安官、ジャンゴ保安官、クリス保安官、ブラッド保安官、グレン連邦保安官、キッドが待っていた。ジェシカ保安官が椅子に座ると、グレン連邦保安官が窓やドアに鍵をかけて情報が漏れないようにし、口を開いた。
「スカイフィッシュ国の連邦保安官と連絡が取れた。明日の明朝にスカイフィッシュ国へ行き、スカイフィッシュ国の保安官達と共にメデューサ教団の一掃を始める。ここにいるのはウェスタン国の代表として集まって貰った」
保安官達は一気に緊張に包まれる。
「テロで多くの犠牲者が出た。必ず首謀者を逮捕し、処刑台に立たせるぞ!!」
グレン連邦保安官が余程憎かったのか、黒板にワニ系蜥蜴人族の男の写真を叩き付けた。
「首謀者はメデューサ教団の教祖、【ジム・ギュスターヴ】。コイツを逮捕する!!」
キッドはここでようやくあのテロの主犯格の顔を見る事が出来た。